訳者もあとがきで指摘しているが、この本の題名は適切ではない。これでは、詐欺のマニュアルみたいではないか?この本に適切な題名は、「相手を混乱に陥れ、話を自分有利にする方法」である*1。
え?何?どちらにせよ人聞きが悪いことこの上無い?そりゃ勘違いというものだ。そういう指摘をするあなたの頭脳の明晰さは確かに素晴らしい。でも、その純朴にして無垢過ぎる心のありようは、世間を渡る上でとてもとても脆弱で貧乏くじをひくために生きているようなものだ。現実問題世の中嘘を嘘としてわかっていないと損をする。多かれ少なかれ「相手を混乱に陥れ、話を自分有利にする方法」が当たり前のように日常に遍在している。それは無理めな屁理屈なのに、何故か正論を押しのけて罷り通る。そういう目にあって、不条理だと思いつつ押し黙るしかない状態になって口惜しく思うこともあるだろう。実のところ、正論は負けるべくして負けているのだ。
筆者が指摘するカモになる人々の反応や思考を特徴づけるパターンを引用してみよう。
- 自分の「信じたい」ことを信じる
- 自分の偏見や経験を、いろんなことに当てはめる
- たった一回の出来事を一般化する
- 問題を分析している途中で感情的になり、自分の個人的な感情を、客観性より優先する。
- 人の話を聞くのが下手。話の一部しか耳に入らない。自分の聞きたい部分だけ聞いている。
- 後付けで理屈をつけて正当化したがる
- 関係あることと関係無いことを、区別できない
- 目の前の問題から、すぐに注意がそれてしまう
- ある問題のもたらす結果を、十分に検討しようとしない。単純化しすぎる
- 外見で判断しがち。見たものを誤解し、判断をひどくまちがえる
- そもそも、自分が何の話をしているかわかっていない
- 一貫した基準で行動することはほとんどない。根拠をきちんと検討してから結果をだすこともまずない
- 言った通りのことを考えていないし、考えた通りのことを言わない
自分に当てはまるところはどれくらいあるかな?
この本を読んで、然るべき対策を打つなり、同じ手法で対抗するなりはその人次第だ。ただ、敵の手管を知らないで負けて歯軋りするのはあまり楽しいことではない。より優秀な使い手はその口惜しささえ対象には気付かせない。実のところ、あなたが尊敬しているあの人も、あなたが忌み嫌う無神経な奴も、いつも誘いを断る彼女も、ワンフレーズ大好きな元首相もみんなふんだんにこのテクニックを使い、優位にいるのかもしれないよ。
有効な手段が数多く載っているが、「騙してやろう」とか「だ、騙されるもんか!」と本気で目を血走らせて読むのはお勧めしない。煽っておいてナニだが、ネタとしては面白いし、教養としても使えるけど、それ以上では無い…と思う。
まあ、Webで盛り上がる議論、フレームはもろ典型的なのが多いと思うけどね、「わら人形」とか「単純化」とか「理想主義の虚偽」とか。程度問題で全面的に否定するものでもないし、バランス良く使えると面白いのかもしれないけど下手に手出すとヤケドしそう。自分はせいぜい遠くから眺めるくらいかな。
この本はどこから取り掛かっても問題ない。一つの項目につき短ければ半ページ、長くても3ページくらいで出来ている。ある程度類似項目を纏めて章立てているが、それぞれの項目の相関性は低い。ハンドブック、小ネタのレファレンスとして使うのに便利である。
「欺術」のあとに「だます」本なので、何だか人格を疑われそうだ。むしろカモ側の中でもチョロい方だと思う。対策になるかどうかは怪しいものだけど、どちらの本もとても面白く読めたことは間違いない。
意外に注目してもらえたみたいなので、言葉足らずを追記*2。
この本に興味を持ったなら試しに読んでみたら良いと思う。書評として自分が切り出したのは、自分が印象深く感じた部分であって、当然ながらこの本の全貌ではない。「人々の反応や思考を特徴づけるパターン」の引用に煽られて拒否反応を示されている向きがあるが、他にも面白い部分は沢山ある。例えば、借りていた本なのでもう手元に無いから正確な表現は出来ないけれど、後半には思考のパターンを集合図で示す下りが読み応えが*3あった。
正直に言うと自分はこの本は買ってまで手元に置こうとまでは思っていない。でも、娯楽として「ああ、こういうのあるね。うん」という感じで結構楽しめたし、きっと目を通して損はない。