著作権法の罰則は、誤った情報に基づいて強化された

裁量労働について誤ったデータに基づいた法案が出されようとしていることが問題になっているが、そのことで思い出したことがあるので、ここに記しておく。
著作権法の罰則は日本が世界で一番厳しいと言われているが、その世界で一番厳しい罰則を定めることの検討を行う際に用いられた事実に誤りがあった。
そして、その誤りが判明したにもかかわらず、世界で一番厳しい罰則をさだめることについて、再検討もせずに法案が提出され、法改正がなされたのだ、

何でそのことを覚えているかというと、自分が初めて文化審議会著作権分科会法制問題小委員会の傍聴をしたときに、文化庁の側からその誤りの訂正の発言があったにもかかわらず、委員の誰からも異論が唱えられなかったことに違和感を覚えたからだ。
ただし、当時の自分にとっては、罰則規定の強化については、関心を持っていなかったので、とりわけブログ等で言及はしなかったのだけど、今になって思えば、謝った事実に基づいてなされた判断は、徹底的に検証し直す必要があったのでないかと思い、遅まきながらもここに記しておきたいと思う。

自分が傍聴したのは2006年8月16日に開催された文化審議会著作権分科会法制問題小委員会。

文化審議会 著作権分科会 法制問題小委員会(第7回)議事録−文部科学省
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/bunka/gijiroku/013/06082111.htm

この年の法制問題小委員会では主にIPマルチキャスト放送の著作権法上の取り扱いと罰則の強化についての審議がなされていた。
当時の自分にとっては、どちらの議題も自分の関心とは違う所のものだったが、夏休みに開催されていたので、傍聴した。ちなみに、これが初めての傍聴だった。
議題的に自分の関心と直結していなかったので、淡々と聴いていたのだが、一つ引っかかった発言があった。
それは甲野著課長(当時)の次の発言。

それから刑罰の強化のところにつきましては、外国の情勢につきまして、一部誤りがございましたので、修正をいたしました。43ページのところでございますが、イギリスのところで、自由刑で「最高が10年以下の禁固」となっておりましたけれども、これは誤りでございまして、これを「最高2年以下の禁固」という形に修正をしております。

http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/bunka/gijiroku/013/06082111.htm

傍聴していた当時は、何かおかしくないか、と直感的に感じたけど、当時の審議の経過をしっかりとフォローしていたわけでは無かったので、違和感を感じたが、何がおかしいとすぐに言えることはできなかった。
その後確認したところ、当時、著作権法の罰則が最高5年以下の懲役だったところを10年以下の懲役にすることを検討していた。そして、甲野著作権課長(当時)が修正したのは、イギリスで既に10年以下の罰則があるとしていたことが誤りであって、イギリスは2年以下の罰則だったというものだ。
そして、参照されていた他国において、10年以下の罰則をさだめていた国は他には無かったのだ。
参照されていた他の国を挙げると、米国が5年以下、フランスが2年以下、ドイツが3年以下、イタリアが3年以下、中国が3年以下、韓国が5年以下である。10年以下の国は無いのだ。
その中で、イギリスが10年以下だという間違ったデータが提供されていて、それに基づいて審議がされ、パブリックコメントさえ行われていた。
そして、その結果を踏まえて、法改正の提言を行う時点になって、イギリスも2年以下でした、と訂正がされたのだ。
さらに、その法制問題小委員会でも、その訂正について誰もとがめることは無く、最高10年以下の罰則を求める報告書が認められ、結局そのような法改正がなされてしまった。
結果として、日本は世界で一番著作権の罰則が厳しい国となってしまった。

当時は、権利範囲の拡大や、権利制限の縮小に対しては、とても危機感を覚えていたけど、罰則の強化についてはあまり意識が無かったので、大きな声で訴えることはしなかったのだが、今にして思えば、当時もっとこのことを強く訴えておくべきだったと後悔している。

10年以上前のことではあるが、裁量労働の適用拡大で謝ったデータが問題になっている今こそ、改めて言及すべきでは無いかと思って、遅まきながら書いた次第である。

神奈川県教育委員会生涯学習部長は川崎市議会の全会一致の可決を黙殺した。

前回のエントリーで書いた「県立図書館の再整備に関する意見交換会」の開催結果が7月29日付けで公開されています。
私は横浜会場に参加しましたが、その会場での生涯学習部長の発言について、前のエントリーでも述べましたが、記録が公表されたので、もう一度書きます。
横浜会場の記録のPDFの14頁に記載されています。

