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2009-11-30

[]小島章司フラメンコ2009『ラ・セレスティーナ〜三人のパブロ』

今秋、フラメンコ界からはじめて文化功労者に選ばれた小島章司がほぼ毎年恒例となっている11月末の公演を行いました。今回小島が挑んだのは、15世紀ルネッサンス期のスペイン古典文学『ラ・セレスティーナ』(11月27日〜29日 ル・テアトル銀座)。

フェルナンド・デ・ローハスによる原作は、散文による小説風の戯曲です。貴族の青年カリスト、貴族の令嬢であるメリベーアの激しい肉欲に満ちた恋が描かれますが、それを仕向けることになるのが妖術を用いる娼家の女将セレスティーナ。ドラマティックな悲劇を、パブロ・ピカソの画集「ラ・セレスティーナ」を出発点として構想し、1973年に相次いで死んだピカソ、パブロ・・ネルーダ(詩人)、パウ・カザルス(チェロ奏者)という“3人のパブロ”に捧げられた意欲作となりました。4回公演の最終回を観ましたが、とにもかくにもドラマティック。物語バレエならぬ物語フラメンコ、ドラマティック・フラメンコの極点というものはかくやという素晴らしい出来ばえに涙。ことに後半、場を追うごとに悲劇の結末へ向けて奔流のごとく畳み掛けていくダイナミックな展開に圧倒されました。

小島が演じたのがセレスティーナ役。奸智に長け老獪・海千山千、一筋縄ではいかない曲者の老婆という役柄であり、精神性高いと評され、まさに求道者のようにストイックな踊りの印象の強い小島にとって今までにない挑戦だったと思います。巨匠にしてこの大胆な冒険心!振り付け・演出にスペイン屈指の振付師ハビエル・ラトーレを招き、自身は演者として作品の一要素に徹したのもトータルな舞台芸術としての完成度を高めようとする姿勢の表れに他ならないと感じました。なかなかできることではないでしょう。ゲスト・バイレやカンテ、ギター、チェロ、パーカッションら本場からのキャストはいつもながらですが門外漢であっても一流だと感得できる素晴らしい人たち。作曲はおなじみチクエロのオリジナル、美術も名匠・堀越千秋。舞踊団のアンアンブルも前作『越境者』のとき以上に生き生きとした心の底から表現して踊るダンスをみせて充実していました。年度末の最後の最後に大変な力作、感動作が誕生した感があります。

以下、ご紹介するのはスペイン版「ロミオとジュリエット」とも称される「ラ・セレスティーナ」映画化版のDVDです。今回の公演プログラムに寄せられているスペイン演劇研究の第一人者:古屋雄一郎氏の文章において触れられていました。今をときめくスペイン人アカデミー賞女優ペネロペ・クルスの主演作です。私もこれから観ようと思います。


情熱の処女~スペインの宝石~ [DVD]

情熱の処女~スペインの宝石~ [DVD]

2009-11-29

[]「トヨタ コレオグラフィーアワード2010」応募開始

トヨタ自動車メセナ活動であり、世田谷パブリックシアターと提携して次代を担う振付家の発掘・育成企画「トヨタ コレオグラフィーアワード2010」が行われ、11月26日より出場者の募集を開始しています。2001年に第1回が開催され今回が7回目。

募集期間は2010年1月15日(当日消印有効)まで。応募資格は日本国籍を有するか日本に在住もしくは活動の拠点を置いている振付家で、自身の振付作品を発表した経験のある人。ジャンルは問わない。一般公募の中から審査委員によるファイナリスト選考会にて選出された「トヨタ コレオグラフィーアワード」ファイナリスト6名が7月19日に行われる「ネクステージ」(最終審査会)に出場。劇場における公開での作品上演審査を経て「次代を担う振付家賞」(1名)、「オーディエンス賞」(1名)を決定します。

審査委員は各地の劇場プロデューサー・制作者。ゲスト審査員は白井晃(演出家・俳優)、束芋(現代美術家)、原田敬子(作曲家)、古川日出男(作家)。「次代を担う振付家賞」受賞者は、翌年の受賞者公演に出演。トヨタ自動車から作品製作費の一部として200万円が助成され、世田谷パブリックシアターより公演会場の提供があります。

前回(2008年度)は公開での予選会が行われ、30名近い審査員の採点を加点集計するシステムだったが、旧来に近い方法に。ちなみに審査委員・ゲスト審査委員に評論家がいないのは今回はじめて。上演形態としても前回、審査会を行った翌日に受賞作品上演と授賞式を行ったためコンペを見た多くの観客が審査員のコメント等を聞けなかったのですが、今回はリリースを読む限り審査会と授賞式は同日に行うのでしょう。

若手の才能発掘に関してコンペ制度は有効性を失いつつあるという指摘もあります。しかし、「トヨタ コレオグラフィーアワード」は才能ある若手・中堅により光を当てる得がたい機会。ホップ、ステップ、ジャンプでいえばステップになった人もいればジャンプすなわちより社会的認知度のあがる足掛かりになった人も。東京一極集中になりがちなシーンにおいて砂連尾理+寺田みさこ、東野祥子、隅地茉歩という関西のアーティストを評価してきたことも認められるでしょう。2010年度の展開にも注目が集まります。

詳細情報掲載予定ページ

http://www.toyota.co.jp/tca/

「TOYOTA CHOREOGRAPHY AWARD 2010」

〜次代を担う振付家の発掘〜トヨタ コレオグラフィーアワード 2010

募集期間: 2009年11月26日(木)〜2010年1月15日(金)

「ネクステージ」(最終審査会)授賞式: 2010年7月19日(月・祝)(世田谷パブリックシアター)

主催: TOYOTA CHOREOGRAPHY AWARD実行委員会、トヨタ自動車(株)

提携: 財団法人せたがや文化財団 世田谷パブリックシアター

運営: トヨタコレオグラフィーアワード事務局

後援: 世田谷区

協力: NPO法人Japan Contemporary Dance Network(JCDN)

金沢21世紀美術館((財)金沢芸術創造財団)(予定)

