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ダンスの海へ 舞踊評論家・高橋森彦のblog このページをアンテナに追加 RSSフィード

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2009-08-30

[]国際水準のレパートリー導入についての考察

来る9月、韓国の2大バレエ団が世界的巨匠の代表作を相次いで初演することが話題を集めています。韓国国立バレエは、ボリス・エイフマン振付『チャイコフスキー』をゲストにウラジーミル・マラーホフを迎えて上演。民間で資金が潤沢とされるユニバーサルバレエは、ジョン・クランコ振付『オネーギン』を上演します。エイフマン作品に関しては来春、新国立劇場が『アンナ・カレーニナ』を新制作しますが、クランコの『オネーギン』に関しては、同じアジアの国として先を越されたか、との思いが拭えません。

韓国国立バレエは、ユーリー・グリゴローヴィッチ版『白鳥の湖』『スパルタクス』やジャン=クリストフ・マイヨーの『ロミオとジュリエット』『シンデレラ』をレパートリー化しており、ユニバーサルバレエは、ナチョ・ドゥアトやオハッド・ナハリンらの作品を上演しています。中国の中国国立バレエもローラン・プティ作品に加え、クランコの『オネーギン』も近々上演予定。日本はバレエマーケットとして世界有数ですが、国際水準のレパートリー上演に関しては、韓国や中国に追いつき追い越されつつあるのが現状でしょう。

日本のバレエ界として痛恨なのは、クランコの『オネーギン』を先に上演されることでしょうか。東京バレエ団の代表である佐々木忠次は、その著書「闘うバレエ」において、『オネーギン』の上演をアタックしても上演権を保持するクランコ財団の許可がなかなか下りなかった旨を記しています。東京バレエ団がモーリス・ベジャールの代表作を軒並みさらっていったことに対し、欧米のカンパニー等は忸怩たる思いがあり、各団体・機関は警戒しているのでは、というのが佐々木の弁。日本が国際的なバレエマーケットである以上、そこに存在するカンパニーにドル箱作品を渡したくないというのも分からなくはありません。韓国や中国のカンパニーに対するのとは事情が異なるのは確か。

とはいえ、日本のカンパニーも手をこまねいているわけではありません。版権が切れたためか現在レパートリーから外れたものの新国立劇場はケネス・マクミランの代表作にして物語バレエの傑作たる『マノン』『ロメオとジュリエット』を上演。東京バレエ団は今秋、欧米の有力カンパニーが上演するナタリア・マカロワ版『ラ・バヤデール』を新制作し、来年春にはフレデリック・アシュトン振付『シルヴィア』も初演します。同じくアシュトンの『真夏の夜の夢』も既にレパートリー化。こういった優れた作品を自団およびゲストのダンサーを迎えて上演を続ければ、安定した集客を見込めます。前記の『オネーギン』やジョン・ノイマイヤーの『椿姫』も同様のポテンシャルを秘めており、こういったレパートリーを導入し継続して上演できれば間違いなく「勝ち組」となるでしょう。

韓国国立バレエが一足早くレパートリー化しているマイヨー作品に関しては、複数の日本のカンパニーが上演に向けアタックしている模様(「ダンスマガジン」2009年5月号掲載のマイヨーのインタビューより)。『オネーギン』『椿姫』の日本のバレエ団初演も近い将来に実現するのではないでしょうか。オリジナルな古典新演出や物語バレエの誕生にも期待したいですが、国際水準で定評あり多くの観客に感動を与え得るレパートリー、ことに物語バレエの導入には今後も注目していきたいところです。

2009-08-29

[]小嶋直也 華麗なる復活と躍進!!(from 大阪)

現在発売中の雑誌「DDD」10月号の連載「関西バレヱ通信」に小嶋直也のインタビューが掲載されています。取材・文は関西在住の舞踊ジャーナリスト・菘あつこさん。


小嶋は日本を代表するダンスール・ノーブルとして活躍してきました。牧阿佐美バレヱ団や新国立劇場バレエ団において数多くの主役を踊ってきたのは周知の通り。精確な技術に加え、ステージマナーのよさをあわせ持ち、日本バレエの至宝と称して差し支えないでしょう。しかし、ここ5年ほど右膝の故障、そして、牧バレエのバレエ・マスターをはじめとして後進の指導に多忙なこともあって舞台に立つ機会は減少しました。

ところが2008年秋、小嶋は関西の名門最大手・法村友井バレエ団『白鳥の湖』全幕に主演、その報に多くのファン・関係者が驚きました。日本におけるロシア・バレエの第一人者である法村牧緒が牧バレエの総監督・三谷恭三を通じ出演を打診して実現したというものです。幸い舞台を拝見でき、依頼されて公演評を「オン・ステージ新聞」に寄せましたが、小嶋の衰えをみせない軽やかな跳躍や比類ない脚先の美しさ!に覚えた感激は忘れることができません。共演したプリマ高田万里が文化庁芸術祭新人賞を獲得。これも小嶋の丁寧なサポートによるところ大きく、男を上げました。

続いて今年6月には法村友井バレエ団公演に再び客演し、『ラ・シルフィード』(第2幕より)のジェイムズを高田と踊り好評を博します。精緻な足技を軽々とこなすテクニシャンぶりは圧巻であり、現在考えられうる最上のものではないかと心底感じたほど。ソロの場面において音楽のテンポを一段と上げての切れよい踊りには背筋がゾクゾクさせられました。しかし、それ以上に魅力的だったのがメランコリックな表情を帯びた演技。終演後、関係者の間では、深みとスケールを増した小嶋の演技の話題で持ちきりに。

「DDD」インタビューによると、小嶋の膝の状態は良好らしく、クラシック・バレエを踊るのには問題ないようです。後進の指導の激務の合間をぬってダンサー・小嶋直也がそのさらなる可能性を広げているのは、自団公演に抜擢・招聘した法村の慧眼も忘れてはいけませんが、公私ともに後押しする松田あってこそでしょう。今夏、松田主催のMRB「バレエスーパーガラ」の拝見&取材に大阪を訪れましたが、そこで小嶋は松田と『パキータ』を踊っています。両者のベテランらしい舞台さばきは見事で、パートナーシップも抜群。小嶋は堂々たるエトワールぶりをみせて一段と輝いていました。

インタビュー記事によると、小嶋は後進の指導に関して、教えることによって自身も得ることが少なくないとのこと。とはいえ、誰よりも精確・丁寧に、そしてステージマナーを大切にして踊る現役ダンサー・小嶋の存在は、後進にとって最高の鑑足るもの。真摯に舞台に向き合う姿勢や長年の経験によるアドヴァイス等は、「バレエスーパーガラ」の際にも競演した関西の若手男性陣たちにとっても刺激になっていたようです。

現在、小嶋は、大阪でしか大きな舞台に出ていません。可能であれば遠方から足を運んでも観る価値ある存在と思います。とはいえ、小嶋の華麗なる復活とさらなる飛躍をより多くの観客が目にすることができれば、と願わずにはいられません。

2009-08-28

[]『三銃士』等で知られるアンドレ・プロコフスキー死去

少し前のニュースになりますがダンサー/振付家として偉大な足跡を遺したアンドレ・プロコフスキーが8月15日、癌のため南仏の自宅で亡くなったそうです。享年70。

プロコフスキーは1939年、ロシア人の両親の下、パリに生まれました。1950年代後半にはロンドン・フェスティバル・バレエに参加(後年復帰)して頭角をあらわします。1963〜67年までニューヨーク・シティ・バレエのプリンシパルも務めました。1962年にガリーナ・サムソヴァとニュー・ロンドン・バレエを設立したことでも知られます。

