当世学生 二足のわらじ 厳しい就職 学外で専門技術

就職氷河期になると脚光を浴びる大学生らの「ダブルスクール現象」に、新たな動きが広がっている。かつては司法試験や簿記検定などの対策、語学習得といった資格や大学の専攻に関連するものが主だった。だが最近は、専攻とは畑違いの服飾デザインや、コンピューターグラフィックス(CG)技術を身に付けたいと通うケースが、目立つという。 (中沢佳子)

 「バンタンデザイン研究所」(渋谷区)は受講生の三割がダブルスクール族。ほとんどが就職を意識する二、三年生で、大学で服飾を専攻していない学生も多い。その一人、洋服の販売職を目指す大東文化大経済学部二年の塩原慶一郎さん(20)は「服を売るには、色彩や布地の知識、ディスプレーの技術も必要」とダブルスクールを決めた。大学との両立は大変だが「大学で勉強する経済学は幅広すぎる。でも、洋服しか見えない環境だと世の中が分からなくなる」と語る。

 中央大学商学部三年の信沢俊介さん(21)は「おもちゃ製造会社に就職し、おもちゃの企画をやりたい」と、グラフィックデザインを学んでいる。学部の勉強は、おもちゃデザイナーという希望の道と無縁に見えるが「時代がどんなデザインを求めているかが分かり、意義はある」という。

 「専門技術は必要だが、それだけでは就職できない時代」と就職戦線の厳しさを語る同研究所PR室の林口雅さんは、大学と学外の学校で異なる二つの専攻を持つ「ダブルメジャー」を勧めている。「大学では教養を深め、広い視野を養える。両立できれば、大卒と専門技術という二つの強みが手に入る」

 CGや映像のクリエーターを養成する「デジタルハリウッド」(千代田区)でも、主に社会人が対象の夜間クラスの受講生のうち三割がダブルスクール族という盛況ぶり。主流は美大生だが、法学部や文学部、医学部の学生も増えた。ニーズの高まりを受け、四月にダブルスクール専用クラスを新設する。

 「CGや映像の技術は、住宅、自動車、医療、司法など各分野で活用されていく。働く場が広がると考えて学生が集まるようです」と広報担当の川村めぐみさんは話している。
◆3年で倍増 内定率低迷と連動

 東京都内の専修学校など三百五十七校でつくる「東京都専修学校各種学校協会」(渋谷区)の二〇〇八年度の調査では、加盟校の学生に占めるダブルスクール族の割合は0・6%で、三年前に比べて二倍に増えた。

 同協会の有我明則事務局次長は「ダブルスクールの増加は、就職内定率の低迷と連動する。最近は、就職できなかった既卒者や、大学を中退して専修学校に入り直すケースも増えた」と指摘する。

 文部科学省によると、今春卒業予定の大学生の就職内定率は、昨年十二月一日現在で前年同期より7・4ポイント低い73・1%。一九九六年の調査開始以降、最悪だった。

 有我事務局次長によると、ダブルスクール族は今後も増えるとみられ、「やりたいことが決まらないまま大学に進む学生が多く、入学後に自分の職業イメージが固まり、必要な専門知識を学外で学ぶという流れだ」と分析している。

選択の物差し 多様性必要

情報公開

 退学率や卒業率、入試方法別の入学者数などのデータ公開を大学に義務づけるかどうかの議論が現在、中央教育審議会で行われている。

 大学選びの指標にと、文部科学相は大学設置基準に盛り込みたい考えだが、風評被害を恐れる大学側の反発などから、「年度内の改正は難しい」(徳永保・文部科学省高等教育局長)という。

 確かに大学にとっては、この情報公開は頭の痛い懸案だろう。昨年の読売新聞の「大学の実力」調査でも、入試方法別の入学者数の質問に対し、無回答・非公表が10%。「数字の独り歩きが怖い」と率直に書き添える大学もあった。

