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ダンスの海へ 舞踊評論家・高橋森彦のblog このページをアンテナに追加 RSSフィード

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2009-04-30

[]エカテリーナ・マクシモワが死去

ボリショイ・バレエ往年の名花、エカテリーナ・マクシモワが28日亡くなりました。

今月3日には世界各地のバレエ団で活躍したエヴァ・エフドキモアも逝去しています。

日本にもなじみが深くオールド・ファンには寂しいことでしょう。

ご冥福をお祈りします。

2009-04-29

[]マラーホフのプレミアム・レッスン1「ジゼル」

バレエ界の貴公子ウラジーミル・マラーホフの指導によるプレミアム・レッスンシリーズが新書館より発売されました。第一弾は『ジゼル』です。

『ジゼル』のアルブレヒト役といえばマラーホフの最大の当たり役。日本でもアレッサンドラ・フェリ、ジュリー・ケント、ディアナ・ヴィシニョーワ、齋藤友佳理、吉岡美佳、小出領子らとともに踊ってつねに感動的なステージを披露しています。細やかな感情表現とプリマを引き立てるパートナーシップの見事さは比類ないものです。

今回のDVDにはマラーホフが東京バレエ団のソリスト佐伯知香と長瀬信義に指導する様子が収められています。佐伯は身体のラインが美しく軸も安定し、のびやかな踊りをみせる上り調子の気鋭。長瀬も『春の祭典』生贄や『ギリシャの踊り』ソロなどベジャール作品で抜擢が続き、迷いのない強い意志の溢れる踊りが魅力的な踊り手です。

レッスンは3つ。それぞれ『ジゼル』の名場面からの抜粋です。レッスンの前には、マラーホフとヴィシニョーワによる該当部分の舞台映像が納められています。

最初は「出会いのシーン〜花占い」(第1幕より)。若い恋人同士の愛の機微を描く名場面です。ここでマラーホフが重視するのはふたりのコミニケーション。ヴァリエーションとは違ってターンアウトが出来ているか否かといった技術的問題よりもふたりの感情のやりとりが大切と説き、実際にひとつひとつの動きを流れのなかで実践してみせます。音楽を感じながらより感情を動きにこめて踊る。文字通り手取り足取りの指導につれてふたりの演技がみるみるよくなり精彩を増していくのが実感できます。

次は「ジゼルのヴァリエーション」(第1幕より)。ここでジゼルは踊りへの愛とアルブレヒトへの愛を幸せいっぱいに表現します。短いヴァリエーションですが技術的には簡単ではありません。マラーホフは褒めすぎず「悪くない」といいますが、佐伯の踊りは技術的に瑕疵はないといっていいレベルに思います。音楽性も十分。マラーホフも「リラックスして」「バランスを考えて」「満面の笑顔で」とアドバイスするのと、最後シェネを繰返してからポーズを決める際のタイミングが合わないことに関してフォローする程度です。

最後は「パ・ド・ドゥよりアダージョ」(第2幕)。ここでマラーホフは「男性が一番大変なシーン」と強調します。アルブレヒトは幻想の世界に入り込んでいくため、ウィリーとなったジゼルは見えない存在。ジゼルを見ていても見ていないように踊らないといけない。そして、ジゼルと魂で交歓している、そのインスピレーションが観客に届かないといけないと熱く語ります。サポートする際の細かな注意点を実践するマラーホフのアドヴァイスを真剣に聞き入るふたりの姿が印象的です。男性はサポートに徹し、プリマの事を最優先に考えなければいけない。パ・ド・ドゥにおける当たり前すぎる基本ではありますが、第一人者マラーホフの口から聞かされると一層説得力があります。

マラーホフはレッスンを終え「将来全幕を踊る際の助けになれば」とふたりを励まします。華奢で美しい佐伯、東京バレエ団でアルブレヒトを踊った父・長瀬信夫の血を引きノーブルなたたずまいある長瀬。両者主演で近い将来全幕を期待したいところ。

バレエを踊る人には表現力を養うために有益、観客にとってもバレエ表現の奥深さを知ることのできる貴重な映像。なお、DVDにはインタビュー「マラーホフ、ジゼルを語る」という特典映像も付いており、マラーホフ・ファン必見でもあります。

2009-04-28

[]草刈民代と「エスプリ」

日本でもっとも著名なバレリーナのひとり草刈民代が先日「エスプリ」と題されたガラ公演を最後に現役引退しました。昨夏すでにガラの開催と引退を表明しており、相当な決意をもって自らの進退を決意したようです。まだ踊ろうと思えば踊れる可能性はあったにもかかわらず引退という道を選んだのは、草刈の美学のなせる業でしょう。

さて、引退公演「エスプリ〜ローラン・プティの世界〜」は、20世紀フランスの生んだ巨匠ローラン・プティ作品を集めたガラ。以前(2006年)にも草刈はプティ作品による「ソワレ」と題されたガラを企画・プロデュース・出演しています。公演パンフレットにおいてバレエ評論家の守山実花、草刈の公私にわたるパートナーの映画監督・周防正行両氏が指摘しているように、「ソワレ」がプティ作品の入門編とすれば「エスプリ」はプティならではの洗練と美の世界をより奥深く多彩に味わえる構成となっていました。