2009-11-27

[]「ダンスマガジン」1月号

「ダンスマガジン」1月号(新書館)が届いたので早速拝読しました。

DANCE MAGAZINE (ダンスマガジン) 2010年 01月号

DANCE MAGAZINE (ダンスマガジン) 2010年 01月号

今秋リニューアルして3号目。前回5年前のリニューアル時からの路線を受け継いでビジュアルに見易い誌面づくりを心がけているのが感じられます。「稽古場のダンサーたち」「バレリーナ 美の秘密」といった新連載は、鑑賞者にもバレエを習っている層にも興味深い内容。吉田都「東京-ロンドン日記」では吉田さんがロイヤル・バレエでの最後の一年にかける思いがひしひしと感じられます。そして最近の同誌では、ロシア・バレエ系に誌面を割く割合が増えている印象。今月はニーナ・アナニアシヴィリ&グルジア国立バレエの現地取材のほか来年1月に東京バレエ団『ラ・シルフィード』に客演するレオニード・サラファーノフのインタビュー記事も。毎号何かしらの記事の載るパリ・オペラ座バレエはじめ欧米カンパニーの情報とのバランスも良く充実しているのでは。

また、同誌はバレエとくに内外の大バレエ団のみならず各地の団体やコンテンポラリーについても取り上げています。今号でも名古屋や関西のバレエ公演のレビューが出ていますし、コンテンポラリー・ダンスの祭典「ダンストリエンナーレ TOKYO」についても総括レポートが。先月号では現代舞踊協会「時代を創る 現代舞踊公演」についてレポートが載っていましたし、今号では「アーティスティック・ムーブメント・イン・トヤマ」という大学生による創作ダンスコンクールの詳細な報告が出ています。誌面に限りもありますしバランスは難しいでしょうがバレエ中心に偏りない編集ではないでしょうか。

そして最後に触れておきたいのが「ダンスマガジン・インタビュー」。今号登場したのは貞松融と浜田蓉子(貞松・浜田バレエ団)。夫妻が神戸の地でバレエ活動をはじめて半世紀の歴史が語られます。1960年代バレエ団結成前後の話は関西バレエ黎明期を知るうえでも貴重なものでしょう。バレエ学園を開設し踊り手を育てつつ兵庫県内を回る学校公演によってバレエ普及に努める雌伏の時代。子息の貞松正一郎がローザンヌ国際バレエコンクール入賞を果たし、本格的な全幕公演も行うようになった1980年代の躍進。阪神・淡路大震災に見舞われながらも内外の一流振付者や団員による創作を上演する「創作リサイタル」を毎年開催するなど意欲的活動を続け今にいたる絶頂期。そしてこれから。地域に根ざしつつ世界に通じるバレエ団を志向するカンパニーの過去・現在・未来が熱のこもった言葉によって語られ感銘を受けました。必読。

2009-11-26

[]JCDN「踊りに行くぜ!!」vol.10 in前橋公演

JCDN主催「踊りに行くぜ!!」vol.10前橋公演に行ってきました。

前橋では一度のお休みを除いて10年ずっと「踊りに行くぜ!!」が開催されています。主催の前橋芸術週間が中心になって市内各地のスペースで公演を行い、巡行型公演や屋外での上演も珍しくありません。

今年は『踊りに行くぜ!! with VIDEO DANCE』の一環として「踊りに行くぜ!!」に出演するアーティストのビデオダンスを製作し、映像作品と生のダンスを上映・上演しました。映像は飯名尚人が公募スタッフとともに前橋にて撮影。振付・出演:長内裕美『concord』、振付・出演:目黒大路『この物体』の映像版+ライブ版の上演となったわけです。名画座「シネマまえばし」での映像上映の後の模様を簡単に報告します。

夕闇に包まれる頃、名画座から前橋中央商店街へと誘導され、商店街沿いにある、こんもりとした芝生の広場へと案内されます。そこで長内のパフォーマンスが始まりました。2009年横浜ダンスコレクションR「横浜ソロ×デュオ<Compétition>+」にて審査員賞受賞した作品。装置・道具は小さなイスだけ。振り付けはさほど手を加えていないようで、ゴロっと転がっていたり日常的な仕草のようなものとダンサブルな動きが淀みなくもときにアクセントのある展開を生んで目が離せなせません。クラシックバレエの素養があり、大学ダンスやH・アール・カオスで活躍した経験を持つ長内は、豊かな私的感覚と確かな技量をあわせ持っているだけに、幅広いオーディエンスの支持を得られる創作を生んでいくことが期待できそう。

長内の終演後、商店街をさらに進み、信号を渡った筋に誘われます。そこはアーケード街なのに薄暗く電灯もあまりついていません。しばらくすると、何十メートルも向こうから全身白のダンサーらしき影がごそごそ動いているのが目に入ります。目白です。腰を落としゆっくりと横に横に斜めに斜めにとゆっくり蟲のようにうごめいていきます。少しカーブした通りをゆっくりと近づいてくる姿に距離感が麻痺させられるような感覚を覚えました。人影まばらな商店街ですが通行人は目白の姿を確認すると怖がって避けていったり・・・遠巻きに観ていたり・・・。目白が観客のすぐそばにきてもスルーしてその先を進み、信号を渡って観客から遠ざかっていって幕となります。日常的な空間に闖入した異物がもたらすスリルのようなものを感じさせられました。

「踊りに行くぜ!!」は10年目に達し、各地のスペース間の巡回を通してコンテンポラリー・ダンスの紹介と地域からの新たな才能の発掘を行ってきました。コンテンポラリー・ダンスがある程度の社会的認知を得たこと、また、さまざまな才能が登場して新しいもの探しが一段落したことから、次なる展開が注目されます。文化庁の芸術団体人材育成支援事業を受けているものの巷で話題の事業仕分け問題もあって来年以降の見通しはどうなることか。しかし、ダンスと社会を結びつけ新たな出会いを生み人と人の関係や地域社会を活性化させるプロジェクトとして今後も続くことを願ってやみません。

2009-11-25

[]マリインスキー・バレエ『白鳥の湖』横浜公演

マリインスキー・バレエ来日公演が開幕、横浜公演『白鳥の湖』初日を観た。

数ある『白鳥の湖』のなかでもマリインスキーの上演には格別なものがある。いまや世界各国で上演される『白鳥の湖』だが、その礎を築いた1895年のプティパ/イワノフ版が初演されたのがマリインスキー劇場。そして、1950年以来今日に至るまで同劇場が世界各地で上演するセルゲーエフ版は、本家本元らしい優雅さ・品位を備えた決定版のひとつといえる。

今回印象的だったのが音楽。劇場付きオーケストラではないがボリス・グルージン指揮の東京ニューシティ管弦楽団の演奏。舞踊と音楽が緻密に結びついている。第1幕1場城の庭園では、王子の友人たちや道化たちの踊りがレベランスもそこそこにきびきびとテンポよく進む。指揮者が音楽面を主導していく舞台づくりは本場ならでは。