まずは質問。

3月の末に、川崎市議会において、川崎市議会の総意ということで、川崎図書館についての意見書が議会で採択されました。その中で、川崎の方からの要望としては、県との協議を行うことを要望していくと言う内容を中心に、県の黒岩知事に対しての意見書を採択いたしました。その後、当事者であり、意見書を受け取った神奈川県として、意見書に対してどういうアプローチをすると決めたのか。あるいは、その経緯について質問させていただきます。

http://www.pref.kanagawa.jp/uploaded/attachment/837330.pdf

川崎市議会が採択した意見書はこれ。

県立川崎図書館の移転に関する意見書(PDF形式, 49.74KB)
http://www.city.kawasaki.jp/980/cmsfiles/contents/0000075/75668/28-1-2.pdf

意見書は長いものでは無いが、最後の所だけ示す。

よって、県におかれては、県立川崎図書館のKSP等への移転について、本市との具体的な協議の場を設け、当該図書館の機能を存続させるとともに、市民を始め利用者の利便性に十分配慮されるよう強く要望するものである。
以上、地方自治法第99条の規定により意見書を提出する。

この質問に対する県教育委員会生涯学習部長の回答は次の通りである。

川崎市議会長からの意見書への対応、川崎市と協議をというご意見ですけれども、川崎市とは情報交換、必要な時期に必要な内容を協議してまいります。

http://www.pref.kanagawa.jp/uploaded/attachment/837330.pdf

「必要な時期に必要な内容を協議して参ります。」とのことだが、現時点で協議はされていない。

この生涯学習部長の回答は、「川崎市議会は「必要」と判断して可決したのだが、県は現時点では「必要では無い」と判断している、だから市との協議は行わない」という以外に解釈のしようが無い。県が必要と判断しない限り協議は行わない、という態度を示したものだ。

つまり、県は川崎市議会の全会一致の採択も黙殺する、と言う態度を示した発言である。
このような発言が許されて良いわけが無い。

県は一刻も早く、生涯学習部長の発言を撤回し、川崎市議会に謝罪し、川崎市と協議を行わなければならない。
川崎市議会も、県に対して抗議すべきである。

この、生涯学習部長の発言は決して見逃してはならない発言である。

神奈川県立川崎図書館の再整備計画が出されたら、紅葉ヶ丘の神奈川県立図書館の再整備計画について改めて県民の意見を聞かなければならない。

前回のエントリーで書いた「県立図書館の再整備に関する意見交換会」の開催結果が7月29日付けで公開されています。

「県立図書館の再整備に関する意見交換会」開催結果について - 神奈川県ホームページ
http://www.pref.kanagawa.jp/cnt/f534863/

横浜会場と藤沢会場での質疑の記録が掲載されています。
私は横浜会場に参加したので、藤沢会場での質疑で気になった所を取り上げます。

藤沢会場での質疑で、県の回答でこれはと思ったのはPDFの2頁〜3頁に書けての所です。
神奈川県立の図書館は紅葉ヶ丘と川崎の2館体制ですが、川崎についての将来構想が未確定の中で、紅葉ヶ丘のみの再整備計画が出されてことについて、川崎の再整備計画が将来出された場合、それが今回提示された紅葉ヶ丘の再整備計画に影響を及ぼす場合、県はどうするのか、についての質疑です。
まず質問。

たとえば一つの方向性として、将来的に川崎図書館の一部機能について紅葉ヶ丘に移すという川崎図書館に関する素案が出てきた場合、またこのような場を設けてくださると期待しているんですが、その際に、改めて紅葉ヶ丘の議論についても、ある意味部分的にでもやり直さないといけないという恐れが出てくると思います。それはそういう前提で良いということなんでしょうか。
<中略>
川崎に関する議論が落着し、県民に対し県の方向性が示されたときに、改めて紅葉ヶ丘の議論についても、あるいは川崎図書館の議論ついても、言うなれば少し蒸し返す、差し戻して議論をする余地があるのか、あるいは、もう紅葉ヶ丘についてはもう決まったことだから、県の方針は変えられませんということになったりしないかということを確認させてください。

