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ダンスの海へ 舞踊評論家・高橋森彦のblog このページをアンテナに追加 RSSフィード

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2009-05-30

[]ArtTheater dB神戸 杮落しダンス公演 Bプロ

一昨年、大阪・新世界フェスティバルゲート内からの立ち退きを余儀なくされた関西のコンテンポラリー・ダンスのメッカNPO法人DANCE BOX(代表:大谷燠)。1年半を経てやっと神戸市の施設提供を受け新長田に新たに劇場Art Theater dB神戸を開場しました。新長田の南口にあるショッピングモールのビル4階にDANCE BOXと劇場施設があります。もともとライブハウスであったものを改装したらしく広々とした空間でタッパがあります。客席数は120席ほど。段差も十分にあり見やすい。新世界にあった旧dBの魅力のひとつはロビーでの憩いのひととき。終演後、アーティストや関係者、観客が立場を超えて語り合い交流を深められました。新たな劇場にもバーカウンターがあって語らいの場は健在です。劇場スタッフの顔ぶれも変わっていないようです。

柿落としダンス公演「Trip〜夢みるカラダと夢みないカラダについての考察〜」には、関西を代表するアーティストが集って興味津々なプログラム。A/BプロのうちBプロを観ました(5月24日所見)。岩下徹、アンサンブル・ゾネ、セレノグラフィカという顔ぶれ(Aプロのラインナップは東野祥子、宮北裕美、きたまり)。いずれの作品も30分程度の小品でしたが、関西コンテンポラリー・ダンスの底力と多様性を実感しました。

岩下徹は山海塾の舞踏手として知られますが自身のソロでは長年にわたって即興を追求しています。今回の『in Silence』でも、無音のなか、これまた即興の照明とともに身一つで無の境地を志向するかのよう。とはいえ内面に深く深く沈潜していくのではなく、虚飾を排しおのれの身体を観客の前に晒すことによって世界と対峙する――そこには開かれた身体、世界への無言の問いかけがありました。

アンサンブル・ゾネは地元・神戸のカンパニー。ドイツに学んだ岡登志子と精鋭ダンサーの創り出すディープな世界が玄人筋中心に高い評価を受けています。日常的な動きも取り入れつつ身体と空間の関係性をニュートラルに捉える岡の舞踊世界は一見淡々とストイックに思えます。しかし、ダンサーたちの織りなす動きの連なりが混沌のなかにじょじょに秩序を与えていく――そのプロセスがなんともスリリングで目が離せません。新作『一つの点から無数の点へ、無数の点から一つの点へ』には、中軸の伊藤愛はじめコアメンバーが揃い、“本場”においてゾネの素晴しさを存分に味わえました。

セレノグラフィカは阿比留修一&隅地茉歩のデュオですが、男と女という安易な記号性、図式に陥らない独特の舞台づくりが特徴的です。「『裏日記』〜10099101〜より」でも、男女間の距離や機微をダンスらしいダンスはあんまりなくともさまざまな所作やシーケンスを連ねていくことにより浮かび上がらせます。ときにシュールですらある。岩村原太による照明・空間設計はまさに玄妙としかいいようがありません。霞がかったような照明効果には陶然とさせられました。

立地面からしてまだまだ大阪・京都方面の観客が定着していないため、大阪時代に比べると観客動員はやや苦戦気味のようです。新長田からすぐなので、多くの人にぜひ足を運んでもらいたいところ。DANCE BOX&Art Theater dB神戸では、今後も本拠地を中心にダンス・演劇公演やワークショップ等を行っていくようです(劇場の入るビルの2階には広々としたスタジオがあり、広く貸し出しに応じるそうで、そこでも多くの出会いが望まれます)。障がいのある人とともに創作を行う「循環プロジェクト」も意義ある活動で見逃せません。今後特に注目されるのは、アートディレクターに劇作家・演出家の菱田信也を迎え、神戸市民による劇団「vintage -ヴィンテージ-」を創設することです。より地域、コミュニティに根ざしつつ開かれた活動を展開することが期待されます。

2009-05-29

[]草刈民代が舞台『宮城野』で女優活動を開始

財団法人橘秋子記念財団の広報誌「Ballet Esquire バレヱエスカイア」vol.29(劇場等で配布)の表紙は草刈民代です。コピーは“女優へ華麗なる転身 第一線で活躍し続けたバレリーナ”。先日行われた「エスプリ」を最後にバレリーナ生活の幕を閉じた草刈ですが、次なる活動として以前から希望していた女優の道に進むようです。

今秋に上演される矢代静一作の舞台『宮城野』がそのスタート。夫君である周防正行監督『Shall we ダンス?』(1996年)の演技によって日本アカデミー賞最優秀主演女優賞等映画賞を獲得していますが、それ以来の演技への挑戦となります。

『宮城野』

劇作・脚本:矢代静一

演出:鈴木勝秀

出演:草刈民代、安田顕

9月17日〜23日/東京・草月ホール

9月26〜27日/大阪・イオン化粧品 シアターBRAVA!

