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ダンスの海へ 舞踊評論家・高橋森彦のblog このページをアンテナに追加 RSSフィード

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2009-06-30

[]バレエノアによる話題作『紙ひこうき』高崎公演

昨年4月、群馬県・高崎のバレエスタジオを母体とするNPO法人バレエノアがさいたま芸術劇場にて上演した作品が凄まじい反響を呼びました。ピナ・バウシュ&ヴッパタール舞踊団で踊っていたファビアン・プリオヴィユが振付けた『紙ひこうき』です。

詳しくは評論家諸氏による評論集を読んでいただければと思いますが、女子高校生たちの日々抱える内面の葛藤をリアルに描き出したもので、実際に同年代の女の子たちが出演しています。「学校なんて嫌い!」という叫び声にはじまり、90分間にわたって繰り広げられるコラージュの数々を通して彼女たちの内なる叫びが痛切に伝わってきます。ナイーブな心情を表すのにダンスという表現はなんと雄弁なものか。いまを呼吸するコンテンポラリーダンスとして刺激的、唯一無二の異色作といえます。

昨春の初演が話題を集め、8月には東京・世田谷パブリックシアターで急遽再演。11月には「ピナ・バウシュ国際ダンスフェスティバル」に招かれました。さいたま公演の反響を受けて東京公演は朝日舞台芸術賞(現在は休止)の審査対象となり、最終選考では舞踊賞を最後まで争いました。今年は来る7月にドイツの「ビーレフェルト・ダンスフェスティバル」に招聘されます。それに先立って今回、地元・高崎で公演が行われたという次第。超満員の会場は熱気にあふれ、終演後は盛大な拍手を浴びていました。

7月7日(火)にはNHK総合テレビ11:05〜11:54「こんにちはいっと6けん」において『紙ひこうき』やバレエノアの活動が紹介されるそうです。群馬の一バレエスタジオから生まれた作品が、あれよあれよという間に広く注目され、海外公演まで果たしたことはミラクルな出来事。短期で再演を重ねたため、助成金の応募等が追いつかず、経済的犠牲を払っての上演のようです。若い出演者たちの「いま」が鮮烈に刻みこまれた作品を少しでも多くの観客にみせたい、という主催者の熱意には頭の下がる思いです。

コンテンポラリーダンス『紙ひこうき』

振 付:Fabien Prioville

照 明:杉浦弘行

音 響:Hans Hansen

舞台監督:森荘太

出 演:福島あや/清水帆波/中村恵莉/藤井咲恵/坂口翠/白井静帆/庄司妃輝/鈴木奈々/樋口桃子/松本美帆/佐藤由紀乃

(2009年6月29日 高崎市文化会館)

『紙ひこうき LES AVIONS DE PAPIER』抜粋映像↓

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2009-06-29

[]高襟(ハイカラ)『高襟狂騒曲〜ハイカラプソディ〜』

幼少から藤井公・利子・高野尚美に師事した深見章代。モダンのコンクールにおいて数々の入賞歴を誇っています。ジャン=クロード・ガロッタから海外活動への勧誘を受けたそうですが、国内での活動を続けることを選び、伊藤キム+輝く未来のメンバーとして『激しい庭』(2001年)、『壁の花、旅に出る』(2005年)などに出演。踊り手としてキャリアを積んできました。2001年にはダンスカンパニー高襟(ハイカラ)を結成し作品発表するかたわらカワムラアツノリ主宰の初期型のメンバーとしても活動しています。

高襟が広く注目されたのは2006年「横浜ダンスコレクションR」のコンペティションに『Яoom』を出品した時でしょう。以後も“女であることを武器に”“日常の一部をシュールに切り刻み、ランダムに貼り付けながら作品を創り続ける”ことを身上に創作を続けてきました。2008年8月には、初の単独公演『ふぞろいな果実』を開催。ただ、それらの作品では、女性であることを強調するがあまりの生々しいシーンが雑然と連ねられている印象も拭えませんでした。が、2008年12月に行われた第2回公演『罪と果実』では、変化の兆しもみえてきます。新メンバーで、ロリータっぽい魅力と磁力あるオーラを放つ深谷莉沙の少女性を核に据え、色白で大人しそうにみえて一旦エンジンがかかると狂ったように針の振り切れたパフォーマンスを行う吉川絵里、そして濃いボスキャラの深見が絡む展開。女たちの罪の懺悔をしつこくしつこく濃密に表出していました。

それから半年経ての第3回公演が『高襟狂騒曲〜ハイカラプソディ〜』です。深見、吉川、深谷に加え、清楚な美人顔にほのみえる大人びた情感が魅力の津田由紀子、ずしりとした量感があり不敵な存在感漂う青山るり子という現在の高襟メンバー総出演。ビゼー「カルメン」やドヴォルザーク「新世界」といったクラシック曲を用いて女たちの狂態奇態が描かれます。互いに絡み合ったり叫びあったりして散らすエロスの火花。セックスアピール十分なスリット入りの衣装、血や肉欲を想起させる赤いヒール靴など小道具も効果的です。終盤、ダンサーたちと客席の間に垂らされる黒のテープ。観るものは檻のなかの女たちをみているようにみえて、向うからも見られている、いや観ている方こそエロスの奴隷なのかもしれない、という不思議な感覚に陥ることになります。

深見はジェンダーを意識して創作、ユーモアある作品を目指したとか。狙っている線はマリー・シュイナールやヤン・ファーブルなのかな、と。女たちの狂態を描きシュールな笑いやシニカルな笑いを生むには、骨太の批評性が一貫していないと思いつきに終わります。各シーンのつながりにやや脈絡無く、イメージの並列といった印象が残るのは否めません。とはいえ、70分間を少しもテンションを落とすことなく踊り暴れ、あの手この手で飽きさせないようにするサービス精神と熱意は買えるのではないでしょうか。

最後にひとつ触れておきたいことがあります。それは本公演のチラシに関して。表は顔を大きな薔薇の花で覆われた女が股から下が露な脚を上げポーズをとっています。裏には“毒を含んだシュール・エンターテイメント! 薔薇色にエロスを染め上げ、いま、高襟が動き出す― ”というコピー。絵もコピーもエロス一色に染め上げています。何をみせたいのかが明快です。昨今のダンスや演劇公演のチラシをみると、センスよさげなデザインであっても、観客にとって公演やカンパニーのイメージを掴むことの難しいものも少なくない。一応客商売なのだから、その点は留意すべきに思うのですが・・・。

