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ダンスの海へ 舞踊評論家・高橋森彦のblog このページをアンテナに追加 RSSフィード

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2006-04-03

[]貞松・浜田バレエ団「ラ・プリマヴェラ〜春」

神戸の貞松・浜田バレエ団が「ラ・プリマヴェラ〜春」を開催した。創立40周年及びオハッド・ナハリン振付『DANCE』による文化庁芸術祭大賞受賞の記念公演。関西の雄としての自負と、上り調子のカンパニーの勢いを感じさせる舞台となった。

公演は三部構成。第一部、第二部はバレエ・コンサートが行われた。幕開けを飾るのは、『海と真珠』よりパ・ド・トロワ。半井聡子、谷村さやか、芦内雄二郎が華やかに踊る。『シンデレラ』よりパ・ド・ドゥ(大江陽子、桑田充(橋本桂子バレエ教室) )、『ラ・ぺリ』(安原梨乃、貞松正一郎)よりでは、ベテランたちの好リードに導かれ、若手バレリーナたちが美しく舞った。『エスメラルダ』(佐々木優希、山口章(フリー)ほか)は群舞つきの豪華版。『バヤデルカ』影の王国のパ・ド・ドゥは、新星・武藤天華が山口益加と組んだ。ヴェールなども用いる難しいパ・ド・ドゥであり、両者とも硬さがみられたものの、見事踊り切り喝采を浴びた。

第一部の最後に『コンティヌオ』(ドナルド・マーラー指導)が上演された。アントニー・チューダー晩年の小品である。チューダーといえば、『火の柱』『リラの園』など心理バレエの傑作で知られるが、この作品はプロットレス。白のシンプルな衣装を着た3組のペア(上村未香、竹中優花、吉田朱里、川村康二、アンドリュー・エルフィンストン、武藤天華)がパッヘルベルの「カノン」にのせて踊る。終始淀みなく、流れるような振付が特徴。チューダー作品というと、暗く、人間の心の深部を洗い出すかのようなドラマティックなものという印象が強い。しかし、この作品は、老境に達した振付家が、人生における喜び悲しみのすべてを肯定し、受け入れるかのような純粋さにみたされていた。観るひとによって胸に去来するものは、おのずと異なるだろう。忘れ難い佳品だった。

第二部は、武用宜子、川村康二による『海賊』グラン・パ・ド・ドゥから始まる。川村は、ヴィシニョーワ&ファジェーエフと共演した『白鳥の湖』(兵庫県芸術文化センターオープニング公演)ロットバルトでもみせ場をさらうような、味のあるダンサーだ。『詩人の歌』(竹中優花、弓場亮太(奥村京子バレエ・スクール)は詩情豊かな舞台。『ダイアナとアクティオン』よりグラン・パ・ド・ドゥでは、廣岡奈美と組んだ関西の若手ホープ恵谷彰(赤松優バレエ学園)が超絶技巧をパワフルに踊り沸かせた。『ラ・シルフィード』よりパ・ド・ドゥは、正木志保、桑田充という実力者同士の顔合わせ。ベテランの味が存分に発揮された。『スパルタクス』よりパ・ド・ドゥも印象的。吉田朱里と山口章がグリゴローヴィッチ振付特有の難しいパやリフトをこなすのみならず、物語の背景を十分感じさせた。

そして、本公演の白眉といっていいのが、瀬島五月とアンドリュー・エルフィンストンによる『ジゼル』第二幕のパ・ド・ドゥ。ガラ公演でこのパ・ド・ドゥを踊ると、会場の雰囲気が盛り下がることが多々ある。また、“ジゼルは30を過ぎてから”というひともいて、ベテラン・プリマの至芸を味わうものという趣もある。しかし、瀬島のジゼルは素晴しかった。全客が惹きこまれた、といっても言い過ぎではないだろう。ステップの精緻さ、ラインへの高い意識。若さの生む詩情と、堂々たる舞台姿。若手プリマのなかでも、その力量は一頭地を抜いている。多くの人に見てほしいダンサーだ。エルフィンストンの端正な踊りと、誠実なサポートも心に残った。ぜひ、全幕で観てみたい。

第三部は、貞松正一郎振付『アイ・ガット・リズム』。ガーシュインの曲にのせ贈る、ミュージカルを思わせるような楽しいステージ。バレエ団総出演で粋なダンスが繰り広げられる。このバレエ団の最大の魅力は、何よりも踊る喜びがあふれていること。ことに、この作品や『セイラーズ・セイリング』といった、貞松の振付作品をみれば、だれもがそのことを実感するに違いない。

今回のようにパ・ド・ドゥ中心の長丁場だと、ややもすれば発表会めいてしまう。しかし、多彩な作品で変化をつけ飽きさせない。踊り手の力量もなかなかのもの。プリマ・クラスが5人ほどおり、妍を競っている。男性も同様に、ベテランから若手まで総じてレベルが高い。古典のみならず、現代作品、そして、エンターテインメント色あふれる作品まで踊りこなす表現の幅の広さ。

バレエ団の底力を感じさせる公演であった。

(2006年3月25日 神戸文化中ホール)