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ダンスの海へ 舞踊評論家・高橋森彦のblog このページをアンテナに追加 RSSフィード

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2009-12-30

[]2009舞踊回顧

今年もたくさんの公演が行われました。バレエ、コンテンポラリー・ダンス中心に観ましたが、質的に高いものが散見され鑑賞者としてうれしい限り。東京/関東圏では多様多彩な公演が連日あり、創作作品のバラエティの豊かさはなかなかのもの。関西や名古屋等で観る機会を得たバレエ・ダンスにも実り豊かなものがありました。「事業仕分け」による文化予算の削減が舞台芸術界に激震を与えましたが、創造活動とともに芸術の力を社会の多くの人にアピールしていくことがより求められます。

年間回顧として細かに書いてもいいのですが、自己満足の開陳を目的としないので、フォローしていない分野等はあまり触れません。つらつらと個人・団体名を列挙したり、舞踊界ベストなどと1個人で1番から10番までみたいな順位付けするような不遜(かどうかわかりませんがそうとられても仕方ない)なこともしません。とはいえ、国内公演のうち36公演を感動した、印象に残るあるいは興奮したものとしてあげておきます。年間観劇公演数は明らかにしませんが、かなりな上澄み部分の数になります。無論、ここで挙げた以外に感激した舞台はありますし、公演単位で選んだため名を挙げられないものもあることを付記しておきましょう(例えば内田香による奇跡的名演『flowers』)。

バレエ系が少ないのが意外ですが、やはり個人的には創作ものに惹かれるというのがあります。クラシック/古典のバレエ全幕ものでは東京バレエ団『ラ・バヤデール』、法村友井バレエ団『エスメラルダ』、貞松・浜田バレエ団『ジゼル』の入念な仕上げが際立っているように感じましたし素直に感動しました。Kバレエカンパニー『ロミオとジュリエット』も話題を呼び、実際見ごたえ十分で高評価を受けました。ウエストモーランド版を改定した牧阿佐美バレヱ団『白鳥の湖』も特筆すべき。旧来の版のよさを残しつつ踊りの見せ場豊富に層の厚い団員の力を引き出した優れたプロダクションでしょう。芸術性とカンパニーの発展に耐えカンパニーの将来を約束するに足るもの。未来を内包している。古典を受け継ぎ未来へ繋げる大切さを任じる見識が強く感じられました。海外作品の受容では、これまでのように貴重なレパートリーを紹介してくれたというだけで賞賛されるような時代は過ぎ、上演水準が厳しく問われるべき。現況は甘いのでは。そんななか、東京バレエ団のマカロワ、ベジャール作品、谷桃子バレエ団のクルベリ作品、牧阿佐美バレヱ団のアシュトン作品、貞松・浜田バレエ団のキリアン&ナハリン作品などは上々の出来。NBAバレエ団によるニジンスカ『レ・ビッシュ』日本初演もパリ・オペラ座の客演も得て充実した仕上がり。観られて心からありがたく思いました。

邦人バレエ創作やモダン/コンテほかもさまざまの佳作がありました。個々に触れていてはきりがないので端折りますが、女性振付者の活躍が目覚しい印象。平山素子、キミホ・ハルバート、黒田育世ら気鋭若手が進境をみせました。その下の世代も出てきています。そして、秋に続けてみたフラメンコ系の舞台に心揺さぶられました。順位付けしないといっておきながらなんですが、ベスト1はNoism1『Nameless Poison〜黒衣の僧』。不定形な面白さ・刺激性に加え完成度も高い。個人的には金森穣の現時点でベスト。いつも最新作がもっとも刺激的という稀有なアーティストと同時代を生きていることに喜びを感じます。巨匠の勅使川原三郎作品は高評価を受け、完成度の高さは疑うべくもありませんが、大資本や大劇場での創作よりも若手の気鋭の名を上げたくここではパスしました。金森、平山作品も悩みましたが新国立劇場制作ではない舞台をあげておきます。そんななか個人での着実な活動を続けてきた大ベテランたち、佐多達枝のO.F.C合唱舞踊劇『ヨハネ受難曲』、小島章司の『ラ・セレスティーナ〜3人のパブロ』に激しく心揺さぶられました。佐多は合唱と管弦楽と舞踊を融合させ新しい舞台表現を模索しかなりな水準で成功を収めたと思います。小島もハビエル・ラトーレとともにドラマティック・フラメンコの極めつけといえるような作品を作り、フラメンコ舞踊のみならず舞踊史に残る名舞台に。ともによりパワーアップした再演を楽しみにしたいところ。

2009年 印象に残る公演36(国内公演・公演日順)

ユニット・キミホ『White Fields』

(2月1日 青山円形劇場)

NBAバレエ団「BALLET RUSSES GALA」(「レ・ビッシュ」他)

(2月20日 ゆうぽうとホール)

酒井幸菜×ウィスット・ポンニミット『ダマンガス!!』

(2月28日 川崎市アートセンター)

The Ground Breaking 2009・梅田宏明/S20 新作公演

(3月20日 横浜赤レンガ倉庫1号館)

川口節子バレエ団・川口節子舞踊作品集「舞浪漫2009」(「イエルマ」他)

(3月29日 愛知県芸術劇場)

ダンスカンパニーカレイドスコープ「Dance Gathering Performance」

(5月13、14日 北沢タウンホール)

ミクニヤナイハラプロジェクト『五人姉妹』

(6月25日 吉祥寺シアター)

O.F.C合唱舞踊劇『ヨハネ受難曲』

(7月4、5日 すみだトリフォニーホール)

谷桃子バレエ団『ロミオとジュリエット』『令嬢ジュリー』

(7月5日 新国立劇場中劇場)

千日前青空ダンス倶楽部『アカイノノハナ』

(7月18日 精華小劇場)

金魚(鈴木ユキオ)『言葉の縁』

(7月24日 シアタートラム)

Monochrome Circus+じゅんじゅんSCIENCE『D_E_S_K』

(7月25日 こまばアゴラ劇場)

MOKK LABO#5『古民家』

(8月1日 奈良県五條市「新町通り」古民家内)

第20回清里フィールドバレエ『白鳥の湖』

(8月5日 清里高原「萌木の村」野外特設劇場)

BABY-Q『[リゾーム的]なM』

(8月9日 吉祥寺シアター)

ケイ・タケイ’s ムービングアース・オリエントスフィア・LIGHT, Part 7『Diary of the field―創作畑の日記』

(8月21日 スタジオ・ムービングアース)

ARTE Y SOLERAdesnudo Flamenco live Vol.3「小島章司 魂の贈り物」

(8月26日 ムジカーサ)

「dancetoday2009」

(9月11日 彩の国さいたま芸術劇場小ホール)

山口華子ダンスパフォーマンス『décalcomanie』

(9月15日 Super Deluxe)

東京バレエ団『ラ・バヤデール』

(9月25日 東京文化会館)

貞松・浜田バレエ団『ジゼル』

(9月27日 尼崎アルカイックホール)

貞松・浜田バレエ団「創作リサイタル21」(「6DANCES」「BLACK MILK」他)

(10月10日 神戸文化中ホール)

Kバレエカンパニー『ロミオとジュリエット』

(10月15日 Bunkamuraオーチャードホール、11月7日 東京文化会館)

牧阿佐美バレヱ団『白鳥の湖』

(10月24日 ゆうぽうとホール、11月28日 藤沢市民会館)

入交恒子CONCIERTO FLAMENCO Vol.11『La Luna de Andalucia(アンダルシアの月)』

(10月24日 草月ホール)

東京小牧バレエ団「バレエ・リュス100年に捧ぐ」

(10月25日 新宿文化センター大ホール)

石井智子フラメンコ公演『EL COMPAS エル・コンパス』

(10月29日 新宿文化センター)