高襟 第3回公演『高襟狂想曲〜ハイカラプソディ〜』

構成・演出:深見章代

出演:吉川英里、津田由紀子、青山るり子、深谷莉沙、深見章代

(2009年6月22日〜28日 Dance Studio UNO)

2009-06-27

[]ミクニヤナイハラプロジェクトvol.4『五人姉妹』

ダンス・映像・音楽・衣装等のディレクターが集うニブロールを主宰する振付家/ダンサーの矢内原美邦。同時に彼女は、映像の高橋啓祐とのユニットoff nibrollやミクニヤナイハラプロジェクトといったユニットを結成し個人での表現活動にも意欲的です。矢内原が同時代のアーティストのなかで抜きん出ているのは、飽くなき表現への欲求、表現せずにはいられない語るべき何かを持ってひた走っている点ではないでしょうか。

個人プロジェクトであるミクニヤナイハラプロジェクトでは、おもに演劇作品を上演してきました(『3年2組』と『青ノ鳥』、後者の上演台本にて岸田國士戯曲賞最終選考にノミネート)。でも、それらは常識的な意味での演劇とは趣を異にします。演者が何を喋っているのかわからぬ位に早口で台詞をまくし立てる。台詞を話す際ダンスのような動きがあってハイテンションに動く。展開に脈絡なく、物語を追おうとすれば、混乱してしまう。言葉と身体がぶつかり転がっていく、めくるめくスピード感が特徴です。そこに映像や音楽も絡み情報量は膨大なものに。矢内原の“演劇”作品を観るに際し、意味や物語に足を引っ張られると、置いてけぼりをくらい、混沌の海を漂流することになります。

プロジェクトの新作『五人姉妹』も演劇作品。矢内原はニューヨークでチェーホフの『三人姉妹』を観劇、感銘を受けたことから戯曲執筆を思い立ったとか(結果的にチェーホフの影響はほとんどみられませんが…)。“五人姉妹の持つ習慣性”が主題らしく、母を亡くし執事ひとりを雇って暮らす姉妹たちが描かれます。登場人物は、過眠症や引きこもりといった何かしらの障がいや欠落を持っている。彼らはほとんど間断なく話し、動き回ります。早口で滑舌いいとはいえません。しかし、言葉に思いをこめて話し動くことによって感情の振幅が痛いほどに伝わってきます。なるほどやや過剰な芝居かもしれません。でも、観終わったあと、逆にこう思います。「ナチュラルな演技って何?」と。

ダンス畑の矢内原の創った“演劇”のため、戯曲や役者の発声といった面に関して色眼鏡でみる向きもあるかもしれませんが他の要素も見てみましょう。まずは振付。役者が言葉を発する際に生まれる感情の揺らぎを自在に動きとして定着させます。日常的な動きも取り入れつつテンション高く激しいという、矢内原一流のもの。役者の素の身体、上手く踊ろうとする嘘のある身体ではないからこそ可能なのでしょう。スタッフも今回、映像の高橋は別にして、音楽は中原昌也、衣装はスズキタカユキという、普段のニブロールとは違う新たなスタッフを起用しました。中原は1曲だけの提供でしたが、印象に残る使われ方。スズキの衣装は、白黒基調にじょじょに変化をつけるもので、演出と密接に関わっていました。「ニブロールから離れ、矢内原のやりたいようにやる」というプロジェクトの主旨が活かされ、実際に効果を生んでいたように思います。

矢内原の“演劇”作品は、通常の意味での物語性やドラマツルギーからすれば破綻はあるかもしれません。でも、それを補って余りある魅力もある。ただ、アフタートークの際、劇作家の宮沢章夫も指摘したように、矢内原のプランを舞台に余すことなく定着させるには、身体訓練や発声法等のメソッドを確立していく必要があるかもしれません。そうすれば、伝えたいことと、観るものの想像力に働きかけたいことが明瞭になり、より奥行きと訴求力ある矢内原ワールドがみられるのでは。新展開が楽しみです。

ミクニヤナイハラプロジェクト vol.4

『五人姉妹』本公演

作・演出・振付:矢内原美邦

音楽:中原昌也

衣装:スズキタカユキ

出演:稲毛礼子/笠木 泉/高山玲子/三坂知絵子/光瀬指絵/山本圭

(6月25日〜28日 吉祥寺シアター 25日所見)

2009-06-25

[]「ダンストリエンナーレ トーキョー 2009」記者発表

今年9月末から10月上旬にかけて3週間にわたり東京・青山を中心に世界の先鋭的振付家・ダンサーが集う「ダンストリエンナーレ トーキョー 2009」が行われます。2002年にビエンナーレとして始められたダンスフェスティバルも4回目。今回はイスラエル、オランダ、カナダ・ケベック、韓国、スイス、ドイツ、トルコ、日本、フィンランド、フランス、ベルギーの11カ国から18のアーティスト/カンパニーが参加します。

今回はこれまで以上に多彩なプログラムを用意、青山の街をダンス一色で染めあげようという意欲が感じられます。青山劇場、青山円形劇場、スパイラルホールなどでのダンス公演、ダンス・ワークショップのほか、青山通り沿いスパイラルビル1階での無料ダンスショウケース、アート系映画館のシアターイメージフォーラムにおけるダンスフィルム上映、青山ブックセンター本店で行われるトークイベントなど盛りだくさん。

この度行われた記者発表では、まず映像も使用しての公演ラインナップ紹介が行われ、参加予定アーティストの森下真樹、フランク・ミケレッティ、黒田育世、中村恩恵がフェスティバル参加への抱負を語りました。公演に関する具体的な紹介では、本フェスティバルのアドバイザリー・コミッティを務め、海外のダンスフェスティバル取材も多い作家・舞踊評論家の乗越たかおのコメントが印象的でした。現在、東欧・北欧がダンスの鉱脈であり、今回参加するフィンランドのエーヴァ・ムイル、イスラエルのヤスミン・ゴデール等ダンスの盛んな国々でも新世代のスターが登場して活況を呈しているとのこと。来日予定のスイスやトルコといった国々からのアーティストにも期待できるそうです。フェスティバルディレクターの高谷静治は「TRIAL×4」という中堅・若手の実力派によるプログラムについてコメント。出演者のうち3人が日本人、1人が韓国人ですが、日本人勢に関しては青山劇場・青山円形劇場から育ち、海外でのキャリアも重ねてきた中堅を育てていきたいという願いがあるようです。新人の発掘も大切ですが、アーティストを簡単に消費してはいけません。実力者のキャリアを伸ばす場を意図しているようです。

