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ダンスの海へ 舞踊評論家・高橋森彦のblog このページをアンテナに追加 RSSフィード

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2008-06-30

[]トヨタコレオグラフィーアワード2008nextage

■次代を担う振付家賞

鈴木ユキオ『沈黙とはかりあえるほどに』

■ネクステージ特別賞

KENTARO!!『泣くな、東京で待て』

■オーディエンス賞

KENTARO!!『泣くな、東京で待て』

きたまり『サカリバ007』

次代を担う振付家の発掘・育成を目的としたトヨタコレオグラフィーアワードが2年ぶりに行われた。今回は、170組が応募(全国の舞台関係者の推薦含む)、書類・映像資料による1次選考を経た16組によるファーストステージを突破した6組が最終審査会に挑んだ。ファイナリストの選出に関してできるだけオープンに公平を期そうという意図は見て取れる。審査会は前回までは2日間に分けて行われたが、今回は6組が1日で作品を上演。2日目は授賞式と受賞者(時代を担う振付家賞、ネクステージ特別賞、オーディエンス賞〔2組〕)による公演が行われた。授賞式では、審査委員が各々短いながらも各作品についてコメントを出して講評。その点、この種のコンペとしては画期的ではある。

山賀ざくろ・泉太郎『天使の誘惑』は、このところメインストリームからは遠ざかりつつある演芸系のダンス。白いボードの前で踊る山賀を撮影した映像に泉がマジックインクで動きをなぞったりするさまが映し出される。リアルな身体とバーチャルな身体の交錯するさまをローテク、遊び感覚でみせようという発想はよいとして、結局なにも起こらないまま漠然と時が過ぎてしまった。アイデア倒れというかアイデア不足か。

得居幸『Bring Me a PPPeach(もももってきてちょうだい。2)』は、yummydanceの作品。日常的な動きを中心に連ねていくことでダンスが発現する、とでもいうべきものだが、部分部分に面白さは感じられてもつながりがわざとらしいというか段取りめいてくるのが残念だった。大きな舞台空間を意識した演技や空間構成もみられたが、yummyならではのキッチュかつ親密性あふれるテイストが十分活かされたとはいい難い。yummyの熱心なファンであればあるほど惜しい、悔しいと思ったのではないか。

鈴木ユキオ『沈黙とはかりあえるほどに』は、昨秋に月島の倉庫ほかで上演された1時間ほどの作品を短縮し練り直したもの。初演では鈴木のソロ中心としたストイックなダンスが印象に残っている。今回、鈴木はもちろんのこと、長めのソロパートをよく耐えた安次嶺菜緒らがより密度の濃いダンスを披露。大音量の音楽と無音の対比も強烈で、派手なことはしなくても予測不可能なスリリングな瞬間が途切れることはなかった。鈴木は舞踏出身。演劇的な趣向等も織り交ぜた創作など模索を重ねてきたが、『犬の静脈に嫉妬せず』(2006年)以降は、身体と空間について徹底して突き詰める姿勢が顕著になった。今回はその追求が最良の形で結実した印象。ただ次作以降の展開に関していえば、この路線を踏襲するのかしないのか分からないが、よりハードルが高くなったのは確か。いかにそれを乗り越えていくのか注目して見守っていきたいと思う。

KENTARO!!『泣くな、東京で待て』は、横浜ダンスコレクションRでも受賞を果たし波にのる新星の作品。バックボーンであるヒップホップのテクニックも織り交ぜた、軽やかで衒いのないダンスはポップな選曲とあいまって観ていて心地よい(さまざまなものをミックスしただけという印象もあるが)。等身大の若者の、切ない生の実感みたいなものを分かり易く伝えてはいる。一歩間違えればダサくてセンスの悪いものになってしまうところをギリギリの線で見せ切るのは巧い。ただ、分かり易いのは良いのだけれども、狙いすぎな印象をもたれる怖れもある。また、最後近くにテロップで表示される「ボクは苦悩しながらも精一杯生きています」みたいな表出は、センチメンタルでこっぱずかしい。とはいえ、審査会でもっとも観客の熱烈な拍手を呼びおこした。人の目を惹きつける資質は抜きん出ているのだから、それを活かして我が道をいけば良いのでは。

