ドングリ虫、ふたたび 〜月寒公園〜





暑かった2007年の夏が終わり、豊平区の月寒公園はすっかり秋になりました。



  • (左)初秋の月寒公園 (右)コナラの木には青いドングリが (撮影2007/9/11)


【 昨年、ドングリ虫は・・・・】
 昨年の11月7日、『どんぐりころころ、「こんにちは」と言ったのは・・・〜月寒公園〜』というタイトルで、サイエンス観光マップに次のような記事を書きました(詳しくはこちら)。
『月寒公園で拾ったドングリから22匹の「ドングリ虫」が出てきました。ドングリ虫は体長1cm弱の芋虫で、シギゾウムシの幼虫です。親虫がドングリに卵を産み付けると、やがて孵った芋虫はドングリの実を食べて成長します。その後ドングリから脱出して土の中で冬を越し、シギゾウムシになります。ドングリ虫たちがシギゾウムシになるのを見届けたいと思い、土を入れたガラスびんに移したところ、みんな次々と土にもぐっていきました・・・』
あれから約1年、ドングリ虫たちはどうなったでしょうか。


【 ドングリ虫、冬を乗り切る 】
 びんのガラス越しには、ドングリ虫が自分の体の周囲につくった「蛹室(ようしつ)」という小部屋のような空間が見えます。ドングリ虫を越冬させるには、外にいるのと同じように乾燥を避け、低温を保たなければなりません。そこで、びんの土に霧を吹いて口をしっかり閉め、発泡スチロールの保冷箱に入れて自宅の地下室に置きました。地下室の気温は真冬でも零度以下にはなりません。また、湿度も60%前後に保たれています。

  • ガラス越しに見える蛹室 (撮影2007/9/27)

【春になり夏になって・・・ 】
 雪がとけた4月、地下室からびんを取り出しました。びんの壁面近くにできた蛹室では、相変わらずドングリ虫が時々動いているのが見えます。待つこと数ヶ月、7月の末にびんを開けたところ、灰色がかった茶色いシギゾウムシが土の上を歩いているのを発見しました!
 長い口吻、黒く大きな丸い目、拡大してみると足には細かい毛がたくさん生えています。ガラス面を難なく登って来られるのは、つるつるしたドングリの表面を自由に歩ける脚を持つからでしょう。 



  • ドングリ虫の成虫、シギゾウムシ(右は腹側から見たところ) (撮影2007/9/27)


 月寒公園で拾ったドングリはコナラの実だったので、私はドングリ虫を「コナラシギゾウムシ」の幼虫だと思っていました。一般にコナラシギゾウムシはコナラを、「クリシギゾウムシ」はクリを餌とするという資料が多かったためです。ところが、専門家に調べてもらったところ、この成虫はコナラシギゾウムシではなく、クリシギゾウムシであることがわかりました*1
コナラシギゾウムシが、やや幅広の体型で体に斑紋があるのに対し、クリシギゾウムシは細長く、体に帯状の模様があるのが特徴です*2。『クリシギゾウムシは北海道には分布しない』と書いてある図鑑や資料もありますが、最近は札幌でも見つかっているそうです。
 8月末までに合計5匹の成虫を確認しましたが、その後はいっこうに羽化するようすがありません。しかし、びんの壁面近くにはまだたくさんのドングリ虫が見えています。シギゾウムシは、土にもぐった翌年にすべてが羽化するのではなく、2年後、3年後にようやく地上へ出てくるものもいます。これほど長期にわたって幼虫期を過ごす理由や羽化のきっかけについては、まだわかっていない部分も多いようです。羽化の時期をずらすのは、ドングリが不作の年に一斉に羽化して共倒れになることなく、子孫を確実に残すための知恵なのかもしれません。


 さて、計算では、まだ17匹のドングリ虫がびんの中にいるはずです。もう一冬、ここで過ごすつもりなのでしょうか? 
続きは、また来年の秋にご報告します。




(文・写真 原林 滋子)

アクセス
月寒公園 豊平区美園10〜12条7〜8丁目、月寒西2〜3条4丁目
地下鉄東豊線美園駅」下車,徒歩10分
地下鉄南北線「平岸駅」又は東西線白石駅」から中央バス白石平岸線[白30]乗車,「美園11条7丁目」下車,徒歩5分  など

取材協力
札幌科学技術専門学校 自然環境学


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*1:クリシギゾウムシはクリだけでなく、コナラも餌とし、産卵する。

*2:シギゾウムシの触角は途中で折れ曲がったようになっている。根元に近い方と折れ曲がった先にある”節”の長さの比が種類によって決まっているため、ここも見る必要がある。

地震予報士の誕生は何時〜FM三角山〜




 今回ご紹介する場所は、コミュニティーFM放送局のさっぽろにしエフエムほうそう、通称三角山放送局(FM三角山)です。FM三角山では、CoSTEPが制作している「かがく探検隊コーステップ」を毎週土曜日18時から放送していますので、読者のみなさんもぜひ一度聴いてみて下さい。周波数は76.2MHzです。1998年に開局し、現在はJR琴似駅の駅前にある、洒落たレンガ造りの建物から番組を送り出しています。
 図1(FM三角山: FM三角山提供)