ダンスフィルム、トーク、ショウケース、ワークショップに関しても各担当者の紹介を聞く限り、充実した内容に思われました。規模と内容の充実度からすれば、ピナ・バウシュやローザス、ダニエル・ラリューらを招聘した伝説的な「ヨコハマ・アート・ウェーブ」(1989年)、アンジュラン・プレルジョカージュ、マギー・マラン、フィリップ・ドゥクフレらを招き質量ともに成果十分だった「フランス・ダンス・03」(2003年)に続く一大ダンスフェスティバルとしてわが国のダンス史に名を残すことになるかもしれません。そしてなによりも「ダンストリエンナーレ トーキョー 2009」は新世代の先鋭的なアーティストを招聘、世界の同時代のダンスシーンと共振するフェスティバルとして画期的なものとなる可能性が高い。また、ダンスの魅力を多角的に伝えるイベントとしても期待したいところです。

(2009年6月24日 こどもの城 本館 11階会議室)

平成21年度文化庁国際芸術交流支援事業

「ダンストリエンナーレ トーキョー 2009 -限りなき瞬間- infinite moments」

会期:2009年9月18日(金)〜10月8日(木)

会場:青山劇場、青山円形劇場、スパイラルホール、シアターイメージフォーラム、青山ブックセンター本店

主催:財団法人 児童育成協会(こどもの城)/株式会社ワコールアートセンター

共催:株式会社ダゲレオ出版/青山ブックセンター株式会社

助成:EU・ジャパンフェスト日本委員会

2009-06-23

[]佐多達枝・合唱舞踊劇『ヨハネ受難曲』に注目

本日(6月23日)付けの「讀賣新聞」東京本社版夕刊の文化欄「クラシック 舞踊」に「創作バレエ 50年の集成」と題して、7月4、5日、東京・錦糸町のすみだトリフォニーホールにて上演される佐多達枝演出・振付による合唱舞踊劇『ヨハネ受難曲』の紹介記事が大きく掲載されています(取材・文:祐成秀樹氏)。

佐多は現在77歳。半世紀以上前から創作バレエの第一人者として精力的に活動してきました。ことに1980年代以降は傑作を連打。『女殺し油地獄』『或る女・葉子』『踊れ、喜べ、汝幸いなる魂よ』『父への手紙』『パ・ド・カトル』『ソネット』『ナギサカラ』『庭園』『わたしが一番きれいだった時』……。旭日小綬章、紫綬褒章、芸術選奨文部大臣賞のほか各舞踊賞を総なめにしており、栄誉を極めたかに思えます。しかし、発想鋭く動きの密度の濃い創作に対して、評価されたにしても国内的なものに留まってきた感。幸いにして近年、佐多の仕事をあらためて検証し、世界の同時代の舞踊シーンの先端で語り得る傑出した存在と評価する声が出てきたのは好ましく思います。

佐多個人のリサイタルは昨年で打ち止めとのことですが、今年は芸術監督を務めるO.F.Cにおいて敬愛するというバッハの大作に挑みます。舞踊と合唱と管弦楽を融合させた合唱舞踊劇では、オルフ『カルミナ・ブラーナ』をはじめとした秀作を生んできました。合唱隊にも踊らせます。「讀賣新聞」の記事のなかで佐多は“最初に踊りの基礎がない人に振りを付けるのは嫌でした。でも本番では、生の音楽に合せてひとつになれた”と語っています。今回は指揮者/カウンターテナーの青木洋也らバッハ演奏の専門家やオーケストラ、歌手、合唱隊、ダンサーら総勢140名による上演とのこと。

バッハ『ヨハネ受難曲』は、ヨハネ福音書をもとにイエスの受難を描く大作。自由詩のアリアとレチタティーヴォやコラールで構成されています。仄聞するところ今回新バッハ全集における40曲の版を使用するようで、第1部14曲、第2部26曲となり演奏時間約1時間50分(第1部35分、第2部75分)。上演時間は佐多作品中おそらく最長となる模様で、40曲中ほとんどのパートに踊りが入るようです。O.F.Cでの佐多の仕事はまず音楽、合唱を尊重したものとなります。振付的にも個人リサイタルで発表してきたものに比べると比較的オーソドックスなバレエ寄りかもしれません。しかし、歌詞と音楽を緻密に分析し視覚化、躍動感あふれる唯一無二の舞台を創りあげてきました。

『ヨハネ受難曲』は台本がドラマティックであり、佐多作品に多く見られるコロス的な群集処理など見せ場が豊富。ダンサー陣も堀内充、島田衣子、関口淳子、穴吹淳、石井竜一、後藤和雄、武石光嗣ら日本の舞踊界を代表する俊英メンバーと佐多が手塩にかけて育てたスタジオの気鋭が揃っています。合唱隊もO.F.C設立から10年を経て佐多の要求する動きにも相応に耐えられるようになってきているでしょう。“人間の愚かでひた向きな姿を通して「願い」のようなものを伝えたい”と抱負を語る佐多。巨匠でありながらも飽くなき情熱を絶やさないのは素敵な限り。入魂の一作となりそうです。

2009-06-21

[]ボディ・アーツ・ラボラトリー設立とWWFes

アーティスト主導型のオーガニゼーション、ボディ・アーツ・ラボラトリー(主宰:山崎広太)による第1回ウェン・ウェア・フェスティバル(WWFes)が行われます。アーティストが考えたプログラムを基に行われるダンス・フェスティバルを標榜しています。“振付家・アーティストが設定したテーマを受講者とともに探求するワークショップ・シリーズ”や“ダンス・音楽・美術が交差するパフォーマンスやラウンドテーブル、創作プロセスを重視した実験性の高いクリエイション・プログラム”などが行われるようです。

ボディ・アーツ・ラボラトリーおよびWWFesは、ダンスにおけるヒエラルキーをなくすことを目指しています。アーティスト同士の連帯と切磋琢磨による発展はもちろんのこと、アーティスト主導によってダンス界を変えていこうという狙いが見て取れます。

