英雄の条件

今週読んだ漫画は面白かったなあ。
奇しくも、「英雄とは何か」という事を考えさせられる話が揃ってた。それも、全て「英雄の二代目」という設定だったのが面白い。
まず、ランドリオール15巻

Landreaall 15 (IDコミックス ZERO-SUMコミックス)

Landreaall 15 (IDコミックス ZERO-SUMコミックス)

主人公DXは、元将軍にして革命の英雄リゲインの息子。しかし、この革命は少し変則的で、対外的には起きていない事になっている。リゲインは「折れた剣」として政局から身を引いているが、多くのものは革命の事実を知っていて、それでもなお王を殺したリゲインを支持している。
そんな複雑な立場の英雄の息子であり、王位継承候補者でもあるのがDX。彼自身は、父が英雄である事をあまり意識していないように見受けられる。実際、革命の真実も知らない。(15巻で初めて知る。)
しかし、DXには生来の英雄の気質の様な物が備わっているよう思える。捉えどころのない性格で、あるときは幻想の中の女性に恋をして竜と戦ったり、あるときは自分の友達の命を助ける為に、死の呪いを自ら受けたり。
世の常識を軽く飛び越えた所で自分なりの判断をし、無茶な行動を繰り返して周囲を引きずり回す。その所々で人間臭く悩んだりもするのに、結果的には全てを上手く行かせる。それはもう、神の祝福を得ているかのように。周りの者は、「DXが居るだけで何かが出来るかも知れない」という気持ちにさせられる。それは正に、カリスマというものだろう。
なぜ、彼はそのような気質を持つに到ったのか、という謎の一端がこの15巻の葡萄のエピソードで語られている。それは、彼の原体験によるもの。彼自身の自然との対話。ひいては神との対話とも呼べるものだと思う。
DXは英雄の息子だが、それは英雄である父の複雑な立場ゆえにそれほど彼に影響を及ぼしていない。彼の英雄の気質は彼自身が育んだものである事が、このエピソードで明らかになったと言える。逆に言うと、英雄の条件とは英雄の二代目ではない、という事になるだろう。DXは英雄の息子でありながら、「初代の英雄」といえる。そして、そんな真の英雄になる為に必要な条件とは、「神秘的な原体験」などと考えさせられた。
次に、ネギまのネギ君。

魔法先生ネギま!(28) (講談社コミックス)

魔法先生ネギま!(28) (講談社コミックス)

ネギは、父親ナギが魔法使いの英雄として有名なのだけれども、彼自身は英雄としての気質をあまり持っていない。魔法使いとしての才能はピカイチなのに、物事を頭で考え、子供という事もあるのかどうにも頼りない印象を受ける。
けれども、物語が進むにつれ少しずつ英雄しての立場に向かっていく事になる。それは、彼が父親ナギに強い憧れを抱いているから。
ネギ自身は、原体験として非常に暗い過去を背負っている。それは彼の心に復讐心にも似た暗い影を残しており、それが彼の行動の原動力の一つにもなっている。それは非常に人間臭い、英雄とはかけ離れた行動原理ともいえる。
しかし、それでもなお英雄の立場に進むのは、父への憧れがあればこそ。決して諦めず、道を違えずに進んでいく事が出来る。273時間目は、そんな彼の姿勢が明確に提示された回だった。
こういう英雄像は、実は、物語の中では真の意味での英雄になれない。近い例で言うと、ドラゴンボールの悟飯だろうか。もしかしたら物語の中で一番大きな仕事をしているかもしれないのに、人気とか憧れの対象にはならない。つまりカリスマを持つことが出来ない事が多い。
そういう意味では、ネギは真の英雄にはなれない様に思う。気質的にはナギとDXは似ている。二人は共に真の英雄だ。ネギは、ナギという英雄に憧れ続ける存在なのだろう。
けれども、その分、英雄に憧れるという読者に近い立場で努力をし続ける姿が共感を呼ぶ。「物語の語り部」としては最も適した英雄像と言えるのかもしれない。
最後に、マップス。(^^)

マップス ネクストシート 8 (Flex Comix)

マップス ネクストシート 8 (Flex Comix)

http://comics.yahoo.co.jp/magazine/blood/maxtupus01_0001.html
この英雄はスケールがデカイ。なんといっても、主人公麻生河七勇人(ナユタ)は掛け値なしに宇宙を救った(w)英雄の息子だから。
宇宙を破壊してエネルギーに変えようとする伝承族という存在がいて、それと対抗して戦い勝ったのが先代の英雄、十鬼島ゲン。彼は無限の宇宙を自由に飛び回りたいという夢を実現させる内に、英雄の立場に登りつめていく。「宇宙への憧れ」「冒険心」というものが英雄の条件だとすれば、それを最初から持っていて、それをなぜ持ちえたのかという事について物語では語られていない。
麻生河七勇人についても同じで、彼の父親は十鬼島ゲンだが、実際には英雄の十鬼島ゲンでは無く「もう一つの地球」の一般人を父としている。そして、ゲンと同じ想いをもって宇宙に旅立っていく。
英雄の気質は健全な冒険心のみという非常にシンプルな、それでいて最も説得力のある冒険物語と言えるだろう。
ただ、この物語で少し特異なのが敵「伝承族」の存在。彼らは全ての物事を予知し、「英雄」の存在すらも、彼らの予知による計画の中に組み込まれている。何と言っても、伝承族は銀河規模のw脳(演算能力)の持ち主なのだから、それは完璧な予知となる。十鬼島ゲンは元々作られた英雄だった訳だ。
しかし、ゲンの気質が、その完璧と思えた伝承族の予知を少しずつ違えていく。凶悪な敵としてのみ機能していた存在や、無関心を装っていた大多数の銀河生命が、徐々にゲンの心に共鳴し、予想外の行動を取る。それらの「イレギュラー」を発生させる力こそ、真の意味での「英雄の資質」という事になってくる。
「イレギュラー」=想いの強さと捉える事ができる。つまり、想いの強さこそ英雄の資質。それを物語の構成の中で明確な形にする事に成功した物語と言えるだろう。最新、ネクストシート35話では、その想いの強さをかけて、新旧の英雄、つまり父と子が競い合う事になる。
・・・
英雄の条件を、深く掘り下げて描く事に成功しているランドリオール
英雄の条件を、主人公の努力という形で外から見せているネギま
そんな共に深い英雄描写を、最初から軽く飛び越えているマップス
DX =原体験有り。想いの強さ無し。英雄の気質有り。
ネギ =原体験有り。想いの強さ有り。英雄の気質無し。
ナユタ=原体験無し。想いの強さ有り。英雄の気質有り。
色んな角度から英雄の条件を考えさせられて、実に面白かった。