後年は振付家として活躍しました。日本では日本バレエ協会と法村友井バレエ団が『アンナ・カレーニナ』を、牧阿佐美バレヱ団が『三銃士』を、井上バレエ団が『ロミオとジュリエット』を上演。それらの作品は、ダンス・クラシックのスタイルを崩すことなく劇的に物語を展開するストーリー・バレエとして卓越しています。クランコやマクミラン、ノイマイヤーらの物語バレエに比べると古めかしくも思えますが、オーソドックスなパの連ね方ながらその間に余白があり、踊り手が感情をこめることができる。だからこそ彼の作品は世界各地のバレエ団のレパートリーとして上演され続けたのでしょう。

今年新春、法村友井バレエ団が新国立劇場にて『アンナ・カレーニナ』を上演して好評を得たのは記憶に新しいところ。来年2月には牧阿佐美バレヱ団が東京では5年ぶりに『三銃士』を再演することが決まっています。奇しくも追悼公演となりますが、波乱万丈に富んだ展開と濃い登場人物が織りなす人間模様は楽しめること請け合い。巨匠の死を悼み、その作品が末永く上演され続けることを願わずにはいられません。

http://article.wn.com/view/2009/08/21/andr_prokovsky_dancer_and_ballet_choreographer_dies_at_70/

2009-08-27

[]ARTE Y SOLERA/desnudo Flamenco Live vol.3「小島章司 魂の贈り物」

男たちだけによる力強く、激しい舞台。でも、そこに野暮ったさは微塵もなくて端正で凛とした美しさがある――ARTE Y SOLERA主催によるdesnudo Flamenco Live vol.3「小島章司 魂の贈り物」は、稀にみる高揚感溢れたステージでした。芸術祭大賞等に輝く鍵田真由美・佐藤浩希フラメンコ舞踊団の佐藤浩希と、佐藤が師と慕う日本フラメンコ界の大御所小島章司の共演が話題。さらに鍵田・佐藤フラメンコ舞踊団からは矢野吉峰&末木三四郎、小島門下からは関晴光&松田和也が出演しました。

「歓喜の歌」、「ファルーカ」、「ハレオ エストレメーニョ」、「ソレア」、「トナ・イ・シギリージャ」等を息つく間なく展開。小島の振付が中心のようで、黄金時代の本場で研鑽した巨匠が深めてきたフラメンコの精髄。小島はプログラムに寄せた一文において公演の眼目として“世代間の交流”を挙げています。小島が長年極めてきた奥義を後進に伝え、それを佐藤以下、斯界の次代を担う俊英男性陣が気迫のこもった踊りで応える――新旧世代の魂の交歓の場に立会える幸運に感謝せずにはいられませんでした。

(2009年8月26日 代々木上原・MUSICASA)

2009-08-26

[]MOKK LABO#5「古民家」のダイジェスト動画

8月1、2日に奈良県五條市新町通りの古民家にて開催された、新町通りダンス アート2009MOKK LABO#5「古民家」のダイジェスト版動画がyoutubeにupされました。

先日当blogにて感想を書きましたが、古民家というレトロなロケーションと夕暮れていく時間のなかで行われるパフォーマンスは魅惑的でした。夏のすてきな思い出に。

劇場にとらわれない空間においてパフォーマンスを行ってきたダンス集団MOKK(主宰:村本すみれ)が奈良県五條市新町「新町通り」古民家内において公演を行いました。アートによる町おこしとして地元NPOと提携、一年前からワークショップを行ったり地元イベントに参加したりと交流を重ねてきたうえでの公演です。天井裏からパフォーマーが現われたり、狭い屋内を所狭しと走り回ったり、庭でも踊ったりと場の魅力を活かし暴れまわります。時代を感じさせる古民家のなか行われるパフォーマンスに観客は日常から非日常の世界へとゆるゆると誘われシュールでユーモラスな世界に浸れます。地域に根付き活動、地元住民とも協力を重ね公演を行いコンテンポラリーなパフォーミングアーツの魅力を伝えたことは有意義。アサヒビール芸術文化財団の公募助成を受けていますが、こういった公益性のあるイベントへの援助は望ましく思います。

(2009年8月1〜2日 奈良県五條市新町「新町通り」古民家内)

http://d.hatena.ne.jp/dance300/20090804/p1 より

MOKK LABO#5 古民家 ダイジェスト

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2009-08-25

[]ケイ・タケイ’s ムービングアース・オリエントスフィア・LIGHT, Part 7『Diary of the field―創作畑の日記』

ケイ・タケイ(武井慧)という舞踊家/振付家をご存知でしょうか?

日本が生んだ舞踊家としてもっとも国際的に名を知られたひとりであり、オックスフォード舞踊辞典にもその名がのるほど。以前、タケイについて調べる機会があり、実際に舞台を観たこともあるのですが、その略歴と仕事の一端に触れるだけで圧倒されます。とはいえ残念ながら海外での評価に比べ国内での認知度は高いとはいえません。

タケイは日本の現代舞踊のパイオニアの檜健次&日本舞踊の藤間喜与恵に師事したのちジュリアード音楽院舞踊科に留学。アナ・ハルプリン、マーサ・グレアム、トリシャ・ブラウン等の下で学んでいます。折しもアメリカン・ポストモダンダンスの最盛期のニューヨークで活動したタケイは、同地を拠点にムービングアースを結成して独自のダンスを追究。1969年以降31作が創作された「LIGHT」シリーズはタケイの代表作となり、世界各地で繰り返し上演されてきました。近年は日本に戻りシアターΧでのコラボレーション企画等を中心に活動、「LIGHT」シリーズから遠ざかっていました。最初の作品の初演から40年を迎える節目の年に再び「LIGHT」シリーズ上演を本格的に開始。第一弾としてLIGHT, Part 7『Diary of the field―創作畑の日記』を上演しました。

舞台奥にウッドアートが4本ほど置かれている以外は舞台も衣装もほぼ白一色。足を悪くした魔女のようないでたちのタケイがダンサーたちに向かって命じます。「呼吸しろ」「凍りつけ」……。ダンサーたちは命じられるままに動き、働かされます。最後、ダンサーたちが小さく膨らんだ白い風船を田植えでもするかのように何度も植えつける印象的なシーケンスまで動きは基本的にノンストップ。激しく暴力的ですらある。タケイの創作を、ポストモダン=洗練されたミニマルなものと考えていたら大違い。当時、故・市川雅はタケイの作品について“アルトー的残酷さを体現する”と述べ、同時期のアメリカン・ポストモダンダンスとの相違を指摘していたのは慧眼といえるでしょう。タケイの作品は、ポストモダンの洗礼を受けつつ独自の文脈で発展させたもの。発想の自在さにおいて現代のコンテンポラリー・ダンスとの断絶を感じさせず、今みても刺激的です。

本作は「LIGHT」シリーズ初期作品であり、タケイにとってグループ作品としては最初とのこと。映像記録は残されておらず、タケイの創作ノートを基に再び創作されました。タケイ、ラズ・ブレザーのように初演時から出ている踊り手もいますが多くは若手・中堅の新たなメンバー。河内連太による舞台美術も新たな装いを与えた箇所があったとか。パンフレットにおいてタケイはこう書いています。“当時のものと今回上演するこの作品はちがいがあっても舞踊魂は同じである”。単なる再演や再現ではない。真の意味でのリ・クリエーションであり、舞踊という再現性の薄い芸術表現において、伝承性や永続、再生の形についても考えさせられる大変興味深い上演でした。

タケイと仲間たちによる「LIGHT」シリーズ上演は続きます。12月末にはタケイのソロ「Part8&26」を上演。来年1月には「Part32 時空への旅2010」と題して十数年ぶりの新作が発表されます。タケイの再評価やポストモダンダンス再考といった文脈に限らず、豊かで刺激に溢れるダンスを味わえる場としてその活動から目を離せません。