マイムもこなれている。これもバレエ学校時代からマイムや演劇のレッスンを受けているからこそ。年季が違う。キャラクター・ダンスも充実。スペインでもナポリでもマズルカでもテンポ、リズム感が大切なのはいうに及ばず腕や方の使い方や角度等もちゃんと決まっていてそこを崩さずにやれるのはやはりロシアの本場ならではと痛感できる。

オデット/オディールはアリーナ・ソーモワ。プロポーション抜群で柔軟性にも優れとにかく脚がよく上がる。柔軟性はあるのだけれども軸もしっかりしていて腕・肩・腰にかけて出るラインはとてもきれいだ。2幕舞踏会の場におけるグランフェッテでは、ダブルを入れつつ微動だにしないほぼ完璧な出来。会場は大いに沸いていた。ジークフリート王子のウラジーミル・シクリャーローフ。2007年にソリストに昇進した若手ながら端正でいて甘い雰囲気もあって今後に期待できそう。

現在のマリインスキーでは、プリマでいえば『眠れる森の美女』『イワンと仔馬』にも主演するソーモワ&テリョーシキナさらにはオブラスツォーワといった若手もどんどん出てきていている。もちろんロパートキナ&ヴィシニョーワという大スターも健在。楽しみな時期はまだまだ続きそう。

マリインスキー・バレエ公式HP

http://www.japanarts.co.jp/html/2009/ballet/mariinsky/index.htm

2009-11-23

[]水の江滝子 死去

“ターキー”の愛称で知られ、俳優として舞台・テレビで活躍したのち、日活黄金時代の映画プロデューサーとして活動、石原裕次郎を発掘したことで知られる水の江滝子さんが16日老衰のため死去しました。94歳。

1928年に13歳で東京松竹楽劇部(のち松竹少女歌劇団)第1期生として入団、ショートカットでタキシード、シルクハット姿に扮して“男装の麗人”という呼称で話題になりました。舞台でカウボーイ役を演じて拳銃を構えて「俺はミズノーエ・ターキーだあ」と見得を切ったことから“ターキー”と呼ばれるように。松竹内のストライキでは水の江が闘争委員長となってジャーナリズムの注目を集めることもありました。

中山千夏の書いた「タアキイ―水の江滝子伝」というものを以前読みました。舞台活動は戦後まもなくして辞めましたが、日本のレビュー界初期に活躍した大物としてしっかり記憶しなければならない人だと思います。謹んでご冥福をお祈りいたします。


タアキイ―水の江滝子伝

タアキイ―水の江滝子伝

2009-11-21

[]ショパン生誕200年

来年は前期ロマン派音楽を代表する作曲家フレデリック・ショパン(1810〜1849年)の生誕200年にあたります。ショパンといえば、自らピアノを演奏する傍らピアノ独奏曲を数多く作りピアノの詩人ともよばれる音楽史上に燦然と輝く存在。しかし、生涯を通じて肺結核を患い、ロシア帝国に思うが侭にされる故国ポーランドへの思いひとしおながらも後半生のほとんどをフランスですごした苦悩と漂泊の芸術家でもあります。ショパンのピアノ曲を用いたバレエ作品では、ミハイル・フォーキン振付『レ・シルフィード』や今秋ニューヨーク・シティ・バレエ来日公演でも上演され清冽な感動を呼んだジェローム・ロビンズ振付『ダンシズ・アット・ア・ギャザリング』等の名作が知られましょう。

ショパンの生誕200年を迎えるにあたって、それを記念しての作品上演も。古典・創作の上演に加えバレエ史上の貴重な作品の復刻を行なう等多彩な展開でバレエ界を刺激するNBAバレエ団。2月にはディアギレフのバレエ・リュス出身でかのニジンスキーの妹であるニジンスカ振付『ラ・フィユ・マル・ガルデ』を日本初演することが話題になっていますが併せて芸術監督である安達哲冶振付による『ラスト・コンサート』を上演します。「ピアノ・コンチェルト第2番」を用いた創作のようですね。近代バレエ作品や数多の日本初演作品を継承したレパートリー中心に上演活動を行う東京小牧バレエ団は3月に佐々保樹版『火の鳥』と同時に『ショパン賛歌“憂愁”』を上演。これもショパンのピアノ曲を使ったもので、菊池唯夫・菊池宗によって1990年に初演されています。ロマン派音楽家の哀しみの生涯とこれまた不遇の生涯をすごした詩人・石川啄木の詩に想を得て創作されたもの。今回、酒井正光が再振付し、ショパン役を李波が踊るようです。

またショパン生誕200年を謳ってはませんが、2月上旬に行われるNBS/日本舞台芸術振興会主催「マニュエル・ルグリの新しき世界」公演Bプロ「ルグリと世界の輝けるスターたち」では、オーレリ・デュポンとフリーデマン・フォーゲルがショパン曲・ロビンズ振付『アザー・ダンス』を踊ります。昨夏のNBAバレエ団「ゴールデン・バレエ・コー・スター」において同作品を踊ったアシュレイ・ボーダー&サイモン・ジョシュア・ボールの名演が記憶に新しいですが、珠玉の名品にまた触れられるのは楽しみなところ。

舞踊と音楽は切っても切離せない関係。多くの振付家は普段から多くの音楽(とくにクラシック)を聴いたり、創作に当たって集中的に曲探しをしたりするとか。観客としてもバレエ・ダンス公演で耳にした音楽を家に帰って改めて聴いてみたり、耳にした曲やその作曲家について調べてみたりするとよりダンスが奥深く楽しめるように。ショパンの曲についても改めて脚光を浴びる機会なのでまた色々と聴いてみたいものです。

ショパン:ピアノ名曲集

ショパン:ピアノ名曲集

決定版 ショパンの生涯

決定版 ショパンの生涯

2009-11-20

[]東京バレエ団の2010年のラインアップについて

東京バレエ団の2010年度ラインアップが11月20日付で発表されました。

http://www.nbs.or.jp/blog/news/contents/topmenu/2010.html

1月

「ラ・シルフィード」全幕

2月

<マニュエル・ルグリの新しき世界>Aプロ

2月

「シルヴィア」全幕【東京バレエ団初演】

4月

「ザ・カブキ」全幕

5月

「オネーギン」全幕【東京バレエ団初演】

6〜7月

第24次海外ツアー

8月

海外公演帰朝報告公演(仮称)

