KENTARO!!とKATHYほか〜劇場を飛び出すダンス

劇場ではない場所で行われた刺激的なパフォーマンスをふたつ観た。
KENTARO!!はヒップホップ出身でコンテンポラリー・ダンス界において注目されるダンサー/振付家。JCDN主催「踊りに行くぜ!!」や「横浜ダンスコレクションR」に出場し人気を集めている。今回は「冒険王・横尾忠則」展の一環として美術館内展示室で踊った。アート界の先端を走り続ける横尾の原点である「冒険」を基調にセレクトされた展示には、ジュール・ヴェルヌ海底二万里』や少年探偵団、ターザン映画などにモチーフを得た作品が並ぶ。KENTARO!!は学生帽をかぶり、さながら少年探偵団に登場する少年のようないでたち。ふっと展覧スペースに現れ、横尾の描いた冒険世界の住人となる。踊りはヒップホップベースの、気負わず、無駄なく砕けたテイスト。展覧会の開催概要にもある、横尾作品の“めくるめく「冒険」のイメージの連鎖”と呼応、横尾の作品を背にときにしなやかにときにパンキッシュに踊りを紡ぎ観るものを惹きつける。客いじりはご愛嬌だが、ダンスを観る楽しさを誰にでも満喫させるものだった。KENTARO!!は以前はクラブハウス等を中心に活動していたようで、観客と場を共有することに長け、エンターテイナーとしての資質を備えている。「横浜ダンスコレクションR」の受賞による在仏研修で多くのことを吸収、より表現の幅の広いアーティストとして飛躍するのを楽しみにしたい。
(2008年5月5日 世田谷美術館 展示室)
KATHYはご存知、覆面の女性ダンサー3人組である。金髪に黒ストッキングで顔を隠しているのがトレードマーク。さまざまのイベントや企画に“出没”してきたが、今回はRoppongiHills 5th Anniversary Artelligent City 六本木ヒルズ Special Live「gene〜連綿とつながる記憶〜」に登場して30分間のパフォーマンス『Hyper Circle 〜astrophygi + V line〜』を魅せてくれた。バレエ「眠れる森の美女」の前奏曲が流れ、KATHYの3人が現れる。今回は、他に6人の女性ダンサー(だけかな?)と、男性ダンサーがひとり増えて10人が登場。「眠れる森の美女」の音楽が連ねられるなか、ダンサーたちは暴れ、踊りまくった。KATHYファンのなかには、無名性のなかに潜む不気味なカワイさ、ロリータ系の魅力にはまる観客も多いと思うが(多分)、動きもバレエのパロディのようなものから凶暴に暴れるようなものまで変化に富んでいて面白い。小スペースやクラブや倉庫などで活動し、場を活かした演出やアイデアもお楽しみ(今回は、大き目のアリーナということもありその意味ではやや物足りなかったのは残念)。祭の縁日ではないが、現代の消費社会の象徴とも言える六本木ヒルズのど真ん中でKATHYのパフォーマンスが休日を楽しみ行き交う若者や家族連れに受けていたのは興味深い。
(2008年5月17日 六本木ヒルズアリーナ)
コンテンポラリー・ダンスやバレエはとかくハイアートとして語られがちである(メディアや制作サイドにそうしたがる風潮もある)。ダンスシーンを活性化させ、広く注目を集めていくには、ダンスは劇場を飛び出すことも必要だろう。モダン=コンテンポラリーを代表するアーティストのひとり内田香率いるRoussewaltzでは個人活動含めクラブでのパフォーマンスを繰り広げているし、村本すみれを中心としたMOKKは「劇場機構にとどまらない空間からの発信」を掲げ、レストランや廃墟ビル、神社の境内などで刺激的なダンスをみせている。今後もそれらに続く、新たな展開を楽しみにしたい。