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ダンスの海へ 舞踊評論家・高橋森彦のblog このページをアンテナに追加 RSSフィード

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2010-03-30

[]日本芸術文化振興会平成22年度助成対象活動決定

平成22年度芸術創造活動特別推進事業助成対象活動および芸術文化振興基金助成対象活動が3月26日付けで公表資料として発表されました。

舞踊では、芸術創造活動特別推進事業助成対象活動が応募件数67件のうち56件が採択され、芸術文化振興基金助成対象活動が158件の応募のうち51件が採択されています。他にも芸術文化振興基金において多分野共同等芸術創造活動のなかで舞踊関連が数件採択されています。昨年末に文化予算自体は0・5%UPしたという報道がありましたが、公表データを見る限り、舞台芸術予算自体は多少ですが減少気味のようです。とはいえ、昨秋の「事業仕分け」に揺れた頃を思い返せば、こうやって予算が出るという事実に、なにはともあれ安心・安堵を覚えた関係者も少なくないのでは。

平成22年度 芸術文化振興基金助成対象活動

http://www.ntj.jac.go.jp/kikin/joho/h22/katudou2010.html

平成22年度 芸術創造活動特別推進事業助成対象活動

http://www.ntj.jac.go.jp/suishin/joho/h22/katudou2010.html

今回のネットでの公表は画期的です。理由のまず第一は迅速さ。というのも芸術文化振興基金助成対象活動の決定については例年4月ごろに日本芸術文化振興会のHP上にアップされていたものの昨年まで文化庁資料発表となっていた芸術創造活動特別推進事業に関しては6月頃に公表されるなど情報公開の遅さが気になるところでした。それが、応募団体への通知とさほど間をおかないと思われるタイミングで公表されるとは・・・。第二に芸術創造活動特別推進事業の採択公演に関して助成予定額がはじめて公開されたこと。芸術文化振興基金助成対象活動に関しては例年、助成予定額が公表されていましたが、芸術創造活動特別推進事業に関しては一般的にはどういう予算配分がなされているのかまったく不明でした。それがちゃんと出たのは、遅きに失した感はありますが、情報公開の公明性という点で非常に望ましいでしょう。

助成内容の内訳をみましょう。芸術創造活動特別推進事業助成対象活動では、首都圏のバレエでは新国立劇場とテレビ局がスポンサーにつくKバレエカンパニー、行政との芸術提携を結んでいる東京シティ・バレエ団(芸術文化振興基金で2件採択)を除く大手および有力カンパニーが例年同様採択されています。最多採択&最多受給団体は6件採択の財団法人 日本舞台芸術振興会(東京バレエ団公演)。それに財団法人 松山バレエ団(松山バレエ団)、財団法人 橘秋子記念財団(牧阿佐美バレヱ団)と大手が続きます。他にも3、4件採択団体が複数。各地の状況をみると、関西では、大阪の法村友井バレエ団、神戸の貞松・浜田バレエ団が例年通り複数公演採択を受けています。名古屋では芸術文化振興基金や舞台芸術振興事業を受けてはいたものの老舗大手の松岡伶子バレエ団が初めて同事業の採択となりました。コンテンポラリー等では大橋可也&ダンサーズ、Dance Theatre Ludens、フラメンコでは鍵田真由美・佐藤浩希、石井智子の気鋭の躍進が目につきます。芸術文化振興基金は大激戦だったと思われますが、若手のKENTARO!や平原慎太郎らのC/ompanyが初採択。話題性抜群の彼らも3年くらいは活動を続けて実績を積んできたことが証明された形でしょう。

来年の3月末までに行われる公演予定のうち不明だったもの、一般的には内容が公表されていなかったものが明らかになるのも楽しみ。東京バレエ団の〈エロス・タナトス〉(仮題)やNBAバレエ団の『ナポリ』全幕(日本のバレエ団による全幕初演では?〉等は話題になりそう。東京シティ・バレエ団の「シティ・バレエ・サロンvol.1」という企画も気にかかります。創作ものという点では、貞松・浜田バレエ団の「創作リサイタル22」において、同バレエ団出身で欧州で活躍する振付家・森優貴が挑む大曲『冬の旅』の上演が注目されるところ。芸術創造活動特別推進事業助成対象活動に採択された「ローザンヌ・ガラ2010」も熊川哲也が芸術監督を務めるようですが、予算も付き、手ごたえのあるものになるのでは。コンテンポラリーの大御所・黒沢美香はダンサーズ公演のほかソロ「薔薇の人」公演も採択され、精力的な活動に目を瞠らされます。

2010-03-28

[]エイブル・アートの意義

エイブル・アートという言葉、活動をご存知でしょうか?

それは、障がい者による芸術の可能性を広げ、障がい者の社会的地位を向上させるとともに、芸術と社会の新しいあり方を探っていくものです。これは1995年に播磨靖夫が提唱したわが国から生まれた運動であり、エイブル・アート・ジャパンをはじめとした団体が活動してきました。展覧会やフォーラムを開催したり、アトリエでの創作活動の場を設けるなど広く注目を浴び、播磨がこのほど平成21年度芸術選奨文部科学大臣賞[芸術振興部門]を受賞しました。以下、受賞理由を文化庁HPから引用します。

播磨靖夫氏は,早くから社会福祉活動の中にその重要な要素として芸術活動を位置づけた先駆者の一人。特に,周縁にあると考えられていた「障害者アート」を大きく見直し,それぞれの表現の違いを個性として捉え,障害者の表現こそが,芸術活動の全体を多様化し,芸術運動として既存の規範を超えるものとして「エイブル・アート」を提唱した。これにより福祉の分野と芸術分野の双方に大きな果実をもたらした。国際的な貢献も大きく,播磨靖夫氏は,長年にわたる活動のひとつである「わたぼうし音楽祭」をアジア太平洋にも広げ,平成21年には,10以上の国際ネットワークを樹立するに至った。

