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ダンスの海へ 舞踊評論家・高橋森彦のblog このページをアンテナに追加 RSSフィード

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2008-12-30

[]2008舞踊界回顧

2008年も数多くの舞踊公演が行われた。「ダンスマガジン」2月号、「オン・ステージ新聞」1/2新年号で行われた回顧アンケート等に回答しております。ご高覧ください。ちなみに私も参加させていただいた「オン・ステージ新聞」評論家/ジャーナリスト選出による新人ベスト1は舞踊家/小野絢子(新国立劇場バレエ団『アラジン』、小林紀子バレエ・シアター公演)、振付家/森優貴(貞松・浜田バレエ団「創作リサイタル20」における『羽の鎖』、セルリアンタワー能楽堂「ひかり、肖像」)に決定。おめでとうございます。

DANCE MAGAZINE (ダンスマガジン) 2009年 02月号 [雑誌]

DANCE MAGAZINE (ダンスマガジン) 2009年 02月号 [雑誌]

blogでも2008年のバレエ、ダンスについてまとめてみました。総論に入る前に今年の印象に残る公演を10あげておきます(順不同)。

・首藤康之×小野寺修二『空白に落ちた男』


・Noism08『Nameless Hands〜人形の家』


・2008佐多達枝バレエ公演『庭園』


・貞松・浜田バレエ団特別公演「創作リサイタル20」


・ボヴェ太郎『Texture Regained - 記憶の肌理 -』


・ダンスカンパニーカレイドスコープ「PROJECT KALEIDO vol.2 Program[a]」


・アンサンブル・ゾネ『Still Moving』


・英国ロイヤル・バレエ『シルヴィア』『眠れる森の美女』


・シュツットガルト・バレエ団『眠れる森の美女』『オネーギン』


・ボリショイ・バレエ『明るい小川』

国内公演のうちバレエ系では創作が充実していた。私的には洋舞であればなんでも好きであるが、特に邦人の振付家によるバレエの創作に関してこだわりがあるのでうれしい一年だった。最大の成果として2008佐多達枝バレエ公演『庭園』を推したい。万物の流転を透徹した視線で見つめつつ優しさにあふれた作品。2006年初演作の待望の再演であり、主題の深遠さ、振付・演出の妙があわさった稀にみる大傑作だった。松崎すみ子『旅芸人』(日本バレエ協会「バレエ・フェスティバル」)、後藤早知子『光ほのかに〜アンネの日記』(貞松・浜田バレエ団「創作リサイタル20」)、川口節子『イエルマ』(愛知芸術文化センター「クリエイティブ・ダンス・プロジェクト2008」)、大島早紀子(H・アール・カオス)『神曲』(愛知芸術文化センター「クリエイティブ・ダンス・プロジェクト2008」)に対する評価も高かった。若手ではキミホ・ハルバート『A Midsummer Night’s Dream』(日本バレエ協会「バレエ・フェスティバル」)、日原永美子『タンゴジブル』(谷桃子バレエ団「古典と創作」)が注目されたが不動のプリマとして活躍する下村由理恵『Bizet Symphony』(日本バレエ協会「全国合同バレエの夕べ」)をシンフォニック・バレエの秀作としてあげておきたい。バレエ系では女性振付家の活躍が目立ったが男性では、金森穣『Nameless Hands〜人形の家』が知的かつスリルに富みつつ肉体の復権を高らかに謳いあげ、弱冠30歳の新鋭・森優貴『羽の鎖』(貞松・浜田バレエ団「創作リサイタル20」)を発表、昨年に続く再演だがコンテンポラリー・バレエとして比類ない完成度を誇り圧巻だった(ダンサーもすばらしい!)。男性ベテランでは深川秀夫松岡伶子バレエ団アトリエ公演「深川秀夫 バレエの世界」等によって独自の美意識にあふれつつダンスのおもしろさを堪能させる秀作を各地で発表した。熊川哲也もKバレエカンパニー『ベートーヴェン 第九』を創作して振付の才能を示した。佐藤宏(ラ ダンス コントラステ)も独自路線を行く。東京シティ・バレエ団谷桃子バレエ団バレエシャンブルウエスト等の創作活動も見逃せない。横井茂石井清子の記念公演も行われた。外人振付家作品の上演では東京バレエ団『時節の色』が優れていた。再々演であり、ノイマイヤー作品の系譜のなかでも重要な位置を占める傑作との評価を完全なものにしたといえる。全幕バレエではデビッド・ビントリー振付、新国立劇場バレエ団『アラジン』がエンターテインメント路線で圧倒的好評を博した。プティパ美学を押し進めた振付が際立つ牧阿佐美バレヱ団『ライモンダ』、コボーの丁寧な演出が光った小林紀子バレエ・シアター『ラ・シルフィード』、マイムや演技に説得力のあったNBAバレエ団『ドン・キホーテ、オーソドックスかつ現代的な視点から緻密に演出した法村友井バレエ団『白鳥の湖』なども新制作もしくは大幅な改訂上演がなされた。近代バレエ上演では、バレエリュスのレパートリーを独自に脚色した東京小牧バレエ団の活動が注目される。ブルノンヴィルからリファール、関直人作品まで多彩なレパートリーを誇る井上バレエ団も独特の美意識に富んだ舞台を披露してバレエファンを惹きつけている。今年、団の創設者を喪った松山バレエ団スターダンサーズ・バレエ団も息の長い活動を行っている。

国内コンテンポラリー・ダンスも公演数は多かった。1990年代〜2000年代当初にデビューした世代も活動しているが、勅使川原三郎『空気のダンス』『Here to Here』『ない男』に圧倒的支持が集まった。トヨタコレオグラフィーアワードで大賞を得た鈴木ユキオ『沈黙とはかりあえるほどに』『言葉の先』のようにじっくり身体と向き合うアーティストに光があたったのは好ましい。新国立劇場主催公演に招聘された梅田宏明『Accumulated Layout(蓄積された配置)』も未知の舞踊語彙を現前させ刺激的だった。首藤康之×小野寺修二『空白に落ちた男』のような新感覚を打ち出した舞台も。白井剛『アパートメントハウス1776』は時代の気分を反映する優しい身体像を提示して新鮮。伊藤キム(輝く未来)はじっくりと若い人材を育てる姿勢を貫いている。新人ではヒップホップ出身のKENTARO!!がもてはやされた。しかし、己の不勉強さを棚に挙げての印象であるが総じて関東では踊り場の1年だった印象。むしろ管見ながら関西のアーティストに意欲的な活動がみられたように思う。岡登志子(アンサンブル・ゾネ)『Still Moving』『鷹の声』ボヴェ太郎『Texture Regained - 記憶の肌理 -』はしっかり身体と向き合いつつ動きの質として極めて高いものだった。関西出身で東京に拠点を移した東野祥子も東西で活躍。坂本公成(Monochrome Circus)の活動は東京公演がなく他に都合も付けられなかったため観られなかったが各地で精力的に活動を行っているようだ。モダンでは内田香(ROUSSEWALTZ)菊地尚子(705 Moving Co.)らが積極的に活動を行った。スタイリッシュな作風が持ち味であり、多くの観客を獲得する可能性を秘めている。二見一幸(ダンスカンパニーカレイドスコープ)の活動は多岐にわたりバレエ、モダン、コンテとジャンルを超えての活躍を見せた。しかし、そういった活動をちゃんと報じる舞踊メディアが少ないのは気になった。いっぽう現代舞踊出身者でもコンテンポラリー・ダンスのジャーナリズムとの親和性の強い黒沢美香木佐貫邦子平山素子らは常に高評価を集めている。

