KISS+100 KISS特区、始動せり (70)

 Kiss x 500は時々思い出しては進めしているうちにもう3年くらい経ってしまい、選択肢が多すぎてどのヒロインを攻略しているのか忘れてしまい、いくらテクストが面白くてやるたびに笑わされることがあっても、さすがにテンションが落ちてしまいそろそろ攻略際を見ながら一気に終わらせようかと思いつつも、抜きゲーを攻略サイト見ながら一気に終わらすのは空しいので躊躇っているうちに放置扱いになってしまうのと比べると、この低価格シリーズはボリュームが長編の5〜6割くらい(?)で手頃なので一気にクリアする気になれてバランスが良いように思えた(ルート分岐はやはり複雑なので攻略サイトを頼ったけど)。システムだけじゃなくて絵が好みに近かったということもある。Wintersのゲームの絵は古風で正直いまいちなのが多いけど、今回の絵はけっこう可愛くてえろく、モチベーション(ムラムラ感)が持続した。始めてこのメーカーのゲームに出会ったときには、ライターさんのこの筆力というか筆圧があればゆくゆくは相当いかれた境地にたどり着くかもしれないと期待したものだが、結局ははじめに切り開いた地平から遠く離れることはなく、律儀に抜きゲーを作り続けている。xシリーズのほうは個人的にはエッチシーンのボリュームにシナリオパートがついていけていなくて単調でバランスが悪いと思っているので、抜きゲーとしての最適化はこの+シリーズで続けて、xシリーズでは何かエロ以外の部分で思い切ったことに挑戦してもらえないかと期待。
 ゲームの内容については、常軌を逸したなし崩しエッチの世界で抜きつ笑いつさせてもらいつつ、北海道の果ての荒涼とした僻地の薄ら寒さを味わうという、いつものやつ。楽しい。音楽もいつも通りの不気味なもので、今回は何かイスラム密教っぽいというかスーフィズムっぽいというか、妙なお経みたいなBGMがエッチシーンで流れたりしてよかった。アラブ方面で官能物といえばオリエントなハーレムのイメージがあって、エロゲーではエロ方面では俺たちに翼はないが、リリカルなものでは白光のヴァルーシアの幕間の語りとかが思い浮かぶけど、本作ではどちらかというと瞑想的な感じだった。北海道の東威子府村でイスラムというのはやや唐突かもしれないけど、どちらも荒涼とした風土ということを考えればそうでもないのか・・・。といっても、よく見ると背景は自然公園みたいなところもあり、星などは気味が悪いほどにくっきりと見えたりして、それなりに風光明媚といえなくもないのがありがたい(あまりに汚いところだと性欲もなくなる)。
 で、主人公・焼尻得撫(やぎしり・うるっぷ)。Wintersの作品の主人公は人間離れした怪物的なところがあるので、こういう奇怪な名前はかえって馴染むというか。ヒロインたちが日常会話でもエッチシーンでも普通にうるっぷうるっぷいうのにははじめはインパクトがあって笑わされたけど、そのうち慣れてしまった。
 ヒロインたちは、繰り返しになるが、みんな可愛くてえろい。設定で時間的な厚みをつけたりせず、基本的に驚きと喜びと不安と官能の極点の間を野蛮なほどのスピード感で行ったりきたりするような状態にあるので(テクストが説明するテンポよりも速く服が脱げたり、第2のヒロインが部屋に乱入してきたり、夜が明けたりする)、寝取られシーンでは積み上げてきたものが崩れ去るような喪失感はなく、偶発的に隣りにいた人エッチをしていたという、僥倖としてのエロさというか、説得しようとしない、暴発としてのエロさというか、そういう突如現れたエロさがその場を支配して駆動することにこちらも押し流される心地よさがある。そういうエロさは寝取られシーンだけのことではないのだけど、寝取られの背徳感は特区が設定するルールの背徳感とつながるところがある。エッチが発生するのは主人公の怪物的な振る舞いだけが原因ではなく、ヒロインも自らそういう磁場を発生させられるエロさをもっていることがわかって嬉しいというか、しかしそれはやはりおビッチなヒロインではダメで、自らそういう場のエロさに驚くようなヒロインでなければならないというか。