近年のエイブル・アート・ジャパンの活動のなかで注目されるのが、明治安田生命保険との共同主催で2003年から行ってきた「エイブル・アート・オンステージ」。障がい者と第一線で活躍する演劇やコンテンポラリー・ダンスのアーティストが協力して行う創作への支援プロジェクトです。協同作業の結果、これまでに見たことのない新しい舞台表現を提示したり、新しい価値観を生んでいく意欲的な試みといえます。事業はいくつかありますが、支援団体の作品を東京で上演するのが「コラボ・シアター・フェスティバル」であり、今回、助成最終年度として4つのプログラムがアサヒ・アートスクエアほかで上演されました。これも先だって明治安田生命保険がメセナ協議会による「メセナ アワード2009」の「ベスト・コラボレーション賞」を受賞するなど高く評価されています。

管見ながらこれらの活動に接したり、その反響を見聞する限りでは、障がい者アートという枠を超えて、社会に地域に根付いた芸術振興として得がたいと感じます。イギリスなどで活発なコミュニティ・ダンス等の活動とリンクする面もあり、芸術と社会の関係をより深く追求することは必要でしょう。その方面のアートマネージメントや研究に勤しむ方もいるようです。また、作品としても興味深いものがあります。プロのアーティストが普段の自身の活動では出てこないような発想を生み出したりできるのも、コラボレーションによる結果なのでは。NPO法人ダンスボックスによる循環プロジェクト公演『≒2-にあいこーるのじじょう-』などは各地で再演されるなど質的にも評価されています。

『≒2 -にあいこーるのじじょう-』

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ただ、よく指摘されるように、エイブル・アートに関して評価を下すことは難しい面も。コンテンポラリー・ダンスや先端的な演劇の愛好家的な尺度から「面白い」「面白くない」とアレコレいうだけでいいのか・・・。偏見等なしの率直な意見・感想こそ関係者は望むところでしょうが、創作に参加する障がい者を取り巻く環境や社会福祉的な面からの意義も考慮しないといけないということもあるかもしれません。エイブル・アートがアートとしての独自性を追求することと社会・福祉運動としてアピールしていくことの両立の難しさとも重なってきます。とはいえ、芸術と社会の距離を縮め、芸術を通して豊かな社会を創造していきたいという姿勢には共感できる。今後も注目したいところです。


生きるための試行 エイブル・アートの実験

生きるための試行 エイブル・アートの実験


2010-03-24

[]『スイートリトルライズ』と表現者・小林十市

アート系映画フリーク(邦画)に好きな映画は何かと問えば、挙げる人が少なくないであろうカルト映画『三月のライオン』で知られる矢崎仁司監督の最新作『スイートリトルライズ』が3月13日(土)から東京 渋谷・シネマライズほかで公開されています。

江國香織の同名の恋愛小説の映画化で、理想的な夫婦の間に生まれる溝を描いたもの。テディベア作家の瑠璃子(中谷美紀)とIT会社勤務の聡(大森南朋)が、個展で自分のベアを欲しがる春夫(小林十市)、大学時代のサークルの同窓会で再会した後輩のしほ(池脇千鶴)とそれぞれ逢瀬を重ねていく――。穏やかに見える日常に潜む陰を静謐な映像美とともに浮き彫りにしていく不思議な魅力に満ちた作品でした。

『スイートリトルライズ』予告編

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随分前に予告編を見ていたものの劇場で本編を見るまで意識していなかったのですが、元ベジャール・バレエ・ローザンヌで活躍した小林十市が重要な役で出ていました。小林のベジャール・ダンサーとしての現役時代を知らないバレエ・ファンも増えつつあり、現在は「ブログ・ジャンプの人」(!)「首藤(康之)さんの友達」(笑)というイメージがあるかも。しかし、小林のために振付けられた『くるみ割り人形』猫のフェリックスや『バレエ・フォー・ライフ』のミリオネア・ワルツ、そして小林ひとりのために創られた『東京ジェスチャー』はベジャール・バレエの歴史のなかでも忘れ難いもののひとつでしょう。軽やかで変幻自在、凛としていて透明感があって飄々としている――数多いるベジャール・ダンサーの系譜のなかでも特異な、得難い存在のひとりではないでしょうか。

小林は、腰の故障による引退後、商業演劇を中心とした俳優活動を展開し、私も演劇デビュー作の『エリザベス・レックス』(青井陽冶演出)や『友達』(岡田利規演出)を観ています。先に触れた魅力は、俳優活動でも活かされ、繊細な感性を発揮して舞台出演が相次いでいるようです。その傍ら、パリ・オペラ座バレエ団や東京バレエ団にベジャール作品の振り付け指導を行っています。東京バレエ団に指導した『中国の不思議な役人』や『火の鳥』といったベジャールの名作の仕上がりは素晴らしく、指導者としても極めて優秀であることを証明。上野水香に『ボレロ』を指導したのも確か小林でした。

今回の映画『スイートリトルライズ』は、ありふれた日常の生活の営みのなかに忍び寄る不安や死のイメージが展開されます。小林は、そのなかでベッド・シーンなども演じますが、確かな実存的な存在感を醸しつつ妖しい独自の魅力を出しています。新劇や小劇場の出身者ともテレビやモデルから出てきた人とも違う魅力を発揮していました。バレエ・ダンサー出身の表現者としてのマルチプルな活躍に今後も要注目。演劇・映像分野での活躍も願いつつ、以前、ある媒体の記事でも記したのですが、いつの日か時期が来れば、ダンスを踊ってくれる小林の姿を見てみたいと改めて思いました。

小林十市オフィシャルWEBサイト

小林十市オフィシャルウェブサイト【ダイアリー】

2010-03-23

[]アートのチカラ

名門パリ・オペラ座バレエ団の2年ぶりとなる来日公演が幕を閉じました。今回上演されたのは2演目。豪奢な装置・衣装と装飾的な振付のヌレエフ版『シンデレラ』、簡素な舞台意匠、シンプルな物語ゆえに演出・演技・踊りそのもののクオリティが問われる『ジゼル』と好対照で楽しめました。『シンデレラ』はマリ=アニエス・ジロ&カール・パケット、デルフィーヌ・ムッサン&マチュー・ガニオ、『ジゼル』はアニエス・ルテステュ&ジョゼ・マルティネス、ドロテ・ジルベール&マチアス・エイマンで観ましたが、ベテラン世代の円熟に加え、なによりも若手世代の伸びを実感。総じて高水準で楽しめました。