草刈とマッシモ・ムッルによる鮮烈な愛と死のドラマ『アルルの女』にはじまり、タマラ・ロホ&リエンツ・チャンによる『ノートルダム・ド・パリ』エスメラルダとカジモトのパ・ド・ドゥ、アンナ・パブロヴァとドミニク・カルフーニに捧げられた魅惑の作品集『マ・パヴァロヴァ』より「タイス」(ロホ&チャン)「ジムノペディ」(草刈&チャン)と美的感覚に溢れつつ濃厚なドラマを展開するプティならではのピースがまず基本。プティの片腕ルイジ・ボニーノが踊る『ダンシング・チャップリン』よりの2曲や最後を飾った椅子とテーブルを小道具に踊る『チーク・トゥ・チーク』(草刈&ボニーノ)では軽妙洒脱で会場を盛り上げます。さらにプルーストの小説をモチーフにした『プルースト 失われた時を求めて』からは社交界の華の愛を描く「ヴァントイユの小楽節」(ロホ&イーゴリ・コルプ)、男同士がデカダンな愛を交わす「モレルとサン=ルー伯爵」(ムッル&コルプ)と全篇の白眉といわれるパートを配してその精髄の一端を紹介。さらに“切り裂きジャック”を主題とした『オットー・ディックス』より(草刈&コルプ)、ハープとチェロによる編曲にのせ奇体な振付で踊る白鳥の王子のソロのあと王子と“彼女”のアダージョの続く『白鳥の湖』よりと日本初演の演目もあって日本の観客にプティ作品の多彩さを伝えていました。卓越した心憎い構成、草刈のプロデュース能力の高さは誰しもが認めざるを得ないでしょう。

草刈は引退後、演技の道に進む意向のようです。映画「Shall we ダンス?」主演によって一躍スターダムとなった草刈ですが、知名度と実績をいかしてバレエ公演のプロデュースを続けてほしいという声もあります。ただ、草刈自身は間をおきたいようです。踊りながら演じながらその片手間にプロデュース出来るほど甘くはないことを草刈は肌で感じているのでしょう。よりさまざまの経験を積んだ上でバレエの世界に携わることが期待されます。ストイックに自身の道を追求する草刈の今後が注目されるところです。


バレエ漬け (幻冬舎文庫)

バレエ漬け (幻冬舎文庫)

Shall we ダンス? [DVD]

Shall we ダンス? [DVD]

2009-04-26

[]Art Theater dB神戸が新たにオープン!!

関西のコンテンポラリー・ダンス最大のメッカといえるのがNPO法人DANCE BOXおよび運営する劇場施設Art Theater dB(代表:大谷燠)です。

大阪市の協力のもと新世界フェスティバルゲート内を拠点に活動、個性的なスタッフも揃いコンテンポラリー・ダンスを軸とした舞台芸術の発信・交流の場として得難いものがありました。カフェやロビースペースも魅力的で独特のディープな雰囲気が漂っていました。ところが、2001年以降10年間フェスティバルゲート内で活動継続するという予定が突如打ち切りとなってしまい惜しまれつつ立ち退きを余儀なくされます。

そんななか新大阪の仮事務所を経て神戸は新長田に新たにArt Theater dB神戸をオープン。客席数は大阪時代よりも増え、舞台機構も一回り大きく、一層充実した舞台が期待できそう。以前同様地域に根ざした活動も積極的に展開していくことでしょう。

4月29日にはオープン記念シンポジウム&パーティが、5月には柿落としダンス公演「Trip〜夢みるカラダと夢みないカラダについての考察〜」が行われます。後者にはきたまり、BABY-Q、宮北裕美、セレノグラフィカ、岩下徹、アンサンブルゾネと関西を代表するアーティストが出演。DANCE BOXの新たな旅立ちが注目されます。

Art Theater dB神戸

オープン記念シンポジウム&パーティ

4月29日(水・祝)開演:15:00

会場:Art Theater dB 神戸

参加費:1000円

Art Theater dB神戸 柿落としダンス公演

「Trip〜夢みるカラダと夢みないカラダについての考察〜」

Aプログラム

5月16日(土)開演19時、5月17日(日)開演14時/18時

出演:きたまり×森川弘和、宮北裕美、東野祥子SOLO Performance+Musician

Bプログラム

5月23日(土)開演19時、5月24日(日)開演14時/18時

出演:アンサンブル・ゾネ、セレノグラフィカ、岩下徹

会場:Art Theater dB神戸

料金(4月10日前売り開始)

前売:一般2000円 当日:2500円

予約・お問い合わせ

NPO法人DANCE BOX TEL 078-646-7044

2009-04-25

[]ユース・アメリカ・グランプリ(YAGP)2009結果発表

アメリカをはじめ世界各地のバレエスクールで奨学生として学ぶ権利を得ることのできるバレエコンクールがユース・アメリカ・グランプリ(YAGP)です。

毎年ニューヨークで開催、9〜19才のダンスを学ぶ生徒たちが集っていきます。審査員らによるワークショップも行われバレエ関係者の貴重な交流の場ともなっているようです。またガラ公演では世界のトップスターが出演し、昨年はベルリン国立バレエのポリーナ・セミオノワと東京バレエ団の上野水香がニューヨークデビューを飾ったことが大きな話題になりました。年々存在感を増しているイベントと言えます。

本年度のコンクールの結果が発表されています。


http://www.yagp.org/eng/NY_winners_2009.php


日本勢は大活躍。プリコンペティティブ部門で名古屋の塚本洋子バレエ団からの出場者が、アンサンブル部門で埼玉の金田・こうのバレエアカデミーが第1位を獲得しています。塚本さんは荒井祐子や榊原弘子、米沢唯らをローザンヌはじめ国際バレエコンクール上位に導いた実績の持ち主。金田・こうのバレエアカデミーは近年コンクールでの躍進が目につきます。今回他にもベスト12に残る日本人ファイナリストが続々と。

来年の日本予選が12月に兵庫・尼崎で行われ、同時にガラ公演が尼崎と東京で行われるようです。日本語版のホームページもあるので詳しく参照できます。

http://www.yagp.org/japan/

2009-04-23

[]第35回橘秋子賞決定

昨年度の公演や活動に対する顕彰の結果が発表され授賞式も行なわれつつあります。まだ主な賞すべての選考結果が発表されていませんが(後日まとめて掲載予定)、各賞の受賞者をみると金森穣/Noism(朝日舞台芸術賞:舞踊賞&舞踊批評家協会賞)、平山素子(芸術選奨文部科学大臣新人賞&江口隆哉賞)、花柳基(芸術選奨文部科学大臣賞&舞踊批評家協会賞)が2冠を獲得しているのが目立ちます。

