物語バレエ創作について

“人は物語なしには生きられない”そう語ったのは『La Bell〜美女』『夢〜Le Songe』などで知られる奇才ジャン=クリストフ・マイヨーである。21世紀の現在、優れた物語バレエが払底している。古典全幕には限りがあるし、コンテンポラリー作品では観衆を集めにくい。マクミランの『マノン』『ロミオとジュリエット』はもはやスタンダード、クランコの『オネーギン』、ノイマイヤーの『椿姫』などは世界中の有力カンパニーが喉から手が出るほど欲しがっているはず。物語バレエの秀作は文字通り渇望される。
国内でも著名な文芸作品のバレエ化は盛ん。新国立劇場バレエ団でもこのほど芸術監督・牧阿佐美振付による『椿姫』を初演し話題を呼んでいる。来年秋には『ペンギン・カフェ』『美女と野獣』などで知られるデビッド・ビントレーに新作『アラジン』を委嘱するようだ。他にも創作物語バレエに挑む団体は少なくない。東京シティ・バレエ団は『真夏の夜の夢』『カルメン』を独創的にバレエ化、「エフゲニー・オネーギン」を原作にした『タチヤーナ』で文化庁芸術祭大賞を得たバレエシャンブルウエストも近年、かぐや姫伝説に材を得た『LUNA』やアンデルセンの童話をバレエ化した『おやゆび姫』を発表し好評を得ている。著名な原作を基にした物語バレエは、バレエファン以外の観客層やファミリー層に訴求できるものであり、今後も各団体が積極的に取上げていくだろう。
無論、物語バレエの創作のなかには成功作とはいえないのもあるのは確か。ストーリーが違うだけで、様式や振付作法は古典そのままじゃない?と突っ込まれるものもある(一概に悪いとは思わないが)。舌足らずで展開が分かりにくいもの、主役に見せ場となる踊りがなかったり、群舞がおざなりで退屈なものも少なくはない。先行作品からの引用もといパクリが散見されることも…。口の悪いひとはそういった作品を「凡作」「駄作」と罵る。が、新奇さや先鋭性ばかりを競うことだけが創作ではないと思う。手法はオーソドックスでも、丁寧に創られた創作は評価されていいし、素直に楽しみたいもの。
新たな物語バレエを造り出すのは至難。脚本、構成、編曲、振付、美術、衣装いずれもゼロからのスタートである。その苦労は計り知れない。が、より演出や振付への研究、目配りを求めたいことが多いのも事実。バレエの市場を広げ、より多くの可能性を広げるためにも、多くの観客に訴求できる物語バレエの創造は欠かせない。欠点をあげつらったり、粗探しするだけではなく、より建設的な意見が交わされ、作品を成長させていけるようなれば好ましいように思う。バレエの未来は観客の手に委ねられている。