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2004/08/22

Vermilion::text F822 トコナツ

 夏は終わらない。

 冬はもう来ない。

 まるでコロッセオのようなその建造物は、外壁を蔦に覆われていた。緑の闘技場。中からは熱狂の声が聞こえてくる。だが、そこに殺戮に対する熱狂は無い。そこなるのは純粋な勝利への願いと、そして、心の奥底で敗北と涙という悲劇を望む心。

「そろそろ終わりにしないか?」

 朱色の塔の中で、永遠に繰り広げられる夏の祭典。

 そこでは、これまでにいくつものドラマが繰り広げられてきた。コロッセオの形を模した、全円型劇場大山脈の如きスタンドからは声援と歓声が沸き、青い空と白い雲が空一面に横たわる異空間。

 その劇場の真ん中、小高く土を盛り上げて作られた丘の上に、まだ顔に幼さを残す少年たちが集まっている。

「そろそろ終わりにしないか?」

 そう、二度言ったのは、軽甲冑と格子兜に身を包み、手には一回り大きな手袋を身につけた少年だ。背には〈二〉の数字を背負っている。

「何言ってんだよ」

 背に〈一〉の数字を背負った少年が、食いかかる。少年は、ついさっきまで小高い丘の上で、独り、君臨していた主人公なのだ。

「最後のイニングまで、全力を尽くさなきゃ!」

 周りの少年たちの表情は、暗い。

「お前だって、気づいてるんだろ。これが……」

「言うなっ!」

 マウンドの上に、険悪な空気が広がる。

「言うよ。言わなきゃ始まんないだろ」

「始まってる! もう、始まって、最後まで来てんだろ!」

 少年二人、その間には激しい心の応酬がある。

 マウンドの向こう、バットを構えて振るう、異装の少年の姿は、どこか虚ろだ。

「そうやって終わりから逃げてたら、いつまでたったって、始まらないだろ」

 少年は押し黙ってしまう。

「初めて新チームで勝った時、マジで泣くかと思ったよな」

「実際泣いたよ」

「オレがレギュラー取られた時は、お前、自分のことみたいに一緒に悩んでくれたよな」

「オレが控えになったときに、練習付き合ってくれただろ」

「そして、あと一球だったのに四番に打たれて」

「打たれてねぇっ!」

 劇場のバックステージ、そこにそびえる掲示板には、四番目の男が劇場に上がることを示す明かりが点っている。

「……眩しいよなぁ、空」

 少年が、空を指差す。

 朱色の塔の中にあって、まるで夏の残り香が留まっているかのように、夏色が輝いている。

「さあ、行こうぜ、相棒!」

 空が輝いている。

 白球が空に吸い込まれていく。

 それがラストシーン。

 そして、サイレンが鳴り響く。

 それは閉幕のベル。そして、開幕のベル。

 夏が終わる。

 秋が過ぎて、冬が来る。

 そして、春が巡れば、また夏が来る。

 その夏はきっと、あの夏ではないけれど。

 その輝きは、今へと続いている。

 だから――

 あの夏を決して忘れない。

 生まれては消えるトコナツの城。

 後悔の数だけ生まれ、再起の数だけ消えゆく、幻の城。

本当は開幕前に書くべきネタだったんだよなあ。つか、イメージソースが冬のネタだってのはどーなんだ。夏と冬の競演、みたいな?