パリ・オペラ座バレエ団「シンデレラ」

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オペラ座バレエ公演の入場券は決して安くありませんが、全公演を通じてよく入っていた模様。ご時世もあってバレエ・ファンの財布の紐は緩ませんが、超一流のものはなんとしても観たい!昨年、日本でも大ヒットした映画「パリ・オペラ座のすべて」や女性誌等のパブリシティ効果もあるのでしょう。バレエ・ファンにとどまらない幅広い層を集客しているように感じられました。いいものには観客が入る、内容と料金が比例しないものには飛びつかない。そういった傾向がここ数年出てきたのはいい兆候だと思います。

それは、オペラ座バレエと同時期に来日していたヤン・リーピンの『シャングリラ』でも感じました。これは、中国を代表する舞姫ヤン・リーピンが中国各地の少数民族の舞踊や歌を採集し、その本質と魅力を壊すことなくエンターテインメントとして昇華させたもの。本国でも踊る機会は滅多にないというリーピン自身による「月光」と「孔雀の精霊」は、超絶の技巧と神秘的な演出が一体となっていて、一見の価値あり。3年前の初来日の際にソールドアウトが相次ぎ、今回もよく入って追加公演も催されたようです。

Moon - Solo Dance by Yang LiPing

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いいものはいい。伝統やブランドの裏打ちのあるコンテンツは多くの観客に訴求できます。無論、そういったものは一朝一夕には築けないでしょうし限りがあります。でも、舞踊や音楽に関心深い潜在的な客層がいることは、不景気とはいえ「入っている」公演があること、その客席の反応からも実感できます。すばらしい演技や踊りに接すると、心身が開放され、豊かな気分に満たされます。ここ数日だけでも、オペラ座の『ジゼル』それにヤン・リーピン公演のほかに、能(津村禮次郎)とピアノ(北川暁子)とダンス(中村恩恵)のコラボレーション『手の詩』や異才・井手茂太が色合い豊かなことこの上ない沢田祐二の照明を得て踊った井手茂太 『イデソロリサイタル [idesolo]』など充実したものがありました。公演ラッシュですが、一つひとつの公演をじっくり味わい、音楽やダンス・演劇といったパフォーミングアーツのチカラを見直したい今日この頃です。

2010-03-19

[]ジゼル・イヤーも終盤に

昨年から内外の団体が相次いでロマンティック・バレエの名作『ジゼル』を上演しています。2幕構成とコンパクト、装置もシンプルなだけに、経費がかかり難く不況にも強いバレエという説もありますが(笑)シンプルなゆえカンパニーのダンサーの水準や細部の演出への意識の有無が明瞭に見て取れます。さまざまなダンサーによるジゼル、アルブレヒトの演技を見比べる楽しみに加え、各団体の演出の違いを見るのも一興。何度見ても飽きない――『ジゼル』というバレエは汲めども尽きぬ魅力に溢れています。

昨日(18日)からは名門パリ・オペラ座バレエ団の上演が始まりました。ジャン・コラーリ、ジュール・ペローによる1841年の初演版、ロシアでのマリウス・プティパの改訂振付を踏まえつつパトリス・バール、ユージン・ポリャコフが新たに振付けたバージョン。マイムも多用し演劇性の高さが際立ちます。初日はジゼル:アニエス・ルテステュ、アルブレヒト:ジョゼ・マルティネズ、ミルタ:マリ=アニエス・ジロというエトワールが登板し迫真の演技を繰り広げ、ソリスト・群舞の水準も言わずもがなですが高いものでした。

今年は年明けに、精緻な演劇的演出で名高いピーター・ライト版をスターダンサーズ・バレエ団が上演しましたし、今月はニーナ・アナニアシヴィリが芸術監督・主演を務めるグルジア国立バレエの公演も。月末には日本バレエ協会が都民芸術フェスティバル参加公演としてイングリッシュ・ナショナル・バレエのメアリー・スキーピング演出・構成・振付によるバージョンを上演します。1841年初演当時の楽曲による復元版ということでバレエ・フリークとしては気になるところ。酒井はな&ファビアン・ライマー(イングリッシュ・ナショナル・バレエ)、永橋あゆみ&法村圭緒の2組が共演します。

『ジゼル』の魅力は数あれども、台本がしっかりしていること、そして踊りと演技の合一が大切だという点は、今の時代に生み出される物語バレエにとっても示唆に富むのではないでしょうか。現存し頻繁に上演される最古のバレエといえますが、古くて新しい作品。物語バレエの原点があると相次ぐ上演に接して強く思わせられました。


ジゼルという名のバレエ (クラシックス・オン・ダンス)

ジゼルという名のバレエ (クラシックス・オン・ダンス)


パリ・オペラ座バレエ「ジゼル」全2幕 [DVD]

パリ・オペラ座バレエ「ジゼル」全2幕 [DVD]

2010-03-16

[]矢内原美邦、アーティストの矜持

3月16日付「讀賣新聞」夕刊(東京本社版)の「クラシック 舞踊」のコーナーに先日、横浜赤レンガ倉庫1号館にて行われた矢内原美邦 新作ダンス公演 『あーなったら、こうならない。』の公演評が出ています(筆者:堤広志氏)。「死に囚われた人生 端的に」と題されたもので“人生の苦悩を描いて痛切な舞台となった”“死に囚われた人生を描く思慮深く秀逸な舞台”などと高く評価。同公演を観たものとして同感でした。

矢内原が音楽・衣装・映像等のアーティストと組んでのディレクター・システムによるニブロールでの舞台とは異なり、より身体に、よりダンスにフォーカスをあわせた作品。ダンス公演と銘打つからには期するものがあったのでは。そして、「讀賣新聞」の評が鋭く指摘しているように、主題として死というものが色濃く出ているのは明らかです。矢内原の個人的な想念によるものなのでしょうが、それ以上に、死というものは、舞踊、そして人間が生きるうえでの根源にあるテーマといえます。そこにこれまで以上に突っ込み、真摯に向きあうことで矢内原の描く世界はより深度を増した印象を受けました。