9月29〜30/名古屋・名鉄ホール

チケット発売:7月11日(土)

公式HP:http://www.clear-tcg.com/

※当blogより関連記事

「草刈民代と『エスプリ』」

http://d.hatena.ne.jp/dance300/20090428/p1

「草刈民代が現役引退へ」

http://d.hatena.ne.jp/dance300/20081002/p1

2009-05-28

[]ヤン・クーネン監督『シャネルとストラヴィンスキー』

先ごろ閉幕した第62回カンヌ国際映画祭のクロージング作品としてヤン・クーネン監督作品『シャネルとストラヴィンスキー/シークレット・ストーリー(原題:Coco Chanel & Igor Stravinsky)』が上映され話題を呼んでいるようです。

20世紀初頭ベル・エポック最盛期に活躍、今年誕生100年を迎えるバレエ・リュス(ロシア・バレエ団)の創作にも多大な貢献を果たしたロシアの作曲家イーゴリ・ストラヴィンスキーと20世紀を代表するデザイナー、ココ・シャネルの愛を描くものです。

シャネルのモデルを務めるアナ・ムグラリスがシャネル役を演じ、衣装デザインをカール・ラガーフェルドが担当したシャネル公認作品。稀代の天才作曲家ストラヴィンスキーを愛する女性、そしてパトロンとしての側面からシャネルを描いたものとか。

伝説の踊り手ワツラフ・ニジンスキーが振り付け20世紀舞踊に革命をもたらした『春の祭典』などの作曲者ストラヴィンスキーの活躍したベル・エポック期のパリが描かれ、バレエ・ファン、音楽ファンにとっても注目される一本。パンクな映像美で魅せたアクション『ドーベルマン』(1997年)で知られるクーネン監督のこと、一体どんな映像に仕上がっているのか!?も見逃せないところでしょう。日本では来年春に公開されるようです。


imdbデータ

http://www.imdb.com/title/tt1023441/

2009-05-26

[DANCE]梅田宏明の関西公演

日本よりも欧米での活躍が目覚しいダンサー・振付家の梅田宏明。ヴィジュアルアーティストとしての側面も強く、自作の照明・美術・音響等も自身が手がけ、クールな作風のなかに独自の美学を感じさせます。今年3月、横浜赤レンガ倉庫にて行われた日本での単独初公演はソロ、グループワークの発表に加え、映像作品の上演、体験型インスタレーションの公開と盛りだくさんで楽しめました(http://d.hatena.ne.jp/dance300/20090320/p1)。

日本での作品発表の機会はなかなか難しいようですが、早くも7月に兵庫・西宮で公演が行われるようです。関西初上陸とか。上演されるのは、2007年にパリの国立シャイヨー劇場で発表、新国立劇場主催公演でも披露した『Accumulated Layout』と、02年に横浜ダンスコレクションで発表した出世作『while going to a condition』。関西のダンス界、メディアアートの世界にどういった刺激をもたらすのか注目されるところです。

1hourシアターVOL.8

梅田宏明『Accumulated Layout』『while going to a condition』

日時:2009年7月11日(土)

開演:16:00

会場:兵庫芸術文化センター 阪急 中ホール

2009-05-23

[DVD]新国立劇場バレエ団オフィシャルDVD BOOKS 『白鳥の湖』『ライモンダ』

新国立劇場バレエ団オフィシャルDVD BOOKS 『白鳥の湖』『ライモンダ』が登場。

『白鳥の湖』は酒井はな&山本隆之主演で2006年11月公演のものを、『ライモンダ』はスヴェトラーナ・ザハーロワ&デニス・マトヴィエンコ主演で2009年2月公演のものを収録しています。あらすじや主演ダンサー、芸術監督・牧阿佐美のインタビューのほか、バレエ研究・翻訳の長野由紀さんによるコラム等も掲載されています。

初台で公演を観ることのできる観客は限られており、国立の、多額の血税が投入されている公演に関して映像とはいえ広く観る機会が増えることは好ましいのでは。


2009-05-22

[]上野水香の踊る『ジゼル』全幕ハイライト動画

先日「上野水香 バレリーナ・スピリット」という本のでたばかりの上野水香ですが、そこでも話題になっている『ジゼル』全幕ハイライト映像がUPされました(共演:高岸直樹)。