アーティスト主導の企画といえば、今年初春に横浜で行われた「We dance」というイベントもありました。アーティストが立ち上がり、声を上げ、はっきり意思表示をしていこうという流れが出てきたのは、一般的に考えれば好ましいことでしょう。アーティストたちの活動が活発化し、日本のダンス界の問題点が浮き彫りになり、ダンス、アートを取り巻く社会との隔たりが解消されるに越したことはありません。

また、アーティストが積極的に声を上げることによりプロデューサーや評論家といった関係者の姿勢が厳しく問われます。社会とダンス、アートを結びつける立場にあるという責任を強く持って行動する。一層質の高い仕事が求められます。自戒をこめて…。

2009-06-19

[]村上春樹「1Q84」とヤナーチェク「シンフォニエッタ」

村上春樹最新書下ろし長編『1Q84』が文芸書としては空前のベストセラーになっているようですね。早速一読しましたが、近年村上が志向する「綜合小説」の試みを推し進めたと思われ、多様な価値観が入り乱れ織りなすスケールの大きな展開が特徴。春樹ワールドの入門編として適当かどうかは判断できませんが『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』『海辺のカフカ』等が好きな春樹ファンは楽しめるのでは。

ところで『1Q84』冒頭に登場、作中重要なキーワードになるもののひとつにチェコの作曲家レオシュ・ヤナーチェク(1854〜1928年)作曲「シンフォニエッタ」があります。主人公のひとりの若い女性《青豆》がタクシーのなかで耳にするのですが、ジョージ・セル指揮 クリーヴランド管弦楽団演奏という設定。同盤が小説同様バカ売れしているとか。

ヤナーチェクの「シンフォニエッタ」といえばクラシック音楽ファンには言わずと知れた名作でしょう。ヤナーチェクが最晩年の1926年、ソーコル体育協会体育祭のためのファンファーレ作曲の依頼を受け、それを元に大規模な管弦楽作品として完成させました。第1楽章冒頭の金管によるファンファーレは一度聞いたら耳から離れません。

また、この曲はバレエファンにもよく知られています。現代最高の振付家のひとりイリ・キリアンが1978年に同曲に振付ており、キリアンにとって出世作となっているからです。長らく芸術監督を務めたネザーランド・ダンス・シアターのほかにアメリカン・バレエ・シアター(ABT)等もレパートリーにしています。LD時代から映像ソフト化されており、最近ではABT来日公演でも上演されているため日本のバレエファンにもなじみ深い作品でしょう。生命賛歌をテーマにダンサーたちがめくるめくダンスを踊り継いでいきます。キリアンの初期作のため、クラシック・バレエの語彙を大きく逸脱していませんが、パ(ステップ)のつなげ方と音楽性に才気の光る、いまみても新鮮な佳作です。

話しをヤナーチェクに戻しますが、その魅力としてチェコ・モラヴィア地方の民俗音楽やチェコ語のリズム等を活かした土着色が指摘されます。ローカルなものがグローバルに受け入れられる、いや、ローカルに根ざしているからこそ普遍的に受け入れられるケースの見本といえるでしょう(世界的に大きく評価されたのは死後になりますが)。いっぽう、「シンフォニエッタ」を取り上げた村上春樹の小説は、ローカル色は極めて薄いといわれます。都市生活者の虚無的な心象を描いたものが多く日本の風土をあまり感じさせないため、“土も血も匂わない”“人工的”と村上作品を批判する日本の文芸評論家も少なくありません。しかし、『海辺のカフカ』や『ノルウェイの森』『ねじまき鳥クロニクル』『アフターダーク』といった著作が欧米だけでなく中国やロシアでもベストセラーになっているのは周知の事実。ヤナーチェクと村上春樹。生きた時代もジャンルも違いますが、芸術作品の国際的受容のあり方を考えるうえで両者は興味深く思います。

2009-06-18

[]金魚(鈴木ユキオ)『言葉の縁(へり)』上演に際して

ダンスカンパニー金魚(鈴木ユキオ)の新作『言葉の縁(へり)』が金沢・21世紀美術館(6月27〜28日)、東京・シアタートラム(7月25〜27日)にて上演されます。《TOYOTA CHOREOGRAPHY AWARD 2008》受賞者公演として行われるものです。

鈴木は土方巽ゆかりのアスベスト館にて舞踏を学んだのちコンテンポラリー・ダンス界で次第に注目を集めてきました。2006年の『犬の静脈に嫉妬せず』以降、激しく凶暴なダンスのなかに、いまを生きる若者の切なる感情の揺らぎをぶつけた手法を確立。“ドキュメンタリーダンス”と呼ばれています。《TOYOTA CHOREOGRAPHY AWARD 2008》で最高賞「次代を担う振付家賞」を得た『沈黙とはかりあえるほどに』では、観るものも安穏として客席に座っては居られないような抜き差しならない切実さを秘めたパフォーマンスを行いました。同時にそこに揺るぎない強度と完成度を誇っていました。

「日本のコンテンポラリー・ダンスは技量不足の素人がやっているもの」という偏見は現代舞踊やバレエの関係者のなかにいまだ根強いものがあります(当っている部分もないではないので一概に否定できませんが・・・)。鈴木の場合、表現の核に強さと揺るぎなさがあり、独自のメソッドによる修練の集積を感じさせます。素人芸や児戯的身体と一線を画しているのは認められていいでしょう。そこにはダンスにおけるテクニックとは何か?という問題をはらんでいるのですが、話が反れるためここでは触れません。

さて『言葉の縁』では“言葉にならない声を、あるいは、あふれつづける言葉の跡を描き出す、エッジのきいた未知の世界―ー”が主題のようです。“ダンスしてしまってはならない。そして同時に、はみだすほどにダンスして、ダンスを超えなければならない”というのが鈴木の命題とか。鈴木にとって上記のように完成度や強度の高さを褒められるのは本意ではないはず。破綻をも怖れずより身体と空間と真摯に向き合う姿勢は頼もしい。少し注目されたりカネを手にすれば舞い上がる滅亡の民とは立場を異にします。

