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ダンスの海へ 舞踊評論家・高橋森彦のblog このページをアンテナに追加 RSSフィード

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2010-02-26

[]物語バレエの愉しみ

今月は在京バレエ団が相次いで公演を行い、しかも、競うように物語バレエを上演しました。以下、公演日程順で簡単に触れておきたいと思います。

古典だけでなく長年にわたって創作バレエに力を注いできた東京シティ・バレエ団は中島伸欣・石井清子版『カルメン』を再演。メリメ原作を現代の東京を舞台に換骨奪胎した異色のグランド・バレエであり、現代人の孤独や心の闇を描き出した力作と言えるでしょう。幅広いレパートリーを誇る大手の牧阿佐美バレヱ団はアンドレ・プロコフスキー振付『三銃士』を東京では5年ぶりに再演しました。昨年逝去したプロコフスキーは古典の様式性や技法を重んじつつ多彩な演出を駆使して物語バレエの傑作を生み出しており、『三銃士』はデュマ原作を痛快な冒険活劇に仕上げた会心作。その魅力をあらためて堪能することができました。古典作品の復刻等に精力的なNBAバレエ団はニジンスカ版『ラ・フィユ・マル・ガルデ』を日本初演しました。かつてアメリカン・バレエ・シアターにて初演されたものをブルース・マークスが再振付したヴァージョンであり、おなじみの牧歌的な物語ながらテンポよく機知にとんだ演出がなかなか魅力的でした。

いわゆる古典の代名詞的な演目を取り上げながらも独自の創意をめぐらしたドラマティックなグランド・バレエもありました。森下洋子を擁する松山バレエ団の新『白鳥の湖』は清水哲太郎の振付・演出で毎年のように上演を重ねていますが独自のもの。16世紀のドイツ帝国を舞台に皇女と皇太子の愛を細やかに描き出しつつ中世の歴史のうねりが折り重なり劇的な展開を生みます。壮大なスケール感、スペクタクルが特徴的で異彩を放ち、「新」と銘打つだけのことはある。今をときめくKバレエカンパニーが再々演する熊川哲也版『海賊』はテンポよくスペクタクルを展開しつつダンスの見せ場も豊富。物語の展開がわかりやすく、意外な結末をむかえるなど創意があって楽しめます。

トリを飾るのが東京バレエ団が新制作した『シルヴィア』。アシュトン振付の全三幕の大作であり、ギリシャ神話の世界を舞台にした牧歌的で荒唐無稽ともいえる物語展開と豊富なダンスをがとにかく楽しい。ドリーヴの珠玉の名曲にもうっとり・・・。癒されます。初日(26日)の舞台を見てきましたが、ゲストのポリーナ・セミオノワ&マルセロ・ゴメスのコンビの野生的にして繊細なところを見せるダンスと演技が充実しており、東京バレエ団も『真夏の夜の夢』に続いてアシュトン振付をよくこなしていたのでは。28日にはセミオノワ&ゴメス主演舞台がもう一度。27日には田中結子&木村和夫主演による「マイ・キャスト シリーズ」公演としての舞台があり、低廉な価格で楽しめます(ちなみに公演プログラムに「マイ・キャスト シリーズ」公演のダンサー紹介記事を寄稿しました)。

“人は物語なしには生きられない”。これは、『ラ・ベル』等の斬新な感覚にとんだ物語バレエを発表している異才ジャン=クリストフ・マイヨーが、かつて日本の「ダンスマガジン」のインタビューで述べた言葉です。物語という器に盛られた舞踊ドラマの生み出す真実味とリアリティに時代を超えた多くの観客が惹かれるのでは。アブストラクト・バレエやモダン/コンテンポラリーの創作も魅力的ですが、そういったものばかり見ていると肩がこることも。物語バレエの豊穣な世界に惹かれる今日この頃です。

今年は英国ロイヤル・バレエが来日してアシュトンの『リーズの結婚』、マクミラン『ロメオとジュリエット』『うたかたの恋』を上演しますし、モスクワ音楽劇場バレエのブルメステル版『エスメラルダ』もあります。東京バレエ団が日本のバレエ団としてはじめてクランコ『オネーギン』に挑むのも話題です。新国立劇場バレエ団はボリス・エイフマンの『アンナ・カレーニナ』『牧阿佐美の椿姫』を上演。松山バレエ団は森下洋子の十八番の『ロミオとジュリエット』を、創立60周年記念シリーズ展開中の谷桃子バレエ団は『リゼット』のほか望月則彦の『レ・ミゼラブル』を再演。『タチヤーナ』という日本バレエ史に特筆されるべき創作物語バレエを創りあげたバレエシャンブルウエストはグリム原作『おやゆび姫』を都心の大劇場ではじめて上演します。楽しみはまだまだ続きそう。


