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お知らせ:2007年3月のCoSTEPウェブ実習の終了にともない、今後当サイトでは定期的なコンテンツの更新は行われません。
ただし今後も実習チームOB有志が、時折新しい記事を追加していく予定ですのでよろしくお願いします。(2007/6/21)

【News】(2008/2/6)優れたブログを紹介する「スゴブロ2008」ベスト20の第3位に選ばれました!
【News】(2007/3/14)『クックブック サイエンス観光マップのすすめ』の配布を開始しました。
【News】(2007/3/1)日経BPのサイト「セカンドステージ」に当サイトの紹介記事が載りました。
【News】(2007/2/7)2月1日の記事にて、公開記事数が100本になりました。
【News】(2007/1/5)はてなの 「こんな人も書いています」コーナーに掲載されました。



2006-10-30

[][][] 芸術に息吹く科学 〜札幌芸術の森〜  芸術に息吹く科学 〜札幌芸術の森〜を含むブックマーク


地下鉄南北線真駒内駅からバスに揺られて15分。坂の上に、立派な門が現れます。この門のなかに広がる札幌芸術の森には、野外美術館・美術館・工芸館・コンサートホールなど、芸術に触れ合える様々な施設があります。その中でも野外美術館は、7.5ヘクタールの広大な敷地に、74点の作品が展示されている広大な施設です。屋内の美術館と違い、走ったり、歓声をあげたり、見上げたり中に入ってみたりと、様々な楽しみ方ができます。作品の解説をしてくれるボランティアガイドさんもいて、詳しい解説を聞きながらの散策もできます。


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  • 展示解説をするボランティアガイドさん(緑のパーカー)

(撮影:宮本朋美)

今回は、この野外美術館で芸術とサイエンスの意外にも親密な関係について探ってみましょう。


まず展示作品の中に、野外にあるにもかかわらず、ピカピカと光沢を放つ作品がたくさんあることに気づきます。ご存じのとおり、金属を水にぬらしたり長い時間放置したりすると錆が付いてしまいます*1。しかしここにある作品は、まったく錆がなく傷も見当たりません。

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  • ステンレスを用いた作品 (左上:「方円の啓示」/小田襄、右上:「位相」/多田美波、左下:「1・9・8・5知性沈下」/湯原和夫)

(撮影:石村源生)

秘密は材料にありました。

これらの作品は、材料にステンレスを使っていました。

ステンレスは、「stain(錆)less(ない)」という名前の通り錆がつかない金属です。ステンレスは鉄にクロムをまぜた合金で、常に水に濡れる台所用品などに使われています。

なぜ、鉄にクロムをまぜると、錆がつかないのでしょうか。実は、クロムは大変酸化しやすい金属で、空気中の酸素ともすぐに酸化反応を起こします。このような酸化還元反応のしやすさのことをイオン化傾向といい、クロムはこのイオン化傾向が強い物質です。酸化したクロムは、金属表面を覆う膜(不動態*2皮膜)をつくります。ステンレスでも、クロムがこの膜をつくり、ステンレス中の鉄と酸素や水分が反応し、錆(酸化鉄)ができることを防ぐことができます。


このほかに、さびにくい純金属としては金やプラチナなどが挙げられ、野外美術館には金箔を使った作品も展示されています。


さて、次に5分ごとに姿を変える不思議な作品に注目しました。*3


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  • 5分毎に赤矢印部が90度回転して姿を変える「1:1:√2」(作/田中薫)

 (撮影 石村源生)

 

この作品のテーマは「1:1:√2」。これは、直角二等辺三角形の辺の長さの比です。

直角三角形の辺には、以下のような法則が成り立っていて、これを三平方の定理といいます。

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  • 三平方の定理

この作品の柱の幅と奥行きの比は1:√2になっており、これを45度の角度で切ると断面が正方形になります。

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  • 1:√2の立体の45°切断面

この作品は、回転部を90度回転させることで形を変化させます。

切断面が正方形なので、90度回転させても辺の長さがぴたりと一致します。

三平方の定理を発見したのは、有名な古代ギリシアの数学者であるピタゴラスでした。なんとピタゴラスは現在使われている音階の元になったピタゴラス音階を開発していたともいわれており、音楽と数学にも密接な関係があることがうかがえます。