回を重ねてきた賞や新設の賞も増えてきていますがバレエ界において長い歴史を誇り権威ある顕彰が橘秋子賞(主催:財団法人 橘秋子記念財団)です。日本バレエのパイオニアの名を冠したこの賞の受賞者リストを眺めると、日本バレエ界の一大山脈をみる思いにとらわれます。このたび第35回目の結果が公表されました。

第35回橘秋子賞

特別賞:篠原聖一

優秀賞:島添亮子

功労賞:横井茂

舞台クリエイティブ賞:該当者なし

スワン新人賞:さいとう美帆

篠原は日本を代表するダンスールノーブルとして活躍後、積極的に振付を手がけています。代表作に『クリスタル』『ロミオとジュリエット』など。昨年12月個人リサイタルを開催『カルメン』等を振付た成果や各地での作品発表の積み重ねが評価されたのでしょう。優秀賞の島添は小林紀子バレエ・シアターのプリマで日本バレエ協会公演でも主演を務めるなど注目される存在。今後も主演舞台が続くでしょう。功労賞の横井は1950年代から創作バレエの第一人者として活躍、シェイクスピアもので一世を風靡しました。昨年は舞踊生活60周年記念公演を行い新作『トロイの木馬』等を発表して話題に。「エリアナ・パブロワを偲んで」と題された企画公演の芸術監督も務めています。スワン新人賞のさいとうは新国立劇場の中堅ソリストとして活躍、昨年末の『シンデレラ』では、ゲストのレジニナの降板を受けての急遽代役をふくめ連日タイトルロールを務めました。今シーズンは『白鳥の湖』への主演が決まっています。

2009-04-22

[]『江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間』新文芸坐で上映

暗黒舞踏の始祖・土方巽の出演したカルト映画『江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間』(監督:石井輝男)が4月25日(土)22:30〜東京・池袋の新文芸坐のオールナイト上映「キング・オブ・カルト 石井輝男」のなかで上映されます。

本作は1969年に東映配給の「異常性愛路線」のプログラムピクチャーとして製作されたもので、『孤島の鬼』『パノラマ島奇談』など江戸川乱歩作品を寄せ集めた怪奇性の強い作品。過激な内容のため成人映画に指定され、地上波では未だに未放送、長年ソフト化もされてこなかったため名画座・ミニシアターでの上映をチェックするしかありませんでした。昨年、中居正広主演『私は貝になりたい』で再び注目を集めた脚本家・橋本忍の監督作『幻の湖』と並ぶカルト邦画といっていいでしょう。

そんななか、2007年アメリカでDVDが発売され、輸入版が大手販売店やネット通販で購入できるようになりました。レア度は低くなりましたが、名画座のスクリーンでコアな映画ファンたちと石井のカルトな世界を満喫するのは一興です。舞踏ファン、土方ファンは一度スクリーンで観ておいて損はないでしょう。他にも『直撃地獄拳 大逆転』(1974年/東映)、『忘八武士道』(1973年/東映)、『徳川いれずみ師 責め地獄』(1969年/東映)とエログロ中心ですが快作の揃うディープなプログラム。そそられます。


新文芸坐オールナイトスケジュール

http://www.shin-bungeiza.com/allnight.html


2009-04-21

[]第20回「清里フィールドバレエ」の詳細発表

         f:id:dance300:20090421072457j:image

例年夏になると海外の大バレエ団の来日やスターの集うガラ公演が行われ日本のバレエファンにとって“熱い季節”となります。しかし、夏というと忘れてはならないのが「清里フィールドバレエ」でしょう。山梨県北杜市高根町清里にあるリゾート地「萌木の村」で行われる野外バレエ公演です。今年で20回目を迎えました。

主催は萌木の村とバレエシャンブルウエスト(主宰:今村博明・川口ゆり子)、出演はバレエシャンブルウエストと舩木洋子バレエフォレスト。八ヶ岳の南麓、標高1,200メートルの高原で星空の下行われる野外での幻想的なステージは一度体感するとやみつきになります。長年続いているのはロケーションの魅力もさることながら、質の高いパフォーマンス、手抜かりのない照明や舞台美術等のスタッフワークによるところが大といえます。地元のみならず全国各地からの多くの観光客に親しまれ、今では清里の風物詩としてすっかり定着、全国紙でも度々報じられています。「萌木の村」の創設者・代表であり、フィールドバレエの運営の責任者である舩木上次さん(地域文化への貢献が評価され前田晁文化賞を受賞)はじめ関係者の長年にわたる献身によるものでしょう。

例年7月下旬から8月上旬の2週間のあいだに3〜4プログラムを日替わりで上演します。本年度の詳細が発表され間もなくチケット発売となりますが、予定されているのは3プログラム。Aプロ『くるみ割り人形』はバレエシャンブルウエストが20年前の創立公演以後上演を重ね完成度を高めてきたレパートリーです。Bプロ『白鳥の湖』も古典中の古典、アンサンブルのまとまりのよさに定評のあるシャンブルウエストならではの舞台が楽しめそう。Cプロ『タチヤーナ』はロシアの文豪プーシキンの韻文小説「エヴゲーニー・オネーギン」に基づいて1820年代のロシアに生きた人々やその日常の情景を描いたもの。全編チャイコフスキーの楽曲より選曲されており、創作バレエを数多く手がけるシャンブルウエストの代表作です。文化庁芸術祭大賞(2002年)にも輝いた名作ですが、野外版は昨年初めて初演されました。3幕構成を2幕に練り直し、スピーディーで畳み掛けるような展開は劇場版を上回ります。20回目の記念すべき公演ということで自信作の全幕ものを揃えてきた感があり、いずれも見応えのある舞台が期待できそう。

フィールドバレエの魅力は、ただバレエを鑑賞するだけではありません。自然に親しみ、地元の人々とふれあうことにあります。開演前や休憩時に焼きソーセージや地ビールを飲み食いし地元の方と会話を交わす。そんなまったりと過ごす時間は至福のひととき。豊かな自然のなかで人間性を恢復できる、得難い場といえるでしょう。