そして、“スキルの高い若手ダンサーたちのポテンシャルをストレートに活かし、振付も効果的で洗練されている”と「讀賣新聞」評でも指摘されているように、かつての矢内原作品とは違って踊れるというかある程度のダンス経験のあるダンサーがアグレッシブに動いていました(その兆しは2008年『ロミオ OR ジュリエット』から感じられ、私は当時媒体に寄稿した評で指摘しています)。以前の矢内原作品でもあったようなダンサー同士がぶつかったり絡んだりする場でも、緻密な身体コントロールによってよりそのタイミングが巧妙に。人と人の関係性や距離がより微細に説得力を持って語られかつスリリング。倒れたり、横たわったり、震えたりといった動きも単なる感情の発露や生の身体を晒したしたものでなく、作品全体のなかでの必然ある振付として見えてきました。ダンサーの技量を活かしつつありふれたダンスを踊らせないでダンス、振付というものの可能性の萌芽を感じさせた矢内原の試みは発展途上にせよ刺激的でした。

矢内原といえば同時期に深川東京モダン館で行われていたoff-Nibroll 映像インスタレーション 「Double START」 展も印象に残りました。映像、写真などのメディアを通して身体との関わりを追求しているoff-Nibroll。今回が東京での初の個展でした。そのなかでもっとも忘れられないのが『チョコレート』という作品(昨年末に名古屋で行われたイベントでも見ましたが)。矢内原と映像の高橋啓祐の祖父たちの戦争時代の写真の前にハート型の小さなチョコレートが無数散乱しています。鑑賞者はチョコを踏みながら写真をみることに。ここでチョコは死んだ人の心臓という意味をこめて作られているそう。甘美で口解けがよい。でも、小さなハート型のものを踏んでもなかなかビクともしない。いま、われわれが生きていられるのも先祖や先達のおかげであり、多くの人々の死や犠牲のうえに成り立っているということを身にしみて実感させてくれます。

矢内原が凡百の振付家/アーティストと立場を異にするのは、声高に主張せずとも生の実感や死をめぐる想念を観るものにひしと伝えること。そこにアーティストとしての矜持があるのでは。『あーなったら、こうならない。』も『チョコレート』もその線を外していません。アートとは鑑賞者との対話。矢内原の創造の核には、パーソナルな事柄をいかに社会や世界との間で捉えるかの模索があり、それを観るものが肌で感じられる。表現が信じられる。仮に迷走があったにしても。今後の活動からも目が離せません。

2010 矢内原美邦「あーなってもこうならない」ただいま稽古中

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Ierimonti and Off Nibroll

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2010-03-12

[]岩田守弘に芸術選奨文部科学大臣賞

文化庁は12日、2009年度の芸術選奨の受賞者を発表しました。舞踊部門の芸術選奨文部科学大臣賞にロシア国立ボリショイ・バレエ団第一ソリストとして活躍する岩田守弘を選出(同賞同時受賞は花柳寿美、同新人賞受賞は山村若有子)。

http://www.bunka.go.jp/geijutsu_bunka/souzoukatsudou/sensho/21_geijutsu_sensho.html

以下、受賞理由を文化庁HPより引用します。

幼少の頃よりバレエに親しんだ岩田守弘氏は,優れた身体能力と鋭い技巧により世界屈指のロシア国立ボリショイ・バレエ団第一ソリストとして活躍。「白鳥の湖」の道化や「明るい小川」のアコーディオン奏者に加え,「バレエ・アステラス☆2009」(新国立劇場 8月)では「サタネラ」パ・ド・ドゥを個性豊かに演じて印象深い。たゆまぬ努力と真摯な姿勢は創作への道を切り開き,ファルーフ・ルジマトフのために振り付けた「阿修羅」(ゆうぽうとホール 7月)で,その才能を開花させた。

岩田は、ボリショイ・バレエの来日公演においても名ソリストとして鳴らし、日本のバレエ・フリークの間でも支持を受けていましたが、先年、NHKの「プロフェッショナル 仕事の流儀」で取り上げられ、バレエ・ファン以外にも広く認知される存在に。日本人でありながら初めてロシアの超名門バレエ団の重責を担うポジションに登り詰めた背景には、選評にあるように、惜しみない努力と真摯な態度があったはず。近年は振付家としても活躍。その軌跡が簡にして要を得た構成と文章で語られているのが下記の一冊。




岩田は現在来日中のグルジア国立バレエ(芸術監督:ニーナ・アナニアシヴィリ)の『ロミオとジュリエット』にマキューシオ役で出演しています。今夏には日本で踊る舞台をいくつか予定。また、毎日新聞で連載された「時代を駆ける」という取材記事によると、5月にはモスクワでロシア在住20年を記念した公演を予定しているようです。ロシア人ダンサーのほか、若き日からの盟友的存在である小嶋直也、久保紘一らを招くとか。振付家としての活動の場も広がりつつあり、さらなる活躍を期待したいところです。

岩田守弘オフィシャルブログ

http://ibashika.exblog.jp/

2010-03-11

[]2000年代を代表するソロ公演 究極の10本【私家版】

2月、3月は助成金等の対象期間において年度末にあたることもあって公演ラッシュとなり、スケジュールの都合上、観たくても観られない公演も続出します。ことにコンテンポラリー・ダンスは盛況で、おびただしい公演が行われていますが、量だけでなく質的に高いものがあるのがうれしいところ。コンテンポラリー・ダンスというある種のフォーマットができつつある面もなきにしもあらずですが、中堅やベテランがボルテージを落とさず既成概念を打ち破る創作を続けている感。先日の「横浜ダンスコレクションR」に来日して審査員を務めていたフランス人ディレクター/アーティストが若手アーティストに望むこととして“確かなものは捨てる”ことをあげていました。既存の手法や価値観に安住したり、自己愛に溺れるダンスほど見苦しいものはなく、観客を劇場から遠ざけます。確かなものを捨て未踏の領域へと進むことは、キャリアを重ねるアーティストであればあるほど求められるし、一筋縄にはいかない厳しい道ではないでしょうか。

