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トンデモ本

内容がむちゃくちゃで読んではいけない本をトンデモ本と呼ぶ。電車の中で読んだ山下悦子『女を幸せにしない「男女共同参画社会」』はそれだった。1時間が無駄になった。論旨は以下の通り。「男女共同参画社会は、独身のエリート女性が企画発案したものだから、主婦を切り捨て、女・女間格差を拡大するのでよくない」 男女…を実現した役所や政治状況を責めるのではなく、発案した女(エリート)に女(自称主婦代表)が文句をつける構図だ。

  • 全編が上野千鶴子大沢真理(ともに東大教授)に対する私怨に満ちている。筆者は出産経験と家族のある自称「介護おばさん」だ。大沢の「私などは妊娠したことがないから、自分がメスだと言い切る自信はない」発言がとても気にさわったらしく、5回くらい引用している。女は自分がメスだと自覚しないといけないらしい(ところで主婦=メスと断言しちゃっていいのか?)。文脈を無視した引用や同じ引用を何度も繰り返す時点で執筆家としてアウトなのだが、論理的にも悲しくなるくらいむちゃくちゃだ。シングル女性は「親に育てられたにもかかわらず、親になることはないので、親の気持ちは絶対にわからない」(p.82)といさましく(他人のことを)断言している筆者が、自分のこととして述べた大沢の「メス無自覚発言」をどうして非難できるのか。ふぅ。これだから女は馬鹿…おっとっと。
  • 本を書く以上、読者層を想定しないといけないが、それがない。一見、ジェンダーフリーをバッシングする、保守派の男たちの受け狙いで書かれているようにも見えるが、論じ方が稚拙なのでそうした男にすらアピールしない。かといって彼女が擁護しているつもりの主婦層がこんな本を読んで支持するはずもない。なんでもいいから男女共同参画社会にケチをつけたい人が、表やグラフに惹かれて買って、騙されたと思うくらいの効果しかないだろう。筆者や編集者に言いたい、こういう本が売れると思ってはいけない。
  • 筆者は格差社会が大嫌いらしくて、いま流行りの三浦『下流社会』も酷評している。著者が上流意識に満ち満ちているから、という理由だ。階層格差に言及すること自体が悪で、すべてにおいて結果平等を達成しなくてはならない、と主張するならば、山下には社会主義国にでも行ってもらうしかあるまい。
  • 「東大出身、東大教授であれば、何を言っても許されるというのだろうか」(p.70)という一節がある。「東大だから何を言っても許される」と思って発言する人はあまりいないだろう。むしろ筆者は、上野や大沢の出自などに触れず、彼女らの主張そのものの間違いを理性的に正すべきだった。こういう口語で使用するような怨恨表現を著書で使ってしまうことが彼女の価値をますます卑しめる。
  • だから「男女共同参画社会は女を幸せにしない」以外に何の主張も理念もない。彼女によれば「女=主婦」かつ「負け犬(独身キャリア女性)=諸悪の根源」なのだが、家庭もありキャリアもある私はどっちなんだろう、とわけがわからなくなる。
  • トンデモ本トンデモ本を呼ぶものだ。出産しないと女の身体はオニババ化するというトンデモ本、三砂ちずる『オニババ化する女たち』を山下は文中で絶賛していた。さ〜すが〜。それにしても最近は、新書版で続々トンデモ本が出ているので危険だと思う。新書の質も下がった。

女を幸せにしない「男女共同参画社会」 (新書y)