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ダンスの海へ 舞踊評論家・高橋森彦のblog このページをアンテナに追加 RSSフィード

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2007-09-25

[]貞松・浜田バレエ団『白鳥の湖』

昨年は『白鳥の湖』日本初演から60年を迎えたが、今年はライジンガー版による世界初演から130年目にあたる。関西の代表的バレエ団のひとつ貞松・浜田バレエ団ではそれを記念しての公演を行った。同団では1966年にバレエ団初演して以来『白鳥の湖』の上演を重ね、現在では、浜田蓉子・貞松正一郎の演出・振付によってカンパニーの代表的なレパートリーとして定着している。今回はアルカイックホールとの提携による特別公演(堤俊作指揮:関西バレエシアターオーケストラ演奏)。

貞松・浜田版最大の特徴は第四幕、『チャイコフスキー・パドドゥ』のアダージオで知られるフレーズを用いた、オデットと王子のパ・ド・ドゥ。王子の、愛するものを裏切ってしまった悔恨の情と、オデットの慟哭が痛いほどに伝わってくる。そして、白鳥の群舞がロットバルトを破滅させ、オデットと王子が愛の世界で永遠に結ばれる幕切れには、チャイコフスキーの原曲の持つ悲劇への親和性に増して「大いなる生命の讃歌」というベクトルが打ち出されている。第二幕、オデットと王子との心の交流を丁寧なマイムで描いている点も見逃せない。バレエ=舞踊劇としてドラマ性を重視するのもこの団の基本姿勢。第三幕にはブルメイステル版の影響がみられたが、総じてプティパ/イワノフ版に基づきつつチャイコフスキー原曲のよさをよく活かした舞台といえる。

オデットは瀬島五月。瀬島といえばナハリン作品など現代作品での力強いパフォーマンスの印象が強いが、オデットでは清楚、優雅な演技をみせた。動きの隅々にまで神経が行き届いている。繊細なパ・ド・ブレ、優美なライン、まろやかなポール・ド・ブラ…。音楽の流れに逆らわない踊りも瀬島の持ち味。そして、随所に役を楽しむ余裕が感じられた点が末頼もしい。今後踊り込めば、より独自のオデット像を確立していくだろう。オディールには若手の廣岡奈美。やや硬さも感じられたが開放感ある演技が光る。細かな目線での芝居もコケティッシュで魅力的。納得の抜擢に思えた。王子のアンドリュー・エルフィンストンは、ノーブルさに欠けるわけではないのだが、どことなくモラトリアム王子といった風情。その分、第四幕で真実の愛に目覚め、悔恨の思いに駆られるさまがくっきり浮かびあがってきて妙な説得力があった。

ロットバルト役・川村康二は快演。悪の使者の高笑いがきこえてくるかのよう。第一幕でのパ・ド・トロワ(上村未香、正木志保、貞松正一郎)はベテランが手堅くまとめた。第三幕のパ・ド・カトル(山口益加、竹中優花、弓場亮太、武藤天華)は踊れて表現力のある若手・中堅が揃う。ことに竹中の、軽やかでニュアンスに富んだ踊り、武藤のキレのいいテクニックに惹きつけられた。そして、惜しみない賞賛を贈りたいのが白鳥のコール・ド・バレエ。年少時からともに訓練を積んできた団員たちの息のあった群舞こそ、この夕べの真の主役といえるかもしれない。驚かされるのが、大方がここ2、3年ジュニアからあがってきたばかりのメンバー中心ということ。このカンパニーならではの、団員の層の厚さを改めて実感させられた。

(2007年9月22日 尼崎アルカイックホール)

2007-09-17

[]東野祥子ソロダンス+ミュージシャンズ 『E/G - EGO GEOMETRIA』

東野祥子はダンサーとして卓越した存在であるだけでなく、主宰するBABY-Qの舞台では、美術や衣装、音楽など含めトータルな視点で自身のヴィジョンが徹底されており作家としての評価も高い(そのグロテスクで危険な香りのする世界観は好みが分かれるだろうが)。昨年秋、大阪・HEPホールで初演され、今年11月に東京でも上演される『GEEEEEK』はそのインパクトにおいては昨年のダンス公演のなかでも突出していた。

東野は、また、煙巻ヨーコ名義において各地のライブハウスなどに出没、ミュージシャンたちとのセッションを繰返している。今回行われた『E/G - EGO GEOMETRIA』では、ミュージシャンとダンサー(東野)がチャンス・オペレーション的にコラボレーションを繰り広げた。3回の公演いずれもミュージシャンは異なり、灰野敬二、中原昌也、カジワラトシオという顔ぶれ。2日目、中原昌也の日を観ることができた。

