
2007-02-23
■[北区]なぞの音を追え! 〜北海道大学 低温科学研究所〜

筆者には、日ごろからちょっと不思議だと思っていたことがありました。
北海道大学近くを走る道路、ちょうど北20条(通称ななめ通り)付近を通りかかると、
時々機械のような、楽器のような音が聞こえることがあるのです。
あたりをよく見てみても、音を発するようなものはなにも見当たりません。
今回は、この音の正体を、突き止めてみることにしました。
■音は低温科学研究所から
音が聞こえた周囲を調査してみたところ、
どうやら低温科学研究所付近で大きく聞こえ、
他の場所ではあまり聞こえないようでした。
そこで、この研究所に問い合わせをしてみたところ、
すぐに音の正体が判明しました。
この音は、研究所で行われている観測にかかわるとても大切な音だそうです。
そしてこの観測結果・研究成果は私たちの生活にも密接にかかわっているとか・・・。
研究所の藤吉先生にお願いして、音を発している装置を、実際に見せていただきました。
■風を「観る」3種類のスペシャリスト!
音を発していたのは、「ドップラーソーダー」という風向きや風の強さを観測する装置でした。
ドップラーソーダーは、研究所の屋上に設置されていて、毎日休むことなく作動しているそうです。
頻繁に音を耳にするのは、毎日動き続けているからなんですね。
- 低温科学研究所の屋上に設置されているドップラーソーダー。しろい傘の中に小さなスピーカーがぎっしりと入っています。(2007/1/30 撮影)
- ドップラーソーダーの音。筆者がいつも耳にしていたのはこの音でした!
たくさんのスピーカーがついており、ここからあの謎の音がでていました。
音は、物体にぶつかるとはねかえるという性質をもっています。
大きな物体ではもちろんですが、私たちの目では見ることの出来ない空気の密度
の変化がちょうど壁のような役割をして音を跳ね返します。
ドップラーソーダーは、この跳ね返り方の違いによって空気中の気温、乱れ、風
の向きや速さを観測することが出来ます。
- ソーダーで観測されたデーター。毎日の観測データはこのように蓄積されていきます。(2007/1/30 撮影)
低温科学研究所には、このほかにも
「ドップラーレーダー」と「ドップラーライダー」という、光と電波によって風を観測する装置があります。
(ドップラーライダーについての説明が掲載されています。原理はソーダー、レーダーにおいても同じです。)
- ドップラーライダー。左の黒い装置から真上に向かって緑のレーザーが出ます。右側は制御装置。 (2007/1/30撮影)
3つの装置には、それぞれ長所と短所があります。
- 3つの装置の特徴
機器 | 何で観測するか | 得意 | ニガテ |
ドップラーソーダー | 音 | 晴天 | 荒天 |
ドップラーレーダー | 電波 | 雨 | 快晴 |
ドップラーライダー | 光 | 晴天 | 濃霧など |
3つの装置を備えることで、互いに互いの短所を補うことができます。どんな天候でも多面的に空気の流れを観測でき、
より正確な空気の流れ=風の姿を「見る」ことができるそうです。
■身近な風の学問
低温科学研究所では、観測結果を解析して、雲や風の発生する仕組み、また雪や
雨のできる仕組みを研究しているそうです。
このような風に関する研究は、私たちの生活にとても密接にかかわっています。
たとえば、飛行機のエンジンに鳥がひっかかってしまう「バードストライキング」は、飛行機の機体にとって大変な損傷です。
バードストライキングを回避するために、鳥の行動を予測することが必要です。
鳥の行動は風の向きや強さ、吹く高度によって変化するので、風の研究から得られる知見はバードストライキングの回避に一役かっているのです。
さらに、風を知ることは街づくりにも役立ちます。
大きな建物を建てると、風の流れが大きく変わります。
実際に、札幌駅にJRタワーや高層マンションが建ったので、これらの建築物の風下では風の様子が周囲と異なることが最近の観測からわかってきました。
この先、高層ビルがたくさん立ち並ぶ都市を整備するときに、
空気の流れにどのような影響がでるかを予測できたら、もっと快適な都市がうまれると思いませんか?