北村成美『うたげうた』は、“なにわのコレオグラファー”しげやんこと北村のソロ。北村といえば、ひとりレビューを標榜する『i.d』のハードで楽しいダンスの印象が強いが、この作品でもダンサーとしての技量の高さを示してはいた。出産からの復帰後、関東における劇場初公演ではないだろうか。ただ、作品の内容云々よりも経験豊富で海外ツアーやワークショップも積極的に行うベテランといっていい実績の持ち主があらためてこの場に出てくることに、果たしてどのような意味があるのか疑問には思った。キャリアがあるのが問題ではない。このコンペはキャリアやジャンルにとらわれない、次代のダンスを切り開く作家を後押しするものだと承知している。ただ出場する以上、新たな試みを見せてほしかった、というのが偽らざる実感(講評で審査員のひとり伊藤キムがまさにそのようなことを述べていたが全くの同感である)。

きたまり『サカリバ007』は、行き場の無い袋小路に追い詰められたような女の子たちの妄想や生理感覚を描いた作品。が、ただ描いただけ、といえなくもない。個々のシーケンスに見せ場はあるし、狙ったことはかなりの水準で達成できているのは間違いないが、妄想や生理を表現し、羅列しただけの感もある。観るものの妄想を喚起させるような強度を持った表現にまで昇華されていない恨みは残念ながら残った。

結果、時代を担う振付家賞を鈴木が、ネクステージ特別賞をKENTARO!!が獲得。オーディエンス賞はKENTARO!!ときたまりが受賞した。ネクステージ特別賞というのは次点的意味合いなのだろうか。なにはともあれ妥当な結果に思う。2日目の授賞式で行われた審査員の講評も各委員が各作品について明確な価値判断を表明し、ほぼ納得できるものであった。次回は2年後に行われる。コンテンポラリーダンス界の一大イベントとなったが、文字通り次代を担う新たな才能を評価し、より飛躍していくためのステップとしての機能を今後も果たしていってほしいと思う。1次選考や2次審査等のシステムについての意見も多々出てくるだろうが情報公開も含め、活発な議論と慎重な検討を重ねた上で最良の方法によってアワードが運営されることを切に願っている。

(2008年6月28、29日 世田谷パブリックシアター)

■参考

得居幸(yummydance):http://www.yummydance.net/

鈴木ユキオ(金魚):http://orange.zero.jp/bulldog-extract.boat/

KENTARO!!:http://www.kentarock.com/

北村成美:http://www.shigeyan.com/

きたまり(KIKIKIKIKIKI):http://kitamari.com/

2008-06-25

[]新国立劇場バレエ団『白鳥の湖』

芸術監督:牧阿佐美による改訂・演出版(2006年初演)の再演。基本的には開場以来採用していたセルゲーエフ版を踏まえている。休憩を1回にしたうえ、序曲部分に王女オデットがロットバルトにさらわれるシーンを追加、また3幕にルースカヤのソロを加えた。他は群舞のフォーメーションや振付を多少変えてはいる。美術・衣装は新調された。先日再々演された『ラ・バヤデール』や『ライモンダ』と違って、牧による改訂・演出版のなかでは伝統的なヴァージョンを尊重する姿勢が見て取れよう。

この日の眼目はオデット/オディールのスヴェトラーナ・ザハーロワ。2002年に新国立劇場に初登場、同役を踊った際の舞台は衝撃的だった。考えうる限りの理想的なプロポーションと美貌を備えた彼女が踊るだけで陶然とさせられる。ほとんど奇跡といっていい。その後、たびたび来日しそれが当然だと思ってしまっているが世界各地から引く手あまたのザハーロワを定期的に廉価で観られるのは日本のバレエファンにとって有難いことではある。当初、その演技にはどこか冷たいというか気高く近寄りがたい印象も拭えなかったが、近年は情感も増し魅力的になってきた。今回は調子も良いのかいい意味で余裕を感じさせる踊りだった。演技にやや淡白で内向的な印象は残るものの踊りにほとんど文句のつけようがない。グランアダージョはまさに絶品だった。王子役はアンドレイ・ウヴァーロフ。怪我をする前のもっといい時期と比べると技術的には物足りなさを感じるが的確なサポートでザハーロワを最大限美しく見せてはいた。