“文壇最後の無頼派”とも称せられる中原は元々ミュージシャンであり、「暴力温泉芸者」→「HAIR STYLISTICS」というバンドを主宰している。中原がちょっと怪しげに、でも黙々とミキサーを操っている様が面白い。東野は舞台に砂を撒いたり、映像に合わせて踊る。東野といえば激しい踊りが魅力的だが、今回は、その微妙繊細な動きに惹かれた。衣装を手掛けた「ぺーどろりーの」もパフォーマーとして参加、アンダーグラウンド一直線のテイストを楽しめる。即興性を重視する企画やコラボレーション公演だと、ちゃんと段取りを煮詰めていないと中途半端なものになってしまうことも多い。東野はこのところさまざまの企画に参加しているが、今回、自前で本腰をいれソロダンス+ミュージシャンズ 公演として世に問いかけたのはいいことだろう。

会場のザムザ阿佐谷は阿佐ヶ谷駅北口からすぐ。映画館・ラピュタ阿佐ヶ谷の地下の小スペース。古材と土壁で出来ており、レトロな趣がある。東野は関西で活動していたが上京、杉並に本拠を構えている。地元に根付き公演する姿勢も好ましいと思った。

(2007年9月15日 ザムザ阿佐谷)

BABY-Q HP:http://www.baby-q.org/

ザムザ阿佐谷 HP:http://www.laputa-jp.com/zamza/main/index.html

2007-09-12

[]映画『追悼のざわめき』

伝説のカルトムービーが還ってきた!!

1988年5月公開の松井良彦監督作品『追悼のざわめき』は賛否両論を巻起こした。舞台は大阪のドヤ街。若い女性の惨殺事件が続発する。 被害者たちは下腹部を切り裂かれ、生殖器が持ち去られていた。 犯人は青年・誠。 惨殺した女性から奪った生殖器をマネキンのなかに埋める。小人症の兄妹、兄にレイプされ殺される少女、その妹の腐った死体を貪る兄といった人物たちが登場。全編、暴力と差別が入り乱れる。

モノクロ画面に映し出される生々しいまでの暴力と残酷。野卑極まりない、人間の暗部。やがて傷痍軍人など終戦後を想起させる人物たちも現れ、シュールで退廃した世界へと転じていく。猟奇的殺人や近親相姦といった主題は今や映画や漫画でも珍しくはない。が、公開時は相当ショッキングなものだったようだ。実際、好悪は大きく分かれると思う。キワモノ呼ばわりする人もいるかもしれない。公開時、映画評論家の杉浦孝昭(おすぎ)は“とにかく汚らしい”と悪罵した。しかし、フィルムの底流には社会の底辺で苦しむ人間の孤独や絶望を透徹して見据える創り手の視線が感じられる。

脚本を読んだ寺山修司は“(映画化が)実現したら事件”と語ったという。制作可能になった背景には、石井聰亙らを嚆矢とした80年代のインディーズ映画ブームがあるのは確かである。そして、関西のアングラカルチャーの協力も大きいだろう。異能の舞踏集団として名を馳せた白虎社の面々は代表の大須賀勇はじめ出演を果たしている。劇団維新派の役者が出演(代表の松本雄吉は声の出演)しているのも見逃せない。関西人ならではの強烈なバイタリティ抜きには生み得なかったことは間違いないだろう。

※東京 シアターイメージフォーラムにてレイトショー公開中。

※大阪 シネヌーヴォX 9/22-10/12公開

※京都 京都みなみ会館 今秋公開 

※名古屋 名古屋シネマテーク 今秋公開

『追悼のざわめき』HP:http://www.tsuitounozawameki.net/

「松井良彦、映画自記」:http://www.aa.alpha-net.ne.jp/cineymbw/

2007-09-09

[]P’Lushダンスパフォーマンス『Scratch』

元気のいい3人娘(玉内集子、藤本理子、玉内類子)によるダンスパフォーマンス。4月の初単独公演ではミスチルの「フェイク」にあわせた群舞が躍動感に溢れ小気味いい後味を残したが、今回は趣を変えた。冒頭からしばらくはハンモックのように吊るされた布のなかでのダンス。その後も全編ほぼ踊り続ける。project suaraの種子田郷も楽曲提供。雰囲気のある音楽にあわせなかなかディープな時間を過ごすことができた。

