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ダンスの海へ 舞踊評論家・高橋森彦のblog このページをアンテナに追加 RSSフィード

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2008-05-18

[]KENTARO!!とKATHYほか〜劇場を飛び出すダンス

劇場ではない場所で行われた刺激的なパフォーマンスをふたつ観た。

KENTARO!!はヒップホップ出身でコンテンポラリー・ダンス界において注目されるダンサー/振付家。JCDN主催「踊りに行くぜ!!」や「横浜ダンスコレクションR」に出場し人気を集めている。今回は「冒険王・横尾忠則」展の一環として美術館内展示室で踊った。アート界の先端を走り続ける横尾の原点である「冒険」を基調にセレクトされた展示には、ジュール・ヴェルヌ『海底二万里』や少年探偵団、ターザン映画などにモチーフを得た作品が並ぶ。KENTARO!!は学生帽をかぶり、さながら少年探偵団に登場する少年のようないでたち。ふっと展覧スペースに現れ、横尾の描いた冒険世界の住人となる。踊りはヒップホップベースの、気負わず、無駄なく砕けたテイスト。展覧会の開催概要にもある、横尾作品の“めくるめく「冒険」のイメージの連鎖”と呼応、横尾の作品を背にときにしなやかにときにパンキッシュに踊りを紡ぎ観るものを惹きつける。客いじりはご愛嬌だが、ダンスを観る楽しさを誰にでも満喫させるものだった。KENTARO!!は以前はクラブハウス等を中心に活動していたようで、観客と場を共有することに長け、エンターテイナーとしての資質を備えている。「横浜ダンスコレクションR」の受賞による在仏研修で多くのことを吸収、より表現の幅の広いアーティストとして飛躍するのを楽しみにしたい。

(2008年5月5日 世田谷美術館 展示室)

KATHYはご存知、覆面の女性ダンサー3人組である。金髪に黒ストッキングで顔を隠しているのがトレードマーク。さまざまのイベントや企画に“出没”してきたが、今回はRoppongiHills 5th Anniversary Artelligent City 六本木ヒルズ Special Live「gene〜連綿とつながる記憶〜」に登場して30分間のパフォーマンス『Hyper Circle 〜astrophygi + V line〜』を魅せてくれた。バレエ「眠れる森の美女」の前奏曲が流れ、KATHYの3人が現れる。今回は、他に6人の女性ダンサー(だけかな?)と、男性ダンサーがひとり増えて10人が登場。「眠れる森の美女」の音楽が連ねられるなか、ダンサーたちは暴れ、踊りまくった。KATHYファンのなかには、無名性のなかに潜む不気味なカワイさ、ロリータ系の魅力にはまる観客も多いと思うが(多分)、動きもバレエのパロディのようなものから凶暴に暴れるようなものまで変化に富んでいて面白い。小スペースやクラブや倉庫などで活動し、場を活かした演出やアイデアもお楽しみ(今回は、大き目のアリーナということもありその意味ではやや物足りなかったのは残念)。祭の縁日ではないが、現代の消費社会の象徴とも言える六本木ヒルズのど真ん中でKATHYのパフォーマンスが休日を楽しみ行き交う若者や家族連れに受けていたのは興味深い。

(2008年5月17日 六本木ヒルズアリーナ)

コンテンポラリー・ダンスやバレエはとかくハイアートとして語られがちである(メディアや制作サイドにそうしたがる風潮もある)。ダンスシーンを活性化させ、広く注目を集めていくには、ダンスは劇場を飛び出すことも必要だろう。モダン=コンテンポラリーを代表するアーティストのひとり内田香率いるRoussewaltzでは個人活動含めクラブでのパフォーマンスを繰り広げているし、村本すみれを中心としたMOKKは「劇場機構にとどまらない空間からの発信」を掲げ、レストランや廃墟ビル、神社の境内などで刺激的なダンスをみせている。今後もそれらに続く、新たな展開を楽しみにしたい。

2008-05-15

[]地域からの発信の成果

第34回橘秋子賞(主催:財団法人橘秋子記念財団)の授賞式が都内のホテルで行われた。橘秋子(1907-1971)は戦後、牧阿佐美、大原永子、森下洋子、川口ゆり子、ゆうきみほら多くの名プリマを育てつつ、数々の困難にもめげず定期公演を打ち続け、日本にバレエ芸術を根付かせた先駆者だ。その名を冠した賞は、日本バレエ界の顕彰において歴史あり、権威あるものとされる。今年は優秀賞に『ア ビアント』『椿姫』等で好演した田中祐子、舞台クリエイティブ賞にバレエの舞台監督として活躍する賀川祐之、スワン新人賞に『眠れる森の美女』等に主演し評判の青山季可と昨年充実した活動を示した人びとが選ばれた。今回興味深いのは特別賞と功労賞。特別賞には深川秀夫、功労賞には貞松融・浜田蓉子を選出した。共通するのは深川が名古屋を、貞松・浜田が神戸を拠点とした首都圏以外での活動成果が高く評価された点である。