法村友井バレエ団『エスメラルダ』

(11月5日 大阪厚生年金会館)

高襟『浮気姉妹』

(11月9日 Dance Studio UNO)

BATIK『花は流れて時は固まる』

(11月17日 にしすがも創造舎)

第十四回『蘭黄の会』(特に「禍神」)

(11月25日 国立劇場小劇場)

小島章司フラメンコ2009『ラ・セレスティーナ〜3人のパブロ』

(11月29日 ル・テアトル銀座)

黒沢美香&ダンサーズ『jazzzzzzzz-dance』

(11月30日 こまばアゴラ劇場)

文化庁芸術団体人材育成支援事業「現代舞踊公演」

(12月15日 新国立劇場小劇場)

平山素子新作ソロ公演『After the lunar eclipse/月食のあと』

(12月19日 愛知県芸術劇場小ホール)

Noism1『Nameless Poison〜黒衣の僧』

(12月24日 愛知県芸術劇場小ホール)

2009-12-29

[]地域で生まれ地域で愛される『くるみ割り人形』たち

11月の半ばから各地で毎年恒例となっている『くるみ割り人形』が上演が続きました。今年は新国立劇場が開場以来十余年にわたって上演してきたマリインスキー劇場経由のワイノーネン版から芸術監督の牧阿佐美が新たに改訂したヴァージョンを新制作したこともあり、各団体の競演が一層注目されました。このblogでも牧阿佐美バレヱ団、松山バレエ団という、老舗大手名門のこだわりある「くるみ」について取り上げましたが、ここでは地域に根ざした活動を展開する団体の公演を取り上げましょう。以下にあげる団体の活動は、地域で活動し、地域に愛される活動を続ける、公益性のある活動をしている芸術団体であり、その仕事はより広く知られていいと思います。

多摩シティ・バレエ団

主催:多摩市バレエ連盟、財団法人多摩市文化振興財団による公演。オーディションによるキャスティングに加え、第一線で活躍するソリストをゲストに迎える隔年で開催されてきました。芸術監督:片山満子(多摩シティ・バレエ団代表)、演出・振付:青田しげる(東京シティ・バレエ団)。金平糖の精:酒井はな、王子:李波という豪華キャストを配しているのが魅力的ですが、1幕の子どもたちの演技もよくこなれ、入念なリハーサルの後がうかがえるものでした。総指揮を執った片山は自らのスクールでの指導のほか多摩市民バレエを20年にわたって開催、また、「さがみ湖野外バレエフェステバル」の上演に際しても中心的役割を果たすなど地域文化への貢献が目覚しく、その功労に対し先日多摩市から表彰を受けています。プロとジュニアが一体となってつくり上げる醍醐味が如何なく発揮された、まとまりのある上演として楽しむことができました。

(12月5日 パルテノン多摩大ホール)

バレエシャンブルウエスト

牧阿佐美バレヱ団の数々の舞台で主役を踊ってきた今村博明&川口ゆり子の創設したバレエシャンブルウエスト。前身のユース・バレエ時代から八王子市を拠点に都心の劇場での公演、また、最初期から山梨県・清里高原において「清里フィールドバレエ」も行って多くの観客を魅了してきました。『くるみ割り人形』はカンパニー創設の際の演目でもあり、清里での舞台を含め長年途切れることなく上演されています。主役も川口&今村だけでなく若手をどんどん抜擢し、今回も3日間4公演日替わりキャストでの上演でした。所見日は金平糖の精:山田美友、雪の女王:若林優佳。若手が健闘を見せていました。ロシアの工房に特注したという舞台装置(クリスマスツリーの大きさは国内最大級でしょう)をはじめとしてすべてにおいてシックな雰囲気を保ちつつファンタスティックにまとめ上げた夢のあるステージがここの魅力。雪の精たちの群舞も丁寧に仕上げられ息が合っており見ものでした。演奏は堤俊作指揮:俊友会管弦楽団。

(12月18日 八王子市芸術文化会館いちょうホール)

東京シティ・バレエ団+ティアラ“くるみ”の会

日本初の合議制バレエ団として古典と創作をバランスよく上演してきた東京シティ・バレエ団。20年以上にわたり江東区において『くるみ割り人形』を上演し続けてきました。1994年、区との芸術提携を結んで以後はティアラこうとうを会場とし、同じく江東区の芸術提携団体の東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団ともタッグを組んでいます。子役たちをオーディション選抜しており、子役で出ていたジュニアが成長し、バレエ団に入って主役等を踊るケースも珍しくなくなってきました。石井清子の演出・振付は演劇的にも音楽的にも練り上げられ完成度の高いもの。今回は公開リハーサルを見させていただきました。今回の公演プログラムにも記されていますが、近年はリハーサルを区内の障がい者団体に公開しているようです。3日間公演の中日の午前中に始まり、当日本番で踊るキャストでの上演。テープ演奏でしたが、石井ならではの音楽的で観ていて心地いい振付をプロ・ジュニアのダンサーがよくこなしており堪能しました。

(12月19日 ティアラこうとう大ホール 公開リハーサル所見)

貞松・浜田バレエ団

兵庫県・神戸の地を拠点に活動を続ける貞松・浜田バレエ団。近年は、内外の創作バレエ、コンテンポラリーの名作・秀作を上演して好評を得ていますが古典バレエに関しても長年研究を続け独自の版を上演しています。「くるみ」に関しては20年ほど前から上演する「お菓子の国ヴァージョン」に加え、2005年から「お伽の国ヴァージョン」も併演しています。大きな相違は前者がクララがグラン・パ・ド・ドゥまで踊るのに比し後者はそれぞれ別ダンサーが踊る点。今年は2日目「お伽の国ヴァージョン」をみました。今秋の『ジゼル』全幕の振付・演出を担当し、血の通った完成度高いものに仕上げ、今回、初日は指導に専念したという貞松正一郎がドロッセルマイヤーを務め舞台を引き締めます。グラン・パ・ド・ドゥは瀬島五月とアンドリュー・エルフィンストン。ここで瀬島は圧巻のパフォーマンスを見せました。一瞬にして場を支配するプリマの品格、胸元のゆとりたっぷりでラインも優美な抜群の表現力。音楽性も特筆すべきで、御法川雄矢指揮のロイヤルメトロポリタン管弦楽団の好演奏を得て夢のような時間が現出しました。神戸市民文化振興財団との共催で地元に根付きいつも大入りのようです。近年は文化庁助成も得ています。関東圏でもそうお目にかかれないような非常にクオリティの高い舞台を安価で定期的に地域の観客に提供していることには頭が下がるばかり。

(12月20日 神戸文化大ホール)

松岡伶子バレエ団

東海地区/名古屋を代表するバレエ団である松岡伶子バレエ団。「くるみ」に関しては2年に1度、地元放送局の企画するCBC文化セミナー公演としての上演を担当してきましたが、今年は本公演としての2回上演と併せての3回公演でした(所見は最終日)。竹本泰蔵指揮:セントラル愛知交響楽団の演奏付。これまでは松岡自身の振付・演出で上演してきましたが、今回は同バレエ団を長年にわたって指導する元キーロフ・バレエのプリマ、ナターリャ・ボリシャコーワとの共同振付となりました。クララと金平糖は別のダンサーが踊るとはいえ全体的にはキーロフ版を踏まています。1幕のねずみたちの出てくる場や2幕のキャンディの場は松岡の振付。ジュニアたちの愛らしさを引き出しています。この日の主演は松原帆里&窪田弘樹。場数を踏んだベテランらしい演技が光りました。海外のバレエ団や地元で活躍する多くの優れた踊り手を輩出している団だけに、ソリスト、群舞さらにはジュニアのなかに明日の、未来のプリマがいると思うと、隅々にまで目がいってしまいます。ロシア経由の大掛かりな装置や大劇場の舞台機構をフルに活かした演出等もあいまって古典らしい品格と豪華な雰囲気が漂いました。次代を担う踊り手を育て、地域の観客に本格的な舞台に親しめる機会を提供する。こういった活動が日本のバレエを確実に底上げしていることを見過ごしてはなりません。