そんななかにあって自身の身体を見つめ直す機会となるのがソロ公演でしょう。身一つで、自分と世界と向き合う――アーティストにとっては苦しい作業でしょうが、そこから生まれる新たな表現の誕生に立ち会えるのは観客の喜び。先日も黒沢美香『薔薇の人−早起きな人』東野祥子『VACUUM ZONE』という超弩級の傑作が!。ソロ・ダンスの魅力を再認識するにいたり、ここ10年ほどに見ることのできたソロ公演で新鮮な衝撃を受けたもの、独自の濃密な世界観に深く惹かれたものをピックアップしてみました。洋舞(死語?)限定で、短いソロや劇場外でのパフォーマンス等は除きました。

2000年代を代表するソロ公演 究極の10本【私家版】

黒沢美香『薔薇の人-ROLL-』(2000年)

室伏鴻『Edge』(2000年)

笠井叡『花粉革命』(2001年)

麿赤兒『川のホトリ』(2001年)

田中泯『脱臼童體』(2002年)

白井剛『質量,slide,&.』(2004年)

井手茂太『井手孤独【idesolo】』(2005年)

矢内原美邦『さよなら』(2006年)

勅使川原三郎『ミロク』(2007年)

平山素子『After the lunar eclipse/月食のあと』(2009年)

選んだ10本は単独公演として上演したもの限定。室伏鴻『Edge』は舞踏とコンテンポラリー・ダンスのハイパーな掛け合わせが刺激的でまさに事件だった。黒沢美香『薔薇の人-ROLL-』は繊細精緻な表現力とブッ飛んだ暴走ぶりに圧倒される超傑作。笠井叡『花粉革命』は舞踏/コンテンポラリーの大御所として華麗に復活した記念碑的作品。麿赤兒『川のホトリ』は麿の存在感がとにかくすごくてそれだけで世界が成立しえる稀有な一本。田中泯『脱臼童體』は土方以来の舞踏の歴史に残る名舞台とされるが納得。白井剛『質量,slide,&.』は白井の代表作にして2000年代のコンテンポラリー・ダンスを語る際に欠かせない一本。井手茂太『井手孤独【idesolo】』は動きの面白さと井手のパーソナリティが横溢する愛すべき快作です(5年ぶりのソロ公演がまもなくTOKYO DANCE TODAY #5『イデソロリサイタル [idesolo]』として行われるので楽しみ!)。矢内原美邦『さよなら』では、ダンサー矢内原の絶妙なステップワークが光りました。勅使川原三郎『ミロク』は、今さら解説するべくもない傑作として舞踊史に残るでしょう。平山素子『After the lunar eclipse/月食のあと』は、舞踊界を担うべく存在の平山が出身地の名古屋で行った初の単独ソロ公演。ライトアートや衣装との斬新なコラボレーションによって身体表現の可能性を模索して刺激的でした。

他には、別格として小島章司『鳥の歌A PAU CASALS』(2005年)。カザルス曲に身一つで向き合った驚異的集中力に圧倒されました。ソロの名手たる木佐貫邦子『TOO BRIGHT TO SEE, TOO DARK TOO SEE』(2002年)、山田せつ子『Songs』(2002年)も忘れがたく、伊藤キム『しゃべりながらおどっているところになげこむんです』『ふたりだけ』(2002年)の活躍もありました。寺田みさこ『愛音-AION』の濃密で過激な世界も印象に残っています。ボヴェ太郎『Texture Regained - 記憶の肌理-』は空間と身体の関係性を模索して興味深い。舞踏では小林嵯峨・舞踏アウラシリーズ vol.4”『逃走=フーガ』。アングラテイストですが人を酔わせる麻薬的な魅力あふれた嵯峨ワールドでした。公演単位以外では加賀谷香『パレードの馬』はモダン/コンテンポラリーの可能性を示した秀作として近年最良の成果でしょう。梅田宏明『Accumulated Layout』『Haptic』はワールドワイドな活動を続ける若き異才の傑作で身体表現とメディアアートの稀なる融合でした。

Saburo Teshigawara『MIROKU』

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BABY-Q・Yoko Higashino solo dance 『VACUUM ZONE』

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Hiroaki Umeda『While Going to a Condition』

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2010-03-09

[]記念日の公演

3月8日は国際女性デーとして知られます。国際女性デーとは、女性の政治的自由と平等を求める記念日。奇しくも同日に授賞式の行われた米アカデミー賞において監督賞をはじめて女性(キャサリン・ビグロー)が受賞するというニュースが話題に。わが国のダンス関連でも現代ダンスの先駆者であり「女性の解放」を訴えてきたイサドラ・ダンカン(1878〜1927)の作品の公演が横浜で行われました。残念ながら足を運べなかったのですが貴重な催しであり、観られた方は幸運だったのではないでしょうか。

そして、翌日の9日はというと・・・暗黒舞踏の創始者・土方巽(1928〜1986年)の誕生日に当たります。例年なにかしらの記念イベントが行われますが、今年は土方の遺したテクスト「病める舞姫」を秋田弁で朗読するという催しが行われました。土方の故郷・秋田の風景が現実と幻想の交錯する不思議な文体で浮き上がってくる「病める舞姫」を慶應義塾大学の学生と秋田出身の山谷初男らプロの俳優が秋田弁で朗読。テクストの朗読の合間合間に土方の誕生から死までの主な出来事が年代順に語られました。舞踏神というよりも人間・土方、東北人としての土方の実相にせまるようでもあり刺激的でした。会場はザムザ阿佐谷。阿佐ヶ谷という町は、かつて土方が雌伏の時代に1年ほど過ごした所であり、因縁浅からぬ場所です。また、この日は夕方から雨が雪に変わり、公演が終わって外に出ると、雪がうっすらと積もっていました。雪国・秋田の深深と雪降る夜を想起したのは私だけではないでしょう。感慨深い一夕でした。

