佐多達枝バレエ公演、井上バレエ団、東京シティ・バレエ団

2008佐多達枝バレエ公演『庭園』
2006年初演、個人的に近年もっとも衝撃を受けた傑作の再演。鬱蒼たる蔦の垂れ下がった庭園を舞台に万物の流転を透徹して見据えた舞踊宇宙が展開される。前回の13景に加え、石井竜一のソロも加え14景に。パートの順番も入れ替わっている。印象に残るのは高部尚子のソロ『光合成』と島田衣子&武石光嗣による『埋葬』。日本を代表するプリマから最良の演技を引き出していた。しかし、男ひとり女ひとりによる三角関係を描いた『ロマンチスト』など初演時の出来に遠く及ばないものも散見される。パートごとの完成度にややバラツキがみられたのは残念だが、佐多の飽くなき創造のエネルギーと観るものの思考を喚起する舞台創りにはやはり深い感銘を受けたのだった。
(7月4日 シアター1010)
井上バレエ団「3Choregraphers + Peter Farmer」
バレエ団創立40周年、財団設立25周年、井上博文没後20年記念公演が盛大に行われた。ブルノンヴィル『コンセルヴァトワール』はバレエ学校のクラスの模様を描いた爽やかな佳作。『ジェンツァーノの花祭り』よりパ・ド・ドウはいわずと知れたブルノンヴィルの代表作で井上バレエ団の十八番でもある。リファール『ヴァリアシオン』は元来パリ・オペラ座のプリマたちに創られたもので、6人の個性的なヴァリエーションが続く。宮嵜万央里、田中りなら中堅、若手プリマが伸びてきている。島田衣子&エマニュエル・ティボー主演『グラン・パ・エスパニョール』(関直人振付)は「ドン・キホーテ」の曲を自由に用いての祝祭バレエ。島田とティボーは昨年に続き共演、勢い余る場も観られたが明るく力強い演技を見せ会場を沸かせた。島田はいまが旬の踊り手だ。脇に回りつつ献身的に舞台を支えたベテラン、藤井直子の演技も心に残った。怪我から復帰、美しさを保ちつつ大ベテランになっても研鑽を重ね、踊りが上手くなっているのには頭が下がる。
(7月12日 文京シビックホール大ホール)
東京シティ・バレエ団「石井清子舞踊生活70周年記念公演」
理事長、石井清子の記念公演。『レ・シルフィード2008』(2001年)は石井流に美しくまとめられたロマンチック・バレエだ。詩人と妖精たちの紡ぐ、まさに泰西名画の世界。黄凱のナルシスティックな演技がたまらなく魅力的だった。『剣の舞』(2005年)は華やかに舞曲を10曲連ねる。音楽の流れに逆らわず観ていて小気味よい振付を生む石井ならではの手腕が随所に見て取れた。新作『眠る森のアレグロ・ヴィーヴォ』は現代舞踊の野坂公夫:演出・振付。「眠り」の音楽を用い、石井扮するカラボスに焦点を当てているが、狙いが曖昧で振付も無理に変える必要があるのか疑問が残る。オーロラを踊った橘るみが秀逸。パを丁寧に連ねつつスケール感漂う踊りをみせるあたりはやはり実力者と再認識した。オーストラリアでの在外研修から帰国する志賀育恵と並び切磋琢磨することで後進も刺激を受けるだろう。地域に密着し、アットホーム、暖かな舞台創りに定評あるこの団体だが、今後より質の高い舞台を生むことが期待されるところだ。
(7月19日 ティアラこうとう大ホール)