(12月25日 愛知県芸術劇場大ホール)

2009-12-27

[]「ダンスマガジン」「オン・ステージ新聞」年間ベスト

2009年回顧は改めて行いますが「ダンスマガジン」ベストステージ&ベストピープル2009と「オン・ステージ新聞」の洋舞ベスト5&新人ベスト1が発表されましたので概略に触れます。私はありがたいことに両方からアンケートをいただき回答しました。

DANCE MAGAZINE (ダンスマガジン) 2010年 02月号

DANCE MAGAZINE (ダンスマガジン) 2010年 02月号

両媒体とも最高の評価を集めたのがジョン・ノイマイヤー/ハンブルク・バレエ来日公演でした。「第12回世界バレエフェスティバル」および関連公演もさすがの高評価。昨年末公演なのにボリショイ・バレエも『明るい小川』等で票を集め底力をみせました。コンテンポラリー・ダンスでは、ヤン・ファーブル、ローザスという、彩の国さいたま芸術劇場が招聘したアーティストが強い。国内公演ではKバレエカンパニーの熊川哲也版『ロミオとジュリエット』、東京バレエ団が新制作したマカロワ版『ラ・バヤデール』、勅使川原三郎『鏡と音楽』に票が集まっています。「ダンスマガジン」の印象に残るダンサー/振付家を挙げるという項目では、ダンサー/スヴェトラーナ・ザハーロワ、アリーナ・コジョカル、ダニール・シムキン、振付家/ノイマイヤー、勅使川原の名が目立ちます。

「オン・ステージ新聞」の新人ベスト1は舞踊家と振付家に分かれ、今年は評論家/ジャーナリスト15人が各部門ごと2名該当者を上げる形式でした。舞踊家部門は福岡雄大(新国立劇場バレエ団)が獲得。大阪出身でケイ★バレエスタジオ、チューリヒ・バレエを経て今秋、新国立劇場に入団した俊英です。新国立で早速主演した『ドン・キホーテ』と日本バレエ協会「バレエ・フェスティバル」上演の矢上恵子振付『BOURBIER』の演技が評価されました。強靭にして滑らかな技術と豊かな内面表現の持ち主です。振付家部門は混戦。頭ひとつ抜け出した得票者がいないため該当者なしに。少々寂しい結果ですが、若い才能の更なる飛躍と決定的な仕事の誕生に期待しましょう。

当方含む選者コメント等の詳細はぜひ実物を手にとってお読みになってください。

2009-12-26

[]金森穣 最新作『黒衣の僧』とNoismの切り開く地平

Noism1の新作『Nameless Poison〜黒衣の僧』(演出・振付:金森穣)をスケジュールが合い、名古屋で観ることができました(12月24日 愛知県芸術劇場小ホール)。11月末に新潟で初演され、静岡の上演を経ての名古屋上陸です(「ダンス・アンソロジー〜身体の煌き」参加)。昨年、舞踊界の話題をさらった快作『Nameless Hands〜人形の家』に続く見世物小屋シリーズ第2弾。破天荒で自在な舞台づくりは健在どころか進化しつつ、より高い完成度を誇っています。あくまでも個人的見解と断っておきますが、本年度ベスト1にして、今までに所見した金森作品中もっとも面白く観ました(Noismの本公演作品は全てリアルタイム・生でフォロー)。ぜひ多くの人に観てもらいたい。

来年1月の東京公演や3月の新潟再上演を控えていることもあり、内容についてはここでは詳しく触れませんが、ざっとした印象を。未見で、事前に多少なりとも内容を知りたくない方はこのパラグラフをスルーしてください。モスクワ・チェーホフ国際演劇祭との共同制作作品として企画・制作されたため、アントン・チェーホフの小説「黒衣の僧」「六号病室」から想を得ています。チェーホフ作品の底流にある苦悩を現代に通じる普遍的なものとして捉えたとか。自己と他者との間においてコミュニケーション不全となり、無名性のなかを彷徨う現代人の実相を怜悧に抉り取ります。登場人物は井関佐和子扮する貞操な娼婦、宮河愛一郎による病んだ医者はじめ一癖ある奇妙な名を持つ。舞台装置はシンプルですが、自在な発想と意想外の連続の振付・演出に加え、中嶋祐一による創意豊かな衣装や2曲のみながら印象的に繰り返される音楽、スライド投影される詩等が緻密に絡んでいきます。虚構と現実の境目、人間の精神的領域を身体を通して描き、スリリングにして考えさせられる奥の深さを備えたものでした。

金森は今年、初夏に新国立劇場との共同制作『ZONE〜陽炎 稲妻 水の月』を、9月には高知と埼玉で井関佐和子とのデュオunit-Cyanとして『シアンの告白』 を発表しています。前者はアカデミックな身体に徹底してこだわったもので、肩に力の入った感もありましたが大変な力作なのは間違いありません。後者はプライベート活動で井関と金森のダンサーとして人間としての軌跡が刻み込まれた忘じ難い作品。新作『黒衣の僧』もボルテージの高い仕事でした。劇場ではなく見世物小屋にこだわり「観たこともない見世物を創りたい」という創作者としての気概。劇場専属舞踊集団を率いることを含め今という時代、社会と正面から対峙していこうという社会性を備えた文化人・リーダーとしての誠実さ。金森とNoismが切り開く地平は、日本のダンス界のみならずアートと社会をつなげる活動の先陣を切るものとして一層注目されるのではないでしょうか。

今後のNoismのラインアップ

【Noism1&2合同公演・舞踊劇『ホフマン物語』(仮)】

2010年7月16日(金)19:00開演、17日(土)&18日(日)17:00開演

りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館 劇場

http://www.noism.jp/blog/2009/12/noism1.html

【Noism2初公演】

2010年3月27日(土)17:00開演、28日(日)13:00開演、17:00開演

りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館 スタジオB

【新潟の芸術 Noism&鼓童】

2010年2月21日(日)15:00開演

りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館 劇場

第一部 Noism1 nomadic(「ZONE‐陽炎 稲妻 水の月」より)

対 談  金森穣(Noism芸術監督)×山口幹文(鼓童)

第二部 鼓童(中編成)演奏

チェーホフを読め―空虚な実存の孤独と倦怠

チェーホフを読め―空虚な実存の孤独と倦怠


芸術の神様が降りてくる瞬間

芸術の神様が降りてくる瞬間


NINA materialize sacrifice [DVD]

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PLAY 2 PLAY [DVD]

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2009-12-25

[]劇評コンペについて

先日幕を下ろしたフェスティバル/トーキョーでは、内外の演劇・ダンスを上演するのみならず、それらを鑑賞する観客側の批評活動にも目を向けているようです。広く一般から劇評を公募し、web上で随時発表していく劇評コンペを行いました。“次代を担う劇評家・批評家の発掘・育成を目的として、応募いただいた劇評の中から優秀作品を選定し、プロの書き手への第一歩を応援します”と謳っています。

F/T09秋関連企画 劇評コンペ優秀賞発表

http://festival-tokyo.jp/gekihyo/2009/12/ft09.html

F/T劇評コンペ  F/T Stage Review Competition

http://festival-tokyo.jp/special/ft-ft-stage-review-competition/

ダンスもそうですが商業媒体で公演評や評論を発表する場は限られています。プレビューやインタビュー記事を中心とした媒体もそうですが、日刊紙や専門媒体に若い書き手が食い込むのは特に難しい。AICTの発行する「シアターアーツ」が若手の公募原稿を受け付けており、現在、公募の演劇・ダンス評論の発表の場はここくらいのものでしょう。ただ、それにしろ、フェスティバル/トーキョーの公募にしろ、字数が多い。現実的に日本の商業メディアで3,000字を要求されることはまずありません。短いものを書くほうが難しいと経験上痛感します。実戦力は実践でしか養えないと思いますが、書きたいことが溢れる活きのいい評論がどんどん出てきてほしいですし(それにはある程度の字数が必要ということでしょう)、それがシーンを活性化させると信じているので。