2010-02-23

[]劇団「ふるさときゃらばん」倒産に思う現実と理想

全国各地でオリジナルミュージカル等を精力的に上演してきたことで知られる劇団「ふるさときゃらばん」が破産しました。

http://www.yomiuri.co.jp/entertainment/news/20100223-OYT1T00086.htm

http://www.jiji.com/jc/c?g=ind_30&k=2010022200925

ニュース記事によると、劇団「ふるさときゃらばん」(東京都小金井市)と関連会社の「ふるきゃらシネマ」(同)が、22日までに東京地裁から破産手続き開始決定を受けたそうです。負債は2社合計で6億4700万円。ふるさときゃらばんは1983年に創設され、“地方の応援団”と称して、オリジナルのミュージカルなどをを全国各地で上演。各地域の青年団などと提携して公演を行ってきましたが、年間200回あったこともある公演数は、昨年はその半分程度までに落ち込んだようです。人件費等の負担大きく、景気の悪化によるスポンサーの撤退が倒産の引き金となったとのこと。

残念なニュースです。昨秋の「事業仕分け」問題でも改めて浮き彫りになりましたが、本格的な舞台芸術活動を続けるのには膨大な予算がかかる。公演活動のみならず維持費や人材育成への投資も含めると気が遠くなります。それを民間だけで行っていくのは至難の技。経済的な犠牲と常に背中合わせのなか活動しているあらゆる文化事業団体の熱意には、頭が下がる思い。あらためて敬意を表したいと思います。

とはいえ、劇団「ふるさときゃらばん」破産のニュースに際して、YAHOO JAPAN!ニュース内のネットユーザーのコメントを見ると、冷静というか厳しい言葉が。“理想を実現するのは難しい”“補助金やスポンサー後援提供は、景気が縁の切れ目になる。公演は年間スケジュールが固定されるから止めることも出来ない。自転車操業ゆえの破綻。現在の倒産形態の縮図”“いつまでも、あると思うな、寄付と補助金。景気が悪くなるとまっさきに切られる。”文化予算状況をめぐる現状が冷静に指摘されており、そして、よくも悪くも世間の芸術への認識の一端を示しているともいえるのでは。いかに現実と折り合いをつけ、理想とする活動を続けるか――。古今東西あらゆる舞台芸術の永遠の課題ともいえますが、少しでもよい方向に向かうことを願わずにいられません。

2010-02-21

[]五輪男子フィギュアスケート結果について思うこと

バンクーバー冬季五輪・フィギュアスケート男子の試合結果が波紋を呼んでいるのはご承知でしょう。2位に終わった前回トリノ五輪の覇者エフゲニー・プルシェンコ(ロシア)が審査基準に対して露骨に不満を述べています。優勝したエバン・ライサチェク(米国)は4回転ジャンプを入れない“クリーンな”演技で頂点へ。それに対してこういったのでした。“採点システムは変更されるべきだ。五輪王者が4回転ジャンプの跳び方を知らないならば、男子シングルではなくアイスダンスに名前を変えなくてはならない”。

フィギュアスポーツは芸術スポーツと呼ばれ、アスレチックな要素とアーティスティックな要素、両方が選手には求められます。かつては技術点と芸術点(各6点満点)というアバウトにも思える方式で採点されていましたが、新採点システムになってからはジャンプやスピンの精度に加え、技のつなぎや音楽性も具体的な数字として細かく採点されるようになりました。各要素をこなし、クリーンなジャンプを行えば高得点が出るいっぽう、男子では4回転、女子ではトリプル・アクセル(3回転半)や3回転の連続ジャンプといった高難度の技が避けられる傾向に。各要素をこなすことが第一となり、素直に滑る喜び・演じる喜びの伝わるパフォーマンスが少なくなった印象もなくはありません。

今回の男子フリースケーティングに関して言うと・・・プルシェンコは4回転にこだわるあまり、他の要素、たとえば技のつなぎ等がやや疎かに見えたのは否めません。トリプル・アクセルの軸等がぶれていたのは誰の目にも明らかでした。しかし、本調子でなくとも意地でも4回転を決めるという決意の現われか鬼気迫る演技。優勝したライサチェクは大きなミスはない充実した内容の滑りでしたが、慎重な安全運転だったともいえます。いっぽう、3位に入ったわが国の高橋大輔は冒頭の4回転ジャンプの失敗は悔やまれますがチャレンジングな精神は買える。そして、その後立て直し、得意のステップをはじめとして見せ場を作りました。リンクの観衆を大きく引き込み熱狂させていったのが映像を通してみても感じられるくらい。パッションあるスケーティングを見せました。いずれも一長一短の嫌いはあり、新採点システムという基準の評価として試合結果は妥当なのでしょう。が、見る人の評価・好みはまちまちでいいと思います。