今回、鈴木作品ではおそらく過去最大の10人のダンサーが出演します。鈴木と常連の安次嶺菜緒、やのえつよ、川合啓史と前作にも出ていたメンバー以外は、おそらく鈴木の行っているワークショップ等に出ていた人に声をかけたかオーディションで選んだのでしょう。現代舞踊のコンクールの上位入選・入賞者もいます。鈴木のメソッドによって修練してきた人、まだダンサーとして踊り始めて日の浅い人、さらにモダンで鍛えられてきた人が加わってどのような化学変化を起こすのか。彼らが身体と空間と向き合い格闘して生み出すであろう“ダンスを超えたダンス”に期待したいところです。

ダンス・舞踊専門サイト(VIDEO.Co)HOT STAGE【鈴木ユキオ インタビューも】

http://www.kk-video.co.jp/schedule/2009/07-24kingyo/index.html

2009-06-17

[]東京バレエ団『ラ・バヤデール』公演情報ページ

東京バレエ団が新制作するマカロワ版『ラ・バヤデール』公演情報ページがUP。

5月に行われたリハーサル、オーディションの模様や衣装合わせ等をリアルタイムで伝えるblog「ラ・バヤデール制作日記」がオープンしていましたが、6月公演『ジゼル』終了にあわせ秋公演に向けて公式ページがUPされたということでしょう。

私事で恐縮ですが、そのなかの「CAST」のページにおいて上野水香×高岸直樹×奈良春夏吉岡美佳×木村和夫×田中結子斎藤友佳理×後藤晴雄×高木綾という3組のキャスト紹介記事を書かせていただきました。

http://www.nbs.or.jp/stages/0909_labayadere/cast.html

2009-06-15

[]ソロ公演『---MESs---メス---』と東野祥子&BABY-Q

破壊的なまでに肉体を駆使したダンスと緻密な構成力を武器にインパクトある舞台を創造するのが東野祥子(ようこ)です。ダンスカンパニーBABY-Qを主宰しダンサー/振付家として活躍。元々関西で活動していましたがトヨタコレオグラフィーアワード2004、横浜ソロ×デュオ〈competition〉での受賞を経て拠点を東京に移しました。現在でも関西で作品発表する機会が少なくなく、東西をまたにかけての活動は実に精力的です。そのうえ、高円寺でスタジオを運営しつつワークショップ等も各地で行っており、コンテンポラリー・ダンス界においてプロフェッショナルなアーティストとして活動する稀有な存在。2006年には筆者も寄稿する音楽・舞踊・演劇・映像の綜合専門紙「オン・ステージ新聞」による評論家/ジャーナリスト選出・新人振付家ベスト1に選ばれています。

グループワークのほかに東野がつねに挑んでいるのがソロ活動。劇場公演を行うほか、クラブやライブ空間にも別名:煙巻ヨーコとして出没、ミュージシャンたちとのセッションを行ってきました。昨年秋には東京・シアタートラムにて新作ソロを4日間にわたって上演予定でしたが公演期間中に怪我を負い公演中止になるという残念なことに・・・。

そんななか半年以上を経て東野の待望のソロ公演が行われました。題して『---MESs---メス---』(主催・会場:リトルモア地下 6月12日〜14日)。冒頭、銀色のフルフェイスヘルメットをかぶった東野、そこにレーザービームのような光が無数に当ります。それを鏡で反射させると光は客席にはね返ります。カッコよく鮮烈な幕開け。所見した回は機材のトラブルのため途中から照明効果が狙い通りに運ばなかったようですが、その後も東野の無機的なようでいて凶暴さを秘めたダンスや音楽を手がけたカジワラトシオとの絡みなど見応えがありました。マイクを手に自身やダンスについて語りだす東野をカジワラは透明な粘着テープで巻いていきます。テープを広げる際に発せられる耳をつんざくような音がなんとも強烈。40人も入ればいっぱいの小スペースでの上演でしたが、それ故の濃密な時間を過ごすことができました。

BABY-Qはダンスシーンのみならずオルタナティブなカルチャーシーンを意識した活動を展開しており、美術や音楽、映像との密なコラボレーションが特徴的です。とはいえ、核にあるのは身体表現、特に東野の無尽蔵ともいえる豊富な舞踊語彙を繰り出すダンスなのは強調しておいていいでしょう。今夏にはBABY-Qの新作『[リゾーム的] なM』が発表されます。東京、伊丹公演のほかドイツ公演も既に決定しているとのこと。タイトルにあるリゾーム的とは、二つの対蹠的な事柄を同時に意味します。Mという文字にも、モーリス・ベジャールが東京バレエ団に振付けた『M』ではありませんが、多様で重層的な意味がこめられているようです。多彩なキーワードやイメージをダンスを中心にしつつオルタナティブな表現として昇華し観客にぶつけてくるでしょう。出世作『ALARM!』や代表作『GEEEEEK』を越える新たな東野ワールドの誕生に期待したいところです。

2009-06-12

[]野和田恵里花さんの死からはや2年・・・

先日知人の舞踊関係者の誘いで『洞察ノ放つ衝動〜リバイバル編〜』という公演を観ることができました(6月3日 神楽坂die pratze)。『洞察ノ放つ衝動』というのは“舞台照明を使わずダンスそのものをみせる企画”として2003年から2005年までに7回行われたものです。今回はその最後の回のリバイバルということでした。参加者は川野眞子、白井さち子、JOU、若松智子(音係)、伊藤虹、松本大樹、奥田純子という面々。しかし、ひとりだけ当時のメンバーが欠けています。野和田恵里花さんです。

2年前の5月11日、野和田さんは44歳の若さで逝去されました。ダンスカンパニー、マドモアゼル・シネマの主軸メンバーとして、そしてモダン、コンテンポラリーに留まらないさまざまの舞台に出演。多くのダンサーに愛され、たくさんの観客に強い印象を残した名ダンサーでした。JCDN「踊りに行くぜ!!」には初回から参加、コンドルズの近藤良平とのデュオ『小さな恋のメロディ』を引っさげ日本各地においてコンテンポラリー・ダンスの魅力を広く伝えた功績は偉業といっていいでしょう。自主公演『なないろの人生』等も忘れられません。葬儀には多くの関係者やファンが集ったと伝え聞いています。