ヒートアイランド現象や、ビル風の問題も、風の研究から解決の糸口が見えてくるかもしれません。
私たちは、風を感じるときに、
何を考えているでしょう。
普段、風は私たちの周りを通り抜けていくだけだと思って、
気にも留めていないことが多いです。
筆者も風について、考えたことはほとんどありませんでした。
しかし今回、謎の音を追っていくと、壮大な風の世界が広がっていました。
日常のちょっとした疑問の奥には、科学の世界が待っているのですね。
みなさんも、普段不思議に思っていることをちょっとさぐってみませんか?
目からうろこの世界が待っているかもしれません。
アクセス
【北海道大学 低温科学研究所】
市営地下鉄南北線 北18条駅下車 徒歩10分
今回ご協力いただいた藤吉先生の研究室のHPでは、毎日のドップラーライダー観測データが公開されています。
【参考文献】
今回の記事執筆に当たり、低温科学研究所の藤吉先生、本堂先生にご協力いただきました。ありがとうござました。
(文・写真 宮本朋美)
2007-02-16
■[清田区][中央区][物理] FISノルディックスキー世界選手権大会がやってくる! 〜 白旗山競技場、札幌中島体育センター 〜

(白旗山競技場)
(札幌中島体育センター)
2/22から3/4の11日間にわたって札幌にFISノルディックスキー世界選手権大会がやってきます。
ノルディックスキーとは、ジャンプ、クロスカントリーと、この二つを組み合わせたノルディックコンバインド(複合)の総称です。
ダイナミックなジャンプ*1に比べるとクロスカントリーはあまりなじみがないのではないでしょうか。
クロスカントリーとは、スキーを履いて起伏のあるコースを滑走し、そのタイムを競う競技です。コースの距離は1200mから50km(女子は最長30km)に及び、陸上の中長距離走のスキー版と考えればよいでしょう。
クロスカントリー競技が行われる会場のひとつが、清田区にある白旗山競技場です*2。白旗山競技場は札幌の中心部から車で一時間ほど走ったところにあり、スプリント用のトラックと、山林の中を走る25kmの距離用のコースがあります。今は大会準備の真っ最中で、選手と思しき人が練習に励んでいました。
- 白旗山競技場のトラック
というわけで、今回は白旗山競技場をクロスカントリー競技と関係の深い、「歩くスキー」*3で歩いてみてレポートしようと思っていたのですが・・・
- が〜ん
白旗山競技場の方に聞いてみると、中央区にある中島公園の札幌中島体育センターで、歩くスキーが無料で借りられると教えて頂いたので、早速行ってみました。
- 札幌中島体育センターの歩くスキーコース
「歩くスキー」のスキー板や靴を良く見てみると、普通のスキーと異なる部分がいくつかあります。
そのひとつが、スキー板の裏面につけられたうろこ状の模様です。
- 歩くスキーでは、靴のあたりの裏面にうろこ状の模様がつけられています
もうひとつの違いが、歩くスキーでは、スキー靴が柔らかく、つま先だけが固定され、かかとを浮かせることができることです。
- 歩くスキーでは、かかとを浮かせることができます
これらの構造の違いは、スキーで「歩く」ことと、どう関係しているのでしょうか。スキーを借りて、よちよち歩きで滑りながら考えてみました。
まず、歩くスキーを履いて歩いてみると、スキーは後ろにはほとんど滑らないことがわかりました。これはスキー裏面のうろこ状の模様のためだと考えられます。この模様は、前に向かっては緩やかに傾いていますが、後側は切り立った刻みがつけられていて、雪をかみやすい構造になっています。
- スキー板のうろこ状の模様の役割
このため、歩くスキーは前には滑りやすく、後ろには滑りにくいつくりになっています*4。
しばらくどたばたと滑っていると、滑り方のコツのようなものがつかめてきました。例えば、下の図のように左足で体を前に押し出して勢いをつけた後に、右側のスキーに体を乗せると、スキーがつーっと滑ってゆきます。左右交互にこれを繰り返すと、スムーズに前に進めることがわかりました。
歩くスキーを履いて右足を前に踏み出すと、左足はかかとが上がり、スキーを後ろに押し出そうとします。しかし、スキーが後ろに滑りにくく、左足の位置はほとんど動かないため、反動(スキーを後ろに押し出そうとした力の反作用)で体は前に向かって押し出されます。
- 歩くスキーが前に進むしくみ
力が与えられて速度がついた物体(このときはスキーを履いた人になります)は、その速度と向きを保ったまま進みつづけようとします(慣性の法則と呼ばれています)。このため、踏み出してしばらくの間は、スキーが前に進みます。