9〜10月

「ジゼル」全幕

12月

「M」全幕

一番の話題はクランコ『オネーギン』のバレエ団初演でしょう。世界のあらゆる著名ダンサーたちが踊りたがるドラマティック・バレエ不朽の名作ですがなかなか上演許可が下りないことで知られています。以前、韓国のユニバーサル・バレエが『オネーギン』を上演するという報は入っていて、同じアジアの国のバレエ愛好者として忸怩たるものがありました。今回東京バレエ団に許可が下りたのは何より。東京バレエ団総監督の佐々木忠次はその著書「闘うバレエ」において齋藤友佳理と高岸直樹、首藤康之(特別団員)がいるうちに『オネーギン』を上演したいと書いていましたが、なんとか間に合ってよかったというのが佐々木氏だけでなく多くのファンにとっても偽らざる想いでしょう。

ここ数年、私は『オネーギン』とノイマイヤーの『椿姫』をレパートリーに入れたカンパニーが「勝ち組」になると考えており、このblogでも書きました。実際、版権さえ維持していければ折々世界のスターたちを招いて永続的な集客が可能になります。『オネーギン』に限らず東京バレエ団がレパートリー化するマカロワ版『ラ・バヤデール』やアシュトン『シルヴィア』は繰り返しの再演に耐える傑作。演者ごとに演技を深められ多様な光彩を放つ物語バレエの傑作の需要は一層拡大していくはずであり、国際的視野に立つ大バレエ団であれば喉から手が出るほどほしいでしょう。いっぽうで気鋭の振付家/ダンサーのパトリック・ド・バナの作品を初演するなどコンテンポラリーへの取り組みにも意欲的です。海外ツアーも予定されており、6月のハンブルク公演では前後してハンブルク・バレエがノイマイヤーが東京バレエ団のために振付けた『月に寄せる七つの俳句』『時節の色』を初演。国際的にも東京バレエ団の存在感が大きくなるでしょう。

いい作品が揃い、踊る機会も多ければ若い優れたダンサーもどんどん東京バレエ団に入りたくなるのでは。実際、東京バレエ団では若手の抜擢が目立ちます。4月に上演の『ザ・カブキ』では、柄本弾を由良之助に二階堂由依を顔世御前に抜擢。

http://www.nbs.or.jp/blog/news/contents/topmenu/20104.html

これは『くるみ割り人形』から来年の『ラ・シルフィード』『シルヴィア』に至る公演で行う「マイ・キャスト シリーズ」に続く試みでしょう。ちなみに明日(11月21日)に行われる『くるみ割り人形』公演に主演する佐伯知香&松下裕次の魅力と個性について公演プログラムに寄稿させていただきましたが、新世代の踊り手をその資質を見極めながらじっくり育てつつ(←重要)ここぞというタイミングで抜擢を行う東京バレエ団の攻めの姿勢には目を瞠らされるものがあります。「マイ・キャスト シリーズ」はオーケストラ付でS席7,000円、『ザ・カブキ』もテープ演奏とはいえBunkamuraオーチャードホール上演でS券9,000円。廉価席も用意されています。観客が気軽に暖かく若手の成長・躍進を見守ることのできる体制・雰囲気作りを意識しているのが見て取れる。観客重視。メディアを使って押し出しても観客の支持がなければスターが生まれないことは明々白々です。

他にも『M』の再演や海外帰朝公演等楽しみなところ。事業仕分け問題で揺れる舞台芸術界。そんななか、これだけの豪華なラインアップを予定しているのには驚かされます。文化庁助成のほかファンドレイジングやポワント基金といった民間からの援助もあり、そしてなによりしっかりと集客を見込めるラインナップと体制作りができていることが大きいでしょう。自助努力も必要。いずれにせよ楽しみな一年となりそうですね。

2009-11-19

[]パリ・オペラ座の次代を担う希望の星 マチュー・ガニオ

11月18日(水)付読売新聞夕刊・pop Style面「ALL ABOUT」にパリ・オペラ座バレエ団の若きエトワール、マチュー・ガニオのインタビューが出ています。取材は同blogのキャラ“非モテ編集長”こと祐成秀樹氏。じつはバレエ専門記者として10年のキャリアを誇る方。また、NBSのwebにも映画・演劇とともにバレエにも造詣深いフリーランスライターの佐藤友紀さんによるマチューのインタビュー記事が掲載されています。

マチューといえば、ドミニク・カルフーニ、デニス・ガニオの間に生まれたバレエ界のエリート中のエリート。これまで上野水香と組んで『眠れる森の美女』を踊り、今年は世界バレエフェスティバルでも上野と共演しています。両者の相性は抜群で私的には前回のバレエフェスも組んで出ていてもよかったと思うほど。来年はオペラ座バレエの来日公演にて『シンデレラ』に主演。夏の「エトワール・ガラ」にも出演するようですね。

世界的に見てプリマのみならずダンスール・ノーブルのスターが乏しい現状、マチューの存在は希望。進境に期待したいところ。2006年の来日公演ではキャンセルとなっただけに今回はオペラ座の来日で全幕を踊るマチューをしかと見届けたいところです。

「popstyle」ブログ

http://blog.yomiuri.co.jp/popstyle/

パリ・オペラ座・マチュー・ガニオ インタビュー

http://www.nbs.or.jp/blog/1003_parisopera/contents/2009/11/post-18.html

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2009-11-18

[]黒田育世/BATIK『花は流れて時は固まる』

フェスティバル/トーキョー09秋で上演中の黒田育世/BATIK『花は流れて時は固まる』。2004年、パークタワーホールでの初演は鮮烈な印象だった。構成も振付も荒削りなのは否めぬも切実というか伝えたいものがあるというか・・・。朝日舞台芸術賞受賞してキリンダンスサポートを受け再演されるはずがその後国内再演はなかった。演出上、タッパのある空間でないと上演できないという特殊性があったからかも。

2007年ベネチア・ビエンナーレでの再演もあったけれども国内での5年半ぶりの再演は文字通りのリ・クリエーション。構成も振付も大幅に変わってはいた。時間軸や空間軸をテーマにしているのだろうけれど、そんなことよりも動きで、身体で語る勇気というか覚悟が並一通りではない。兎にも角にも振り付けがハード。ダンサーたちは90分間ほとんどずっと踊りっぱなし。でも以前ほどの必死感はなくて淡々と踊っているように見えるのがまたすごい。終盤、黒田がソロを踊っている後ろの上からダンサーたちが落下を繰り返す場は初演同様圧倒的。それだけでも必見もの。カタルシスが得られる。そういえば初演の際のアフタートークでゲストの山口小夜子さんが興奮を隠せずに口を極めて黒田作品を絶賛していたのを思いだす。若い才能を無邪気過ぎるくらい素直に賞賛・応援できる素敵な人だなと思ったが、その山口さんは今はなき存在に・・・。