私的には1度だけお話ししました。2001年さるモダン系の作家の公演の当日券を求めようと並んでいた際前後になったときです(当時は批評とか書いていおらず、ただダンスが好きで色々観ていただけ)。野和田さんに「(出演者の)誰かのお知り合いですか?」と聞かれたので、そうではなくダンスが好きで観たいから足を運んだというと、驚かれ喜んでくれました。野和田さん曰く「関係者で席が埋まるだけでなく一般のお客さんにダンスのおもしろさを知ってもらいたい」。一観客としてお話ししただけですが、その際の会話はいまの私にとっても貴重なものです。ダンス芸術の魅力が少しでも多くの人に伝わっていってほしい、と思い観劇し、頼まれれば書く原動力のひとつです。

上記の『洞察ノ放つ衝動〜リバイバル編〜』では、出演者は各々野和田さんの不在を受け入れながらも自身の舞踊の世界を突き詰めている真摯さが伝わってきました。フットワークよく活動し、舞踊界の狭いなかの、しかし、いまだ強固として存在するジャンルの壁をいとも軽々と越えて活躍した野和田さん。その死を改めて悼むとともに、遺された関係者や観客は今一度大きな視野からダンスについて考え、行動していきたいものです。そうすれば、天国の野和田さんも喜んでくれるのではないでしょうか。

2009-06-10

[]「あいちトリエンナーレ2010」で上演される演劇・ダンス

3年ごとに開催される国際芸術祭「あいちトリエンナーレ」。芸術監督・建畠哲(国立国際美術館館長)のもと、2010年の初回開催に向けて準備が進んでいるようです。

会期は2010年8月21日〜10月31日までの72日間。愛知芸術文化センター、名古屋市美術館はじめ名古屋市内各所で行われます。テーマは“都市の祝祭 Arts and Cities”。現代美術作品の展示や舞台芸術の公演によって最先端のアートシーンを紹介、わくわくするような高揚感ある雰囲気を演出するというのがコンセプトのようです。

舞台芸術部門における公演予定団体としてはチェルフィッチュニブロール、ヤン・ファーブル、ローザスが予定されています(順次追加予定)。

チェルフィッチュは、独特の台詞回しとそれに伴う一風変わった、それでいて妙にリアルに感じられる身体表現によって注目を集める団体。主宰は劇作家・演出家・小説家として活動する岡田利規です。チェルフィッチュと美術いえば、2006年京都芸術センターにて行われた「Freeing the Mind、抽象再訪」と題された展覧会において美術家・小山田徹による展示の上で『体に関係ない時間』を上演したのが印象に残ります。

ニブロールは振付家の矢内原美邦を中心とした音楽・映像・衣装等のアーティストたちが集うディレクター・システムを採用しているカンパニー。身体表現軸に複合的な表現によって「いま」を鋭く問いかけるエッジーな作風が刺激的です。愛知には今年3月上演された『no direction。』に続く登場となるようです。

ヤン・ファーブル、ローザスはベルギー・コンテンポラリー・ダンスのリーダー的存在ですが、ファーブルは現代美術家としても著名で作品集も出ています。ローザスもダンスの舞台だけでなくダンスビデオの世界で革命をもたらした存在として知られ、大きなアートショップに足を運べば彼らのビデオダンスが置かれています。

コンテンポラリー・ダンスといえば難解でとっつきにくいという偏見はまだまだあるかと思います。観客層をひろげるため、また、表現の多様化を望むうえでも隣接畑の美術や演劇シーンとの交流はいま以上に行われていい。とはいえ、仮に美術とのコラボレーションを発表するのであれば、異分野共同制作という企画性だけで評価される時期はとうに過ぎ去り、質が厳しく問われる時代。「あいちトリエンナーレ」における舞台芸術上演についてもその点をしっかり見据えた企画・上演が望まれます。

「あいちトリエンナーレ2010」公式HP↓

http://www.aichitriennale.jp/

2009-06-09

[]法村友井バレエ団『騎兵隊の休息』『ラ・シルフィード』第2幕『グランドホテル』

ロシア・バレエの大作・珠玉の名品の数々をレパートリーに持つのが大阪を拠点に活動する名門、法村友井バレエ団。現団長の法村牧緒は日本人としてはじめてレニングラード・バレエ学校に学び、ロシア・バレエの精髄を伝える第一人者です。ワガノワ・メソッドにより訓練された団員の層の厚さには定評あるところ。本格的な舞台装置・衣装を用い、堤俊作指揮のオーケストラ演奏を配した定期公演の舞台は豪華にして品位があります。さながらバレエの宝石箱。今回は1幕ものを並べたトリプル・ビルを行いました。この形式は『シェへラザード』他を上演した3年前の「ロシア・バレエの夕べ」以来。今度は『騎兵隊の休息』、『ラ・シルフィード』第2幕、『グランドホテル』の上演です。

『騎兵隊の休息』はマリウス・プティパには珍しい1幕もの。牧歌的な農村で若い男女や村人たちと村を訪れた兵隊たちがコミカルなやり取りを繰り広げる佳品です。本場ミハイロフスキー劇場から指導者を招聘して振り移しを行いレパートリーとしているそうです。主役を踊った法村珠里、山森トヨミ、奥村康祐は溌溂とした演技を披露。ことにマリア役、法村の若々しくいきいきとした表情が印象に残ります。高々と差し上げられるアラベスクが恋する村娘の高揚する心情を伝えて秀逸でした。そして、兵隊役を演じた関西男性ダンサー陣のコミカルでアクの強い、しかし「やり過ぎ」ない演技が絶妙。ややもすれば他愛ないドタバタ劇に終わるところを巧みに盛り上げ楽しませてくれました。

『ラ・シルフィード』(第2幕)はシルフと若者の悲恋を描くロマンティック・バレエの名作です。シルフィードに高田万里、ジェームズに小嶋直也(牧阿佐美バレヱ団/新国立劇場バレエ団)、マジェに井口雅之。高田と小嶋は昨秋の『白鳥の湖』全幕公演でも共演、高田はその演技によって文化庁芸術祭新人賞を獲得しています。恵まれたプロポーション、楚々とした雰囲気が得難い高田にぴったりの役柄で好演でした。そして東京から客演した小嶋の、巧緻なテクニックが生む浮遊感ある踊りとメランコリックな風情が中世ロマン主義の世界へと観るものを誘います。小嶋の跳躍は目を疑うほどに高い。そして、ブルノンヴィル振付特有の細かな足技も余裕をもってこなしていきます。脚先の美しさといったら!感涙もののすばらしさ。怪我を抱え、また後進の指導に忙しい日々を送っている小嶋ですが、彼の踊りをもっともっともっと観たいと心の底から思わせられます。シルフたちの群舞も整い、ロマンティック・チュチュが実によく似合っていました。