プルシェンコの話に戻りますが、技術の進化がよりさらなる魅力的なパフォーマンスを生んできたのは間違いないでしょう。ジャンプやスピンの難度がどんどん上がることで芸術スポーツの花になりました。過去の歴史を振り返っても先端を行くスリルあってこそのフィギュアスケートといえる面も。それはアートに属するバレエでもそうでしょう。アラベスクにしても90度以上は上げてはいけないという不文律のあった時代もあるようですが、身体条件も発達した現在では、事情が異なってきます。美の概念は、変わる。『白鳥の湖』のグラン・アダージョでは高々と上がる脚が囚われの姫の孤独と悶えを痛いほどに表し、バランス技にしても『眠れる森の美女』のローズ・アダージョではスポーティといってもいいくらい強靭なバランスキープがなければもはや物足りないといわれるのも実際のところ。よくシルヴィ・ギエム以前/以後といわれますが、日本のバレエを見ても変化が。身体条件と運動神経に恵まれた上野水香や中村祥子らアフター・ギエム世代がエッジな感性を発揮した演技を見せ、時代を担うようになってきました。

いずれにせよ、フィギュアスケートでもバレエでも共通するのは、美的な概念や観るものの価値観の変化に技術の進化は欠かせないという面があること。無論、技術がすべてではなく、古典的・スタンダードな価値観・表現のすばらしさは認められるべき。そのうえで、技術の革新・進歩がもたらす新次元に今後とも期待したいところです。


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上野水香―バレリーナ・スピリット

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2010-02-18

[]服部有吉の現在

先日行われたバンクーバー冬季五輪の開会式にアルバータ・バレエが出演。同バレエ団に所属するダンサー/振付家の服部有吉も登場して、テレビ放送でも紹介されていたようです。服部は、2004年〜2007年にかけて夏に日本で公演を行い、『盤上の敵』『藪の中』等の秀作を生み、2005年のハンブルク・バレエ来日公演では、『冬の旅』の主演等で目覚しい活躍を見せました。ハンブルク・バレエを経てアルバータ・バレエに入ってもダンサーとして活動する傍ら『七つの大罪』を振付けるなど創作活動も行っています。師であるノイマイヤーの下を離れ、新天地で活動していますが、ハンブルク・バレエが『ニジンスキー』を再演した際に客演したというニュースも報じられました。

邦人のバレエ系の振付者も新世代が躍進していますが、ポスト金森穣といえる強固な存在が出てきてほしいところです。欧米の一線で学んだキャリアを誇り、しっかりとしたスキルにコンテンポラリーな感覚と構想力を備えた才能は希少です。それに当てはまる数少ない感性のうちのひとりが服部なのは間違いないでしょう。服部の能力の高さは旧作からも十分うかがえ、ことに音楽芸能一家育ちだからかもしれませんが、音楽センスが抜群。2007年にラスタ・トーマスや辻本智彦ら多彩なキャストで上演した話題作、シンフォニック・バレエ『ラプソディ・イン・ブルー』の拙評を引いておきます。

何よりも評価すべきは服部の卓越した音楽性と自由闊達な作舞。シンフォニック・バレエといっても音楽の構造に囚われることも楽曲の構想や主題に依拠することもない。服部の、音と音、フレーズとフレーズの間を捉える嗅覚は非凡。動きをただ譜面に合わせるという陥穽には陥らない。自身の創る動きに対し音楽がどう響くのかを本能的に思考できる逸材だ。

(「オン・ステージ新聞」2007年7月6日号 1面)

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海外、そして、日本において振付家としてのさらなる活躍が期待されますが、まだ若いだけに踊り手としての可能性も大切にしてほしいアーティストです。ハンブルクからアルバータへと移籍したのも新たなレパートリーに出会いたいという思いが強かったのかも。今後、日本での活動に際しては、優れた才能を安易に消費しない制作体制が求められ、ジャーナリズムも拝外主義から崇め過剰に持て囃すというような事態に陥らないように気をつけなければいけないでしょう。己のキャリアは自分の力で切り開いてきた服部のこと、今後の歩む足取りも地に足着いた確かなものになると信じています。

2010-02-16

[]「踊りに行くぜ!!vol.10 SPECIAL IN ITAMI/TOKYO」

2000年にスタートしたJCDN「踊りに行くぜ!!」 が、今年で10周年を迎えました。10年間の上演作品は224作品、開催地は40地域。これはコンテンポラリーダンスの魅力を広く訴求したという点で画期的なものでしょう。地域のダンス事情に刺激を与え、舞踊界の旧弊たるシステムに対してかなりなショックをあたえたことも事実のはず。とはいえ、首都圏や関西地区をのぞいた各地域から新たなアーティストを生み出し、それを支持する観客層が育っていくには、まだまだ時間がかかります。継続が何よりも大切であり、10周年という記念すべき年を祝いつつも、更なる展開が期待されます。