黒田作品は『SHOKU』に顕著なように女性である私的感覚(アフタートークでの黒田の言によると意外にも「女性性」とか意識したことはないという)がときに露悪的にまで開陳される。苦手な人はとことん苦手だと思う。でも、過激でときに露悪的であっても今回の公演プログラムに寄稿された乗越たかお氏が書くように“俗に落ちない”。ある種の突き抜けた清浄さを感じる部分があるので私は不快には思わない。以前は脈絡なくシチュエーションを連ねた印象もあったが『ペンダント・イヴ』(2007年)以降は、魅せ方もうまくなり、構成力も大幅にUP。振付面も以前ほどバレエっぽさは感じられず工夫もある。今年は“新境地”と評されたドキュメンタリー的作品を福岡で初演、東京でも上演されたが、個人的にはあまり買えなかっただけに今回も危惧していたけれども杞憂に。

BATIKの作風の過激さや露悪性を表層的に捉えて拒否感を示す向きやイチャモンをつける人もいるようだが、そんな声に負けず黒田にはわが道を行ってもらいたい。近年は黒田と同年代の鈴木ユキオや東野祥子も活躍しているが黒田と矢内原美邦は2000年代初頭からコンテンポラリー・ダンスを牽引したという点で特別な存在なのである。

(2009年11月17日 にしすがも創造舎)

2009-11-16

[]公演の見せ方について

来年6月、9月に英国ロイヤル・オペラ&バレエが来日します。それに先立って、このたび来日した英国ロイヤル・オペラ・ハウス総支配人トニー・ホール氏を囲んで都内で行われた記者懇親会の模様が招聘元のウェブサイトに載っています。

http://www.nbs.or.jp/blog/news/contents/cat114/post-168.html

バレエ・ファン的には、ロイヤル・バレエ公演の公演日が出たことが見逃せませんが、ホール氏のコメントのなかに興味深いものがありました。それは、ロイヤル・オペラハウスの現状を語った話のなかに出てきます。同オペラハウスがこの10年のあいだにバレエやオペラを観たことのない層や年齢層の観客に劇場に足を運んでもらえるように行ってきたアプローチについて。大衆紙の読者に向けて通常より割安な料金を設定したり、オペラを屋外会場や国内外の劇場でライブビューイングとして上演するなど新機軸を打ち出しているとのこと。そして実際に少なからぬ成果を上げているようです。

わが国の舞踊団やオペラ団体、クラシック音楽関係の団体は舞踊界や音楽界以外へのアピールに乏しいのが現状。既存メディアや新興のweb媒体等への情宣に加えblog公開や動画発信等によって情報発信している団体も増えてきており改善の兆しは見えるとはいえ、抜本的な改革を目指すなら、生の舞台に触れてもらえる機会を増やすしかありません。各種助成金や寄付金等も少なくありませんが(今後の財政改革によってどうなるのかわかりませんが・・・)、それらを舞台の質の向上のために使うとともに観客層の拡大のため入場券料金を下げる等の営業努力に活用することが必要でしょう。無論、エコノミー券や学生券を充実させ若手公演を廉価で提供する東京バレエ団/NBSのように既に実行に移している団体も出てきていますが。

さらに、普及活動も大切です。大手の団体や各地の有力団体のなかには学校公演や地域住民へのアウトリーチ活動を積極的に行っている所も少なくなくありません。そういった地道な活動は今後も続けてほしいところ。普及活動をより充実させつつ公演の見せ方・売り方を改め、より社会へとアピールする活動が舞踊界に強く望まれます。

2009-11-13

[]無料で観られる公演

入場無料で観られるダンス公演、しかも参加アーティストの顔ぶれも玄人好みで企画としても見ごたえありそうなものがいくつか続くのでご紹介しておきます。なお、掲載情報についての責は負いかねます。一次情報ご確認のうえ足をお運びください。

ひとつ目は関西。京都の初音館スタジオが主催するイベントです。松山を拠点に内外で活躍する女性ダンスユニットyummydanceのメンバー合田緑、戒田美由紀と合田の実弟でありmonochromecircus(本拠地・京都)の主要ダンサーとして活躍する合田有紀のトリオ、そしてアムステルダムから来日するトリオが踊るようです。マニアックな企画ですがポップなテイストもあるでしょうし広く楽しめるのではないでしょうか。

「OK101(初音館スタジオ)ダンス公演」

日時:11月14日(土)19:00、15(日)17:00

会場:OK101(初音館スタジオ)

料金:無料

続いては新進振付家として広く注目を集め、私もその作品が大好きなキミホ・ハルバートがダンサーとして踊る舞台があります。明治学院大学出身でパリで踊る若手ダンサー上野天使と彼の所属するカンパニーのディレクター、パコ・デシナとともに上野の振付作品を踊るようです。作品自体の仕上がりはどうなのかわかりませんが、キミホ・ファンやコンテンポラリー・ダンスのマニアックな観客にとっては気になる企画です。

『WEOGO ウェオゴ』

振付・演出:上野天使

出演:パコ・デシナ、キミホ・ハルバート、上野天使

日時:2009年11月25日(水)18:30

会場:明治学院大学 アートホール

料金:無料

http://www.meijigakuin.ac.jp/~french/information.html

最後は埼玉県舞踊協会の若手ダンサーが踊る「コレオグラファーの目vol.5」。今回は、アートの発展とネットワーク作りを目指すSMF(Saitama Muse Forum)とリンクした企画となります。アートフリーマーケットに赴いてコラボレーションを仕掛けるという【押しかけショートパフォーマンス】と、北浦和公園に立ち並んだ3,000本にも及ぶという風車のインスタレーションのなかで作品発表する【まわれ、まわれ、風の娘たち】を開催。劇場を飛び出し若い感性が創造するパフォーマンスに注目が集まります。

「コレオグラファーの目vol.5」

【押しかけショートパフォーマンス】

日時:11月21日(土)(予備日22日)13:30〜14:00

会場:北浦和公園噴水前広場〜埼玉県近代美術館エントランスポーチ

料金:無料

【まわれ、まわれ、風の娘たち】

日時:11月23日(月・祝)(予備日28日)13:00〜14:00

会場:北浦和公園

料金:無料

2009-11-10

[]vol.4 佐伯知香(東京バレエ団)

バレエ公演の華たるプリマ・バレリーナ。いま、日本で名前だけで観客の呼べるプリマ、毎回一定以上の水準のパフォーマンスを必ずみせてくれるプリマがどれほどいるでしょうか。大手団体中心にマスメディアも使って若手プリマの売り出しに躍起になっていますが、現状はなかなか難しいようです。スター性で客を集める存在は出てきていませんが、しっかりとした技術・表現力を持ったプリマは何人も出てきており末頼もしい限り。今回ご紹介する佐伯知香(さえき ちか)は、その代表的存在といえます。