名古屋生まれの深川秀夫は越智實に学び、1969年のモスクワ銀賞をはじめ数々の国際バレエコンクールに入賞し一世を風靡。邦人ダンサーの海外進出の突破口となったひとりである。ミュンヘン国立歌劇場など海外で長年ダンサー生活を送り、ジョン・クランコ作品などを踊っている。1980年に帰国後はフリーランスの振付家として活動してきた。名古屋、関西のバレエ団、スタジオ等各地の団体に創作を提供している。各地の、おのおの厳しい条件のなか公演を続ける団体の事情に合わせながらも優れた創作を手掛けてきた。手際よくさまざまの創作を生みつつも創造性は譲ることなく独自の地位を築いている。名古屋、関西での上演が中心のため管見だが関東圏でも近年『ガーシュイン・モナムール』『妖精の接吻』などの中編が上演されているのでご覧になった方も少なくないだろう。『コッペリア』『白鳥の湖』『ホフマン物語』『シンデレラ物語』『ダフニスとクロエ』など古典や創作の大作も手掛け好評を博しているようだ。ジョン・クランコ・バレエスクールから連続して創作の依頼を受けるなど海外からも評価されている。還暦を越えているがときにダンサーとしても舞台に立ち活躍。日本においてフリーのバレエ振付家が創作を続けていくには非常に困難な状況であるが、深川はパイオニアのひとりとして奮闘してきた。創作欲は衰えることなく、名古屋を中心としたカンパニーからの依頼が引きもきらないようだ。

貞松融・浜田蓉子は関西に生まれ、それぞれ法村康之、江川幸一に学んだのちともに松山樹子、清水正夫に師事。その後ふたりで神戸の地にバレエ学園を創設、1965年には貞松・浜田バレエ団を結成した。『白鳥の湖』『くるみ割り人形』などを独自に研究、オリジナル版として磨き上げるいっぽうで初期から団員や招聘振付家による創作を手掛けてきた。1980年代には夫妻の間に生まれた、バレエの申し子ともいえる貞松正一郎(のちに東京の松山バレエ団で活躍)がローザンヌ賞を獲得。1990年代以後は快進撃が続く。古典作品を定期的に上演、県民芸術劇場や600回を越えるという学校公演においてバレエの普及に努めつつ「創作リサイタル」「ラ・プリマヴェラ〜春」シリーズでは、『セイラーズ・セイリング』『アイ・ガット・リズム』といった貞松正一郎作品など団員の創作に加え、内外の振付家の秀作を上演。ジョージ・バランシン、アントニー・チューダーといった20世紀バレエの巨匠の作品にはじまり、ラリオ・エクソン、スタントン・ウェルチ、ユーリ・ン、ティエリー・マランダイン、オハッド・ナハリン、森優貴といった世界の第一線で活躍する振付家の作品を日本初演または世界初演している。ナハリンの『DANCE』『BLACK MILK』ではそれぞれ芸術祭大賞、芸術祭新人賞(武藤天華)を森優貴『羽の鎖』では芸術祭新人賞(森優貴)を獲得。昨年は石井潤の代表作『泥棒詩人ヴィヨン』を久々に再演し話題となったが、今秋の「創作リサイタル」では後藤早知子『光ほのかに-アンネの日記』の上演が予定されるなど日本バレエ史に残る作品を再演する仕事も貴重なだけに注目したい。日本バレエ界への芸術的貢献は計り知れないものがあるが、その成功の要因として、貞松・浜田夫妻の飽くなきバレエへの情熱!に加え、ベテラン団員が教師や制作者として後輩を惜しみなくバックアップしていること、海外へと飛躍していった団出身者のネットワークなど出会いにも恵まれていることがあげられよう。団員の層の厚さも特筆され、プリマだけでも上村未香、正木志保、竹中優花、吉田朱里、瀬島五月と百花繚乱。その下にも逸材が続々控えている。今回の受賞は夫妻の長年の功労に対するものだが、これを励みに団としても一層の躍進が望まれる。

海外の第一線でダンサーとして大活躍したのち帰国、フリーランスとして故郷・名古屋を中心に全国各地で数多くの創作を手掛けてきた深川。海と山に囲まれた神戸という地に根ざしつつ着実に歩みを進め、世界的に通用する水準の創作も上演し、個性豊かな大バレエ団として躍進する貞松・浜田バレエ団。両者は出発点も現在の立場も異なるが、地域に根付きつつ世界を見据えた活動を展開、日本バレエ界へ多大な貢献を果たしてきたことは疑いない。日本バレエの発展・躍進のために命を捧げた橘秋子の名を冠した賞の授賞に相応しいといえる。また、結果的にではあるが、いまだにあらゆる面で首都圏一極集中が平然と通用する現在の舞踊界への警鐘としてもまことに意味のある授賞であったように思う。(敬称略)