来日公演も盛況だった。ことに期待以上の舞台を見せてくれたのが次の2団体。英国ロイヤル・バレエ『シルヴィア』『眠れる森の美女』蘇演版を、シュツットガルト・バレエ団がクランコの『オネーギン』、ハイデ版『眠れる森の美女』を上演して物語バレエの醍醐味を満喫させてくれた。美術・衣装・照明等を含めた総合芸術として極めて高い水準であったことも賞賛された。ボリショイ・バレエの来日公演はラトマンスキー振付『明るい小川』をはじめとして帯同した劇場付オーケストラとの緻密な舞台づくりで魅せ、聴かせた。踊り手のレベルの高さでは他を圧する。パリ・オペラ座バレエもプレルジョカージュの『ル・パルク』を持って来日、高額の入場料が話題になったが上演水準は文句なく最高級、さすがの名演をみせた。アメリカン・バレエ・シアターはゴージャスな舞台とスターたちの競演で観客を沸かせた。昨年逝去した巨匠のカンパニー、モーリス・ベジャール・バレエ団も来日した。ガラ公演では「エトワール・ガラ」がコンテンポラリー中心のラインナップでスターたちも活躍し充実していた。コンテンポラリーではピナ・バウシュ&ヴッパタール舞踊団『パレルモ、パレルモ』『フルムーン』ラララ・ヒューマン・ステップス『アムジャッド』ヤン・ファーブル『死の天使』バッドシェバ舞踊団『テロファーザ』デボラ・コルカー・カンパニー『ルート』グルーポ・コルポ『オンコト』など多彩なラインナップであったが、専門家筋にも観客にもナチョ・ドゥアト&スペイン国立ダンスカンパニー『ロミオとジュリエット』が圧倒的な好評を博した。物語バレエに成果があった1年であり、その流れは、2009年冬ノイマイヤーのハンブルク・バレエ来日公演でピークを迎えるだろう。コンテに関してはスタイルこそ多様であれ、いずれも身体への飽くなき追求が核としてあり、それが日本のコンテンポラリー・ダンスシーンにどう影響を及ぼすのか楽しみにしたい。

2008-12-29

[]冨士山アネットpresents『不憫』

芸術文化振興基金助成事業

冨士山アネットpresents『不憫』

作・演出・振付:長谷川寧

振付・出演: 山本伸一(BQMAP)/石川正義/大石丈太郎/石本華江(妄人文明/Co.山田うん)/石山優太(APE)/上ノ空はなび(toRmansion)/大西玲子/草光純太 /玉置玲央(柿喰う客)/深井順子(FUKAIPRODUCE羽衣)/長谷川寧

(2008年12月29日 下北沢ザ・スズナリ)

作・演出・振付の長谷川寧と衣裳パフォーマー・山下和美によるユニット。病院という施設をモチーフにした演劇ともダンスともつかぬパフォーマンスである。整形外科にやってくる患者たちや医師、看護婦たちの織りなす不可思議、不条理な生態を描いている。冒頭、ギブスをした患者同士が落とした財布の中身を拾い合おうとするシーンからそうであるように、不具の身体を通して身体というもののヒエラルキーが浮かび上がる仕掛けだ。ただ、もう少し肩肘張らずに、しかし、ここぞというところではよりデフォルメした動きがあるとより狙いが明快になるしエンターテインメントとしても楽しめる気はした。

2008-12-28

[]神奈川県民ホール 年末年越しスペシャル「ファンタスティック・ガラコンサート 2008」

神奈川県民ホール 年末年越しスペシャル

「ファンタスティック・ガラコンサート 2008」

指揮:松尾葉子

司会・バリトン:宮本益光 

ソプラノ:臼木あい

テノール:樋口達哉

バレエ:上野水香/高岸直樹

管弦楽:神奈川フィルハーモニー管弦楽団

プログラム

■オペラ

プッチーニ「ボエーム」より〜ムゼッタのワルツ

プッチーニ「トゥーランドット」より〜誰も寝てはならぬ

ビゼー「カルメン」より〜花の歌、闘牛士の歌、ホセとエスカミーリョの決闘の二重唱

マスカーニ「アヴェ・マリア」

ロウ「マイ・フェア・レディ」より〜踊り明かそう

トマ「ハムレット」より〜オフェリアのアリア

■オーケストラ

プッチーニ「妖精ヴィルリ」より〜間奏曲

ドリーブ「コッペリア」より〜ワルツ

ドリーブ「シルヴィア」より〜バッカスの行進

サン=サーンス「サムソンとデリラ」より〜バッカナール

チャイコフスキー「白鳥の湖」より〜ハンガリーの踊り<チャルダッシュ>、情景

チャイコフスキー「くるみ割り人形」より〜ロシアの踊り<トレパック>、花のワルツ

■バレエ

チャイコフスキー「白鳥の湖」第2幕より〜パ・ド・ドゥ

チャイコフスキー「くるみ割り人形」第2幕より〜グラン・パ・ド・ドゥ

(2008年12月28日 神奈川県民ホール)

[]Project HEREing Loss『HEREing Loss ヒアリング・ロス-私の孵る場所』

Project HEREing Loss オーディオ・ダンスパフォーマンス

『HEREing Loss ヒアリング・ロス - 私の孵る場所』

企画・演出振付・出演:川口ゆい

振付・出演:ヤエル・シュネル

衣装:BUTTERFLYSOULFIRE

企画・演出効果:渡邊淳司 

企画・制作協力:坂倉杏介

(2008年12月28日 横浜赤レンガ倉庫1号館2Fラウンジ)