(2009年8月21日 スタジオ・ムービングアース)

2009-08-24

[]伊藤キム/あざみ野Dance Creation for YOUTH『...open close open...』

コンテンポラリー・ダンス界の寵児として名を成したダンサー/振付家の伊藤キム。2005年に半年間の世界一周の旅を行い、帰国後は新カンパニー「輝く未来」を立ち上げて若手育成に乗り出しています。京都造形芸術大学の准教授も務め後進を指導しており、さらには全国各地でのワークショップ活動にも精力的。なかでも横浜市のアートフォーラムあざみ野において中高生中心のワークショップを定期的に開催してきました。そして今回、5月から4ヶ月間にわたり中高生中心の8名のメンバーが伊藤の下ワークショップを重ね最終的には伊藤のディレクションによる新作を発表しました。

“中高生だけのダンスカンパニーを造りたい!”というのは伊藤が3年ほど前に考えたことだと言います。固定観念なく柔軟な感性を持った若者たちの魅力に惹かれたとのこと。ワークショップでは、伊藤がメンバーにさまざまのイメージや動きを投げかけ、それらと格闘しながら次第に作品として固まってきたようです。上は大学2年生、下は中学1年生までというメンバーでしたが、いずれも経験差はあるとはいえダンス・バレエを学んだか、演劇部や劇団の養成所において演劇を学んだ人たち。なかには数年前から伊藤の行うワークショップに通っている子もいたようです。本番の舞台において、日常的な仕草を連ねたようなシーケンスやダンサブルに踊る場においても、みな表現がしっかりしています。坂本龍一やアンダーワールドらを使った音楽構成も巧みで若い感性とメンバーの個性を引き出した伊藤の手腕も光りました。いわゆるワークショップの発表会にありがちな、馴れ合いや自己満足とは無縁の質を保っていたのはさすがです。

終演後にアフタートークが行われました。メンバー各々が伊藤との出会いやワークショップの内容について爆笑の逸話も交え楽しく語りましたが、年長メンバーたちが最後に話したコメントが印象的です。伊藤のワークショップ・作品作りに参加してダンス=物を創ることの楽しさ・生きがいを見出したり、自身のキャパシティを広げることができ、板の上に立ちつことで観ること・観られることの違いを深く認識したということ。若いメンバーが自身に潜在する可能性をダンスを通じて肌で感じ、挑戦する心を持つのは、人間が生きていくうえでもかけがえないことに思われます。若い息吹の瑞々しさに新鮮な驚きを感じ、その未来の輝ける姿を想像して、足どり軽く会場を後にしたのでした。

(2009年8月23日 アートフォーラムあざみ野レクチャールーム)

公式blog:あざみ野 Dance Creation for YOUTH

http://dance-creation.seesaa.net/

2009-08-23

[]栃木・那須高原/アート・フェスタ那須2009「SPECTACLE IN THE FARM」

私事ながら今年は首都圏以外のコンテンポラリー・ダンス公演やフェスティバルにあまり足を運べず残念ですが、今秋も各地でさまざまなイベントが行われるようですね。

9月26-27日には、栃木県の那須高原において「アート・フェスタ那須2009」関連企画として「SPECTACLE IN THE FARM」が行われます。これは“パフォーマンスアート・ファッション・音楽・食、を中心にした若手アーティストらによる発表を、(中略)那須の観光・宿泊施設や広大な自然を活用して行う2日間のイベント”(公式サイトより)。風光明媚な那須の町を回り、旅するなかで、土地や建物に息づく歴史を感じながらパフォーミングアーツを味わえそう。開催場所は広範な地域にわたり、移動には車やオートバイがないと難しいようですが、会場間を結ぶバスツアーやレンタカーも。宿泊パックも用意。

出演アーティストは、EGO-WRAPPIN’ AND THE GOSSIP OF JAXX J.A.M (piano trio from SOIL&”PIMP”SESSIONS) IKEBANA 快快(faifai) 栃木県立黒磯高校吹奏楽部 鉄割アルバトロスケット TUTU HELVETICA オオルタイチ 康本雅子 やくしまるえつこ 岡田利規(チェルフィッチュ) 山崎ナオコーラ シアタープロダクツ KATHY たのしい動物ショー(鷹/鷲/ふくろう/羊/ラマ/山羊/馬) アルパカのお散歩 giraffe(ネクタイ) 七尾旅人 浅野達彦グループ 阿部海太郎ら。正直ワケ分からん!?的な面白さもある幅広いメンツ。 私的には覆面3人組ダンサーズKATHYと鬼才の康本らが気になります。

制作面からみると、那須という土地を中心に多くの地元の人たちが集まり、新たな文化を生み出していくことに意義が。アートによる町おこし=地域における文化芸術振興と観光資源の創出につながる、公益性の高いイベントとなってほしいと思います。

2009-08-22

[]日生劇場 国際ファミリーフェスティバル/スターダンサーズ・バレエ団『シンデレラ』

東京・日比谷にある日生劇場が毎夏行っている主催事業公演が「国際ファミリーフェスティバル」です。内外の団体による、家族連れの楽しめる舞台芸術を上演してきました。バレエもこのところ毎年上演され、在京バレエ団中心に持ち回りで担当しているようです。今年はスターダンサーズ・バレエ団が『シンデレラ』(全2幕)を上演しました。

スタダンの『シンデレラ』は2008年3月に新制作された鈴木稔版。プロコフィエフ曲を用いオーソドックスな展開は守りつつ、現代的な意匠や緻密な伏線を織り交ぜファンタスティックなドラマとしてセンスよくまとめています。シンデレラの父は忙しいビジネスマンという設定であったり、シンデレラの小さな友達としてピーターラビットばりの着ぐるみを着たりもするキャラクターも配する点などに創意が。二村周作による幻想性と重厚さを兼ね備えた舞台美術も効果的です。再々演となり、手の内に入った間然とするところない仕上がり。多くの子どもで満員の客席は笑いあり拍手ありと上々の反応でした。

公演の冒頭にスタダンの総監督:小山久美が幕前に出て前説を行いました。ストーリーの紹介に始まり、女性ダンサーと小山によるマイムの基本を実演。さらにはバレエに頻出するワルツ(三拍子)の解説を行い、二拍子との違いを観客とともに手を打ち合わせて確認したうえで、実際にダンサーがさまざまなステップを踏みつつ踊るといった試みも。話術巧みであり、簡にして要を得た紹介。子どもたちにとって有益だったのでは。

子どもや連れ添いの家族にバレエに気軽に親しんでもらえる場として国際ファミリーフェスティバルは得難いものがあります。来年は松山バレエ団が『眠れる森の美女』を上演するとのこと。今後も各団体による質の高い舞台を期待したいところです。

(2009年8月21日 日生劇場)

2009-08-20

[]こまばアゴラ劇場で行われるダンス公演について

東京・目黒区の駒場東大前にあるこまばアゴラ劇場は、平田オリザ率いる青年団の本拠地として知られてきました。2003年以降は貸劇場業務を一切行わず、全公演を劇場のプロデュースとしています。各劇団と連携して作品制作を行い、若手演劇人やカンパニーを育てるシステムは画期的。評価の定まらないアーティストやカンパニーであっても実力を認めれば積極的に支援します。劇場に対して文化庁芸術拠点形成事業は受けていますが、民間の運営であるからこそ可能なシステムといえるでしょう。

