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ダンスの海へ 舞踊評論家・高橋森彦のblog このページをアンテナに追加 RSSフィード

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2007-12-28

[]年末回顧の時節

各紙誌に回顧記事やベスト公演&ダンサーアンケートが載る時期となった。「読売新聞」や「音楽舞踊新聞」には記者や批評家の記事がのっている。私は「オン・ステージ新聞」(12/25発売)、「ダンスマガジン」(12/27発売)にそれぞれベスト公演等を回答。

今年の収穫として多くの批評家、ジャーナリストが挙げているのが、ナチョ・ドゥアト&スペイン国立ダンスカンパニー『バッハへのオマージュ』、ヤン・ロワース&ニードカンパニー『イザベラの部屋』。マリインスキー・バレエとボリショイ・バレエの合同ガラやアレッサンドラ・フェリの引退記念公演「エトワール達の花束」も人気を集めている。国内バレエでは新国立劇場バレエ団『椿姫』『オルフェオとエウリディーチェ』、Kバレエカンパニー『海賊』、佐多達枝バレエ公演などに多くの票が入っている。国内コンテンポラリー/モダンではNoism『PLAY 2 PLAY-干渉する次元』、ニブロール『no direction。』のほか東野祥子(BABY-Q)、鈴木ユキオ(金魚)の名も。フラメンコでは小島章司、鍵田真由美など。首都圏以外では神戸の貞松・浜田バレエ団、名古屋の松岡伶子バレエ団の公演/ダンサーに複数の批評家が触れている。「オン・ステージ新聞」の新人賞は舞踊家・清水健太(Kバレエカンパニー)、振付家・キミホ・ハルバートが獲得。

個人的にはすべて国内団体のものを選出した。時期遅れとなるけれども年明けにも2007の私的回顧をblogにて発表予定。

DANCE MAGAZINE (ダンスマガジン) 2008年 02月号 [雑誌]

DANCE MAGAZINE (ダンスマガジン) 2008年 02月号 [雑誌]

2007-12-17

[]アグン・グナワン&鈴木一琥、未國、白井剛×川口隆夫×藤本隆行、MOKK LABO

全国各地で年末の風物詩『くるみ割り人形』が上演される。これまでも多摩シティ・バレエ団、牧阿佐美バレヱ団、井上バレエ団などの舞台を観たが、それぞれ趣向を凝らした演出を見比べるのは一興、ソリストや群舞のなかに若い逸材を見つけた際の喜びは何物にも変え難い。そのほか勅使川原三郎の新作ソロや二見一幸の新作4本立てなど多くのダンス公演が目白押しだが、観ることのできたうちからいくつかの雑感を。


アグン・グナワン&鈴木一琥『Water Dimension 水の面』

日本とインドネシアの気鋭ダンサーによるコラボレーション。両国の伝統芸能のなかに沈潜する自然への畏怖をコンテンポラリーな表現のなかに定着させるという試みのようだ。ジャワ伝統舞踊を習得したグナワン、演劇活動を経て神楽に傾倒する鈴木。異なるバックグラウンドを持ちながら互いを尊重し、歩み寄るさまはなかなか興味深かった。今春、アジアダンス会議が行われたようであるし、JCDNの「踊りに行くぜ!!」でも今年はアジアツアーを観光したりアジアの踊り手を招いたりという試みが行われている。なるほど日本のみならずアジアのなかでの舞踊を考えていく必要もあるのだろう。

(2007年12月3日 門仲天井ホール)

未國〜蛇女〜「幻夜ノ戀」 

能、神楽、俗謡といった古来からの芸能に現代の感性から光をあてる芸術家集団(を標榜する)未國。所見は二度目である。前半の「卒塔婆小町」は設定、翻案が分かりにくく狙いが不明瞭だった。しかし、異才・山田茂樹のダンスは喩えようもなく甘美。三絃、謡も妖しい雰囲気を醸しだしてはいた。後半は、バンドにあわせた歌舞集だが、ボーカルが弾け過ぎの感。谷桃子バレエ団若手の気鋭・緒方麻衣はじめダンサーは逸材が揃う。振付は前田新奈。もう一息いや二息欲しかったところ。動きの作り方、音楽性とももっともっと工夫あって然るべき。前田は振付に取り組む意思は固いようであるし、H・アール・カオスに参加するなど表現の幅を広げようという意欲は感じる。来秋に行われるというクロカミ☆バレエ団公演が正念場だろう。楽しみではある。