群舞は初日のためか若干揃っていない箇所も目につきこそすれ、これだけ揃っているのは大したもの。どこに出しても恥ずかしくないと思う。ソリストではナポリの踊りを躍った小野絢子の丁寧な踊りが群を抜く(ちなみに今秋『アラジン』で主役デビューする小野をジュニア時代に専門誌で最初に注目したのは多分私なのだけれども[ダンスマガジン2004年11月号]ほとんど誰にも知られていない・・・)。道化のグレゴリー・バリノフも好調で、小気味いい演技だった。ハンガリーの踊りには、今春まで東京バレエ団にいた古川和則が出演。シーズン途中での参加ということはゲスト扱いと思われる。溌剌としたパフォーマンスが光っていた。一昨年までKバレエカンパニーにいた芳賀望も契約ソリスト扱で入団しているし、男性陣の層を引き上げたいという意図があるのだろう。

(2008年6月24日 新国立劇場オペラ劇場)

2008-06-24

[]初期型『MELEE』

ダンサー、振付家のカワムラアツノリが主宰する初期型。4年前の東京コンペ#1で『ワキのニオイをワキガという』を観ている(第2回にも出ているようだがあんまり記憶にない)。自主公演ははじめてみた。今回は昨年初演された『MELEE』の再演。副題が「日独友好記念公演」となっているが、メンバーのアゼチアヤカが今秋から文化庁の在外研修制度を利用して2年間ドイツに行くためお別れに急遽催されたものらしい。

冒頭、カワムラの挨拶に続いて日の丸のハチマキをしめたアゼチが留学への決意表明をクールビューティーな表情のまま面白おかしく語る。その後は2時間近く暗転もなしにパフォーマンスが怒涛のように続く。女性3人による他愛もない雑談(ヨンさまがどうとか)、バレエや舞踏、現代舞踊のパロディ、客いじりといったものの間にダンスシーンも挟まれる。フカミアキヨネギシユキカキウチユカリ、アゼチらダンス、演劇の舞台での経験豊富な個性派パフォーマーたちが入り乱れノンシャランな魅力を振りまいていた。最後に男性陣が全裸になり、女性陣が男性たちの局部を手で隠しながら皆で跳ねたりふざけた動きを繰り出す場など笑いを誘うシーンも少なからずある。

彼らの作品で特徴的なのは、笑いに対してのスタンス。昨今のコンテンポラリー・ダンスの多くには、とってつけたようなお笑いやお約束事で観客におもねる笑いも少なくない。その点、初期型の造り出す笑いはメンバー個々のキャラを活かしつつ自然と生まれてくるものだ。楽しんで演じているのは悪くない。人を楽しませるには自分たちが楽しまなければはじまらないのだから。観客や批評家に媚びた戦略みたいなものが感じられないのもすがすがしい。ただ、ノリに小劇場演劇や学生演劇に近いゆるさがないではない。『ワキのニオイをワキガという』にみられた、腋という身体部位に注目して身体における階層的落差を批評的に捉えたような感性の鋭さも感じられなかった(偶然の産物だったのか)。したがって一刀両断に切り捨てる向きもあるかと思う。しかし、昨今巷にあふれるスカしたパフォーマンスや「こういうことやればコンテンポラリー・ダンスでしょ」みたいな浅薄なお勉強の産物をみせられるよりは好感は持てる。

(2008年6月23日 シアター・イワト)

2008-06-22

[]MOKK LABO#3『暗闇』

MOKKは村本すみれ主宰による「劇場機構に留まらない空間からの発信」を軸にしたダンスプロジェクト。これまでも神社の境内や廃墟ビルなど「場」にこだわり踊ってきた。LABOシリーズは、“日常ににある生活小空間をセレクト、発信する企画”。今回の舞台は、板橋区蓮根の住宅街の駐車場に設置されたコンテナボックスだった。

定刻になると、観客(といっても5名様限定)は靴を脱いでコンテナボックスに導き入れられる。なかは闇、ひたすら闇。観客皆で手をつないでください、という声が聞こえる。筆者は観客5人の一番端だったのだが、空いているほうの手を何者かに握られヒヤッとする。壁沿いに沿って歩いてくださいという声に従い、皆手探りで動く。なかのほうへ導き入れられると、パフォーマンスが始まる。暗く、シーンと静まり返ったコンテナ内に、コツコツと小さな音が響く。観客は、否が応にも感覚を研ぎ澄まさなければいけない。普通どんなに暗くても、目が慣れてくれば、おぼろげでも眼前の光景が見えるもの。しかし、完全に光を遮断した密室なので、いくら目を凝らしても何も見えない。ときおりほのかに明滅する光。ダンサーたちの動く気配。やがて手をつないでいた観客たちは、はぐれ、ダンサーたちに手をとられてしまう。方向感覚もないまま振り回され、なんとか壁伝いにフラフラ。最後、コンテナの扉が開けられ「お疲れ様でした」と声をかけられると、なんと不思議にも最初に入ったコンテナの入り口に戻されている・・・。