スキー板と雪の間には摩擦があるので、速度は次第に小さくなり、やがて止まるのですが、うまく滑れるようになると、普通に歩くときの歩幅より長く一歩で進めるようになります。
中島公園で歩くスキーをしている間、ずっと雪が降っていました。たまたま黒いフェルトの手袋をしていたので、手袋の上に落ちた雪の結晶はしばらく溶けず、じっくりとその形を見ることができました。
寒く厳しい札幌の冬は外に出るのも億劫になりがちですが、じかに自然と触れ合うときにだけ、自然が見せてくれるものもあるのです。
ノルディックスキー世界選手権大会では、世界のトップアスリートたちは、白旗山でどんなレースを見せてくれるのでしょうか。大会中にクロスカントリー競技を見たときには、選手の表情や駆け引きと共に、その足元にもちょっと注目してみてください。
- 手袋に降った雪の結晶
(文、図、写真:佐藤登志男)
【アクセス】
- 白旗山競技場
- 札幌市清田区真栄502
- 地下鉄東豊線「福住駅」下車、中央バス福87「白旗山競技場入口」から徒歩30分
- 大会中は無料のシャトルバスが運行されます
- 札幌中島体育センター
- 札幌市中央区中島公園1-5
- 地下鉄南北線「幌平橋駅」下車 1番出口から徒歩5分
【参考リンク】
【参考文献】
- ヨコヤマ・ノルディックスキー・スクール編著 歩くスキー 成美堂出版(1975)
- 今村 源吉 歩くスキー・装備・ワックスから楽しみ方まで 北海タイムス社(1976)
- 岩岳スキースクール編著 クロカンスキー入門 スキージャーナル(1982)
- R. クロフォード=カリー クロスカントリースキー入門 ベースボールマガジン社(1984)
*1:「さっぽろサイエンス観光マップ」にはスキージャンプについての記事もあります。詳しくはこちら 「世界ノルディック大会に向けて 〜札幌ウインタースポーツミュージアム〜 」 とこちら 「スキーと体の揚力で飛ぶ 〜大倉山ジャンプ競技場〜」 をご覧ください。
*2:もうひとつは札幌ドームです。なんと、ドーム内に雪を持ち込んで、屋外とつないで競技を行うようです。
*3:「歩くスキー」は冬の野山をスキーで散策するものですが、この用具をスピード競技用に改良し、いわば「走るスキー」としたものがクロスカントリースキーといえます。
*4:うろこ状の模様をつけるかわりに、雪が食い込むように厚くワックスをかけたり、毛皮を貼ったりすることもあります。
マツウラ
2007/02/22 01:23
佐藤さま、HBNから来ました。素晴らしいブログですね。是非、TBお願いします。僕もこのブログを紹介させてください。
佐藤登志男
2007/02/22 19:47
北海道♥ブログネットワークのマツウラ様、トラックバックご了承いただきありがとうございます。私達のブログも紹介していただければうれしいです。よろしくお願いします。
2007-02-13
■[中央区][物理][工学] 単なる単位の簡単物語〜JR札幌駅〜

札幌駅の南側に気温を表示する大きな電光掲示板があります。
筆者は通勤で毎朝この前を通ります。冬や夏には、朝から見るのも嫌になるような気温が表示されることもありますが、街中や道路沿いの気温表示は、路面が凍結しているかどうかの目安として、特に冬の運転には有難い情報です。
この気温や温度を日本では[℃](摂氏度)で表します。アメリカなどでは[ºF](華氏度)*1を日常で使用しています。さらにまた物理の世界では、温度は[K](ケルビン)*2で表します。この[K]という単位は、日本も加盟している国際度量衝総会(メートル条約)で定められた基本単位(SI単位)で、加盟国では原則として基本単位を基にした単位系(SI単位系)ですべての物理量を表さなければいけないのです。しかし現実にはSI単位系だけを用いると、日常生活に不便や混乱があるので慣用的単位も使用されています。基本単位は全部で7個あります。[K]以外の基本単位は、[m](メートル、長さの単位)、[kg](キログラム、質量の単位)、[s](秒、時間の単位)、[A](アンペア、電流の単位)、[cd](カンデラ、光度の単位)、[mol](モル、物質量の単位)です。
それぞれの基本単位の定義は科学(特に測定技術)の進歩とともに変化しています。例えば長さの基本単位である[m]は、最初メートル原器という金属製の棒を作成して基準としていました。現在では、光が真空中を1秒の299792458分の1の時間に伝わる距離と定められています。