野外美術館は森の中を歩くハイキングコースにもなっていて、コースを全て歩くと体がほかほかとあたたまり、今時期ですと自然の生み出す「紅葉」という芸術も楽しめます。(紅葉の仕組みはこちらをご覧ください。)

色づいた木々と人の作り出した作品の、静かで力強い鼓動が野外美術館には溢れていました。

【アクセス】

札幌市営地下鉄南北線 真駒内駅下車 2番バス乗り場よりバスに乗車しておよそ15分

【参考文献】

  1. ウィキペディア
  2. ステンレス協会
  3. 札幌芸術の森 情報誌「ルア」
  4. 札幌芸術の森 野外美術館パンフレット

(文・図 宮本朋美)

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*1:このように金属が外部の刺激を受けて性能が落ちることを腐食といい、腐食した金属に生成されるものの代表が錆です

*2:表面に膜ができて、内部を腐食させない状態のことを不動態といいます。不動態になりやすい金属には、クロムのほかにアルミニウム、ニッケル、コバルトなどがあります。鉄も純度がとても高いものは不動態をつくります。

*3:変化の様子はこちらをご覧ください。

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2006-10-23

[][][] 延びても大丈夫 ロングレールと伸縮継目 〜JR琴似駅〜  延びても大丈夫 ロングレールと伸縮継目 〜JR琴似駅〜を含むブックマーク



JR琴似駅ホームで電車を待っていると、電車が静かにホームへ入ってきます。琴似駅構内のレールには隙間の空いている継目がないので「ガタンゴトン」と音がしません。このレールは通常のレールより長く、「ロングレール」と呼ばれています。ホームの端から端まで歩いて線路を見ても、継目が見あたりません。それでは次にホームの札幌側の端に立って、小樽方面行き線路の数メートル先をよく見てください。変わった形をしたレールの継目が見えます。これはロングレールの端に設置される「伸縮継目」です。鉄は暖まると伸び、冷えると縮みます。その伸び縮みによりレールがゆがまないようにするための仕組みです。今回はロングレールと伸縮継目について紹介します。


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  • 写真:琴似駅の札幌側の伸縮継目を望む。       伸縮継目のアップ。

【旧来のレール】

まずは旧来のレールについて紹介しましょう。これは札幌駅構内でも見ることができます。一本のレールの長さは通常25mです。決まった長さのレールなので「定尺レール」と呼ばれます。それらを「継目板」とボルトで接続しています。一般的に継目には1cm程度の隙間が空いています。これは、鉄などの物質は暖まると膨張し、冷えると収縮する性質を考慮したものです。


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  • 写真:旧来レールの隙間がある継目。

この隙間があることで、夏にレールが暖まって延びても、隣のレールとぶつかり合うことがなく、レールがゆがみません。しかし、猛暑などにより想定以上に暑くなると、この隙間では解消できないほどにレールが延びてしまい、レールがゆがんで、電車の運行に支障をきたすこともあります。一方冬には、冷えることによってレールが縮むので、隙間は大きくなります。その隙間を電車の車輪が通過することによって「ガタンゴトン」と音がします。振動も大きく、電車の乗り心地は悪くなります。そのため旧来レールの欠点を克服した「ロングレール」が普及してきたのです。


【 ロングレール】

琴似駅札幌側の伸縮継目から手稲駅札幌側の伸縮継目までの約6.4kmはなんと1本の長いレールです*1。ロングレールを使用することにより、騒音が小さくなり、振動が小さくなることで乗り心地も良くなります。

床面と枕木で固定されている長いレールは、中央部分がしっかり押さえ込まれているので、あまり動かない不動区間があることが研究によりわかってきました。温度変化により伸縮する可動区間は両端それぞれの100m程度です。そこで、何本ものレールを溶接でつなぎ合わせ、不動区間が存在する長さ200m以上のレールを「ロングレール」と呼びます。