2009-12-24

[]森下洋子の踊る松山バレエ団『くるみ割り人形』

名門・松山バレエ団も例年年末に『くるみ割り人形』を上演しています。振付・演出:清水哲太郎によって1982年に初演、再演のたびに練り上げれて現在に至ります。

清水版『くるみ割り人形』の大きな特徴は、少女クララが女性として、人間として成長して行く道程をしっかり描いていることでしょう。姿を変えられた王子を純粋にいとおしむ少女の思いが魔法を解く―少女の成長と魂の浄化が手に取るように伝わってきます。そう、これは、バレエという表現によるビルドゥングスロマン(教養小説)といってもいいかもしれません。とはいえ、そういったものにありがちな甘さは微塵も存在しません。清水版特有のクララと王子の「別れのパ・ド・ドゥ」があるから。そこには“「これからクララも別れという人生の切なさ・苦しさを味わってゆかねばならない」というほろ苦さ”がこめられ、人生=出会いと別れの連続というものの玄妙さを余すことなく伝えます。

無垢さや愛といった人間精神の根本にあるべきことを観念でなく具現化するのに舞踊は適した手段。清水版『くるみ割り人形』は、美、愛といったものを概念に留めず直截的かつ微細に伝えます。世知辛い世の中である現在、文化・芸術というものが人々に何を与えられるか―ということを考えるのに際しても示唆に富んだものといえるのでは。

層の厚いソリスト・群舞、重厚にして華やかな舞台装置や衣装等も見逃せませんが、舞台の中心に位置し比類ない輝きを放ち続けるのが森下洋子です。第一幕、クララはプレゼントにバレエシューズを貰いうれしさを隠し切れず愛らしい表情を浮かべます。やがて、王子を助け、お菓子の国においてチュチュをあたえられ、王子とグラン・パ・ド・ドゥを踊ります。オールド・ファンならずとも、幼少からバレエに打ち込み、常に至高の境地に挑み続ける不世出のプリマ・森下のバレエ人生がオーバーラップしてくるでしょう。

森下の当たり役は多くて簡単には絞れませんが、憧れというものを究極の形で踊りきる『シンデレラ』のタイトルロール、女優バレリーナの真髄発揮の『ロミオとジュリエット』のジュリエット等と並んで『くるみ割り人形』のクララの演技は極めつけといえるもの。クララ=森下=バレエの申し子――今回、その思いを新たにしました。

(2009年12月23日 ゆうぽうとホール)


バレリーナへの道〈38〉世界のプリマ森下洋子

バレリーナへの道〈38〉世界のプリマ森下洋子

2009-12-23

[]ユース・アメリカ・グランプリ10周年記念 ガラ公演

アメリカはじめ世界各地のバレエスクールで奨学生として学ぶ権利を得ることのできるバレエコンクールがユース・アメリカ・グランプリ(YAGP)。毎年ニューヨークで本選が行われます。9〜19才のダンスを学ぶ生徒たちが妍を競い、審査員らによるワークショップも開催。バレエ関係者の貴重な交流の場ともなっているようです。パリ・オペラ座の最年少エトワールのマチアス・エイマンもこのコンクール出身。いまや老舗で伝統を誇るローザンヌ・バレエコンクールに匹敵するイベントとして注目されています。ガラ公演では世界のトップスターが出演、年々存在感を増しているコンクールと言えるでしょう。

2010年度開催に向けての日本予選が先日、兵庫・尼崎にて行われ、22日にはガラ公演が東京で行われました。YAGP出身者をはじめとしたプロに加え、本年度の日本予選参加者もデフィレ等に参加。若々しいエネルギーにみちたガラとなりました。

第一の出来は、ニューヨーク・シティ・バレエのプリンシパルペアのアシュレイ・ボーダー&ゴンサロ・ガルシアによる『チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ』。ボーダーのフレージングの巧みさとバランシン・スタイル特有の細かなポアント裁きの見事さには心底唸らされました。当代随一のバランシン・バレリーナといって過言ではないでしょう。すばらしいの一言!ガルシアもぶれない踊りで、きっちりとポジションが入ります。途中から手拍子が起きるという異常事態が発生しましたが(『チャイパド』で手拍子が起きるとは・・・)、早々お目にかかれないすばらしい出来栄えだったため興奮のあまりなのでしょう。

アリーナ・コジョカル&セルゲイ・ポルーニン『海賊』は最後に上演され、大いに盛り上がりました。コジョカルは、今夏の「世界バレエフェスティバル」や11月に客演した東京バレエ団『くるみ割り人形』では本調子ではない印象でしたが、今回ははつらつとした踊りを見せてファンを喜ばせました。ゆっくりゆっくり脚を上げ、長く長くキープしたイタリアン・フェッテに会場は湧きに湧きました。ゲンナディ・サヴェリエフの『ゴパック』も一級品の仕上がりで会場は興奮の渦に。康村和恵&清水健太は熊川哲也版『ロミオとジュリエット』のバルコニーの場。若者の生き急ぐ恋の激しさいとおしさを表現し尽くして妙でした。酒井はな&ジェイソン・レイリーはコミカルな逸品『ザ・グラン・パ・ド・ドゥ』を。昨秋のシュツットガルト・バレエ来日公演でブレイクしたレイリーを観られ幸運。酒井は夫君の島地保武と組んで島地振付のコンテンポラリー『プシュケ』も踊りました。

YAGP2010のニューヨーク本選は来年の3月21〜26日に行われます。2011年度の日本予選は来年の10月11日〜14日に東京・大井町のきゅりあんにて開催。若い才能たちが世界に羽ばたく飛躍の場として今後の展開も見逃せないところです。

(2009年12月22日 文京シビックホール大ホール)

YAGP New York City Finals 2009 - Junior & Senior Top Winners

D

2009-12-22

[]ギエム&カーン、平山素子新作ソロ公演、貞松・浜田バレエ団、『神曲』三部作ほか

先週末は異常な公演ラッシュでした。いくつかの『くるみ割り人形』やコンテンポラリー公演を観ることができず残念ですが、充実した舞台に出遭えました。ものによっては記事に出たり、blogで改めて記すものもあるかと思うので内容に極力触れず雑感を。

土曜日は午前からさる公演のリハーサルを見させていただきました。その後は上野・東京文化会館のシルヴィ・ギエム&アクラム・カーンカンパニー『聖なる怪物たち』へ。バレエ&ダンス界の枠を超えた、本年度最大の話題作といっても過言ではないだけのことはあり、ほぼ満員に近い入り。普段バレエ会場で目にしないコンテンポラリー系等の観客や批評家の姿もちらほら。ファッション業界系の関係者もいました。

シルヴィ・ギエム&アクラム・カーン『聖なる怪物たち』

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終演後は名古屋へ。愛知芸術文化センターで行われている「ダンス・アンソロジー〜身体の煌めき」平山素子新作ソロ『After the lunar eclipse/月食のあと』初日に滑り込みました。ダンサーとして振付者として指導者として斯界を大きく担う平山(愛知出身)がライトアートの逢坂卓郎、衣装のスズキタカユキと行った共同制作でした。終演後、関西方面まで行って宿泊し、翌朝からチェックしたいイベントがあったのですが、予定を変更し名古屋泊。日曜日午前から午後は「ダンス・アンソロジー〜身体の煌めき」の他の催しを鑑賞しました。ニブロール映像インスタレーション「ハンノウ」と、Noism舞台写真展 レジデンシャルカンパニーNoism5年の軌跡 &ダンス・アンソロジー関連上映会をフォローしました。前者では日常のなかから掬い上げた繊細で切ない世界に浸れ、後者では今夏に会津の美術館で上演された平山と中川賢の『DUO』等をチェック。ダンスの多様な魅力を多角的な企画で紹介する「ダンス・アンソロジー」は、コンテンポラリー・ダンスに縁遠い人でも親しめる多彩な切り口を用意しつつ、コアな観客の既成概念をも打ち崩してくれる刺激的な要素が随所にちりばめられている――一部イベントを観てもそう感じました。27日まで続き、23、24日にはNoism公演も行われます。