バレエシャンブルウエスト

http://www.chambreouest.com/

清里フィールドバレエ

http://www.moeginomura.co.jp/FB/

萌木の村

http://www.moeginomura.co.jp/

(写真は昨年度「タチヤーナ」公演のリハーサル[昼間]の模様)

2009-04-19

[]コンクールの季節

例年4月は他の月に比べダンス公演が少なくなります。文化庁はじめとした助成金の採択結果が発表されるのが3月になるためです。4月では公演予算の計上等に不安を残すため大きな公演はなかなか打てないでしょう。いっぽうで4月といえば、バレエの発表会・学校公演が多くなります。そして、もうひとつ忘れてはならないのがコンクールです。4月以降本格的な舞踊コンクールシーズンがはじまります。

日本の舞踊コンクールといえば老舗中の老舗、今年で66回目を迎えた東京新聞主催の「全国舞踊コンクール」をまず第一に挙げなければならないでしょう。バレエ、現代舞踊、児童舞踊、創作、邦舞とジャンルが多岐にわたり、シニアからジュニアまで部門も多彩です。今年も先日行われ、バレエ中心にいくつかの部門を観ることができましたが熱戦が繰り広げられていました。他にも4月には既に終わった「まちだ全国バレエコンクール」、月末には西日本最大規模の「こうべ全国洋舞コンクール」に加え、今年で3回目となる「うつくしま、ふくしま。全国洋舞コンクール」も行われます。コンクールというものは、主催者にとっては舞踊文化の発展に寄与しつつ運営益を舞踊・文化振興に用いることができ、出場者にとっては日々の研鑽の成果を発表する場であります。観客にとっては、若い注目株にいち早く出会える機会といえるでしょう。

ただ、いまさら述べるまでもなくコンクールとは、踊り手にとって武者修行であり、実際の舞台でのパフォーマンスとは異なるもの。コンクールだけがすべてではありません。現代舞踊界では、コンクールにおける4分間の作品によって新進ダンサーの格付けがなされる伝統があります。それに対して私は一定の理解は持つものの、若いダンサーが貴重な20代の青春を“コンクール命”で無駄にしてしまう恐れもなくはありません。実演家間の慣習はさておいて報じるメディア、書き手はコンクールの結果を尊重しつつそれのみに囚われない広い視野からの報道、評論活動が望まれるでしょう。バレエに関しては関西、中部を中心に全国各地からの気鋭が妍を競うため、首都圏ではなかなか観ることの叶わない踊り手に接することができます。ジュニアの活躍にも将来を楽しみにさせてくれるものがありますがまだまだ未知数な成長期。ダンサーに対する批評を行う場合、コンクールにおけるヴァリエーションやパ・ド・ドゥではなく作品・公演単位でじっくり観ていくことが大切、コンクールでの活躍のみを捉え押し出し報じるのは勇み足、青田買い、自己顕示に過ぎません。コンクールだけがすべてではない。その認識を出場者、観る方・報じる側ともども一層深めていくことが大切ではないでしょうか。

2009-04-17

[]東京シティ・バレエ団の理事長が石井清子から安達悦子に

この4月から東京シティ・バレエ団の理事長に安達悦子が就任しました。故・有馬五郎のあとを引き継ぎ長年理事長職にあった石井清子は評議員に退くとのことです。

昨年創立40周年を迎えた同バレエ団は、古典と創作両方に着実な歩みを残してきました。石井は出身地でもある江東区と芸術提携を結ぶことに成功。ティアラこうとう(江東公会堂)を準フランチャイズに東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団との共演も含め地域に根ざした活動を推し進めてきました。ティアラ“くるみ”の会(旧:江東区にバレエを育てる会)やティアラこうとう・ジュニアバレエ団・教室も先頭に立って指揮、アウトリーチ活動にも積極的で地域文化への貢献には計り知れないものがあります。

新理事長の安達は松山バレエ団を経て東京シティ・バレエ団に入団、長年プリマを務めてきました。モナコにおいて名教師マリカ・ベゾブラゾヴァに師事し、イヴリン・ハートはじめ海外に豊富な人脈を持つことで知られています。石井路線を継承しつつ芸術面においてよりグローバルな視点からの展開を期待したいところです。また、公益法人制度が平成20年12月に改正されたことを受け各バレエ団も社団法人や財団法人あるいはNPO法人化へと傾きつつあります。江東区との芸術提携という強みを活かしつつそういった波に対してどう対応していくのか運営手腕も問われることになります。

今シーズンのラインナップをみると、ティアラこうとう主催『くるみ割り人形』は芸術文化振興基金の地域文化施設活動・展示活動:文化会館の助成を獲得。ティアラこうとうとの共催による新制作『ロミオとジュリエット』、おそらく東京都(都民芸術フェスティバル)の助成もあると思われる新国立劇場での自主公演『カルメン』では同じく芸術文化振興基金の現代舞台芸術創造普及活動:舞踊の助成を受けるなど手堅い運営ぶりが伺われます。黄凱、小林洋壱、志賀育恵、橘るみら人気ダンサーも擁し多くの一般観客にバレエの魅力を伝えている団体だけに一層充実した活動が望まれるところです。

2009-04-16

[]ダンスマガジン編「バレエ・ダンサー201」

ダンスマガジン編「バレエ・ダンサー201」(新書館)が刊行されました。

バレエ・ダンサー201 (ハンドブック・シリーズ)

バレエ・ダンサー201 (ハンドブック・シリーズ)