温度変化による両端それぞれの伸縮量は5cm程度にものぼります。そのため旧来の隙間がある継目では対応できません。そこで両端に「伸縮継目」という特殊な継目を設置する必要があります。


【 伸縮継目】

伸縮継目は、特殊な形状をした「トングレール」と「受けレール」が組み合わされています*2。トングレールは先端が細くなっていて、受けレールはその外側にあります。トングレールと受けレールは伸び縮みしても接しながらずれるだけなので*3、継目には隙間が空きません。そのため車輪は滑らかに通過することができます。


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  • 図:伸縮継目の模式図

JR北海道で最も長いロングレール区間は、長さ53kmの青函トンネル内にあります。温度変化が小さいトンネル内なので、とても長いロングレールが実現できました。

札幌近郊もロングレールがだんだんに普及してきました。


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札幌駅から銭函駅までのロングレール区間と伸縮継目の位置*4


線路がロングレール化されることにより、電車の速度は向上し、騒音は小さくなり、乗り心地が良くなります。みなさんも電車に乗った時に、車輪とレールとの音に注意を払ってみてください。「ガタンゴトン」と音がしない区間がわかるでしょう。

でも私は、あの「ガタンゴトン」という音に懐かしさを感じるので、それが聞かれなくなるのは少し寂しい気がします。これからの子どもが「電車ごっこ」をするときには、どんな音を唱えて遊ぶのでしょうか?


JR琴似駅

  • 【アクセス】:JR札幌駅から電車で5分

【参考資料】

  1. 徹底図解鉄道のしくみ、新星出版編集部、新星出版社
  2. 鉄道用語事典、久保田博、グランプリ出版
  3. 鉄道工学ハンドブック、久保田博、グランプリ出版

(文・写真・図 大鐘卓哉)


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*1:ロングレール区間でも、信号のところでは継目板とボルトでレール同士をつないでいる。これは信号用の電気が流れないように絶縁物質をはさんで隙間なくつなぐ「絶縁継目」である

*2:一般にトングレールのとがった方が電車の進行方向に対応するが、必ずしもそうではない。電車が双方向で走る単線区間にもロングレールと伸縮継目が設置されている。

*3:ロングレールの端が受けレールの場合、トングレールに沿って受けレールが伸び縮みする。一方、ロングレールの端がトングレールの場合、トングレールが伸び縮みすると受けレールが広がったり狭まったりする。

*4:線路の切替ポイントはロングレール化できないので、ポイントの前後に伸縮継目が設置されているようだ。

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2006-10-18

[][][] この道の彼方に : 札幌の舗装道路のはじまり 〜北三条通り〜  この道の彼方に : 札幌の舗装道路のはじまり 〜北三条通り〜を含むブックマーク



旧北海道庁赤レンガ庁舎の正門前から東に延びる北三条通りは、大正13年に札幌ではじめて道路の舗装が行われた場所です。


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  • 左:現在の北三条通りと旧北海道庁 右:大正時代の北三条通り(北海道道路誌より)

現在広く使われているアスファルト舗装とは異なり、当時の舗装はブナの木のブロックにコールタールとクレオソートと呼ばれる液体を染み込ませ、道路に敷き詰めたものでした*1。ブナの木のブロックは、今は道路の下に埋もれていますが、掘り出されたものが北三条通りの歩道にある、「札幌舗装道路発祥の地」の碑の中に埋め込まれています*2


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  • 左:「札幌舗装道路発祥の地」の碑 右:碑の上に置かれたブナの木のブロック

また、北三条通りの起点となる旧北海道庁の正門のすぐ前には、北海道と札幌市の道路元標(道路の起点と終点を示す碑)が置かれています。北三条通りは北海道の道路がはじまる場所でもあります。


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  • 札幌市(北海道)道路元標

ブナのブロックに使われたコールタールと現在の道路舗装に使われているアスファルトの間にはちょっとした共通点があります。それは、どちらの材料も化石燃料を精製する過程で生まれる副産物であることです。


