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March 26, 2011 -Sat- 停電夜怪談

計画停電の夜に


停電っていうと、こんな話があるんですよ。


わたしの住んでるマンションが計画停電のエリアに入っちゃいましてね、

いざ停電になると家の中だけじゃなくて外も真っ暗で。

なにしろ家の明かりもオフィスの明かりも街灯も自動販売機

全部消えちゃうんですから


しかもそのエリアのほとんど真ん中へんだもんだから、

エリアの外の停電じゃない地域の明かりもまったく見えてこない。

都心部高層ビルの窓の明かりぐらいですよ、見えるのは。

それだって節電の協力ということで、かなり少なくなりましたしね。


大きな通りなら車が走ってますから、まだ車のライトがあったりするんですが、

住宅地の中に入っちゃうとそうしょっちゅう車が走ってるもんでもない。

ともかく真っ暗なんですよ。


その日も会社仕事してたら、夕方のニュースでわたしんとこのエリアで

計画停電やるって出たもんですからね、これはもう早く帰ろうと。


いちおう懐中電灯はいつも持ってたんです。計画停電やるって決まって

買ったんですよ。マグライトっていうんですか、こんな細身のやつ。

カバンの中に入れて持ち歩くのに、でっかいライトじゃ邪魔になりますからね、

小さくて、でもそれなりに明るいのを買ったんです。


ただ、いくら明るいったってせいぜい足元照らすだけですから、

真っ暗な中をその小さな明かりだけを頼りにとぼとぼ歩いて帰るなんて

心細いじゃないですか。だもんで明るいうちに、停電になる前に家に帰りたい。


部屋の中に入っちゃえば、真っ暗ったって安心は安心ですからね。

ローソクも買っておいたし。


社長のところに行って・・・社長ったって実はわたしの友人なんですよ。

彼と二人でつくった会社でね、登記するのに代表者がいなきゃならなくて、

どっちがなったっておんなじだからジャンケンで決めようぜと。

で、わたしが勝って、じゃあお前が社長、おれはヒラ社員だと。


その社長のところへ行って、これこれで今日はもう帰るからって。

おお、そりゃ大変だ、とっとと帰れと。そのかわり明日は早く出てきて

残りの仕事を午前中に片付けておいてくれよ、と言うんで、

わたしも分かったってそそくさと会社を出ましてね。


駅へ向かったんですが、やっぱり停電になるっていうんで

早く帰りたい人たちでごった返してるんですよ。

ホームに入るどころか、すでに入場制限されてて、

改札を通るために並ばなくちゃならないような状態。


おまけに電車も節電に協力しなくちゃならないっていうんで

間引き運転してるもんだから、並んでてもなかなか普段のようには

電車が来ない、電車に乗れないわけですよ。


そうこうするうちにどんどん時間が過ぎていって、

おいおい、これじゃあもう停電前に家に帰れないぞ、っていう時間に

なっちゃったんだけど、だからってまた会社に戻って仕事したくないし、

しょうがない、真っ暗な中、懐中電灯で帰るかとあきらめてね。


すし詰めの電車に乗ってガタンガターン、ガタンガターンって

揺られていって、電車を降りて駅を出たらもう、真っ暗ですよ。


やれやれと思いながらカバンから懐中電灯を出して、

こう片手に持って地面を照らしながらね、

黄色い小さな丸い明かりを頼りに歩きだしました。


それでも最初のうちは駅に通じる大きな道路で車もそこそこ走ってるし、

わたしと同じように懐中電灯を持って歩いてるひともたくさんいて。

そのひとたちのシルエットがね、車が通り過ぎるたんびに

ライトに照らしだされてサーッ、サーッと闇の中に現れては消えるわけですよ。


だけど、その通りから外れて住宅地のほうへ向かうと、

たくさんいた人もひとり減りふたり減りしていって、

もうわたしの周りには、ほとんど誰もいない。


時折、前のほうとか横のほうで黄色い丸い明かりが地面の上をちらちら、

ちらちらっと動いていて、ああ、あそこに人がいるんだなと分かる。

だけどその明かりの主は全然見えない。


その明かりも、たぶんそのひとの家がそこにあるんでしょう、

闇の中にすっすっと、ひとつずつ消えていく。


これで月が出てれば、ずいぶん様子も違うんですが、

あいくその晩は厚い雲で、とうとうわたしひとりになっちゃった。


あーあ、と思いながらとぼとぼ歩いていてね、

ふっと気づくと前のほう、20メートルぐらいですかね、

女の人がやっぱりとぼとぼと歩いてるのに気がついた。