ニブロール『ドライフラワー』

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日曜午後は神戸へ移動し貞松・浜田バレエ団『くるみ割り人形』を鑑賞しました。2日公演の最終日は2005年初演、クララと金平糖を別役が踊る「お伽の国ヴァージョン」(もうひとつはクララがグラン・パ・ド・ドゥまで一貫して踊る「お菓子の国ヴァージョン」)。瀬島五月&アンドリュー・エルフィンストンという、看板ペアのひとつがグラン・パ・ド・ドゥを踊ります。ドロッセルマイヤーは重鎮の貞松正一郎。10月に行われた「創作リサイタル21」によってバレエ団が文化庁芸術祭優秀賞(大賞該当なし・団自体は4年前に大賞獲得)を得て勢いにのり、創作/現代作品の上演が注目されますが、古典全幕の舞台も充実しています。詳しくは後ほどblogの別記事で触れる予定ですが、「お菓子の国ヴァージョン」初演から20年――港町・神戸の風物詩としてすっかり定着し、暖かい雰囲気に満たされた質高い舞台は数ある「くるみ」上演のなかでも見逃せないもののひとつ。今年もできれば両ヴァージョン観たかった・・・と、それだけが心残りです。

貞松・浜田バレエ団『くるみ割り人形』お伽の国ヴァージョン

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他にも週末をはさんで演劇界で話題のソチエタス・ラファエロ・サンツィオ(ロメオ・カステルッチ演出)『神曲』の煉獄篇、天国篇を鑑賞。『神曲』三部作をコンプリートしましたが、正直、期待ほどではなかったかも・・・。今回のフェスティバル/トーキョーは7演目しか観れていませんが、オープニングを飾った維新派『ろじ式』にしても、旧作ほどの高揚感は得られなかったというのが率直な印象(なにせ昨年の『呼吸機械』が大げさでなく歴史に残るような神懸り的名舞台だったので)。唯一、興奮したのが黒田育世/BATIK『花は流れて時は固まる』。初演時とは音楽や構成も大幅に変えていますが、エロス・タナトスに満ちた黒田ならではの世界が格段に向上した演出・振付技量とあいまって濃密に展開されました。好悪あるでしょうが、語るべきものを明確にし、具現化していくプロセスの成熟に黒田の作家としての進化が感じられるのは疑いないところ。

BATIK『花は流れて時は固まる』

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2009-12-19

[]ルグリ関連情報

マニュエル・ルグリ関連情報続くのでまとめて。

マニュエル・ルグリ ドキュメンタリー 再放送

パリ・オペラ座バレエ団引退公演までの60日間を追った「エトワール 最後の60日〜密着 マニュエル・ルグリのバレエ人生〜」が、NHKハイビジョンで再放送。

NHKハイビジョン特集 BS-hi

12月19日 (土)23:00〜翌00:01

http://www.nbs.or.jp/blog/news/contents/topmenu/post-175.html

マニュエル・ルグリ"トーク&握手会"

12月20日(日)16:00〜

タワーレコード 渋谷店 6F クラシカルフロア

http://www.nbs.or.jp/blog/news/contents/topmenu/post-178.html

<マニュエル・ルグリの新しき世界>追加公演決定

『聖なる怪物たち』で来日中のシルヴィ・ギエムとの共演が話題の<マニュエル・ルグリの新しき世界>Bプロ「ルグリと輝ける世界のスターたち」追加公演が決定。

2010年2月6日(土)1:30 p.m.の回。

http://www.nbs.or.jp/blog/news/contents/topmenu/post-176.html

2009-12-18

[]文化庁芸術祭賞決定

平成21年度(第64回)文化庁芸術祭賞が18日発表されました。

平成21年度(第64回)文化庁芸術祭賞の決定についてhttp://www.bunka.go.jp/geijutsu_bunka/geijutsusai/pdf/21_geijutsusai.pdf

舞踊部門受賞6件

大賞(関東):該当なし

大賞(関西):該当なし

優秀賞(関東):志田真木(琉球舞踊「真木の会」の成果)

優秀賞(関東):森田志保(「はな6」の成果)

優秀賞(関西):貞松・浜田バレエ団(特別公演「創作リサイタル21」の成果)

優秀賞(関西):山村若有子(山村若有子リサイタルの成果)

新人賞(関東):花柳典幸(花柳典幸の会の成果)

新人賞(関西):金子扶生(地主薫バレエ団公演「くるみ割り人形」の演技)

舞踊部門は関東・関西とも大賞は該当なし。関西ではこれで3年連続大賞が出ていません。関東も一昨年に続いて大賞なし。審査の厳しさが伺われます。

関東ではバレエ系の参加が少なく、日舞、フラメンコ勢が競うように出ていた印象があり、結果にもそれがあらわれている感じです。関西ではバレエ系が毎年熱心に参加。貞松・浜田バレエ団は平成17年度に大賞を獲得していますが、その際はオハッド・ナハリン振付『DANCE』が対象でした。今回は「創作リサイタル」全体の成果が認められたということでしょう。金子は内外のバレエコンクールで上位入賞を果たし大器として注目される存在。これを機にさらに注目されるでしょう。

なにはともあれ、受賞された方々、おめでとうございます。

2009-12-17

[]追悼:物語バレエの巨匠アンドレ・プロコフスキー

井上バレエ団が冬恒例の『くるみ割人形』を上演しました。上演25周年記念、2日間3回公演のトリプルキャストが組まれ、最終回の島田衣子&石井竜一主演の回を観ることができました。その際の公演プログラムにバレエ史家で日本バレエ協会会長の薄井憲二が「さよなら、アンドレ」という一文を寄せていました。公私共に交流のあった振付家アンドレ・プロコフスキーへの哀惜の念がこめられたものです(今年8月死去)。

プロコフスキーは1939年にロシア人の両親の下、パリに生まれました。大変なテクニシャンとして鳴らし、1950年代後半にはロンドン・フェスティバル・バレエのプリンシパルとして踊ります(後年復帰)。1963〜67年までニューヨーク・シティ・バレエにも所属しました。1962年にガリーナ・サムソヴァとニュー・ロンドン・バレエを設立したことでも知られましょう。後年は振付家としても活躍。ロシアの古典バレエの形式を尊重したストーリー・バレエの数々は世界各地のカンパニーのレパートリーとなりました。

わが国では、日本バレエ協会と法村友井バレエ団が『アンナ・カレーニナ』を、牧阿佐美バレヱ団が『三銃士』を上演。井上バレエ団では、前身の「井上博文によるバレエ劇場」時代から交流を重ね、2004年には『ファウスト・ディヴェルティメント』『ロミオとジュリエット』の2作上演の機会もありました。プロコフスキー作品は、振付技法や舞踊語彙自体は決して新しいものではないのですが、野暮ったさは微塵もありません。シンプルゆえに踊り手が感情をこめる余白を生み出しているのが魅力的。踊り手によって変化にとんだ色彩を放つ。それこそが世界各国で上演される理由にほかならないでしょう。巧みな編曲や劇的にドラマを盛り上げる演出手腕も相まって、見るものを物語の世界へと引きずりこみます。私も大好きです。『三銃士』ほど痛快で楽しめるバレエはなかなか見当たらないのでは。法村友井の『アンナ・カレーニナ』初演(2006年)は振付者自身の指導による熱のこもったものであり、近年類を見ないほどの神懸ったようなすばらしい出来栄えに興奮。井上バレエ団による2作も仕上がりよく感動を覚えました。