「バレエの“いま”がわかるスター名鑑」との惹句通り、内外の著名バレエダンサーを取り上げて紹介しています。シルヴィ・ギエム、ニーナ・アナニアシヴィリ、森下洋子、吉田都、ウラジーミル・マラーホフ、マニュエル・ルグリ、熊川哲也といったおなじみの現役ベテランから今をときめくウリヤーナ・ロパートキナ、アリーナ・コジョカル、スヴェトラーナ・ザハーロワ、ディアナ・ヴィシニョーワ、上野水香、そしてポリーナ・セミオノワ、ナターリア・オシポワ、伊藤友季子、小野絢子、菊地研、マチュー・ガニオ、イワン・ワシーリエフといった新進までが取り上げられています。ワスラフ・ニジンスキー、ルドルフ・ヌレエフら物故した伝説の踊り手や近年惜しまれつつ引退したアルティナイ・アスィルムラートワ、アレッサンドラ・フェリといった往年の名ダンサーもフォローしています。

201名の選出やダンサーによって3ページから1ページさらには半ページと扱い方の異なっている点については読者やファンによって不満が出たり、評価の分かれるのは致し方ないかも。とはいえ、有名どころをほぼ余すところなくフォローしており、ビギナーにとって役に立つガイドブックであるのは間違いありません。新旧のダンサーが50音順で並んでいるため、居座りの悪い並びになっている感は無きにしも非ずですが、辞書的に活用されることを狙って作成されていると思われるので、その点も納得できます。

個人的には日本人ダンサーの生年がほぼ漏らすことなく表記されていることに注目しました。紹介記事等の略歴において生年が出ていないことが少なくありません。欧米では有り得ないことでしょう。ダンサーや主催者が隠しているわけではないのに、媒体側で自主規制して表記しないケースもあるのでは?と疑いたくなるくらい。今回はそういったケースが少ないのが画期的。ダンサー紹介とともに彼ら彼女らの出ているDVDが紹介されているのは親切であり、ビギナー中心に「使える」一冊となっています。

執筆者は海野敏、小町直美、桜井多佳子、佐々木涼子、新藤弘子、堤理華、長野由紀、村山久美子、吉田裕、渡辺真弓、三浦雅士、浜野文雄の各氏。斯界を代表する、輝かしいキャリアと実力を誇る識者のお歴々です。各氏とも簡にして要を得た紹介を書かれ、紙数を割ける項目では各々卓見のダンサー論を展開しています。ロシアやイギリス、フランス等のダンサーに関してはエキスパートといえる方々が中心となって執筆。カタログに終わらぬ徹底した編集であり、ダンサー論として読み応え十分です。

2009-04-15

[]2009年度「踊りに行くぜ!!」vol.10出演者募集

JCDN主催「踊りに行くぜ!!」vol.10の出演者募集が行われています。

http://odorini.jcdn.org/modules/odorini9/index.php/category0012.html

2000年度から「踊りに行くぜ!!」〜JCDN全国パフォーマンススペース間のダンス巡回公演プロジェクト〜を行い、今年で10回目の開催。記念すべき今年度のvol.10は、札幌・函館・前橋・静岡・愛知・豊岡・広島・鳥取・松山・福岡・佐世保・宮崎・沖縄ほか全国各地で10月〜12月に行われます。2010年2-3月には、東京・伊丹において話題作、良作を集めた「SPECIAL IN TOKYO/ITAMI」を開催予定です。

本年度注目すべきは例年通り出演者構成3名までの通常の公募に加えて4〜6名のカンパニーを対象とした公募が行われる点でしょう。舞踏を含めた日本の現代ダンスはとにもかくにもソロダンスの比重が重いのが特徴。優れた、個性的なソロダンサーには事欠かないのですが、グループワークとなるとやや弱い面があるのは否定できません。上演時間は20〜30分程度のものとはいえ、4〜6人のダンサーが出演するグループワークが、各地を巡演するうちに関係者や目の肥えた観客の目にさらされることによって強度が増していくのは得難い機会だと思います。新展開に期待したいところ。

以下、情報転載、詳しくはJCDNサイトの該当応募地域ページ等から確認ください。

≪応募に際しては、以下の点にご注意ください≫

★応募方法、対象地域、応募締め切り等は各募集地域により異なります。必ず該当応募地域のページにてご確認ください。

★ご自身の活動地域もしくは居住地域での募集がない場合は、最寄の募集地域に応募いただけます。

★各地での募集は、応募対象人数:ソロ〜3名まで。4名以上の出演者の作品は、カンパニー公募にご応募ください。

●出演者は、

1.各開催地での選考会・ビデオ公募からの選出

2.開催するスペースとJCDNからの依頼

3.スペースの推薦(東京:セッションハウス/大阪:ダンスボックス)

4.カンパニー公募 

等の方法で決定しています。

●伊丹/東京での開催は

伊丹/東京での開催は10月〜12月の巡回公演では行わず、昨年度と同様に各巡回公演で話題になった作品を4-5組ピックアップし、「SPECIAL IN ITAMI/TOKYO」として2010年2月〜3月に開催する予定です。

2009-04-14

[]ジョン・ノイマイヤー&高岸直樹のインタビュー

民主音楽協会が編集・発行する広報誌「みんおんクォータリー」第14号では、2月〜3月にかけて来日しジョン・ノイマイヤー振付『人魚姫』『椿姫』を上演したハンブルク・バレエについての記事が充実しています。民主音楽協会公式サイトのトップページリンクからでも読めると遅ればせながら気づいたのでご紹介を(PDF 形式)。

「人と音楽」というインタビューコーナーでは、ノイマイヤーが今回の来日公演や弛みない創造活動について語り、最後には現在地球規模で混迷を深める社会において芸術の力とは何か、芸術の使命とは何かを真摯に語っています。引用はしませんが、芸術とは、我々が生きる上で不可欠なものであるということを衒うことなく訴えています。ノイマイヤーの創るバレエは決して分り易いエンターテインメントではありません。深い哲学を内包した芸術性の高いものです。観るもの思考を促し、同時に感情に激しく揺さぶりをかける。巨匠の芸術に、観客に対する誠実さがひしと感じられるインタビューです。