2008-12-27

[]小林紀子バレエ・シアター『くるみ割り人形』

平成20年度文化庁芸術創造活動重点支援事業

小林紀子バレエ・シアター『くるみ割り人形』

監修:ジュリー・リンコン

演出・再振付:小林紀子

金平糖の精:島添亮子

くるみ割りの王子:アレッサンドロ・マカーリオ

ドロッセルマイヤー:中尾充宏

雪の女王:高畑きずな

雪の王:横関雄一郎

指揮:渡邊一正

演奏:東京ニューフィルハーモニック管弦楽団

(2008年12月27日 メルパルクホール)

[]バレエ団ピッコロ クリスマス公演

バレエ団ピッコロ第26回クリスマス公演

振付:松崎すみ子

バレエミストレス:菊沢和子

出演:黄凱(東京シティ・バレエ団)/伊藤範子(谷桃子バレエ団)、山中有子/小原孝司/菊沢和子/北原弘子/松崎えり ほか

『マッチ売りの少女』

ドン・キホーテ』より

(2008年12月27日 練馬文化センター小ホール)

※「オン・ステージ新聞」に評を書きました。

2008-12-26

[]熊川哲也 Kバレエカンパニー『くるみ割り人形』

熊川哲也 Kバレエカンパニー『くるみ割り人形』赤坂Sacasバージョン

演出・再振付:熊川哲也

美術・衣裳:ヨランダ・ソナベント/レズリー・トラヴァース

マリー姫:荒井祐子

くるみ割り王子/王子:橋本直樹

クララ:副智美

(2008年12月26日 赤坂ACTシアター)

やはり美術が圧巻。豪華で洗練されていて機能的。演出は冒頭、ホフマン原作の怪奇性も漂わせるが透徹した美にあふれた世界感で貫かれ、熊川の古典再演出のなかではもっともまとまっているのでは。今回はテープ演奏。今回のために録音したもののようでメリハリがあって音楽として聞かせるものになっている。テンポもよく踊るのは少し大変だったと思うが、それについていければ確実にレベルアップにつながる。Kバレエは2004年〜2007年夏くらいがピークで熊川の怪我以降はかっての活力がやや失われつつあると感じていたが今回の舞台を観る限り少し持ち直した印象を受けた。

[]新国立劇場バレエ団『シンデレラ』

新国立劇場バレエ団『シンデレラ』

振付:フレデリック・アシュトン

シンデレラ:寺島まゆみ

王子:貝川鐵夫

指揮:デヴィッド・ガルフォース

演奏:東京フィルハーモニー交響楽団

(2008年12月26日 新国立劇場オペラ劇場)

アシュトンっぽくと几帳面に踊るのは新国立の美点だろう。東京バレエ団がおなじくアシュトンの『真夏の夜の夢』を初演した際、全然アシュトンっぽくなくて驚いたこともあった(再演ではアシュトン作品らしくなっていた)。しかし、アシュトンっぽさにこだわりすぎると窮屈に感じてしまうことも。もっとさらりと粋に踊りこなしてほしい。主役コンビはミスもあったがアダージョの情感はなかなか雰囲気が良くて手堅くまとめていた。出色が春の精を踊った伊藤友季子。抜群の音楽性と細部にまで神経の行き届いた表現をみせてくれた。指揮、演奏との相性がよかったからだろう。新国立劇場バレエ研修所時代やかって小島章司のリサイタルに出た際の演技に匹敵する輝きを放っていた。

2008-12-25

[]東京ELECTOROCK STAIRS『Wピースに雪が降る』

東京ELECTOROCK STAIRS『Wピースに雪が降る』

振付・演出・出演:KENTARO!!

出演:大江麻美子/金澤百合子/齊藤庸介/酒井幸菜/高橋幸平/LOCKY

(2008年12月25日 吉祥寺シアター)

ヒップホップ出身でコンテンポラリー・ダンス界でブレイクしつつあるKENTARO!!率いるカンパニーの旗揚げ公演。KENTARO!!はヒップホップベースのダンスをセンス良さげな選曲にあわせて踊り、笑えたりちょっと切なかったりといった等身大の感情を衒いなく表現して若い観客にアピールしている。オシャレ系、Jポップ的な軽いノリが特徴。初のカンパニー作品ということもあり群舞、ユニゾンも多かったがそれらのセンスがいまひとつよくない。動きだけでなく、前半、メンバー全員が着ていたグレーのシャツなんかも。総じて好きな曲にあわせて情景を並べただけに思えた。KENTARO!!には人を惹きつける親しみ易さ、エンターテイナーの資質はないではない。横尾忠則の展覧会の会場で行ったパフォーマンスでは観客も巻き込んでの当意即妙のパフォーマンスをみせて文句なく楽しかった。しかし、各種コンペやショーケースで披露したソロに顕著なようにウェルメイドではあるけれども計算されたわかり易さが気になることも。アート作品、ことにコンテンポラリー・ダンスでは、観るものに新たな価値観を抱かせるものでなければ観客は劇場に出向く必要はない。観客に委ねる余白、謎、問いかけがあってこそアート。その意味でいま1度表現者としての原点に立ち帰り新たな展開を模索してほしいと思う。

2008-12-24

[]井上バレエ団『くるみ割人形』

井上バレエ団12月公演『くるみ割人形』(全2幕)

芸術監督・振付:関直人

美術・衣装:ピーター・ファーマー

雪の女王:西川知佳子

雪の王子:小林洋壱(東京シティ・バレエ団)

王子:へスス・パストール

金平糖の精:宮嵜万央里

音楽監督・指揮:堤俊作

演奏:ロイヤルメトロポリタン管弦楽団

(2008年12月24日 文京シビックホール大ホール)

井上バレエ団の『くるみ割人形』は関直人の音楽的な振付とピーター・ファーマーによる趣ある舞台美術が相俟って独自の世界を生み出している。このバレエ団はこれまでもブレイク前のスターや玄人筋をも唸らせるようなシブいダンサーを海外から招聘してきた。今回は王子役にへスス・パストールを招いたのが話題だ。マシュー・ボーン版『白鳥の湖』のザ・スワン/ザ・ストレンジャーを2003年の来日公演で踊った際の野生的かつクールでカッコいい演技は語り草。その後、アメリカン・バレエ・シアターにソリストとして入団したが久々に日本にお目見えという次第。王子役を誠心誠意踊っているパストールの演技は好感の持てるものだった。金平糖の精を踊った宮嵜万央里はじめ小高絵美子、西川知佳子、田中りなら中堅、若手が急成長。この団の誇るスターダンサー藤井直子、島田衣子に続く世代が育ってきているのは楽しみなところだ。

2008-12-23

[]川口節子バレエ団『くるみ割り人形』

創立30周年記念PART3

川口節子バレエ団『くるみ割り人形』(全幕)