同劇場では演劇公演がほとんどですが、近年はダンス公演も増えてきました。夏と冬に行われる「サミット」というフェスティバルには、東京以外からのカンパニーもどんどん参加しています。ちくわ(山口)、yummydance(愛媛)などの公演は貴重なものでした。今年はすでにモノクロームサーカス×じゅんじゅんSCIENCE公演が盛況に終り、続いて夏の「サミット」内でもダンス公演が続きます。京都から参加した肉体関係『48』(振付・演出:京極朋彦)、東京の初期型『The Pop』(構成・振付:カワムラアツノリ)は終了。今週末に捩子ぴじんソロ『あの世』が行われます。11月〜12月にかけては黒沢美香&ダンサーズが「ミニマルダンス計画」を上演。来年の3月にはダンス・演劇の枠を越えてアピールしている冨士山アネット(主宰・長谷川寧)の公演もあるようですね。

この劇場を使うメリットはいくつか挙げられます(以下、劇場サイト等を参照)。主催事業であれば劇場費は無料、提携公演でも格安というのは大きな魅力でしょう。稽古場の安価貸し出しもあります。さらには制作支援金も出るようです。劇場施設内で宿泊も可能なため上京が必要な各地の団体にとって大変便利でしょう。そして何よりも貴重なのが新たな観客との出会い。同劇場には劇場支援会員システムというものがあり、年間公演の回数券等を持ったコアな演劇ファンが各公演少なくない人数訪れます。観客層を広げ、演劇ファン等を取り込みたいカンパニーにとって願ってもない場なのでは。

観客側としては小スペースにおいて良質の舞台を安価で楽しめるのは魅力的。年間パスや回数券等を購入して支援するというのもひとつの手です。“観ることは育てること”とは同劇場のコピー。劇場という場においてソフトを活性化させることに観客が参加できるというのはすばらしい。こういったシステムが広がっていけばいいと思います。

2009-08-19

[]第12回「世界バレエフェスティバル」の意義と成果

3年に一度のお楽しみ第12回「世界バレエフェスティバル」が先日幕を下ろしました。祭りの後の漠たる寂寥感を感じている方も少なくないのでは。今回、A・Bプロ、ガラ、全幕プロ3公演、一昨年逝去したモーリス・ベジャール追悼の特別プロ「オマージュ・ア・ベジャール」それぞれ1回づつ計7公演を観ました。感想を綴れば尽きないのですが、それとは別にA・Bプロ、ガラについて気になった点を記しておきたいと思います。

まず客席の反応について。私見ですが、大スター、ブランド・ダンサーだけに大きな拍手が沸くことはなく、各自がパフォーマンスの良さを見極めヴィヴィッドに反応している様子が感じられました。すばらしいパフォーマンスであれば、それに見合う拍手が送られる。観客の目が肥え、ダンサーも心して白熱の演技をみせることにつながります。上から目線の言い方になりますが、日本のバレエ・ファンの成熟を強く感じました。

観客の成熟という点から派生して気になったのがバレエフェスというイベントの意義について。「バレエフェスを観れば最新の世界バレエの潮流が理解できる」という触れ込みは常套句となった感があります。果たしてそうなのでしょうか?たしかに、スターダンサーらとともに新鋭の踊り手が毎回登場、古典のパ・ド・ドゥのみならず多様な現代作品が紹介され充実しています。上演の質は折り紙つき。ビギナーであればあるほど最高のものを早い時期に触れることは有益です。古典一辺倒、ことにロシア・バレエに偏った日本のバレエ・ファンの嗜好を変えたのは主催者の功績といっていいでしょう。

とはいえ、長く続くイベントは時代の要請もあって回を重ねるうちに性質が異なってくるもの。古典と現代作品をバランスよく上演する配慮は感じられますが、バレエ・ファンの成熟に連れて内容は決してビギナー向けといえなくなってくるのも確かです。たとえば、今回のBプロの第2部では、マクミランの『マノン』第1幕のパ・ド・ドゥを含め、ノイマイヤー、キリアン、フォーサイス、エック、マーフィーと現代作品の抜粋が続きました。個人的には大変楽しめましたし、上演水準は文句のつけようがない。ただ、コンテンポラリーが苦手な人やビギナーは付いていけないかもしれません。でも、世界のバレエ界の趨勢からすると自然なこと。今後一層現代作品が多くなることもあり得るでしょう。バレエ界の「いま」を伝えるイベントとしては当然の姿勢に思われます。

逆にいうと、バレエフェスとは、年季の入ったバレエ・ファンであればあるほど楽しめるものなのも確か。古典にしろ現代作品にしろ抜粋の場合であっても、熱心なバレエ・ファンであれば鑑賞体験や知識が豊富で、どういう場を上演しているのか、どういう演出なのか瞬時に理解できます。今回の白眉であったアイシュバルト&バランキエヴィッチによるクランコもの――『オネーギン』第三幕より(Bプロ)、『じゃじゃ馬馴らし』より(ガラ)やデュポン&ル・リッシュによるプレルジョカージュ『ロミオとジュリエット』(ガラ)にしても全編の展開を知っていると感動が2倍、3倍になるのは間違いありません。ガラで上演されたボァディンの踊る『アルミードの館』シャムの踊りもそう。20世紀初頭に活躍したバレエ・リュス伝説の舞踊手ニジンスキーの当たり役でしたが、ノイマイヤーの振付では、ニジンスキーのポーズや表情までを当時の写真等の資料から緻密に起したと思しき箇所が見て取れます。バレエ・リュスやニジンスキーについて知り、ノイマイヤーが熱心なニジンスキー・マニアであることが頭にある観客にはたまらない逸品でしょう。

バレエフェスとは、バレエ芸術の粋を最上級の形で集めたもの。より深いバレエ鑑賞の旅へと誘ってくれる道標として、また同時にコアなバレエ・ファンのマニアックな鑑賞欲を満たす場として得難いと改めて実感。世界的にみても第一線のダンサーをこれでもかと揃える規模の大きさ、そして、質を兼ね備えたイベントは考えられません。ガラ公演の余興いわゆる「ファニー・ガラ」の際に「2012年第13回世界バレエフェスティバル予告編」というスライドが上映されました。早くも3年後、次回への期待が高まります。

2009-08-17

[]バレエ・コンクールの創作作品の振付について

日本バレエ協会主催・第20回全日本バレエ・コンクールの最終日・決勝を観にいきました。バレエ協会各支部開催の予選等を通過したダンサーのみ本選に参加できます。その本選では、アンシェヌマン審査、課題曲2曲審査、創作作品審査が行われ、予選3日・準決勝・決勝各1日の計5日間を要します。現在はジュニアBの部(13歳〜15歳)、ジュニアAの部(16歳〜18歳)、シニアの部(19歳〜25歳)が設けられています。

決勝において出場者は課題曲から1曲と創作の2曲を踊りました。女性ダンサー中心にスタイルよい踊り手が多いのが印象的。技量の平均値も高い。個人的には創作に惹かれました。コンクールの創作についての審査で注意すべきは、作品や振付に対する評価は別ということ。振付や作品の完成度と演技・表現力を切り離すのは難しい面もありますが、振付を競うのではないため線引きはあって然るべき。全日本バレエ・コンクールでも“日々の稽古の中で作品と舞踊に対する総合的な理解力がどの程度培われているかを計る事を目的”(協会HPより)としています。とはいえ、多様な作品・振付が並び、踊り手の感受性や芸術性を上手く引き出した創作が多く興味は尽きません。

今回、ジュニアBの部では入賞者6名中1位を含む3名の創作の振付者がキミホ・ハルバートでした。キミホは踊り手として活躍しつつ早くから振付を開始。ユニット・キミホを主宰して振付家として活動しています。数多くのコンクール用振付も手がけてきました。それらではバレエダンサーの身体能力を活かしつつアイデア豊富で観ていて楽しく惹きこまれる作風が特徴です。踊りこなすにはダンスクラシックの技量の裏打ちが必要。同時にクラシックを崩した動きへの適応力が求められます。踊り手の表現力を伸ばすには打ってつけといえ、コンクール参加者から引く手あまたなのは当然でしょう。参考までに代表的なコンクール振付『Wilhelm Tell』をYouTubeから拾ってきました。