 さて今回は、FM三角山のようなローカルで小出力なFM放送局を利用して、北海道内で地震予知の研究が行われているというお話です。残念ながらFM三角山の電波はこの研究には利用されていませんが、他の地域のコミュニティーFM放送が利用されています。


 日本でこれまで地震予知研究と言うと、地震そのものの性質や地下の構造など、直接地震を予知する、というよりはもっと基礎的な研究が主として行われてきました。これは、地震や地下の構造について我々の知っている情報がまだまだ少ないという現実があるからです。ですから公式に地震をはっきりと予知したことはありません。


 地震の直前に地面が変形するのではないか、と昔から考えられており、特に東海地方では地震直前の地面の変形(地面の変形を地殻変動と呼び、大きな地震の後には数10cm以上変形することもあります)を捉えようと集中して観測が行われています。他の地方でも地殻変動の観測は行われています。しかし、この地震の前に起こると言われていた地殻変動も、地震が起こる前に必ず観測されているわけではありません。かなり大きな地震が起こっても、何の変化も観測されないことが少なくありません。その他にも動物の異常行動などが前兆現象ではないかと話題になることもありますが、科学的根拠は何もありません。地震の後から振り返って、あれは前兆現象だったのではないか、と言っても地震の予知や災害の軽減には何の役にも立ちません。


 ここで、有益な地震予知について考えてみましょう。地震予知が実際に役立つためには、最低3つの要素を予知できなければなりません。その要素とは、地震の起こる「場所」と「時間」、そして地震の「大きさ」です。例えば、「今後1年以内に北海道内に地震が起きる」と言えば100%当たります。しかし、これでは地震予知に成功したとは言えません。北海道内という範囲が広すぎますし、1年以内という期間も長すぎます。また、体に感じないようなごく小さな地震は毎日のように起きているので、地震の大きさに触れず地震が起きる、と言うだけでは何の意味もないのです。


 さらに、地震予知が実用化されるためには、再現性や確実性も確かめなければなりません。再現性とは、誰が観測しても同じような現象が繰り返し観測されるかどうかで、科学的検証の基本になるものです。またここでの確実性とは、地震の前にはある現象が必ず起こるかどうかです。注目している現象が起こらないからと、安心している時に大きな地震が起こってしまうと、油断していた分かえって被害が大きくなる可能性があります。このように有効な地震予知を実現させるまでには、いくつものハードルが待ち構えています。


 それではコミュニティーFM放送をどのように利用し地震予知を研究しているかをご紹介しましょう。


 その前に、ここで地震の大きさと揺れの大きさについて確認しましょう。地震の大きさは「マグニチュード(M)」で表されます。阪神・淡路大震災を起こした地震はM7.3、北海道南西沖地震はM7.8です。マグニチュードは2違うと1000倍エネルギーが違います。ですからM7の地震とM8の地震では規模が30倍以上違うことになります。南西沖地震阪神地震より5倍以上大きかったのです。一方、揺れの大きさは「震度」で表されます。いくら地震が大きくても遥か遠くで起きれば揺れはほとんどないこともあります。逆にそれほど大規模な地震ではなくとも、近くで起きれば揺れは大きくなります。また震度はその土地の地盤によっても大きく異なります。埋立地などでは通常震度は大きくなります。


 さて北海道大学では、道内に図2のような電波観測施設を6ヶ所設置しています(2006年3月時点)。この施設で毎日いくつかのコミュニティーFM局の電波を観測し、データを北海道大学に送っています。
 図2(電波観測施設: 森谷研究員提供)


 コミュニティーFM放送の電波出力は弱いので、比較的狭い範囲でしかその放送を聴くことができません。例えば、FM三角山の場合は、札幌市の外ではよほど条件が良くないと聴くことができません。ところが地震の前のある期間には、普段は電波が届かず、放送を聴けないはずの遠くの場所でも放送をキャッチできることがあるのです。ここでは、この普段は捉えられない電波を捉えることを、「電波の異常」と呼ぶことにします。北海道大学の観測点は、普段はその地点で聴けない放送局に周波数を合わせ、じっとその電波が届くのを待っているのです。


 地震の起こる数週間前から約10日前までに、観測地点での震度が大きいほど、長期間、電波の異常が観測されます。観測地点での揺れが大きいほど、早いうちから異常が観測され、異常が終わってから10日程度で地震が起こるということになります。何故地震の前に電波が遠くまで届くのか、残念ながらこのメカニズムはまだはっきりと解明されていません。この研究の歴史も浅く、現象が確かに存在するとはっきりしてきたのが数年前のことなのです。現在は、震源域(地震は地下の断層が動くことによって起こり、その断層がある地上部分を震源域といいます)上空になんらかの電波を反射させるものができるのではないかと考えられています。つまり普段電波の届かない場所に、電波が上空で反射してやってくるのではないか、ということです。


 これまでの観測から、観測点での最大震度と電波の異常が観測される期間について経験式ができてきました。この経験式を利用し、観測地点の震度が予測できるかもしれないのです。