構成・振付:川口節子/クリストファー・ストウエル/ダマラ・ベネット

クララ:高橋莉子

雪の女王:加藤亜弥

雪の王子:水野陽刈(ダンスカンパニーユニコーン)

くるみ割り王子:碓氷悠太(松岡伶子バレエ団)

金平糖の精:高木美月

お菓子の国の王子:高宮直秀(ダンスカンパニーユニコーン)

指揮:稲垣宏樹

演奏:中部フィルハーモニー交響楽団

合唱:日進児童合唱団

(2008年12月23日 愛知県芸術劇場大ホール)

『イエルマ』など独創的な創作で知られる川口節子の主宰する団の定期公演。クララと金平糖の精を別ダンサーが踊る演出で大きな変更はないが随所に創意工夫を加えている。1幕、ネズミたちと戦う兵隊は大きなプレゼントの箱に入って登場。2幕ディヴェルティスマンでは中国の踊りにおいて棒術?をする女性が踊ったり、アラビアの踊りではアラビアの笛を吹きながら男性が登場してマジックを行ったりする。ドロッセルマイヤーの魔法によって少女がみた楽しい夢の世界を豊富な踊りと丁寧なマイム・演技で描く。ジュニアを含めた出演者は皆いきいきしており、音楽性に優れた踊りを披露していた。演者の動きを押さえつつチャイコフスキーの音楽の魅力を伝えた指揮も特筆もの。団員に加え大寺資二らとともに中部バレエ界を代表するベテラン高宮直秀や若手ノーブルダンサーの筆頭格として注目を浴びる碓氷悠太らゲスト陣も好演していた。

2008-12-22

[]貞松・浜田バレエ団『くるみ割り人形』

貞松・浜田バレエ団クリスマス特別公演『くるみ割り人形』

2幕8景(お伽の国ヴァージョン)

演出:浜田蓉子

振付:貞松正一郎/長尾良子

クララ:安原梨乃

お伽の国の王子:弓場亮太(奥村京子バレエスクール)

お伽の国の女王:竹中優花

お伽の国の王:アンドリュー・エルフィンストン

ドロッセルマイヤー:貞松正一郎

ネズミの王様:玉那覇雄介

雪の女王:廣岡奈美

指揮:堤俊作 演奏:ロイヤルメトロポリタン管弦楽団

(2008年12月21日 神戸文化大ホール)

神戸の貞松・浜田バレエ団では『くるみ割り人形』を2つの版で上演している。1989年初演版と2005年初演版。前者を「お菓子の国バージョン」後者を「お伽の国バージョン」と称している。設定や物語展開も違うものの最大の相違は「お菓子の国バージョン」ではワイノーネン版と同じくクララが金平糖も踊り、「お伽の国バージョン」ではクララと金平糖を別ダンサーが踊ることである。同団は東京の大手の団以上に主役級を文句なく踊れる踊り手を多数要するため、少しでもそういったダンサーの踊る機会を増やしたいというのも新版制作の狙いなのかもしれない。今年は新版である「お伽の国バージョン」を観ることができた(前日には「お菓子の国」バージョンを上演)。ねずみの王様が空の上から光臨したり、2幕のディヴェルティスマンには獅子舞やスノーマンが登場したりと楽しい趣向がいっぱい。演者は皆ノリノリで観客を楽しませようとしているのがよく伝わってくる。無論、踊りや演技もしっかりしている。クララを踊った安原は楚々で愛らしいというオーソドックスなクララ像とはひと味違って現代っ子ぽい奔放な感情表現を加えて魅力的。それを弓場亮太の王子が兄のように優しく支える。ドロッセルマイヤーの貞松正一郎は少女たちに慕われるようなダンディな雰囲気が素敵。ピエロの秋定信哉、トレパークの恵谷彰は超絶技巧を軽々と。お伽の国の王子と女王によるグラン・パ・ド・ドゥは竹中優花&アンドリュー・エルフィンストンだった。上記したように、貞松には優れた踊り手が目白押しである。プリマ級では、豊かな感情表現を持ち味とする至宝・上村未香、しっかりした技量を持ち常に安定したパフォーマンスを見せる正木志保、抜群にラインの美しい吉田朱里、踊り心に溢れ華のある瀬島五月、若手で急激な伸びをみせている廣岡奈美らがいるが、竹中の魅力は役柄・スタイルに応じた踊り分けが完璧にできること。バランシン、チューダーのようなネオクラシック、ナハリン、森優貴作品のようなバリバリのコンテを踊りこなし、さらには首都圏のモダンダンスのコンクールに出場した際や「創作リサイタル」における受賞者作品披露時に観ることのできたモダンバレエ的な現代舞踊でも独自のテイストを打ち出している。しかし、それ以上にすばらしいのは、そういった作品を踊りつつ原点であるクラシック・バレエをきっちり踊れること。均整の取れたプロポーションを活かして伸びやかなラインを紡いでいく。今回も最後の登場で作品を引き締める大役をしっかり果たした。踊りのよさは無論のこと、主役に相応しい華と風格が増していたのが印象的。久々に復帰した人気者アンドリュー・エルフィンストンとのペアはなんともゴージャスで会場を大いに沸かせていた。

2008-12-20

[]NBAバレエ団クリスマス公演『くるみ割り人形』

平成20年度文化庁芸術創造活動重点支援事業

NBAバレエ団クリスマス公演『くるみ割り人形』

演出・振付:安達哲治

金平糖の精:原嶋里会

王子:ヤロスラフ・サレンコ

クララ:笹田ももこ

雪の女王:深山圭子

ドロッセルマイヤー:ワレリー・グーセフ

指揮:榊原徹

演奏:東京劇場管弦楽団

合唱:中野区民合唱団

(2008年12月20日 なかのZERO大ホール)

NBAバレエ団は『くるみ割り人形』を2ヴァージョン持っている。1幕雪の国の場をイワノフ原振付で復元した版は大きな話題となった。今回上演されたのは芸術監督、安達哲冶の手がけた版。安達がプログラムに記しているように“子供の夢を人形たちとともに進めていく”という趣向である。昨年に続いての中野での公演であり、去年同様中野区民合唱団がコーラスで参加して地域文化との交流が行われた。いくつかのバレエスクールの子どもたちも出演。彼ら彼女らにとって大人のダンサーたちに混じって生オケ付きの本格的な舞台を踏むことは得難い経験になるのではないだろうか。

[]東京シティ・バレエ団/ティアラ“くるみ”の会『くるみ割り人形』

芸術文化振興基金助成事業

東京シティ・バレエ団/ティアラ“くるみ”の会『くるみ割り人形』

構成・演出・振付:石井清子

クララ:薄井友姫

くるみ割り人形の王子:春野雅彦

金平糖の女王:志賀育恵

コクリーシュ王子:kimBoYoun

ドロッセルマイヤー:青田しげる

ねずみの王様:堤淳

指揮:福田一雄

演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

合唱:江東少年少女合唱団

(2008年12月20日 ティアラこうとう大ホール)