佐伯は、映画「フラガール」の舞台として知られる福島県・いわき市出身。内外のバレエコンクール入賞者を多数輩出する山本禮子バレエ団付属研究所に学び、横浜の木村公香アトリエ・ドゥ・バレエを経て2001年にチャイコフスキー記念東京バレエ団に入団しました。早くからソリスト役を務め、伸びやかで美しい身体のラインとチャーミングな演技によって熱心な観客や玄人筋に注目されてきました。小さな役でも必ずキラリと光るところをみせる逸材。開脚がしっかりし、体の軸も安定。基本に忠実に、誤魔化しのない正しいポジションから繰り出されるパの精確さラインの優美さは今の日本の若手プリマのなかでトップ・オブ・トップのひとり。『白鳥の湖』パ・ド・トロワ等では、しっかりソリストの任を果たし、愛くるしさ全開の『ドン・キホーテ』キューピッドは当たり役です。『ぺトルーシュカ』や『ドン・ジョヴァンニ』等ベジャール作品でも活躍しています。

全幕主役デビューは今年6月の『ジゼル』(学校公演・一般非公開)。遅きに失した感もあるかもしれませんが、私はそうは思いません。バレエ団が、メディアを使って大々的に若手の売出しを図るというのもひとつの方針でしょう。が、合わない役に就けたり時期尚早の抜擢を行ってダンサーのキャリアを潰すことにもつながりかねません。その点、東京バレエ団の場合、人材事情や時期によって例外はあるにせよ、基本的に若い踊り手を育てるに際して、着実にキャリアを積み上げさせる姿勢が顕著です。佐伯や先輩にあたる小出領子といった、決して派手さはなくても芯が強くしっかりとした技量を持った踊り手がプリマにまで育ったのも、そういう土壌あってこそではないでしょうか。

さて、話しが逸れました。佐伯は『ジゼル』の主演デビューに先駆けウラジーミル・マラーホフが指導するDVD「プレミアム・レッスン」シリーズ(新書館)の『ジゼル』『白鳥の湖』に長瀬直義と出演しました。マラーホフが伝えたいのは、技術面も大切ながら舞台とくに全幕バレエにおいては感情面・表現力が大事ということ。佐伯はそれを肌で感じて学んでいる様子が伝わってきます。主役デビュー前に貴重な体験ができたのは幸運だといえるでしょう。『ジゼル』本番の舞台は好評を博しました。そして次なる主演の舞台として設けられたのが11月21日に行われる東京バレエ団『くるみ割り人形』です。

この公演は、アリーナ・コジョカル&ヨハン・コボーを招き3回上演されるのと並行して土曜日のマチネに「マイ・キャスト シリーズ」と称した特別枠の形式で行われるものです。先にも触れましたが、若手を全幕主演に抜擢するのは大変なリスクを伴うものです。大バレエ団であるほどに。その点、東京バレエ団では、一般公演よりもチケット代金も大幅に抑え、若い才能を応援する観客に集まってもらいやすいようにと広報・宣伝にも工夫を凝らしてアットホームな客席を作るように心がけていくようです。スターというものは作り出そうとして作られるものでなく、生まれるもの、いや、観客が育てていくもの。来年1月の『ラ・シルフィード』、2月の『シルヴィア』でも同様の試みが行われますが、先陣を切って今回、佐伯と松下裕次が主演を務めます。ちなみに公演の際に販売されるプログラムに佐伯と松下の魅力と今回の舞台への期待を記した一文を寄稿させていただきました(上記した『ジゼル』公演の舞台の模様にも触れています)。詳しくはそちらもご高覧いただきたいと思いますが、一観客としても心から楽しみにしている舞台です。今回上演される『くるみ割り人形』のヴァージョンはワイノーネン版なので、クララ役から金平糖の精までほぼ全編を通して佐伯が出ずっぱり。次代を担うプリマの才能が大きく花開く瞬間にひとりでも多くの方が立ち会って欲しいと心から願っています。

今後の出演予定舞台

平成21年度文化芸術振興費補助金(芸術創造活動特別推進事業)

東京バレエ団創立45周年記念公演8[マイ・キャスト シリーズ1]

チャイコフスキー記念東京バレエ団『くるみ割り人形』全幕

●2009年11月21日(土)13:30/東京文化会館

【主演】クララ役

http://www.nbs.or.jp/stages/0911_nuts/mycast.html

【岩国公演】

●12月12日(土)14:00/シンフォニア岩国

【主演】クララ役

http://sinfonia-iwakuni.com/event/details.php?schedule_id=643

佐伯と松下裕次の対談記事が載った「クララ」最新号↓


Clara (クララ) 2009年 12月号 [雑誌]

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マラーホフのプレミアム・レッスン1「ジゼル」↓

マラーホフのプレミアム・レッスン2「白鳥の湖」↓

2009-11-08

[]大阪市主催・平成21年度 青少年に贈る舞台鑑賞会「バレエ」『ドン・キホーテ』&MRB・バレエ小発表会

大阪市が主催し青少年のために良質の舞台芸術を廉価で提供する「青少年に贈る舞台鑑賞会」。バレエ部門は今年で4回目を迎えました。毎回早々に入場券が完売する人気公演です。初回から芸術監督・企画プロデュースを担当するのがMRB松田敏子リラクゼーションバレエを主宰する松田敏子。MRBは毎夏、京阪神を中心とした一流ダンサーの集う「バレエスーパーガラ」を開催し、今夏ですでに11回を数えています。大小さまざまの団体が林立する関西のバレエ界において松田はオープンスタジオという利点を活かしてコーディネーター、プロデューサー的立場で存在感を示してきました。関西バレエの魅力を発信する旗手といえるでしょう。大阪市から企画制作を委託された「青少年に贈る舞台鑑賞会」で発揮する手腕にも端倪すべからざるものがあります。f:id:dance300:20091108032246j:image

