僕と僕


一人旅をなぜするのか。

沢木さんは、自分と話したいからだと言った。

自分と話す。

確かに、この旅で一番話をしたのは僕自信かもしれない。

僕に一番問いかけて、僕が一番答えてた。

バスの中、ベッドの上、飯を食べているとき。

色々な話をしてみた。

旅の終盤。

結局、自分との会話は巡り巡って単純な答えに辿り着く。

その答えは決して旅に出るから出せるんじゃない。

日本にいてもわかっていた事で、旅は一つの起爆剤だ。

今回は少し、自分の話。。

僕が旅に出たのは、完全な逃げだったと思う。

3年前の大晦日を最後に、働いていた大好きだった店が潰れた。

その店での思い出が、僕の青春だった。

上京し、大学に嫌気がさし、なにがしたいのかわからない僕に、新しい世界を見せてくれた。

六本木。

僕がこの町で、半ば決して想像し得なかった生活を送る事になった。

毎日が格闘だった。 もちろん精神面も、肉体的なぶつかりも。

見た事のないきらびやかな世界。
テレビや雑誌でしか見た事ない人たちへの接客。
仕事の厳しさと、初めてできた人との信頼関係。

僕の居場所は確実にあそこにあった。

そんな居場所がなくなった翌年、すぐに僕はインターネット広告代理店の営業の仕事を始めた。
諸事情から会社を辞める上司の引き継ぎを任された。
全く知らないネットの世界と昼間の仕事。
月に3000万を売り上げる事が僕の仕事だった。
がむしゃらに、必死に、やり抜こうと決心した。
しかし、覚悟もその頃の生活環境も整っていはいなかった。

どこかで心のスイッチを入れられずにいた。

ふと言ってしまった一言で仕事を失った。

社会の厳しさを垣間見た21の春だった。

この頃を境に人間関係も少しずつ変わっていった。

僕と同じように踏ん張りきれなかった人達のほとんどが東京から吹き飛ばされていった。

それでもなお東京に居続けた人間は、もはや東京の闇に吸い込まれただけの人形と化していった。

そこから、半年、苦しくも楽しい生活を送る事ができた。もちろん葉月という存在がいたからで、彼女がいなければ、僕も東京にいる人形となり、一人の人間としては生きていけなかっただろう。

色々な事を模索しながらがむしゃらに生きていく内に、新しい居場所が現れた。

東京を象徴する財界人との出会いだった。

彼のもとで、僕は生き生きと働く事ができた。

六本木からの付き合いある人たちとの関係もさることながら、新たな出会いが僕を成長させていった。

西麻布で、様々な事をやらせてもらえた。
絶大な力を持つ財界人たちの寵愛を受けながら、僕は仕事に没頭した。
今までの僕の接客力が功を為して、僕は必要とされていった。
必要とされれば、僕はさらに頑張れる。
周りが見えなくなっていくのも、知らずに。

そこに二つの陰がある事に、その時は気づく事が出来なかった。

大切な人の気持ちと、仕事を辞める前提の口実である。

僕は、東京から逃げた。

東京から逃げたのは3回目だ。

一度目は大学を嫌い海外にでたこと。
二度目は生活環境がやりきれなくなり東京の陰に隠遁したこと。
そして、今回が三度目の逃亡だった。

僕の土台は東京だ。

日本にいるということは東京にいることだ。

しかし本当にそうなのだろうか。

僕が抱いた東京への憧れは、東京に固執しすぎた屈折した想いではなかったか。

今、その答えを出す事はできない。
ただ。

僕は、将来どんな人間になるのだろう。
僕は、将来どんな仕事をするのだろう。

僕は、世界に逃げてきて、何か変われたのだろうか。

逃げっぱなしじゃ、嫌なんだ。

いつか逃げじゃない、飛び立ちをできるだろうか。

さすれば、全て自分次第。

僕には、守るべきモノがある。

がむしゃらに、生き抜いてやる。


『ワンクールのレギュラーよりも、一回の伝説。』 By江頭2;50