15分ばかりのパフォーマンスながら刺激的だった。我々が日ごろ使わないような鋭敏な感覚を人工的な密室のなかで取り戻させる。パフォーマーたちも暗闇のなか五感を研ぎ澄まさなければ動けなかっただろう。3日間11ステージ行われたが、各回それぞれ違ったパフォーマンスになったはず。観客参加型をうたったダンス公演は散見されるけれども、これはそうたわなくても観客の参加なしには成立しないものだ。すべてが闇のなかで行われたため、写真や映像による記録はほとんど不可能。関係者は残念だろうけれども、記録には残らなくても記憶には深く残るパフォーマンスだった。

Direction&Choreography 村本すみれ

Dancer:江角由加 寺杣彩 登渡カッパ 村本すみれ

Staff:大畑豪次郎 影山雄一 加藤小百合 上栗陽子

Produced by MOKK

(2008年6月20日 東京都板橋区蓮根にあるコンテナボックス)

■参考記事■

MOKK project02『ましろ』@神楽坂・赤城神社の感想

http://d.hatena.ne.jp/dance300/20080412

MOKK LABO#2『廃墟』@九段下・九段下テラスの感想

http://d.hatena.ne.jp/dance300/20071217

2008-06-17

[]野外公演の魅力

この秋、日本初の本格野外オペラ公演が山梨県・河口湖で行われるようだ。プラハ室内歌劇場の来日公演の一環として上演されるモーツァルトの『魔笛』である。欧州では野外オペラは珍しくない。イタリア・ヴェローナの野外オペラは古代ローマに創られたコロセウムを会場に行われ、当地の夏の風物詩として名高い。オーストリアでも湖上オペラが行われているようだ。オペラを生で聴く機会は残念ながら少ないのだけれどもロケーションの魅力にそそられる。機会があれば足を運んでみたいもの。

バレエでは国内において既に本格的な野外上演が行われている。今夏19回目を迎える清里フィールドバレエはあまりにも有名(出演:バレエ シャンブルウエストほか)。自然に恵まれたリゾート地で2週間にわたって行われ、昨年は初日公演の模様が日刊紙の一面でも取上げられるなど夏の風物詩としてよく知られている。星空の下での幻想的なステージを1度体感すると病みつきになってしまう。他に、昨年初の試みとして多摩の人造湖、相模湖畔で第1回さがみ湖野外バレエフェスティバルが行われた。酒井はな&李波主演の『白鳥の湖』全幕を2日間上演し好評。今年は残念ながら行われないようだが来年以降の展開に大いに注目したい。

ところで、野外バレエといえばいくつかDVDにもなっている。「ローラン・プティ・ガラ/若者と死」(発売:フェアリー)は、1997年にプティのマルセイユ・バレエ芸術監督就任25周年を記念して行われたものを収録。マルセイユの港に面した野外舞台でジジ・ジャンメールやアルティナイ・アスィルムラートワ、ルシア・ラカッラ、ルイジ・ボニーノといったプティ・ダンサーたちが繰り広げるまさに夢の饗宴だ。[rakuten:forestplus:10029636:detail]「マ・パヴァロワ」「タイスの瞑想曲」『カルメン』など名作の抜粋が踊られる。ルドルフ・ヌレエフとジャンメールによるスタジオ撮りの『カルメン』も併録され、プティ芸術の粋が凝縮されているといっていい極め付きの1枚だ。野外といえば、「ベジャール&キーロフ・バレエ ホワイトナイツ・ガラ」(発売:フェアリー)も忘れられない。二十世紀バレエ団とキーロフ・バレエがサンクトペテルブルクの白夜の下競演。『ギリシャの踊り』『ロミオとジュリエット』『アレポ』などベジャールの代表作が踊られる。ダンサーも、ジョルジュ・ドン、 ミシェル・ガスカール、エカテリーナ・マクシーモワ、ウラジーミル・ワシーリエフ、アルティナイ・アスィルムラートワ、ファルフ・ルジマートフ、リン・チャールズ、エリック・ヴ=アン、オリガ・チェンチコワ、ガリーナ・メゼンツェワとベジャール・ダンサー+ロシア・バレエの大スターたちが登場して応えられない逸品。こちらもファン垂涎の1枚だ。いずれも野外公演ならではの趣のある雰囲気が映像を通してもよく伝わってくる。