(財)江東区地域振興会 ティアラこうとう主催。オーディションによって選ばれた子どもたちと東京シティ・バレエ団が創りあげる“江東区のくるみ”も23回目とか。東京シティ・バレエ団は、江東区と芸術提携を結び、ティアラこうとうを準フランチャイズとしている。地域と密着しつつ観客の支持を集める舞台創りを長年継続していることには頭が下がる。今回も3回公演いずれも完売。在外研修先のオーストラリアから帰国した人気プリマ志賀育恵が金平糖の精を踊るということもあり客席は温かな空気に包まれていた。

2008-12-19

[]小野寺修二 カンパニーデラシネラ『ある女の家』

小野寺修二 カンパニーデラシネラ『ある女の家』

作・演出:小野寺修二

出演:浅野和之/河内大和/藤田桃子/小野寺修二

(2008年12月19日 シアタートラム)

[]イデビアン・クルー・オム『大黒柱』

平成20年度文化庁芸術創造活動重点支援事業

超・振付家シリーズ vol.1 井手茂太

イデビアン・クルー・オム『大黒柱』

振付:井手茂太

出演:佐伯新/小山達也/佐藤亮介/中村達哉/原田悠/松之木天辺/井手茂太

(2008年12月19日 川崎市アートセンター アルテリオ小劇場)

2008-12-18

[]バレエ シャンブルウエスト「クリスマスコンサート」

平成20年度文化庁芸術創造活動重点支援事業

第58回定期公演「創立20周年記念特別企画」

バレエ シャンブルウエスト「クリスマスコンサート」

program.1 創作

「冬のファンタジー」

『今は明日』

振付:川口ゆり子

『grido―叫び―』

振付:吉本真由美

『impressive tango』

振付:岡田幸治

『souvenir―思い出―』

振付:今村博明/川口ゆり子

program.2 古典

『ライモンダ』第3幕

ライモンダ:川口ゆり子

ジャン・ド・ブリエンヌ:今村博明

『グランドフィナーレ』

出演:シャンブルウエストとバレエメイツ

(2008年12月18日 八王子市芸術文化会館いちょうホール)

古典作品の上演とともに『タチヤーナ』『ブランカ』といった優れた創作バレエを手がけてきたカンパニーらしく創作と古典のバランスの取れたプログラムを披露してくれた。「冬のファンタジー」は4人の振付家によるアンソロジー。今村博明、川口ゆり子の創作に加え、高弟の吉本真由美、客演が多く脇を締める重要な存在、岡田幸治の創作も発表した。川口作品はバレエベースにコンテンポラリーな味わいも。吉本作品は「叫び」を主題によく錬られたフォーメーション等工夫あるもの。岡田作品はピアソラのタンゴにあわせ男女のすれ違いを描いた。今村&川口による作品は正木亮を主人公にある男の回想を映し出す。創作バレエの可能性を追求するカンパニーとしてシャンブルウエストの試みは貴重といえる。『ライモンダ』第3幕はプティパ最後の傑作であり、有無を言わさぬダンスの説得力で魅せるものだ。タイトルロールを踊った川口は全幕日本初演時(ウエストモーランド版)に主演、思い入れもひとしおだろう。川口は一つひとつのパを丁寧に紡ぎつつ緻密に演技を組み立てていく。今村もアダージョでみせた情感の豊かさは比類なく川口と心と心で沿いあっているようなえもいわれぬ一体感を醸しだしている。他ではヴァリエーションを踊った松村理沙が抜群。上半身、首から肩、腕にかけての動きに微細なニュアンスを加え、音楽のひだをよく捉えた踊りをみせた。男性では土方一生、染谷野委らがきっちり踊りつつ意志のある演技をみせ飛躍を期待させた。

2008-12-17

[]Noism08『NINA-物質化する生け贄(ver.black)』

平成20年度文化庁芸術拠点形成事業

Noism08『NINA-物質化する生け贄(ver.black)』

演出・振付:金森穣

バレエミストレス:井関佐和子

出演:宮河愛一郎/高原伸子/山田勇気/藤井泉/中野綾子/青木枝美/櫛田祥光/真下恵/藤澤拓也/永野亮彦(ゲストダンサー)

音楽:トン・タッ・アン

衣裳:金森愛

椅子:須長檀

照明デザイン:金森穣・森島都絵

併演『partita』

振付:金森穣

出演:宮河愛一郎/山田勇気/櫛田祥光/藤澤拓也/永野亮彦(ゲストダンサー)

(2008年12月17日 横浜赤レンガ倉庫1号館3階ホール)

05年に初演されたNoism=金森穣の代表作の再演。初演後海外ツアーを行うために改訂された新バージョンが上演された。初演時真っ白だったリノリウムは黒。上演時間も休憩を含めての2部構成1時間半から約1時間と大幅に刈り込まれている。しかし、物質と身体という主題は変わらず、人形が人間に支配されるが最後にはその関係が逆転する様を描いているのも同様だ。ツアーヴァージョンであり、大掛かりな照明等も使えないため、身体と音楽、シンプルな照明効果を極限にまで活かしている。初演版(ver.whiteと呼んでいるようだ)は導入から展開、結末まで堅固な構成を誇る大作ながら従来の金森作品よりも身体性を重視。スケール感がありかつ金森独自の舞踊宇宙が展開されているのが魅力だった。ver.blackは余白をギリギリまで切り詰め、身体によりフォーカスを当てている。ver.whiteとver.black甲乙つけ難いし好みはわかれるだろうが、私的には金森が独自の舞踊宇宙を確立したver.whiteをもう一度観てみたい。

余談だが、終演後のアフタートーク中、金森は旧作『black ice』(Noism第2弾、2004年)の話題が出ると評判の悪かった作品と自虐的に話していた(過去にも同様の発言をしている)。世評は別にして私見では重要な作品であるように思う。帰国後のプロデュース公演や新国立劇場バレエ団に委嘱された創作はキリアンらの影響が顕著であったし、Noism第1弾『SHIKAKU』(2004年)はコンセプト、演出としての面白さが先行していた。『black ice』は高嶺格の舞台美術とのコラボレーションとして記憶されるが、密度の濃い多彩な振付を堪能できるものであり、金森独自の舞踊語彙の確立へのステップとして『NINA』(初演版)につながる重要な舞台であったのではないだろうか。ちなみにNoismの本公演作品は新潟のみ上演の能楽堂公演や首都圏ではつくばのみ上演の『sence-datum』含めすべて観劇している(ワークショップ公演や小品等は除く)。