気になるのはプロコフスキー作品の行方。『三銃士』は来年2月に牧阿佐美バレヱ団の上演がすでに決まっており、前述のプログラムの一文によるとアメリカの地方都市バレエ団とも契約はできているとのこと。しかし、その後は、どうなるのでしょうか。フリーの振付者であったため作品継承には不安が残ります。版権を管理し、正しく振付が継承されていくことが望まれます。幸い、日本で上演されたプロコフスキー作品は好評を博しており、各団体にとっても大切なレパートリーといえるでしょう。ぜひ再演を重ねてほしいもの。いや、日本でこそ作品が護られるのではないでしょうか。実際、今秋大阪で行われた法村友井バレエ団『エスメラルダ』公演のプログラムにおいて法村牧緒は『アンナ・カレーニナ』を今後も上演し続け、機会があれば『ドクトル・ジバコ』等の日本未上演作品を紹介したい旨を記しています。巨匠の死に改めて哀悼の意を捧げるとともに、その作品が上演され続けることを願わずにはいられません。(敬称略)

2009-12-15

[]レニングラード国立バレエ マラト・シェミウノフの個展

レニングラード国立バレエ団のマラト・シェミウノフ個展&パフォーマンスが行われるようです。画廊からお知らせいただいただき、また面白そうなので、転記しておきます。

マラト・シェミウノフの個展

ルジマートフが芸術監督をしているレニングラード国立バレエ団のプリンシパル、マラト・シェミウノフが絵を描いていることは皆さん御存知ですか?彼の絵は、彼のホームページ(http://www.inkling.ru/)でも見ることが出来ますが、今年のお正月、マラトがペレンその他のダンサーと共に、江の島に遊びに来た時(日本での公演がoffの日に)私共の画廊に立ち寄ってくれた縁で、来年2010年1月1日(金)から1月20日(水)までマラト・シェミウノフの個展を開催することになりました。マラトはロシア国外初の個展を日本ですることになり、大変張り切っており、オープニングの1月1日(17:00〜)と1月13日(18:00〜)には当画廊でパフォーマンス(ダンス)もいたします。(13日はペレンと共に踊ります。)マラトはバレエファンの方に沢山いらして頂けることを望んでおりますので、お時間がおありでしたら是非御高覧頂くことを切に望んでおります。(入場、パフォーマンス鑑賞無料)

ギャラリーT

神奈川県藤沢市片瀬海岸1−9−10

電話 0466−22−4057 (玉屋)

木曜日 休廊  10:00〜18:00

画廊の地図は画廊のホームページで見られます。

http://www.gallery-t.net/

2009-12-13

[]伝統ある牧阿佐美バレヱ団の『くるみ割り人形』上演

今年も『くるみ割り人形』上演ラッシュが始まりました。首都圏はもとより名古屋や関西でも歳末おなじみの光景ですが、いつから始まったのでしょうか。業界紙「音楽新聞」の発行人であり日本の洋舞史の生き字引であった故・村松道弥は「私の舞踊史」において記してします。牧阿佐美バレヱ団1962年12月公演にふれて“これが年中行事となって他のバレエ団も競って年末に『くるみ割り人形』を上演するようになった”。牧阿佐美も「バレエに育てられて-牧阿佐美自伝」においてそれを引用しつつ牧の母・橘秋子が日本のバレエ界に遺した雛形のひとつと自負をこめて語っています。そんな伝統を誇る名門・牧阿佐美バレヱ団の『くるみ割り人形』が今年も上演されました。

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現在上演しているのは2001年初演の三谷恭三版。オーソドックスな展開と古典の品格を堅持しつつ団の誇る質の高い踊り手の力量を存分に発揮させています。その姿勢がもっとも顕著なのがドロッセルマイヤーの甥役を設けたことでしょう。若手男性のホープたちが踊るおおきな見せ場。傘下の橘バレヱ学校や広い視野から日本の児童バレエの底上げを図ってきた日本ジュニアバレヱから育ってきた踊り手が子役から年々ステップアップしてさまざまの役を踊ります。主役・ソリストはもちろんのこと群舞から子役まで演者の隅々に至るまでが作品の精髄を知り尽くして踊っているのが感じられる。古典を正しく上演し芸術的なクオリティを保証しつつ踊り手たちの力量を伸ばしていくことのできるのは、このプロダクションの面目躍如たるところ。バレエ団は生きものといわれます。優れたダンサーが揃わなければ衰退してしまう・・・。幼少からの一貫教育に加え、芸術性高い舞台を通して踊り手が成長飛躍する体制がとられていることこそ、常なる団員の層の厚さ・技量の平均値の高さにつながっているのではないでしょうか。

今年は3日間4公演が行われ2回を観ました。金平糖の精、王子、雪の女王を田中祐子/菊地研/吉岡まな美、坂本春香/清瀧千晴/日高有梨がそれぞれ踊った回です。前者はベテランや主役経験ある人ばかりなので安心してみていられました。ことに田中の、一瞬にして場を支配する貫禄ある演技はさすが!菊地、吉岡もみせどころを心得た舞台さばきも光ります。後者の若手、主役デビュー組も大健闘。ソリスト役での抜擢の目立っていた坂本は大役を無事務め、伊藤友季子・青山季可に続く若手気鋭として期待できますし、日高は伸び伸びとした踊りとしっかりとした存在感をみせました。清瀧はボリショイ・バレエでの研修から帰り一段とスケールを増した感があります。ポジションがきっちり入って脚先もきれいですが、若さに似合わぬ抜群のサポートとステージマナーのよさにも唸らされました。ソリスト、群舞を踊った若手のなかにも目を惹くひとが少なくなく、女性陣は言わずもがななうえに男性は粒ぞろい。総監督たる三谷やバレエマスターの小嶋直也の指導よろしきを得てなのでしょう。2007年秋に上演された三谷プロデュース「ダンス・ヴァンテアン」の際の若手の大活躍が強く印象に残っていますが、あれから2年、彼らの更なる進化を感じて嬉しくなりました。

(2009年12月12日昼・夜 ゆうぽうとホール)


バレエに育てられて―牧阿佐美自伝

バレエに育てられて―牧阿佐美自伝

2009-12-11

[]この秋冬、小スペース公演に成果〜厳しいなか頑張る創り手たち

行政刷新会議の「事業仕分け」問題で揺れ、不況の最中ですが、この秋・冬は例年同様、いや印象としては例年以上にバレエ・ダンス公演が行われているような気がします。年が明けても3月いっぱいまで大小さまざまの公演が相次ぎます。スケジュールを確認すると、自分でも驚くくらいの数の公演を観た・観る予定。諸般の事情から見逃したりパスしたものも少なくないのに…。公演ラッシュ、盛況は何よりですが、これだけ公演が続くと、個々の公演に対しての印象は薄れ気味になり、メディアにも取り上げられにくくなるのはいたし方ないかも。ここでは、今秋行われたもののなかから小スペースでの意欲的な公演をシリーズもの中心に振り返っておきます(基本的に日程順)。

芸術祭賞等を獲得し、本年度の松山バレエ団芸術奨励賞も受賞した重鎮・本間祥公が主宰する本間祥公ダンスエテルノ・シリーズvol.2〜vol.4(9月15日、10月20日、12月5日所見 Super Deluxe)では、本間による振付・出演作品のほかカンパニーのメンバー中心とした若手の創作を発表しています。本間が太宰治の小説に取材し、飄逸な味わいで楽しませる『饗応夫人』、東京新聞主催「全国舞踊コンクール」創作部門第一位を獲得した山口華子による若い感性と創意ある作舞が特長的な『デカルコマニー』『嵐の朝』、大人の間の距離や感情の揺らぎ巧みに捉えた長谷川秀介『ネガチーフ』等の佳作が登場。お洒落なクラブ風の会場を舞台に、モダンやコンテといった枠を軽やかに超えて、新たな感性の息吹を感じられる企画として着実な成果をあげました。