さて、そんななか、昨秋10〜12月に札幌から沖縄まで全国18地域で開催し、33作品を上演してきたvol.10のなかからセレクトされた作品群が東京と伊丹で上演されます。伊丹・東京に出演する目黒、伊丹に出演する長内の作品は、昨秋、前橋で観ましたが、独自の身体性を探りつつあるプロセスを楽しめておススメ。また、<10thAnniversary SPECIAL EVENT>を同時開催。盛り沢山の内容となりそう。

「踊りに行くぜ!!vol.10 SPECIAL IN ITAMI/TOKYO」

日時:

伊丹:2010年2月20日(土)19:00、21日(日)17:00 会場:アイホール

東京:2010年3月5日(金)19:30、6日(土)14:00 会場:アサヒ・アートスクエア

出演:

伊丹: 長内裕美【東京】/タケヤ アケミ【オーストリア】/目黒大路【東京】/MOSTRO【大阪】

東京:タケヤ アケミ【オーストリア】/星三っつ(三浦宏之+星加昌紀)×Haco【東京・松山・神戸】/目黒大路【東京】/山賀ざくろ×山下残【前橋・京都】

※会場によって出演者が異なります

10thAnniversary SPECIAL EVENT

伊丹:ダ!ダダ!ダンス!!大スピーチ大会!

2月21日(日)14:00〜16:00 会場:アイホール

東京:

10周年記念パーティ

3月7日(日)15:00〜19:30 会場:アサヒ・アートスクエア

2010-02-14

[]横浜ソロ×デュオ<Compétition>+ 2010年度の受賞者決定

「横浜ダンスコレクションR2010」における横浜ソロ×デュオ<Compétition>+ 2010年度の受賞者が決定しました。審査会には4日間のうち3日通い、最終日の結果発表にも立ち会いました。相対的な水準は低くなく、2005年のリニューアル時から5年、質の高さと先鋭的な面白さを備えた作品が少なからず出てきた感。詳しい感想は後日になりますが、リリースが出たので、ここでも審査結果を紹介しておきます。

プレスリリース

http://www.yokohama-dance-collection-r.jp/jp/images/ydcr10press.pdf

未来へはばたく横浜賞:

きたまり「女生徒」

若手振付家のための在日フランス大使館賞/MASDANZA-EU 賞:

長内裕美 「digitalis」

審査員賞:

三東瑠璃/小暮香帆/篠ヶ谷美穂<japonica-ponica> 「そのにわ」

審査員賞:

GeonHyaukJin「Relationship」

特別賞:

笠井瑞丈「ラストマン」

2010-02-11

[]地域団体・アーティストによる国際交流が活発化

舞踊に限りませんが、多くの芸術文化が首都圏一極集中になりがちです。そんななかコンテンポラリー・ダンスでは、地域から世界へと発信していくプロジェクトがどんどん進行しています。先日、福岡において西日本中心とした各地のアーティストと韓国の最新ダンスを上演する「福岡ダンスフリンジフェスティバル」が行われ、神戸ではDANCE BOXと文化庁共催による「KOBE-Asia Contemporary dance Festival #01」が催されました。かつて関西では、いまは無き舞踏の白虎社が精力的に海外公演を行っていましたが、現在も京都に拠点を置くJCDNによる国際交流事業が活発。いまをときめく新潟発の金森穣/Noismも海外招聘公演をたびたび行っており、最新作『Nameless Poison〜黒衣の僧』は、モスクワ・チェーホフ国際演劇祭との共同制作作品です。

1990年代半ばから活発な展開をみせてきたコンテンポラリー・ダンスに対し、一部の保守層が検証も無く停滞気味というようなことを指摘したりもします。果たしてそうでしょうか。より成熟した視野の広い展開が見られるのでは。なかでも、地域と海外とのダイレクトな交流はその最たるものでしょう。日本の現代ダンス界が戦後何十年かかってもなしえなかったことが少しづつですが変わり、動き始めているとみるべきに思います。

その傾向はバレエにおいても顕著です。今年に入ってからすでに京都の2団体が海外公演を実施。桧垣バレエ団がポーランド公演を、全京都洋舞協議会がメキシコ・グアダラハラ公演を行いました。前者は地元のベートーヴェン財団との共催公演、後者は文化庁の国際交流支援事業を受けての公演でした。さらに4月には神戸の貞松・浜田バレエ団が中国公演を行います。北京、四川、広東で3公演。日中文化教育経済関西交流会・中国全国総工会職工対外交流中心の主催によるものであり、神戸と同じく大震災に見舞われた四川や兵庫県の友好都市である広東との国際親善事業とのこと。他にも近年、海外との国際交流を行う地域で活動するバレエ団体が増えています。