バレエコンクール振付で名を挙げた振付者としては他にも関西の矢上恵子や名古屋のベン飯田らが挙げられます。関西バレエ界では絶大な人気を誇る矢上が広く名を知られるきっかけとなったのはコンクールの振付において。2分弱のコンクール用作品のみで振付家を評価はできませんが、そこから振付センスをうかがうことはできます。今回はバレエ系のほかモダン/コンテ系若手振付者の仕事にも光るものがあり、観ていて飽きませんでした。作品・振付の評価は別という点は踏まえつつ、バレエコンクールの創作が踊り手にとっても振付者にとっても有意義なものであってほしいと思います。


Prix de Lausanne 2004 Moe Nieda “Wilhelm Tell”

Choreographed by Kimiho Hulbert

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2009-08-16

[]テアトル・ド・バレエ カンパニー設立(from 名古屋)

名古屋には多くのバレエ団が林立しています。創立50年を優に超える老舗は少なくなく、全国的に注目される大手団体も。そんななか1980年に設立された塚本洋子バレエ団は歴史的にみれば中堅どころながら創設以来躍進を遂げてきました。

公演活動を行う傍ら、多数の生徒が内外のコンクールで上位入賞。榊原弘子、荒井祐子、米沢唯といった塚本の育てたプリマは内外で活躍しています。1995年には創立15周年を機に「ナゴヤ・テアトル・ド・バレエ」を創立。近年は深川秀夫を芸術監督に迎え、オーディションによって広く人材を募集して公演活動を行っています。

その塚本バレエがこのたび「テアトル・ド・バレエ カンパニー」と名を改め、組織変更を行うと発表されました。付属バレエスクール「テアトル・ド・バレエ アカデミー」も同時に設立。高度なバレエ教育を行い、指導者や専門家の養成の設備環境を整え、そしてプロの踊り手の活躍できる場の拡大を目指していくとのことです。

名古屋は古くから芸どころとして知られ、バレエ人口の多さ・密度の濃さは全国有数。塚本が新たに展開する「テアトル・ド・バレエ カンパニー」が名古屋のバレエ界をさらに刺激するのは確かであり、その動向が注目されるところです。

2009-08-15

[]Noism1『NINA‐物質化する生け贄』台湾公演決定

既報ですが、金森穣率いるNoism1が今秋10月に台湾の国立中正文化中心(National Chiang Kai-shek Cultural Center)にて公演を行うようですね。

2005年初演の『NINA』は、これまでに北南米・ロシア・韓国でも上演されています。人間と物質をテーマにしたこの大作は初演時から世界水準の作品として絶賛を浴びました。そして短期間に海外公演を重ねているのはまさに快挙というに他なりません。新潟・りゅーとぴあの劇場専属カンパニーとして地域に根付き、同時に地域から世界へと発信していく文化としてNoismの存在価値は一層高まっていくでしょう。

先日、ヴッパタール舞踊団のピナ・バウシュが急逝しましたが、ヴッパタールという町はバウシュとそのカンパニーによって注目され、世界中から多くの人々が訪れるようになりました。金森も新潟をそういう存在にしたいとインタビュー等で語っています。

ローカルとグローバルを意識したNoismの活動からますます目が離せません。

Noism公式blog:「NINA‐物質化する生け贄」台湾公演が決定いたしました!

http://www.noism.jp/blog/2009/08/nina.html

2009-08-14

[]戦後65年に向けて〜日本バレエの過去・現在・未来

このところ、国内の各バレエ団が創立○○周年記念と銘打った公演や祝賀パーティを開いています。去年から今年にかけてだけでも松山バレエ団(1948年創立)、谷桃子バレエ団(1949年創立)といった老舗をはじめチャイコフスキー記念東京バレエ団(1964年創立)、さらには東京シティ・バレエ団(1968年創設)、井上バレエ団(1968年創設)、バレエシャンブルウエスト(1989年創立)、NBAバレエ団(1993年創立)などがそれにあたります。熊川哲也のKバレエカンパニー(1999年創立)も今年で10周年。北海道や名古屋、京都では老舗の団が今年で創立60周年を迎え記念の会などを催しています。

創立60周年というグループは、戦後に本格的にバレエ活動をはじめた人たち=日本バレエ第2世代が立ち上げたもの。1960〜70年代に生まれたのは、それらから独立したり、新たに生まれた団体になります。近年では、新国立劇場開場(1997年)を前後して立ち上げられたカンパニーが意欲的な活動を行い、バレエ界を活性化しています。また昨年秋、新国立劇場舞踊芸術監督の牧阿佐美がバレエ界3人目の文化功労者に選ばれました。戦後バレエの発展、現在の躍進を象徴する出来事でしょう。

今年2月には、牧の演出・振付による『ライモンダ』が新国立劇場において再演されました。最終日の主演は川村真樹と碓氷悠太。それぞれ谷桃子バレエ団最初期に活躍した黒沢智子、松岡伶子の弟子です。すなわち谷の孫弟子。この公演では谷と牧が並んで観劇していました。戦後日本バレエのパイオニア谷と日本バレエ黎明期からの功労者・橘秋子の子女の牧は古くから交流があるとのこと。牧の演出・振付による『ライモンダ』の主役を谷の孫弟子にあたる俊英が踊る。しかも、バレエ人の長年の夢であったといわれる新国立劇場において――。この回り逢わせには感慨深いものが。主演2人の演技も充実、日本バレエの歴史と現在の発展に思いを馳せた舞台でした。

今後、80年、100年と歴史を重ねていく団は出てくるのでしょうか。新国立劇場をのぞき基本的にすべて民間の運営によるもの。継続的な公演活動を行うのには多大な労苦と経済的負担がかかります。とはいえ各地の団体中心に2代目、3代目や後継者が受け継いで発展継続させている所も。来年、戦後65年迎えるにあたり、あらためて日本バレエの過去を知り、現在を考え、未来を展望するのも意義深くないでしょうか。


2009-08-13

[]東野祥子/BABY-Q新作『[リゾーム的]なM』

コンテンポラリー・ダンスの中堅・若手振付家では、白井剛、鈴木ユキオ、梅田宏明、KENTARO!!ら男性陣の活躍も目につくものの女性アーティストの創作に圧倒的なインパクトを受けることが少なくありません。特にニブロールの矢内原美邦、BATIKの黒田育世らとともにBABY-Qを主宰する東野祥子の活動は見落とせないものです。

関西で活動していた東野が一躍脚光を浴びたのがトヨタコレオグラフィーアワード2004にて大賞を得た『ALARM!』。その後も『GEEEEEK』(2006年)などで人間存在の不安や激しい感情の揺れ、狂気、衝動といったものをときにエネルギッシュに、ときに猥雑に、ときにキッチュに描いてきました。東野自身の無尽蔵とも言える豊富な舞踊語彙によるダンスも圧倒的。身体表現を軸に音楽・美術・衣装・映像・メカ製作といったスタッフワークの力も折り重なって構築される美的で完成度の高い空間構成も魅力的です。

新作『[リゾーム的]なM』は、東野のこれまでの集大成にして新たな展開を予感させる大作でした。公演タイトルにあるリゾームとは、フランスの哲学者ジル・ドルーズと精神分析家フェリックス・ガタリが生んだ概念。元来地下茎の一種、根茎を意味する言葉であり、統一する中心に根拠づけられることのないシステムの分散的な多様性を示します。東野は冒頭で少し踊りますが、基本的に演出・振付に徹したとのこと(音楽担当のカジワラトシオが共同で演出)。腹を膨らませた妊婦たちや巨乳の女、熊?の着ぐるみ、舞台上方から下界を監視する不気味な男、ドラァグクイーンたちが入り乱れ、その異形な身体性や感情の起伏がシーンごとに奥深く多層的に描かれました。