http://www.pref.kanagawa.jp/uploaded/attachment/837332.pdf

これに対する生涯学習部長の回答です。

基本的な考え方をお示しさせていただきましたけれども、基本的な考え方ですので、これが大きく変わるような場合には県民の方々からご意見をお聞きしたいと考えています。

http://www.pref.kanagawa.jp/uploaded/attachment/837332.pdf

生涯学習部長がこのように回答した以上、川崎の計画を提示した時点で、紅葉ヶ丘の再整備計画についても、県民の意見を聞く必要があるでしょうう。
紅葉ヶ丘と川崎の2館体制を維持し、その役割分担も維持する以上、2館体制がどうあるかの再整備計画がまずは提示されなければならないはずであるが、それが現時点では示されていない。2館体制がどうなるかが明らかにならなければ、紅葉ヶ丘の再整備計画も本来であれば、立案できないはずである。
それにもかかわらず、今回再整備計画を出したのであるが、2館体制がどうなるかと言う前提条件なしに立案されたものである。
だから、川崎がどうなると言うことが示された段階で、前提条件が決まる訳なので、前提条件なしに立案された今回の再整備計画は、前提条件が出てきたことによって、大きく変わらざるを得ないはずである。
結果として計画の内容自体が大きく変わらなかったとしても、前提条件を全く考慮しないで出されたものと、前提条件を踏まえた上で出されたものとでは、意味合いが全く違う。
川崎の再整備計画が出された時点で、紅葉ヶ丘に着いても再度意見聴取を行わなければならない、今回の再整備計画はその程度の位置づけであることを、県には充分に認識していただきたい。
川崎の再整備計画が出されても、紅葉ヶ丘の再整備計画についての再度の意見聴取を行わないのであれば、川崎の再整備計画によって、紅葉ヶ丘の再整備計画に全く影響を及ぼさない理由を明確に示さなければならない。
生涯学習部長の回答はそのようなことを述べたのだと言うことを、県はしっかりと認識して欲しい。県が大きく変わらないと認識していても、県民がその認識に納得するかどうかは分からない。説明責任は県の側にあると言うことを、県は認識すべきである。

「県立図書館の再整備に関する意見交換会(第1回横浜会場)」に参加した。

7月14日に開催された「県立図書館の再整備に関する意見交換会(第1回横浜会場)」に参加して、意見を述べてきました。

「県立図書館の再整備に関する意見交換会」の開催 - 神奈川県ホームページ
http://www.pref.kanagawa.jp/cnt/f534863/

現在、パブリックコメントも行われているので、参考になるよう、自分がそこでどのような意見を出したのか、そして時間が無くて発言できなかった内容をここに記します。
県の側の出席者は以下の通り。
人見 生涯学習部長、堀端 生涯学習課長、江藤 企画推進GL
井出 神奈川県立図書館長、島田 副館長、目黒 県立川崎図書館副館長
神奈川県立図書館から水品さん、小林さん、県立川崎図書館から古根村さん
他に司会と記録、マイク担当で数名。
2時間の意見交換会のは 30分区切りで大きく4つのパートに別れました。
最初のパートでは、挨拶と「県立図書館の再整備に向けた基本的な考え方(素案)」の説明。

「県立図書館の再整備に関する意見交換会」の開催 [PDFファイル/211KB]
http://www.pref.kanagawa.jp/uploaded/attachment/833781.pdf

その後意見交換に入ります。
意見交換の最初は「県立図書館の再整備の方向性について」の意見交換と質疑。対象となるのは素案の7頁〜12頁。
次に「県立図書館の再整備の方向性について」の意見交換と質疑。対象となるのは素案の13頁〜17頁。
最後は、その他についての意見交換と質疑。
このように分けたとは言え、参加する側としては言いたいことがたくさんあるので、個々のパートの対象を踏まえつつも、結構それにとらわれずに発言していました。県の側もそれをとがめるようなことはしなかった。
その場で出た意見は後日、県の方で記録を公開すると思うので、自分が何を言ってきたか、そして、言いたかったけど言えなかったことをここに記します。
まず、「県立図書館の再整備の方向性について」のところで言った意見。
「目指すべき県立図書館像」は妥当なものである。しかし、「目指すべき県立図書館像を踏まえた機能」の詳細については、気になるところや不足する部分がある。
まず、「専門図書館」としての機能のなかで、「社会・人文系を中心とした資料の充実を図る。」とあるが、資料の充実を図るには資料の購入費用が必要だ、神奈川県立図書館の資料購入費は非常にhんじゃくである。資料の充実を図ると言うのであれば、それだけの予算を担保して欲しい。
「魅せる図書館」としての機能として挙げられているのは、配架機能と展示機能だけだが、これで充分か? 配架機能の所では「NDCにこだわらないテーマ別での配架」が挙げられているが、TSUTAYA図書館では独自の分類が問題とされている。(自分が意見を述べる前に発言された方の意見でTSUTAYA図書館に触れていたのがあったので、ここでもTSUTAYA図書館に言及した) テーマ別での配架と言っても、県立川崎図書館で行われているクラスタのように、NDCをベースにした独自の配架にとどめて欲しい。
「魅せる図書館」と言うことであれば、自館の所蔵資料をいかに魅力的に提供できるかという観点から、資料についての研究機能の強化が必要では無いか。今でも資料紹介講座などを開催しているが、自館の資料についての研究強化は必要だ。
研究機能ということでは「価値創造の場としての図書館」の機能においても、図書館自体が価値創造を行う必要があると思う。例えば「神奈川県立図書館紀要」は現在隔年発行であるが、毎年発行や年2回発行するようなことも考えて欲しい。
冒頭の挨拶で井出館長が図書館の情報発信機能の強化を言われていたが、この素案には盛り込まれていない。図書館の情報発信機能は独立項目として記載すべき項目だ。
以上がこのパートで自分が述べた意見です。時間が押していたこともあり、県の側のコメントは要求しなかった。

