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ダンスの海へ 舞踊評論家・高橋森彦のblog このページをアンテナに追加 RSSフィード

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2008-10-31

[]大倉摩矢子舞踏公演『はれのひ』

BankART Cafe live・大倉摩矢子舞踏公演『はれのひ』

構成・出演:大倉摩矢子

闇配師:大森正秀

(2008年10月31日 BankART Mini)

大倉摩矢子は大森正秀率いる天狼星堂のメンバー。ラボ#20シリーズで新人賞を獲得、一躍知られるようになった。2006年秋、中野テルプシコールで観たソロ『明日へ。』は忘れられない。一見どうということのない舞踏だったが緻密な所作の連続に注目した。今回も倉庫内のカフェスペースで40分あまりを緊張感切らすことなく踊り切った。そろりと腰をかがめゆっくりゆっくりと階段から降りてくる冒頭からして惹かれる。終わり方があっけなく構成に物足りなさを残すが足を運んだ甲斐のあるパフォーマンスだった。

2008-10-30

[]田中いづみダンス公演〜今のあなた、へのメッセージ2〜

平成20年度文化庁芸術祭参加公演

田中いづみダンス公演〜今のあなた、へのメッセージ2

構成・振付・演出:田中いづみ

出演:田中いづみ/島田美智子/杉山美樹/所夏海/佐藤百恵/滝本彩和子/竹田萌絵/森田美雪

『トロピカルな冬』

『breathing space 』

(2008年10月30日 草月ホール)

20年のニューヨーク生活から昨年日本に拠点を移した田中いづみの公演を機会あって観ることができた。80年代のアメリカ、ことにニューヨークに滞在した邦人舞踊家は少なくなく、コンテンポラリー・ダンス関係者にほとんど神様扱いの黒沢美香や齢を重ねてもラディカルでアングラな味を持つ舞台が魅力の江原朋子はじめ馬場ひかり、武元賀寿子らが挙げられる。田中作品にはオーソドックスなジャパニーズ・モダンダンス=現代舞踊と舞台美術の嗜好などに見て取れるようなポストモダンの影響、そして何よりも個人的なメッセージを気負わず舞踊に託すという特徴があるように見受けられた。

2008-10-28

[]705Moving Co. 1st Recital 「705 Carnival 2008」

705Moving Co. 1st Recital 「705 Carnival 2008」  

振付・構成・演出:菊地尚子

出演:坂本眞司/塙琴/横洲良平/久住亜里沙/池川恭平/菅原さちゑ/大口律子/飯塚友浩/池田美佳/緒方祐香/市橋万理/平田友子/西村葵/藤田マミ/鈴木清貴/金沢恵美/大沢真澄/丸山仁志/菊地尚子

『CELL』

『ポエティックな箱庭』

『シンフォトロニカ・フィジクロニクル』

(2008年10月28日 北沢タウンホール)

ニューヨークで研鑽を積み帰国した菊地尚子の主宰する705Moving Co. 初の自主公演。『CELL』は映像(飯名尚人)と三次元の動きがシンクロして惹きつけられる。菊地のソロパートも上体をひねらせた独特の振り等個性的でおもしろい。ただ10のシーンで構成されるが後半は映像との絡みが減って漠たるイメージの羅列に終始した感も。『シンフォトロニカ・フィジクロニクル』はラヴェルの名曲「ボレロ」を用いたもの。意想外の動きが楽しい。腰をかがめ両手を腰のうしろで重ね動かしつつ歩く振りや菊地扮する指揮者がダンサーたちに持ち上げられ運ばれていく場など個性的。何よりもフィジカルなおもしろさを前面に押し出しているのが特徴だろう。ダンサーでは菊地のほか池田美佳、久住亜里沙が印象に残る。ことに池田は恵まれた肢体、抜群の身体能力と美貌を兼ね備え、切れのよいダンスが持ち味だ。なによりも華があるのがいい。