入場時の模様。大入り満員の盛況で何より。

今回の『ドン・キホーテ』は朝昼2回上演。振付は松田と小嶋直也。町の広場から夢の場、居酒屋を経て大団円へと向かう構成です。風車小屋やジプシーたちの人形劇等の場をカットして約90分にまとめていました。この公演は大阪市民ことに青少年に向けたものですが、バレエ通であれば豪華なキャスティングに目を奪われるでしょう。プログラムに評論家の桜井多佳子さんが“個性的なダンサーが多い関西だからこそ実現するこの公演は、東京はじめ全国に、回を重ねるごとに知られていっています。全国のバレエファンがうらやましがる公演といえるでしょう”と書かれていますが、まさにそのとおり。主役のキトリとバジルを柳原麻子&法村圭緒(朝の部)、吉田千智&福田圭吾(昼の部)が務め、エスパーダ&メスセデスには小嶋直也&田中ルリ(朝の部)、竹中優花&武藤天華(昼の部)。居酒屋の女を振付家として知られる矢上恵子、ロレンッオを芸達者の梶原将仁、ドン・キホーテを法村友井バレエ団のベテラン井口雅之が務めるという豪華さ。男性のアンサンブルには牧阿佐美バレヱ団および貞松・浜田バレエ団の生きのいい若手男性陣が揃うなど隅々まで厳選された配役。面白くない筈がありません。

朝の部では、ベテランの域に入りつつも若々しさを失わない法村とキトリ役を得意とする柳原のコンビ、そして小嶋&田中というスター中心に大人びた雰囲気を醸して見ごたえのあるドラマを生み出しました。昼の部では、華奢な身体と美しいラインをみせる吉田とクールに超絶技巧を決めていく福田、公私のパートナーらしく息のあった演技の光る竹中&武藤らがエネルギッシュに踊って爽やかな舞台に仕上がっていました。矢上や梶原、井口はもちろんのこと若手の踊り手も役を楽しむ余裕が感じられ、それが舞台に活気をもたらしています。人材豊富な関西バレエ界のエッセンスを凝縮したかのよう。楽しさ溢れつつコアなバレエファンにも満足できる見所豊富な公演でした。

『ドン・キホーテ』終了後は、同会場にてMRBプロデュース小発表会が行われました。第一部、第二部のヴァリエーション&パ・ド・ドゥ集を経ての第三部が眼目の『ロミオとジュリエット』です。総監督・振付・演出は小嶋直也。小嶋は、牧阿佐美バレヱ団やAMスチューデンツ、新国立劇場バレエ研修所等で後進の指導にあたりつつ昨年秋の法村友井バレエ団『白鳥の湖』以後、踊り手として鮮やかな復活と躍進を遂げファンを喜ばせています。そして今回、発表会とはいえ全幕バレエを初めて振付けました。

新旧さまざまの版があり、バレエファンにも人気の演目『ロミオとジュリエット』。小嶋版は、そんななかにあって奇を衒わない直球ストレート勝負の演出ながらもロミオとジュリエットの出会いから別れまでをテンション高くスピーディーに展開します。特筆すべきは、主役から脇役、アンサンブルにいたるまでの演技・表情がナチュラルに演出されていた点。ロミオとジュリエット、それにティボルトやパリスらが絡む場では、それぞれの視線や表情が人物間の微細な関係性を何よりも雄弁に語ります。決闘の助けに入ろうとするも仇になり親友のマキューオを殺された際のロミオの嘆きと悲しみが憤怒へと変わるプロセスも説得力十分。終幕、仮死状態のジュリエットをみて毒を飲み息絶えていくロミオと、眠りから覚めて起き上がっていくジュリエットが同時に描かれる場では、生と死の交差のなかに無常、不条理を描きつくして感銘深いものがありました。

ロミオは牧阿佐美バレヱ団の藤井学。ジュリエットはMRBの大人の生徒の方ですがしっかりした演技力の持ち主。瞠目すべきはなんといっても脇を固めるキャストたちでしょう。ティボルトを小嶋が踊ったほか、マキューシオに法村圭緒、ベンヴォーリオに恵谷彰、キャピュレット卿夫妻に梶原将仁&田中ルリら。ことに小嶋の粗暴で剛毅溢れるなかにそこはかとなく気品も感じさせるティボルトは絶品。法村や恵谷もいい意味で肩の力が抜け、役を楽しみながらも真摯に演じる実力派らしい余裕をみせて舞台を大いに盛り上げていました。装置や予算面の都合上という側面が強いとはいえ場によっては暗転が長くなってしまったりと気になる点も。主役のパートの振付により多彩さがあればと感じもしました。とはいえ、これも発表会という性質上に拠るものが大。さらに練り上げれば、一層魅力あるレパートリーとして定着するのではないかと思います。いずれにせよ、発表会の枠を超えた、豪華で見ごたえのあるステージでした。

(2009年11月3日 新大阪・メルパルクホール)

2009-11-06

[]下村由理恵、勅使川原三郎に紫綬褒章

先日、フラメンコ舞踊の小島章司がめでたく文化功労者に選ばれましたが、それに続いて秋の叙勲においてバレリーナの下村由理恵、舞踊家の勅使川原三郎が紫綬褒章を受けています。これもキャリアある人でもなかなか受章できない狭き門です。

下村の受章で目を惹くのが、その受章年齢の若さ。現役バリバリのプリマが選ばれるのは異例のこと。叙勲・褒章歴からみると、下村は現時点で既に日本のバレエ人のなかで最高峰に足を踏み入れたことになります。女性では、橘秋子、服部智恵子、友井唯起子、貝谷八百子、松山樹子、谷桃子、太刀川瑠璃子、牧阿佐美(文化功労者)、佐多達枝、小川亜矢子、小林紀子、大原永子、森下洋子(文化功労者)、川口ゆり子らに続く存在。吉田都ともども早期の受勲が光ります。海外でのキャリアやフリーランスとしての活動の圧倒的な成果からすれば納得のいく選出でしょう。

勅使川原の受賞は、実績やキャリアからいって順当といえるのでは。勅使川原がバニョレ国際振付賞を獲得した1986年はコンテンポラリー・ダンス元年と呼ばれますが(乗越たかお)、それから四半世紀近くを経ての勅使川原の紫綬褒章受章は、コンテンポラリー・ダンスが社会的認知を受け評価されつつある証左ではないでしょうか。

受賞・受章のみで舞踊人の実績や活動を計ることはできません。しかし、舞踊芸術がより社会において根付いていくために社会的評価は欠かせないもの。邦舞に比べまだまだバレエやダンス関係者の受章や受勲は少ないということもあり、今回、狭き門のなか下村と勅使川原の2名が選ばれたことは快挙といえるでしょう。(敬称略)

