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ダンスの海へ 舞踊評論家・高橋森彦のblog このページをアンテナに追加 RSSフィード

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2009-10-20

[]vol.3 法村珠里(法村友井バレエ団)

大阪が誇る超名門大手バレエカンパニーが法村友井バレエ団です。創設は1937年。初代団長の法村康之、二代目団長の友井唯起子夫妻による創設期・発展期を経て1983年より法村牧緒が三代目団長を務めています。日本人としてはじめてレニングラードバレエ学校(ワガノワ・バレエ・アカデミー)に学んだ牧緒は、ペテルブルク派の精髄を知り尽くし日本におけるロシア・バレエの正統的な継承者として揺るぎない地位を誇っています。ベルギーや旧ソ連でも踊った経験を持つ名プリマ宮本東代子と公私共にパートナーとなり、ふたりの子女をもうけました。ひとり目がノーブルダンサーとして知られる長男の法村圭緒。その妹が今回ご紹介する法村珠里(ほうむら じゅり)です。

名門舞踊一家の三代目として陽の当る道を歩んでいますが、ロシア留学を経て法村友井バレエ団に入団して以後、着実にステップを踏んで今日に至ります。今年春には東京新聞主催全国舞踊コンクールのパ・ド・ドゥ部門にて第1位。予選から厳しい審査が行われ創作作品も審査対象とされる全日本バレエコンクールにおいても2年連続上位入賞を果たすなど実力は折り紙つき。近年は日本バレエ協会本部主催公演でもソリスト役を踊っています。両親から受け継いだ優れた容姿と柔軟な身体に恵まれ、バレエを踊る、主役を踊るに相応しい条件を生まれながらにして備えている逸材です。

技術の精確さに加え優美さ際立つ身体コントロールが特長。高々と脚を上げる際にも、無理に骨盤をずらしたりすることなく脚の奥からのびやかに繰り出す――しなやかで美しい体づかいにほれぼれさせられます。法村友井バレエ団は厳格なワガノワ・メソッドによる訓練が徹底されています。しかし、珠里の留学先は意外にもボリショイ・バレエ傘下のモスクワ舞踊学校。優美さを重んじるワガノワ・メソッドと力強さを誇るモスクワ派のメソッドの最良の精華を学んだ貴重な存在ということも特筆されるでしょう。

ソリスト・デビューは2005年初夏の『シンデレラ』夏の精。小気味よい踊りと清潔感溢れる演技に惹かれ、すぐさまプログラムの配役表を確認した覚えがあります。2007年秋に踊った『海賊』のグルナーラ役では、スケールの大きな演技を披露して急成長を遂げました。2008年初夏には『眠れる森の美女』オーロラを踊ります。幕を追うごとに精彩を増し、大変なスタミナを要求される大作を安定感十分に踊って底力を示しました。大舞台であるほど輝きを増し、実力を発揮する勝負強さ・舞台度胸の良さも大変に魅力的です。バレエ団公演のほとんどにおいて主役もしくは主要なソリスト役を踊っていますが、ロシア色の強いバレエ団ならではのレパートリー『騎兵隊の休息』主役や『シンデレラ』のタイトル・ロールで披露したはつらつとした表情豊かな演技は、上り調子の勢い・若さが相俟って爽やかな印象を残しました。技術だけではない心の感じられるバレエを踊る踊り手の多いバレエ団ですが珠里も例外ではありません。

このところはドラマティックな表現力が求められる役柄にも挑んでいます。先日亡くなったアンドレ・プロコフスキーの大作『アンナ・カレーニナ』のタイトル・ロールを今年1月、東京・新国立劇場(地域招聘公演)にて披露しました。悲劇のヒロインを体当たりで演じて評判となったため記憶に新しいかと思います。この作品のパ(ステップ)の組み立て自体はオーソドックスなものですが、パとパの間に感情をこめる余白があるのが振付の特徴。並みのプリマが踊れば単調な踊りと演技に終始し隙間風が吹いてしまう危険をはらみます。しかし、珠里は初挑戦ながらも熱演して健闘をみせました。芸術性と娯楽性を兼ね備えたロシア流ドラマティック・バレエの秀作ということもあり、キャリアを重ねていくに際して折にふれて踊っていくことが楽しみなレパートリーといえます。

今秋には大作『エスメラルダ』のタイトル・ロールに挑みます。ブルメイステル版を基に独自の版として磨き上げ再演を重ねてきた団の代表的なレパートリー(文化庁芸術祭大賞受賞作)。エスメラルダ役は、中村美佳、西田佑子という歴代のプリマが演じてきた役どころです。『アンナ・カレーニナ』も含め、若くして演劇性の強い作品に挑めるのは得がたいこと。父や母はじめかつて主役を踊った団員やキャラクター・ダンスを得意とする団員(日本のバレエ団としては例外的とも言えるくらいにキャラクター・ダンスの水準が高い)が脇を固め、しっかり支えるという布陣あってこそです。老舗ならではの長年の伝統を踏まえ、そこに清新なエネルギーが注入される刺激的な舞台となりそう。珠里にとってプリマとして一層の飛躍を占う上での試金石となりますが、近頃大役を重ねて踊り経験を積んでいること、大舞台に強いことからして成功が望めるはず。日本バレエの次代を担うホープたる彼女の快進撃はまだ始まったばかりです。(敬称略)

今後の出演舞台予定

法村友井バレエ団『エスメラルダ』

2009年11月5日(木)18:30/大阪厚生年金会館大ホール

※【主役】エスメラルダ役(共演:ワディム・ソロマハ)