ワニ狩り連絡帳 このページをアンテナに追加 RSSフィード

       

■ 2018-05-21(Mon)

[](11)「プラチナの翳りのように信じがたく美しく」〜宮澤壯佳氏によるライナーノーツ(3) (11)「プラチナの翳りのように信じがたく美しく」〜宮澤壯佳氏によるライナーノーツ(3)を含むブックマーク

 つづき。ここから先は、このライナーノーツの載せられたアルバム「Earthspan(夜明け)」の解説になるので、ちょっと音を聴かないとわからないところもあるかもしれない。それではと、ここで触れられている"Sunday Song"と"Seagull"(かなり音量が小さいが)とを、YouTubeからリンクさせておきます。ちなみに、メンバーのLicoriceはこのアルバムを最後にグループを脱退することになり、これがラストアルバム。そして、この"Sunday Song"の詩は、Licoriceによるもの。

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 このアルバムにおさめられた曲には、明るく心はずむようなものと、重苦しい人生そのもののようなメランコリーに彩られたものがあるが、そのいずれもが、アイルランドの落日や田舎の自然にみる、その季節の移り変わりのように陰翳にとんでいる。どの曲を聞いても、心なしかもの悲しく、ペーソスがしのびよってくる。それは人生の重苦しさ、苦々しさにじっと耐え忍ぶ庶民の姿をほうふつとさせ、どこか痛々しく、なにかしら救いを求めるひとの嘆息さえ感じさせるのだ。ぼくは、このアルバムのなかでは、とくにそんな曲が好きで、"Restless Night"や"Sunday Song"や、なかでも"Seagull"は繰返しくりかえし聞いている。これらの曲を聞いていると、重苦しさから救われていくような気分になり、なぜか「希望」という忘れてしまったことばを思い出すのである。
 この世は生きた樹がからみあってできた教会のようなところ。ねずみもおれば、もぐらもいる。自然の恩寵をたっぷりさずかって生きている。だからひとびとは散り散りばらばらだ。選ばれてこの世に生まれていることを知ってほしい。どんなときでも翼をたたんだりしてはいけない。愛は神なのだ、愛すれば、かぎりないよろこびが生まれてくるのだよ。―――"Sunday Song"はそういった愛のすばらしさを歌う。

 "Love is god, is god oh sweet joy"

 このことばはいつまでも心のカテドラルでこだますようではないか。人生の荘重な意味を力強く訴えかけてくる。
 このアルバムの最後の曲"Seagull"でも、重苦しい懐疑と明るい希望のコントラストが見事な心象風景になって歌われている。
 荒海を航海してきた一人の男が、一夜明けた港のなかで、朝日にむかって心の煩悶を訴え、なにものかに救いを求めているが、彼の呼びかけにこたえるのは、カモメのかん高い唄ばかり。そんなとき

 "All right, out on the rolling, rolling, rolling sea…"

 と荒海をのりきろうと決意する。そのさまがたくましく繰返される。それは、まるで波にのみこまれまいとして、決然と荒海にたちむかう水夫の姿であると同時に、そのまま明日にたちむかう人間の緊張感をこめた、航海の前の祈りのようにも聞えてくる。神は自然のきびしい掟によって人間に試練の荒波をたちはだかせるが、それをのりこえさえすれば安らぎをあたえてくれるのだ、という宗教的なテーマが根底に流れている。そう理解すれば、別の歌"Sunday Song"のなかで

 不思議な驚き
 草は緑
 そして
 地上に13の星の群  (松宮英子・対訳)

 と歌われている神の自然の恩寵も身近なものになろう。インクレディブル・ストリング・バンドは、失われた心の率直さをぼくたちによみがえらせる。      <宮澤壯佳


 

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