『グランドホテル』はベルギーのジャン・ブラバンの振付。副団長の宮本東代子がかつてべルギーのフランドル・バレエで踊っていた際に出会った極上のエンターテインメント・バレエです。グレタ・ガルボの主演した同題映画を基にしたものと思われ、1920年代のベルリンのホテルに集う人々を描きます。バレンチノ、メイ・ウェストといった往年の大スターから紳士たち、貴婦人、新婚夫婦、ウェイトレス、終いには泥棒にいたるまでの人物たちがチャップリン映画の音楽(生コーラス付き)にのせて息つく間もなく踊っていきます。2005年にも観ていますが、踊りの楽しさを心ゆくまで満喫でき、多くのソリスト級ダンサーたちの個性に触れられる魅力的な作品だとあらためて感じました。

バラエティに富んだ一幕ものを集めた一夕。法村友井バレエ団の誇るレパートリーの豊富さを示すとともにバレエ芸術の幅・奥行きを楽しめる充実したプログラムでした。

(2009年6月6日 尼崎アルカイックホール)

2009-06-06

[]Noism『ZONE〜陽炎 稲妻 水の月』新潟公演

金森穣率いるNoism09の新作は新国立劇場との共同製作『ZONE〜陽炎 稲妻 水の月』(演出・振付:金森穣、空間:田根剛、照明:伊藤雅一、衣装:三原康裕)。公立施設専属ダンスカンパニーとして舞踊芸術の専門性にこだわり“専門家がその専門的活動の中で養う精神的領域”がモチーフのようです。そこには昨今のコンテンポラリー・ダンス ブームへの金森の疑念があり、プログラムには「専門性の復権」と題し“玄人と素人の線引きが存在しない日本の舞踊界において、コンテンポラリーダンスという曖昧な総称が外来した事は春の訪れであります”に始まる刺激的な文言が記されています。

■舞台内容に触れています。未見の方は以下読まれる際、ご注意ください■

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2009-06-05

[]JCDNダンスDVDシリーズ 3→→[DANCE×MUSIC!vol.3]が発売

JCDNダンスDVDシリーズ 3→→[DANCE×MUSIC!vol.3]が発売されました。

鈴木ユキオ[金魚]×辺見康孝『Love vibration』、yummydance×トウヤマタケオ楽団『手のひらからマウンテン』についてそれそれビデオダンス作品と舞台収録作品を2バージョン、2枚組に収めています。DISC1【VIDEO DANCE Version】は両作を飯名尚人が監督、DISC2【THEATRE Version】は舞台作品公演を収録。

両作品ともオリジナル音楽とのコラボレーションによって生まれたポップで洗練された秀作。気軽にコンテンポラリー・ダンスの魅力を味わうのにうってつけといえるかも。

詳細↓

http://www.jcdn.org/dvd-3.htm

予告編↓

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2009-06-04

[]「ひかり、肖像」パリ&ブダペスト公演と森優貴

昨年5月、東京・渋谷のセルリアンタワー能楽堂にて初演された、能とダンスのコラボレーション「ひかり、肖像」は、バレエダンサー酒井はなと重要無形文化財指定保持者・津村禮次郎、さらにドイツ・ヴィースバーデンバレエ/トス・タンツカンパニーでダンサー兼振付家として活躍する森優貴の共演が話題になりました。このたびパリ&ブダペストにて上演されます。それに先立ち先日公開リハーサルも行われたようです。

同作で振付も手がけた森は、下記紹介する本人の公式HP・blogに掲載の略歴をみればわかるように、弱冠30歳ながら欧州でダンサー/振付家として華麗なキャリアを誇り活躍しています。欧州の先端で習得した舞踊語彙の豊富さ、構成力の高さは折り紙つき。さらに音楽を繊細に捉えて鮮やかに舞踊化する手腕に長けています。

近年は古巣で関西の名門、貞松・浜田バレエ団の「創作リサイタル」に作品を提供し、2007、2008年に発表した『羽の鎖』では文化庁芸術祭新人賞を獲得。他に、しなやかな感性とノーブルな雰囲気を併せ持つ俊英・武藤天華、清潔感のあるスタイルとダンスによって古典/コンテンポラリーを鮮やかに踊り分けるプリマ、竹中優花という後輩たちに振付けたソロや名プリマ渡部美咲と師である貞松正一郎に振付けたデュオなどをコンクールやガラ・コンサートで発表して好評を得てもいます。昨年は「ひかり、肖像」『羽の鎖』再演によって音楽・舞踊・演劇・映像の綜合専門紙「オン・ステージ新聞」の新人舞踊家ベスト1を獲得。また、「ひかり、肖像」において森は、自身によるダンスも披露しました。繊細な感性光り、ダンサーとしても類稀な資質を発揮しています(ヨーロッパ・ツアーでは、森のスケジュールの都合上、中川賢が代役として出演)。

欧州の第一線で学んだ振付家としては、ベジャール、キリアンの下で研鑽を積んだ金森穣が帰国、ご存知の通りNoismの芸術監督に地位にあります。ノイマイヤーの下にいた服部有吉はカナダに移籍、昨年は日本での活動はありませんでしたが今夏は帰国しコラボレーション作品を発表します。森の作品も日本で観る機会が増えてほしい。ただ、優れた才能を安易に消費することなく紹介されることを切に願うばかりです。

