舞踊界の20年の変遷、そして未来

資料を整理していると、およそ20年前、1988年刊行の「DANCE NOW」という雑誌が出てきた。1、2月号では1987年を回顧する座談会が行われている。出席者はケイコ・キーン、久保正士、桜井勤、八巻献吉、山野博大(司会)という顔ぶれだ(敬称略)。
この年大きな話題になったのは松山バレエ団『新当麻曼荼羅』と牧阿佐美バレヱ団『光の国から』。座談会では両作に関して踏み込んだ議論がなされ、日本の創作バレエの可能性について厳しくも建設的な討論が展開されている。この年には佐多達枝『新しい女』もあった。翌年に名作『泥棒詩人ヴィヨン』を発表する石井潤も精力的に活動。現代舞踊では今は亡き石井晶子の『壁画』や折田克子の『パラダイスロスト』が賞賛されている。ダンサーでは、バレエの高部尚子、平元久美、草刈民代、貞松正一郎、現代舞踊では、潮田麻里、黒沢美香、藤井香らが若手として注目されていたようだ。
20年という歳月のなかで変わったことは多い。バレエ界では新国立劇場、Kバレエカンパニーといった新興団体が躍進した。現代舞踊に関しては現在も定期的に各種公演が行われているが、ジャーナリズム、観客の関心はコンテンポラリー・ダンスへと移行。この座談会の前年、1986年にバニョレ国際振付コンクールに入賞した勅使川原三郎ポストモダンの洗礼を受けた黒沢美香らの先鋭的な活動が舞踊シーンを動かしていくことになる。新時代への移行期として興味深い時期だったのだろう。
批評家に関しても動きはある。この時期には現在第一線で活躍する批評家が登場している。女性が多いのも特長だ。それまではジャーナリスト・編集者には女性がいたものの批評家といえばほぼすべて男性であった。ベジャール・バレエやアントニオ・ガデスの来日公演、ピナ・バウシュ初来日や伝説といわれる横浜アートウェーブに感銘を受け批評活動を始めたと明言する人も少なくない。バレエブームがはじまるとともにコンテンポラリー・ダンス隆盛期への前段階として熱気に満ちた時代だったようだ。
果たして20年後のダンスシーンはどうなっていくのか。誰にもわからない。しかし、いま現在進行形で生み出されるダンスのなかにその萌芽が隠されていることは間違いない。だからこそ日々ダンスの舞台を追うのがやめられないのである。