2008-12-16

[]Roussewaltz「Flower」

Roussewaltz「Flower」

『彼女のredな味』

『SPUR』

『na mi da』

『冷めないうちに召し上がれ』

『door』

『flowers』

演出・構成・振付・出演:内田香

出演:渕沢寛子/所夏海/原裕子/Emily/小俣菜穂/寺坂薫/佐藤宏美/中嶋瞳/伊東由里/服部朱美/小寺美紀/五十嵐貴子/石脇愛弓/佐藤悦子

(2008年12月16日 セシオン杉並)

内田香の主宰するRoussewaltz(ルッシュワルツ)の5周年記念公演が行われた。若い女性たちの多感な感性を反映した作風が特徴。内田自身“小さなテーマダンス”と位置づけるように等身大のささやかな幸せや哀しさ寂しさをときに繊細にときに力強く情景として描いていく。カリスマ的存在の内田はじめ中軸を踊る所やEmilyらしっかり踊れ、かつ個性と華を備えた踊り手を擁するのも魅力的だ。今回は新国立劇場主催公演等で上演され、ニューヨークでも公演を行って好評を博したという『冷めないうちに召し上がれ』はじめ新旧6編を上演。内田ワールドを一望できる貴重な会だった。

2008-12-14

[]輝く未来 試演会「’08.12」

輝く未来 試演会「’08.12」

1『富士』

2『鷹』

3『なすび』

出演:伊藤キム/井上大輔/三輪亜希子/伊藤歌織/美木マサオ/塩野入一代/新宅一平/平良麻由子/山下彩子

(2008年12月14日 ZAIM別館402号室)

輝く未来2年目最後の試演会。初めて集団創作に挑んだ。『富士』は出演者3人が基本的に絡むことなく各々がストイックに動きを連ねていく。『鷹』は男女のデュオでこちらも交じり合いそうで交じりあわないという“距離”を浮き彫りにして密度の濃い内容。『なすび』は山下・塩野入のデュオ、平良のソロ、伊藤・新宅のデュオで構成される。伊藤と新宅がカツラをつけてコミカルな掛け合いをするパーツは文句なしに面白いがパートごとの間につながりが見えない感もあった。終演後の「アフター突っ込んだトーク」において芸術監督の伊藤が語っていたように、輝く未来とは、若いアーティストにとって失敗を怖れず意欲的に実験を行える場として貴重なものがあると思う。当節のコンテンポラリー・ダンス市場では、新たなダンサーや作家をもてはやすけれどもすぐに成果を求め消費する傾向も。いうまでもなく伊藤はコンテンポラリー・ダンス界においてもっとも成功を収めた時代の寵児であり、経験も豊富な彼が主導し現在のマーケットに対して疑念を抱きノンを突きつけるからこそ説得力がある。輝く未来のメンバーもひとつひとつの動きに嘘がないのが快かった。このカンパニーも2年目、メンバーも入れ替わりはあるが相対的な技量も初年度より高くなっているように感じた。創作にあたっても当初は振付者を最初に決めていたものの今回の集団創作という形への移行もコンセプトやアイデア勝負になりがちな創作を一旦リセットしたいという空気が伊藤やメンバーの間から熟成されて生まれてきたということなのだろう。今後の展開にも期待したい。

[]日本―フィンランド―韓国・共同制作プロジェクト『黄色のライン』

平成20年度文化庁国際芸術交流支援事業

日本―フィンランド・韓国―共同制作プロジェクト『黄色のライン』

振付・出演:サリ・パルムグレン(フィンランド)

出演:パク・ウンヨン(日本)/前澤香苗(日本)/戸田はる香(日本)

(2008年12月14日 創造空間9001)

“「Education(教育)」と「Exchange(交流)」をテーマに掲げ、それぞれの国の文化的背景を超えて、お互いを刺激しあい新たなアートを生み出すプロジェクト”。フィンランドの振付家サリ・パルムグレンと「横浜ダンスコレクションR2008」で審査員賞を受賞した韓国人ダンサー、パク・ウンヨン。そして応募から選ばれたダンサー、前澤香苗・戸田はる香の4人が急な坂スタジオにて3週間のレジデンス制作を行いワークインプログレスを公開した。東急東横線桜木町駅の改札跡を活かしたスペースが舞台。開演時間になると駅前の雑踏のなかから4人のダンサーが人知れずあらわれボストンバッグを投げ合ってパフォーマンスが始まる。その後は振付家のパルムグレン以外の3人がダンスを披露。最初は互いが触れ合うこともなくじっくり淡々とした動きを積み重ね。じょじょに激しい動きもみせる。ときには駅前の雑踏へとスッと消えていく。出演者たちが異なる文化的背景を尊重しながら身体で触れ合っていく様はなかなか感動的であった。スペースと駅前の雑踏の間の扉は開け放たれ通行人もパフォーマンスを観劇できる。シアターゴーアー以外のお客さんにダンスってなんだか面白い!と思ってもらうにも劇場へ足を運んでもらう(入場料も払って)には幾重ものバリアがあるわけだ。公的施設が公的な助成も受けて行う文化事業が関係者や一部のファンだけに享受されるだけでは名折れという面もある。今回のように関係者向けのプレゼンテーションに終わらず未知の観客との出会いを求める制作姿勢・公演形態は望ましく思われた。

2008-12-13

[]金魚(鈴木ユキオ)『言葉の先』

芸術文化振興基金助成事業

金魚(鈴木ユキオ)『言葉の先』

振付・演出:鈴木ユキオ

出演:鈴木ユキオ/安次嶺菜緒/やのえつよ/川合啓史

(2008年12月13日夜 アサヒ・アートスクエア)

今夏行われたトヨタコレオグラフィーアワードにおいて大賞にあたる《次代を担う振付家賞》を獲得した鈴木ユキオ。舞踏を出自とし演劇的な手法も取り入れた創作を各種コンペ・ショーケース等で発表してきた鈴木にとってターニングポイントとなったのが2006年の自主公演『犬の静脈に嫉妬せず』だったように思う。若者が過酷な現実のなかでもがき苦しむ姿を身体を通して強烈に叩きつけた。ドキュメンタリー的な演出・振付とも評されるようだが、次の『沈黙とはかりあえるほどに』(2007年・改訂版でトヨタアワード受賞)ではその取組みがより深化をみせる。観るものも安穏として客席に座っては居られないような抜き差しならない切実さを秘めながらじつに完成度の高いステージを作り上げた。新作の『言葉の先』でも密度の濃いパフォーマンスを繰り広げる。空中に揺れる裸電球と絡む鈴木のソロにはじまり安次嶺の強度と凶暴さを増したダンスも配していくつか見せ場を生み出した。アサヒ・アートスクエアのタッパのある空間を活かした照明効果等も印象に残る。ただ、長いホースや鏡の板といったオブジェとダンサーが絡む場などではその必然性が見え難いし空間をもてあまし気味に感じられる部分もあった。終幕を含め全体的に鈴木のソロに依存しているのは否めないようにも思われる。とはいえ真摯に自己の身体と向き合う姿勢には共感を覚えた。来る2月18、19日には京都のアトリエ劇研にて新たにリ・クリエーション/再創造したヴァージョンを披露するという。また違った空間でより深まったパフォーマンスが観られるのではないだろうか。