記念日というもののおかげで先人たちの業績をあらためて振り返るとともに現在、そして未来を考える契機が生まれます。特別な思いがあって特別な公演が行われるのは素敵なこと。そういった機会を大切にしていきたいものです。



2010-03-06

[]江口隆哉賞、河上鈴子記念スペイン舞踊賞、服部智恵子賞が決定

昨年度の舞台成果に対する顕彰がはじまりました。まず、社団法人 現代舞踊協会制定の第27回江口隆哉賞および第14回河上鈴子記念スペイン舞踊賞(2年に1度)、社団法人 日本バレエ協会制定の第26回服部智恵子賞が発表されました。

【第27回江口隆哉賞】

加賀谷香(『パレードの馬』等に対して)

能藤玲子 (創作舞踊団五十周年記念公演『葦の行方』『限られることの』に対して)

http://www.kk-video.co.jp/news/2010_eguchi_kawakami/index.html

【第14回河上鈴子記念スペイン舞踊賞】

曽我辺靖子(『compas de la luna』に対して)

http://www.kk-video.co.jp/news/2010_eguchi_kawakami/index.html

【第26回服部智恵子賞】

森田健太郎(牧阿佐美バレヱ団/新国立劇場バレエ団オノラブル・ダンサー)

http://www.j-b-a.or.jp/hattori-prize_10winner.html

江口賞にはモダン=コンテンポラリーの中堅として活躍する加賀谷と、北海道を拠点に長年息の長い活動を続ける能藤が選ばれました。加賀谷は各現代舞踊舞踊コンクールにて1位を総なめにした後、ダンサーとして多くの振付家作品で活躍する傍ら自作も数多く発表し『パレードの馬』で大ブレイクした逸材です。コンテンポラリー・ダンスの観客にもアピールできる秀作を放ちました。能藤は東京で上演された小品をいくつかしか観れていませんが、動きへの意識の高さが並々ではない押しも押されぬ大家。地域に根付き質高い活動を行ってきた大家たる能藤と、高度な技量を活かしつつつ広い観客層に訴求できる可能性を持つ加賀谷を選んだことは、バランスの取れた選考では。河上鈴子記念スペイン舞踊賞の曽我部は、受賞作で大好評を博しながらも2008年度の文化庁芸術祭にて賞を逸しただけに、今回の受賞の喜びはひとしおでしょう。

服部賞の森田は、スコティッシュ・バレエを経て牧阿佐美バレヱ団に入団しプリンシパルを務め、新国立劇場バレエ団でも主役を重ねてきました。ノーブル・ダンサーとして得がたい貴重な人です。昨年は、井上バレエ団にも客演するなど活躍し実力者ぶりを発揮。バレエ業界もうひとつの権威・橘秋子賞優秀賞に続いての受賞となり、日本バレエ史に確実に名を刻む踊り手となりました。ここ3年、服部賞には逸見智彦、田中祐子、森田と牧阿佐美バレヱのプリンシパルが選ばれていますが、1990年代からシーンを牽引してきた実力者だけに日本バレエ史に名が残ることを心から喜びたいです。

2010-03-03

[]赤尾雄人 著『これがロシア・バレエだ!』

赤尾雄人さんの書かれた「これがロシア・バレエだ!」が刊行されました。「ダンスマガジン」の連載をまとめており、単行本化が待ち望まれていたものです。


これがロシア・バレエだ!

これがロシア・バレエだ!

これは20世紀のロシア・バレエについてまとめた労作であり、日本におけるバレエ史紹介において20世紀バレエといえばディアギレフのバレエ・リュスを基点とするものが中心であったことを考えると、非常に価値のある一冊といえるのではないでしょうか。

20世紀初頭、プロコフィエフやショスタコーヴィチといった作曲家やスタニスラフスキーらの演劇人らの活躍に刺激を受けてロプホーフ、ワイノーネンやゴレイゾフスキーらが活発な活動を展開し、ラブロフスキーによるコレオ・ドラマの傑作『ロミオとジュリエット』に結びつきます。その歴史は連綿と受け継がれ、ブルメイステルを経て、ロシア・バレエの金字塔『スパルタクス』を生んだグリゴローヴィチの黄金時代を生み出し、また、異能の才人として近年再評価されているヤコプソンらが活躍します。そして、ソビエト・バレエ最後の輝きをみせたのが1980年代後半に生まれたウラジーミル・ワシーリエフによる『アニュータ』。そこまでの歴史が人物列伝形式で生き生きと描かれます。

20世紀バレエの名作としてクランコの『オネーギン』やマクミランの『マノン』、ノイマイヤーの『椿姫』等が挙げられますが、これらも20世紀初頭から育まれてきたロシア・バレエにおけるコレオ・ドラマの歴史とは無縁ではありません。ラブロフスキー版『ロミオとジュリエット』が1956年のボリショイ・バレエのロンドン公演で上演されるや否や西側世界に衝撃をもたらし、クランコ、マクミランらを感化。それが20世紀ドラマティック・バレエの名作の誕生へとつながっていったことは軽視されがちに思えます。昨年逝去したプロコフスキーや今春、新国立劇場に登場するエイフマンらも古典的なロシア・バレエの遺産を現代へとつなぐ役割を果たして多くの観客を魅了するグランド・バレエを創造しており、ロシア・バレエの血が流れています。そのことを改めて実感させてくれました。

20世紀のロシア・バレエの意義を総括するだけでなく、現在、そして未来のバレエを考える上でも示唆に富む労作。ロシア・バレエ研究の第一人者のひとりだけに豊富な資料を駆使しての論考は説得力十分です。また、精確で読みやすい美しい日本語で綴られているのもすばらしい。バレエ・ファンなら「必読」と声を大にして薦めたい一冊。