森優貴 公式HP:Yuki Mori dancer/choreographer ↓

http://yukimoriopaque.web.fc2.com/

森優貴 公式blog:YukiBlog- OpaqueVase ↓

http://yukiopaquevase.blog43.fc2.com/

2009-06-02

[]「ダンス創世紀」、冨士山アネット、GENESIS ART COMPANY、Roussewaltz

5月下旬に行われた創作・コンテンポラリー系の公演のなかからいくつかの感想を。

プロジェクト直「ダンス創世紀2009」

舞台音響の山本直がプロデュースする企画。チラシにおいて舞踊評論の大御所・山野博大が推薦のコメントを寄せていますが、モダンダンス系の実力派中堅・若手を取り上げ定評があります。今回は旗野由紀子、田中いづみ、渡辺麻子、高瀬多佳子、服部由香里、有馬百合子の作品が上演されましたが、私的に注目したのは田中、渡辺、高瀬作品でした(上演順)。田中いづみ『涙の中にみえる』は、バレエ「白鳥の湖」の音楽を用い、黒の衣装を来た女たち6人が女性の抱える根源的な哀しみのようなものをときに繊細にときに力強く描き出しました。田中の磁力ある独舞、杉山美樹や所夏海らの確かな技量に裏打ちされた群舞も見応えがあり、「テーマをわかりやすく伝える」という田中の美点が活かされていたように思います。渡辺麻子『The Cage』は、赤い大きな鳥かごを思わせるオブジェが目を惹きます。3人のダンサーによるパフォーマンスですが、緻密に練られた構成、群舞の配置の妙も相俟って手堅くまとめられています。高瀬多佳子『空庭』は4人の若手による群舞もありましたが、高瀬の、ギターのAYUOの生演奏にあわせたシャープにして流動感に富んだ踊りが圧巻でした。過度に自己主張したりナルシズムに溺れることなく緩急自在。上善水如、という言葉を想起させるような清冽さを湛え、極上のダンスのみがもたらす深い感銘をあたえてくれました。

(2009年5月22日 北沢タウンホール)

冨士山アネットpresents『Romeo.』

ダンスと演劇の境界の先に新たな舞台表現を試みている長谷川寧率いる冨士山アネット。このユニットでは、しばしば文学作品をモチーフに創作を行っており、今回もシェイクスピア「ロミオとジュリエット」を出発点としているようです(偶然、その直前にデンマーク・ロイヤル・バレエ団によるジョン・ノイマイヤー版『ロミオとジュリエット』を観たばかりでした)。女性1人と男性5人をめぐるコミニケーションのズレを描き、同じようなシチュエーションを繰り返す等重層的に舞台が展開していきます。演者は演劇畑中心、格闘技の技を導入したかのようなハードで変化に富んだ動きを連ねつつ人物間の機微・関係性を浮き彫りにしようとしています。当初から舞台美術、映像、音響等にも力を入れおり、回を追うごとに洗練されクオリティがあがっているのも実感できます。各要素の質は低くなく、コンセプトもまずまずしっかりしている。短期間で表現の質を上げ、制作条件も向上させた長谷川の制作力の高さは若手のなかでは水際立ったものです。ただ、「どうしてもこれを語りたい、表現したい」という強烈なパッション・核がもっと伝わってくれば表現により切実さが増すように思います。ウェルメイド、パズル的要素もあって楽しめる人もいるでしょうし失点も少ないといえるのですが・・・。贅沢な希望でしょうか。

(2009年5月23日 川崎市アートセンター アルテリオ小劇場)

GENESIS ART COMPANY『HEDGEHOG’S DILEMMA(僕に話しかけないで 僕に触れないで 僕を独りにしないで)』

GENESIS ART COMPANYは“ダンス・映像・書道・絵画・音楽を有機的に融合(Complex)した新しい価値観を神戸から発信する為に結成されたパフォーミングアーツ集団”。主宰の中田一史は、貞松・浜田バレエ団出身でミラノ・スカラ座バレエ学校に東洋人としてはじめて入学し、主席卒業した逸材です。ミーシャ・ヴァン・ヌック・バレエアンサンブルやサンティアゴ市立歌劇場バレエに所属、ベジャール、マクミラン、クランコ作品等を数多く踊っており、正真正銘の実力派。2007年に帰国、フラメンコの蘭このみとの共演など大舞台も踏みつつ、郷里の神戸においてバレエにとらわれない自由な発想からの創作を目指してユニットを立ち上げました。旗揚げ公演では、ヒトの孤独をテーマに、ダンスのみならず多様な表現を絡めて描いていきます。振付は、コンテンポラリー中心にインプロも織り交ぜ、音楽はアルヴォ・ペルトからキャンディーズの歌謡曲まで変化に富んだ選曲。映像や照明効果等が振付や音楽に拮抗してより高い次元へと昇華するには回を重ねていくことが必要に思われましたが、伝えたい主題を衒うことなくストレートに伝えようとする真摯な姿勢、やや欲張りとはいえ、あの手この手で多層的な舞台空間を生み出そうとする気概は末頼もしい限り。ダンサーも、ナイーブな感性の光る中田はじめ堤悠輔、石井千春、植木明日香ら若く活きのいい才能が揃っています。昼夜2回公演がありましたが、多くのリスクを抱えながらも単独で規模の大きな公演を打ち、妥協のない創作を目指した心意気にも拍手。関西のパフォーミングアーツ界に大きな地殻変動を起こす可能性を秘めた集団になっていくかもしれません。

(2009年5月24日 KAVCホール)

Roussewaltz「echo」

内田香の主宰するRoussewaltzでは、近年、劇場での自主公演や合同公演への参加に加え、小空間でのパフォーマンスを行っています。今回の「echo」では、内田の振付作品のほかメンバー作品も発表され充実した、そして楽しいイベントとなっていました。前半はまず内田の名ソロ『ブルーにこんがらがって』。抜群の技量を駆使、シャンソンにのせたクールにして色気のあるダンスは、内田の名刺代わりです。若手の伊東由里のソロ『そして骸になり・・・』は選曲・衣装含めた濃密な世界観を示していて進境をみせました。中軸の所夏海は代表的ソロ『Black Dahlia』を披露。ダイナミックにして優雅、この人ならではの踊り心が横溢しています。Emilyは自身も踊る群舞『I know you are beautiful...』を発表、内田ゆずりの繊細な感受性が生きた好ピースでした。後半は内田作品『echo』。女の子たちの日常風景をクールにセンスよく描き出していきます。とはいえいつも以上に、よりカジュアルに普段着で踊っている感じがして、観ている方に心地よさをあたえます。皆でスナック菓子をポリポリかじる景などユーモアもあり、かなり打ち砕けた雰囲気。内田も若手のなかに入って嬉々と踊っていて、これまでにない開放感ある表情とダンスが印象的です。内田と仲間たちのプライベートパフォーマンスといった趣、小さな空間でダンサーたちとともに過ごす密なる時間を満喫できました。

(2009年5月30日 六本木・Super Deluxe)