[]東京バレエ団『ザ・カブキ』

平成20年度文化庁芸術創造活動重点支援事業

チャイコフスキー記念東京バレエ団『ザ・カブキ』(全2幕)

振付:モーリス・ベジャール

音楽:黛敏郎

由良之助:高岸直樹

顔世御前:斎藤友佳理

塩治判官:首藤康之【特別出演】

高師直:木村和夫

伴内:高橋竜太

勘平:長瀬直義

おかる:佐伯知香

力弥:大槻政徳【特別出演】

定九郎:飯田宗孝【特別出演】

(2008年12月13日 東京文化会館)

2008-12-12

[]牧阿佐美バレヱ団『くるみ割り人形』

平成20年度文化庁芸術創造活動重点支援事業

牧阿佐美バレヱ団『くるみ割り人形』(全幕)

改訂振付・演出:三谷恭三(プティパによる)

指揮:デヴィッド・ガルフォース

管弦楽:ロイヤルメトロポリタン管弦楽団

金平糖の精:伊藤友季子

雪の女王:田中祐子

王子:中島哲也

(2008年12月12日 ゆうぽうとホール)

2008-12-11

[]勅使川原三郎 身体実験劇場『ない男』

勅使川原三郎 身体実験劇場『ない男』

原作:ロベルト・ムジール「特性のない男」(加藤二郎・訳)

テキスト:宇野邦一

演出・振付・美術・照明・選曲・衣裳:勅使川原三郎

出演:勅使川原三郎/佐東利穂子/川村美恵/ジイフ/井手悠哉/林誠太郎/ナナ&ナイル

(2008年12月11日 シアターχ)

“オーストリアの作家ロベルト・ムージルの未完の大作「特性のない男」を題材に、勅使川原三郎が演劇的アプローチを試みる身体実験劇場”が惹句だった。散文作品の断片的な言葉と身体とのせめぎ合いを試みている。KARASのメンバーも出演するものの多くは勅使川原と佐東のパートで占められる。脈絡なく思える散文の朗読のなかうごめくふたりの身体。哲学的、観念的な世界に陥ることなく詩的な美しさをたたえていたのが印象的だ。シンプルな舞台空間を用いながらも、試験管のようなオブジェを吊るし、暗闇のなかオブジェが発光する場など魔的なまでの美を現出。美術・照明等含めトータルに世界観を構築していくという勅使川原の志向がここでも顕著だった。

2008-12-09

[]ボリショイ・バレエ『明るい小川』

ボリショイ・バレエ『明るい小川』(2幕4場)

音楽:ドミトリー・ショスタコーヴィチ

台本:アドリアン・ピオトロフスキー/フョードル・ロプホーフ

振付:アレクセイ・ラトマンスキー

指揮:パーヴェル・クリニチェフ

管弦楽:ボリショイ劇場管弦楽団

ジーナ (ピョートルの妻):エカテリーナ・クリサノワ

ピョートル (農業技師):アンドレイ・メルクーリエフ

バレリーナ:マリーヤ・アレクサンドロワ

バレエ・ダンサー (バレリーナのパートナー):セルゲイ・フィーリン

(2008年12月9日 東京文化会館)

1930年代に初演されたまぼろしの作品をラトマンスキーが新たに振付直した。舞台は旧ソ連時代のコルホーズ。農業技師である夫の浮気を妻が旧友のバレリーナ(収穫祭のためモスクワから来訪)らとともに一計を案じてやり込める。ドタバタ劇で笑える要素が満載。1幕のディヴェルティスマンでは層の厚いキャラクターダンスが楽しめる。2幕ではトウ・シューズでロマンチック・チュチュ姿に女装した男性の踊りや逆に男性に化けたバレリーナの力強い踊りもあって会場は爆笑の渦に。牧歌的でどうということのない物語ながらも明るくエネルギッシュ。演奏もノリがよくボリショイならではの活気にみちた舞台だった。アレクサンドロワ、クリサノワ、メルクーリエフというスター・注目株が競演するなか、なによりもインパクトがあったのが大ベテラン、フィーリン!美丈夫で偉丈夫の彼が女装して華麗なるポワントワークをみせる!!コミカルにデフォルメされた演技は絶品。一生忘れることがないといってもいいくらい強烈な印象を残した。

2008-12-08

[]高襟『罪と果実』

高襟 怒涛の一週間スタジオパフォーマンス

第2回公演『罪と果実』

構成・振付:深見章代 

出演: 吉川英里/深谷莉沙/深見章代

スタッフ:高襟(林由紀子/青山るり子)

(2008年12月8日 Dance Studio UNO)

高襟(ハイカラ)は女性のみによるカンパニーであり、女性の生理感覚や妄想を衒いもなく表出する作品を発表している。主宰者の深見の趣味が前面に押し出され、ときに露悪的に映る印象もないではなかった。2度目の単独公演は初のスタジオパフォーマンス。美術大学に学びモデル等もしている深谷の出演が多少の変化をもたらした。人形のような愛らしさと大人びた色っぽい魅力が同居している。これまでの深見作品では、深見の私的感覚を「女性性」として拡張しすぎる嫌いがあった。ここではロリータっぽいベタなものとはいえ、深谷の少女性が核となっている。深谷が自身の足に噛み付くシーン(生肉をイメージしたようだ)や聞こえるか聞こえないかわからないような歌を口ずさむ場など印象に残る。深見や吉川も笑い声を上げたり騒ぐ場において針の振り切れたパフォーマンスを行った。総じて表現としてはやや生っぽく勢い勝負ではあるものの女の園のディープな一面をしつこく濃密に表出してはいる。

2008-12-07

[]Dance for Life 2008 篠原聖一バレエリサイタル

芸術文化振興基金助成事業

Dance for Life 2008 篠原聖一バレエリサイタル

芸術監督・演出・振付:篠原聖一

出演:下村由理恵/佐々木大/沖潮隆之/森田健太郎/小原孝司/奥田花純/金子優/大長亜希子/平野玲 ほか

『CARMEN』

『詩的なワルツ』

(2008年12月7日 青山劇場)

