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ダンスの海へ 舞踊評論家・高橋森彦のblog このページをアンテナに追加 RSSフィード

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2008-04-28

[] 八王子市学園都市文化ふれあい財団主催・バレエ シャンブルウエスト『コッペリア』

川口ゆり子・平成18年度紫綬褒章授章祝賀公演『コッペリア』全幕が行われた。バレエ シャンブルウエストの公演ではあるが主催は八王子市学園都市文化ふれあい財団。八王子市に生まれ、日本バレエのパイオニアの橘秋子、牧阿佐美のもとで学び日本を代表するプリマのひとりとして活躍を続けてきた川口の授章、功績を称えて自治体が場を提供したものである。どの世界でもそうだろうが自分で企画を立案し実行に移す行動力も大切。ただ第三者から頼まれて仕事が発生してこそプロという一面も。市場のパイが狭いバレエの世界で、自治体から声がかかって会を主催してもらえるということはなかなか出来ることではないし凄いことなのだ。川口個人のみならず芸術監督・今村博明との二人三脚、後援者の支援もありユースバレエとして発足以来、20年近く八王子を拠点に芸術文化の振興を図ってきた成果を確認できる証でもある。

さて、舞台に目を移そう。川口の授章を記念しての公演であり、主役のスワニルダは当然川口が演じた。1幕から3幕までほぼ出ずっぱり、体力を要する役だが立派に務め上げた。1幕でのチャーミングな演技、2幕、コッペリアの仕事場での堂々たる人形振り、3幕、グラン・パ・ド・ドゥにおけるえもいわれぬ品格と大ベテランらしく演じわけがさすがだ。コッペリアは逸見智彦。川口・今村の開いたバレエスクールの第1期生である(吉本泰久、橋本尚美も同期)。牧阿佐美バレヱ団や新国立劇場でたびたび主役を努め、橘秋子賞優秀賞、服部智恵子賞と立て続けに受賞しバレエ界の栄誉を欲しいがままにしている。王子役、ノーブルダンサーとして得難い存在のひとり。今回の舞台で逸見は妙に3枚目ぶったりすることなく自然体でフランツという青年を演じており好感がもてる。師の祝賀公演での主役、しかもパートナーという大役をよく務めた。

シャンブルウエストの魅力は何よりもアンサンブルの良さにある。第1幕の村人たちの踊りや3幕の時のワルツなど、単に揃っているとかいうのではなくダンサー間の息の合い方や一体感がなんともいい雰囲気なのだ。主宰者の目が隅々にまで行き届いているのだろう。ユニットとしての統一感が抜群。ソリストでは、吉本真由美、松村里沙、深沢祥子、田中麻衣子といったベテラン、中堅どころに加え、太田恵、望月美帆、楠田智沙、新井優美、若林優佳らが台頭している。男性陣も海外や外部団体へ羽ばたいた人材も多いが、土方一生や伊藤達哉らが伸びている。今後にも期待できそうだ。

『コッペリア』はロマンティック・バレエ最後期に初演されたものだが、クラシック・バレエへの移行期の作品ともいえ、スタイルはやや流動的。そのため、ダンスとマイムを絶妙に融合させたピーター・ライト版やそれに影響を受けつつより娯楽性を重視、曲順等も大幅に変えた熊川哲也版が好評を得るなどさまざまな試みもみられる。川口・今村版は原点を重んじつつクラシックの枠組みを押さえたつくりになっている。第三幕のディヴェルティスマンから主役ふたりのパ・ド・ドゥまでの流れなどにそれは顕著。古典の形式、手法を重んじる姿勢は、この団体の大きな売りである『天上の詩』『タチヤーナ』『フェアリーテイルズ』『LUNA』『ブランカ』『おやゆび姫』といった創作物語バレエでも揺るがない。新奇さを競う創作や海外の著名振付家の著名作を移植導入、紹介する団体は少なくなく、またそれは意義のある仕事である。が、古典をベースに独自の創作を生み出すシャンブルウエストの仕事は貴重。着実に成果を挙げているのは確かだ。

シャンブルウエストの活動は近年充実を増し文化庁の重点支援事業にも採択されている。その存在も広く知られ、夏の風物詩「清里フィールドバレエ」の盛況は全国に報じられている。都内での公演も行なっているが、地元八王子、清里での活動を続け、地域に根ざしつつより広範な観客層に訴求する芸術団体として一層躍進してほしい。

(2008年4月27日 八王子市芸術文化会館いちょうホール)