【関連書籍】

バレエ・テクニックのすべて

バレエ・テクニックのすべて

2010-03-02

[]2010年2月

印象に残った公演ベスト3は、牧阿佐美バレヱ団『三銃士』東京バレエ団『シルヴィア』黒沢美香ソロダンス・薔薇の人『早起きな人』。印象に残ったアーティスト・ベスト3は、秋元康臣(NBAバレエ団『ラ・フィユ・マル・ガルデ』の演技)、田中結子(東京バレエ団『シルヴィア』の演技)、川口節子(バレエグループあすなろ公演における『マダム・バタフライ』の振付)。今月は特別に洋舞系中心の観劇リストをUP。

3日(水)「マニュエル・ルグリの新しき世界」Aプロ@ゆうぽうとホール

ルグリ×ド・バナを向かえ〈ポスト・ベジャール〉を模索する東京バレエ団の動向に注目。ダンサーでは、先月の『ラ・シルフィード』においてさらなる新生面を拓いた上野水香がコンテンポラリーでも鮮やかな造形美を見せ充実ぶりが印象的だった。

4日(木)横浜SoloxDuo<Compétition>+@横浜赤レンガ倉庫1号館

5日(金)横浜SoloxDuo<Compétition>+@横浜赤レンガ倉庫1号館

7日(日)横浜SoloxDuo<Compétition>+@横浜赤レンガ倉庫1号館

4日間のうち3日間を観覧。ファイナルに残った15作品のうち11作品を観られたわけだが、もっとも鮮烈な印象を受けたのが三東瑠璃/小暮香帆/篠ヶ谷美穂<japonica-ponica> 『そのにわ』。小暮と篠ヶ谷のデュオだけれども、カワイイ系のスタイリッシュなパフォーマンスでも、男性の視線に媚びないクールな強さが芯にあって新しい感覚を打ち出している。動きのセンスのよさ・新しさも際立っていた。2010年代のシーンを担ってほしいグループだ。きたまり『女生徒』も気になった。客席からの登場に始まって、なんちゃってヒップホップを躍るなど破天荒で奔放なパフォーマンスが楽しい。が、ちょっと受け狙いが露骨に出た嫌いも。ただ、きたまりには代表作『サカリバ』に顕著なように、仮にそれが私的感覚に依拠したものであっても人に伝えたい・伝えずにはいられないという核みたいなものがあるので表層的な計算を超えて表現が信じられる。パーソナリティがにじみ出て華もある。審査の行方はきたまりの評価如何だと思っていたが、日本人審査員が選出する《未来へはばたく横浜賞》を獲得。japonica-ponicaは審査員賞に落ち着いた。観れなかったが《若手振付家のための在日フランス大使館賞》《MASDANZA-EU 賞》をW受賞した長内裕美(『digitalis』)は可能性を買われてのことだろう。

6日(土)池田+プラテル+ヴォルドング『ナイン・フィンガー』@彩の国さいたま芸術劇場

言葉と身体を通しての対話や挑発を通して、時代と向き合い、未来を問う。とはいっても、押し付けがましさは欠片もなく観客と場を共有することで切実なリアリティある問題提起を行う真摯な姿勢に深い感銘を受けた。欧州ではありがちな創作方法にも思えるが、若い作り手には参考になるかもしれない。

6日(土)東京シティ・バレエ団『カルメン』@新国立劇場中劇場

媒体に公演評を寄稿しました(「オン・ステージ新聞」)。メリメ原作を現代の東京を舞台に換骨奪胎した異色のドラマの再演。説明が過剰に感じられる箇所も散見されるが、現代社会の問題に取り組みつつグランド・バレエとして多くの観客に訴求する骨太な作品は歓迎だ。この版の真の主人公ともいえるホセを演じた黄凱の脆く繊細な男の内面を体現した演技には完全に魅了された。

8日(月)「マニュエル・ルグリの新しき世界」Bプロ@ゆうぽうとホール

古典のパ・ド・ドゥがひとつもない構成が目を惹くガラ。ギエムとルグリの“雪解け共演”(『三人姉妹』『優しい嘘』)を拝めたことをただただ感謝したい。

9日(火)タバマ企画『リバーシブル』@こまばアゴラ劇場

対面式の客席やブラインドを吊るして死角を遮るなどアイデア豊富な意欲作だが、総じて中途半端に終わってしまった。田畑真希のダンスはまた見たい。

10日(水)新国立劇場ダンスプラネット「近藤良平トリプルビル」@新国立劇場小劇場

コンドルズの出ない真面目な?3本ながら近藤テイストは健在。ダンサーが、いい。

11日(木)「まことクラヴかけぬけ下町商店街」@円頓寺商店街

名古屋駅から一駅の街の商店街を巡行し、各商店を紹介しながらのダンス&パフォーマンス。仕掛けたっぷりで楽しめた。

11日(木)バレエグループあすなろ第8回公演@名古屋市芸術創造センター

名古屋を拠点とする岡田純奈バレエ団と川口節子バレエ団の合同公演だが、完全にひとつのユニットとしてまとまって質高い舞台に仕上がっている。古典『ドン・キホーテ』、小品集に加え、創作『マダム・バタフライ』を上演した。プッチーニのオペラで有名な物語を蝶々夫人の愛と葛藤に焦点を絞ってドラマティックに描いたもの。名作『イエルマ』『奇跡の人』等で知られる川口節子の演出・振り付けは、人間の暗部や深い悲しみを描きながらも、美と感動を大切に見るものの感情に訴え、思考を促す。舞踊語彙も多く、造形・構成力も確かだ。地域で活動する振付者のなかに世界レベルで語り得る人がいるのは、なんとすばらしいことだろう。