2008-10-27

[]BONANZAGRAM 2008『intermezzo...その間を埋めるもの』

平成20年度文化庁芸術祭参加公演

BONANZAGRAM 2008『intermezzo...その間を埋めるもの』

振付・演出:三浦太紀

出演:櫻井マリ/桃谷幸子/大塚知美/桝竹真也/徳江弥/篠崎太郎/三浦太紀/清水美由紀/糠実智子/松山育恵/井上大輔/竹下虎志/行友裕子(イメージ)

(2008年10月27日 東京芸術劇場中ホール 夜の部)

ユニークバレエシアター出身・三浦太紀が設立したBONANZAGRAMの公演。

「私」を主人公に父や母との葛藤を三浦の個人的な体験も踏まえて描いたようだ。現在の私、青年時代の私、少年時代の私、そしてその妻も現在と出会いの頃の存在が登場し、舞台は過去と現在が入り乱れ複雑な様相を呈する。抽象度が高く筋や設定を追うのはあまり意味がないか。さまざまの関係が立ち現れては消えていく。登場人物たちの織りなす微妙繊細な心理の綾をどこまで感じ取れるかで評価は分かれるだろう。ある程度人生経験を重ねた人ほど共感できるのかもしれない。ただ、若いダンサー中心に技量がもう少し高まればより細部の表現の輪郭がはっきりするようには思う。

2008-10-26

[]牧阿佐美バレヱ団『ライモンダ』最終日

牧阿佐美バレヱ団『ライモンダ』(全幕)

平成20年度文化芸術振興費補助金(芸術創造活動重点支援事業)

振付:テリー・ウエストモーランド(M.プティパによる)

総監督・改訂振付・演出:三谷恭三

美術:ボブ・リングウッド 音楽:アレクサンドル・グラズノフ

指揮:デヴィッド・ガルフォース 管弦楽:ロイヤルメトロポリタン管弦楽団

ライモンダ:青山季可 ジャン・ド・ブリエンヌ:逸見智彦 

アブデラクマン:菊地研

(2008年10月26日 ゆうぽうとホール)

当初予定をいれていた舞台があったものの観られなくなったため(ダンサーの怪我による休演)急遽初日に続いて牧阿佐美バレヱ団『ライモンダ』に足を運ぶ。

伊藤友季子とともに若手プリマとして注目される青山は持ち前の安定した技量を発揮して最後まで安心してみることができる。逸見のベテランらしい丁寧なサポートも光っていた。アブデラクマン役の菊地研も初日に引き続いて活躍をみせていた。

2008-10-25

[]ダンスカンパニーカレイドスコープ「PROJECT KALEIDO vol.2」Program[a]

ダンスカンパニーカレイドスコープ

「PROJECT KALEIDO vol.2」Program[a]

平成20年度文化庁芸術祭参加公演

平成20年度文化芸術振興費補助金(芸術創造活動重点支援事業)

演出・構成・振付:二見一幸

『Lambent』

出演:田保知里/加賀谷香/松田辰彦

『Frolic』

出演:石井麻莉子/木暮あい/小林啓子/佐藤伊都美/清水揚子/玉城晴香/西山舞/花村愛子/長谷川真奈美/藤村真子/松田空/渡邊有沙/夢川典子

『Repetiton of What』

出演:中村真知子/大竹千春/佐々木紀子/高杉あかね/久保朝香/幸内未帆/高橋あや乃/青木教和/構井晃道/小出顕太郎/小林洋壱/西澤光時/長谷川秀介/二見一幸

チェロ生演奏:岡部恵理

(2008年10月25日 THEATRE1010)

モダン/コンテの枠を超え積極的に公演活動を行うダンスカンパニーカレイドスコープ。主宰の二見一幸は自身のカンパニーにおいて新作・旧作の上演を行うほか新国立劇場や日本バレエ協会から作品を委嘱されている。ダンサーも優れており、二見のミューズである田保知里や中村真知子、大竹千春といった実力者を揃え私見では目下、モダン/コンテの団体のなかでも特に充実した活動を行っている。今回の3演目はいずれも二見の演出・構成・振付によるもの。完成度の高い旧作の再演と若いダンサーを使い若さと遊戯感覚を打ち出した新作、さらにチェロの生演奏に合わせカンパニーメンバーと男性ゲストが踊る新作を上演した。メンバーのうち大竹と高杉あかねは2年間の在外研修に行くため日本で踊る姿も見納めとなる。二見の振付術の冴えを再認識させられるともにカンパニーが充実期にあることを示す好プログラムだった。