文化芸術による国際交流は現地の人々に直に触れ、心の深い部分に訴求しえます。芸術を通して日本人の国民性や文化性(伝統芸能やジャポネスク趣味を打ち出したものでなくとも、おのずと日本人らしさは出るもの)を知ってもらえることは得がたい。政治家や財界人が何十年かかっても果たせないことかもしれません。それを一夕にして果たせるのが芸術の力であり、だからこそ真のアーティストは尊敬されるべき存在。頭が下がります。ことに地域の団体・アーティストの活動のなかには端倪すべからざるものが少なくありません。地域から海外へという動きが東京のアートシーンをも刺激し、芸術文化の重要性を世に広く知ってもらえるようになるようにとも願ってやみません。

2010-02-09

[]バレエ・ガラにおいて現代作品上演が増加傾向?

このほど2009年春にパリ・オペラ座バレエ団を去ったマニュエル・ルグリを中心とした「マニュエル・ルグリの新しき世界」という公演が行われました。Aプロでは、ルグリが元ベジャール・バレエのパトリック・ド・バナに振付を依頼して東京バレエ団と共演するという企画が展開され、Bプロでは、かつてルグリとペアを組んでいたシルヴィ・ギエムとの奇跡的な再共演はじめパリ・オペラ座のエトワールら世界のスターたちが競演するガラが行われました。ド・バナ作品3本を上演したAプロは別にして、注目したのはBプロにおいて上演された10演目に、いわゆる古典バレエのパ・ド・ドゥがただのひとつもなかったことです。バランシン『チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ』、ロビンズ『アザーダンス』、プティ『失われた時を求めて』より"モレルとサン・ルー"、マクミラン『三人姉妹』、キリアン『優しい嘘』、フォーサイス『スリンガーランド』といった現代バレエの巨匠振付家のマスターピースからド・バナやルグリの創作まで幅広い現代作品が上演されました。

わが国のバレエ界では、古典バレエ志向が強いのは否めませんが(一概に悪くないですが)、バレエ・ファン――来日バレエや国内の大手バレエ等を見る観客にとって現代作品への抵抗は、もはやさほどないのでは。昨夏盛況だった「世界バレエフェスティバル」や一昨年の「エトワール・ガラ」等では現代作品上演の比率が高く、水準の高い上演には熱狂的な拍手が送られていました。今年1月にも彩の国さいたま芸術劇場にて行われたバレエ・ガラ公演もイリ・ブベニチェクやフォーサイス作品によるトリプル・ビルでしたが話題になっています。コンテンポラリー・ダンスの観客層も現代バレエに関心を高めているでしょう。舞踊業界のなかで、バレエ/コンテといった線引きがあるのはやむをえない面もあるにせよ、見る側からすれば境界は緩やかになりつつあるのでは。また、こういったガラに若手のバレエ/現代舞踊のダンサーや振付家が足を運ぶ姿を、ここ1、2年以前にまして散見するようになりました(あくまで実感ですが)。刺激を受け、吸収できる部分は吸収して自身の創作等に活かしてもらいたいものです。

今後も来る5月に行われる「マラーホフの贈り物」でも以前よりも現代作品が上演される予定となっていますし、一部予定演目の出ている7〜8月の「エトワール・ガラ」でも同様になるのではないかと思われます。プロモーター関係者は海外のダンス事情にも詳しく、また、観客の期待するもの・さらにその先を見越したアーティストや作品を紹介してくれているのはありがたい。こういった流れがバレエ/コンテといった枠を取り払い、観客の興味の幅を広げ、国内団体においてもバレエ=古典というだけでなく創作/コンテンポラリーをもっと上演できるような環境につながっていくとよいな、と感じています。


『失われた時を求めて』より"モレルとサン・ルー"振付:ローラン・プティ

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『三人姉妹』振付:ケネス・マクミラン

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『スリンガーランド』振付:ウィリアム・フォーサイス

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2010-02-06

[]平成22年度文化庁予算(案)が決定、0・5%増に

昨秋、行政刷新会議の「事業仕分け」問題で揺れ、衝撃の走った舞台芸術界ですが、平成22年度の文化庁予算(案)では前年度よりも4億8千万円(0・5%)増の1千20億2千万円となる見込み。文化芸術団体等の官庁への陳情の甲斐あったと関係者は胸をなでおろしていることでしょう。私も一舞台芸術愛好家として安堵しています。