6月、フリーデマン・フォーゲルとの共演に際してのプロモーションでしょう。


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2009-05-21

[]BennyMoss、ダンスカンパニーカレイドスコープ、ラ ダンス コントラステ、東京シティ・バレエ団、深谷莉沙

5月前半も多くの公演が行われました。松山バレエ団『シンデレラ』、Kバレエカンパニー『ジゼル』、デンマーク・ロイヤル・バレエ団『ナポリ』等も観ましたが、ここではあまり取り上げられない創作もの、コンテンポラリー・ダンスについて簡単に。

Benny Moss『jellybeanZ』

垣内友香里の主宰するBenny Mossの単独公演は、死者への供華、葬式をモチーフにした一晩ものでした。jellybeanZとは、外が固く中がゼリー状のポケット菓子。舞台にばら撒かれて…。垣内と青山るり子、畦地真奈加という個性的かつ重量感たっぷりの踊り手のパーソナリティが魅力的でした。個々の過去や現在について虚々実々の会話を交わしていく場やユニゾンを踊る場で三人のビミョーな差異がおもしろい。しかし、そんななかに、現代の寄る辺なく生きる若者の実感のようなものがなんとなしに浮かび上がって来ます。無差別殺人事件を題材に演劇的手法も取り入れて個に潜在する狂気や暴力を怜悧に見据えた前作『ONE』もそうでしたが、私的感覚に留まらず社会との接点を見据えた創作を模索している垣内の動向は今後も注目されるところです。

(2009年5月5日 日暮里・d-倉庫)

ダンスカンパニーカレイドスコープ「Dance Gathering Performance」

ダンスカンパニーカレイドスコープを主宰する二見一幸が指導する各スタジオの有志が集って行うもの。新旧4作品とも二見の振付ですが、ダンサーの存在と空間を捉える鋭い感覚、動きそのものを追究する美学にみたされています。若手にハードに踊らせるもの、袖の長い衣装による制約が意想外の動きを造形するもの、切り替えの早い動きの連鎖でありつつ流動感に富んだものなど多彩で、二見の才人ぶりを如何なく発揮していました。若手〜中堅に伸びているダンサーがいて成長が楽しみ。それにしても金森穣のNoismのように、プロの舞踊団としての環境が整っているのならともかく、日々消費され疲弊するアーティスト・ダンサーもすくなくない現在の首都圏のダンスシーンにおいて、一民間グループがここまで錬度の高い表現を行っているのは驚嘆に値します。

※他に書く予定があるため、詳しい内容はそちらに譲ります。

(2009年5月13日 北沢タウンホール)

ラ ダンス コントラステ第13回アトリエ公演『REFLET』

佐藤宏の主宰するラ ダンス コントラステは“コンテンポラリーな感覚でクラシックバレエをとらえ、都会的でセンスあふれる作品”を発表しています。『白鳥の湖』『くるみ割り人形』などバレエの古典を大胆に翻案した作品が注目されています。今回の『REFLET』に明確な筋はありません。ここでは、佐藤の多用する、ダンス・クラシック(バレエの動き)をずらしたアン・ドゥダンすなわち内足のステップを織り交ぜた動きを用いつつダンスが続きます。ペルトなどの音楽にのせ、陰影に富んだ照明が天上から吊るされた鏡の形作る迷宮に混沌と秩序を与え、佐藤ならではの美意識を開示していました。

(2009年5月14日 東京芸術劇場小ホール1)

東京シティ・バレエ団「ラフィネ・バレエコンサート」

東京シティ・バレエ団恒例のコンサート。三部構成で1部に金井利久『パキータ』、3部に石井清子『ジプシー・ダンス』が発表されましたが私的に注目したのは2部でした。中島伸欣『フィジカル・ノイズ』『ロミオとジュリエット』はいずれも男女の関係を描いたものです。薄井友姫&キム ボ ヨンの踊った前者は現代バレエならではの硬質な動きのなかにほのみえる情感が得難く、橘るみ&黄凱による後者はいわゆる「バルコニーの場」のパ・ド・ドゥですが恥じらいやピュアな心情から互いに愛にみたされ身を委ねあうプロセスがポアント技からリフトまで多彩な語彙で鮮やかに描かれていました。中島作品の間に上演されたのが新鋭・小林洋壱の『Without Words』。これも男女2人(志賀育恵&チョ ミン ヨン)の関係性を描くもので、マーラーの交響曲第5番第4楽章「アダージェット」を用いています。昨年のデビュー作『After the Rain』同様、誠実で好感の持てる作品であり、前作の課題であった語彙がやや乏しい点に関しても工夫は感じられました。しかし、練達の中島作品に挟まれては分が悪い。「なぜその振りが必要か」がいまひとつ伝わってこない箇所も。その意味では再考の余地があるように感じました。

(2009年5月17日 ティアラこうとう大ホール)