女性としての感覚が強烈に打ち出されたり、フリークス的人物が登場するのは従来の東野作品と同様。しかし、今回、厚みあるイメージの集積として説得力がありました。例えば、3人の男性が扮するドラァグクイーンが登場しますが、これはドラァグクイーンという語の起源たる男性が理想とする女性性をデフォルメ化したものと思われます。女性という性をパロディ化して遊ぶ、という一面も。私的感覚に依拠しただけの、個性やら自己表現の発露を“女性性”と吐きちがえた凡庸さとは違ったシニカルな視点が感じられます。このあたりは、男性であるカジワラとの協同作業によるのかもしれませんが、知的さ・批評性をも備えており、入念に練り上げられた舞台づくりが見て取れました。

ダンス面に関して変化も。終盤にドラァグクイーンたちの後ろで激しく踊る女性群舞が印象的ですが、それと冒頭の東野のソロを除けばダンスらしいダンスはあまりありません。東野のパワフルで語彙豊富な踊りを中心とした舞台づくりから変質しつつあります。今作は、BABY-Qとは東野を軸にオルタナティブなパフォーミングアーツを創出する芸術家集団であることをあらためて所信表明したもの。演出家として自身の世界観を具現化、重層的・立体的な舞台を完成させた東野の構成力が際立っていました。

(2009年8月8日 吉祥寺シアター)

BABY-Q Dance Performance "GEEEEEK - 愛の乞食と感情の商人、その家畜たち ───"

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BABY-Q 『Matar o no matar』@superdeluxe

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2009-08-12

[]アキコ・カンダ モダンダンス公演「おもかげ」

現在のダンスシーンにおいて注目されるのは、今日的な感覚に富んだもの、形式面の新しさを打ち出したものです。現代音楽や現代美術同様に芸術思潮の流れからして当然のことであり、モダンはポストモダンに、ポストモダンはコンテンポラリーに乗り越えられるのは歴史の必定かもしれません。しかし、感動ということを考えると話は違ってきます。感動は形式の新しさとは別の次元に存在するもの。感動を生むダンスの多くには、長年の修練の果てに得た技量と磨き上げられた美意識が刻印されています。

アキコ・カンダの舞台には感動があります。カンダは若き日にマーサ・グレアムに師事、その経験に基づきアメリカンモダンダンスの精髄とカンダ独自の感性を融合させ今日に至ってきました。いわゆる現代舞踊=ジャパニーズモダンダンスとは趣を異にします。コントラクションやリリースといったグレアムメソッドから生まれた上半身のラインに力強く、野生的で大らかさを感じさせつつ透徹したストイックな世界が特徴。

今年のリサイタルは2部構成。第1部ではカンダの珠玉のソロ『想い出は陽炎のように』を挟み、『マルチ・ブレーン』『夜の回廊』という群舞作品が上演されました。『マルチ・ブレーン』は、キューバ生まれのマンボ王として知られるペレス・プラード曲にあわせ息尽かせぬ密度の群舞を展開。新作の『夜の回廊』では、チャイコフスキーの抒情豊かな曲にのせ詩的な世界観を表現しました。第2部は「おもかげ」(1993年初演)。「早春賦」に始まり「もみじ」「ふるさと」「赤とんぼ」など童心あふれる日本の名曲にのせ、観るもののノスタルジーを喚起、心に染み入る味わい深い作品に仕上がっていました。

カンダの踊り、創作するダンスは、生命や自然の美しさを力強くかつ叙情的に伝え、観るたびに心洗われます。理屈でなく心で体で感じる深い感動!カンダの師グレアムが言ったとされる“いいダンスか悪いダンスしかない”に照らせば、カンダのダンスは、いいダンス、感動があり強い美学に裏打ちされた、至高のダンスといえるでしょう。

(2009年8月7日 青山円形劇場)


アキコ・カンダ、篠山紀信 AKIKO―1971‐2006

アキコ・カンダ、篠山紀信 AKIKO―1971‐2006

2009-08-11

[]第12回世界バレエフェスティバル Aプロ・Bプロ

待ちに待った第12回世界バレエフェスティバルが公演中。A・Bプロを観てまず思ったのは、やはりこれだけのトップスターが集る場は得難い!ということ。1980年代後半から活躍してきた大物ダンサーたちが一堂に会する機会は、残念ながら今回がひょっとすれば最後になるのかも…。そして、上演レベルはやはり極めて高い!ベテランたちの自在な境地、中堅層の躍進、若手気鋭の清新さを一度に味わえました。

常連組では、まずシルヴィ・ギエム&ニコラ・ル・リッシュが目を引きます。マリファント『クリティカル・マス』&エック『アパルトマン』を踊り、前者では精度の高い動きを、後者では意想外かつ機知に富むダンスを披露して独自の境地を示しました。マニュエル・ルグリはオーレリ・デュポンと組んでノイマイヤー『椿姫』より第1幕のパ・ド・ドゥ&キリアン『ベラ・フィギュラ』を、ウラジーミル・マラーホフはディアナ・ヴィシニョーワと組んでビゴンゼッティ『カジミールの色』&プレルジョカージュ『ル・パルク』を披露、現代バレエの一線を行く振付家の創作を踊ってバレエの現在形を存分に伝えてくれました。

中堅では英国ロイヤル・バレエのタマラ・ロホが演技力・技術力とも劇的に進化していて驚かされました。Aプロでは異色のコンテ・ソロ『エラ・エス・アグア ‐ She is Water』(ゴヨ・モンテロ振付)を熱演。Bプロではフェデリコ・ボネッリと組んで『エスメラルダ』を踊りました。グラン・フェッテでの驚異的な回転、10数秒に及ぶ文字通り微動だにしないバランス技を行うもケレン味はそれほど感じさせず古典の品格は保持しています。同じく英国ロイヤル・バレエの若き名花アリーナ・コジョカルは『コッペリア』『マノン』第一幕のパ・ド・ドゥをヨハン・コボーと踊って美しいラインを披露、健在を示しました。

常連ベテランのアンドレイ・ウヴァーロフと組んだスヴェトラーナ・ザハーロワは、なんとバレエフェス初登場!彼女の存在が今回のバレエフェスを一層格調高いものにしたのではないでしょうか。新国立劇場への客演やマリインスキー・バレエ、ボリショイ・バレエの来日公演を通じてザハーロワを観る機会は少なくありませんでした。言葉は悪いですが食傷気味といっていい位に。しかし、世界の幅広いカンパニーや地域の踊り手たちの集うバレエフェスという場においてロシア・バレエの王道を行く揺るぎない品格溢れる演技を示し格別の存在感。怪我のため前回のバレエフェスに出られなかったシュツットガルト・バレエを代表するトップ・プリマ、マリア・アイシュヴァルトも初出場!人気者フィリップ・バランキエヴィッチと組んだBプロの『オネーギン』第3幕のパ・ド・ドゥにおいて哀切極まりない演技をみせ圧倒的な感動を誘いました。

若手ではロシア系が大活躍。マリア・コチェトコワ&ダニール・シムキンがバランシン『チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ』&『パリの炎』を披露、超絶技巧の数々で会場を沸せました。シムキンは脚を開いたままで空中を旋回しながら跳躍したり、高速で回りつつ滑らかに減速するピルエットなど神懸かり的テクニックを平然と優美に音楽的にこなします。コチェトコワも後者における跳ねながらのグラン・フェッテなどで魅せました。ボリショイの新星ナターリア・オシポワはマリインスキーのレオニード・サラファーノフと組み『ドン・キホーテ』『海賊』を踊りました。後者では、ありえない位高い跳躍をみせ圧巻。