 余談ですが、「直下型地震」と言う言葉は学問の世界では使わない言葉なのですが、都市の直下で大きな地震が起きれば大変な被害が出ることは容易に想像できます。


 今回ご紹介しているFM放送を利用した地震予知の研究では、この震度が予測できるのではないかと考えられています。震度が予測できるということは、遠くて大きな地震が起きるか、近くて小さな地震が起きるかまではわからない、ということです。しかし実際の被害は震度に大きく影響されますから、我々がまず知らなくてはならないのは震度なのです。震度が予測できるということには、大変重要な意味があるのです。


 今回は地方のコミュニティーFM放送を使って地震予知の研究がおこなわれているということを紹介しました。本文では研究紹介として概要のみを記載しました。さらに詳しいことを知りたい方は北海道大学地震火山研究観測センター森谷研究員が書いた解説を見てください。


参考:
http://nanako.sci.hokudai.ac.jp/~moriya//fm.htm
(文:ひるあんどーん)


取材協力:さっぽろにしエフエムほうそう

所在地:札幌市西区八軒1条西1丁目2−5

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コーヒーの香りの向こうには・・・ 〜旧小熊邸〜



もいわ山ロープウェー乗り場の近くに、旧小熊邸が静かにたたずんでいます。
この建物は、北海道帝国大学(現 北海道大学農学部の小熊捍 博士の邸宅を移築・再建したものです。

  • 緑の中に佇む旧小熊邸(2007/4/30 撮影)


小熊博士は、現在の北海道大学理学部の創立時の教授で、動物学を担当されていました。後に理学部長なども歴任され、北海道大学のみならず、日本の遺伝学研究の発展に大きく貢献されたそうです。

現在、この建物は喫茶店として使用されています。
邸内では、素敵な空間の中でおいしいコーヒーを楽しむことができます。

  • ゆっくりとコーヒーを楽しむ人たち(2007/4/30 撮影)


さて、みなさんが楽しんでいるこのコーヒー。
小熊邸でいただくときのように、リラックスしたい時にも飲みますが、
「眠いときに飲むと目が覚める」とも言われています。
コーヒーを飲むと、どのような作用があるのでしょうか。


■カフェインは「ブロックする」分子


コーヒー豆に含まれている成分の中で、眠気を覚ます覚醒作用をもたらすのは、「カフェイン」と呼ばれる物質です。


私達の体の中で働く物質の中に、アデノシンというものがあります。
アデノシンは、これを認識する「アデノシン受容体」と結合することで、様々な作用を起こします。
カフェインは、このアデノシン受容体に結合することができます。
受容体に結合はできますが、その後の反応を起こす引き金にはなりえません。
そして、カフェインが結合すると、そのあとにアデノシンが結合することができなくなります。
結果として、カフェインはアデノシンの働きをブロックすることになります。


  • カフェインはアデノシン受容体に結合することができる


アデノシンが神経に作用すると、リラックス効果・疲労感をもたらします。
カフェインはこれをブロックすることにより、リラックス=眠気をブロックするのです。


■素敵なコーヒータイムを


  • 旧小熊邸でいただくコーヒー(2007/4/30 撮影)

コーヒーには窓の外が映っていました。


カフェインの作用ではありませんが、
コーヒーの香りは気持ちを落ち着けてくれますね。
旧小熊邸でいただくコーヒーは、そこで生活した人たちのことを思い起こさせてくれました。
これから緑の美しい季節です。
室内から窓の外を眺めるのもよし、テラスで森の空気と共にコーヒーを味わうもよし。
素敵なコーヒータイムを満喫しに、もいわ山まで出かけてみませんか。


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 札幌に春を告げる水しぶき〜大通公園西三丁目〜




  雪に埋もれていた大通公園もすっかり雪がなくなりました。札幌市中心部の東西に延びるこの公園内では、ベンチ、花壇、そして噴水と春を迎える準備が急ピッチで進められています。大通り公園には、壁泉一カ所と噴水五カ所があります。壁泉とは、ビルや庭などの壁面を水が流れ落ちる滝のようなものをいいます。西二丁目にある壁泉は長さ33メートル高さ1.8メートルあり、清涼感のある「せせらぎの水音」を再現しています。また噴水は、大通り西三丁目、四丁目、七丁目、十一丁目、十二丁目の5箇所にあります。


    
(大通り西二丁目の壁泉 2007/4/29撮影)              (大通り西三丁目の噴水 2007/4/29撮影)



大通公園で一番古い噴水は】
  大通り西三丁目には、一番最初に噴水が取り付けられました。最初に取り付けられたのは、昭和37年で、地元銀行の記念事業の一環として札幌市に寄贈されました。その後、大通公園リフレッシュ工事(平成元年〜6年)に新しい噴水が取り付けられて、現在に至っています。よく見ていると、噴水がさまざまな形に変化していくことがわかります。静水面に始まり、噴き上げ→水の浅海→水柱の立ち上がり(6メートル)→水柱の分割→水柱の立ち上がり(最大10メートル、通常8メートル)→水柱の下降、そして静水面にもどるという流れになっています。この1サイクルに約15分かかります。これを145本のノズルから噴き上げる水によって作り上げられています。水はポンプでくみ上げられています。



