トヨタ式報告書は「7ステップ」をA3用紙1枚

トヨタ式報告書は「7ステップ」をA3用紙1枚



営業活動をボトムアップするステップ[I〜III]

■対策立案では終わらない
トヨタ社員は問題解決のための7つのステップ(場合によっては8つ)を新入社員研修のときから繰り返し教えられる。さらに、そのステップによって導かれた結果をA3・1枚にまとめるという習慣が根付いている。

「自分や会社が抱えている問題などについて、社員は日常的にこのやり方を使っています。入社1年目、4年目、8年目の社員研修時には大量の課題を与えられ、それをA3資料にまとめるという特別な時間が設けられます。現在のトヨタが置かれている立場についてどう考えるか、などキャリアが上がるにつれ、課題内容のハードルは高くなっていきます」(人材育成支援会社OJTソリューションズ・大鹿辰己氏)

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▼例題にチャレンジ
Q. あなたは営業部の課長です。このたび、会社の経営方針として営業部の売り上げ目標達成の強化が打ち出されました。課長であるあなたには、この方針を実現できる対策を立案し、報告書としてまとめるようにとの指示がありました。効果的な対策を立案し、わかりやすく報告書としてまとめるにはどうしたらいいでしょうか。

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早速、その方法論を手順を追って学んでいこう。

まずIの段階では、「本来あるべき営業部隊の姿」と「現状」を確認して、そのギャップを明確にする。IIでは、数値的に現状把握をするため、昨今の営業の衰退ぶりについてグラフなどを用いて洗い出す。そのうえで、IIIにおいて今後、営業活動をどの程度増やすかという目標設定をする。


こうしたプロセスの肝となるのが、「トヨタ式『5回のなぜ』でトラブル原因を因数分解」で例示した、「フィッシュボーン」による要因解析(IV)。「なぜ」を繰り返し、課題の真因を見つけ出していく。

I〜IVを踏まえ、Vの段階で本格的な対策立案に移る。例題では、「営業部員には人と話すのが苦手な人がいる」という原因を真因ととらえ、それに対して、「毎朝のミーティングなどのときに一分間スピーチをするなどして人前で話す訓練をする(半年継続)」という対策を立てることになった。

トヨタでは対策を立てておしまいではなく、その後の評価方法や、対策の効果が高く出るように、また効果が長く持続されるように“標準化(定着)”するための方策も立てます」(同)

7ステップの各項目を、具体的かつ論理的に整理しながら書き出していく。こうした作業を繰り返すことで、トヨタ式の深い思考回路が完成するのだ。

■解決POINT
【1】テーマの選定理由を明確にする
まずは「目的」を再認識する(「背景」)ことで、「あるべき姿」がはっきりする(「あるべき姿」)。「あるべき姿」と現状を照らし合わせれば、ギャップを確認できる。このギャップの克服がテーマとなる。

【2】現状の問題点を「数値」で把握する
テーマに関して、現状の問題点を示す。グラフなどの「数値」で表すほか、問題が発生するまでのプロセスを実際に現場で確認したり、関係者へヒアリングした結果など、具体的に示すことがポイント。

【3】目標を数値で落とし込もう
現状と「あるべき姿」から、到達すべき目標を明示する。ポイントは、何を、どこまでに、いつまでに、を含めて決めること。ポイント2で明らかにした現状の数値から、数値目標を決める。

【4】問題の根本原因を特定する
詳細は「トヨタ式『5回のなぜ』でトラブル原因を因数分解」で解説。トヨタでは思考の過程をフィッシュボーンチャートで描くことが多い。思考の過程が一目瞭然で、詰めが甘い報告書はたちまち不備を指摘されることになる。

【5】効果的な対策を導き出そう
まずは真因から対策の方向性を考える。方向性にそって対策案をできるだけ多く洗い出し、それらを「効果」「コスト」「リスク」の観点から評価。ベストの対策を特定する。

【6】対策実施後の効果を確認しよう
PDCAサイクルのチェックにあたる。ポイント2で示した対策実施前の「数値」がどれだけ改善したか、グラフで示して明らかにする。効果がなければIV、Vへ戻ろう。

【7】効果が出たしくみは定例化しよう
PDCAサイクルのアクションにあたる。一般的な報告書は対策を書いて終わるケースが多いが、その後の評価方法、それをどう定着させるかまで書き込むことが求められる。










新入社員から叩きこまれる手法

どんな会社・部署でもトラブルは付きものだろう。トヨタもまたしかりであるが、そこで働く社員には強力な武器がある。

「5回のなぜ」だ。

トラブルに直面したとき、トヨタ社員は「なぜそれが起きたのか」を繰り返し考える。すぐに思いつく答えを安易に結論とせず、真の原因を探ることが目的だ。トヨタ生産方式の生みの親である元副社長の大野耐一氏が提唱したと言われる考え方で、トヨタ社員は新入社員のときから徹底して叩きこまれる。

