【コミック1位】『地獄めぐり』九重シャム【ウサギ】

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公務員、緒野瀧群は地獄に出向勤務している。毎日のように誘いをかけてくる閻魔王を軽くあしらっていた瀧群だが、ある日閻魔と関係を持ってしまう。お互いに割り切った遊びかと思われた関係だったが、瀧群と閻魔の過去が二人の関係を深いものに変えていく。
冒頭の設定からトンデモかと思いきや、しっとりとしてそれでいて軽妙な絵で紡がれる世界観に引き込まれる。主人公の一人、穏やかな清純系美人のように見える瀧群は、意外に強かで、奔放な面があることがわかり、遊び人かと思われた閻魔は、仕事には厳格で、情が深く懐の広い男だということがわかる。小さなエピソードで語られる様々な側面がキャラクターを形作り、物語の輪郭を少しずつ明らかにしていく。瀧群の現在と過去、閻魔の過去と現在、そして二人の現在と、未来。全ては螺旋のように緩やかに繋がって、巡り続ける。エピソードの連鎖で語られる物語は「地獄めぐり」のタイトルに相応しい。
ひとつひとつのエピソードは、それだけで一本の作品となりうるだけの重さも持っているが、あくまでも物語の一部分として、さらりと描かれる。二人の過去も現在の関係も、人生の螺旋の一部分に過ぎず、その人生さえも輪廻の螺旋の一部分にすぎないのだ。死が間近にある地獄という舞台、何百年、何千年というスケールで生きる神や鬼たちの存在がさらにその事実を際立たせる。
外見も立場も違っても、二人は驚くほど似ている。瀧群にも閻魔にも、囚われている過去がある。少しの幸せと胸を痛める苦い思い出。心の底に後悔と諦観を抱え、未来を見られず、ただ流されるままに生きている。よく似た魂はお互いの寂しさを埋めようと寄り添い、抱き合う。やがて二人は未来へと向けて歩むことを決め、そっと人生の輪に戻っていく。運命の恋、前世の縁などというものは個人的にはあまり好きではない。それでも二人の関係には必然が感じられ、やがて二人が何もかもを越えて幸せになってくれればと思わせる結末だ。
メインの二人はもちろんのこと、鬼と美青年の二つの姿を持つ阿傍・吽傍の仲良しコンビ、閻魔を見守る烏枢、泰山府君など、サブキャラクターも魅力的。
地獄という舞台設定もキャラクターも、全てにおいて背景が作り込まれているのが感じられて安心感がある。破綻なく作り込まれていながら、色々な想像を膨らませたくなるディテール。作者はこれが初の単行本ということで、荒削りな勢いだけの新人作家が多い最近においては珍しいタイプといえる。今後も期待していきたい作家だ。

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