【噴水とは】
  では、噴水とは一体どんなものでしょうか。広い意味では、池や湖などに作られた水を噴出する装置のことをいいます。また、噴出する水そのものを示すこともあります。しかし、いずれも人工的なものを示し、滝や間欠泉のような自然のものは含まれません。鑑賞用噴水の最古のものは、紀元前1000年ころとも言われていますが定かではありません。紀元前百年ころには、アレキサンドリアのヘロンが「サイフォンの原理」を応用して「ヘロンの噴水」を考案したと言われています。これには、動力は使われていません。では、どのようにして、噴水は高く上がるのでしょうか。
  今回の記事では、この「サイフォンの原理」と「ヘロンの噴水」について紹介します。


【サイフォンの原理】
  まずは、サイフォンの原理を考えてみましょう。サイフォンというと、コーヒーメーカーのサイフォン式を思い浮かべる人が多いでしょう。また、もともとの意味は、低い位置に液体を移すU字管そのものを示します。 しかし広い範囲で考えると大きく分けて三つの意味があります。
(1)コーヒーメーカーとしてのサイフォン
(2)液体(この場合は水)を一度高い位置に上げてから低い位置に移すしくみ
(3)(2)の逆で、一度低い位置に下げてから高い位置に移すしくみ
  いずれもサイフォンなのですが、実はその原理は違います。それぞれについて詳しくみてみましょう。


●(1)コーヒーメーカーとしてのサイフォン●
  サイフォン式コーヒーメーカーは、フィルターを載せてその上にコーヒー粉を載せるロートと、最初に水を入れて最終的にコーヒーの受け容器となるフラスコの大きく二つに分けられます。フラスコを下から熱することで、水が沸騰して気化して膨張し、フラスコ内の気圧が上がります。すると水(湯)は、より気圧の低いロートへと流れていきます。その後フラスコを暖めるのを止めると、フラスコが冷めてロート内よりも気圧がさがるため、コーヒーが落ちてきます。
  つまり、加熱と非加熱を繰り返すことによって、上下の気圧に変化が生まれて、水は気圧の高いほうから低いほうへと移動するのです。



  また、(2)(3)のサイフォンは、下のような図で表すことが出来ます。水の移動は、水面にかかる圧力やエネルギーの差によって決まります。


●(2)高い位置を通過するサイフォン●

  図のように、水が十分に詰まった管を使って、高い場所にある水を一端高い位置にあげてから低い場所に移すしくみをサイフォンといいます。身の回りの現象としては、灯油を別の容器に移し替えたり、浴槽や水槽の水をホースを使って、ポンプなどを使わずに別の容器に移すことなどがあります。
では、なぜ水はポンプなどが無くても、流れ出てくるのでしょうか。これは、それぞれにかかる圧力の差が問題になります。
  図に示すように、Aの水面から管Bまでの高さをh1(m)とし、U字管の出口の方Cを、入口側の液面より高さh2(m)低くします。また、大気圧をP0とし、水の密度をρとし、重力をgとします。そして、入口側Aの水面を高さゼロと考えます。つまり、基準面と考えます。そうすると、A,CのU字管にかかる圧力は、次のようになります。
P 1= P0+ρgh1
P 2= P0+ρgh1- ρgh2
  つまり、P2はP1よりρgh2だけ位置エネルギー*1分の圧力が低いため、水は、AからCに流れるのです。


●(3)低い位置を通過するサイフォン(逆サイフォン)●
  逆サイフォンと呼ばれるこのしくみは、高い場所にある水を一旦低い位置に下げてから最初よりも低い場所に移す仕組みです。原理は同じで、U字管が逆向きになっていると考えることができます。このしくみは、昔の用水路などに利用されており、金沢の兼六園から城への用水路などは、この逆サイフォンの原理が使用されています。
  基準面を先ほどと同じくAの水面とします。そうすると、Aの水面からU字管の一番深いところまでの高さをh1(m)とし、AとCの水面の差をh2(m)とします。(2)と同じようにことが出来ますが、基準点がAの水面なので、
P 1= P0
Cでは、水が流れ出てくるAと同じ高さまで、水面が上昇することができます。



【そして、噴水の原理へ】
  この逆サイフォンの原理を応用して考案されたのが、「ヘロンの噴水」です。
  へロンの噴水は、3個の容器と3本の管によって構成されています。容器は、上から受け皿と密閉容器の容器(A)と容器(B)、そして、水通し管、空気通し管、噴水管の3本です。使い方は、次のようになります。
  まず、容器(A)に水を入れ、容器(B)は空気のみにしておきます。その後、受け皿に水を注ぎいれると、噴水管から水が噴出し、噴水が始まります。ここで、受け皿に水を注ぎいれるのをやめても、噴水は止まりません。それは、噴水管から出た水は、受け皿に落ちるので、それが水を注ぎいれるのと同じ状況を生むからです。この状態で、容器(A)の水が無くなるまで、噴水は継続します。
  この時、装置の中では、どのようなことが起きているのでしょうか。基本的には、「低い位置を通過するサイフォン」と同じしくみです。力(圧力や位置エネルギー)の伝わり方は、図の赤い矢印で示しています。
受け皿から水通し管を通って容器(B)に水が流れ込むと、容器(B)の空気は、空気通し管を通って、容器(A)の水面に圧力をかけます。そのため水は噴水管を通って、外に噴き出すのです。噴き出した水は、受け皿にたまり、また容器(B)に流れていきます。
また、噴水管と水通し管の内径を変えることで、噴水の高さや継続時間を変化させることができます。