他にもオーストラリア・バレエやハンブルク・バレエからの踊り手は自家薬籠中とするレパートリーを危うげなく踊ってくれましたし、Aプロではベルニス・コピエテルスと、Bプロではエリザベット・ロスと組んで永遠の青年ぶりを発揮してくれたベジャール・バレエのジル・ロマンの好演も光りました。パリ・オペラ座のアニエス・ルテステュ&ジョゼ・マルティネズはマルティネズ作品&フォーサイス作品において手堅い演技。ポリーナ・セミオノワ&フリーデマン・フォーゲル組も新生面を見せてくれました。ヤーナ・サレンコ&ズデネク・コンヴァリーナ組は、Aプロでは今ひとつでしたがBプロの『コッペリア』で持ち直し。わが日本から出場した東京バレエ団の上野水香は、お似合いのマチュー・ガニオと『ジゼル』第2幕よりを、デヴィッド・マッカテリと『白鳥の湖』第2幕よりを踊り、美しいポーズと堂々とした存在感をみせ世界のトップと渡り合い健闘していました。

数々の歴史的な名演や伝説を生んできたフェスティバルからすれば、今回のA・Bプロにおいてそれに比肩する演技があったかどうか分かりません。判断は人それぞれでしょう。しかし、Bプロの第3部など白熱のパフォーマンスが次々と続き会場は盛り上がりました。演者としても特別な緊張感を抱いての演技だったのではと思います。並大抵のガラ公演では起こり得ない、尋常ならざる力が働いていたのは確かでした。

(2009年8月4日(Aプロ)、10日(Bプロ) 東京文化会館)

2009-08-10

[]『バレエ名作ガイド』

“バレエの魅力の中心はダンサーです”これは、このたび新書館から刊行された『バレエ名作ガイド』「鑑賞のポイント」の最初の言葉です。主役、ソリスト、コール・ド・バレエに至るダンサーたちの魅力を引き出す作品こそ名作として残る、という当たり前のようで見過ごされがちな視点から代表的なバレエ作品16作を読み解いた一冊。

あらすじ紹介は舞台の展開に即して書かれ便利であり、世界のスーパースターたちの踊った舞台写真(瀬戸秀美)も豊富なのがうれしい。そして眼目が三浦雅士氏による作品解説。『白鳥の湖』『眠れる森の美女』『ジゼル』『マノン』『椿姫』といった名作16作を丁寧に解きほぐします。さらに、順を追って読めば、19世紀から現在に至るまでのバレエという芸術の進化・深化してきた過程が手に取るように理解できます。まずプティパによる古典形式の確立ありき。ついで、バレエ・ブラン(白のバレエ)において踊り手が演技の解釈を深めてきたことによってバレエという表現が人間感情の機微をも何よりも鋭く深く伝えうるものとなります。その延長上にチューダー、クランコ、マクミラン、ノイマイヤーといった名匠の傑作が生まれました。その流れが鮮やかに示されます。

さらには「バレリーナの語る核心」と題して名プリマたちが名作を踊った際の体験や秘伝について語るページもあります。ダンサーがいなければいい作品は生まれない。名作とは常に発見があり、感動を与えてくれるもの。すばらしいダンサーとすばらしい作品が生む感動の源泉に迫った、バレエファン必読のガイドといえるでしょう。


バレエ名作ガイド―ダンスマガジン編

バレエ名作ガイド―ダンスマガジン編

2009-08-09

[]第20回清里フィールドバレエ『白鳥の湖』8/5公演

避暑地として知られる山梨県北杜市高根町清里のサマーシーズンの風物詩となった「清里フィールドバレエ」に今年も行ってきました!楽しかったです!!

主催は萌木の村バレエシャンブルウエスト(主宰:今村博明・川口ゆり子)。八ヶ岳の南麓、標高1,200メートルの高原で行われる野外でのステージは一度体感するとやみつきになります。今年で記念すべき20回目を迎えましたが、だからといって特別に構えることなく平常心で自信作をしっかり上演する姿勢が頼もしい。『くるみ割り人形』、『白鳥の湖』、ロシアの文豪プーシキンの韻文小説「エヴゲーニー・オネーギン」に基づいて1820年代のロシアに生きた人々やその日常の情景を描く『タチヤーナ』の日替わり上演です。8月5日に上演された『白鳥の湖』公演を観ることができました。

今年は7月27日に開幕しましたが、波乱の連続だったらしく、公演直前になって雨が降り、中断、再開を繰り返したということです。所見日は、開幕以来はじめて天候に恵まれたとか。この日の主演は舩木城&高山優という公私にわたるパートナー。高山にとって初の清里でのお披露目となりました。息のあったパートナーシップが映えます。高山は、グランアダージョを無事に終え、宮殿でのオディールのヴァリエーションで堂々たる演技をみせ秀逸でした。湖畔のほとりでの白鳥たちの群舞の美しさは鳥肌もの。昨年度のフィールドバレエ公演の成果で照明家協会賞優秀賞を獲得した後藤武の卓越した照明も相俟って息をのむような幻想美を醸しだしていました。

本番前のリハーサルも覗きましたが(オープンに観ることができます)、ダメ出しは厳しくも的確。立ち位置、脚先への意識、表情の付け方等細心の注意を払いより良い舞台を観客に提供しようという信念が感じられました。豊かな自然のなかで本物の感動を味わえる清里フィールドバレエの意義はいくら褒め称えても称えすぎることはありません。ここではじめてバレエ鑑賞の魅力に開眼した人も少なくないでしょう。運営は大変だと察せられますが、末永く続いていってほしいと願わずにはいられません。

期間限定blog「清里フィールドバレエ」

http://chambre.fruitblog.net/

2009-08-07

[]JCDNビデオダンス「DANCE×MUSIC!vol.3」

“部屋で映画を観るように、ダンスを観よう!!”を惹句に制作されているJCDNビデオダンスシリーズ。以前にも触れましたが、6月に最新作「DANCE×MUSIC!vol.3」がリリースされました。鈴木ユキオ[金魚]×辺見康孝『Love vibration』とyummydance×トウヤマタケオ楽団『手のひらからマウンテン』の2作が収録されています。

これまでの同シリーズでは、舞台収録したものの映像ソフト化でしたが、今回は、2つの舞台作品を全面的にリメイクしたもの。飯名尚人が監督を務め、作品に合わせたロケーションで全編再撮影し、映像的演出シーンを加えています。オリジナル音楽とダンスとのコラボレーションによる舞台も貴重で楽しく刺激的なものでしたが、ビデオダンス版では映像ならではの遊び心もプラスされています。

今回は、ビデオダンス作品と舞台収録作品の2バージョンを2枚組で収めており、見比べるのも一興では。メイキングやインタビューも収録されています。ビデオダンスの可能性を広げるものであり注目されていいように思いました。

※詳細はJCDNサイトから

DANCE×MUSIC! VOL.3 VIDEO version / CM

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2009-08-04

[]コレオグラファーズYダンスコンサートvol.2、服部有吉×辻本知彦×群青『3D』、MOKK LABO#5『古民家』、EAST DRAGON 2009

コレオグラファーズYダンスコンサートvol.2

安田敬の主宰するダンスカフェとムーブ町屋・日暮里サニーホール指定管理者シービーシーメソッド主催公演。若手ダンサー/振付家が、照明を中心に劇場スタッフの協力を得てステップアップする場として大変貴重です。今回は、福島千賀子の自作自演ソロ、垣内友香里が中島加奈子に振り付けた『Five of Kana's(分かちがたく付きまとう五つの私事)』、maguna-tech(武智圭佑/博美)『Happy Flower』を上演。バレエ/コンテに通じよく体の利くソロを展開した中島作品、ノイズ音楽とダンスのぶつかりあいをみせるmaguna-tech作品は、綿密に錬られた照明プランと相俟ってまとまりのあるものに。ただ、完成度を高めようとしたためか奔放さに欠けた面も。作品を練り上げる過程で失われるものもある。そのあたりの按配は難しい…。垣内作品は、ひとりの女性の内面の沈鬱を通して、個人と社会の関係に潜む病のようなものを浮き彫りにしていきます。言葉、声、歌も織り交ぜた多層的な舞台づくりも演劇畑出身の垣内ならでは。垣内の、表現者として「いま」という時代に向き合う誠実な姿勢に共感を覚えました。