コールタールは石炭からコークスを作る過程で生まれます。コークスは、石炭を空気のない状態で1200℃程度の高温で蒸し焼きにし、石炭の主成分の炭素とその他の揮発性成分(アンモニアや硫黄や炭化水素類*3等)を分離し(乾留)、製造します。揮発性成分のうち、沢山の種類の炭化水素類が含まれる、黒い粘りのある液体がコールタールと呼ばれています。

コールタールを約200〜400℃で加熱すると、さらに油状の液体を分離することができます。これがクレオソートで、コールタールとともに木材の腐食を防ぐ性質を持っています。


一方、アスファルトは石油(原油)を精製する過程で生まれます*4。原油の中にもコールタールと同じように沢山の炭化水素類(油分や天然ガス)が含まれています。ガソリンや灯油、軽油、重油等の石油製品は、それぞれ揮発する温度が異なるため、温度を変えて加熱すると分離(分留)できます。

このとき、最後まで揮発することなく残ったものがアスファルトです*5。原油の産地により割合は異なりますが、原油の重さの2〜3割程度がアスファルトとして得られます。


加熱温度30℃〜180℃170℃〜250℃240℃〜350℃350℃以上
石油製品ガソリン、ナフサジェット燃料、灯油軽油重油、アスファルト

高速道路の舗装などでコンクリートが使われることもありますが、道路の大半は、アスファルトで舗装されています。

コンクリートをしっかりと固めるためには、コンクリートの周りに覆いをかぶせ、水分や温度を一定に保つ、「養生」と呼ばれる工程が必要です。養生は数日から数週間にわたっておこなう必要があり、この間は車が道路を通ることができず、工期が長くなる欠点があります。


一方、アスファルト*6は、加熱すると柔らかくなり、薄く平らに延ばしたあと普通の温度に冷やせば、すぐに固まります。コンクリートと異なり、養生の期間が不要で、短期間により長い距離を舗装できるのが長所です。


北海道では、冬季に地面の凍結により道路が盛り上がって壊れたり、15年ほど前まではスパイクタイヤにより道路が削られるなど、他の地方に比べて道路が痛みやすいという寒冷地特有の問題がありました。痛んだ路面を補修したり、下水道など道路の下に埋められた配管を掘り返し、再び埋め戻すなど、すでに敷かれた道路の保守整備もやりやすいことがコンクリート舗装と比べ広く使われている理由です。


現在、札幌市内の車道の総延長は、約5500kmに及び、その舗装率は都市部ではほぼ100%だそうです。車道の他、歩道や駐車場などの舗装も進んでいます。アスファルトが原油から生まれたものであること、そして現在アスファルト舗装されている地面の広さのことを想うと、私達がこれまで消費した原油の量がどれほど莫大なものだったのかと、ふと思いました。


北三条通りの両端には、北原白秋が作詞した、「この道」の歌詞が書かれたパネルがあります。この歌詞には、札幌の道を連想させる、アカシヤの花や時計台の姿が織り込まれています(先日,北大のポプラ並木の倒木から作られたチェンバロの演奏会でこの曲が演奏されました。そのお話はこちらで)。朝晩の冷え込みで黄色く色づき始めたイチョウ並木の下を鼻声でハミングしながら、普段は何気なく通り過ぎるこの道のはじまりと、その向かう先にしばし想いをめぐらしていました。


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  • 「この道」の歌詞(北原白秋作詞)

(文・写真:佐藤登志男)

【アクセス】

  • JR札幌駅南口から大通公園に向かって数分歩き、右側に旧北海道庁が見える通りです。

【参考文献】

  1. 石油と石炭の化学 共立出版 (1972)
  2. 土木材料III <アスファルト> 大学講座土木工学8 共立出版(1974)
  3. 石油化学プロセス 石油学会編 講談社サイエンティフィク(2001)
  4. 北海道道路誌 北海道庁(1925)
  5. 北海道舗装史 北海道土木技術会舗装研究委員会(1986)
  6. 北海道道路史 II 技術編 北海道道路史調査会(1990)

