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ダンスの海へ 舞踊評論家・高橋森彦のblog このページをアンテナに追加 RSSフィード

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2008-02-27

[]舞踊生活60周年記念・横井茂バレエ・リサイタル

小牧バレエでソリストとして活躍、50年代から振付家として活動し、60、70年代はシェイクスピアものなど物語性の強い創作で芸術祭賞を毎年のように獲得、一世を風靡したのが横井茂だ。70年代以降は大阪芸術大学で舞踊専攻の指導を受け持ち、バレエ、モダンの優れた人材を輩出。その傍ら創作活動を続け、オペラの振付などにも参加している。今回、久々の、そしてキャリアの総決算ともなるリサイタルが催された。

ヘンデル曲にあわせた『限りなき白へ』はアブストラクトなバレエブラン。名花・島田衣子と並んで横井の教え子・関口純子の伸びやかな踊りに魅了された。シンプルな美しさが引き立つ一品。『夕映えに』はアイヒェンドルフの詩をモチーフに死を象徴する人物と四季をあらわす4人の女性舞踊手が踊る。下村由理恵、荒井千絵、大滝よう、吉本真由美が光彩に富んだ美しい舞台を織り上げた。ソプラノの佐々木典子の歌唱も相乗効果をもたらす。死の象徴の登場など時代がかった感もありやや古めかしくもあるが、往年の作家の抱き続ける文学青年気質と透徹した美意識の発露は興味深い。

会の眼目となったのが『トロイの木馬』。ベルリオーズの音楽を用いた、一時間強の上演時間を要する大作だ。ギリシャ神話の著名なエピソードを基にしているが、横井はそこにライブドア事件に想を得て現代からの視点を取り入れようとしたらしい。神話の寓意性と現代を交錯させる試みは興味深いが、オートバイにのった一群の登場や映像の使用等さまざまな要素を取り込んだもののやや混線気味。振付も振付補の堀内充、辻元早苗らが分担協力したのだろうがパートごとに少々一貫性を欠いた印象は残念ながら残った。とはいえ大ベテランの旺盛な創作欲には頭が下がる。

コンテンポラリー・ダンスの世界では、勅使川原三郎や大島早紀子、北村明子、金森穣ら国際水準のコンテンツが生まれているのに、バレエの創作ではまだまだ遠く及んでいない。唯一佐多達枝が主題の充実度、ムーヴメントの独創性、音楽性いずれとっても世界のトップ・オブ・トップに位置するが、これまでは島国根性のためか国内レベルでの評価に留まってきた。また、創作といっても物語バレエの系譜はさらに厳しい。日本人が西洋発祥のバレエという手法を使い、ことに西洋の物語をどう描くのかといった挑戦は難関だ(物語性のある作品の創造はバレエを広い観客層に普及させるために不可欠な作業である)。80年代に生まれた石井潤の秀作『泥棒詩人ヴィヨン』にはじまり、近年では今村博明・川口ゆり子の『タチヤーナ』、石井清子・中島伸欣の『真夏の夜の夢』、牧阿佐美の『椿姫』のような力作が生まれているのは喜ばしい。横井の仕事はそれらグランド・バレエ(石井作品は除く)とは異なるものであるが、物語バレエの育つ種を撒いたという点で日本バレエ史に記録されるだろう。戦後バレエに大きな足跡をのこした巨人の存在を再認識させられる一夕だった。

(2008年2月10日 新国立劇場中劇場)

2008-02-08

[]「横浜ダンスコレクションR」はじまる

横浜ダンスコレクションRが今年も始まった(2月11日まで開催)。「横浜ダンスコレクション」として1996年にスタートし、2005年から現在の形にリニューアル。横浜赤レンガ倉庫1号館をメインに開催されている。昨日(2月7日)は昨年までの各賞を受賞した振付家4名が集っての受賞者公演が行われた。キム・ミョンシン、杏奈、ドナ・ミランダ、三浦宏之の作品を上演。昨年よりも総じて水準は上がっているようには思われた。

思い出はいろいろある。2002年になるだろうか。黒田育世が『SIDE B』で衝撃的なデビューを飾り、矢内原美邦が旧作の『駐車禁止』を上演(ニブロールは同日の昼には新作の『コーヒー』を新宿で公演していた!)、ともに「ナショナル協議員賞」を得たことはとくに鮮烈な印象を残している。最終日の終演後、ランドマークホールのホワイエで授賞結果が発表されときのこと。まず最初に黒田の名前が読み上げられ、ややどよめきが起きた(と思う)。そして、しばらく間をおいてから矢内原の名も発表され会場はちょっとした騒動となった。が、そのとき、会場の片隅でがっくりと肩を落としていたある青年が、後日なんとフランスのバニョレ・プラットフォームに出場するという逆転が起こり、話題となった。勅使川原三郎っぽい振りに+ブレイクダンス風の動きを織り交ぜた作品を発表した梅田宏明だ。先方のディレクターの意向だったのだろうか。