【今年も始まる】
  今年も大通公園の噴水の通水が始まりました。現代の噴水は、大掛かりで水柱の高さも高く、モーターなどを動力としています。また大通西三丁目と四丁目では、水中照明による夜間照明もあります。循環する水の衛生面も考慮されており、塩素自動注入機も導入されるなど、様々なシステムが導入されています。
  次々に変化する水しぶきの様子を見ることは、子どもだけではなく大人もわくわくするものです。「動力のいらない『ヘロンの噴水』だったらどのくらいの規模の仕掛けがあれば同様の高さの噴水を楽しむことが出来るのか。」噴水のそばのベンチに腰を下ろして考えてみるのも面白いかもしれません。

大通公園西3丁目 2007/4/29撮影)



(文・図・写真: かみむらあきこ)



 【参考資料】   
 -ガリレオ工房の身近な道具で大実験        大月書店
 -のぞいてみよう!科学の世界            札幌市青少年科学館
 -高等学校物理Ⅰ                     啓林館
 -噴水     Wikipedia
 -サイフォン  Wikipedia



 【取材協力】
  札幌市大通公園管理事務所 様
                    取材のご協力ありがとうございました。

 



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*1:物理の分野では、エネルギーとは仕事をすることの出来る能力のことをいいますが、その仕事とは「仕事=力の大きさX動いた距離」で表すことができます。位置エネルギーとは、高いところにある物が持つエネルギーのことをいいます。物はある高さがあってもそのままでは重力によって下に落ちてしまいますが、反対方向に重力と同じだけの力で支えることでその高さにとどまっていることが出来ます。その力は、物の質量と重力で表されるため、位置エネルギーは「位置エネルギー(仕事)=質量X重力X高さ」で表すことができます。

 開拓使の星、札幌の星 〜札幌 時計台〜



札幌の古い建物を訪ねて歩いていると、赤い星のマークがついた建物に出会うことがあります。札幌時計台もその一つです。



同じ星のマークは、旧北海道庁(赤レンガ庁舎)や豊平館サッポロファクトリーにも見られます。これらの建物はすべて開拓使(明治の初めに北海道の開拓を進めた官庁)が建造したという共通点があります。この赤い星は北極星を表していて、開拓使のシンボルマークでした。


星型は正五角形と5つの二等辺三角形を組み合わせた図形です。この星型は数学的にも特別な性質を持っていることが知られています。
例えば、星型の頂点をつくる5つの二等辺三角形の底辺と、残りの二つの辺の長さの比は、黄金比*1と呼ばれる特別な値になります。
また、正五角形の頂点の対角線をとるとその中に星型ができます。さらにその星型の中にある正五角形の頂点の対角線をとると、また星型ができて、無限にこれを繰り返すことができます。
このときできる辺を長い順からたどってゆくと、長い辺とその次に長い辺の比が常に黄金比となります。


  • 正五角形と星型の関係:AとBの比、BとC、CとDの比・・・が常に黄金比となる


5つの頂点を共に持つ、星型と正五角形は黄金比という特別な数で結ばれていて、神秘的な美しさを持っています。


ある日、壁に貼った札幌の地図をぼんやりと見ていたとき、私は驚くべきことに気がつきました。


赤い星の付いた、開拓使が開いた5つの建物(札幌駅、時計台、旧北海道庁(赤レンガ庁舎)、豊平館(建設当時は現在の札幌市民会館の位置にありました)、サッポロファクトリー開拓使麦酒醸造所))が、なぜか美しい星形に配置されていることに気づいたのです。



  • 赤い星が付いた開拓使の建物は星形に配置されていた!


なぜ、開拓使は赤い星をつけた建物を札幌の街に星形に配置したのでしょうか。


それは、日本に古来から伝わる陰陽道と関係があります。陰陽道では、星形は「五芒星」とよばれ、魔除けの印として伝えられてきました。開拓使は北の地に新しい都を築くにあたり、この街に災難や天災が降り掛かる事がないようにと祈りを込め、赤い魔除けの星をつけた5つの建物を、さらに星形に配置することで札幌の街に結界を張り、二重の魔除けとしたのです。


そして、この「5」という数は、不思議なことに自然の中にもよく見られる特別な数なのです。


例えば、ヒトデや桜の花も、5つの頂点をもつ星型です。人間の指の数も5本です。地球には5つの大陸があります。さらに宇宙へ目を広げると、太陽系の、地球より内側の大きな天体も、太陽、水星、金星、地球、月の5つなのです。


自然のあらゆる場所に「5」という数字が見られる事は、きっと、ある深遠な真理を示しているに違いありません。


すなわち、「5という数字は、万物をつかさどる、宇宙の根本原理と関係している」 ということです。


その証拠に、今日の日付にも「5」が隠れています。


今日は2007年4月1日で、7−2=5、そして4+1=5になるではありませんか!!