次の「県立図書館の再整備の方向性について」の所では、質問と意見を述べた。
質問は、再整備後の収蔵スペースの収容冊数がどこにも記載されていない。それでは「概ね20〜30年分の蔵書増加に対応できる収蔵スペースの確保」と書かれているが、それが妥当かどうか判断できないので、再整備後の収蔵スペースの収容冊数をどの程度に想定しているのかを回答して欲しい。また意見として、県立川崎図書館の蔵書をどうするかによっても、収蔵スペースがどれだけ必要か変わってくる。2館体制を維持するのであれば、2館体制の将来像を示してもらわないと、県立図書館の再整備についての素案だけでは、それが妥当なものかどうか判断できない。
質問に対しては300万冊を想定しているとの回答を得た。

以上が自分の発言。

でも、発言しなかったこともある。と言うのも、同じ人が何度も発言するのでは無く、多くの方に発言の機会を与えようと言う、県の姿勢に納得したので、複数回発言した自分としては、無理矢理発言することを控えたので。それについてここに書いておく。

他の方の意見・質問として、川崎市議会が県立川崎図書館の問題について県に対して協議を求める議決を行ったが、それに対してどう対応するつもりか、と言うのがあった。それに対して人見生涯学習部長は、「これまで通り情報を提供し、必要に応じて協議を行う」と回答した。その人見生涯学習部長の回答に対して言いたいことがあった。
川崎市議会は、県との協議を行う必要があるので、市議会として議決を行っている。人見生涯学習部長の回答は、川崎市が必要と思っても、県は現時点ではそれを必要とは認めていない。県が必要と思うまで、市議会の議決があっても、県としてはそれを取り上げることは無い、と断言したものでは無いだろうか。

県の部長による発言は、市議会の議決の重みを、無視したもので、これは絶対に容認できる発言では無い。県は一刻も早く川崎市との協議を行うべきである。
神奈川県立図書館・県立川崎図書館の機能集約問題が起こってから、様々な団体や個人がいろいろな意見を県に出してきているが、県がそれに耳を傾けるつもりは無い、と言っているに等しい発言を「意見交換会」と言う場で行ったことは、とんでもない発言である。
県はその発言を撤回し、今すぐにでも川崎市との協議を行うべきだ。

これが、意見交換会で言わなかったことである。

「県立図書館の再整備に向けた基本的な考え方(素案)」に関する意見の募集は7月23日まで行われています。
多くの方に、意見を出していただきたいと思います。

「県立図書館の再整備に向けた基本的な考え方(素案)」に関する意見の募集について 意見募集(パブコメ)- 神奈川県ホームページ
http://www.pref.kanagawa.jp/pub/p1042102.html

「著作物を楽しむ自由のために」

とても感銘を受けた本。

とにかく、タイトルがすばらしい。
「著作物を楽しむ自由」、なんてすばらしい言葉だろう。
このタイトルだけで本書を購入することを決めたと言っても過言では無い

本書はその「著作物を楽しむ自由」の観点から、11の裁判例について、批判的に解説している。なお、この11の裁判例のうち5つが「カラオケ法理」に関連する判例である。
ここで取り上げられた判例のうちのいくつかは、自分でもおかしいと思ったことのあるものだった。