日本では1991年に日本工業規格(JIS)が完全に国際単位系準拠になりました。それにともなって、身近なところでも記載がかわりました。それ以前は車のカタログではエンジン出力に「馬力」という表示がされていました。しかし最近は「kW」で表されています。また天気予報で以前は気圧を「ミリバール」で表していました。現在では「ヘクトパスカル」で表しています。
慣用的単位には用途を限定して正式に認められているものもあります。例えば、ダイヤの「質量」はカラット*3が用いられます。カラットは宝石の質量を表す時だけ使用が認められています。自動車の「速さ」も本来なら、基本単位の組み合わせで「秒速何メートル、[m/s]」と表さなければいけませんが、私達は日常「時速何km、[km/h]」と1時間に何km進むかで表しています。これは[秒]と[m]だけでは計算の桁数がどんどん大きくなって不便だからです。皆さんは「100kmの距離を時速40kmで進むと何時間かかるか?」という問題の答えは2.5時間(2時間30分)とすぐわかりますね。この問題を[秒]と[m」に置き換えて計算してみてください。基本単位では不便なことがすぐ実感できると思います。
普段全く意識しない単位にも意味や変遷の歴史があるのです。単位について調べてみるのも面白いものですよ。
えっ?最近は単位が気になってしょうがないですって?そういえば学生さんは単位がかかった季節ですものね。
(文、写真:ひるあんどーん)
参考:理科年表
アクセス
JR札幌駅または地下鉄南北線札幌駅からすぐ
2007-02-05
■[豊平区][物理][化学] 何度も利用、どうでしょう 〜平岸高台公園〜

【巨大なスロープでできた公園】
地下鉄南北線の南平岸駅で下車、改札を出て左側の出口から坂をのぼるとHTB(北海道テレビ)の社屋が見えてきます。屋上のキャラクターを眺めながら駐車場の縁を左折すると、平岸高台公園にぶつかります。
いたってシンプルな公園ですが、HTBの人気番組「水曜どうでしょう」の番組冒頭と最後のシーンの撮影ロケ地として、今や全国的に有名になりました。全体が幅約100mの巨大なスロープになっており、頂上からは札幌の中心部や手稲山を一望できます。冬はここで保育園児がそり遊びをしたり、小学校のスキー授業が行われたりします。
- 平岸高台公園(撮影:2007/2/5)
【カイロの歴史】
冬の散歩や外遊びに、カイロは欠かせません。カイロは「懐炉」と書き、もともとは囲炉裏(いろり)やたき火で温めた石を懐に入れて暖をとったことからこの名前がつきました。明治以降、麻や穀物の灰を粉末にして固めたものを容器の中で燃やすタイプや、ベンジンの気化ガスを容器の中でプラチナの触媒作用により分解し、発熱させるタイプのカイロができました。そして1978年、鉄粉を酸化反応させて発熱させる「使い捨てカイロ」が登場し、現在に至ります。
【使い捨てないカイロ】
使用後の使い捨てカイロは、ゴミとして処分しなければなりません。中身は鉄粉、バーミキュライト、活性炭などです。燃やせるゴミなのか、燃やせないゴミなのか、一瞬迷います*1。最近、「使い捨てないカイロ」があると聞き、さっそく入手しました。
- 左:使い捨てないカイロ 右:カイロの断面図
ビニール製の袋の中に、粘度の高そうな液体と金属製のボタンが透けて見えます。このボタンを袋の上から指で押してやると、中の液体がみるみる固まります。同時に熱が発生し、しばらく温かい状態が続きます。発熱がおさまると全体が白く固まっていますが、5〜6分煮沸するとまた液体に戻ります。
- ボタンを押すと、白く固まった部分が広がっていく
【中身は?】
この液体はいったい何でしょう?製品表示を見ると、酢酸ナトリウムとあります。酢酸ナトリウムは食品添加物にも使われている物質なので、万が一、袋が破れて内容物が手についても危険はありません。
【なぜ固まる?なぜ温まる?】
物質は、固体・液体・気体のいずれかの状態*2をとります。液体が冷やされて固体になることを凝固といい、このとき液体のもつエネルギーの一部が「凝固熱」として放出されます。このカイロが温かくなるのも凝固熱のためです。
![]() |
固体:分子は規則正しく配列し、わずかに振動している 液体:分子は互いに引き合いながら、動いている 気体:分子は自由にはげしく運動している |
- 物質の状態
液体が凝固し始める温度を凝固点といいます。酢酸ナトリウムの凝固点は58℃、つまり室温では固体のはずです。なぜ液体のままでいられるのでしょう?また、温度の変化がなくてもボタンを押すだけで凝固し始めるのはなぜでしょう?
