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ダンスの海へ 舞踊評論家・高橋森彦のblog このページをアンテナに追加 RSSフィード

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2007-07-25

[]井上バレエ団『眠りの森の美女』

井上バレエ団7月公演は『眠りの森の美女』。王子役に英国ロイヤル・バレエから新進プリンシパルのティアゴ・ソアレスを招くはずだったが怪我のため降板。急遽、パリ・オペラ座バレエのプルミエール・ダンスールのエマニュエル・ティボーが代役として来日した。オーロラは藤井直子と島田衣子が日替わりで務める予定が本番直前に藤井が怪我。島田が2日間出演となった。

島田は若くして古典全幕に主演、コンテンポラリーや創作バレエでも活躍しているが、経験を重ね、いまがまさに旬、脂が乗り切っているといえよう。主役の個性・存在感がなによりも重要となるオーロラ役でも島田はその充実振りを存分にみせてくれた。第一幕、彼女が登場するだけでパッと舞台が明るくなる。初々しさ、可憐さと皇女の品格を兼ね備えた見事なプレザンス。ローズ・アダージオでも気負いというものがいささかも感じられない。安定し、余裕のある演技。ピンクのチュチュに身をまとった姿はさながらさしそめる曙光のように美しかった。第三幕、グラン・パ・ド・ドゥでは、シャープで明晰なパの運びが心地いい。ティボーとの息のあったフィッシュ・ダイブも見ごたえがある。

ティボーは昨春のパリ・オペラ座バレエ来日公演でも活躍、日本にも根強いファンがいるが今回、それは倍増となったことだろう。跳躍、回転に力感みなぎり、演技にも心がこもっている。独特の優雅で甘い雰囲気も魅力的だ。シリル・アタナソフの推薦により両親とのバカンスをキャンセルしての急な舞台とのことだったが、『眠り』の全幕の主役は初めて。期するものがあったのだろう。リハーサルも短期間だったはずだが、島田と相性もよく華のあるカップルだった。

演出・振付は関直人。関は後に師となる小牧正英らの参加した東京バレエ団(現在のチャイコフスキー記念東京バレエ団とは異なる)による日本初演『白鳥の湖』を観てバレエの世界に飛び込んだ。『眠り』の日本初演は1952年、小牧と英国から招いたソーニア・アロワの手によるもの。その舞台が関の演出にどこまで影響を及ぼしているのかどうかは往時を知らない者には分からない(ロイヤル版に基づいてはいるようだが)。が、奥深い魅力を感じさせるピーター・ファーマーの美術を採用、お伽話の世界と、どことなくロマンチシズム漂う舞台は紛れもなく関ならではのもの。関の美学が隅々にまで感じられる舞台であった。

(2007年7月21日 ゆうぽうと簡易保険ホール)

2007-07-24

[]松岡伶子バレエ団 アトリエ公演

17年前に始まったこの公演は、当初新人公演と謳われていたように、若いダンサーのための勉強の場として始められた。初期はクラシック作品中心だったが現在では第一線で活躍する振付家を招き、現代作品にも取組み成果を挙げている。

今年のゲスト振付家は島崎徹。国内よりも海外でその真価を認められている、世界的振付家だ。現在は、神戸女学院にて舞踊専攻の教授を務め、今春の発表会は大反響を巻起こしたと聞く。筆者がその作品に接するのは02年新国立劇場「J-バレエ」(素晴しい企画だった)で発表された『FEELING IS EVERYWHERE』以来。

今回上演された『RUN』も魅力的な作品であった。島崎ならではの高密度な振りは勿論のこと、フロアの動きからただ走るという行為まで多彩な舞踊語彙が織り込まれ、観るものを飽きさせない。ハードな舞台、踊り手は皆、身体の芯からふり絞るように動きを生みだし圧倒的であった。踊り手個々の個性、エネルギーがひしひしと感じられるのが素晴しい。大岩千恵子、安藤有紀はじめ松岡バレエ団の踊り手に加え、客演の佐々木信彦、山田茂樹の熱演も心に残った。

島崎の作品を観るたび、真のオリジナリティとは何か、と考えさせられる。島崎は、西洋流の振付術を身に着けながらもその枠に囚われることはない。世界規模で考えても、気鋭の振付家といえば、フォーサイスもしくはキリアンの亜流ばかりが跋扈している。欧米のカンパニーもそれらと一線を画した振付家を探しているのが現状のようだ。創意に富む島崎作品が欧州で引く手あまたなのも当然である。その島崎の帰国後、最初に作品制作を依頼したのが松岡伶子だ。松岡バレエでは、古くから創作バレエにも力を入れてきた。古典と創作は両輪という思想を長年、地域から発信してきた姿勢は注目される。

『パキータ』よりマズルカ、『アサフィエフ組曲』(振付:松岡璃映)はジュニアの踊り手の清新さをうまく引き出す好プログラム。『白鳥の湖』第3幕より 黒鳥のグラン・パ・ド・ドゥは小島沙耶香と市橋万樹が好演。それぞれ若さ溢れる踊りであり、ことにヴァリエーションでは見せ場を作った。『卒業記念舞踏会』(振付:大寺資二)には、このバレエ団の自慢、ボーイズクラスの充実振りを実感させられる。通常のフェッテ競争などを排し、男性陣の活躍の場が増えているのが特徴。若い踊り手皆に活躍の場を与え、心温まる作品としてうまくまとめていた。

(2007年7月16日 愛知県勤労会館)

2007-07-07

[]2007佐多達枝バレエ公演

佐多達枝バレエ公演が今年も行われた。近年『beach』『庭園』など重量級の大作が続いたが、今回は再演ものを中心とした短・中篇による構成。初見者にとっても佐多振付の妙味を味わえるプログラムとなったように思う。

なかでも島田衣子、武石光嗣、石井竜一の踊った『ソネット』('95年初演)は10分強と短い作品だが傑作中の傑作。若者3人に交錯するさまざまの感情の移り変りが高密度かつスピードのあるムーヴメントによって連ねられる。女ひとり男ふたりの三角関係だが、ありきたりなものではない。衝突や裏切り、友情、愛情……人間感情の機微を巨匠は透徹して見据え、描く。その独自の美学、詩情に胸を揺さぶられざるを得ない。

高部尚子に振付けられた新作ソロ『わたしが一番きれいだったとき』、女性11名(ひとり怪我のため10人で踊った)による群舞作品『a fig leaf』('99年初演)はスタイル内容ともに興味深く、佐多作品を単にバレエ的枠組みのみでは語れないということを実感させられた。男性9名による『パラダイス』('96年初演)も男たちの“自由奔放”を5景にわたり描き出し見ごたえがある。

佐多作品はその独自性、水準の高さに関わらず日本の舞踊界において年功序列的評価は別にしてその真価を十分に認められていないのが実際のところ。海外の著名振付家の来演ばかり話題を集めるが、日本にも世界的水準で誇りうる大家がいることはもっと知られていい。来年夏には、昨年発表され反響をよんだ『庭園』が再演される。より多くの人に佐多作品のよさにふれてもらいたいと心から願う。

(2007年7月5、6日 シアター1010)