(2007年12月7日 オリベホール)

白井剛×川口隆夫×藤本隆行『true/本当のこと』

山口、金沢公演に続いて関東上陸である。9月の山口でのワールドプレミアを観てはいるが、細部まで練り上げられより完成度が高まっていた。パフォーマーの動きに最新鋭のテクノロジーによる照明や音響が反応。音と光、そして動きが完璧にシミュレートされる。冒頭、大きな机の上におかれたモノと戯れる白井の姿に、彼の傑作ソロ『質量,slide,&.』(04年)を想起させられる。その延長線上にある作品と捉えても問題ないだろうがより手ごたえのある創作となったように思う。白井の、パーソナルな世界観を繊細に紡いでいく資質を活かしつつ、ダムタイプの藤本隆行はじめ現代日本の誇るテクニカルスタッフがあらゆる舞台意匠に密接に関わり、クールな雰囲気を帯びた独自の存在感ある川口が白井に絡む展開。舞台は、日常の空間から非日常、そして狂的な空間へと変容していく。後半、より密度が濃くなった印象。身体の虚と実の不可思議が精巧に創りこまれた世界に浮かび上がった。公的な助成も得ての、山口、金沢、横浜と各地のスペースの共同制作という試みは画期的。今後は海外公演を射程に入れているようだ。ローカルからグローバルへ――。今後のコンテンポラリー・ダンス制作のモデルとなる可能性を秘めたプロジェクトだといっても過言ではないだろう。

(2007年12月15日 横浜赤レンガ倉庫1号館3Fホール)

MOKK LABO#2 廃墟

MOKKは、村本すみれを中心とした「劇場機構を離れた空間からの発信」を軸にしたダンス・プロジェクト。LABO公演では小スペースにこだわって活動している。今回の舞台は九段下ビル。昭和2年建立、築80年の廃墟と化した建物である。1階の入口で受付を済ませると、3階へ行くよう指示される。3つの小部屋とテラス、廊下を20分ほどで巡るツアー形式のパフォーマンスである。現在、このスペースを管理しているのは領域探査デザイン。古く制約のある期限付き物件を借り、必要とする人たちに貸すという試みを行っている。MOKKのメンバーは、小スペースを活かした親密感のあるダンスを披露し、また、廃墟ならではのレトロな趣を活かした演出、驚くような仕掛けも施して観客をユルユルと非日常の世界へと誘なっていく。ダンサー個々のキャラも立っていて面白い。1日4、5回の上演とはいえ各回10人ほどの定員のためレアなイベントとなった。MOKKは来年4月、神楽坂は赤城神社で新作を発表する。「場」にこだわるニッチな、でもワクワクする体験を味あわせてくれる遊び心溢れるプロジェクト。次の展開も楽しみにしたい。

(2007年12月16日 九段下ビル・九段下テラス)

2007-12-13

[]「シルヴィ・ギエム、進化する伝説」

抜群の人気と実力を誇る世紀の舞姫シルヴィ・ギエムが2年ぶりに来日、東京バレエ団と共演した。題して「シルヴィ・ギエム、進化する伝説」。東京公演はA・Bふたつのプログラムが組まれたが、ギエムの現在を余すことなく示した刺激的な舞台だった。