【参考リンク】

  • 札幌市建設局土木部

http://www.city.sapporo.jp/kensetsu/stn/pr/pb/index.html

  • 北海道立文書館

http://www.pref.hokkaido.lg.jp/sm/mnj/

  • 独立行政法人 土木研究所 寒地土木研究所

http://www2.ceri.go.jp/jpn/iji/index.htm


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*1:ブナの木のブロックは長さ15cm, 幅9cm, 厚さ8.5cmで、延長117m, 幅14.5mの道路に約12万4000個が敷き詰められました。現在の北三条通りの舗装は、レンガ色のタイル舗装で、ところどころがアスファルトで補修されています

*2:旧北海道庁内の北海道立文書館の展示スペースではより状態のよいものが見られます

*3:炭素と水素の化合物の一般的な呼び名で、コールタールには、ナフタレンやフェノールなどが含まれています

*4:北海道にも油田があったんですよ。詳しくはこちら: http://d.hatena.ne.jp/costep_webteam/20060419

*5:天然の状態で石油の揮発しやすい成分が蒸発し、固まった「天然アスファルト」も存在します

*6:舗装に使われるのは、アスファルトに砂や砂利、石粉などを混ぜた物で、アスファルトの含まれる割合は10%ほどです

2006-10-11

[][][] 心臓は電気で動く!?〜札幌駅東改札内のAED〜  心臓は電気で動く!?〜札幌駅東改札内のAED〜を含むブックマーク

札幌駅の人ごみの中で、こんなオレンジ色の看板を見かけたことがありますか?

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(2006年10月7日撮影)


これはAED(エーイーディー:自動体外式除細動器)の場所を知らせる看板です。看板の中央あたりに見えるオレンジ色のかばんの中にAEDが入っています。AEDとは、突然の事故や心臓病により心臓停止の状態や心不全など、心臓がうまく収縮できない状態になった時に、電気ショックを与えて回復させるための医療機器です。以前は医療従事者しか使えませんでしたが、2004年からは救命の現場に居合わせた一般市民も使用できるようになりました。札幌市では、学校、体育館・プールなどの公共施設に200台以上が設置されています。(設置場所へのリンク)


  • 心臓の働き

AEDの説明の前に、まずは心臓の働きについてみてみましょう。

出典:IPA「教育用画像素材集サイト」 http://www2.edu.ipa.go.jp/gz/


心臓の大部分は心筋と呼ばれる筋肉で出来ています。腕や足の筋肉は、電気的刺激を受けると収縮する性質がありますが、心筋も同様に、刺激伝導系*1に電気的刺激が通ることでリズミカルに収縮します。腕や足の筋肉と違うのは、心臓は意識をしなくても自動的に拍動を繰り返すことです。このことを心臓の自動性といいます。筋肉の細胞の一つ一つが自動性を持っているので、仮に断片化しても、その心筋の小片はそれぞれがばらばらに収縮、拡張を繰り返します。そこで、刺激伝導系がその歩調とりの役割を果たしているのです。上の動画の中では、刺激伝導の速さ・遅さがあっても、心室と心房がちょうど歩調を合わせて収縮しているのがわかります。


ところが、心臓病などで刺激伝導系の働きがうまくいかなくなると、心房と心室は歩調の合った収縮・拡張が出来なくなってしまいます。これは心室細動(粗動)、心房細動(粗動)などと呼ばれる心不全の主な理由です。血圧が下降し、脳へ送られる血液量が減少し、意識を失ってしまいます。プールなどでの事故の場合は、心臓は呼吸が停止したあとも、自動性があるために心臓はしばらくの間拍動しますが、酸素不足などの理由で数分後には停止してしまいます。

そこで、心不全を起こしてしまった心臓に対して使われるのが、AEDです。心筋に電気ショックを与え、心房と心室の歩調を正常に戻す治療法で、意識を失うなどといった重篤な心不全の症状が出た場合には、直ちに使用しなければなりません。一分経過するごとに、救命率が5〜7%下がるといわれています。救急車が要請を受けてから到着するまでに平均6分以上かかっているので、発見次第すぐに救命活動を始めなければなりません。