 だが大きな問題は、それでは、大学側は数字の意味を十分に説明してきたか、という点にある。背景をきちんと公表しているところは皆無に近い。

 一方、受験生や教員、保護者も同様で、数字の裏を読みとる努力はあまりうかがえない。「大学の実力」のデータをもとに生徒たちと真剣に話し合う教師がいる反面、いまだに「いかに偏差値の高い有名校に入れるかが“高校の実力”」という校長も少なくない。その結果、どんな大学かわからないまま漫然と入り、「合わない」と去っていく学生も出てくる。

 2人に1人が大学に入る時代。選択に使える物差しも多様な方がいい。それを肝に銘じ、今年も調査を行い、データを読み解いていきたい。

退学率再び

教職員の危機感薄く

 関西のある私立大学職員からメールが入った。「大学の実力」調査を機に、従来“タブー”とされていた退学率が学内で話題に上るようになったものの、「他大学に比べて多いか少ないかだけ。問題意識や危機感はない」と書いていた。

 同大の1年間の退学率は数%だが、実数では300人超、4年間で1200人を超す。それでも「うちの大学はつぶれないから」と笑う教職員さえいるという。退学後、心の病にかかったりする人も多く、単に経営上の問題ではない。「なぜ退学したか。それを自分たちで調べ、対策を立てない限り、大学は良くならない」と職員は嘆く。

 鈴木寛・文科副大臣も「データ公開と教師力が問題解決のカギ」と強調する。長年、大学で教えてきたが、「議員との二足のわらじの自分よりひどい教員」が目についたという。退学者増は「社会益に反する」という本質的な問題を理解しない教員が少なくないのだ。

 そんな現状を破る方策に鈴木副大臣が考えているのが「毎日オープンキャンパス」だ。授業をはじめデータの裏側にある学内の日常をくまなく見せることで、見られる側の意識や行動が変わるのではないか。「国も何か支援したい」と話す。

 2人に1人が大学に進む時代が生む退学者。その1人ひとりの姿を思い浮かべるとき、「退学率」という数字は初めて、問題解決の起点として意味を持つようになる。

高校無償化の除外論浮上 朝鮮学校、教育方針は…

 「高校無償化」制度から除外すべきだ、という意見が出ている朝鮮学校中井洽拉致問題担当相が対象から外すよう文部科学省側に要請し、鳩山由紀夫首相も「どんな教育をしているのかみえない」という発言を重ねている。実際はどんな学校か。

 東京都北区にある、東京朝鮮中高級学校。1946年創立の同校の生徒数は、高級部(高校)が563人、中級部(中学)が164人。朝鮮籍の生徒が若干多いものの、韓国籍の生徒もほぼ同数いる。同校は「戦後の当初は朝鮮籍だけだったが、韓国籍が後からでき、在日社会のなかで韓国籍の人たちが徐々に増えていった」。言葉、文化といった民族教育を重視して韓国籍でも子どもを通わせる保護者も少なくない。

 グラウンドには、緑色の人工芝が広がっていた。サッカー、ラグビーの公式戦会場として使われている。ラグビー部は昨年、全国大会出場をかけた都代表決定戦まで進んだ強豪だ。同校は今年度、ボクシングとラグビーで東京都のアスリート育成推進校(155高校)の一つに指定された。

 各教室では、女性の先生や女子生徒は民族衣装のチマ・チョゴリ姿。授業は朝鮮語だ。英語の授業では、先生は英語と朝鮮語で話しながら、生徒たちの机の間を回って教えていた。

 黒板の上には、故・金日成主席と金正日総書記の肖像画が並べて掲げられている。慎吉雄校長(60)によると、肖像画は、2002年までは各朝鮮学校で掲げられていたが、朝鮮籍韓国籍を問わず保護者から「抵抗がある」との声が上がり、同校では義務教育段階の中級部で外し、高級部だけ残したという。

