“私が介護の原則は「説得より納得」ということに気がつき、母の希望にそった、母中心の介護に変えたとたん、母はみるみる回復した。母の痴呆は介護に対する不満、私に対する最大の抗議だった” 『母 老いに負けなかった人生 (岩波現代文庫)』 高野悦子 岩波書店
- 作者: 高野悦子
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2013/01/17
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30年前当時の総支配人高野悦子氏が,実は,その母の介護に追われている日々であったことを知った.10年余に及ぶ介護の記録であると同時に,父と母への鎮魂歌であり,高野氏自身の闘いの歴史でもある.実にさわやかな,そして参考になるところの多い物語である.
P.14
夜が明けて、最初の弔問者はなんとアンジェイ・ワイダさんご夫妻だった。純日本式の畳の部屋で布団に寝ている母の遺体は、お二人にとって不思議な光景だったであろう。ワイダさんは騎士が王の前で挨拶するように、片膝をつき胸に手をあてて、深々とおじぎをした。その動きが美しくて、まるで映画の一シlンを見ているようだった。
P.27
翌日父は、いやがる母を車に乗せて主治医の武見太郎先生の診療所に連れていったようである。
P.42
大学進学の時に父親が死に、今度は親友の中谷宇吉郎氏のってで奨学金を得、東大に入学した。その奨学金を出したのが、金沢女子師範の教師をしていた母だった。れが縁となって二人は結婚する。
P.97 1986年モントリオール映画祭
ここで私は「ローザ・ルクセンブルク」というすばらしい映画と出会った。西ドイツを代表する女性監督、マルガレーテ・フォン・トロッタの一九八五年の作品である。二十世紀初頭、人間解放と平和を目指して闘い抜いた社会主義者ローザの、美しく毅然とした生きざまを描いたものだ。
「ローザ・ルクセンブルク」は見ている,懐かしい映画である.ローザ・ルクセンブルクの名を知ったのは,大学時代に,野村修著「バイエルン革命と文学」(白水社・1981年)を読んだ時.ブレヒトの『水死したむすめについて』.
P.105
私はこの映画を岩波ホールで上映しようと考えたが、「老人ばかりの映画はどんなものか」と配給会社の人が乗気ではない。それでもやはり諦めきれず、何度もねばってようやく上映が決定した。
「八月の鯨」は翌八八年、岩波ホール創立二十周年記念作品の第三弾として封切られ、記録的ヒットとなった。
『八月の鯨』は2013年2月から再上映するらしい.岩波ホール(URL)
P.106
中国電影輸出輸入公司の胡健氏は、私に中国映画の新作を十五本見せてくれた。私は謝晋(しぇちん)監督の「芙蓉鎮」を選んだ。苦しい文化大革命時代を、希望を捨てることなし生き抜いてゆこうとする中国の庶民を描いた名作である。
これも見ました.懐かしい名画です.
P,151
この年、私は「森の中の淑女たち」というすばらしい映画を試写室で見た。二年後に岩波ホールで上映し、大ヒットとなった作品である。監督はカナダの女性シンシア・スコットさん。“映画の奇跡”と呼ばれ、全世界で話題になっているものだった。
P.189
また、懇談会で発言するとき、私にはいつも一本の映画が心の中にあった。オーストラリア映画、ポール・コックス監督の「ある老女の物語」である。この作品を私が初めて見たのは、一九九一年の東京国際映画祭であった。コンペティション部門で上映され、なんの賞も受賞せず、話題にもならなかったが、なぜか私にはいちばん心かれる映画だった。
P.218
リハビリテーションは、障害というマイナス面を減らすことばかりを目指すのではなく、むしろ残された、まだ隠れてはいるが開発可能な機能や能力というプラス面を引き出し、増大させることに力点をおく「プラスの医学」である。
P.221 鶴見和子さん(2006年に亡くなられた)
和子さんは、京都府宇治市の高台に建つ有料老人ホlムに移り住んで、規則正しいリハビリの生活を送っておられる。リハビリという考えは、生活の隅々にまで行きわたって、特別な運動時間以外は、朝起きてから夜寝るまでの生活動作に取り入れられている。ビンやカンの口を聞けるには、他人の力を必要とするが、工夫された道具を使って、和子さんは右手一本で、ほとんどの日常生活を一人で行なう。なんという自立した積極的な生活態度であろうか。「お見舞いはお断り、論争は大歓迎」と言われる和子さんに、私はお目にかかる勇気がない。
P.225 1998年
この年、私の映画人生は五十年目となり、岩波ホ1ルは創立三十周年を迎えた。この三十周年を祝う作品の一本に、私は「宋家の三姉妹」を選んだ。
P.244
その夜、私は櫛田ふき著『ニ十世紀をまるごと生きて』を一気に読み終え、やっと私が会場で異常な興奮におちいった理由に気がついた
P.256
また、一九八五年、「国連婦人の十年」の最終年にあたるケニアのナイロビでの会議で、首席代表の森山真弓さんは、与謝野日間子の詩「山の動く日来る」を朗読したあと、開会の言葉を始められた。この詩もまた「青鞘」の創刊号を飾ったものである。
P.261
その問、寝たきりの母はどのような思いでいたのだろうか。私の主観的な努力にもかかわらず、母の病状はどんどん悪化し、ついに痴呆症と診断されるに至った。しかし、映画「痴呆性老人の世界」を見て、私が介護の原則は「説得より納得」ということに気がつき、母の希望にそった、母中心の介護に変えたとたん、母はみるみる回復した。母の痴呆は介護に対する不満、私に対する最大の抗議だったと今にして思う。こんな簡単な心の切り替えで、母は元気になったし、私も元気になったのである。その後の幸せな日々を考えると、トラブルつづきのはじめの五年間が、まことに残念である。やれるものならもう一度、介護のやり直しがしたい。
P.271 クラクフでの誕生日
やがてケーキの蝋燭がともり、ポーランド人が苦しい時もうれしい時も歌い続けてきた「百年生きろ」の歌声が湧き上がった。この歌を私はポーランド映画の中で何度も聞いた。
【関連読書日誌】
- (URL)“治癒しなくても,障害があっても生きていける社会を” 『東京へ この国へ リハの風を!―初台リハビリテーション病院からの発信』 土本亜理子 シービーアール
- (URL)“「粗食のすすめ」は要介護の高齢者を量産するエイジングキャンペーンである” 『介護されたくないなら粗食はやめなさい ピンピンコロリの栄養学 (講談社プラスアルファ新書)』 熊谷修 講談社
【読んだきっかけ】
大阪本町のbook1stにて
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