早速、彼らの思考のプロセスをたどってみよう。まずは例題に挑戦していただきたい。

▼例題にチャレンジ
Q. あなたは営業部の課長です。営業部の売り上げ目標達成するべく、対策を練っています。現状を把握したところ、新規顧客へ複数回訪問している部下が少ないことがわかりました。その原因を探るにはどうしたらいいでしょうか。
ある営業部に在籍する課長が部下たちの新規顧客への訪問数が少ないことに気付いた。このゆゆしき問題をどう解決したらいいかを探るという内容だ。

今回、多くのトヨタ出身トレーナーが所属する人材育成支援会社OJTソリューションズ・大鹿辰己氏と岡内彩氏に解説していただいた。まず見てほしいのが、図だ。魚の骨のような形をしているが、これがトヨタ式思考を凝縮したものである。


図を拡大
フィッシュボーンで真因を探る
「まず手をつけるべきは、露呈した問題のおおよその原因を洗い出すことです(これが大骨部分にあたり、上の例題では「メンタル」「行動量」「スキル」が該当)。その際、3C(市場・顧客、競合、自社)や、4P(製品、価格、流通、PR)、4M(方法、材料、機械、人)といったフレームワークを使うと原因を見つけやすいです」(大鹿氏)

これが要因解析における第一の「なぜ」。ただし、要因であって、真因ではない。さらに「なぜなぜ」と追求するのである。

浮かび上がった「メンタル」「行動量」「スキル」という要因。次はそれらをそれぞれ掘り下げて「なぜ」を繰り返し、中骨や小骨を抽出していく。たとえば、「スキル」の少なさ、に焦点を絞ってなぜを繰り返してみよう。なぜ「顧客にうまく説明できていない」のか。スタッフに聞き取り調査をすると、「商品知識が不十分だった」とわかった。

要因が出そろったら、手を打てば、再発防止ができる真因はどれかを突き止める。「効果」と「実現性」の点から考えると見抜きやすい。例題の場合、最終的に真因は「相手状況の認識不足」と「商品知識の不足」「人と話すのが苦手」に絞られた。

「なぜ」の追求を「うまく説明できない」の段階で終えていれば、真因にはたどりつけなかったことがわかるだろう。
正真正銘の「真因」はどこにあるか

「なぜなぜ、としつこくやるほど、どんどん骨が出てきます。そうやって発見したたくさんの大骨、中骨、小骨のなかに真因が隠れている。一見、どうってことのないように思えることが問題解決の核心をついていることがよくあるんです」(同)

例えば、ある工場で、ラインが突然停止するトラブルが発生したとする。担当者に聞くと、止まった原因は、「モーターに負荷がかかりすぎた結果、配電盤のヒューズが飛んだ」というものだった。つまり、1回目の「なぜ」でわかったのは「ヒューズが飛んだから」。これでも一応の理由にはなっているが、トヨタではそこで終わらない。なぜ、モーターに負荷がかかりすぎたかを考えたことで(2回目の「なぜ」)、モーターの潤滑油が不足していたことが判明。さらに、その潤滑油不足の原因を探ると(3回目の「なぜ」)、ポンプの性能に難があり、十分に潤滑油をくみ上げていないことがわかった。もう真因にたどりついたかと思えば、さにあらず。なぜ、ポンプの性能が悪かったのか調べると、ポンプの軸が磨り減っていた。そして、その軸はなぜ磨り減ったか――実は、潤滑油をためるタンクの中にラインから出る切り粉(切削屑)が大量に混入し、それがポンプの軸を異常に磨り減らしていた。これが、正真正銘の「真因」だったのである。

トヨタでは真因をひねり出したら、すぐその対策の立案・実施をしますが、それが功を奏さないときは真因の出し方が悪かったのではないかと、真因探しのやり直しをすることは珍しくありません」


解決POINT

【1】1回目の「なぜ」で大骨を入れる

問題の要因は何か。1回目の「なぜ」で大骨(1)に記入する。迷ったらマーケティングの3C(市場・顧客、競合、自社)、4P(製品、価格、流通、PR)などのフレームワークを使って考えてみるとひらめきやすい。

【2】「なぜ」を続け、中骨、小骨を入れる

なぜ大骨(1)は発生するのか。その要因を中骨(2)に入れる。中骨(2)の要因を小骨(3)に入れて、「なぜ」を繰り返す。因果関係を正しくとらえているかどうかは「小骨(3)だから中骨(2)である」とさかのぼっても成立するかを確認するとよい。

【3】問題の根本原因を突き止める

集まった要因から対策すべき「真因」を突き止める。「効果」と「実現性」の点から見つける。例題では(3)の3つを真因と判断。対策を実施しても問題が再発する場合は真因探しに失敗している。ポイント2に戻り、「なぜ」が足りない部分はないかチェックしよう。