 過去10年間の大学進学をみると、毎年200〜300人いる卒業生のうち、朝鮮大学校(東京都小平市)に進む生徒が48人〜90人。一方で日本の大学にも47人〜105人が進学し、東大や京大、早慶にも合格者を出しているという。教科書は日本の大学の受験も意識し、進学校向けの教科書を参考にしながら「中の上」のレベルを目指して独自に編集しているという。拉致問題は記載していないが、「明らかな犯罪行為だったとしっかり教えている」(慎校長)。北朝鮮のミサイル発射については「人工衛星だ」と説明しているという。

 同校には東京都の補助金が交付されており、09年度の額は約630万円。中、高級部を合わせた年間予算約4億円の1%強だ。都には財務関係書類やカリキュラム、財産変更届といった書類を提出している。慎校長は「首相は『中身が見えない』と言うが、確認にはいつでも応じる。日本の多くの人に学校を直接みてもらいたい」と話す。

 同校によると、北朝鮮本国は、日本にある朝鮮学校への資金援助や奨学金などとして、総額で年間200万ドル(約2億円)を出している。同校が受け取った額は、ここ5年間は年20万円〜10万円という。


朝鮮学校 学校教育法上は一般の小中学校、高校ではなく「各種学校」に位置づけられている。文部科学省によると、日本の幼稚園〜高校の各段階にあたる学校が全国で計73校(うち休校8校)あり、児童生徒数は約8300人。うち、高校無償化の除外論が出ている高校段階の「高級部」は11校(うち休校1校)、生徒数は約1900人。学費は、東京朝鮮中高級学校の高級部では初年度納付金は約53万円。

私大補助金3217億円 09年度、3年連続の減少

日本私立学校振興・共済事業団は26日、私立の大学や短大、高等専門学校高専)に交付した2009年度の経常費補助金の総額が前年度比約31億円減の約3217億8200万円と発表した。補助金の前年度比1%減額を盛り込んだ政府の「骨太の方針」に基づき、3年連続で減少した。

 交付の内訳は大学542校、短大332校、高専3校の計877校。1校当たりの平均交付額は大学約5億4720万円、短大が約7421万円、高専が約1億8700万円。学生1人当たりの平均交付額は大学が約16万円、短大約17万円、高専約28万円だった。

 学校別では日本大の約107億2811万円が最も多く、次いで早稲田大が約91億9149万円、慶応大約87億415万円―の順。

 募集停止や運営不適正などの理由で不交付になったのは計100校。補助金は学生の経済的負担の軽減などが目的で、教職員数や学生数などに応じて配分している。

大学大競争:国立大法人化の功罪

◇衣装ケースで水槽 メス手作り

 「さあ、明日の実験の準備をするか」

 東日本の地方国立大で生物学を専攻する50代の男性教授は、近くのホームセンターで1本50円で買った細長い木の棒を取り出した。長さ20センチほどに切り、先端に切れ込みを入れる。カッターナイフの刃1枚を差し込み、固定する。実験動物の解剖などに使う手作りメスの完成だ。実験機器のカタログで買うより1本あたり数百円安く、「実験のたびに新しいメスを作るから、切れ味は案外いいんですよ」と、自嘲(じちょう)気味に笑う。

 実験動物を飼う水槽も手作りだ。普通に買えば10万円以上かかる。一つ980円の透明な衣装ケースを並べ、パイプでつないだ。かかった費用は計2万円。自腹で払った。

 今年度、大学から男性教授に支給された研究費は約30万円。学会出席の旅費、実験の試薬代、動物のえさ代などで、すぐになくなる。国立大学法人化(04年度)前の3分の1程度に減った。

 国から大学への運営費交付金の減額に加え、各大学の特色作りのため学長が独自に使う経費が増えた結果、研究者への配分が目減りした。

 当然、この額では満足な教育もできない。一番切ないのは、学生が好きな研究テーマを選べないことだ。研究室では、「お金のかからないテーマ」を選ぶのが暗黙のルール。高価な試薬や装置が必要な研究はしない。