エイプリルフールとはいえ、ひどいウソ八百の記事を書いてしまって、ごめんなさい。


上の文章を読んでいて、「へぇー」とか「うんうん」といった感じから、「え?」「あれ?」という感じに変わったところがきっとあると思います。それは、あなたが「ウソ」に気がついた瞬間です。


でも、この記事が何の前置きもなく、いつものように「さっぽろサイエンス観光マップ」の中にまぎれ込んでいたら、あなたはこの「ウソ」に気づくことができたでしょうか。


私たちは毎日様々なメディアからたくさんの情報を受け取っています。誰かの手を経た情報は、情報を送る側の視点で切り取られ、私たちのもとに届きます。このとき、情報の送り手が、情報の受け手(つまり、あなたのことです)をだまそうとして情報をゆがめて伝える事があります。
これが「ウソ」で、単なる「誤り」(間違っているが、だますつもりはないもの)とは異なります。


あなたが信じておきたい話やおいしい話、ネットやテレビや雑誌で見た話や、どこかのえらい人や有名人や科学者がしている話の中にも、あなたをだましてふりまわすための「ウソ」が含まれていることがあります。


上の「ウソ」の記事では、最後の「5は万物の根源となる数である」という、かなり無理のある主張をもっともらしく見せるため、いくつか「演出」をおこないました。


最初の方で述べた、星形と五角形の辺の間に黄金比の関係が見られることは事実です*2
一見、科学の解説のようですが、この話をした本当の目的は、「ある日、壁に貼った〜」以降の「ウソ」に、あたかも科学的な裏付け(と神秘性)がありそうな雰囲気を漂わせることです。ここまでの説明ではウソはついていませんが、「特別」とか、「神秘的な美しさ」とか、主観的な言葉をあえて入れています。
書き手の主観と、客観的な事実とは、しっかり切り分けて読まないとだまされやすくなります。


開拓使の建物が星形に配置されている」のは「ウソ」です。
この「ウソ」を強調するため、星形に合わせて建物を置いた、「ウソ」の地図を作りました。
目に直接飛び込んでくる図や写真や映像は、直感に強く訴えるため、読み手が自ら考える事をおろそかにさせる力があります。
実際には、建物は星形に並んでいないことが地図を調べるとすぐにわかります(下の矢印のアイコンをクリックすると本物の地図と建物の配置が見られます)。
もちろん、開拓使は星形を都市や建物の魔除けとして使っていたわけでもありません。



  • 上の矢印をクリックすると建物の本当の配置が見られます

Google Maps Line Saverを使用しました http://blog.zuzara.com/?p=20


「なぜ、開拓使は赤い星をつけた建物を札幌の街に星形に配置したのでしょうか」という問いには、ひっかけがあります。
開拓使の星の付いた建物」と「建物が星形に配置していること」との間には関連が全くないのに、この二つに強い結びつきがあり、「開拓使が赤い星をつけた建物を星形に配置した」ことを、事実のようにあなたに思わせるための問いかけです。
あなたの身近でこのような問いかけがあったときには、その意味をよく考えてみる必要があります。


最後の、自然界に「5」という数がたくさん見られるという話も、語り手の主張をもっともらしく見せるためのこじつけです。
都合の良い事実(この場合はたまたま「5」が含まれる自然の事象*3)を選んできてたくさん並べると、偶然の一致にすぎないことが、まるで共通の原理で結ばれているかのように見えます。
(「5」のかわりに、「6」や「7」でも同じような話を組み立てる事だってできるはずです)


私たちはもっともらしい話をついつい信じてしまいます。そんな自分を、まず注意深く疑ってみることからはじめてみましょう。
情報をまるごと信じてしまう前に、ひと呼吸置いて、ほんのちょっと考えてみる、調べてみるというひと手間をかけてみると、怪しい「ウソ」に気づく瞬間があるかもしれません。
また、上の「ウソ」の記事を読んでもらった時のように、ちょっと疑いながら情報を読み、情報の送り手の真の思惑を考えることも「ウソ」に気づく方法のひとつです。


さて、あなたの眉はまだ濡れたままでしょうか。
私が「ウソ」の記事のあとに書いた事を、もう、うっかり、まるごと信じちゃったりしていませんでしたか?
(もちろん「ウソ」はついていないつもりですが、「誤り」はあるかもしれません)


そう、だれかがついた「ウソ」を見抜くのは、あなたの眼力が最後の頼りなのです。


(文・図・写真:佐藤登志男)