2009-11-02

[]今年の数多あった『ジゼル』全幕上演を振り返って

今年は例年に増して『ジゼル』『眠れる森の美女』の上演が相次ぎました。これについて、舞踊評論家の大御所であり全国を股にかけ公演を観ておられるうらわまこと氏は、指摘しています。“階級差による悲劇と、対象的な豪華絢爛な祝宴、なにか時代を現しているような気もするが偶然であろうか”(「オン・ステージ新聞」10/23号・貞松・浜田バレエ団『ジゼル』公演批評より)。『ジゼル』は現在上演されている古典バレエのなかでもっとも古い部類。シンプルにして奥の深いドラマであり、優れた主演者の演技と緻密な演出が相俟った舞台に接すると、心揺さぶられずにいられません。以下、今年の『眠れる森の美女』上演については少し前にまとめましたので今年観た『ジゼル』上演について振り返っておきましょう(国内団体および日本人が主演したもの)。

今年最初に観た『ジゼル』全幕はレニングラード国立バレエ(1月7日 bunkamuraオーチャードホール)。草刈民代とイーゴリ・コルプ主演です。草刈がダンサー生活最後に踊る古典全幕に選んだのが『ジゼル』。名ダンサー/名教師として知られるアーラ・オシペンコが草刈の磨かれた感性と舞台上で発するオーラについて絶賛していたインタビュー記事がありましたが、その稀代のドラマティックな資質を感じさせる演技を眼にひたすら焼きつけることのできた、忘れられぬ公演になりました。トウシューズの音をさせまいとする細心の注意を払ったプロ意識の高さにもさすがと感銘を受けました。

5月から7月にかけて首都圏の団体が相次いで取り上げます。その最初が熊川哲也Kバレエカンパニー(5月12日 Bunkamuraオーチャードホール)。熊川が英国ロイヤル・バレエ時代の同僚ヴィヴィアナ・デュランテと久々に踊ることが話題でしたが、ツアー初日にデュランテが負傷のため降板し、代わりを東野泰子が務め健闘しました。熊川の復活ぶりも鮮やかでファンを安心させたことでしょう。思えば、熊川がKバレエ最初の全幕バレエ作品として手がけたのが『ジゼル』。再演数もおそらく一番多いのではないでしょうか。熊川にとっても一際思い入れのあるレパートリーのひとつなのかもしれません。

近年、世界的スターを招いて度々『ジゼル』を上演しているのが東京バレエ団(6月11日 ゆうぽうとホール)。アンサンブルのこなれた演技や抜群に揃った群舞の見事さでは他の追随を許さぬものがあります。今回は、昨年、衝撃的な“ジゼル・デビュー”(私が公演チラシに推薦文を寄せた)を果たした上野水香と若手ノーブル・ダンサーの注目株フリーデマン・フォーゲルの共演日を観ました。上野の武器は強靭なテクニック。1幕ヴァリエーションでは揺ぎなく爽やかに踊り、2幕では適度に抑制を加えウィリの浮遊感を巧みに表現していました。フォーゲルもポスト・マラーホフとして成長した感。

八王子を拠点に東京都内や山梨県・清里において公演を続けるバレエシャンブルウエスト(6月14日 八王子市芸術文化会館)も『ジゼル』上演を得意とします。芸術監督の今村博明と川口ゆり子が練り上げた緻密な演出と、ヴァチェスラフ・オークネフによる落ち着きのある舞台装置が大きな特長。今回は大ベテランの川口と、今村・川口の教え子でサンフランシスコバレエ団にて活躍する山本帆介が主演しました。ステップと演技の完全なる一致、優れた音楽解釈においてやはり川口は傑出。初のアルブレヒト役となった山本も師と組んでの大役でしたが真情のこもった演技が好印象を残しました。

大手の牧阿佐美バレヱ団(7月11日夜 新国立劇場中劇場)が久々に上演したことも大きな話題になりました。実に11年ぶり、本公演での上演にさかのぼると、なんと16年ぶりになるとか。今回は総監督の三谷恭三が新に演出・振付を手がけました。正統的な演出を受け継ぎつつ、ヒラリオンに二人の友人を付けて孤立感から救い出し人間味を持たせたり、1幕の群舞にステップを増やして団の誇る高レベルのダンサーのきびきびした踊りを堪能させたりと、随所にアイデアを織り交ぜて独自のものにまとめる手腕が光ります。タイトル・ロールの伊藤友季子の高い音楽性と詩的な表現力、こなれたマイムの演技が素晴らしく鳥肌が立ちました。アルブレヒトの逸見智彦も好演。

8月には発表会(有料)ながら実質公演といってもいい水準の高い舞台がありました。岸辺バレエスタジオ発表会(8月30日 メルパルクホール)です。主演はキミホ・ハルバートと齋藤拓。特筆はキミホの演技です。第一幕では、アルブレヒトとの交感などでみせる表情やさりげない仕草に神経が行き届いてナチュラル。第二幕では、アルブレヒトをウィリーたちから護る毅然とした姿勢が様になっており堂々たる存在感を示しました。齋藤も脂が乗っているダンスール・ノーブルだけに充実をみせていました。

夏から秋にかけて関西では『ジゼル』の上演が続きましたが、神戸の貞松・浜田バレエ団(9月27日 尼崎アルカイックホール)公演を観ることができました。話題は夫君アンドリュー・エルフィンストンと共演した瀬島五月のジゼルです。瀬島は、突出してプロポーションがいいとかテクニシャンというわけではないのですが、踊り・演技のトータルな完成度が高い。華とオーラも充分です。産後復帰初となる全幕主演でしたが、以前よりも身体が軽やかになった印象すら受けました。一幕のヴァリエーションなどは持ち前の踊り心が存分に感じられて秀逸です。一幕、二幕とも物語・振付・音楽をしっかり解釈したうえで踊っていることがよく伝わってきました。ナハリン、キリアン、バランシンからチャイコフスキー三大バレエ、そしてロマンティク・バレエにいたるまで踊りこなし、観るたびにあらたな相貌を魅せてくれる瀬島は、要注目の存在といえるでしょう。

10月には老舗の谷桃子バレエ団(10月11日昼 新国立劇場中劇場)が上演。創設者で生ける伝説たる谷桃子がもっとも得意とし、最大の当たり役といわれたのが『ジゼル』のタイトル・ロールだというのは衆知のとおり。創立60周年記念公演シリーズのなかでも特に注目されるもののひとつです。観た回の主演は緒方麻衣&三木雄馬。一幕では両者の演技が初々しく、そのため、狂乱の場での緒方の演技がドラマティックに感じられました。近頃コンビを組むふたりの躍進に期待したいところです。

今年は“ジゼル・イヤー”ともいえる一年でしたが、その波は来年にも続きます。3月までに、パリ・オペラ座バレエ、グルジア国立バレエの来演、スターダンサーズ・バレエ団、日本バレエ協会公演と続々と。多くのキャストでの見比べとともに演出の違いにも注目して『ジゼル』というバレエの奥の深さを味わい尽くしたいところです。