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2017-07-08

名探偵は嘘をつかない

人格を含めた様々な資質を問うた上で探偵の活動が認められた世界で、ただ一人、傲岸不遜に徹底して犯人を追い詰めて行く名探偵・阿久津透。彼への証拠捏造、さらに自らの犯罪を隠蔽した疑惑が生じたことから、探偵弾劾裁判が開かれることとなる。ある限定の条件下で死者が蘇る世界で、登場人物たちは真実へたどり着けるのか。

作中中盤、裁判官を務める榊遊星はこの裁判を「まさしく推理に純化した探偵の特性を鏡のように映し出す訴訟の形と言えるでしょう」と述べる。
この作品はまさにこの言葉の通りだと思う。探偵弾劾裁判を舞台に、阿久津の示した推理に、全ての登場人物が力を振り絞り、覚悟を決めて真実を追求していく。
登場人物たちは当然思考レベルにバラツキがあるのだけど、裁判という手続きの中でそのアプローチの違いから多角的に論理が練り上げられてく様が爽快。
チョコレートに関する指摘と、そこからの水面にさざ波を立てる一つの石の役割という部分が特に気に入った。
真実が明らかになる過程で、傷を負っていく人物も多いのだけど、それでも、前に進もうとする意志が愛おしい。

http://www.kobunsha.com/shelf/book/isbn/9784334911638

名探偵は嘘をつかない

名探偵は嘘をつかない

2014-12-08

名探偵の証明 密室館殺人事件

 かつて家族を殺され、事件後に謎を解いても被害は軽減できない名探偵という存在に悪感情を抱く日戸ら8人は、ミステリ作家・拝島により密室館に閉じ込められる。館内で起こる殺人事件を“論理的に”解決しない限り解放されないという。8人の中には稀代の名探偵とされる蜜柑花子もいた。
 名探偵の宿業を描くシリーズ第2作。
 以下ネタバレありの感想



















































 名探偵のあり方が問われた前作に対して、今回のテーマは被害者感情を中心に、どの段階で名探偵は事件を止められるかになっている。トリックにそこまで斬新さはないものの、事件が発生するまでは解くべき対象がないという構造自体がうまい。
 本人のtwitterを見ていると、世評を気にしすぎていて、その負い目が作品に変な影を落としている。世間が鮎川賞受賞作家に求めているものと、このシリーズの方向性にずれがあって、似たようなことは相沢先生にも言えるのだけど、ロジックガチガチでなく、こういったベクトルの作品を楽しむ読者もいるので、プロとして自信を持って書いていってくれればと思う次第。

名探偵の証明 密室館殺人事件

名探偵の証明 密室館殺人事件

○○○○○○○○殺人事件

 前代未聞のタイトル当てで話題をよんだ第50回メフィスト賞受賞作。
 アウトドアが趣味の公務員沖らは、フリーライター成瀬のブログを通じて知り合い、毎年小笠原諸島にある孤島でオフ会を開いていた。今年の参加者は島の持ち主を含め8人。気の合う仲間と楽しい日々を送るはずが、到着の翌朝には2人が行方不明になる。さらに殺人事件や、意図の分からない密室も発生する。
 以下ネタバレありの感想
















































 過剰に挑戦的なこともあいまって、イライラさせられる文体。それでもワンアイディアにすべてを込めて長編に仕立て上げているのは見事で、脱力不可避の真相には「バカだ」というほめ言葉しか出てこないバカミス
 ファウストネタがどう生きてくるのかというところは、不必要な青春の苦味的描写につながっていったので、ヘイトが高まったのだけれど、ここまで来るとわざと煽られているんだろうと、手のひらの上で転がされている感じすら抱いてしまう。
 こういう作風でずっと行くのは大変だろうし、今後はどういう路線になるのだろうか。

2014-11-23

森の惨劇

 ベトナム戦争で心に深い傷を負ったリー・モラヴィアンは帰国後、人里離れた森の中でマリファナ栽培しながら静に暮らしていた。戦争の後遺症から、現実と戦闘中の記憶が混乱するようになっていたため、家族らに危害を加えることを恐れたためだ。その森の中に、人気作家ケルシーとその妻や愛人を含んだ複雑な人間関係でつながる6人がキャンプに訪れる。彼らが偶然リーのマリファナ畑を見つけたことから、森の惨劇が始まった。
以下ネタバレありの感想


















































































 ケッチャムはこれまで『隣の家の少女』、『黒い夏』、『オフシーズン』と読んできたんだけど、これが抜群に面白い。ケッチャムに求められている『隣の〜』に代表されるような容赦ない残虐描写や、後味の悪さなんだろう。そういう観点からするとこの小説は退屈なものなのかもしれない。
ただケッチャムという作家は、グロテスクでおどろおどろしいだけじゃなく文章もうまいし、人々の心の機微も巧みにとららえている。読者を驚かすだけでなく、テーマの基になっている実在の事件がある。社会派という表現はあまり好きではないのだけど、『森の惨劇』はケルシーら文明を代表する人々の複雑な心理、リーの側で描かれる戦争の傷が、徐々に緊張感を増していくスリルの中に溶け込まされている。
 解説ではアフガン帰還兵のケアに触れ、よりこの小説の意義が問われるという記述がある。もちろんそういったニーズもあるのだろうけど、極上の小説としてオススメしたい。

森の惨劇 (扶桑社ミステリー)

森の惨劇 (扶桑社ミステリー)

2014-07-13

空襲警報

 コニー・ウィリスのシリアス短編の中から、ヒューゴー賞ネビュラ賞受賞作のみをあつめた短編集。「オックスフォード大学史学部」シリーズ第一作の表題作などが入っている。
 話が始まると自分がどこに立たされているか分からなくなるウィリスの作品だが、シリアス傾向が強いと、良くも悪くも、“意識の高さ”が目立つ。いたるところに死が偏在しているために、それはいっそう。もっと勉強しなさいというジャブを食らい続ける間に、そのテーマの重さにノックアウトされる。

2014-07-05

戻り川心中

 圧倒的美文でつづられるミステリ史上至高の短編集。最後まで読みきってしまうと動機を描くためのトリッキーな作品であることが分かるのだけれど、とにかく文章がたおやかでひたすらにぞくっとさせられる。表題作もいいけれど、「藤の香」がとりわけ美しく感じた。

戻り川心中 (光文社文庫)

戻り川心中 (光文社文庫)