【アクセス】

  • 所在地

札幌時計台 札幌市中央区北1条西2丁目
地下鉄南北線「大通駅」を下車、徒歩3分


【参考リンク】

http://www.cp.cmc.osaka-u.ac.jp/~kikuchi/nisekagaku/index.html

  • 北海道人 北の星ヲメザシテ

http://www.hokkaido-jin.jp/issue/sp/200603/sp_01.html

http://ja.wikipedia.org/wiki/陰陽道
http://ja.wikipedia.org/wiki/五芒星


【参考文献】

  • マーティン・ガードナー 奇妙な論理 II なぜニセ科学に惹かれるのか?所収 「ピラミッドの神秘」 ハヤカワ文庫NF (2003):原著は1952年に出版
  • マリオ・リヴィオ 黄金比はすべてを美しくするか?―最も謎めいた「比率」をめぐる数学物語 早川書房(2005)
  • E.B.ゼックミスタ、J.E.ジョンソン クリティカルシンキング 入門編、応用編 北大路書房(1996)


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*1:1 : (1+√5)/2= 1 : 1.6180・・・

*2:ここで述べた星型と正五角形の黄金比の関係は、その上で述べた、星型の中の二等辺三角形の辺の黄金比の関係と同じことを、実はもう一度言い換えただけです。星形の頂点を作る二等辺三角形と、正五角形の対角線が作る二等辺三角形とは相似の関係になっていることが図を良く見るとわかります

*3:「五大陸」には南極大陸が含まれていませんし、「太陽系で地球より内側」という条件のつけかたも、天文学上の意味を持ちません

今日はエイプリルフールですね。様々なメディアでユーモアにあふれたセンスのよい「ウソ」の記事が書かれていると思います。


今日は番外編として、「さっぽろサイエンス観光マップ」のスタイルで、「ウソ」の記事を私も書いてみようと思いました。
うっかり騙されないように、眉毛につばをたっぷりとつけて読んでみてください。



 都心の雪は、都心で融かす〜都心北融雪槽〜




JR札幌駅北口駅前広場で、「融雪槽等表示板」という看板を見かけたことがある人はいませんか。実は、この付近一帯の地下には、雪を融かすことができる融雪槽があります。都心北融雪槽と呼ばれるもので、平成10年2月から使用されています。常時稼動しているわけではありませんが、運がよければバスや車がほとんどいない夜中に、ダンプトラックによって運び込まれた雪が次々に投雪口に飲み込まれていく様子を見ることが出来るかもしれません。この施設では、一晩で4000立方メートル(大型トラック約280台分)の雪を処理することが出来ます。
では、この雪は、どのようにしてトラックに積み込まれ、駅前広場に運ばれてくるのでしょうか。

(札幌駅北口駅前広場 2007/2/17撮影)

(都心北融雪槽への雪の搬入の様子 写真提供:札幌市建設局雪対策室)


普段私たちは、車道や歩道が雪で覆われると交通の妨げになるので、雪を邪魔にならない場所に寄せます。「雪かき」「雪はね」「除雪」など様々な表現の仕方があります。しかし、トラックに雪を積んで運ぶことは、「除雪」とは言いません。それは、「排雪」といいます。「除雪」と「排雪」は、違う作業のことをいいます。


【除雪とは】
「除雪」とは、先に説明したように道路の雪をかき分けて道路わきに寄せる作業のことをいいます。
札幌市の場合市が除雪するのは、除雪機械が作業可能な幅の道路を対象としています。そして、目安として雪が10cm以上積もったときに深夜0:00〜朝 7:00までに除雪を行うことになっています。もし札幌市全域に雪が降れば、市内一斉に除雪を行うことになります。一晩で除雪される距離は約5200kmとなり、札幌から鹿児島まで行って、函館まで戻ってくる距離に相当します。除雪は、写真のような除雪ドーザー(タイヤショベル)で行います。一台で一晩(約6時間)で約10km進むことができます。

除雪ドーザー(タイヤショベル) 写真提供:札幌開発建設部 札幌道路事務所)


【排雪とは】
「排雪」は、「除雪」によって積み上げられた雪山を雪たい積場や、融雪施設に運ぶことをいいます。こちらは、多くの機械と作業者と費用がかかります。そのため市が行う範囲は、幹線道路や一部の通学路に限定されています。*1排雪では、グレーダー、バックホー、除雪ドーザー(タイヤショベル)、ロータリー除雪車、ダンプトラックという5種類の機械が必要です。まずは、バックホー、除雪ドーザーによって、道路脇に積まれて硬くなっている雪山を崩し、ロータリー除雪車が作業しやすいように整えます。その後、ロータリー除雪車によって待機しているダンプトラックの荷台に、吹き付けるようにして雪が次々と積み込まれていきます。一台のトラックいっぱいに雪が積み込まれるための所要時間は、たった15〜30秒です。しかも、ロータリー除雪車は、スクリュー部分に雪を巻き込みながら少しずつ前に進みます。トラックも除雪車に合わせて、雪をきちんと積み込めるように同じ速度で前に進んでいきます。それは、絶妙なタイミングです。その後をグレーダーが道路の表面の氷や雪を削り取りながら、整地していきます。流れ作業で進んでいく排雪作業ですが、一日で約2kmしか進むことが出来ません。

(除雪用機械とはたらき 写真提供:札幌開発建設部 札幌道路事務所)


【トラックに積み込まれた雪のゆくえ】
この、トラックに積み込まれた雪が、融雪槽に運ばれてきた雪です。しかし、全てが融雪槽に運ばれるわけではありません。大きく分けて「雪たい積場」と「融雪施設」の2種類の場所に運ばれます。