年3回ほどの公演を催し積極的な活動を行うダンスカンパニーカレイドスコープ「Members Show Case」(9月19、26日所見 Dance Brick Box)は、神奈川は南林間にあるスタジオでの公演。主宰の二見一幸の振付作のほか、カンパニーメンバーの中堅・若手クラスが創作発表しました。このカンパニーは文化庁の文化芸術振興費補助金を受けての公演も行い、二見一流の豊富な舞踊語彙と緻密な構成による水準の高い創作を発表していますが今回は手弁当の企画。二見含め7人が作品を出しました。メンバーは踊るだけでなく創ることによって自身の他の面を見出すことができますし、振付者として本格的に育つ人も出てくるかもしれません。本公演については媒体に依頼され評を書きました。個々の作品については厳しい指摘もしましたが、新作発表、旧作再演に加え人材育成にも熱心に励む二見の真摯な仕事ぶりには頭が下がります。

フラメンコの分野で積極的な創造活動を行っているグループもあります。鍵田真由美・佐藤浩希フラメンコ舞踊団(ARTE Y SOLERA)プロデュースdesnudo フラメンコライブ(10月28日、12月9日所見 ムジカーサ)は、個人的にはいま、もっとも見逃せないラインナップです。会場は音楽小コンサート用の素敵な空間で、客席との密な対話が可能ですし、生声や生演奏との相性もばっちりです。8月にはvol.4として今秋文化功労者に選ばれた小島章司を迎えて「小島章司 魂の贈り物」を開催し大きな反響呼びました。この秋、vol.5ではジャズやサルサという、通常のフラメンコでは用いられない曲にあわせ鍵田、佐藤が生演奏で踊る『愛と犠牲』、vol.6では、ドゥクフレ、シェルカウイらの作品に参加するダンス/サーカスダンスのアーティスト、アリ・タベと鍵田のデュオを発表。12月公演では異才のタベと踊った鍵田のフラメンコの枠を超えたダンスが新鮮であり、両者のケミストリーが異様ともいえる熱気と感動をもたらしました。

関西を拠点に内外で多様な活動を行っているmonochromecircusの活動も見逃せません。幸いにも本拠地・京都での公演をみることができました(11月6日所見 アトリエ劇研)。上演されたのは同カンパニーが近年手がける「掌編ダンス集」。主宰の坂本公成による短編・中編の作品シリーズです。川端康成の「掌の小説」にちなみ時間的制約に縛られずに創作していくスタイルであり、ソロはじめカルテットなど多彩。ダンサーの個性や身体を生かした作品を内外で再演するたびに練り上げ、クオリティの高さは折り紙つきです。京都公演ではダンサーを変えて再演を繰り返す『怪物』、合田有紀の異形的身体性が際立った新作『neighbor』、坂本の監修によるグルーピングワーク『レミング』(新作)を上演しました。芸術祭参加公演ということなので、手の内に入ったレパートリーを並べたほうが有利でしょう。そういった欲はなかったのか単に後付で参加しただけなのかわかりません。いずれにせよレパートリーを進化させつつ意欲的に新作発表、ダンサーたちの個性を引き出そうとする坂本の姿勢に感銘を受けました。

コンテンポラリー・ダンス界のゴッドマザーこと黒沢美香は黒沢美香&ダンサーズ「ミニマルダンス計画――起きたことはもとにもどせない――」(11月30日、12月3、6日所見 こまばアゴラ劇場)を行いました。ポストモダンの影響を顕著に受けた、過剰さを排したミニマルに徹する姿勢はストイックそのもの。しかし、そのシンプルななかに豊穣な時間が流れています。そして、常に予断を許さないスリリングな展開があって目が離せません。黒沢美香を見るということは、すなわちダンスを観るという行為を通し常に新たな価値観と出会うことではないでしょうか。黒沢の舞台を観るたびに自分が一ダンス小僧に戻れると実感します。近年、ダンサーズのメンバーの個性・年齢差も広がって、パフォーマンスの多様さ・奥深さがさらにましてきた感があります。今回の黒沢のソロ『耳』、新作グループワーク『膝の火』、おなじみ『jazzzzzzzz-dance』の連続上演は、今年のコンテンポラリー・ダンス最良の成果として記憶されるべきに思いました。

このほかにも酒井幸菜solo exhibition & performance『In her, F major』(10月12日 LIFT)、神村恵新作ソロ『次の衝突』(10月17日 現代美術製作所)、深谷莉沙「無口な少女、饒舌な洋服棚」Closing Show(10月18日 Sub museum)、根岸由季『HONNIN』(10月28日 現代HEIGHT)、高襟『浮気姉妹』(11月9、11日 Dance Studio UNO)など。内田香Roussewaltz『note』(11月29日 Super Deluxe)はこの頃同会場で定期的に公演を持つグループらしくセンスよく手ごたえある内容ですが、大きな劇場での一晩もののパフォーマンスもやはり見たいところ。Annex Sengawa Factory「09 Dance Performance Program」(10月31日 アネックス仙川ファクトリー)は、公演活動に加えさまざまのイベント企画を展開する加藤みや子が久々に行った若手のスタジオ公演であり、今後の展開に注目といったところです。

2009-12-08

[]師走の舞踊界に思う

今年もあっという間に一年が過ぎ去ろうとしています。

毎年年度末になると舞踊専門紙誌から年間ベスト5や印象に残った公演を挙げよというアンケートをいただきます。一年を振り返ると、限りないダンス公演が行われており、舞踊界は盛況に思えるかもしれません。師走12月など恒例の『くるみ割り人形』上演含め全国各地で相当な数の舞踊公演が開催されます。しかし、不況は続き、舞台芸術界にも暗雲立ち込めています。舞踊も対象とした朝日舞台芸術賞は休止に。晩秋には、行政刷新会議「事業仕分け」による文化予算削減への提言が関係者や舞台芸愛好家に衝撃をあたえました。2010年のダンスシーンはどうなるのでしょうか。

暗い話題ばかりでなく、明るいニュースや新たな展開を予感させる動きについて触れておきましょう。文化功労者に小島章司、紫綬褒章に勅使川原三郎、下村由理恵と洋舞関係から相次いで選ばれたのはうれしい出来事でした。バレエ界では女性振付家を中心に創作の秀作がいくつか生まれ、踊り心・演技心溢れる中堅・若手プリマが伸びてきたのが個人的には印象に残りました。コンテンポラリー・ダンスでは久々の大規模なフェスティバル「ダンストリエンナーレ トーキョー2009」が行われ盛況。全国各地で公演を展開してきたJCDN「踊りに行くぜ!!」も10回目を迎えています。一時期ほど大型新人は出ていない印象ですが、ベテラン・中堅・若手があまねく公演を行って相対的な水準、質は大きく向上。現代舞踊界でも異例の若手抜擢等が相次ぎ、小スペース中心に精力的な自主公演を行う個人・グループも出てきており動向が注目されます。フラメンコも小島章司や小松原庸子といった大家の次の世代が台頭しており心強い限り。

優れた舞台芸術は一朝一夕には生まれません。時間をかけて育まれるもの。そして、その価値はすぐに金銭で計れるものではない。日本の舞踊界は厳しい条件のなか本当によくやっていると頭が下がります。“(公的な助成による)人材育成は不要”“芸術は自己責任”といった事業仕分け人のコメントに怒りを覚えた舞台芸術関係者は数限りないでしょう。今後求められるのは、芸術は水や空気のように人間にとって必要なものだということを行政だけでなく広く社会に訴えていくこと。質高い内容の活動を目指すのは当然として、社会のなかでアーティストとして何ができるのか常に問う自覚を一層持つ必要があるのでは。ジャーナリズムはもとより観客・納税者の立場からも厳しくも暖かいチェックとフォローが行われアートシーンを刺激していくことが望まれます。

