スイスと言うとどんなイメージを思い浮かべるだろうか?恥を忍んで自分がパッと連想したものを挙げると次のようなものだ。
自分の無知を一般化するのは我ながらどうかと思うが、世間一般でもこのイメージは大して変わらないだろう。もっとザックリとした感じを言うと、何となく住みやすい良い国と思っている。
しかし、この本を読むと「ああ、スイスも結構黒い部分あるんだなあ」と捻りもなく題名通りの認識を持つようになる。例えば、冒頭で正誤を問う設問がある。
- 問題1
- かつて、スイスは核配備の計画を進め、スイス・アルプスの山岳地帯に地下核実験場を建設する予定があった。
- 問題2
- スイスは、政府の援助のもとに「ロマ族」(ジプシー)の子供たちを次々と誘拐していた時期がある。
- 問題3
- 外国人がスイス国籍を申請すると、国籍を与えるのに適切な人物かどうかを決めるために、住民投票を行う場合がある。
お察しの通り答えは全て「正」だ。まあ、黒い黒いと書かれていればそう迷わないだろう。
永世中立国というのは別にガンジー(マハトマ・ガンジー - Wikipedia)のような非暴力不服従ではない。自国を守るために国民皆兵という兵役義務を負い、その期間中は自宅に銃や弾薬を置き国を守る。宗教的な理由で兵役を拒否し社会福祉活動で代替することも可だが、基本は兵役である。冷戦時代にはソ連のスイス侵攻を核使用のシナリオとし、国防省が中心に核の研究、それに伴う備蓄を進めていた。
ロマ族の話は、実質ナチスのホロコースト(ユダヤ人大量虐殺)と根が変わらない人種差別だった。1998年にスイス政府が出した報告書によると、司法当局が詳細な誘拐計画を立て、内務省が助成金を出し、公共団体「青少年のために」が1912年に設立される。この団体の「浮浪児の援助」部局は「ロマ族の子供を両親から引き離し、ロマ族とその文化を殲滅する」
ことを目的とした。誘拐された子供は良くて農家の里子、場合によっては治療の名のもとに電気ショック、冷水風呂20時間等の処置を受けた。この活動は1972年まで継続された。
外国人の話も人種差別の話だ。単なる移民ではなく、二世で実質スイス生まれスイス育ちであっても国籍が取れない。全ての人が取れない訳ではない。東欧やアジア、アフリカ系の人が取れない。表向きスイス民主主義に乗っ取り、候補者は顔、姿形、嗜好、経歴等を纏めたパンフレットを見た住民の投票で可否を評決される。しかし、その結果は明白に分かれる。白人ではない文化に侵される、スイス国民の失業率を上げる、白人以外は犯罪に手を染め易いという認識が彼らの判断の背景にある。
しかし、この程度は序の口である。第二次世界大戦戦時下においてスイスはユダヤ系の亡命者を徹底的に拒んだ。理由はスイスの国益のためだ。亡命者が転がり込めば、失業率が上がる。戻ってもナチスに殺されるしかないユダヤ系亡命者は密入国を敢行した。それを禁じるためにスイスが行ったのは、ナチスにユダヤ人を区別する手段としてパスポートに「J」の文字を刻印することの強要だった。当初、ナチスはユダヤ人の国外逃亡をよしとしていたが、スイスはそれを強制する手段としてドイツ人全体にビザ取得を義務付けナチスに圧力をかけた。結果、ナチスはスイスの望み通りユダヤ人判別に協力することになった。
相互監視についても北朝鮮顔負けだ。政府主導で、密告、盗聴、尾行、スパイ潜入等やりたい放題だった。監視の目的は「スイス国を危険にさらす活動の情報収集」とされたが、監視対象は国内外のあらゆる層とされた。一例には30年間継続的に監視されていた。1980年代後半にマスコミ報道で問題発覚されて以降、スイス当局はこれらの活動を非合法と定めた。
他にもマネーロンダリングの話、公的な麻薬配布の話、ネオナチ台頭の話等あれこれあるが、詳細はこの本に目を通して欲しい。
勿論、スイスは冒頭に掲げたイメージ通りの良い点も沢山ある。トータルで考えればきっと住みやすく良い国なのだろう。ただ、当たり前の話だが、どんな国にだって暗部はある。それを知らずに理想化して対すれば、その期待はたやすく裏切られる。
この本を読んでボンヤリ思ったこと。
はっきり言えば、人道、人権などというものは国益の前ではおためごかしに過ぎない。最近はもっと国家は狡猾で、自国の権益を他国から収奪するために人道の皮をかぶる(Iraq Body Count)。別にそんなことは今も昔も変わらない。世の人道、人権派はそういった力の集約する場面ではそ知らぬふりで局所的な話にだけ口を挟む。だから、人道という言葉の実態のありようは理想とは異なりいびつなのだ。
折りしもasahi.com:「日本は同質的な国」「人権メタボ」と文科相発言 - 政治などと報じられた。実に正直なことだ。これだけ正直な人が大臣を任ぜられるというのは、飛べない鳥ドードーが外敵に教われず生きていられる(ドードーの絶滅・インド洋モーリシャス島の悲劇)のと同じくらいこの国が平和な証拠だろう。
wetfootdog そういえば都市部でも基本的に村社会、という話を聞いたことが。*
(以下うろ覚え。後で補正可能性あり)
ご指摘は正しいです。地方自治が発達しています。というよりも元々現在の地方自治体単位である州が外敵に教われないため寄り添って作られた国であるため中央集権では本来ありません。当初は対ハプスブルグ家であり、その後、対フランス、対ナチス、対ロシア等とにかく利害関係による繋がりであって、それ以上ではない。
従って、対ベルンという対抗姿勢が常にあり、更には対EUというのがあります。現在もEUに加盟しないのは、加盟したら内政干渉されスイス民主主義の死を招くという認識からだそうです。