もうひとつ紙数を割いての企画が「現役ダンサーが語る ジョン・ノイマイヤーの魅力」。東京バレエ団のプリンシパル高岸直樹がインタビューに答えています。高岸は『月に寄せる七つの俳句』(1989年)、『時節の色』(2000年)というそれぞれ俳句、日本の四季をモチーフとしたノイマイヤー作品の初演キャストです。『月に寄せる七つの俳句』のときは巨匠との初顔合わせ。遠慮もあってリハーサル中はあまり前に出て動かなかったところノイマイヤーは頭を抱えてしまったそうです。11年後『時節の色』に挑んだとき、高岸さんはリハーサル中積極的に動いたそうです。するとノイマイヤーから稽古場の端に呼ばれ、涙を流して感謝されたということ。ノイマイヤーは知的で独自の審美眼を持ち、確固たるヴィジョンを持って振付に当っているイメージを持ちますが(そういう側面もあるでしょうが)、実際にはダンサーの生む動きや個性をみてイメージを膨らませ創作を形にしていくタイプの振付家ということです。振付家とダンサーの関係、創作という営為の玄妙さを示すエピソードですね。タイムリーなことに間もなく東京バレエ団が「創立45周年記念スペシャル・プロ」において『月に寄せる七つの俳句』を18年ぶり!に再演。東京バレエ団公式ブログを読むと、強行軍のスケジュールながらノイマイヤーが来日、仕上げのリハーサルが行われているようです。こちらも楽しみなところ。

2009-04-13

[]「grow up! Danceプロジェクト−サポートアーティスト公演」

              f:id:dance300:20090412181904j:image

アサヒ・アートスクエアでは、自身の作品のブラッシュアップ、アーティストとしてのステップアップを望む振付家を支援する「grow up! Danceプロジェクト」を始動しています。 

公演情報: http://arts-npo.org/aas/2009y4m24.htm

blog: http://gudp.exblog.jp/

第1回目のサポートアーティストには、演劇出身でNoism05−06や珍しいキノコ舞踊団に所属した石川勇太と大駱駝艦出身、ジョセフ・ナジ『遊*ASOBU』出演やSTスポットでの自作上演、フランスでもソロ作品を発表する捩子ぴじんの2名を選出。

プロジェクトの選考委員とのプロダクションミーティング/セミナーや創作中の作品についてアーティストと観客が作品をより成熟させるための批評システム「クリティカル・レスポンス・プロセス」などを通してブラッシュアップしてきた成果が披露されるとのこと。各種コンペ等は少なくないですが、力ある若手アーティストをサポート、作品の強度を高めより魅力的なものへとブラッシュアップしていくという場はそう多くありません。まだ始まったばかりですがアサヒ・アートスクエアの試みは注目されていいでしょう。

↓捩子ぴじん作品の予告

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【公演日時】

4月24日(金)start-19:30

4月25日(土)start-14:00 / 19:30

4月26日(日)start-14:00

【会場】アサヒ・アートスクエア

【入場料(全席自由)】前売り:2,300円/当日:2,800円

【チケット予約】JCDNダンスリザーブ http://dance.jcdn.org/

AASオンラインチケットシステム http://arts-npo.org/aas/2009y4m24.htm

【公演内容】

作品タイトル:「Time Difference」

振付:石川勇太

出演:辻田暁、高橋幸平、橋本規靖、酒井幸菜、石川勇太

作品タイトル:「sygyzy」

振付:捩子ぴじん

音楽:スズキクリ

2009-04-11

[]YCAM(山口情報芸術センター)の2009年度開催事業

YCAM(山口情報芸術センター)の2009年度開催事業が発表されています。

http://www.ycam.jp/news/ycam2009.html

(リリースもダウンロードできるようです)

2003年に開館以来メディアテクノロジーを用いた表現の可能性を追求してきた同センターならではのプログラムが組まれています。ダンス関連をピックアップしておきたいと思います。公演、展示、ワークショップと多彩なラインアップ。いずれもそそられます。

アメリカ・ポストモダンダンスのパイオニア、スティーブ・パクストン34年ぶりの来日は今年上半期の話題。各地で催しが行われますが、山口では、新作映像インスタレーションのほかデモンストレーション、レクチャー等が予定されます。6月には独自のディープな世界観を構築、コアなファンを獲得しているダンサー/振付家の東野祥子が煙巻ヨーコの名でクラブイベントスタイルのパフォーマンスを披露。東野さんのワークショップも行われるようです。11月にはブラジルからヒップホップとコンテンポラリーダンスを融合させた作風で注目の振付家ブルーノ・ベルトラオ最新作「H3」が上陸します。

企画展

スティーヴ・パクストン「Phantom Exhibition〜背骨のためのマテリアル」

同時開催:企画展「インターイメージとしての身体」

■5月24日-8月31日


ダンス公演 煙巻ヨーコ(東野祥子)ダンスセッション「ALL LOVES YOU!」

■6月27日

関連イベント:ダンスワークショップ 「ダンスってこんなに自由だったの?!」


ダンス公演 グルーポ・デ・ルア(ブラジル)「H3」

■11月14日

2009-04-10

[]田中泯がナレーションでNHKスペシャルに登場

舞踏家の田中泯さんがナレーションとしてNHKスペシャルに登場するようです。

NHK総合テレビ NHKスペシャル 

「ヤノマミ 奥アマゾン 原初の森に生きる」

■本放送

4月12日(日)21:00〜21:59

■再放送

4月15日(水)00:45〜1:45(火曜日の深夜)

NHK総合テレビ

アマゾン最深部に1万年以上、独自の文化・風習を守り続けている部族・ヤノマミ族。数十人から数百人で集団を作り、ブラジル、ベネズエラのジャングルに生息する民族に対して、ブラジル政府と部族長老7名との長年の交渉の末にテレビ放送局として初めて長期の取材が許されたものということです。


※詳しくはNHKオンラインから検索してみてください。

http://www.nhk.or.jp/

2009-04-09

[]ダンスと音楽をめぐる関係の現在

創作ダンス、コンテンポラリー・ダンス作品を振付ける際、多くの振付家が足掛かりとするのは、まずどんな音楽を用いるかでしょう。音楽こそ創造の泉。クラシックから現代音楽、ジャズ、ロックにいたるまで無限といっていい広がりがあります。