ロケーションの魅力によって多くの人たちが集い、パフォーミングアーツに親しめる野外公演。演劇でも大阪の劇団・維新派は大阪南港や瀬戸内海の犬島の銅精錬所跡等で公演を行い、全国から多くの観客を集めている。準備に時間がかかり、天候にも左右されるなど開催は容易ではないがさまざまの場所で野外公演を見たいものだ。

2008-06-16

[]法村友井バレエ団『眠れる森の美女』

期待の新星としてバレエファン、関係者の熱い注目を集めるバレリーナ、法村珠里がバレエ団本公演初となる全幕主演を果たした。法村に注目したのは2005年の『シンデレラ』夏の精(ソリストデビューだった)。その後も日本バレエ協会公演やコンクールでの溌剌とした演技が印象に残っている。ことに昨年秋の『海賊』のグルナーラ役では、スケールの大きな演技を披露し大好評を博した。今回はデジーレ王子役にマリインスキー劇場から理想的なダンスール・ノーブル、アンドリアン・ファジェーエフを招き万全の体制による主役デビューの場が設けられたというわけだ。

第一幕、法村が登場すると舞台がパッと明るくなる。16歳の少女らしい愛らしさに惹きつけられる。『眠れる森の美女』上演の成否はこの瞬間に決まるといってもいい。全客の視線を釘付けにする。4人の王子と踊るローズアダージョでは目だったミスはなく体勢を崩すこともなかったものの踊りにやや硬さはみられた。だが、幕を追うごとに調子を上げ、表情豊かな演技をみせてくれた。2幕の幻影の場におけるアダージョの情感、三幕のヴァリエーションにおける典雅さ。そして、ロシア仕込の、精確にしてしなやかなテクニックを備えている。アラベスクやアティチュードの姿勢が正しく、重心、軸も安定ほとんどぶれることはない。オーロラ役は演技力や技術よりも踊り手の個性・華が問われる役柄といわれるが、技術が安定しないと観ている方はやはりストレスが溜まる。その点、最後まで安心してみることができた。ワガノワバレエ学校に学んだ後、日本を代表するノーブル・ダンサーとして活動した父(法村牧緒)、旧ソ連やベルギーでも活躍したプリマを母(宮本東代子)に持つ華麗なる出自を誇るが、大舞台であればあるほどその才能を発揮するのは、天性の資質の高さに加え、日々の研鑽の上での自信の裏づけ、舞台度胸の良さに拠るのだろう。精確な技術、豊かな華、精彩のある演技力。三拍子揃っているが、初の大舞台でこれだけの実力をみせたのだから末頼もしい。無論、まだまだキャリアは始まったばかり。さまざまのレパートリーを踊って場数を踏み、表現力を高めていけば、ますます魅力的なプリマとなるように思う。

デジーレ王子役のファジェーエフも決して我を主張せず、丁寧なサポートに徹しつつも甘く気品のある王子を演じ期待に応えた。まさに待ち望まれた(デジーレ)王子。わが国ではテクニック偏重の男性ダンサーがもてはやされる傾向がいまだ強い。アダージョやサポートの何たるかを知リ尽くした、世界でも超一流の踊り手の演技をみられたことは関西の踊り手や観客にとってまたとない機会となったように思う。リラの精の堤本麻起子は持ち前の長身のプロポーションが映え適役。舞台をしっかり締める。カラボス役にはこの役に定評あるマシモ・アクリを招聘。演出の意図もあってかアクションは控えめの印象だが、場をさらう存在感は十分だった。シンデレラ役の高田万里、フロリナ王女役の室尾由紀子とプリマ級を揃える辺りは層の厚さを感じさせる。宝石の踊りを踊った若手の気鋭、奥村康祐(地主薫バレエ団)の品のある演技も目を惹いた。