平成22年度文化庁予算(案)の概要

http://www.bunka.go.jp/bunka_gyousei/yosan/pdf/22_gaisan_gaiyou.pdf

平成22年度予算(案)主要事項説明資料

http://www.bunka.go.jp/bunka_gyousei/yosan/pdf/22_gaisanyoukyu.pdf

内訳をみてみると、「文化芸術創造活動への重点支援事業」は前年度よりも減少、その代わり「地域の文化活動支援」、「芸術家等の養成・子どもの文化体験の充実」が増加しています。地域における文化振興および芸術家への支援と芸術普及の重要性があらためて浮き彫りになると同時に“最高水準の舞台芸術公演(オーケストラ,オペラ,舞踊,演劇,大衆芸能等),伝統芸能(能楽,歌舞伎,文楽等)等に対する重点支援”(文化庁ホームページより)に対する助成である芸術創造活動特別推進事業等への採択基準の見直しが迫られるのは必定。芸術的成果の再検討とともに公益性のある活動かより問われるでしょう。少しでも動員を増やし入場率を高めるというような営業努力がなされているかも厳しく見られるのでは(それによって助成支給額も変わるので)。

事業仕分け人の発した、“芸術は自己責任”“人材育成は不要”というコメントに怒りを覚えた関係者は無数でしょう。無理解極まりないと感じます。しかし、世間一般の舞台芸術、文化への認識の低さを少なからず反映したものと受け止めるべき面も。喉元過ぎれば熱さ忘れるという言葉もあります。今回は時間もなく場当たり的であっても関係官庁等へひたすら陳情するしかなかったと思いますが、今後同じような事態になったとき、どう対応するのか・・・。各団体・個人の自助努力とともに関係者間のネットワークを強化すること、そして、ジャーナリズムが客観的な立場から芸術創造活動の重要性を訴えるとともにより個々の活動に対して明確な評価を下していく必要があるでしょう。

2010-02-05

[]2010年1月

1ヶ月間の間に観た公演をおさらいしておく備忘録をはじめます。内容が優れていると同時に一観客として素直に感動できたものに感謝をこめて選ぶというスタンス。ベスト3とは便宜上に過ぎず年間ベスト級に入る水準のものしか挙げないつもりなので該当なしの場合もあればベスト5等になるケースもあるかもしれません。国内団体・個人中心。

特に印象に残る公演・作品3点

・Noism1『Nameless Poison-黒衣の僧』

・珍しいキノコ舞踊団『私が踊るとき』

・該当なし

Noism1『Nameless Poison-黒衣の僧』は昨年秋に新潟で初演された金森穣演出・振付による見世物小屋シリーズ第二弾(年末に名古屋で既見)。アントン・チェーホフの小説「黒衣の僧」「六号病室」から想を得たもので、チェーホフ作品の底流にある苦悩を現代に通じる普遍的なものとして捉えています。コミュニケーション不全、無名性のなかを彷徨う現代人の実相を怜悧に抉りとった快作。『人形の家』に続くシリーズ特有のアングラ・テイストに好悪あるでしょう。しかし、その点に気を取られ作品の本質を見誤ってはいけません。人間の精神的領域を身体を通して描く骨太にして知的な創作力は特筆されるべき。わが国の創作者のなかでは圧倒的に抜きん出ているのは疑いないところです。珍しいキノコ舞踊団『私が踊るとき』は、バレエ音楽からジャズ、ラテンにいたるまでの幅広いナンバーにのせて踊る踊る踊る。飽かせることない踊りのつるべうちに全身を解してくれるかのような心地よい時間を過ごせ至福でした。他では、H・アール・カオス×大友直人×東京シティ・フィルによるコラボレーションコンサートが充実していたのは衆目の一致するところ。でも、旧作中心で、2007年の『ドロップ・デッド・カオス』以来の新作自主公演が観たいのが本当のところなので挙げませんでした。大島早紀子のような才人が自主公演を打てず、今回のような企画でも1日限りしか公演できないのが残念。日本の舞踊をめぐる諸状況の貧困さを露にしているといえるのでは。

特に印象に残るアーティスト3人

・上野水香(東京バレエ団『ラ・シルフィード』の演技)

・橘るみ(金田あゆ子振付『完璧なお城』の演技 於:日本バレエ協会公演)

・廣田あつ子(真島恵理ダンスエマージ『百年の孤独』の演技)