では、その「著作物を楽しむ自由」は何に基づいて主張することヶできるのか、本書では憲法第13条の「幸福追求権」をその根拠としている。著者の岡邦俊氏は、島並良神戸大学教授の講演から示唆を受けたと書いている。

自分は、著作権について利用者の立場からこれまで考えてきたつもりだが、やはり権利者の立場は圧倒的に強く、利用者というのは非力な存在だと感じることが多かった。
法改正においても、権利者の意向が強く反映されてきた過程を見ることが多かった。
山田奨治氏の次の著書に、その辺りのことは詳しく書かれている。
日本の著作権はなぜこんなに厳しいのか日本の著作権はなぜもっと厳しくなるのか

そのような中で「著作物を楽しむ自由」という言葉を見て、一つの希望を感じた。
この言葉を強く訴えて行くことで、これまでの権利者偏重の著作権の考え方を動かすことができるのではないかと。
自分がこれまで著作権について考えてきたことは、この「著作物を楽しむ自由」という言葉に集約されるのかもしれない。
憲法第13条の「幸福追求権」に基づく「著作物を楽しむ自由」を広く訴えて行きたいと強く思った。

判例解説の本なので、すらすらと読めるものではないかもしれないが、本書を多くの方に読んで欲しいと思う。

神奈川県が「県立図書館の再整備に向けた基本的な考え方(素案)」を公表、パブリックコメントを開始、意見交換会を開催

神奈川県が「県立図書館の再整備に向けた基本的な考え方(素案)」を公表し、これに関する意見の募集を開始した。

「県立図書館の再整備に向けた基本的な考え方(素案)」に関する意見の募集について 意見募集(パブコメ)- 神奈川県ホームページ
http://www.pref.kanagawa.jp/pub/p1042102.html

「県立図書館の再整備に向けた基本的な考え方(素案)」(概要版) [PDFファイル/22KB]
http://www.pref.kanagawa.jp/uploaded/attachment/830382.pdf

「県立図書館の再整備に向けた基本的な考え方(素案)」(本文) [PDFファイル/1.18MB]
http://www.pref.kanagawa.jp/uploaded/attachment/829825.pdf

意見の提出は7月23日までです。

また、7月14日に横浜で、16日に藤沢で「県立図書館の再整備に関する意見交換会」が開催されます。

「県立図書館の再整備に関する意見交換会」の開催 - 神奈川県ホームページ
http://www.pref.kanagawa.jp/cnt/f534863/

2012年の11月に県が、神奈川県立図書館と県立川崎図書館の機能集約・再編の方針を打ち出してから、方向性は二転三転したが、横浜の県立図書館については、やっとその再整備に向けた基本的な考え方の素案が提示された。
この素案をベースにこれから議論や意見交換を行っていくことができる。
一方で、神奈川県立川崎図書館については、KSPへの移転の方針が2013年12月に出されてから2年半が経つが、具体的な方針は未だ提示されていない。
県立図書館単体の整備計画では、今の2館体制がどのように変わるのかが見えてこない。
一日も早く、県立川崎図書館についても、再整備の基本的な考え方の素案を提示してもらいたい。

「夢の図書館」の著作権への対応

八王子に科学技術雑誌集めた「夢の図書館」 6月のグランドオープンに向け準備着々 - 八王子経済新聞
http://hachioji.keizai.biz/headline/2062/

この記事をブクマしたところ、twitterで次のような反応をいただいた。

自分も少し気になってはいたので、ちょっとだけ調べるために、この「夢の図書館」のサイトを見てみた。

夢の図書館 公式サイト 100 年分の技術雑誌を未来に伝える
http://www.gijyutu-shounen.co.jp/Library/index.html

このサイトの「利用方法」の所を見てみると、どのようなサービスを行って、どのように対応しているのかが分かった。

夢の図書館 利用方法
http://www.gijyutu-shounen.co.jp/Library/usage/index.html

著作権に関連しそうな所をピックアップすると、次の箇所がそれにあたる。

  • 雑誌の蔵書は貴重品ですので基本的に館内閲覧のみです。
  • 書籍に関しては1985年以降に出版された技術書籍で貸出可の書籍のみ貸出を行います。(往復送料が必要)
  • コピーサービスに関しては出版社が加盟する複写権管理団体から許可をいただいた雑誌を対象に行います。(有料・準備中)
  • 発行から50年以上経過した法人著作物で著作権が時効消滅している蔵書のコピーサービスを行います。(有料・準備中)
  • 会員の方にはコピー指示をオンラインで受付して宅配便でお送りする宅配コピーサービスを提供します。(有料・準備中)
夢の図書館 利用方法