演出・振付は珠里の兄、法村圭緒(ちなみに初振付は2006年の『ライモンダ第三幕』)。普段は主役を務めることが多いが裏に周り芸術監督として舞台を統括した。プログラムによると、セルゲーエフ版を基本に、古い時代の映像資料等も参考にしながら新たに振付を起こしていったという。プロローグに登場する人々のマイムや演技からして型通りではなく、一つひとつがしっかり意味を持つ仕上がりなのが感じられる。第二幕の幻影の場でも整然としたコール・ド・バレエの動かし方が見事。この場の本来持つシンフォニックな魅力をしっかり伝えていた。古典全幕の改訂といえば「改訂のための改訂」とでも呼びたくなるような、ポリシーもなくさまざまのバージョンを参照し切り貼りしただけの酷い代物も一部横行する。出典、振付の根拠を明確にしつつ新たな装いを施し、風格ある舞台を作り上げた手腕は貴重なものだと思う。70年の歴史を誇る日本でも指折りの名門バレエ団ならではの伝統と、それを受け継ぐ新時代の才能の活躍があいまって生み出された見応えある舞台だった。

(2008年6月14日 フェスティバルホール)

2008-06-01

[]愛知芸術文化センターの制作作品の成果と今後の展望

愛知芸術文化センターが制作するダンス・オペラシリーズの最初の試みであった『悪魔の物語』が、昨年香港で再演され、このたび《香港ダンス・アワード2008》を受賞したようだ。2004年2月に初演、音楽はストラヴィンスキーを用い、香港の振付家、ユーリ・ンの演出・振付・構成。笠井叡や白井剛が出演したものだ。ダンスオペラシリーズはダンスを中心に新たな舞台芸術の可能性を探るもの。ファルフ・ルジマートフも出演した『UZME』等話題には事欠かない。大掛かりなものも多く、豪華キャストによる協同作業のため再演は難しい。ダンスにしろ演劇にしろ作品というものは再演を重ね完成度を高めていくものであり、受賞をきっかけに旧作の練り上げられた再演も期待される。プロデュース公演制作の一指標となるだろう。

愛知芸術文化センターでは、ダンスオペラシリーズおよびその延長として昨年おこなわれた、あいちダンスの饗宴「トリプル・ガラ」を手掛け、全国的に注目を集めている。「トリプル・ガラ」では、平山素子らの振付、出演によるダンスオペラ『ハムレット〜幻鏡のオフィーリア』や愛知を代表する振付家、深川秀夫『ガーシュイン・モナムール』を地元選抜メンバーで上演。今年に入って深川、平山はそれぞれ名古屋市芸術賞において芸術特賞、奨励賞を得ているが、その成果が認められたのが大きいだろう。また平山はその後新国立劇場現代舞踊部門で上演した新作で朝日舞台芸術賞を、深川は旺盛な活動と長年の功労に対し橘秋子賞特別賞を受けた。両者は愛知出身であり知名度も高いが、愛知を代表する公立施設の企画で取上げられ全国に発信されたことは大きな意味を持つ。数々の受賞の結果からみても時期を得た登場だったといえる。

私はblog記事、バレエ雑誌に寄せた短評で「トリプル・ガラ」を高評した。他に出た評は絶賛ばかりではなかったが、企画性の高さは折り紙つき、内容的にも満員の観客を楽しませていたし一定の水準はクリアしたと判断、広く報道する価値があると思ったからだ(公共施設の公演に対しては地元メディアを中心に厳しい目でのチェックも必要である)。ただ、話題性、企画の卓抜さに加え、今後一層舞台成果の充実が望まれ、観客の求めるハードルは高くなろう。制作サイドは予算や時間等厳しい条件のなかであっても物心ともに作家の立場を考慮、支援しなければならず大変に違いない。また、先に触れたように、プロデュース形式の多くは一過性のものに終わりがちなため、レパートリー化への取り組みも重要だ。一般にコンテンポラリーダンスや創作ダンスでは、再演ものは動員が苦しく、また助成金等も下りにくいと指摘をする声も聞く。改善されるといいのだが。各地のホールとの共同制作等も活用すればさらに可能性が広がるであろうことも付記しておきたい。

ダンスオペラシリーズの新作は8月に上演される。ダンテの『神曲』を題材にH・アール・カオスの大島早紀子が演出・振付(併演は川口節子振付のモダンバレエ『イエルマ』)。今後も愛知芸術文化センターの制作する舞台に注目したい。

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