深谷莉沙ソロダンスパフォーマンス『eating girl』

クラシック・バレエ、コンテンポラリー・ダンスを深見章代に師事、ダンスカンパニー高襟のメンバーとして活躍するLilyこと深谷莉沙。モデルとしても活動し、西麻布の隠れ家的バーを借りて行われた「中島圭一郎×深谷莉沙 写真展」のクロージングイベントとしてソロダンス『eating girl』を披露しました。深谷の魅力は強烈なまでの少女性と大人びた雰囲気が同居していることにあります。振付の深見はその点をよく捉えていて、ケーキやサラダを貪り食う場、赤い靴を脱ぎ足指を口に入れたり、ストリップまがいに衣装を脱ぐところなど、いい意味でのベタなロリータ的イメージと、女性のはらむ生理的感覚をうまく融合させていました。深谷はまだ踊り始めてわずかであり、ダンサーとして云々はいえませんが、磁力ある存在感と物怖じしない強い姿勢に加え、ナルシズムに陥らないクレバーさも備えています。今後一層注目されるアーティストになる予感。

(2009年5月17日 西麻布・the Robin's nest)

2009-05-19

[]松山バレエ団 顕彰

19回目を迎える(財)松山バレエ団顕彰の結果です。

なかなか渋い、実力派の舞踊関係者が選ばれているので紹介しておきます。

芸術賞:松岡伶子(松岡伶子バレエ団 主宰)

芸どころとして知られバレエ団が林立する名古屋において創立から50数年にわたって団・研究所を率い躍進を遂げてきたのが松岡伶子です。東海3県で生徒数常時1,000人を軽く越える生徒を育てつつバレエ団公演も定期的に行ってきました。チャイコフスキー三大バレエや『ジゼル』のほか『ライモンダ』『ラ・バヤデール』『石の花』といった上演機会の少ないロシア・バレエの大作も早くから上演。古典全幕のほかにも松岡の創作バレエとして『あゝ 野麦峠』などがあります。近年毎年夏に行われる「アトリエ公演」では石井潤、島崎徹、深川秀夫らを振付指導に迎え創作作品を積極的に上演。本年は篠原聖一&下村由理恵を招聘します。日本の創作バレエを語る上でも欠かせない会となってきました。この団の特徴はなによりも踊り手が抜群にいいこと。内外のバレエコンクールの上位入賞者は無数、現在では大岩千恵子、安藤有紀、伊藤優花、大寺資二、窪田弘樹そして新国立劇場への客演を通して絶大な注目を浴びる若手ホープ碓氷悠太はじめ多くの優れた踊り手を擁します。一流のダンサーを育て上げた実績からすれば松岡さんは日本で1、2を争う存在といって間違いないでしょう。

芸術奨励賞:本間祥公(本間祥公ダンスエテルノ 主宰)

藤井公・利子に学んだ本間祥公は、東京創作舞踊団の公演に出演しつつ各コンクールの1位を獲得。独立後は個人リサイタルや合同公演にて創作を発表しています。昨年、舞踊生活45周年を記念したリサイタルを開催しました。そのなかで藤井の団から独立時、師からはなむけに贈られた『ヒマラヤの狐』という作品を久々に改訂再演しました。静的なものから激しいものへと移りゆく動きの玄妙な変遷に孤高の境地、高い精神性を感じさせるもので、藤井公・利子にとっても代表作の一本といわれています。天才ダンサーとしての名声をほしいがままにしてきた本間ですが、踊ることに加え、後進の指導にも熱心。門下で子女の山口華子はまだ若いながらも創作に意欲をみせ、本年度の東京新聞主催全国舞踊コンクール創作部門にて見事第一位を獲得しています。踊り手として創作者として指導者として今後の展開も注目されるところです。

教育賞:黒沢輝夫・下田栄子(黒沢・下田モダンバレエスタジオ 主宰)

日本の現代舞踊のパイオニア石井漠の弟子でありその作品でも主要な役を踊った黒沢輝夫と夫人の下田栄子。現代舞踊界の重鎮ですが、コンテンポラリー・ダンスのファンには黒沢美香さんの父母といったほうが通りがいいかもしれません。黒沢・下田はこれまで全国舞踊コンクールはじめ埼玉、こうべといった舞踊コンクールの現代舞踊部門で60回近くの一位受賞を獲得しています。驚異的な数です。横浜・綱島にある稽古場は黒沢美香さんと仲間たちの公演会場としても使われていますが、足を踏み入れると、おびただしい数の賞碑や賞状が飾られ圧倒されます。舞踊団としても下田が水上勉原作シリーズで芸術祭賞を獲得したり、各種合同公演にも数多く出演。フランス、ギリシャなどで公演を行ってきました。実績からして教育賞というのは頷けるところ。