日常と非日常(エロ)は一跨ぎで移動できるほどに近接してなければならないけど、だからと互いの領域を侵しあうことはなく、日常においてはやたらと色目を使ったりしない常識的な女の子であり、その中にあって、エロいことは愛の物語のゴールとしてではなく唐突に天から降ってくる恵みのようなものとして発生する。エッチシーンでも女の子は変質してしまうのではなく、常識的な女の子でありながらも場の作用を受けて思わずエッチなことをしてしまう。面倒な物語も人間関係の韜晦も不要。空間自体がエロスという僥倖をはらんでいて、それはちょっとしたことで着火する。そしてエロいことは与えられるものだから、弱気なので待ちの姿勢が基本であるむっつり系の紳士には非常に居心地が良い。特区は雨乞いをするシャーマンたちの祈りと喜びに満ちている。そう見れば瞑想のようなBGMにも説明がつくのかも・・・
 まとめると、この作品のKISS特区というのはけっこうなユートピアなのではないでしょうか。悪者は誰もいない。コミュニケーションスキルや社交性が必要とされるわけじゃないので心が病むこともない。もちろん全ては都合のいいフィクションで、本当はセックスにもキスにもありつけない住民もいるのだろうけど、誰もが自分の欲望を素直にされけだし、お互いの欲望の速度に驚きあい、わけの分からないままエッチにふけり、決して倦怠感というものが生まれない。こう書くと退化した動物の牢獄のようにも見えるけど、それは一方的な見方で、ユートピアとして内側から見せることことが出来るのがWintersのすごいところなのだなあとあらためて。Wintersの作品で村とか学校とか島とか、そういう閉じた空間が非常識な場として設定されることが多いけど、人工的な特区として特権性が露出しているのが本作で。
 あと、ひとつ蛇足をば。以前、then-dさんの論集に載せていただいた猫撫ディストーションについての小文「驚きのギズモ」でヒロインたちの提示するそれぞれ理想の世界と驚きとの関係についてみてみたが、上記の通り驚きに関しては「!」と「?」が乱舞するWintersの作品が以前から別の強固な体系を構築している。ひとつの仮定として、もしギズモがこの特区に迷い込んだらどうなるだろうか。おそらく、あまりエロくはならないいと思う。驚くためにはその前提となる突き崩されるべき常識がなければならないけど、ギズモはまだそういった常識も背徳感も知らないような子供だったから。でも平井先生が書けばやっぱりエロくなるのかもしれない。xシリーズで元長・藤木コンビとコラボして、人間と怪物とエロスについての壮大なゲームをぜひ・・・
 ちなみに、個人的に一番驚いたのは、楓とのエッチシーンで絶頂時に楓の乳首がヒュッと立ち上がる演出だった。楓は一番えろさを感じられたヒロインだった。それは彼女が落ち着いた常識的な女の子という設定だったということもあるけど、彼女の意識が常に主人公に向いているからだ。そして彼女に限らずだけど、女の子たちが一番主人公を意識している、というかセックスという行為に埋没せずに場の中できちんと浮き上がっているように思われるのは寝取られ(というか正確には浮気か)のシーンだった。そういうしっかり者の女の子がご近所のおじいさんとかといたしてしまうというのが偶発性の奇跡であり、僥倖なのだった。エロいことは自分のみに突如起こったり、反対に突如取り上げられたり、あるいは自分の手の届かないすぐ隣に発生したりする。その密度が濃い霊的な空間がKISS特区だ。長々と馬鹿げたことを書き連ねてしまったが、要するに羨ましいの一言に尽きる。


追記:Kiss+100の予約特典ドラマCDは、BGMもなく楓が55分間延々とキスをしながらエッチシーンを語り(歩いているだけで気づいたらキスをしていたりエッチなお願いをされて許したり…)、最後の落ちもなくきっちり終わるという、Wintersのウェブサイトに通じるシンプルな力強さで笑えた。そしてエロかった。それでも楓はいい子であり続けるという不思議。


補足:ErogameScapeでありがたいコメントを頂いた。http://erogamescape.dyndns.org/~ap2/ero/toukei_kaiseki/memo.php?game=16866&uid=vostok