2009-12-07

[]観客との真の奥深いコミュニケーション

興味深い記事を読みました。

「日本以外ありえない 「一気に全曲」演奏、なぜ挑む」

http://www.asahi.com/showbiz/music/TKY200912050209.html

音楽界の年末の風物詩である「第九」「メサイア」といった演奏会のラインアップのなかに、近年、ベートーベンの交響曲一挙上演をはじめとした「一気に全曲を演奏する」という企画が増えているとか。半日がかりの大プロジェクトであり、演奏家にも聴衆にも相当のスタミナを要するもの。それなのになぜ盛況なのかを探っています。

聴衆には“芸術家が表現のなかに自らを追い込んでいく。その現場をこそ見守りたい――“という渇望があると記事はまず指摘。それを最初に蘇らせ刺激したのが2004年にベートーベン交響曲全曲演奏に挑んだ故・岩城宏之だったそうです。記事によると、日本人には“作曲家を「イコン(聖像)」としてリスペクトする気持ちを、引きずっている”という面があり、また“演奏家たちが自らの音楽人生に意味を見いだすきっかけを探している“そうです。大曲に挑むアーティストを熱狂的に応援し“格闘技に挑む選手たちを眺めるのと同様の熱狂を、聴衆がアーティストに求め始めた”(ピアニストの中村紘子)ことも大きいようです。観客がいてはじめて上演芸術は成立するというのは当たり前のことですが、一期一会の稀有な体験、ライブの魅力を改めて感じさせてくれます。

そして、もっとも印象に残ったのが記事末尾。今月7日にバッハ「無伴奏チェロ組曲」全6曲を演奏するチェリストの木越洋さんの言葉です。

「聴衆も覚悟を決めてきてくれるから、コミュニケーションが充実する。間口を広げようと軽い演奏会を増やしている業界の思惑以上に、一般の聴衆はより奥深いクラシックの世界を我々に求めているんだ、と弾くたびに感じずにいられません」

深い覚悟を持って自身の芸術を突き詰めることが観客との深いコミュニケーションを生むのは真実でしょう。無論、がむしゃらに頑張って演じたり、演奏したり、踊ったりすれば、想いは届き、観客は感動すると取り違えるのとは違います。観客との馴れ合いであってもいけない。売らんかなのイージーな販売戦略やメディアの押し出した報道といったものにも警鐘を鳴らす言葉でしょう。賛否あるにせよ示唆に富む記事なのでは。

2009-12-05

[]古典を受け継ぐこと

来日中のマリインスキー・バレエが上演した『眠れる森の美女』を観ました。先日同カンパニーが上演した『白鳥の湖』同様セルゲーエフ版。善と悪というテーマ基調にクラシカルなダンスとキャラクターダンスが多彩に織り込まれ、全体を通して堅牢な建築物のように間然とするところなく組み立てられています。古式ゆかしいものでオーソドックスなよさがある。意地悪にいえば古色蒼然としているともいえるかもしれません。しかし、本家本元の上演するヴァージョンをみるとホッとするものがあるのも事実。オールドファンであればあるほどその思いの強い人が多いのではないでしょうか。

今回のマリインスキー・バレエによるセルゲーエフ版『眠れる森の美女』の上演時間は、プロローグ付3幕で休憩3回入れて3時間半強。少々長く感じられ、観劇には少なからぬ体力を要求されますが、終演後は心地よい疲労のようなものを覚えます。休憩ごとに知人や友人と会話をたっぷり楽しんだりするのも劇場文化の魅力のひとつ。とはいえ、現在、セルゲーエフ版を基にしたもの含めさまざまの改変を加え、また休憩を1、2回に減らすなどして上演時間の短縮を狙ったものも少なくありません。

その場合問題になる点も。私は原曲至上主義者ではありませんが、チャイコフスキー3大バレエやプロコフィエフものであれば音楽を尊重してほしい。首を傾げたくなるような編曲も無くはありません。また、ドラマ性を高めるため設定変更や読み替えを行う試みもあって、それは歓迎すべきですが、必然性薄い「改定のための改定」のようなもの、奇を衒ったものになれば元も子もない。グランド・バレエというものには形式があって劇場芸術として受け継がれてきた伝統があるということは忘れてはならないでしょう。

上演時間の短縮に関しては時代の要請といわれます。果たしてそうでしょうか。忙しない世の中だからこそ、豪華な夢のひと時に身をゆだねたい気も。それに長年受け継がれる古典をカビの生えない程度に修正等加えながらも守って維持していくことはことはバレエ人の使命のひとつ。その点、日本のカンパニーや団体では、古典をしっかり受け継ごうという姿勢が顕著なところも少なくなく頼もしい限り。現代作品、創作作品の普及に関して遅れている感は否めませんし、古典の新解釈等ももっと出てきてもいい。しかし、古典の良さをしっかり受け継いでいくことは大切であり、それだけの価値・魅力がある。マリインスキー・バレエの上演に接して改めてそう思わせられました。

マリインスキー・バレエ公式HP

http://www.japanarts.co.jp/html/2009/ballet/mariinsky/index.htm

2009-12-03

[]石井歓が死去

作曲家・元全日本合唱連盟理事長の石井歓さんが11月24日、肺炎で死去されたそうです。88歳。同じく作曲家である石井眞木と石井五郎はそれぞれ弟と叔父に当たります。父はいうまでもなく日本の洋舞のパイオニアである石井漠。

http://www.asahi.com/obituaries/update/1203/TKY200912030194.html

1952年西ドイツに留学し、ミュンヘン国立音楽大学作曲科・指揮科を修了。『カルミナ・ブラーナ』で知られる、かのカール・オルフにも師事しています。1954年に帰国後、桐朋学園大学を振り出しに各地の大学で教鞭をとり、全日本合唱連盟理事長等の要職を歴任しました。無論、作曲家・指揮者としても活躍。紫綬褒章等を受けています。

舞踊音楽の作曲も手がけ、ことに『神とバヤデーレ』(1950年)やバレエ組曲『まりも』(1962年)等で知られましょう。後者は、北海道の阿寒湖に群生する「まりも」についてのアイヌの伝説を取り上げた悲恋物語で、ワルラーモフ/メッセレルの振付・演出によって東京バレエ学校が初演しました。その際には小林恭らが踊っています。同バレエ学校を前身とする佐々木忠次主宰のチャイコフスキー記念東京バレエ団でも装置や衣装を変えるなどしつつ再演され、ソビエトでも上演されて評判をとったようです。

http://www.thetokyoballet.com/repertory/detail.php?id=60

2004年夏に大阪のワクイバレエ団が「まりも」を初演から42年ぶりに涌井三枝子の演出・振付によって上演しました。以下、菘(すずな)あつこ氏による舞台評。

http://www.chacott-jp.com/magazine/world-report/from-osaka/from-osaka-0409e.html

その際、所用と重なったこともあって幸運にも足を運べました。初演時の石井の曲を使用しつつ改編を加えた録音版での上演でしたが、会場には石井本人の姿も。カーテンコールでは舞台に上がって盛大な拍手を受けていたのを思い出します。

日本の洋舞音楽を牽引し、イリ・キリアンが振付けた『輝夜姫』等で知られる弟・石井眞木とともに日本洋舞史に多大な貢献をされた方。父について記した「舞踊詩人石井漠」という著作もあります。ご冥福を心からお祈り申し上げます。



舞踊詩人石井漠

舞踊詩人石井漠