2008-10-24

[]牧阿佐美バレヱ団『ライモンダ』初日

牧阿佐美バレヱ団『ライモンダ』(全幕)

平成20年度文化芸術振興費補助金(芸術創造活動重点支援事業)

振付:テリー・ウエストモーランド(M.プティパによる)

総監督・改訂振付・演出:三谷恭三

美術:ボブ・リングウッド 音楽:アレクサンドル・グラズノフ

指揮:デヴィッド・ガルフォース 管弦楽:ロイヤルメトロポリタン管弦楽団

ライモンダ:伊藤友季子 ジャン・ド・ブリエンヌ:京當侑一籠 

アブデラクマン:菊地研

(2008年10月24日 ゆうぽうとホール)

牧阿佐美バレヱ団は創立50周年記念事業を終えて以後、クラシック・バレエの名作を続けて上演している。団の活性化を図って若手の抜擢にも積極的であり着実に成果を挙げている。今回は大作『ライモンダ』全幕11年ぶりの上演だ。

同団では1979年にウエストモーランド版を初演して再演を重ねているが、今回はそれを基に総監督の三谷恭三が改訂演出振付を行った。主役はトリプル・キャストが組まれ、どの日を観ようかと悩んだけれども初日を観た。

伊藤は音楽性に秀でている。そして詩的な演技もセンス豊かなものだ。初役ながら健闘をみせていた。京當は精悍さを増し堂々たる演技。菊地はノーブル役もいいがキャラクター役も演じられる幅の広さが魅力である。今回も悪役をサラりと演じてみせあらためてその資質の高さを示していた。

新制作の初日だったがキャラクター・ダンスをはじめとしてダンサーたちは振付をよく吸収、こなれた踊りを披露していた。入念なリハーサルの跡がうかがえる。プティパ最後の傑作の魅力たるクラシック・バレエならではの様式美と民族舞踊によるエネルギッシュな表現のコントラストも明快。なかなか充実した舞台に仕上がっていた。

2008-10-23

[]谷桃子バレエ団・創作バレエ12「古典と創作」

谷桃子バレエ団・創作バレエ12「古典と創作」

平成20年度文化芸術振興費補助金(芸術創造活動重点支援事業)

『眠れる森の美女』より第3幕

再振付:鈴木和子 バレエミストレス:前田藤絵

オーロラ姫:佐々木和葉 デジレ王子:今井智也

青い鳥とフロリナ王女:伊藤さよ子 中武啓吾

『タンゴジブル』

振付:日原永美子 演奏:キンテート・オセイロ

出演:高部尚子/伊藤範子/齊藤拓/依田久美子/樋口みのり ほか

(2008年10月23日 めぐろパーシモンホール 大ホール)

谷桃子バレエ団がこのところ秋に行っている恒例の創作公演。

前半の古典作品では『眠れる森の美女』第三幕を上演した。谷バレエとしては『眠り』自体はじめて取り上げたとのこと。鈴木和子がロイヤル版をもとに振付、落ち着いた雰囲気の演出だ。新世代のダンサーたちが台頭してきているのを好ましく思った。

後半の創作は日原永美子振付『タンゴジブル』。ピアソラ他タンゴの名曲にのせ大人なびた雰囲気のダンスが展開される。キンテート・オセイロの生演奏とバレエダンサーならではの鍛えられた身体から発散される豊かな表現力のコラボレーションを楽しむ。