  • 使用方法の実際

以下が、使用法の実際です。

(1)患者に意識がないのを発見したら、直ちに従来どおりの救急法、「心臓マッサージと人工呼吸」を開始します。

(2)救命を二人で行う場合は、もう一人が救急車を呼び、最も近くにあるAEDを取りに行きます。

・駅など公共の場であれば、大声で助けを呼び、AEDを持ってきてもらいましょう。

(3)心臓マッサージを続けても回復しない場合、直ちにAEDを使用するために胸部を露出します。

(4)患者の右上胸部と左下胸部に電極を貼ります。

 ・そのときにペースメーカーの上に貼らないように気をつけます。ペースメーカーは皮下に埋め込まれているので、見た目で確認できます。

 ・ブラジャーはつけたままにします。

 ・また、電気は人体を通るので、電気ショックを与える瞬間には、患者から離れます。「離れてください!」と周囲の人にも知らせます。

 ・プールなど胸部が水にぬれている場合は、乾いたタオルで拭き取ってから電極を貼ります。

 ・8歳以下の小児には大人用のAEDは使えません。その場合は、心臓マッサージを続けます。

(5)誰も患者に触れていないことを確認し、AEDのスイッチをいれて電気ショックを与えます。


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(心電図:異常な波形がAEDにより正常波形に戻っている)


  • 知っておかなければならない注意点

上の図は、心臓の活動電位を測定した心電図です。AEDを使って電気ショックを与えると(オレンジの矢印)、通常通りの心電図(右側)に戻ります。しかし、一回で必ず戻るわけではないので、電気ショックを与えたあとに、もう一度脈拍を確認する必要があります。AEDが脈拍を計測してくれますので、音声指示に従い、AEDの画面を見て、脈拍数が表示されたかを確認してください。→この心電図はAEDの効果について理解を助けるためのもので、AEDのモニター上には現れません。


 脳震盪(のうしんとう)など意識がなくても心臓が動いている場合に、電気ショックを与えてしまわないかという心配をされる方がいらっしゃるかもしれませんが、AEDが心臓の拍動を感知し、電流が流れないような仕組みになっています。


正しい知識が必要なAEDの使用が一般市民にまで開かれた理由には、以上のように、比較的安全なAEDが開発されたことがあります。また、緊急時にあわてて方法を間違ってしまわないように、音声で指示してくれる機器ができてきました。音声の指示に従えば、安全にAEDを使用できます。


しかし、AEDは心臓マッサージと人工呼吸法の補助的手段です。また、AEDが近くにない場合を想定して、心臓マッサージや人工呼吸法といった機械を使用しない救命方法を習得しておくことが重要です。そのためには定期的に研修に参加するという方法があります。


札幌市では、救急車が到着するまでの間、研修を受けた救急サポーターがAEDを使用する「さっぽろ救急サポーター制度」を開始しています。 (さっぽろ救急サポーターへのリンク)

また、札幌市消防局救急科のお話では、将来的に携帯電話でAED設置場所がわかるシステムを作る予定があるということでした。しかし、高齢になるにつれてAEDを必要とする頻度が高くなりますが、多くの高齢者は携帯電話を使っていないという問題点もあり、大切な情報をどのようにその情報を必要とする人へ届けるかが今後の大きな課題となりそうです。


今回ご紹介した札幌駅東改札口内のAEDは、2006年6月に設置されました。他にももう一台、西改札口内にAEDが設置されていますが、50メートルと離れておらず、広い札幌駅構内で、その2台が近距離であることには問題があります。また、いざという時のために看板は目立つ色でなくてはなりませんが、他の観光用の看板の色に混じってしまい、実際私が札幌駅で写真を撮るために行った時には、見つけるのにずいぶんと時間がかかりました。


 また、駅職員全員が事前に普通救急救命の講習を受けて導入されたということを伺いましたが、駅職員は救命の専門家ではない事を知っておく必要があります。なお、設置されて以降、幸いなことにまだ一度の使用もないということですが、地震などの災害時同様、普段からの心構えが重要なのは言うまでもありません。


(文・図・写真:伊藤紀代)


参考文献

  1. 「図解生理学 第2版」中野昭一編、医学書院、2000年
  2. 「系統看護学講座 専門7 成人看護学3 循環器疾患患者の看護」吉田俊子ら、医学書院、2003年