地道にしっかりとした活動をしてきた方を顕彰した印象。独自性が際立ちます。日本の舞踊界の多様性、奥深さをを示して興味深いものがあります。

2009-05-18

[]ダンスマガジン編『上野水香 バレリーナ・スピリット』

東京バレエ団のプリンシパル上野水香を取り上げた『上野水香 バレリーナ・スピリット』が新書館より刊行されました。2003年に同じ版元から『MIZUKA―バレリーナ上野水香のすべて』と題された本が出ており、それに続く単行本出版となります。


上野水香―バレリーナ・スピリット

上野水香―バレリーナ・スピリット

『白鳥の湖』『ジゼル』そして『カルメン』『ボレロ』といった作品を踊る姿を撮ったカラーの舞台写真、牧阿佐美バレヱ団から東京バレエ団に移籍してからの5年間やプリマとして過ごす日々を語ったロング・インタビュー、リハーサル風景などが収められています。縦に長い版型なのは、舞台写真が映えるようにとの配慮からでしょう。

日本人離れしたプロポーションを活かしたダイナミックな踊りと輝きを増し続けるオーラによって多くの観客を魅了する上野ですが、華やかな舞台の裏には、日々の血のにじむような苦労があることも率直に語っています。その言葉に嫌味なところはなく、恵まれた資質を持ちながらも人一倍の努力を惜しまない姿は、清々しさすら感じさせます。

“自分は成長が遅い”と語るという上野。しかし、近年はベジャール作品に新たな息吹を吹き込み、ロマンティック・バレエの名作『ジゼル』のタイトルロールでは強靭なテクニックを活かした精緻かつ透明感溢れる踊りに加えドラマティックな資質も開花させるなど進境目覚しいものがあります。『白鳥の湖』のオデット/オディールなど踊りこんでいる役柄でも演じるたび新境地を拓いています。踊るたびに新たな表情をみせ、つねに進化して観るものを惹きつけ刺激を与えることこそ、上野を目の離せない存在足らしめている最大の要因でしょう。そんな上野の魅力の詰まった一冊といえます。

2009-05-17

[]ASA-CHANG&巡礼・JUNRAY DANCE CHANG『アオイロ劇場』

当節、コンテンポラリー・ダンス界ではコラボレーションが後を絶ちません。人気ダンサー/振付家の顔合せや音楽家、美術家との協同作業は引きも切らない。しかし、豪華な顔合せで観客を煽るだけのもの、個性的なアーティスト同士が集いながらもケミストリーを起こすことなく微温的な内容に終始するものも少なくないのが実際のところ。

そんななか興味深いコラボレーションを観ました。ロックやラテンにエスニック音楽等を融合させシンセサイザーやガラクタまでを駆使“ポップとアヴァンギャルドのハザマで独自の音楽を発信する”音楽ユニットASA-CHANG&巡礼と個性派ダンサー・音楽家のアンサンブルによるパフォーマンス、JUNRAY DANCE CHANG『アオイロ劇場』(5月15日〜17日/世田谷パブリックシアター)です。ASA-CHANG&巡礼からASA-CHANGとU-zhaanが音楽・演奏を手がけ、そこにダンサーたちが絡む展開。出演者が曲者揃いで、写真集も出すなど異色のスチャダラパーのANI、振付家として活躍、小太りながら異様にしなやかなダンスで魅せる井手茂太、金森穣らとも共演しスリリングなタップを踊る熊谷和徳、独特の音感と神秘性のある存在感が魅力の康本雅子(ASA-CHANG&巡礼『花』のPVにも出演)、ポールダンサーのメガネ、ダンサー/役者/歌手等幅広く活動する異色の存在の松之木天辺らと多彩です。空間美術にサウンド・スカルプチャーによるライブでも知られるアーティストの宇治野宗輝が加わって、ASA-CHANG&巡礼の志向するトライバルかつアブストラクトな空間を創りあげます。

名を聞くだけでお腹がいっぱいになりそうな豪華出演者ですが、ASA-CHANG&巡礼の演奏と唄、MCが中心に進むなかそれぞれちょろっと登場してASA-CHANG&巡礼の世界を壊すことなくなじみ、かつ各々の存在感も発揮していました。明確なストーリーがあるわけでもないし、単なるライブ+ダンスともちがった催し。客席もASA-CHANG&巡礼ファン、イデビアン・クルーや康本のファン、エッジなアートに貪欲な若年層など幅広い印象で、MCや客弄りの反応はややイマイチに思えましたが熱くもならず冷めることもなく、むしろまったりとJUNRAY DANCE CHANGという場の雰囲気に浸っていた感があります。音楽とダンスが絡んで生まれる、日常と非日常のあいだに流れる不思議な空気感こそASA-CHANG&巡礼の狙ったところでしょう。ロビーでは「アオイロ屋台村」が催され、オリジナルフードやグッズを販売。縁日の出店のようでしたが余興ではなく、劇場の入口を入った瞬間から観客を作品世界へと誘うものとして楽しめました。