凝固点以下に温度が下がっても固体にならず、液体であり続けることを「過冷却」*3といいます。このとき、分子は凝固するきっかけをつかめずに動き回っています。ここで振動などの刺激を与えると小さな結晶が生まれます。すると、それがきっかけとなって分子が規則的に整列し始め全体が凝固します。
このカイロは金属ボタンを押すことが刺激となって小さな結晶ができ、全体が凝固して発熱するのです。
【もっと大きなスケールで温める!】
この酢酸ナトリウムの性質を利用して「熱を宅配する」仕組みがあります。工場やゴミ焼却場から出る未利用の廃熱を、酢酸ナトリウムを主体とする潜熱蓄熱材*4に蓄えてトラックでオフィスや病院などへ輸送し、熱エネルギーとして利用する「トランスヒートコンテナ」システムです。これまでのパイプラインによる熱供給と違って長距離を運ぶことができ、廃熱を有効利用することで化石燃料の燃焼によるCO2排出を削減する効果があります。
【小さなカイロから大きな問題を考える】
「使い捨てないカイロ」は発熱している時間が使い捨てカイロよりもずっと短く、少々頼りなく感じます。しかし、戸外で体を動かせば暖かくなるのですから、逆に短時間だけ発熱するカイロは好都合ともいえます。何より、くり返し使えるのが魅力的です。
このカイロを握りしめ、CO2の排出削減と地球温暖化について考えながら、雪まつりに出かけてはどうでしょう?(参照:雪まつりを楽しむ際にちょっと考えてほしいこと)
私はカイロを持って、平岸高台公園へ子供とそり遊びに行ってきます。
(文・写真・図 原林 滋子)
【アクセス】
平岸高台公園
札幌市豊平区平岸4条13丁目
地下鉄南北線南平岸駅から徒歩5分
【参考リンク】
2007-02-01
■[中央区][環境] 雪まつりを楽しむ際にちょっと考えて欲しいこと 〜さっぽろ雪まつり大通り公園会場〜

1月のさっぽろ雪まつり大通り会場では、雪まつりの目玉とも言える大雪像製作の真っ只中です。
(取材協力:日本氷彫刻会札幌支部氷彫会 2007年1月26日撮影)
こちらの大氷像では、角氷ひとつ当たり約100kgあるため、写真のように重機を使って下から順に積み上げ作業が行われます。トラックで運ばれた氷を順に重機で吊り上げ、組んでおいた足場で待機する人が氷一つ一つを受け取り、適切な場所においていくという作業は、約3週間もかかるそうです。そのようにして積み上げられていく氷は、高さが7,8メートルになるまで積み上げられ、合計すると約1000個の氷が使用されるそうです。
使われる氷の量について計算して見ましょう。簡単ですね。
100kg×1000個=100000kg
1000kgは1トンなので、
100000kg=100トン
この氷像1基に使われている氷の量は、約100トンとなります。
100トンもの氷をすべて人の手作業で行うことを考えると、この重機を使うことによって、いかに効率的に作業が進められているのかが分かります。
1950年に第1回の雪まつりが行われた時には、市内の中高生による雪像6基で始まりました。このころ雪像はすべて人の手で作られていました。時がたつにつれて、自動車やトラックなど、人力よりもはるかに効率的に作業を進めるための様々な機械が使われるようになりました。
このように科学技術は、私たちの暮らしを豊かに、便利にしてくれます。しかし一方で、科学技術に支えられた私たちの社会の発展は、地球温暖化にも深刻な影響を与えています。
以下のグラフを見てください。
(気象庁 http://www.jma.go.jp/jma/index.html のデータを基に作成)
日最低気温とは、ある一日の中で最も低い気温を指します。
ここでは、1886年から2006年の札幌における2月の日最低気温の平均をグラフにしています。