2008-10-20

[]佐多達枝・河内昭和バレエスタジオ第50回発表会

エリアナ・パブロワ、東勇作、松山樹子らに師事した佐多達枝。戦後に服部・島田バレエ団に参加して活躍した河内昭和。1954年に河内や小森安雄らが服部・島田バレエ団を脱退、それに佐多らも加わって青年バレエグループが結成された。白いバレエ(バレエブラン)に対して黒いバレエとも評された実存的な創作――『ひかりごけ』や『飼育』などを発表し戦後の創作バレエを活性化させた。青年バレエグループ内で主に振付を担当していた佐多と振付のほか制作面に長けた河内が結ばれ佐多・河内バレエスタジオを開設する。以来、これまでにハーレム・ダンスシアター等で活躍した奈良岡典子、NDT2などで活躍している首藤泉らを輩出。発表会は今回で50回目となった。

2部構成の前半には幼児・小学生クラスの踊る小品からジュニア、上級クラスの生徒が踊るものまで多彩な演目が並ぶ。注目はやはり佐多の振付作品。ジュニアクラスの3人に振付けられた『シャンパーニュ ポルカ』『マーチ』はショスタコーヴィッチ曲にあわせたものだ。生徒用の創作といっても佐多は一音一音を無駄にすることはなく踊り手は息つく暇はない。細やかな脚さばきを求められるが3人はよくこらえ溌剌とした演技を披露していた。『序奏とアレグロ』はスタジオの幹部クラスで佐多達枝バレエ公演にも出演する一線級と上級クラスの生徒、さらにはゲストの武石光嗣、石井竜一も出演。エルガー曲にあわせたものだが出演者は細やかな音取りをつかみ、佐多独自の、前後左右さまざまの空間を自在に捉える多彩な動きもよくこなしていた。2部では『シンデレラ』全幕が上演された。振付は斎藤隆子。2幕構成にまとめ、それぞれ冒頭にはナレーションを加え物語の展開をわかりやすく説明する。シンデレラ役は、1幕はジュニアの生徒、2幕は幹部の澤井貴美子。王子に武石、道化役に石井とゲストを配する。生徒たちの力量にあわせ無理のない踊りを配して手堅い舞台に仕上げていた。

長年にわたり創作を発表してきた佐多であるが、個人の公演は今夏に行われたものをもって一段落するという。とはいえ来年も芸術監督を務めるO.F.Cにおいて大作『ヨハネ受難曲』を発表、期待が高まる。また今秋から来春にかけて新進振付家のためのワークショップ(アーツ・チャレンジ2009 )の講師として後進の育成に携る。日本が生んだ世界水準で誇りうる振付家の活動からますます目が離せないことは確かだ。

(2008年10月19日 なかのZERO大ホール)

2008-10-16

[]維新派『呼吸機械』

大阪を拠点に野外劇を上演し続けている劇団維新派。今回は滋賀県長浜市の琵琶湖畔に設えられた水上舞台での公演だ。北陸本線・田村駅から少し歩くと仮設の劇場が見えてくる。すぐ側には維新派野外公演では恒例の屋台村。タイ風炊き込みご飯や熱々の豚汁などを求め食しつつ開演を待つ。傍らでは大阪の異色ユニットcontact Gonzoがパフォーマンスを行って観客を楽しませている。殴り殴られつつ触れ合うという、ガチなのか児戯なのかよくわからないおバカなことをする野郎どもだ。

会場時間になり仮設劇場に足を踏み入れると、なんとステージが湖の水際まで伸びている。文字通りの水上舞台。今回は<彼>と旅する20世紀三部作#2ということで欧州を舞台にしたものらしい。レジスタンスやナチス、スターリン主義といった20世紀の欧州の歴史が語られ、カインとアベルをはじめとして聖書から名を引用されたと思しき少年少女たちが時空を越え自在に旅する。維新派といえば「ヂャンヂャン☆オペラ」とよばれる、ラップのような独特の台詞とも歌ともつかぬものを発しながら集団でパフォーマンスすることで知られる。今回も台詞は少なく、パフォーマンスに傾斜した創りだ。圧巻は終幕。舞台の上にどこからともなく水が溢れてきて、その上で少年少女は繰返し、繰返し横たわっては跳ねる。やがては舞台と湖が同化していく――。