2008-12-06

[]藤井香主宰 彩のくに創作舞踊団『アパートメント』

藤井香主宰 彩のくに創作舞踊団『アパートメント』

作:藤井香

出演:荒井純子/江積志織/海保文江/佐々木治子/松元日奈子+シークレットゲスト

(2008年12月6日夜 アサヒ・アートスクエア)

[]ボリショイ・バレエ『白鳥の湖』

ボリショイ・バレエ『白鳥の湖』

台本・改訂振付・制作 : ユーリー・グリゴローヴィチ

原振付:マリウス・プティパ/レフ・イワノフ/アレクサンドル・ゴールスキー

指揮 : パーヴェル・クリニチェフ

管弦楽 : ボリショイ劇場管弦楽団

オデット/オディール : アンナ・アントニーチェワ

ジークフリート王子 : ドミートリー・グダーノフ

ロットバルト : ユーリー・バラーノフ

(2008年12月6日昼 東京文化会館)

グリゴローヴィチ版は1969年初演だが今回は2001年に改訂したものが日本初演された。ポイントは幕切れ。ハッピーエンドではなく当初の構想どおり悲劇としているが意表をつくものであった。主役はベテランのアントニーチェワと前回来日公演『ファラオの娘』に主演して注目されたグダーノフ。王子の心理に焦点を当てているのがグリゴローヴィチ版の特徴だがグダーノフの、喜怒哀楽を巧まず表現する演技力の光る舞台だった。

2008-12-05

[]「コレオグラファーズYダンスコンサート」

第1回「コレオグラファーズYダンスコンサート」

主催:ダンスカフェ/株式会社シービーシーメソッド

板垣あすか『やさしい森』

垣内友香里(Benny Moss)『One<ある>』

立花あさみ『Kuu-空 sene2』

畦地真奈加『色は匂へど 散りぬるを』

ワダミユキ『湖中の円庭』

(2008年12月5日 ムーブ町屋)

モダン/コンテの若手に上演の機会を提供する「コレオグラファーズYダンスコンサート」。日暮里サニーホール/ムーブ町屋の指定管理者・株式会社シービーシーメソッドと安田敬のダンスカフェが手を組んだ企画である。劇場専属スタッフ等のサポートがしっかりしているのが特徴であり、下町・荒川区から新たなダンスの風を起こそうとしているようだ。プロデューサー主義によるセレクトであり、若手のステップの場として有益だろう。板垣あすかはキューバ人のナルシソ・メディナらに学んだ人。オブジェや衣装にも工夫を凝らして大き目の空間でのソロに挑んでいた。垣内友香里は無差別殺人事件をモチーフに演劇的手法も取り入れつつ個に潜在する狂気や暴力を怜悧に見据える。立花あさみはギターソロとのセッションで抑えたダンスを披露。畦地真奈加は妹の亜弥加とともに諧謔性のあるデュオを発表した。ワダミユキはしなやかな手の動きなどで手堅く美しいダンスをつくり上げている。技術がもう一歩備われば、あるいは、演出がしっかりしていたりすればさらに良くなるのでは…と思う作品も多かったけれども奇を衒うことなくしっかり身体と向き合っている個人・グループばかりであり好印象を持った。

2008-12-04

[]ボリショイ・バレエ『ドン・キホーテ

ボリショイ・バレエ『ドン・キホーテ』(全3幕)

振付 : マリウス・プティパ/アレクサンドル・ゴールスキー

振付改訂 : アレクセイ・ファジェーチェフ

指揮 : パーヴェル・クリニチェフ

管弦楽 : ボリショイ劇場管弦楽団

キトリ/ドゥルシネア : ナターリヤ・オーシポワ

バジル (床屋) : イワン・ワシーリエフ

エスパーダ (闘牛士) : アルテム・シュピレフスキー

ルチア (街の踊り子) : アナスタシア・メシコーワ

メルセデス (踊り子) : マリーヤ・イスプラトフスカヤ

(2008年12月4日 東京文化会館)

昨年のボリショイ&マリインスキー合同ガラで衝撃的な登場を果たしたワシーリエフと前回の来日公演において『ファラオの娘』ラムゼや『ラ・バヤデール』影の王国でヴァリエーションを踊って注目されたオーシポワ。ボリショイの次代を担う新星の共演は期待を上回る楽しい舞台だった。オーシポワは前回観たときは踊りが上手いのはわかるのだけれどもいまひとつ胸に迫る演技ではなかった。今回ははつらつと親しみの持てる演技をみせてくれた。無論身体能力は高いし抜群のテクニシャン。しかしとにもかくにも凄いのがワシーリエフだ。跳躍は目を疑うような高さで一瞬静止したかのように思える。ピルエットもキレがあって滑らか。多少踊りが乱れても客席に強烈にアピールする力もすばらしい。オーシポワとの相性もよくて片手リフトも軽々と。パリ・オペラ座の若手マチアス・エイマンもそうだがひと目見ただけでその大器ぶりが誰の目にも明らかという人はいるものだ。まだソリストだがプリンシパルになるのは時間の問題だろう。

2008-12-03

[]ボリショイ・バレエ『ドン・キホーテ

ボリショイ・バレエ『ドン・キホーテ』(全3幕)

振付 : マリウス・プティパ/アレクサンドル・ゴールスキー

振付改訂 : アレクセイ・ファジェーチェフ

指揮 : パーヴェル・クリニチェフ

管弦楽 : ボリショイ劇場管弦楽団

キトリ/ドゥルシネア : マリーヤ・アレクサンドロワ

バジル (床屋) : ドミートリー・ベロゴロフツェフ

エスパーダ (闘牛士) : アンドレイ・メルクーリエフ

ルチア (街の踊り子) : アナスタシア・メシコーワ

メルセデス (踊り子) : マリーヤ・イスプラトフスカヤ

(2008年12月3日 東京文化会館)

アレクサンドロワは強靭なテクニックの持ち主。2003年の世界バレエフェスティバル・ガラ公演の余興で踊った『海賊』アリ(!)のヴァリエーションを観て以来気になる存在である。バレリーナが軽々と数ある古典の男性ヴァリエーションのなかでももっとも派手で男性らしい踊りをいとも軽々と踊ってみせたことに戦慄すら覚えた。当時はまだプリンシパルではなくルンキナの代役だったが、2004年にはラトマンスキー版『明るい小川』のバレリーナ役で「黄金のマスク賞」を獲得しボリショイを代表するプリマとしての地位を確立している。今回もはつらつとしていて生命力を感じさせるパフォーマンス。シングルだけれども高速でぶれないフェッテでは興奮が最高潮に達した。

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