上野水香というプリマは常に予想を裏切りさらなる先端をいつも見せてくれるという点で傑出した素晴しい存在。初めて挑んだ『ラ・シルフィード』のタイトルロールでは、強靭なテクニックを巧みに操りつつ妖精らしい浮揚感を表現し、持ち前のプロポーションのよさを最大限に活かしたポーズの美しさが映えていました。結果として、元来の資質が最良の形で反映されたというべきでは。橘るみは、ロマンティック・バレエの名作『ジゼル』に想を得た異色の創作において、女性の抱く愛憎や悲しみの感情やピュアな愛を雄弁に身体で語って胸に迫るものがありました。中村恩恵とのユニット活動が注目される廣田あつ子はモダン・バレエ的創作を続ける真島恵理作品で抜きん出た表現力を見せて印象に残ります。もっといろいろな振付家の作品や自作を観てみたいダンサーの最右翼のひとり。他では近藤良平とのデュオ『私の恋人(アイジン)』、飴屋法水の演出・構成による独舞『ソコバケツノソコ』と舞台の続いた黒田育世。ことに前者では、近藤との絶妙な掛け合いが興奮と笑いを誘いました。バレエでは、新国立劇場バレエ団『白鳥の湖』においてザハーロワに代わり急遽登板してオデット/オディールを踊った川村真樹。同役を踊った新星の小野絢子の踊りも折り目正しく破綻なくラインがすごくきれいで上出来ながら二役をきっちり演じ・踊り分け、舞台の中心を締めるという主役に相応しい働き・風格という点では経験豊富な川村に分があったように感じました。

2010-02-03

[]Vol.1 矢内原美邦

2000年代のコンテンポラリー・ダンス シーンを牽引してきた代表的なアーティストのひとりとして挙げられるのが矢内原美邦(やないはら みくに)。1997年、ダンス、映像、衣装等の各分野で活躍するアーティストを集めたパフォーミング・アーツカンパニー「ニブロール」を結成し代表と振り付けを担当、現代美術や演劇シーンからも広く注目を集める存在です。2005 年には、個人プロジェクト「ミクニヤナイハラプロジェクト」を開始して劇作・演出を手がけ岸田國士戯曲賞最終候補に。ビデオアート作品、インスタレーション制作も手がけ、off nibroll 名義で映像の高橋啓祐とともに活動しています。

矢内原がダンスを始めたきっかけは、高校ダンス部に所属していた姉によって団員不足のため廃部にならないようにと入れられたためというのはよく知られたエピソード。1989年には大阪体育大学に入学、体育学科舞踊専攻第1期であり、創作ダンス部に所属して全国高校・大学コンクールにてNHK賞等を獲得するなど活躍します。卒業後は映像制作に進み、映像学校の仲間たちとニブロールを設立。『林ん家に行こう』(1998年)、『東京第一市営プール』(1999年)などを小スペースで発表し、大きく注目されたのが『駐車禁止』(2000年)でした。「ダンスセレクション2000」の参加作品で、私が最初に観た矢内原作品でもあります。ひたすらぶつかり、倒れ、跳ね、叫ぶ。鬱屈した感情を叩きつけるかのように。激しく衝突し咆哮する身体が痛切な痛みを感じさせながらもせつなさ寂しさがそこはかとなくあってグッとくる。リアルで切実な傑作でした。

『駐車禁止』やその路線をより突き詰め、かつスケールの大きな世界観を展開した『コーヒー』(2002年)などでは、矢内原の振り付けはおよそダンス的といわれるようなものではなく、矢内原のキャリアも含めて邪推すればあえて普通の意味でのダンスに距離を置いている印象でした。ダンサーではない人に踊らせることも多かったのも意図があってのことでしょう。映像や音響と身体表現が交錯し、過剰なまでの情報量あふれる舞台に「いま」をいやが応にも感じさせ若い世代の熱狂的な支持を受けます。ファッションショー『日の丸ノート』(2002年)、演劇公演『ノート(裏)』(2003年)、ダンス公演『ノートwith ATTACK THEATRE』(2003年)と同コンセプトを多角的に表現した「ノート」シリーズの総決算『NOTE』(2003年)、映像や衣装とのコラボレーションが奇跡的なまでにうまくいきニブロール/矢内原の独自の美的センスを極限まで突き詰めた『ドライフラワー』(2004年)、シンガポールや国内各地で上演された『no direction。』(2006年)を経てカンパニー創設10周年を記念して上演された大作『ロミオ OR ジュリエット』(2008年)は総決算にして新展開を見せました。何よりもダンスが前面に出てきたのです。

シェイクスピアの「ロミオとジュリエット」をモチーフに現代を生きる我々が混迷する世界においてパトス的な感情のなかでしか生きえない様を鋭利に描いた作品ですが、従来のニブロール作品よりもダンスらしいダンスが増えたというか、きっちりと踊れる踊り手の強度ある表現が紛うことなき説得力を生んでいたのは確かでした。『駐車禁止』など初期作品のイメージからその児戯的とも評される身体性のみがやや過剰に論者等に取り上げられた観もありましたが、矢内原ほどダンスとは何であるかを意識的であれ無意識的であれ考えてきたアーティストもいないのでは。以下、『ロミオ OR ジュリエット』拙評からの引用です(「オン・ステージ新聞」2008年2月15日号)。