過去に観た維新派の舞台のなかでも特に感動的だった。場の魅力が最大限に活かされている。巨大な汽車、廃墟といった舞台美術も圧倒的。ただ、舞台上に展開されるイメージの数々のうちに、ワイダやアンゲロプロスの映画から引用したと思われるものが散見されたのは気になった(『灰とダイヤモンド』や『旅芸人の記録』『ユリシーズの瞳』などなど)。でもオマージュとして許容できる範囲かな。維新派のパフォーマンスに対して「ダンスか、あるいはダンスではないか」との議論があるけれども、今回あらためて思ったのは、どうでもいい、ということ。音と台詞と動きと舞台美術、そして場の特性などさまざまの魅力が溶けあったところに維新派の舞台の面白さがある。それを狭義にせよ広義にせよ「ダンス」という枠で取り上げても仕方ないように思う。

(2008年10月9日 滋賀県長浜市さいちか浜 野外特設劇場<びわ湖水上舞台>)

2008-10-15

[]貞松・浜田バレエ団「創作リサイタル20」

貞松・浜田バレエ団の「創作リサイタル」が20回目を迎えた。当初は団員の創作を発表する場であったが、近年ではナハリン、ユーリ・ンらを海外から招き話題を集めている。また昨年は石井潤の名作『泥棒詩人ヴィヨン』を上演し大きな反響を呼んだ。今回は『羽の鎖』(森優貴振付)、『黒と白のタンゴ』(貞松正一郎振付)、『ボレロ』(貞松融振付)、『光ほのかに―アンネの日記』(後藤早知子振付)と邦人作品の上演である。

昨年初演され好評を博した『羽の鎖』はグレツキ「悲歌のシンフォニー」第三楽章を用いて今を生きる女性が抱えるさまざまの葛藤や自由への憧れを描いた。彼女たちに救いは訪れるのか、あるいは訪れないのか――謎めいた終幕が余韻となり胸に迫る秀作だ。振付を手がけた森は貞松・浜田バレエ団出身、現在はドイツで振付家/ダンサーとして活躍している。グレツキのソプラノ歌唱付の難しい曲想・曲調を鮮やかに動きとして定着させる手際はたいしたもの。緩急を絶妙に捉え、スピードへの高い意識も備えている。舞踊語彙も豊富。腕や肘を捻らせたり、あるいは鋭く用いたものやたわめたフォルムといった欧州のコンテンポラリー・バレエの手法に通暁、それらを巧みに配した作舞はよく出来ている。森はこの5月に東京で上演された「ひかり、肖像」においても卓越した振付手腕を発揮、企画に応じた創作をきっちり仕上げる能力も兼備しているようだ。舞踊語彙により独自性はほしいが国際市場に通用する久々の邦人バレエ振付家になる可能性は高いだろう。そして賞賛すべきはハードな振付に耐えた女性陣(上村未香、正木志保、竹中優花ら)。西洋コンテンポラリー・バレエ特有の振付を踊りこなしたうえでそれぞれが表情豊かに表現している。緩急の切り替えも抜群だった。

『黒と白のタンゴ』はピアソラほかのタンゴにのせた大人の雰囲気を感じさせる、洒落たもの。貞松正一郎のソロに始まり彼と竹中優花のデュオを山場に粋でいて濃密なダンスを展開。ダンスクラシックベースながら淀みない作舞でタンゴとよく調和している。その精髄は“バレエの申し子“と称される振付者一流の音感のよさにあるように思う。

『ボレロ』は主宰者みずからが振付したもの。団の代表作として長年踊り継がれてきた。瀬島五月のソロに始まり、じょじょにメンバーが増え、大人数での踊りとなる。男性はジーンズのみ女性はその上にレオタード姿。ダンサーの肉体の躍動がラヴェルの音楽と共振、そのうねりが怒涛のごとく客席をも呑みこみ圧巻であった。