アクセス

JR札幌駅 東改札口内 キヨスク

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*1:心房の洞房結節を起点とし、電気刺激を心臓全体へ伝える繊維のこと。

ヤギヤギ 2006/10/20 12:54 AEDの設置のおかげで、救われる人が増えている、
と耳にしたことがあります。
私は駅でAEDを見るたびに、
自分が使うことになったら本当に大丈夫なのかなあ…と不安に思っていました。
学校や市民の集まりで使い方講習があるといいですよね。

noriyon1206noriyon1206 2006/10/22 16:15 札幌市消防局のホームページを見ると、AEDの講習の日程について書かれています。また、学校父兄が児童のプール授業の監視員としてボランティアをする場合、AEDの講習を事前に受けてもらうという学校も出てきました。

札幌ママ札幌ママ 2006/10/23 11:34 私も、子供のプールの監視員で、講習を受けました。音声ガイドはとても親切だったので、落ち着いて指示に従えば、誰にでもできそうでした。

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2006-10-03

[][] 蛙の手がもみずる秋〜定山渓の紅葉〜  蛙の手がもみずる秋〜定山渓の紅葉〜を含むブックマーク

 札幌から国道230号線を南へ向かって車で40-50分走ると定山渓に着きます。そこには、札幌の奥座敷といわれる温泉街があります。定山渓では、10月になると紅葉が始まります。木々は赤や黄色に着飾って秋の装いをこらします。

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 紅葉は「モミジ」と読むことができます。元々モミジは、「もみず(紅葉づ)」という、葉が紅葉または黄葉することを意味する動詞からできた言葉です。紅葉の代表選手はイロハカエデ。カエデの葉の形は蛙の手に似ています。そこから「蛙手(かえるで)」がつまってカエデになったといわれています。植物学的には、モミジとカエデの区別はなく、すべてカエデ科に属します。


 さて、こうした美しい紅葉が楽しめるのは、日本が、温帯地域を中心とする気候帯*1に属しているからです。そして、紅葉は、主に温帯地域に自生している木の生存戦略の一つである落葉性に大きく関わっています。四季がはっきりしている気候帯で、落葉樹が葉を落とすのには、どのような戦略が隠されているのでしょうか?

 葉は光合成を行う大切な器官ですが、葉を作るのにも、葉を維持するにもコストがかかります。葉はせっせと光合成をして、このコストをまかなう以上の栄養物を生産しなければ存在意義がありません。

 ところが、温帯地域では気温の低い冬が巡ってきます。冬には光合成効率が悪くなり、葉を維持することはコスト的に合いません。そのため秋に一旦、葉を落として、冬は休眠し、春に再生する落葉性が適しているのです。これに対し、熱帯地域では一年中気温が高いので、葉を落とさずに、一年を通じて日光を受け止める常緑性が適します。また、亜寒帯地域では、冬の低温に加えて、夏も気温が上がらないために、ひと夏の光合成生産では葉の再生コストをまかなうことができません。そのため寒さに強く、維持コストの低い葉を作って常緑にした方が得になります。*2


 葉を落とすときのプロセスは複雑です。そして、この過程で葉の色が変化します。


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1.まず気温が下がって、光合成効率が悪くなると、葉の付け根と茎の間に、離層(りそう)と呼ばれる層ができます。この層により、葉と茎との間の栄養分の通路がふさがれます。この時期までの葉の色は緑色です。これは葉緑体の中にあるクロロフィルという緑色の色素のためです。葉緑体の中にはカロチノイドという黄色の色素もあるのですが、クロロフィルに比べて8分の1しかないので、目立ちません。


2.栄養分の通路がふさがれると、光合成でつくられたでんぷんが行き場を失い、葉の中にたまります。でんぷんは糖に分解され、この糖を材料として、アントシアンという赤色の色素が作られる葉*3があります*4。また、合成するための遺伝子がなかったり、この時期には発現しないためにアントシアンが作られない葉もあります。その一方、気温が低くなる*5と、クロロフィルをはじめとして、葉の細胞内容物の分解が進みます。分解によって生じる、窒素、リン、カリウムなどの元素は、回収されて他の器官で再利用されます。これは落葉前の木にとって大変重要な作業です。