実験的な企画を、アーティストの世界観を尊重して公演として打ち、多くの観客に届ける。舞踊界やコンテンポラリー・ダンスのマーケット側からの発想・アプローチではなかなか実現できないことでしょう。中途半端なコラボレーションの数々よりも花も実もある企画であり、ダンスの魅力を多様な観客層に訴求したという点でも貴重。さらには、写真展を開いたり、美術ショップで関連商品を販売するフェアも行ったようで、プロモーションも積極的かつ地に足の着いた展開であり示唆に富むものに思いました。

公式サイト

http://precog-jp.net/junray/

『花』PV

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『花』ライブバージョン

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2009-05-14

[]東京バレエ団・マカロワ版『ラ・バヤデール』制作日誌

来る9月に東京バレエ団が新制作、東京と兵庫・西宮で上演するナタリア・マカロワ版『ラ・バヤデール』の制作日誌blogがスタートしました。

http://www.nbs.or.jp/blog/0909_labayadere/

マカロワの振付助手オルガ・エヴレイノフが来日してリハーサルが始まったようです。

3週間の間に主要キャストのオーディションを行い、全シーンの振付を行う予定とのこと。そして8月には、マカロワが来日してのリハーサルが行われるようです。

マカロワ版『ラ・バヤデール』は英国ロイヤル・バレエやアメリカン・バレエ・シアター、ハンブルク・バレエなど世界の超一流団体が上演しています。新制作の場合、ファーストキャストには既に同版を踊ったダンサーを迎え入れるのが通例ですが、マカロワ本人の指導が予定されていることもあってか海外からのゲスト無しにバレエ団キャストのみで上演します。団の実力が認められての事でしょう。

リアルタイムでリハーサルから本番までを追うブログの展開が楽しみなところです。

2009-05-12

[]BATIK『ペンダントイヴ』がレイトショー公開

黒田育世率いるダンスカンパニーBATIKの『ペンダントイヴ』(2007年3月初演)がDVD化され、それに先立って東京・渋谷シアターイメージフォーラムにて5月16日〜22日まで限定レイトショー(21:00〜)が行われるようです。上映に先立ってトークイベントやパフォーマンス、メイキング上映等日替わりでイベントも(詳しくは公式HP)。

BATIKといえば昨年の秋、NHK「芸術劇場」で代表作『SHOKU』が放映され、そのフェティッシュで過激、女性の生理感覚を衒いなく曝け出したパフォーマンスによって大反響を巻き起こしました。常套句ですが、もっとも注目されるカンパニーのひとつ。

『ペンダントイヴ』は『SHOKU』や朝日舞台芸術賞を獲得した『花は流れて時は固まる』を経て発表された大作。過激で過酷、暴力的な作舞はそれまでの作品同様ですが、暗く内向的な印象を与えてきた旧作とは違い切実に「生」への希望を謳いあげた、新境地といえます(筆者は当時「オン・ステージ新聞」1703号・2007年にてレビュー)。

映像版は“7台のハイビジョンカメラで撮影し、ダンサーたちを多角的に捉えた映像版「ペンダントイヴ」。『だれも知らない』『歩いても歩いても』(是枝裕和監督)などで知られる名カメラマン山崎裕が撮影監督を務め、舞台収録としては異例の手持ちカメラも駆使”(HPより)して仕上げたとのこと。舞台でみるのとは違った感興が味わえるかもしれません。ダンスビデオの新たな可能性を示唆するものとしても注目されるのでは。

公式HP

http://www.pendanteve.com/

予告編

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2009-05-09

[]文春文庫「闘うバレエ」

東京バレエ団総監督でオペラ・バレエプロデューサー・佐々木忠次 著「闘うバレエ」が文春文庫に加わりました。2001年に新書館から刊行された単行本の文庫化です。

究極のバレエの祭典・世界バレエフェスティバルの裏側やギエム、ベジャールら一流ダンサー・振付家の素顔が綴られており興味深いものがあります。そして何よりも東京バレエ団の軌跡をたどる際欠かせない一冊。創立間もなく旧ソ連や欧州で公演を重ね、1980年代以降は『ザ・カブキ』『M』『ボレロ』をはじめとしたベジャール作品を金看板に掲げ世界を席巻することになるカンパニーの熱気がよく伝わってきます。

短期間で東京バレエ団を世界的なカンパニーに育てた佐々木の手腕は誰しもが認めるところ。今回の文庫化は佐々木の仕事がより広く知られる一助となるでしょう。


闘うバレエ―素顔のスターとカンパニーの物語 (文春文庫)