玉内らは作・演出を務めた深谷正子の門下に当る。深谷は現代舞踊の藤井公・利子の門下。そして藤井夫妻の師は日本のモダンダンスの先駆者のひとり小森敏である。ルーツを探ればそうなるが、彼女たちの活動をそういった歴史の文脈で語るのは適当ではないかもしれない。とにかく魅力的なのは鍛えられた身体表現のなかにもイマドキの女の子の持つ自由な感覚に充たされていること。それを引き出す深谷も若い感性を保ち続けているのだろう。P’Lushは10月、11月にコンテンポラリー・ダンス界の最大組織JCDN主催「踊りに行くぜ!!vol.8」にも登場、山口、鳥取で公演する。より多くの観客にその存在をアピールしてほしい。

近年はモダンやコンテ、大学ダンスといった枠を越えて刺激的な取組みがなされつつある。鑑賞者はレッテルや偏見に惑わされることなく自身の目で見てものを考えダンスを楽しんでいくべきだろう。P’Lushの舞台を観てその思いを新たにせられた。

(2007年9月8日 神楽坂die pratze)

P’LUSH HP:http://www.geocities.co.jp/Hollywood-Screen/2161/

深谷正子 HP:http://www.fukaya-masako.com/

玉内集子 HP:http://shuko.main.jp/

2007-09-03

[]白井剛×川口隆夫×藤本隆行『true/本当のこと』

振付・出演:白井剛(AbsT/発条ト)、振付・テクスト・出演:川口隆夫(Dumb Type)、ディレクション・照明:藤本隆行(Dumb Type)による『true/本当のこと』が山口情報芸術センター(YCAM)にて初演された。最新鋭のメディアテクノロジーとダンスがスリリングに拮抗するパフォーマンス。LED照明をはじめ振動子、音、映像、衣裳などの分野で一級のアーティストが集結、長期に渡って劇場に滞在し制作された。

千変万化の照明や音響が白井、川口の身体と衝突する。日常の空間から次第に何か箍の外れた、狂的な空間に移行していく。すべては緻密にシミュレーションされた舞台だというが演者の身体を通し、リアルと虚構が交錯する。制作チームの共通の問題意識として「マトリックス」があったようだ。最新鋭のテクノロジーを駆使しながらも身体の虚実という主題を身体を軸にして伝えることに成功していた。また、白井は近年、多様なコラボレーションやグループワークに挑んでいるが、そのなかでも手ごたえのあるものになったように思われる。

この公演は文化庁の「芸術創造活動重点支援事業」のうち初の試みとなる《舞台芸術共同制作公演》の対象。同事業は複数の芸術団体と複数の劇場が共同制作する公演を支援、それぞれが企画段階から共同制作し各劇場で公演することが条件となる。制作・上演形態としても画期的なものであったと付け加えておきたい。

今後は12月に金沢21世紀美術館と横浜赤レンガ倉庫1号館にて上演される。山口版がひとつの完成版であるのは疑いないが、ヴァージョンアップされたものになることを期待したい。

『true/本当のこと』公式ブログ http://www.true.gr.jp/diary/

(2007年9月1日 山口情報芸術センター スタジオB)

2007-09-01

[]来年の来日公演ラインナップ

夏の来日公演ラッシュは一息ついたが、早くも来年のラインナップが話題になりつつある。現在、公表されている主なものだけでも下記の通り。例年の如くなかなか凄いことになっている。舞踊愛好家にとっては嬉しい悲鳴としか言い様が無いが国内の団体にも頑張ってもらいたいものだ。

1月バーミンガム・ロイヤルバレエ『美女と野獣』『コッペリア』

2月オハッド・ナハリン/バッドシェバ舞踊団『TELOPHAZA』

2月「マラーホフの贈り物」2演目

3月ピナ・バウシュ ヴッパタール舞踊団『パレルモ、パレルモ』『Vollmond』

5月パリ・オペラ座バレエ『ル・パルク』

6月モーリス・ベジャール・バレエ『ダンサーの生涯/ボレロ』『バレエ・フォー・ライフ』

7月アメリカン・バレエ・シアター『海賊』『白鳥の湖』『ABTガラ』

7月英国ロイヤル・バレエ『シルヴィア』『眠れる森の美女』

11月シュツットガルト・バレエ『眠れる森の美女』『オネーギン』

12月ボリショイ・バレエ『ドン・キホーテ』『明るい小川』『白鳥の湖』