3.アントシアンがつくられた葉は、赤色の葉になります*6。アントシアンがつくられなかった葉は、クロロフィルが分解されることにより、隠されていたカロチノイドという黄色の色素が目立つようになり、黄色になるのです。

 やがて、紅葉の盛りが過ぎると、葉の付け根にできた離層で、細胞壁を溶かす酵素がつくられます。この酵素の働きで細胞壁が弱くなると、水分の通路が切れてしまいます。そうなるともはや葉は茎に留まることができなくなって落葉します。


 こうしてみると、落葉のプロセスというのは、葉の有効構成成分を分解して、回収再利用するための執行猶予期間と見ることもできそうです。落ちた葉にしても、やがては微生物によって分解されて腐葉土となり、次の世代の新芽や若葉や種子のための養分となることでしょう。私たちは、もっぱら赤や黄色に葉が色を変える様子*7に目を奪われ、行く秋を惜しむことに熱心ですが、植物たちは、その裏で資源の再利用を粛々と行い、来年の春のための準備をすでに始めているようです。

(文・写真: 中村滋、図: 中村景子)

【住所】

札幌市南区定山渓温泉

【アクセス】

自家用車で

  • 国道230号線を札幌市中心街から南へ約40分

バスで

  • 札幌駅南口バスターミナルより じょうてつバス「定山渓温泉」行き、料金750円、所要時間約1時間15分、1時間に2〜3本
  • 市営地下鉄南北線真駒内駅より じょうてつバス「定山渓温泉」行き、料金600円、所要時間約50分、1時間に1〜2本

【参考文献】

  1. 『朝日百科 植物の世界13 植物の生態地理』朝日新聞社、1997
  2. 『朝日百科 植物の世界3 種子植物 双子葉類3』松下まり子「紅葉と落葉」pp158-160、朝日新聞社、1997
  3. 大井次三朗他編『モミジとカエデ』誠文堂新光社刊、1968
  4. 八田洋章『木の見かた、楽しみかた ツリーウォチング入門』朝日選書、1998
  5. 増田芳雄他『絵とき 植物生理学入門』オーム社、1988

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*1:厳密には、北海道と、本州の高原地帯は亜寒帯地域。火山列島、南鳥島沖ノ鳥島波照間島沖大東島の5地域は熱帯地域。それ以外の日本の地域は温帯に属します。

*2:実際には、植物の種によって、ここで説明した性質の表れ方が異なりますし、過去の地球の気候変動の履歴を引きずっているために、同じ地域でも、常緑樹と落葉樹が同居します。また厳密には亜寒帯地域に分類される北海道にも落葉樹は存在します。しかし大きくみれば、低緯度と高緯度地方で常緑性が多く選択され、中緯度では落葉性が現れるのです。

*3:落葉期に、アントシアンがなぜつくられるかについては、専門家の間でも意見は一致していません。一方、若葉の紅葉現象というものがあり、やはりアントシアンが作られるのですが、こちらの方は、葉緑体を紫外線から守り、日光を吸収して温度を上げるためとされています。

*4:もうひとつ、同じ仕組みによってタンニン系の褐色の色素が作られる葉があります。

*5:最低気温が8度を下回ると、紅葉がはじまり、5-6度以下になると紅葉のスピードが速くなると言われています。

*6:タンニン系の物質が作られた葉は褐色になります。

*7:一般に良い紅葉になる条件は、3つあります。昼と夜の寒暖の差があること。日光。そして湿度です。昼、暖かいとよいのは、残された葉緑体による光合成によって、アントシアンの原料となるでんぷん(糖)が葉の中にたくさん溜められるからです。夜、寒いとよいのは、クロロフィルの分解が低温ほど進むことと、低温の方が植物の呼吸が少なく、溜まったでんぷん(糖)を消費しなくてすむためです。日光は、アントシアンを作るための必須条件であり、湿度は、湿気が足りなくなるとはやくに葉が落ちてしまうからです。

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