 財務省は、現場の教員からの悲鳴に対し、「運営費交付金は減ったが、科学研究費補助金科研費)など競争的資金は大幅に増えた。全体で見てほしい」と反論する。だが、競争的資金には日本中の研究者が群がる。

 「東京大のような大学と地方大は、そもそも出発点が違う。金も人材も少ない。同じ土俵で戦っても勝てるわけがない」と、男性教授はため息をついた。男性教授の研究室の顕微鏡は、15〜20年前に買った。実験画像を録画するビデオデッキも20年前のものだ。「今は、昔の遺産で何とか生きている。だが、学生がふびん。学生が好きな実験ができるくらいにはしてほしい」

 ◇旧帝大以外、医学論文8%減

 法人化は教育だけではなく、大学の研究機能も脅かす。04〜09年に三重大学長を務めた豊田長康・同大学長顧問が、国立大医学部の研究者による医学論文(基礎・臨床)の数を分析したところ、法人化前まで増えていた論文数が、07年は03年比で3%減少した。特に東大、京都大など旧帝国大7大学以外の落ち込みが大きく、同8%も減った。一方、旧帝大は同5%増えた。

 国立大付属病院の収入不足を補う国からの交付金が、法人化された04年度の584億円が09年度は207億円に減額。自前の収入増を義務付けられた各病院は、患者や手術件数を増やし、教員は研究時間を削って診療に力を注ぐことになった。さらに新人医師が自由に研修先を選べる新臨床研修制度が、人手不足に拍車をかけた。

 豊田さんは「そもそも地方の国立大病院は人手が少なく、余裕がなかった。地方大のダメージは、旧帝大と比べものにならず、大学間格差が一層拡大した」と批判する。

大学など高等教育の充実こそ「国力」の源泉と位置づける世界各国は、高等教育機関への投資を増やす。一方、日本の高等教育機関への対GDP(国内総生産)比の公的支出は、OECD経済協力開発機構)加盟国の中で最下位だ。

 少子化が進み、財政難が続く中、限られた「パイ(金)」を奪い合う国立大。そして広がる大学間格差。01年から8年間、岐阜大学長を務めた黒木登志夫・東大名誉教授は「サッカーでもワールドカップで勝とうとしたら、Jリーグを強くしなければならないのと同じで、地方大の底上げが必要だ」と指摘する。国立大の変革は、まさに正念場を迎えている。

仙台・文化学園大補助金訴訟 二審も市に返還請求命令

学校法人東北文化学園大(仙台市)の補助金不正受給事件で、仙台市オンブズマン新日本有限責任監査法人(東京)と同社の元公認会計士に約7億8000万円を返還請求するよう市に求めた訴訟の控訴審判決で、仙台高裁(小野貞夫裁判長)は12日、オンブズマンの請求を全額認めた仙台地裁判決を支持、補助参加人の監査法人側の控訴を棄却した。

 監査法人の過失の有無と、過失と補助金交付の因果関係が争点となった。
 監査法人側は「大学の巧妙、悪質な偽装行為を監査で発見することは不可能で、過失はなかった」と主張。オンブズマンは「監査法人が適切な監査手続きを取らなかったため、大学側の偽装行為を可能にした」と強調していた。

 控訴審で、監査法人側は「市と学園大理事長の癒着とも言うべき関係があった。拙速に補助金交付を決めた市に重過失がある」とも指摘。市は「癒着はなく、議会の議決を経た正規の手続きで補助金を支出した」と反論した。

 一審判決は、監査法人側が金融機関に直接、大学の借入金残高の確認依頼をしなかったため、大学が虚偽の残高確認書を作成する余地を生じさせたと認定。正確な残高確認書であれば大学設置は認可されず、市が補助金を交付することもなかったと結論付けた。

 判決によると、大学側は開学時の1999年、負債を隠し、資産を水増しした会計書類で大学整備促進補助金の交付を市に申請、8億1000万円を不正受給した。不正発覚後、大学側が3100万円を返還した。