闘うバレエ―素顔のスターとカンパニーの物語 (文春文庫)

2009-05-08

[]ボリショイ劇場「椿姫」新国立劇場バレエ団主役決定

新国立劇場バレエ団がこの9月に2度目の海外公演としてロシア・ボリショイ劇場で『牧阿佐美の椿姫』を上演することは既報の通り。スヴェトラーナ・ザハーロワ&デニス・マトヴィエンコのほか新国立劇場バレエ団キャストも主演することが発表され、マルグリット:堀口純、アルマン:山本隆之に決まったようです。

http://www.nntt.jac.go.jp/release/updata/20000737.html

“胸の痛む純愛を19世紀パリの抒情的な雰囲気で描いた見ごたえのある大作で、堂々とグランプリを争った。美術、音楽ともに詩情ゆたかに演出された舞台だが、特に現代バレエならではの技法を駆使して緻密な心理劇を構築した振り付けが優れている。将来、日本バレエの貴重な財産となるだろう”“バレエに日本的なたんたんとした語り口を持ち込み、それを無理なくなじませたという意味で、画期的な作品だった。美術、音楽、照明などを含めた総合的な完成度が高く、古典らしい風格さえ感じられた”と選考委員に高く評価され第7回朝日舞台芸術賞を受賞しています。

新国立劇場バレエが発足して10年、満を持して芸術監督の牧が放つ大作であり、団の培ってきたクラシック・バレエの経験をベースに古典の様式性が活かされました。舞踏会におけるディヴェルティスマンなど大バレエ団が演じるに相応しい踊りの見せ場も豊富。ことさら芸術性や作家性に走るのではなく、音楽にベルリオーズを用いるといった新機軸も見せつつカンパニーが成長・発展できるプロダクションなのがポイントです。カンパニーの成熟度と未来へのヴィジョンを見据えた制作。初演時なぜ牧がそういった『椿姫』を作ったのかという考察が舞踊ジャーナリズムには希薄に思われました。

ロシア公演に際して大幅な改訂も施されるようでその成果が期待されます。2010年6月には国内再演も。堀口や酒井はならの競演も楽しみなところです。

2009-05-07

[]来年度(2010年)「横浜SoloXDuo<Compétition>+」募集開始

国際的なダンスイベントとして注目の増している横浜ダンスコレクションR。メインとなるコンペ「横浜SoloXDuo<Compétition>+」の募集が始まりました。2010年2月4日(木)〜2月7日(日)に横浜赤レンガ倉庫にて開催。応募締切は6月30日(火)。

“しっかりとしたダンスの基礎を持つ振付家、または、今後、振付家としての活動を志す人”というのは従来同様ながら従来の部門制を廃止したため応募規定が変更に。

1.公演実績があること。

2.初作品を発表してから10年未満。

3.自国または活動拠点場所以外において、海外招聘された経験のない振付家。

4.過去に「若手振付家のための在日フランス大使館賞」及び「未来へはばたく横浜賞(旧横浜市(芸術)文化振興財団賞)」を受賞した振付家は、応募できません。

力のあり、かつ無名な新人を発掘する方向性を強く打ち出すものと思われます。海外からの参加者が増えるとともに日本からの参加者に関してバレエ、現代舞踊、大学ダンス出身者が少なくなくないのも特徴。このコンペは今日の多様化した現代ダンスを大局的な見地から捉えつつ新たなダンスが生まれ育てていく場として期待されます。

コンペの応募規定・申込み先等詳細は↓

http://www.yokohama-dance-collection-r.jp/

ダンコレブログ

http://ameblo.jp/ydcr/

2009-05-04

[]ミュージカル「アンデルセン」に出演のバレエ・ダンサー

まもなくデンマーク・ロイヤル・バレエ団が9年ぶりに来日を果たします。それに先立ち4月半ば、同バレエ団のクリスティーナ・ミシャネック&セバスティアン・クロボーが劇団四季ミュージカル「アンデルセン」を観劇したニュースが専門紙誌で報じられました。

ジョン・ノイマイヤー版『ロミオとジュリエット』に主演予定のミシャネックとクロボーは公演に先駆けプロモーションのために来日し、デンマーク大使夫人とともに観劇。「アンデルセン」はデンマーク出身の童話作家アンデルセンの青春をテーマとしたミュージカルです。アンデルセンが恋するデンマーク・ロイヤル・バレエ団のプリマ・バレリーナがマダム・ドーロ。そして、マダム・ドーロの夫でバレエ団の芸術監督を務めるニールスは『ナポリ』の振付家オーギュスト・ブルノンヴィルがモデル。ロイヤル・バレエもストーリーに登場、バレエ場面が豊富なため本格的にバレエを踊れるダンサーが演じます。