矢内原は高校時代からモダンダンスを学び受賞歴も誇るが初期の『駐車禁止』(2000年)『コーヒー』(2002年)等では踊れる出演者は用いず、反舞踊的な身体を追究していた。が、本作のリーフレットでは臆面もなくダンスへの愛を語っている。実際、今回は比較的踊れるメンバーも投入、アグレッシブな活躍をみせていた。矢内原にとってダンスとは何か。模索はまだ始まったばかりなのかもしれない

そう書いてから2年経ちますが、矢内原の新作『あーなったら、こうならない。』の報が入ってきました。それも「矢内原美邦 新作ダンス公演」と銘打たれて。ニブロール公演ではなく、矢内原の単独ディレクションというのが注目されます。そして、HP等における矢内原の抱負ですが“「ダンスとは何か?」 20年以上問い続けてきたけれど その答えはまだ出ない ダンスを信じて ありふれたダンスから遠く離れたところへ行かなくちゃならない”というもの。ダンスを愛し、ダンスを信じるがゆえに、さらなる高みへと挑戦を続ける矢内原。かつてトヨタコレオグラフィーアワードに出場した際、矢内原=ニブロール=映像等とのコラボレーションというイメージとは裏腹にシンプルな動きを突き詰めて振付けという定義そのものを揺らすような刺激的な作品を出していた際に確信しました。誰よりもダンスとは振付とはという問いに誠実に向き合っているアーティストだと。新作ダンス公演のほか、今年は秋に愛知トリエンナーレにてニブロール新作発表も予定。いま、もっとも見逃せないアーティストという称号に真にふさわしい存在でしょう。

公演予定

Red Brick Contemporary Dance File

矢内原美邦 新作ダンス公演

「あーなったら、こうならない。」

振付・演出:矢内原美邦

出演:カスヤマリコ 陽茂弥 橋本規靖 小山衣美 絹川明奈 永井美里

【日時】2010年

3月5日(金)20:00開演

3月6日(土)14:00開演/20:00開演

3月7日(日)14:00開演

※受付開始は開演の1時間前、開場は30分前

【会場】

横浜赤レンガ倉庫1号館3F ホール

【チケット】1月16日(土)一般発売

前売3,000円/学生2,500円/当日3,500円(全席自由席)

取り扱い:プリコグWEBショップ http://precog.shop-pro.jp/

公演関連情報

precogtube(映像・インタビュー等)

矢内原美邦×伊藤千枝(珍しいキノコ舞踊団)対談

関連LINK

ニブロール公式ホームページ

矢内原美邦の毎日が万歳ブログ

392mikumiku(ニブロールの映像豊富)

すばる文学カフェ ひと

ニブロール「コーヒー」

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2010-02-01

[]第38回ローザンヌ国際バレエコンクール結果発表

第38回ローザンヌ国際バレエコンクールの決勝が1月31日に行われ、第3位に佐々木万璃子さん(川口ゆり子バレエスクール)が入賞しました。ネット上での生中継も行われていましたが、まもなくYouTubeの公式チャンネルに映像がUPされるのでは。

今回は、予選通過(DVD審査)した69人のうち女子32人男子37人とローザンヌ史上初めて男子数が女子数を上回り、日本人の決戦出場者3名のうち2名も男性(木ノ内周くん、アクリ璃嘉くん)。男子の活躍が圧倒的ななか佐々木さんは女子最高位入賞しました。2007年にバレエシャンブルウエストの『くるみ割り人形』クララ役に抜擢され、その舞台は観られなかったのですが、すばらしいパフォーマンスだったと仄聞して以来、国内で行われるコンクールや公演等で注目している存在でした。おめでとうございます。

ニューヨークで決戦が行われるYAGP(ユースアメリカグランプリ)が10周年を迎えビッグイベントとなりつつありますが、ブランド力ではやはり老舗のローザンヌ(特に日本では)。現在発売されている「ダンスマガジン」3月号のディアナ・ヴィシニョーワへのインタビューでも、彼女がローザンヌでゴールドメダルを獲った直後にバレエ学校公演で来日した際、観客からスター扱いを受けて驚いたというエピソードが語られていました。バレエ芸術においてコンクールがすべてではありませんが、ダンサーにとって励みになりステップとなり、観客にとって新しい才能に出会える貴重な機会なのは確かでしょう。

Prix de Lausanne 2010

Youtube - Prix de Lausanne’s Channel

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