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ダンスの海へ 舞踊評論家・高橋森彦のblog このページをアンテナに追加 RSSフィード

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2007-06-20

[]葛タカ女 舞の会

地唄舞の舞い手のなかでも注目される葛流・葛タカ女の会をみることができた。

地唄舞とは、江戸時代中期から末期にかけて上方で生まれた、伴奏に上方歌を用いる座敷舞・上方舞の一種。大阪の土地に伝播した地歌を伴奏に用いるものである。地歌とは、盲人音楽家が創り歌い継いだ三味線歌。能や歌舞伎、人形浄瑠璃などを源泉としつつ遊里の室内舞踊として発展してきた。演目としては、能楽から材を得た本行物、女舞の、艶やかな舞である艶物、歌舞伎舞踊を上方舞に取り入れた芝居物、軽妙な味のおどけ物である作物などが挙げられる。

今回の会では、タカ女が三曲舞う。最初の『八島』は能の「八島」から採った本行物。西国を行脚する僧が屋島の地で源義経の霊に遇うという話だ。三絃と琴、唄いに合わせた幽玄な雰囲気のなかにも格調のある舞がみもの。二曲目の『蛙』は、唄・三絃に合わせた作物。蛙が蛇に食べられそうになったとき、蛙は蛇に「カラスに食べられた親の敵討ちをするために活かしてください」ととっさに懇願、息子を鳶に殺された蛇は蛙を助け去っていく。口八丁で難を逃れた蛙の滑稽譚。おどけ物ならではのしゃれた味わいを楽しむことができた。そして最後は『雪』。ソセキという尼が若き日芸妓であった頃の恋を述懐する。「花も雪も払えば清き袂かな」という文句で始まる艶物の代表作だ。『雪』といえば、畢生の当たり役としたのが武原はん。彼女に師事した坂東玉三郎のものを以前観て陶然とさせられたが、タカ女の、しっとりとした情感がひたひたと迫る舞もじつに見事である。

本行物、作物、艶物という、地唄舞のなかでも毛色の違った舞をたくみに配した会であり、日舞に疎いものにとっても地唄舞の魅力、奥深さをじっくり味わうことができた。ひとくちに舞踊といっても範囲は広い。会場には洋舞関係者の姿も散見された。さまざまのジャンルの踊り・舞に接することは有益だとあらためて実感させられる会だった。

(2007年6月15日 国立劇場小劇場)

2007-06-11

[]ミラノ・スカラ座バレエ団『ドン・キホーテ

ミラノ・スカラ座バレエ団7年ぶりの来日公演はルドルフ・ヌレエフ演出・振付『ドン・キホーテ』。プティパ以来の伝統を重んじつつ新たな解釈が施されている。コメディア・デラルテとの親和性など新機軸が打ち出され、ジョン・ランチベリーの手によりスローテンポに新たな編曲が行われれた。ヌレエフ版といえば何といっても振付が凄い。自身卓越したテクニシャンであっただけに嫌味なくらい難しい振りが散りばめられている。踊り手にとっては過酷であり、技量不足のものが踊ると悲惨な目にあってしまう。その点、上野水香&レオニード・サラファーノフの主役ペアは抜群のテクニックと華のある演技をみせてくれた。

サラファーノフの、しなやかで重力を感じさせない跳躍には感心させられる。パの継ぎ目を感じさせず見事というほかない。優美で音楽的な流れを崩さず超絶技巧をみせるという点では現在、おそらく世界最高だろう。トゥール・ザン・レールからピルエット2回挟んで再びトゥール・ザン・レールなど果てしなく続けられそうなテクニックには平伏すほかない。ヌレエフ振付を少しも誤魔化すことなく踊り好感度大。ただ、童顔であり、バジルやフランツ役はハマっても王子役だと少々厳しい気もする。近い将来のキャリアは分からないものの、仮に<時分の花>であってもいま見ておいて損のない踊り手なのは確かだ。