12日(金)desnudo Flamenco live Vol.6「Poema de Amor〜愛の詩〜」@MUSICASA

フラメンコの可能性を追求する鍵田真由美と佐藤浩希の仕事は乗りに乗っている。小空間でのシリーズ公演は毎回見逃せない。

12日(金)フォースド・エンターテインメント『視覚は死にゆく者がはじめに失うであろう感覚』@Vacant

男優によるモノローグ劇。「〜は〜」とひたすら小一時間のあいだ過剰に世界を定義していく大胆さに乗せられた。

13日(土)トモコエハラダンスカンパニー『種撒く人』@シアターχ

ポストモダンの洗礼を受け、それに独自の境地をみせる江原朋子。意味や皮相な主題を超えて身体で思考する作家・江原の存在は貴重で健在ぶりがうれしい。

13日(土)牧阿佐美バレヱ団『三銃士』@新国立劇場中劇場

デュマ原作の痛快な冒険活劇。ヴェルディ曲を集めた編曲もすばらしい。故アンドレ・プロコフスキーの名作のひとつだが、団員の層の厚さが活きて充実の仕上がり。堪能した。プロコフスキーは古きよきロシア・バレエの伝統とヨーロッパ・バレエのエスプリを融合させた物語バレエの作者としてより評価されるべきだ。牧バレエ団には、今後も貴重なレパートリーとして末永く受け継いでいってもらいたい。

14日(日)現代舞踊協会・都民芸術フェスティバル「現代舞踊公演」@東京芸術劇場中ホール

稲葉厚子、小林容子、坂本秀子作品を上演。総じて伝えたいことはよくわかるし創作の核があることは大切に思うが、それを伝える手法や構成がそれぞれにやや常套的で、客席との距離が生まれていた感無きにしも非ず。とはいえ坂本作品は現代舞踊界最高水準の抜群に技量高いダンサー陣をつかいつつ彼女たちのダンスよりも身体に傾斜した作り。普段と趣が違っていて興味深かった。動きへの意識の高さが感じられるのは江口-金井系を担うだけのことはある。

14日(日)埼玉県舞踊協会「ダンスセッション2010」@彩の国さいたま芸術劇場

媒体に公演評を寄稿した(「オン・ステージ新聞」)。モダン/バレエといった区分けなく広く国内、そして海外との交流を深めてきた埼玉県舞踊協会ならではの特色の活きたプログラム。創設以来の精神を受け継いだ質の高い上演には、協会立ち上げに苦心した泉下の藤井公もさぞや喜んでいることだろう。

19日(金)じゅんじゅんSCIENCE『怒りながら笑う』@d-倉庫

元「水と油」・じゅんじゅんのソロ。人形と人形師が出てきてじゅんじゅんと絡んで面白い展開になりそうだったりと魅力もある。が、何も起こらず終始した感はあった。

20日(土)新国立劇場バレエ研修所「エトワールへの道程 2010」@新国立劇場中劇場

5期生の修了公演。これまでの修了生に比べ突出した存在はいないか。研修生・予科生含め男性に伸びが期待できそう。

20日(土)NBAバレエ団『ラ・フィユ・マル・ガルデ』『ラスト・コンサート』@ゆうぽうとホール

ニジンスカ版『ラ・フィユ・マル・ガルデ』日本初演は快挙。スピーディーでセンスがいい。秋元康臣の躍進が著しい。折り目正しく、優美に技を繰り出すなかに力強さも加わってきた。ショパン曲による『ラスト・コンサート』(振付:安達哲治)も秀作。

21日(日)松山バレエ団・新『白鳥の湖』@NHKホール

皇女と皇太子の愛を描き出しつつ中世の歴史のうねりを感じさせる壮大なスケール感、スペクタクルが特徴と再認識。清水哲太郎による演出は、オリジナルを超え、バレエという枠を超えんとする。「新」と名乗るだけのことはあろう。

23日(火)Visual+Dance performance『fragment muder case /不連続殺人事件』@東京都写真美術館B1F

BABY-Qの映像を手がける斉藤洋平による映像中心にしたダンスとのコラボレーション。映像によって立体感と距離感が増幅されて面白かった。

24日(水)黒沢美香ソロダンス・薔薇の人『早起きな人』@テルプシコール

シリーズ開始から10年、待望の最新作。奔放さ・過激さに加え、軽やかさも増した黒沢は、アンダーグラウンドをクールに疾走し続ける。それにあそこまではっきりバレエを踊る!黒沢を見たのははじめてかも。不意打ちの連続に驚きつつ耽溺させられるというコンテンポラリー・ダンスを観る快感に充ちた至福のひとときだった。

25日(木)熊川哲也 Kバレエカンパニー『海賊』@オーチャードホール

初演の熊川×吉田都×キャシディによる歴史的な名演が忘れられず、どうしても比較してしまうのだが、熊川の踊るアリは今回もやはり絶品だった。Kバレエが、10年にわたって公的助成を受けずこれだけの規模の舞台を続けてきたことは驚異的。それは確実に歴史に残るだろう。

26日(金)東京バレエ団『シルヴィア』@東京文化会館

アシュトンの大作で荒唐無稽な筋立てながら部類に楽しく盛り上がれるバレエ。国際水準で上澄みにあたる大バレエ団にしか上演できないだけに日本のカンパニーによる上演を喜びたい。女性群舞や山羊とかの踊りなどは出来がよく、英国ロイヤル・バレエの上演に負けていない。初顔合わせのセミオノワ&ゴメスも好演。

27日(土)東京バレエ団『シルヴィア』@東京文化会館

田中結子&木村和夫主演。正直、予想以上のできばえだった。田中の、幕を追うごとに精彩を増していくエモーションに富んだ演技に感動した。技術的完成度やアシュトン・スタイルの咀嚼度はともかく「私はこう表現したい」という強い意思と解釈力のある演技は現在の国内の若手・中堅プリマの多くに欠けているもので、それがあるというのは大きな強みだ。『オネーギン』タチヤナに期待。

27日(土)日本-フィンランド共同制作プロジェクト『inhabitants』@STスポット

フィンランド人振付家作品を幸内未帆と田中美沙子が踊る。異文化を超え、今を探る試みが刺激的だ。地に足着いた国際的な文化交流・芸術交流としてのプロジェクトを展開してきた横浜赤レンガ倉庫1号館の仕事には敬意を表したい。

28日(日)加藤みや子ダンススペース『赤い土』『骨の花』@日暮里サニーホール

身体と空間の関係を突き詰め、観るものの現前に新たな風景を立ち上がらせる加藤ならではの世界をたっぷりと味わえた。