そこで問題になるのが音楽著作権。著作物を著した際には特許などの産業財産権と同じく知的財産権が発生します。音楽の場合、作曲家・作詞家には著作権が、レコード会社や歌手・演奏者には著作隣接権があります。振付家が作品に既成の楽曲を使用する場合、内外のもの問わず使用許可を取って使用料を支払わなければなりません。無論、ほとんどの主催者やアーティストは使用料を払っているでしょう。ちゃんと。WEB時代の現在、舞台を観ての感想がリアルタイムでアップされます。記事のなかで作中どんな音楽が使われていたかが書かれることがありますが、それによって楽曲を無断使用していたことがバレたといったケースもあるとかないとか・・・。法的に定められた基準を満たし楽曲利用することは当然。ルーズな感覚はもう通用しないでしょう。

既成の楽曲を使用した場合、発生する権利料が振付家の悩みですが、記録映像等を商用に発売する場合はさらに料金が発生します。二次使用の許可をとるのが難しいケースも多いようで、ダンスDVD等が発売され難い一因となっています。そこで最近では作曲者に書き下ろしで依頼するケースも増えてきました。二次使用等の権利関係をクリアするのは容易になります。そして音楽家と振付家の打々発止のコラボレーションが期待されます。既存楽曲を用いた場合、手垢にまみれたイメージしか喚起しないダンスも少なくありません。音楽家との協同制作は創造面で豊かな成果を挙げることが可能でしょう。コンテンポラリー・ダンスのネットワーク組織JCDNでは、2005年から「DANCE×MUSIC!」を立ち上げました。気鋭の振付家と音楽家を組ませての創作の場を提供するものです。公演を収録したものや新たに撮リ下ろした映像がDVDとして発売されてもいます。ダンスと音楽をめぐる環境について示唆に富む試みといえるのでは。

創作面、ビジネス面を含めダンスと音楽の関係や周辺環境について関係者は常に考えていかなければいけません。観客としてもそういったことを意識、厳しい目を光らせることができれば、ダンス界の発展を後押しすることになるのではないでしょうか。

2009-04-05

[]女性振付家の時代?

新年度がはじまりました。今年のダンスシーンを楽しむポイントのひとつとして注目したいのが女性振付家の活動です。近年、女性振付家の活躍には目覚しいものがあると感じていました。実際、専門筋のあいだでもそういった声は少なからず耳にします。ここではバレエ系を中心に、私見ではありますが比較的コンスタントに新作上演または再演を行い、かつ今後も活躍が期待できる振付家の名をあげておきたいと思います。

わが国ではバレエといえばどうしてもチャイコフスキー三大バレエとういうことになってしまい、創作バレエの動員は極めて厳しいものがあります。そんななか50余年にわたって創作バレエ一筋に邁進してきたのが佐多達枝です。長いスパンで活躍、しかも時代ごとに代表作を持つ超人といえます。毎年続けてきた個人リサイタルは打ち止めとのことですが、本年も芸術監督を務めるO.F.Cにおいて合唱舞踊劇『ヨハネ受難曲』を発表します。主題の深さ、振付の独創性、演出力の高さいずれとっても抜きん出た存在といえます。受賞歴等をみると功なり名を遂げているように思われますが、世界の一線に比類するという声がちらほら聞こえるようになったのは比較的近年になってから。佐多作品がレパートリーとして上演され残されていくこと、海外上演が切に望まれます。

創作バレエをめぐる状況が今以上に(恐らく)厳しい時代から積極的に振付を行ってきたベテランは他にもいます。松崎すみ子小川亜矢子の息の長い活動は忘れてはなりません。松崎には『旅芸人』『オンディーヌ』、小川には『火』『アマデウス』といった名作と評される創作があります。そして、大手の団の主宰者/トップを務めつつ振付家として質量ともに優れた成果を挙げてきた大家もいます。牧阿佐美バレヱ団を主宰、現在、新国立劇場舞踊芸術監督を務める牧阿佐美は、『ラ・バヤデール』『ライモンダ』『白鳥の湖』の改訂演出を経て、近年、新国立劇場バレエ団に『牧阿佐美の椿姫』を振付けました。西洋発祥のバレエ技法を駆使し日本人の感性に訴える悲恋劇を創造、大バレエ団の上演するに相応しいレパートリーとして踊りの見せ場も豊富にまとめあげています。東京シティ・バレエ団の創設メンバーのひとりであり、この3月まで理事長の職にあった石井清子は、どんな音楽であっても曲調を損なわずに、淀みなく振りを紡ぎだす卓越した腕前を持ちます。近作では『剣の舞』などが高評を得ました。

その下の世代では、バレエ団芸術座の深沢和子、べラームステージクリエイトを主宰する多胡寿伯子らがいます。深沢には『王女マルガリータ』、多胡には『The Scarlet Letter A〜緋文字』という代表作があります。夫君の今村博明とバレエシャンブルウエストを主宰する川口ゆり子も今村と共同で多数の創作を発表。ことにドラマティックバレエの大作『タチヤーナ』、和の創作『時雨西行』は出色の仕上がりです。1980年代以降創作バレエの旗手として注目を浴びた後藤早知子も忘れられません。『光ほのかに〜アンネの日記』『ヘレン〜心の光』など文芸バレエ中心に寡作ながら活動を続けています。そして関西や中部でも活動する女性バレエ振付家はいます。名古屋で活動する川口節子は異才です。創作歴は長く『イエルマ』『奇跡の人』『HEAVEN』といった傑作を発表。発想の新鮮さ、動きで語るドラマの豊饒さにおいて常に刺激的な創作を行っています。関西では国際バレエコンクールのコンテンポラリー振付で著名となった矢上恵子が熱狂的な支持を集めています。代表作に『Daia』など。アグレッシブな作舞が特徴で、激しい動きから立ち昇る官能性に惹かれるファンも少なくないようです。