上野水香はスカラ座メンバーのなかに入っても見劣りしないプロポーションがまず見事。脚の表現が雄弁であり、高々と広げられる脚や、ややふらついたものの根性?でみせた長いバランスはため息をさそう。キトリ役は水香ちゃんが老若男女に広く支持される、健康的でチャーミングというキャラとぴったり。ところどころ小悪魔的というか大人っぽい魅力を出せるようになってきて魅力が倍増した。来日公演への参加とはいえ、海外名門バレエ団の主役を堂々務める姿に観客も自然と日本代表?とばかりに応援モードになっており微笑ましくもあった。スターとしての輝きをひときわ増す上野の今後にも注目したい。

日本-ロシアの旬なスターの両者は、当然ながら初顔合わせ。パートナーシップにはやや乱れもあったが大きなミスはなく一安心といったところだろう(サラファーノフはサポート力にはやや不安が残る)。両者ともに高度な技巧の持ち主でありバランスの取れたペアだったように思う。関西ならいざ知らず関東では珍しい手拍子が何度か沸き起こった。カーテンコールでのスタンディングオベーションも近年随分安売りされるようになったが、今回は自然と沸き起こり温かい空気に会場は包まれた。お祭と割り切って美技、妙技に酔うのもまた愉し。

スカラ座バレエ自体は世界最古峰の格式と実力を誇るオペラにくらべるとやや寂しい陣容なのは否めない。1幕の町の広場の群舞ではいい意味で雑多なムードが出ていて悪くなかったが2幕の夢の場は純然たるクラシックであり、もう一息ほしかったところ。ウリのひとつであった舞台美術は同じくヌレエフ版を採り入れているパリ・オペラ座や松山バレエ団のものとは違ったスカラ座独自のもの。照明効果も相俟って奥行きと陰影ある舞台を創り出していた。

(2007年6月10日 東京文化会館)

※本公演についてはプログラムに寄稿いたしました。

2007-06-03

[]H・アール・カオス、カレイドスコープ、平山素子、寺田みさこ


毎年、夏前から公演ラッシュが始まり、翌年の三月末まで続く。今年も5月末あたりからいろいろと興味深い公演が並んだ。

H・アール・カオス『Drop Dead Chaos』(5/24-27日 世田谷パブリックシアター)は久々の新作公演。これまでのカオス作品とは趣を大きく異にしストイックな美しさが出ていた。美術も派手さは抑えられシンプル。白河直子のみならず他のメンバーの存在感も増している。新上裕也と群青もカオスの世界になじんでいた。

ダンスカンパニーカレイドスコープ「The World of Kaleidoscope vol.2 part1 〜7人のコレオグラファーによる〜Members Dance Show Case」(5/25-27日 麻布die pratze)はメンバーたちによる7つの小品が並ぶ。中核の二見一幸、田保知里のほか大竹千春、中村真知子の創作などに手ごたえを感じた。優れた踊り手の揃うカンパニーだが、このところ二見以外にも創作の機会を与えつねに活性化を図っている姿勢は好ましいと思う。

平山素子「Life Casting -型取られる生命-」(6/1-3日 新国立劇場小劇場)は“型取り”をテーマに二つの作品が上演された。前半の平山によるソロには光樹脂によって創られた自身の型が登場、それと向き合いながら踊る。濃密で息をのむような30分。後半のグループワークでは、平山は振付に徹した。緩やかながら不定形で踊るのは難しい振付だろう。酒井はな、平原慎太郎、川口ゆいら個性派キャストを用い混沌とした世界を表現していた。

SePT独舞 vol.17・寺田みさこ『愛音-AION-』(6/1-3日 シアタートラム)は、寺田初のソロ公演。美術の高嶺格との共同作業にも注目が集まった。エロくグロテスク。場を追うごとに変質し過剰なまでに暴走する身体。砂連尾理とのデュオでは、男女の距離をさまざまなアプローチで探求してきたが、今回は寺田の身体に蓄積されたカオスとでもいうべきものが出ていたように思う。高嶺の美術は意想外のアイデアであり、寺田のダンスと密接に関わりあう。動きという点では、バレエテクニックと、これまで砂連尾との共同作業などを通じ育まれた動きと共存、衝突、絡み合う点が興味深い。バレエだからコンテだからというのではなく動きのどこを切り取っても自身の蓄積のなかから生まれてきたのは疑いないだろう。ちなみにこの公演は、7月28-29日にびわ湖ホール 大ホール舞台上舞台でも上演される。

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