終演後、劇団四季の出演者とミシャネックとクロボーが記念撮影をしていますが、バレエ・パートのメインを踊ったのは松島勇気と斉藤美絵子。松島は谷桃子バレエ団で活躍、『ラ・バヤデール』ブロンズアイドル等でみせたフットワークのいい踊りが魅力でしたが早くからミュージカルに仕事の場を移します。今年新春の「谷桃子先生の米寿およびバレエ団創立60周年を祝う会」では、余興パフォーマンスにかっての同僚たちと出演、振付も手がけ恩師の記念すべき会を盛り上げました。斉藤はNBAバレエ団、小林紀子バレエ・シアターで主役級を踊りましたが英国留学中に観たミュージカル「キャッツ」への憧れから四季のオーディションを受けたようです。バレエ/ミュージカルとフィールドは異なりますが、ふたりの新天地での一層の活躍を期待したいですね。

2009-05-01

[]Noismに研修生カンパニーNoism2設立

Noismから送付されてきた4月30日付プレスリリースによると、研修生カンパニーNoism2(ノイズム・ツー)を設立するそうです。同日、新潟市・篠田市長、りゅーとぴあ邊見支配人、金森芸術監督列席のもと新潟で記者会見が執り行われたようです。

Noism2では“定期公演やイベント出演、学校への出前公演などを通して、若い舞踊家の育成を目指して”いくとのこと。金森穣自らの手による企画書によると、Noismがカンパニーとして成熟、発展し続けていくためにはプロの劇場専属舞踊学校が必要との結論に至ったそうで、新潟市の協力を得て実現するようです。オランダのネザーランド・ダンス・シアター(NDT)におけるNDT2 やイスラエルのバットシェバ舞踊団におけるバットシェバ・アンサンブルと基本的に同様の位置づけとなるのでしょう。しかしNoism2ではメインカンパニーのクリエーションにもアンダー(代役)として参加するため、メンバーの欠員等が出た場合にはメインカンパニー公演出演も想定されるようです。

初年度のオーディションは来る7月25日に行われます(応募締締切は6月30日)。一時書類審査を経て二次オーディション(実技審査)によって8名程度を選出予定。活動期間は9月から8月のシーズン更新制、週6日クラス等があります。受講料や公演参加費は無料(生活費は別途必要)。クラス+リハーサルへの参加は必須とのことです。

なお、Noism2の立ち上げに伴って、現在のりゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館専属舞踊集団であるNoism09はNoism1と名称を固定し、今後もNoismのメインカンパニーとして活動していく旨も同時に発表されました。今回のNoism2設立は金森の活動理念をメンバーにより徹底、練度の高いプロの舞踊集団として活動していくという方向性を明確に打ち出したものといえます。Noismは2013年までの活動期間延長となることが昨年発表されましたが、さらなる未来を見据えた動きに注目していきたいところです。


Noism公式blogにオーディション詳細等のリンクあり

[]ベルギーとのバレエ国際交流

いきなりの話題になりますが、ベルギーのダンスといえば、アンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマイケル、ヤン・ファーブル、ヴィム・ヴァンデケイビュス、アラン・プラテル、ヤン・ロワースといったコンテンポラリーダンスの旗手たちが群雄割拠しているという印象が強くなりがち。とはいえ、ベルギーの芸術交流に関してバレエ方面の動向にも目をむけてみると日本とベルギーのバレエ界、意外と縁の深いものです。

かってはブリュッセルのモネ劇場を拠点にモーリス・ベジャールが20世紀バレエ団を率いて来日を繰返して熱狂を呼び、日本人や日系のダンサーも所属していました。1970年代の後半になると王立フランドル・バレエ団、ロイヤル・フランダース・バレエ団や王立ワロニーバレエ団で踊るダンサーも出てきます。ゆうきみほ、宮本東代子、岸辺光代といったバレリーナがそれにあたります。その後も現在に至るまで日本人ダンサーが数多く活動してきました。研修先に選んで訪れるダンサーも後を絶ちません。

この5月、日本とベルギーのバレエ界で交流が行われます。ひとつは松崎すみ子の主宰するバレエ団ピッコロが長年相互交流を重ねるジョシ・ニコラ・バレエスクールと合同公演を行います。5月の2、3日にベルギーで公演が行われるとのことです。国際親善として有意義なものとなるでしょう。さらに先に挙げた岸辺光代の子女キミホ・ハルバートがアントワープのバレエ学校に『VISION OF ENERGY』を提供します。ベルギー生まれの英国人であり日本でダンサー/振付家として活躍するキミホはかって同校で学びました。いわば里帰り。キミホの創作は「日本の」という形容抜きに観るものの心に響くものがあります。活動の場が広がっていく足掛かりになればと期待したいところです。

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