近年、古典から離れ、コンテンポラリーに意欲をみせるギエムらしく現代作品が並ぶ。キリアン振付『優しい嘘』(Aプロ)、マリファント振付『TWO』(Bプロ)『PUSH』(A・Bプロ)。『優しい嘘』はニコラ・ル・リッシュと踊る短いデュオである。グレゴリオ聖歌にのせ男女(あるいはそれを超越した存在?)のもたらすエクスタシーの極みは、優雅にしてカッコいい。そして、息をのむように美しい。『PUSH』は2年前にも日本で踊っているが、今回は振付者のマリファントとの共演。薄闇のなか、重力を感じさせない緩やかで静謐な動きが何度かの暗転を挟みつつ延々と続けられる。ギエムとマリファントの、互いの気と気が静かにぶつかり合うが、どことなく親密な関係を想起させ官能的だ。そして、両者の動きの恐るべき精度。緩慢な動きにみえても一切の無駄なものは削ぎ落とされている。ソロ『TWO』には、もう、平伏したくなるような感銘を受けた。04年、バレエ・ボーイズとの来日時にも衝撃を受けたが、前回の世界バレエフェスでは振付を流している(少し変えたのかも)ようにも見え、ギエムの舞台では珍しく失望。しかし今回は文句ないどころか、04年よりも確実に進化(深化)していた。暗闇のなか2m四方程度の空間でパワフルかつクールに暴れまくるギエムは実にじつにカッコいい。その圧倒的なまでの「攻め」の姿勢に、「この人には衰えというものが一生来ないのではないのか?」とすら思わせられる。ムーブメントの斬新さはもとより照明や音楽との緊密なコラボレーションが奇跡的なまでに上手くいっているのも見逃せない。

ギエムはこのほかAプロでは『白鳥の湖』第二幕を、Bプロではノイマイヤー振付『椿姫』第三幕のパ・ド・ドゥを踊った。『白鳥の湖』二幕はアダージョとコーダのみ。淡々とパをこなしていくギエムの演技に情感を感じられないという人もいるだろうが印象論にすぎないだろう。普段、オデットの踊りを観る際、アームスの滑らかさやラインの美しさにばかり気を取られてしまう。ギエムの場合、高々と上げられる6時のポーズは別にしても、脚の表現がなんとも雄弁に感じられた。振付本来の持つ意味を再考させられる。『椿姫』に関しては、昨年の舞台では率直に言ってマルグリットではなくギエム本人にしか見えなかった。今回は病と恋に患う女としてリアリティある演技がみられたように思う。「円熟」などという言葉とはいい意味で無縁の人だと思っていたが、ドラマティックな役柄でも名花と呼ぶにふさわしいような演技を発揮するようになってきた。

果たしてギエムは今後、どこへ向かっていくのだろうか。『PUSH』の後にはアクラム・カーンと組み、今後もマリファント&演劇界の奇才ロベール・ルパージュとのコラボレーションも予定されているという。その動向からますます目が離せないのは確かだ。

ギエムのツアーのもうひとつのお楽しみは、東京バレエ団の踊る現代作品の数々を観られること。久々の再演となったキリアンの『ステッピング・ストーンズ』(Aプロ)はセカンド・キャストで観た。若手中心、踊り手個々の技量に差が見られたが、シャープでいてピンと張りつめた動き、入り組んだ曲線の動きといったキリアンの舞踊語彙を総じてよくこなしていたように思う。佐伯知香、吉川留衣ら女性陣の健闘が印象に残る。同じくキリアンの『シンフォニー・イン・D』(Bプロ)は東京バレエ団の十八番。意想外の動きの連鎖が笑いを誘う。手馴れた、高いレベルの上演であり、中島周、井脇幸江、小出領子、高村順子らの好演が光る。最終日に観たが、上演中、プリンシパルの大嶋正樹が舞台上で骨折。「バキッ」とも「ブチッ」とも聞こえる異様な大きな音がして舞台と客席は凍った(本人が一番悔しいだろうから、いまはとにかく安静に、としかいえない)。アクシデントに見舞われながらも、急遽代役を入れ、考えうる限り破綻の少ない上演を披露したダンサーたちのプロ魂に敬意を表したい。アロンソの『カルメン』(Bプロ)も上演され、タイトルロールは上野水香の日に観ることができた。少女っぽさがあり、もう少し色気があってもいいが存在感抜群、肢体のよさも映えていたし十分満足のいく出来ばえ。木村和夫のホセは少々地味にも感じたがラストでの激情ぶりはなかなかだった。