最後を締めくくった『光ほのかに―アンネの日記』は良心的な作風で高い評価を受けてきた後藤早知子の代表作。「アンネの日記」を遺したアンネ・フランクとその家族の悲劇を描く。静かなタッチのなかにも人類平和への強い願いがこめられている。アンネ役は上村未香。チャーミングにして思春期の少女らしい多感な感性を持った役どころをよく演じていた。後藤がプログラムに記しているようにアンネの悲劇からまだ80年しか経ていないという事実に驚きを覚える。現在も金融危機や政情不安に陥り、安穏と生きてはいられない不安の時代。どこからともなく軍靴の響きも…。静かに穏やかに平和や愛の尊さを訴えかける本作が再演されたことは誠に意義深く思われた。

先鋭的な舞踊表現、洒落た大人の世界、肉体の躍動感、踊りにこめた平和への願い。四作四様の輝きを放っている。観客と今の時間を共有したい、という団員の思いに満ちあふれた、実り豊かな公演であった。

(2008年10月10日 神戸文化中ホール)

2008-10-14

[]大阪BABA「Pichet Klunchun Program」<one-Dance>

大阪は上方歌舞伎や上方落語の発祥の地であり、古くから独特の芸術文化を生み出してきた。グローバリズムに支配される現代において個の身体に着目、大阪から新たな表現を模索しようという試みがDANCE BOX主催dB Physical Arts Festival2008<大阪BABA>である。今回は「場」の持つ特性を生かすことがテーマだったようだ。

Pichet Klunchun Programは大阪最古の能楽堂で行われた。ピチェ・クランチェンはタイ人。タイ宮廷舞踊の「コーン」とコンテンポラリー・ダンスを融合させた作風で知られる。ことに自作自演ソロ『Reconsider』が圧巻だった。摺り足や重心の低い動きは能をはじめとした日本の伝統芸能とも通じる。手の動きも細かく空気と自在に戯れているかのよう。ひとつの動きが他の身体部位にも波及し、それが連綿と続いていく。常に空間のなかでの身体が意識されている。今回の話題は能とのコラボレーション。能楽師の山本章弘による仕舞「隅田川」に続いてクランチェンも同曲に挑んだ。子を人買いにさらわれた母親の悲哀を描いた狂女物。クランチェンは小さな石を手に握り締め母親の想念を表現する。クランチェンのダンスには独特の磁力があって強く惹きつけられた。

(2008年10月8日 山本能楽堂)

DANCE BOX<One-Dance>はご好意でゲネプロを観せていただいた。これはDANCE BOXが若手アーティストの成長を手助けするステップシステムの最終段階にあたり20〜30分程度の創作を発表する。山田知美作品は観られず、野田まどか作品のみを観た。会場は天神橋近くにある大正モダンの面影を残した4階建てのビル。廃墟同然になっていたものを改修、現在はアートギャラリーとして使用されている。野田作品『生のっ!』は4階の小スペースで上演されたが観客参加型作品らしく開演前からはじめる楽しい仕掛けがあったようだ。そのため作品の全貌をうかがい知ることはできなかったのだけれども面白く観た。野田のダンスは腰をかがめて足裏を微細にもちいた動きから狂ったように回りまくるものまで多彩。静かなものから激しいものへの転調に魅力を感じる。千日前青空ダンス倶楽部の舞踏手であり、歌い手としても活動する野田は美人、チャーミングで人気が出るだろう。11月末に横浜・STスポットで行われる「DANCE BOX GO EAST」にも出演。関東でもその踊りを観ることができる。ぜひ注目したい。

(2008年10月10日 フジハラビル・ゲネプロ所見)

2008-10-08

[]舞踊界の20年の変遷、そして未来

資料を整理していると、およそ20年前、1988年刊行の「DANCE NOW」という雑誌が出てきた。1、2月号では1987年を回顧する座談会が行われている。出席者はケイコ・キーン、久保正士、桜井勤、八巻献吉、山野博大(司会)という顔ぶれだ(敬称略)。