「夢の図書館」の行うサービスと著作権の関係

「夢の図書館」が行うサービスで、著作権に関わりそうなものは、閲覧と貸出とコピー。
それについて、検討してみる。

閲覧サービス

まず、閲覧については、著作権は全く及ばないサービスなので、問題は無い。
展示権という支分権はあるけど、それが及ぶのは美術の著作物と未発行の写真の著作物の原作品に限られているので、雑誌や書籍には及ばない。
だから、閲覧させるサービスを行う上で著作権者の許諾は不要だ。

コピーサービス

一つ飛ばして、コピーについては、許可を得たものと著作権が消滅しているものに限定しているので、これも全く問題は無い。

貸出サービス

最後に貸出。
これには貸与権という支分権が及んでくる。
ただし、貸与権には権利制限規定があり、非営利かつ無料の貸与には、貸与権は及ばない。
公共図書館の貸出サービスも、図書館が行う貸出だから許諾無しで行えるのでは無く、非営利かつ無料の貸与だから許諾無しで行えるのだ。
貸出サービスを行う上で、「図書館」であるか否かは考慮する必要は無い。

では、この「夢の図書館」が行う貸出サービスが、非営利かつ無料の貸与に該当するのだろうか。
私は、このサイトの記述を読む限りにおいては該当すると判断する。

その判断基準は政府の見解に基づくものである。
その政府の見解とは次のもの。

衆議院議員川内博史君外一名提出今国会提出の著作権法の一部を改正する法律案に於ける暫定措置廃止後の法律の運用に関する質問に対する答弁書
http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/b159096.htm

この答弁書では「無料」の判断となる「料金」ついて次のように述べている。

当該対価が、書籍又は雑誌の貸与に対する対価という性格を有するものではなく、これらの施設の一般的な運営費や維持費に充てるための利用料であると認められる場合には、著作権法(昭和四十五年法律第四十八号。以下「法」という。)第三十八条第四項に規定する「料金」に該当しないものと解される。

衆議院議員川内博史君外一名提出今国会提出の著作権法の一部を改正する法律案に於ける暫定措置廃止後の法律の運用に関する質問に対する答弁書

「夢の図書館」は会費制で、年会費の支払いが必要で、さらに閲覧には「1日利用券」が必要とのこと。
しかし、貸出サービスの利用には「往復送料が必要」と書かれているが、貸出サービスのための料金については記載されていない。
このことから考えると、「夢の図書館」の会費は「これらの施設の一般的な運営費や維持費に充てるための利用料」と認められる可能性が高いと私は考えます。

また「営利」についての政府見解は以下の通り。

法第三十八条第四項に規定する「営利」とは、業としてその貸与行為自体から直接的に利益を得る場合又はその貸与行為が間接的に何らかの形で貸与を行う者の利益に具体的に寄与するものと認められる場合をいうものと解される。

衆議院議員川内博史君外一名提出今国会提出の著作権法の一部を改正する法律案に於ける暫定措置廃止後の法律の運用に関する質問に対する答弁書

一番問題になるのはこの「営利」の解釈だろう。
「夢の図書館」の運営主体は株式会社技術少年出版。

夢の図書館 運営会社案内
http://www.gijyutu-shounen.co.jp/Library/company/index.html

この株式会社技術少年出版が、貸出サービス自体から直接的に利益を得ているとは見なされないとは思うが、間接的に何らかの形で、株式会社技術少年出版の利益に具体的に寄与すると認められるか否かは、慎重に検討する必要があると思う。
上記の頁に記載されている事業内容は、「夢の図書館」の運営に加え次のものが挙げられている。

夢の図書館 運営会社案内

「夢の図書館」が貸出サービスを行うことが、上記事業からの利益に「具体的に寄与」するのだろうか。
「具体的に寄与」すると判断されれば、「営利」目的と判断され、貸与権が及んでしまうが、「具体的に寄与」していないと判断されれば「営利」を目的としているとは判断されず、貸与権は及ばない。

この判断は相当むずかしいので、断定的なことは言えない。
でも、貸出対象が「1985年以降に出版された技術書籍」に限定されていることを考慮すると、私は、利益に「具体的に寄与」しているとまでは言えないのではないかと思います。
そして、そう判断されることを望んでいます。