グラフを全体的に眺めてみると、今から約120年前の1886年からだんだんと最低気温が上昇していることがいえます。ここ数年でも、雪まつり期間中の雪像が暖冬のために解けてしまうというニュースも聞かれます。このように札幌における日最低気温が上昇している大きな理由として、「都市化」の進行も考えられています。
今年の雪まつり開催期間中の気温が心配になりますね。
そこで、札幌管区気象台の三浦さんにお話を聞いてみました。
北海道地方の1ヶ月予報が使えるということです。
こちらが1月19日に発表された1ヶ月予報です。(予報期間1月20日から2月19日)
(http://www.jma.go.jp/jp/longfcst/101_00.htmlの解説資料PDFより引用)
グラフの予報期間の2月6〜12日頃の線は、気温平年差の+2度の線辺りにあります。これによると、雪まつり開催期間である2月6日(火)〜12日(月)曜日頃の札幌の気温は、平年に比べ2度くらい高めになると予想されていることが分かります。(濃いグレーと薄いグレーは、予想される幅です。予想した日時から遠くなるほど予想が難しいので、グレーの幅が広くなっています。)
雪まつりはそれ自体が楽しいだけでなく、北海道の冬の重要な観光資源でもあります。観光資源の豊かなオーストラリアでは、「エコ・ツーリズム」という考え方が浸透し、観光資源は現地に住む人々の財産であるとされ、観光業界が率先してゴミ問題などの自然破壊を食い止めようと活動しています。
しかし、地球温暖化は「エコ・ツーリズム」のように一部の人々の努力だけで解決できることではありません。私たちがいつまでも雪まつりを楽しめるようにするにはどうしたらよいか、地球人として、市民一人ひとりが無関心でいてはいけないと感じます。将来、もしかしたら、「科学技術」が温暖化を解決する日が来るかもしれません。少なくともその日が来るまでは、何が原因かを究明すると同時に解決策を模索していく必要があるし、地球温暖化の要因となる可能性のあるものに対しては、慎重な態度を持ち続けることが必要ではないでしょうか。
(文・写真 伊藤紀代)
【参考】
社団法人札幌観光協会 さっぽろ雪まつり資料館「さっぽろ雪まつり年表」
気象庁 気象観測(電子閲覧室)http://www.data.kishou.go.jp/index.htm
【アクセス】
・「さっぽろ雪まつり大通り会場」 地下鉄大通公園駅真上
・「さっぽろ雪まつり資料館」 さっぽろ羊が丘展望台敷地内
(地下鉄東豊線福住駅からバスで約10分)
【謝辞】
札幌管区気象台の三浦様、そして日本氷彫刻会札幌支部氷彫会の皆様、ご協力ありがとうございました。
モリキン
いつも楽しみに記事を読ませていただいています。
「都市化」と「地球温暖化」が同じもののように読めてしまうのですが,両者は同じものでしょうか?
冬季の最低気温の上昇が「都市化」によるものとして問題提起するのであれば「地球温暖化」ではなく「都市化」の解決策について言及するのが自然なように思います。
「地球温暖化」について言及したいというストーリーありきな記事に感じてしまいました。
伊藤
モリキンさん、コメントありがとうございます。私は環境に関する専門家ではないので、限られた知識内で今回の記事を書かせていただいておりますことをご了承ください。
今読み返してみるとご指摘のとおり、「都市化」と「地球温暖化」が同じようなものとして読めてしまうようです。しかし、今回の記事の意図としては、科学技術をただ享受するのではなく、科学技術に対する慎重さを常に持つべきではないか、という提案に過ぎません。ここでは、札幌の日最低気温の上昇の事実について述べていますが、その原因についてはまだ解明されていないため、ここでは断言していません。また、その原因がなんにせよ、日最低気温の上昇自体を問題として提起したつもりです。これで回答になっているでしょうか・・・?また何かありましたら、コメント下さいね。