2005年から、「ダンスの基礎」を持った人材を内外から広く募集、リニューアルしたが当初はやや苦戦の印象だった。しかし、このところアジア各国からの出場者やモダン畑の若手やバレエのキミホ・ハルバートも出場するなど、多様な感性が新しく、手ごたえのあるダンスをみせてくれている。2005年という年はコンテンポラリー・ダンスにとって曲がり角となる年だったのは確実だろう。時代の寵児たる伊藤キムや異才・井手茂太ら90年代世代が代表作を発表しつつ、白井剛や岡本真理子、東野祥子、黒田、矢内原らが刺激的な創作をみせてはいたが、その後に続く大器が現れなくなった頃だ。マーケットの成熟といえば聞こえはいいが、要は停滞であり、袋小路に入った感はあった。その点、その2005年に方向転換した横浜ダンスコレクションRは、多方面からの才能を迎え入れることで新たな土壌から新鮮なダンス作品が生まれる場所として期待ができる。また、横浜を起点に新たなダンスマーケットの確立が望まれるところだ。


※横浜ダンスコレクションR 公式ホームページ

http://www.yokohama-dance-collection-r.jp/

※横浜ダンスコレクションR ダンコレブログ

http://ameblo.jp/ydcr/

2008-02-05

[]バレエTAMA・プティパの遺産vol.2『ドン・キホーテ』全幕

2月3日、日曜日、雪が降り積もるなか、西東京は小平までバレエTAMA『ドン・キホーテ』を観にいく。昨年、ロシア国立バレエ団の千野真沙美の構成:演出によってロシア・バレエの隠れた名作を上演した「プティパの夕べ」に続く《プティパの遺産》シリーズの第二弾。主演が、いま、まさに絶頂期にはいった島田衣子(井上バレエ団)とフリーで引く手あまた、新進振付家としても活躍する石井竜一であり、楽しみにしていた。

演出・振付は、松山バレエ団で踊り、ルドルフ・ヌレエフを尊敬するという淺野正。プロローグ、ドン・キホーテがドルシネア姫を探して旅に立つ下りを丁寧にみせる。少々長くも感じはするが、プティパ初演版でも随分長かったという記録があるようなのでそれに倣っているのだろう。全体としては踊り、芝居の流れをよくし、初めてこのバレエを観る観客にも分かるようにしようという意図が感じられた。島田はキトリ役を全幕で踊るのは初めてのようだが、溌剌とお転婆娘ぶりを発揮して好演だったと思う。島田は全幕バレエでは自分に役柄を無理なく引寄せ、ナチュラルに演じるのを得意とするが今回もそう。石井も好青年ぶりをみせた。谷桃子バレエ団退団直前にバジル役を踊っており、彼にとっても一際思いいれのある役だったようだ。グラン・パ・ド・ドゥの出来はなかなか見事で、島田の明晰で安定したパの運びは安心してみることが出来る。石井も自信を持ってリフトなどサポートをこなし、ヴァリエーションでも力感漲る演技をみせた。森の女王の若林美和(東京シティ・バレエ団)の演技からは一生懸命さが伝わってはきたし、エスパーダの菊地研(牧阿佐美バレヱ団)も元気なところをみせた。第2幕、森の場ではコール・ド・バレエに一層の安定感、統制感が欲しかったけれども、TAMAのメンバーも、主役カップルの活力あふれる演技に引っ張られ、精一杯の踊りをみせていた。

多摩地区といっても範囲は広いが、各スタジオが集合し公演することにどういった意義があるのか、改めて考えさせられた。各スタジオではそれぞれに発表会等は催しているが、生徒たちが大人の、一流のダンサーと同じ舞台にたち全幕バレエを創りあげる機会はそうそうあるものではない。ジュニア世代が教室の枠を越えて共演するのもいい刺激になるはず。無論、コンクール出場で武者修行という手もあるが、「舞台で若い踊り手を育てる」という姿勢がひしひしと感じられたのが素晴しかった。15年近く、毎年継続して活動している熱意には頭が下がる。島田は、多摩の今田バレエ研究所出身、今をときめくトップスターだが、第二、第三の島田が出てくることを期待したい。

チケット料金も毎回良心的で、比較的気軽に足を運べる設定。ジュニア世代の踊り手たちの育成、発掘はもちろん地域における文化の振興、普及に貢献している点も見逃せないだろう。小さな各スタジオが手に手を取り合って利害を超え、互いを支えあいつつバレエ文化の発展、向上を一心に目指しているさまに非常な感銘を受けた。

(2008年2月3日 ルネこだいら大ホール)