(2009年7月30〜31日 ムーブ町屋)

服部有吉×辻本知彦×群青『3D』

服部有吉の日本では2年ぶりとなる劇場での新作発表に注目が集りました。バレエ(服部)×コンテンポラリー・ダンス(辻本)×ストリート・ダンス(群青)によるジャンルを越えたコラボレーション。そこにジャズピアニストの松永貴志が絡みます。ダンサーの三人は最初、ゆったりと動く場が多いですが、後半になるにつれ、それぞれの得意技を披露します。松永も足でピアノを弾いたりダンスに加わったりとやりたい放題に。かなりの部分は段取りが決まっていると思いますが、ジャズセッションのような即興を交えた自在さも感じました。個人的には結構楽しめたのですが、各人の妙技に浸れる以上の何かがあったか、作品として一本筋の通った核があったかとといわれれば疑問の声はあるかも。とはいえ、企画物としては「あり」なのでは。客席の反応も上々のようでした。

(2009年7月31日〜8月2日 あうるすぽっと)

MOKK LABO#5『古民家』

劇場にとらわれない空間においてパフォーマンスを行ってきたダンス集団MOKK(主宰:村本すみれ)が奈良県五條市新町「新町通り」古民家内において公演を行いました。アートによる町おこしとして地元NPOと提携、一年前からワークショップを行ったり地元イベントに参加したりと交流を重ねてきたうえでの公演です。天井裏からパフォーマーが現われたり、狭い屋内を所狭しと走り回ったり、庭でも踊ったりと場の魅力を活かし暴れまわります。時代を感じさせる古民家のなか行われるパフォーマンスに観客は日常から非日常の世界へとゆるゆると誘われシュールでユーモラスな世界に浸れます。地域に根付き活動、地元住民とも協力を重ね公演を行いコンテンポラリーなパフォーミングアーツの魅力を伝えたことは有意義。アサヒビール芸術文化財団の公募助成を受けていますが、こういった公益性のあるイベントへの援助は望ましく思います。

(2009年8月1〜2日 奈良県五條市新町「新町通り」古民家内)

EAST DRAGON 2009「與東龍共舞」

アジアの気鋭若手アーティストを取り上げてきたダンス企画「EAST DRAGON」。今回は3組が独自の才能を発揮しました。木野彩子の自作自演ソロ『ろうそくの火はどこへ消えるのか』は、暗闇のなか4つのロウソクを動かし空間を形成しつつじっくり踊ります。生成と消滅――ダンスという時間芸術の宿命とも重なる主題を知的に捉えていました。沼田志歩作品『NOT A DROP BUT THE FALL』は、沼田と梶谷拓郎のデュオ。デュオとは、最小単位の関係性の生まれるものですが、両者の微細な距離の揺らぎを捉えていました。振付・出演:KIM Sung-yong、音楽・演奏:Fracois RIALLAND、映像:JUNG Seung-Jaeによる『MAYDAY』は、ダンスとライブの音楽、ダンサーの動きと呼応したライブの映像が交錯。3者が不可分な状況を創り出し展開するパフォーマンスでアイデアは豊富でした。好企画なのに1回公演というのがなんとも惜しいところ。

(2009年8月3日 日暮里・d-倉庫)

2009-08-03

[]2010年の来日公演

まだ先で気が早いですが、来年度(2010年)の来日バレエ/ダンスのラインアップが明らかになりつつあります。世界的な経済不況といわれながらビッグカンパニーが続々来日するのは楽しみなところ。目についたものを挙げておきましょう。

1月には前年12月からツアー中のレニングラード国立バレエの公演において、ファルフ・ルジマートフが当たり役のひとつ『バヤデルカ』ソロル役を踊り収めるというのが大きな話題です。3月にはパリ・オペラ座バレエが2年ぶりに来日します。『ジゼル』&『シンデレラ』を上演。『ジゼル』では、華やかなオペラ座エトワールたちの競演が注目されます。『シンデレラ』はヌレエフ版。舞台はハリウッドに移し、映画スターの誕生をシンデレラストーリーとして描く読み替え版です。同じく3月にはニーナ・アナニアシヴィリ&グルジア国立バレエが来日、『白鳥の湖』『ロミオとジュリエット』を上演。ニーナのほかにアンドレイ・ウヴァーロフや岩田守弘も出演するようですね。

4月にはモスクワ音楽劇場バレエが来日、『エスメラルダ』『白鳥の湖』を上演。『エスメラルダ』は、わが国の団体でもいくつかがレパートリーにもってはいますが滅多にお目にかかれない作品なので注目されます。5月には2年に1度のお楽しみ「マラーホフの贈り物」が開催されます。少人数ながら精鋭揃いで満足できるガラ・シリーズ。マラーホフが芸術監督を務めるベルリン国立バレエでも「マラーホフ&フレンズ」というガラが好評を博しているようですが、わが国ではずいぶん前からマラーホフ企画のガラを楽しめていたわけであり、恵まれたバレエ鑑賞環境だと思わずにはいられません。

6月も注目の公演が続きます。英国ロイヤル・バレエが3演目を携え来日。上演されるのは『ロミオとジュリエット』『うたかたの恋(マイヤリング)』『リーズの結婚』。前二者はケネス・マクミラン、後者はフレデリック・アシュトンの代表作であり、ロイヤルのお家芸だけに好演が期待できます。先日急逝したピナ・バウシュが芸術監督を務めたピナ・バウシュ&ヴッパタール舞踊団が1977年初演『Komm tanz mit mir』を上演。死の直前にピナ自身も出演したという遺作も見て見たいところですが、もはや叶わぬことなのでしょうか。マシュー・ボーン『白鳥の湖』も話題の舞台。2003年に日本初演された際はソールドアウト続出で公演期間が延長されるという人気ぶりでした。その後ニュー・アドヴェンチャーズによるボーン作品は相次いで日本に紹介されましたが、ここ数年は来日が途絶えていただけに、ボーン・ファンならずともうれしい来日。7月には3回目となる「エトワール・ガラ」がパリ・オペラ座のプリンシパルを中心メンバーとして行われます。パリ・オペファンには応えられない年となりそうですね。毎回楽しみな現代作品の紹介にも期待したいところ。

10月にはオーストラリア・バレエ団が3年ぶりに来日。前回公演で大好評を博したグレアム・マーフィー版『白鳥の湖』と同じくマーフィー演出・振り付けによる『くるみ割り人形』を上演します。大人の鑑賞に耐えうる演出センスと批評性を備えた古典作品の新解釈は見逃せないところ。11月にはモーリス・ベジャール・バレエ団が来日します。2007年秋のベジャール逝去後初の来日となり、上演されるのは遺作『80分世界一周』。DVDが既に発売されていますが、巨匠の名作の数々も引用されたものでコアなベジャール・ファンからビギナーまでベジャールの舞踊宇宙に浸れるはずです。

これ以外にも夏から秋にかけていくつか企画があるでしょうし、コンテンポラリー・ダンス系の来日も相当数あると思われます。東京公演中心とはいえ、居ながらにして多彩なラインナップを味わえる日本の観客は幸せだと思わずにはいられません。