Minori Chihara Symphonic Concert 2015 〜Reincarnation〜 NHKホール

このライブの感想を書くにあたって、一つの禁を破らなくてはならない。それは、FCイベントの事を書くと言うこと。このオーケストラコンサートについて書くには、やはり、先のみのりんのFCイベントのことから書かないと書く意味が無い。
みのりんがそのアーティスト活動をリスタートするにあたって、武道館ライブを目標にしていたのは有名な話。そして、それを彼女は見事に成し遂げた。
しかし、彼女にとってその目標がとても明確であったがために、その次の目標を見出せず、暫くの間苦しんでいたというのも、ある程度知られていることだろう。彼女のドキュメンタリーフィルムでもその辺りが語られている。
しかし、彼女は声優でありミュージシャンであり、ファンを楽しませることを生業にしている。自分の心の方向性を決めるのもある意味義務だ。みのりんはこの辺りのことを赤裸々に語ってしまうくらい正直者であるが故に、ファンと自分の心を偽った目標を立てる事も出来ず、かなり長い間くすぶっていたようだが、それでも今は一つの目標をもって活動しているように思う。その事を確信したのが、実は先のFCイベントにおけるアコースティックライブだった。
以前のアコースティックライブとは明らかに違う。以前は、歌う事が楽しくて、ファンが喜んでくれることが嬉しくて、ただそれだけを声にしていたような感じ。みのりんの声は「声優界一の美声」との売り文句が付くくらいの魅力的な声であり、私もそう思うからこそ彼女を強く支持し続けてきたが、アコースティックの繊細なライブになると、ただ美声だけでは物足りない。より感情を込めた歌い廻しとか、声の魅力以外の演出とかも味わいたくなる。2011年11月20日に行われた最初のアコースティックライブで感じたそんなほんの少しの物足りなさが、そのFCライブでは完全に払しょくされており感動した。
みのりんは自身の原点に立ち返り、自分が歌が好きな自分がどうすれば先に進めるかを考え、その答えが「より歌と真摯に向き合い質を高めていくこと」だったのだろう。みのりんがここのところのライブで何度も口にしていた「私は歌が好き」ということの意味を、このアコースティックライブの繊細な歌声を聴いて、やっと理解できたという訳だ。本当に今頃気付くなんて恥ずかしいくらいだ。
ともあれ、みのりんが心の方向性を定めて先に進んでいるということはとても嬉しく、だからこそ、今回のオーケストラコンサートもとても楽しみにしていた。オーケストラコンサートこそ、正にアコースティックライブの発展形であり、彼女の繊細な歌声が、重厚なオーケストラに乗った時のことを想像するだけでも、身震いするくらい期待が高まる。
・・・のだけれども、その期待は少し高め過ぎたようだ。というのも、今回はオーケストラコンサートとは言っても真の意味のオーケストラコンサートではなかったから。
それはイメージしていたオーケストラ伴奏による「コンサート」では無く、普段のライブバンドに、その音の厚みを付け足すためにオーケストラ編成を追加した構成の「ライブ」だった。とても豪華な編成ではあったし、その迫力はそれなりに見事なものだったが、それは「なんか違う」。
なぜ、オーケストラを使うというのに、その音の厚みを信用できないのだろう。なぜ、いつも通りにドラムが鳴り響き音を支配しているのだろう。オーケストラは、その構成だけで充分人を熱くさせるもの。確かにバンドとはその方向性に違う部分もあるかも知れないけれども、実際にはバンドよりも人の心を揺さぶる力があると言って良い。その長い歴史がその力を証明している。それを活用せずに、普段のバンド編成の、いわば裏方的に使っているなんて、実に勿体ない。目の前に宝があるのにお預けをくらっているかのような感覚に捉われ、実に歯がゆかった。
再度言うけど、みのりんの歌声は素晴らしかったし、バンドもよかったし、その演奏に厚みを加えてくれたオーケストラも素晴らしかった。しかし、その編成ならばもっと望ましい、今までにないコンサートが出来たのではないかと思うと、残念としか言いようがない。
唯一、優しい忘却だけがオーケストラ伴奏のみによる歌唱となっていて、この一曲で少しだけ期待したものを取り返せた気分になれた。
ライブは前半後半に分かれて、前半は座って聴くコンサート風パート、後半はいつも通りのライブパートとなっていた。「優しい忘却」を終えた後の後半では、前半の鬱憤を晴らすかのようにはしゃぎまくったよ。
またもう一度、オーケストラコンサートをして欲しい。そしてその時こそ、みのりんのグレードアップした「歌」の魅力をより高めるような、オーケストラの魅力を堪能できるようなコンサートにして欲しいものだ。

Reincarnation

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