若い世代にも注目株が出てきています。キミホ・ハルバートは小品中心にパ・ド・ドゥの造形の上手さに定評ある作家です。近作の『White Fields』では2時間の長丁場をセンスよくまとめる構成力を発揮、若手振付家の一線に躍り出た感があります。日本を代表するプリマ下村由理恵はいくつかのシンフォニック・バレエを発表。音感の良さ、群舞配置の妙と天才的な手腕を発揮しています。谷桃子バレエ団の名プリマ高部尚子も昨年から創作を始め注目されています。谷バレエ団では近年「クリエイティブ・パフォーマンス」を開催、なかでも日原永美子『タンゴジブル』は高い評価を受けました。谷バレエ団を経てフリーで活動する前田新奈に注目する関係者もいます。キリアンの下で踊ったのち帰国、横浜の本牧にスタジオを構える中村恩恵はキャリア実績十分、NoismのほかNBAバレエ団、関西の野間バレエ団にも作品を提供しています。中村と交流深く、前記した松崎すみ子の子女である松崎えりも内外で創作を続け、昨年行われたカンパニーnoonの自主公演は話題になりました。同じく母の血を受け継いだということでいえば、これまた前記した名古屋の川口節子の子女太田一葉もニューヨーク仕込みの確かな作舞術とセンス溢れる舞台に将来性を感じさせます。金田和洋・こうの恭子の子女金田あゆ子も小スペース中心に活動、来年の日本バレエ協会「J・B・A ヤング・バレエ・フェスティバル」において作品発表が予定されています。

語り過ぎないよう端折って書きましたが多士済々の顔ぶれ。東京シティ・バレエ団、谷桃子バレエ団、バレエシャンブルウエスト、NBAバレエ団、貞松・浜田バレエ団等では団員中心に創作発表する場が設けられ、さらなる逸材の誕生が期待できそうです。観客としては、古典だけでなく創作を観ることによって、ダンサーたちの多彩な表情、バレエ芸術の奥行きを知ることができます。創作の灯を絶やすことなく創造が続けられることが重要。そして、国際水準へとレベルを上げていくことが望まれるところです。

2009-04-01

[]今年はジゼル・イヤー

イギリス・ロンドンでは、この4月、同時期にロイヤル・バレエとアメリカン・バレエ・シアターが『白鳥の湖』を上演することが話題になっているようですね。でも、日本の場合、ことに首都圏ではそういったケースは珍しくありません。日程がバッティングするのは狭いパイを食い合うためできれば避けたいところ。しかし、多くの団体が独自のポリシーを持って活動している現状においては仕方ないでしょう。年末の風物詩『くるみ割り人形』やドル箱・安全牌の『白鳥の湖』以外に年間を通して特定の演目が期せず続けて上演されることも珍しくありません。今年は『ジゼル』がそれに当るでしょう。

5月に熊川哲也Kバレエカンパニーが熊川と久々のヴィヴィアナ・デュランテ主演ほかのキャストで上演するのを皮切りに在京の大手、中堅団体の上演が続きます。6月には東京バレエ団がアルブレヒト役にシュツッガルト・バレエからフリーデマン・フォーゲルを招き吉岡美佳と上野水香がジゼル役を競演します。名花・吉岡の繊細で叙情性にあふれた演技も楽しみですが、昨秋、卓越した技術とピュアな演技によって衝撃的な“ジゼル・デビュー”を果たした上野の再登場は見逃せないでしょう。同時期には八王子を拠点に23区内の大劇場や山梨県・清里等でも精力的に活動するバレエシャンブルウエストが地元で公演を行います。主宰者の今村博明、川口ゆり子が早くから後進のダンサーを育ててきたことこそ、このカンパニー躍進の原動力。今回も川口とジゼル役を競演する吉本真由美のほか橋本尚美や山本帆介ら川口・今村が手塩にかけ育てた逸材の活躍が楽しみです。7月には名門・牧阿佐美バレヱ団がなんと10年ぶりに再演するのが話題。改訂演出を総監督・三谷恭三が手がけ、ジゼル役はトリプルキャストが組まれています。橘秋子賞優秀賞、ニムラ舞踊賞、服部智恵子賞と舞踊賞を総なめにしているベテラン・田中祐子、新進気鋭の伊藤友季子と青山季可が満を持しての挑戦。どのキャストを観るか悩ましいところですね。10月には今年創立60周年を迎えた谷桃子バレエ団が2日間3回にわたって上演。創設者・谷桃子の踊ったジゼルの演技はもはや伝説となっています。若手に注目株も出てきているだけに伝統を引き継ぐ新鋭たちの舞台を楽しめそう。首都圏以外の大手では9月に兵庫の貞松・浜田バレエ団が上演します。オハッド・ナハリン、森優貴らのコンテンポラリーに挑み画期的な成果を挙げているカンパニーですが、古典作品における精緻で説得力のある舞台にも定評があります。ロマンティック・バレエの名作を主催公演で取り上げるのは久々となりますが期待できるでしょう。そのほか、京都の有馬龍子バレエ団が8月に滋賀・びわ湖ホールにてカール・パケットやミカエル・ドナールらパリ・オペラ座バレエから豪華キャストを招いて公演するようです。遠方から駆けつける“パリオペ・ファン”も少なくないのでは。

首都圏を中心にバレエ団が林立する現状に対し否定的意見も聞かれます。しかし、さまざまのレパートリーを定期的に鑑賞できる日本の観客は幸運。『ジゼル』や『白鳥の湖』でもそれぞれ異なった演出を楽しめ、さまざまのダンサーの演技を見比べられるのは得難いといえます。DVD等映像ソフトも多数手に入る現在ですが、やはりナマの上演に接するのが一番。きびしい不況やあまりいいニュースの聞こえてこない世相ではありますが、だからこそ劇場で命の洗濯をして、明日への活力を養いたいものです。

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