2008-05-31
二重螺旋の悪魔 / 梅原克文
ほー、いいじゃないか、こういうのでいいんだよ、こういうので。ハリウッド超大作のバイオホラーアクションがその躍動感と興奮を一切失わずに奇跡的に小説に結晶化した、そんな作品です。上巻は瀬名秀明「パラサイト・イヴ」(こっちの方が早いですが)、下巻は「インディペンデンス・デイ」の敵が宇宙人じゃなく旧世界の神バージョンというとわかりやすいと思います。なんというか、エンタテイメントとしてのSFの魅力がこれ以上ないというほど溢れている名作です。もしかしたらこういうことが有り得るかも、と思わせるハッタリは一級品でして、もうハラハラしっぱなしですよ。辟易したくなるような分厚さも、読みやすい文体のおかげで気になりません。読書経験のまだ浅かりし日に受けた本作の衝撃たるや計り知れません。思い出補正かなあ。
事の発端はDNAのジャンクデータであるイントロンです。一見無意味なこのイントロンが恐るべき情報を秘めたパンドラの箱だったら? と話が進みます。こういう、周知の科学的事実とストーリーの随所とを上手い具合に結び付けて、リアリティを演出しているのはさすがです。また、ピンチにつぐピンチ、山場につぐ山場と読者を退屈させない技術はなかなかのものです。
下巻で、主人公が宇宙の真理である神と出会うシーンがありますが、読んでいる時はすごく熱くなりました。霊子の設定にも知的興奮を覚え、さらに神にとって人類がいかにどうでもいい存在であるかにショックを受けました。(当時中学生で、まだこの手のネタに慣れていなかったこともあり、思い出補正がかかっているかもしれません)。そして神との最終決戦。なんたって相手が神ですから、絶望的な戦況です。たとえるなら、予備知識なしで戦うFF5のしんりゅう。クロノトリガーでレベル低いのにラヴォス突入。逆立ちしたって勝てません。だからこそ、その逆境を機転と英雄的な献身で乗り越える様は、奮い立つ何かがあります。ハッピーエンドとわかっていても感動してしまうハリウッド映画と同じですね。今思い出してもぐっときます。いやー本当にこの小説は大好きです。
なんか似たようなゲームあったなあと思い出したのが、「ゼノギアス」。ファンタジーが主流のRPGにしては驚くべきSF要素を詰め込んだ名作ですが、そのシナリオに惹かれた方なら、本小説も十分楽しめるはず。遺伝子にセットされた爆弾、超人的な力を持つ人類、神殺し、と共通しているテーマも多いです。
新ジャンル「サイファイ」
梅原克文はこの作品をSFではないと断言します。「サイファイ」だと言うのです。サイファイとは、大衆娯楽サイエンス・フィクションのことです。じゃあSFの仲間じゃん、SFと呼んでもいいよねと言うと氏はキレます。「SF作家と呼ばれると本が売れなくなるから、やめろ!」と。詳しくは梅原克文のサイファイ構想を参考にしてください。要約すると、SFは難解なイメージがあるから新ラベル「サイファイ」に切り替えよう、ということです。小林泰三も駄文1 幻想伝奇構想において、SFというラベルの不味さを語っており、新ラベル「幻想伝奇」を提唱しています。
まあ、ぶっちゃけ一読者にとってはどうでもいいです。特に私はイーガンのような難解なSFが好みなマイノリティなので、氏が否定した神林長平の超メタ言語的な小説にも多いに満足する性質です。
しかし新ジャンルを提唱するぐらいですから、現在も精力的な活動を続けているのかと思いきや、発刊したのが今まで4作品のみで以降は音沙汰なしとはいかがなものか。もはやサイファイというジャンルは企画倒れしてしまったように思えます。だから私はあえて氏をSF作家扱いします。口惜しかったら名作を大量生産して、サイファイを一大ジャンルとして確立させ、私がカテゴリーにサイファイを追加せざるを得ない世情を築き上げてください。いや、本当に新刊を心待ちにしてるんですよ。割りと評価の低い「カムナビ」も大好きでしたし。
というか希求力のあるジャンルでSFっぽいものが書けるなら「サイファイ」にこだわる必要はないと思います。現に著作が刊行されている角川ホラー文庫の「ホラー」や、(一部の)大衆向けとして勢いのある「ライトノベル」など。変なこだわりを持つよりも既存のジャンルを利用してその中で主たるポジションを確立してから、「サイファイ」運動を開始すれば、かつてのニューウェーブやサイバーパンクと同様の大きなムーヴメントになれたのではないかと思うわけです。今は消息不明な氏ですが、別名義を使ってラノベなんかをひっそり書いているんじゃないかという気がします。それらしき新人を見つけた方はご報告お願いします。
九百人のお祖母さん / R・A・ラファティ
きわめて乱暴に言うと、SFのアプローチは主に2通りです。過程を重視するか、結果を重視するか。小松左京は「どうしてそうなるか」を重視し、筒井康隆は「もしそうなったらどんなに面白いか」を重視する。とすれば、R・A・ラファティはまぎれもなく筒井康隆側の作家です。こういう愚にもつかないバカ話は楽しんだもん勝ちな部分があって、理屈をこねまわしても疲れるだけです。何も考えたくない時、かといって静かに落ち着く気分でもない時、この本を読んで頭の中をめくるめく喧騒と馬鹿馬鹿しいイメージで満たしてみるのもオツかもしれません。21篇もの短編があるので、どれか2,3個はツボにはまる話があるでしょう。- 「スナッフルズ」:一番のお気に入り。わけのわからない異形の生物に追われる恐怖がたまりません。
- 「一期一宴」:生活サイクルの高速化がもたらした、疾走感のあるドタバタ。
- 「カミロイ人の初等教育」:この大ぼら吹きが!
- 「カミロイ人の行政組織と慣習」:同上。
- 「われらかくシャルルマーニュを悩ませり」:過去改変もの。志村ー後ろ!後ろ! と叫びたくなるようなネタ。ドリフですか。
- 「その町の名は?」:オチが全て。
- 「時の六本指」:筒井康隆の「お助け」と同じネタ。
まあ、翻訳なのでところどころ読みにくいところもあり、筒井康隆の方がオススメです。筒井さんはもう全部読んだから、という方なら試してみるといいかも。


