葛タカ女 舞の会

地唄舞の舞い手のなかでも注目される葛流・葛タカ女の会をみることができた。
地唄舞とは、江戸時代中期から末期にかけて上方で生まれた、伴奏に上方歌を用いる座敷舞・上方舞の一種。大阪の土地に伝播した地歌を伴奏に用いるものである。地歌とは、盲人音楽家が創り歌い継いだ三味線歌。能や歌舞伎、人形浄瑠璃などを源泉としつつ遊里の室内舞踊として発展してきた。演目としては、能楽から材を得た本行物、女舞の、艶やかな舞である艶物、歌舞伎舞踊上方舞に取り入れた芝居物、軽妙な味のおどけ物である作物などが挙げられる。
今回の会では、タカ女が三曲舞う。最初の『八島』は能の「八島」から採った本行物。西国を行脚する僧が屋島の地で源義経の霊に遇うという話だ。三絃と琴、唄いに合わせた幽玄な雰囲気のなかにも格調のある舞がみもの。二曲目の『蛙』は、唄・三絃に合わせた作物。蛙が蛇に食べられそうになったとき、蛙は蛇に「カラスに食べられた親の敵討ちをするために活かしてください」ととっさに懇願、息子を鳶に殺された蛇は蛙を助け去っていく。口八丁で難を逃れた蛙の滑稽譚。おどけ物ならではのしゃれた味わいを楽しむことができた。そして最後は『雪』。ソセキという尼が若き日芸妓であった頃の恋を述懐する。「花も雪も払えば清き袂かな」という文句で始まる艶物の代表作だ。『雪』といえば、畢生の当たり役としたのが武原はん。彼女に師事した坂東玉三郎のものを以前観て陶然とさせられたが、タカ女の、しっとりとした情感がひたひたと迫る舞もじつに見事である。
本行物、作物、艶物という、地唄舞のなかでも毛色の違った舞をたくみに配した会であり、日舞に疎いものにとっても地唄舞の魅力、奥深さをじっくり味わうことができた。ひとくちに舞踊といっても範囲は広い。会場には洋舞関係者の姿も散見された。さまざまのジャンルの踊り・舞に接することは有益だとあらためて実感させられる会だった。
(2007年6月15日 国立劇場小劇場)