(2007年12月9、11日 東京文化会館)

※本公演に関してはプログラムに寄稿しました。

2007-12-01

[]総合芸術としてのフラメンコ〜小島章司フラメンコ2007、蘭このみスペイン舞踊公演

銀座1丁目はル テアトル銀座において立て続けにフラメンコ公演を観る機会に恵まれた。小島章司フラメンコ2007「戦火の詩人たち<愛と死のはざまで>」(11月30日所見)と蘭このみスペイン舞踊公演「花がたみ」(11月27日所見)である。

小島は今年で舞踊生活50年。クラシック、モダン・バレエを経てフラメンコ舞踊に出会い66年に単身渡西、やがては国立舞踊団でトップスターとして活躍した。80年に日本を活動拠点と定め、以後精力的に創作を発表。フラメンコと日本の伝統舞踊の融合を試みたり、一連のネオ・フラメンコ、近年ではガルシア・ロルカをテーマにした作品などを制作している。今回の「戦火の詩人たち<愛と死のはざまで>」は<愛と平和三部作>の完結編。恒久の平和を願って創作した詩人たちへのオマージュが八景にわたり描かれる。このところ小島の追ってきた主題であり、その切実さが舞台からも伝わってくる。ほとんど祈りといっていいほどに。現在最高の人気を誇る舞姫エヴァ・ジェルバブエナ作品なども振付ける著名なフラメンコ振付家バビエル・ラトーレを招き、ソロから群舞まで隙がなく密度の濃い作舞がなされた。音楽監督のチクエロが全曲を書き下ろし、舞台美術も堀越千秋が制作。小島の志向する総合芸術としての舞踊を展開した。日本フラメンコを芸術舞踊として認知させた第一人者・小島にとっても大いなる到達点であろうが、さらに踊り続け、さらにすぐれた作品を創造していって欲しいものである。

蘭は宝塚歌劇団で活躍後、スペイン舞踊家として活動を始め、『日高川』『明烏』等で日本の伝統芸能とフラメンコの融和を行ってきた。「日本人にしか踊れぬフラメンコ」を追及するいっぽう、モダンダンスの清水典人とデュオを発表するなど現代ダンスの分野にも意欲をみせている。今回の公演では、世阿弥作の謡曲「花筐」に材を得た『花がたみ』において歌舞伎の市川段冶郎と共演。物狂いに落ちぶれながらも皇子への思慕を続けついには再会を果たすという展開であるが、和と洋の表現を巧まず溶け合わせることで普遍的な恋の物語へと昇華させようという狙いが見て取れた。公演前半の「スペイン舞踊組曲」では「美しき青きドナウ」にのせ蘭とその門下、コンテンポラリーダンスのRoussewaltzが舞うパートを前後にはさみ、蘭による「ソレア」、蘭とバレエの中田一史による「約束」を上演。美しく優雅に舞ったRoussewaltz、しなやかなテクニックと高い集中力をもったソロで会場の目を釘付けにした中田は、それぞれ縁あって蘭と知り合ったようだ。若い才能を陽の当る場所に出してあげようとする蘭の姿勢は素晴しいが、多ジャンルの気鋭と触れ合うことで自身の創作にも得るものがあるのだろう。公演を通しスタッフは衣装:ルイザ・スピナテッリ、美術:朝倉摂など超一流揃いでもあった。

日本は本場スペインにつぐフラメンコ大国であり、古くから愛好者は多い。だが、芸術舞踊として評価されるようになるのは、黎明期の河上鈴子らの熱意を経て小島や先輩格の小松原庸子らの奮闘を待たなければならなかった。小島と蘭、立場もキャリアも異なる両者であるがその舞台をみて、21世紀の現在、フラメンコが総合芸術として日本のダンスシーンに着実に根付きつつあるのが手ごたえをもって感じられうれしく思った。

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