20代かばから30歳ぐらいですかね、白っぽい服で

髪はこう、肩よりちょっと長いくらいの。

一見、会社帰りのOL風の女の人がうつむき加減で歩いてる。


だけど彼女ね、明かりを持ってないっぽいんですよ。

地面を照らす黄色い丸い明かりがない。真っ暗な中をとぼとぼと歩いてる。


懐中電灯を忘れちゃったんだなと思ってね、どうやらわたしと

同じ方向へ向かってるようだし、わたしもひとりで歩くのは

心細いんで、彼女がどこまで行くのか分からないけど

途中まででも明かりを貸してあげようと思って。


まあ、多少の下心のようなものがあったことも確かですが、

彼女に追いつくために足を速めようと一歩、踏み出してふと気がついた。


・・・なんで「アレ」が、そういう年恰好の女の人だって分かるんだ?


あたり、真っ暗なんですよ。街灯も、家の玄関の常夜灯も、

窓から漏れる明かりすらない。懐中電灯を持ってるひとだって

男か女かさえ分からないって状態ですよ。


かなり前を歩いている「アレ」は懐中電灯も持ってないんですよ。

だけど「30前の髪の長い女のひと」だって分かる。


なんでだ? って思った瞬間、ぞーっとしてね、踏み出した足が止まっちゃった。


ソレはなおも前のほうをとぼとぼ歩いてる・・・ように見える。

わたしが帰る方向もそっちなんだ。


回り道をしようにも、明るいんならともかく真っ暗でしょ。

くるっと回ると自分がどっち向いてんだかも分からないんだから、

普段歩きなれた道を懐中電灯の明かりを頼りに歩くのでせいいっぱいですよ。


うわーっどうしよう、と思ってね。こうなったらもう早く帰りたい。

だけど家のほうへ向かえばアレが前にいる。

へたしたら追いついちゃうかもしれないし、ことによると

こっちに気づいて向こうから近づいてきやしないだろうか、

なんてことまで想像してもう、動けないわけですよ。


帰りたいーっ動けないーっどうしようーっ、て思ってたら

ソレがすっと消えた。あれ、と思ってじっと目を凝らすんだけど、

やっぱりいない。


消えたー、よかったーと思って、だけどまた現れるかもしれないと

思ってそのままそこに、5分か10分か15分かよく分からないけども、

それなりの時間そこにじっと立ってて、それでも見えてこないんで、

もう意を決してね、ほんとに決死の覚悟ですよ、また歩き始めた。


まわりをきょろきょろしながらね。きょろきょろしたって

何も見えないんですけどね、真っ暗で。


で、だいたいあそこらへんでソイツが消えたな、ってところまできて、

そこからはわたしの部屋までせいぜい200メートルぐらいで

角をひとつ曲がればあとは真っ直ぐだし、そこを過ぎたら

とにかく走っていこうと思いながら、そこまで行くと・・・


ソイツがすっと目の前に現れて、こっちを真っ直ぐ見て細い声で


「アタシを・・・殺したでしょ?」


って言って、ふっと消えたんですよ。


ぐっとからだが固まってね、声も出せなくて。

たぶん半分気を失ってたんでしょうね。


どれぐらい、そのままそこに固まってたのか分かりませんが、

気がついたらあたりは明るくなってて。停電が終わってました。

わたしが立ったまま気を失ったようになってたのは、

古いマンションの入り口の前でした。


翌日、社長にその話を聞かせたら

「ふーん」なんて気のない返事をしてたんですが、

仕事中もなんか調べ物をしてるなと思ったら夕方になって

「たぶん、これじゃないかな」と言って

いろんな事件をまとめたウェブサイトのページを

プリントアウトしたものを見せてくれて。


こまかいところ番地までは出てなかったので、たぶん、

ということなんですが、私がその前に突っ立ってたマンションは

15年前に建てられて、そこの工事をやってる時期に、

帰宅途中のOLが襲われて基礎工事の穴に遺棄されていたのが

発見されたということです。


きっと、それから彼女は駅から自宅までの道のりを、

家に帰り着けないまま延々と歩き続けてるんでしょうねえ。


それからしばらくは、夜停電するぞっていうときには

会社に泊まってたんですが、結局会社の近くに引っ越しました。


なぜかって?


あのときは真っ暗な中でソレだけが見えたから、

アレは生きてる人間じゃないって分かりましたけど、

もし明るいときにも見えてるんだとしたら、

まわりの生きてる人間と区別がつかないじゃないですか


目の前を歩いてる女の人がソレかもしれない、と思うとね・・・

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