1000の道徳によって分断される人々――グレッグ・イーガン「万物理論」がすごい


個人主義者はよく「みんながバラバラに生きていたら社会が成り立たない」と反論される。同じように自由主義者が「おれっちは勝手にやらせてもらうぜ!」と自己決定ですませようとしても、コミュニタリアンが「ある程度統合された社会がないと人間ダメなんだよ」と批判する。
たぶんリベラルやコミュニタリアンの頭の中にあるイメージは、ズジスワフ・ベクシンスキーのこの絵のような茫漠とした世界なのだ。ベクシンスキーはその作品に一切のタイトルを与えなかったそうだが、もし名づけるとしたらこの絵はまさに「拡散した社会」そのものである。それぞれの村は断絶している。コミュニティを統合するような大きな構造は存在しない。人びとは火の周りで暖を取っているが、他の村とは顔を合わせることはない。

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