● 雪たい積場とは
たい積場とは、運んだ雪を積み上げておく場所です。ここで自然に融けるのを待ちます。札幌市では、82ヵ所(平成18年度)の雪たい積場を設置しています。ここに運ばれる雪は年々増え続けていて、現在ではひとシーズンで、札幌ドーム約14杯分にもなります。
しかし、雪たい積場は、広い土地であればどこでも作れるわけではありません。なぜなら、河川のそばなど雪が融けたときに水の処理が出来る場所であることや、トラックなどの騒音など住民の生活への配慮等も必要だからです。そのため、年々場所は郊外化しており、平成16年度からは隣接する市や町にも広がっています。そのため、札幌駅から10㎞以上離れているたい積場は30年前には約7%だったのが、今ではたい積場全体の45%以上になっています。その結果、トラックが運搬する距離は年々長くなり、作業効率の低下、道路の渋滞、排気ガスの増加など様々な問題が起こっています。



● 融雪施設とは
そこで、たい積場が少ない都心部での処理施設として作られたのが、現在9ヶ所ある融雪施設です。融雪施設とは、大きな水槽を作って水を入れて、そこに雪を運び、その中の水で融かして、下水道や川に流す施設です。雪を融かすには、高温は必要ありません。下水処理水や下水の水温は、13〜15℃ありますから、雪を融かすには充分な温度です。ですから、隣接する下水処理場の処理水や下水道の水をそのまま利用することが出来ます。また、清掃工場のごみ焼却炉の焼却熱(排熱)を利用して、水槽の水を温めている施設もあります。*2


では、最初に紹介した札幌駅北口広場の都心北融雪槽はどうでしょうか。近くには、下水処理場もごみ焼却施設もありません。そのためここでは、併設されている地下施設の冷暖房プラントの熱を使って、水槽の水を温め、雪を融かしています。他の施設と違い、排水や排熱という未利用エネルギーを利用しているわけではなく、エネルギーを購入しているのです。経費はかかりますが、処理対象は札幌駅を中心とした市街地のため、排雪用ダンプトラックの移動距離と移動時間は大幅に短縮されます。また、比較的早く排雪が進むめに道路の幅が狭くなるなどによる渋滞が避けられるなどのメリットのある施設です。都心北融雪槽は、図のようなしくみになっています。プラントの熱で暖められた融雪槽内の水によって融かされた雪は、隣の沈殿槽に流れそこで沈殿物が取り除かれます。上澄み液が次の排水槽を通り、最後は直接下水道に流されます。また、融雪の必要ない夏期には、災害時の防火用水槽として利用されています。

(図:都心北融雪槽の模式図)



【冬の生活も便利になったけれど】

札幌で機械による除雪が始まったのは、第二次世界大戦後の1946年です。当時進駐していたアメリカ軍からブルドーザーなどの除雪機械を借りて行ったのが始まりです。それでも、排雪は人の力でトラックに積み込んでいました。1958年にはロータリー除雪車によりトラックへの積み込みも人の手から機械へと移っていきました。そして、現在のような除雪体制が強化されるようになったのは、1967年です。それは、前年に冬季オリンピック開催地に札幌が決定したからです。当時、除雪作業が大幅に見直され、除雪車を400台用意したり、きめ細かい除雪体制を整えたりして、札幌冬季オリンピックを迎えました。
まだまだ充分とは言えませんが、除排雪体制は非常に整ってきました。そのおかげで都心部では、冬でも雪道の不便さを感じなくても過ごせるようになってきています。しかし、札幌市だけでもひとシーズンで、約145億円の雪対策予算が使われています。また、たくさんのトラックや機械を使用しなくてはいけないため、大気汚染や交通渋滞などの問題が生じています。さらにそれを解消するために、融雪槽の建設が必要となるなど、様々な問題の上に成り立った便利さであることを、忘れないようにしたいものです。



(文・図・写真: かみむらあきこ)

  • 【住所】   札幌市北区北7条西3丁目(JR札幌駅北口駅前広場)
  • 【アクセス】 JR札幌駅北口から 徒歩1分

 【参考資料】   
 -さっぽろ雪の絵本        札幌市建設局管理部雪対策室
 -さっぽろの融雪槽        札幌市建設局管理部雪対策室
 -ウエブシティさっぽろ 札幌の雪対策
 -札幌開発建設部 札幌道路事務所ホームページ


 【取材協力と写真提供】
  札幌市建設局 雪対策室計画課 様
  北海道開発建設部 札幌道路事務所 様

  取材および写真の提供のご協力ありがとうございました。

 

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*1:それ以外のいわゆる生活道路については、地域単位で排雪を行うことができます。札幌市では、「パートナーシップ排雪制度」といわれる制度があります。これは、地域単位の生活道路の排雪を行うもので、市民と市の双方が費用を出して、業者を含めた三者が協力しながら行うものです。

*2:現在札幌市には、下水処理水を利用する施設が4箇所、下水を利用する施設が3箇所、清掃工場のごみ焼却熱を利用する施設が1箇所あります。