この年大きな話題になったのは松山バレエ団『新当麻曼荼羅』と牧阿佐美バレヱ団『光の国から』。座談会では両作に関して踏み込んだ議論がなされ、日本の創作バレエの可能性について厳しくも建設的な討論が展開されている。この年には佐多達枝『新しい女』もあった。翌年に名作『泥棒詩人ヴィヨン』を発表する石井潤も精力的に活動。現代舞踊では今は亡き石井晶子の『壁画』や折田克子の『パラダイスロスト』が賞賛されている。ダンサーでは、バレエの高部尚子、平元久美、草刈民代、貞松正一郎、現代舞踊では、潮田麻里、黒沢美香、藤井香らが若手として注目されていたようだ。

20年という歳月のなかで変わったことは多い。バレエ界では新国立劇場、Kバレエカンパニーといった新興団体が躍進した。現代舞踊に関しては現在も定期的に各種公演が行われているが、ジャーナリズム、観客の関心はコンテンポラリー・ダンスへと移行。この座談会の前年、1986年にバニョレ国際振付コンクールに入賞した勅使川原三郎やポストモダンの洗礼を受けた黒沢美香らの先鋭的な活動が舞踊シーンを動かしていくことになる。新時代への移行期として興味深い時期だったのだろう。

批評家に関しても動きはある。この時期には現在第一線で活躍する批評家が登場している。女性が多いのも特長だ。それまではジャーナリスト・編集者には女性がいたものの批評家といえばほぼすべて男性であった。ベジャール・バレエやアントニオ・ガデスの来日公演、ピナ・バウシュ初来日や伝説といわれる横浜アートウェーブに感銘を受け批評活動を始めたと明言する人も少なくない。バレエブームがはじまるとともにコンテンポラリー・ダンス隆盛期への前段階として熱気に満ちた時代だったようだ。

果たして20年後のダンスシーンはどうなっていくのか。誰にもわからない。しかし、いま現在進行形で生み出されるダンスのなかにその萌芽が隠されていることは間違いない。だからこそ日々ダンスの舞台を追うのがやめられないのである。

2008-10-02

[]草刈民代が現役引退へ

マスコミでもおなじみのプリマバレリーナ草刈民代が来年4月に行われる、自身によるプロデュース公演「エスプリ〜ローラン・プティの世界〜」を最後に現役引退すると発表、そのニュースがスポーツ新聞やネットニュースを賑わせた。

小林紀子のもとでバレエをはじめその後は牧阿佐美らに師事し牧阿佐美バレヱ団のトッププリマとして活躍、海外でも踊り、レニングラード国立バレエ公演等にも客演するなどそのキャリアをみると輝かしい。そして何よりも周防正行監督の映画『Shall we dance?』に主演したことで一躍国民的に知られる存在となった。美貌と抜群のスタイルのよさ、そして天性の華が何よりも草刈の特徴であろう。近寄りがたいまでの圧倒的な存在感で観るものを圧した。ことにプティ『若者と死』で演じた死神役は畢生の当たり役といえる。冷ややかで醒めた美しさをもってして若き芸術家を破滅へと追い込んでいく。ファムファタールの極北ともいえる役どころに草刈の個性がはまり、あまりに真に迫った舞台で慄然とさせられた。プロコフスキー振付『三銃士』の悪女ミレディ役もこの人にしか出せない老獪で熟達した演技だった。新国立劇場バレエで踊った、チューダーの名作『リラの園』における婚約者の愛人役も忘れ難い。透明感のある美しさと細やかな視線の演技に余人を持って変えがたい資質を感じさせはした。

報道によると、草刈は今後女優業に意欲を示しているとのこと。バレエあるいはバレエ界とはどのような距離・関係をとっていくのだろうか。抜群の知名度とセルフプロデュース能力を活かして2006年には来春の公演と同様にプティ作品を集めた「ソワレ」と題したプロデュース公演を行ったが、その際には自らスポンサーを見つけ、振付もプティに依頼しパリや中国での公演も実現させた。その行動力は並み大抵のものではない。自身は現役引退し一線を引くが、後進のため、バレエ界のためになることなのであれば、その稀有なプロデュース能力を発揮してもらいたいとは思う。