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2010-04-28

[]「第38回ローザンヌ国際バレエ・コンクール」TV放映

第38回ローザンヌ国際バレエ・コンクール決選の模様がNHKにて放映される。

チャンネル:教育/デジタル教育1

放送日:2010年 5月 1日(土)

放送時間:午後2:00〜午後3:45(105分)

出演:佐々木万璃子 解説:安達悦子 聞き手:礒野佑子

http://cgi4.nhk.or.jp/hensei/program/p.cgi?area=001&date=2010-05-01&ch=31&eid=12910

本選にはビデオ審査を通過した69人が参加。話題はなんといっても見事第3位(スカラシップ賞)に入賞した佐々木万璃子の活躍だろう。3歳でバレエを始め、八王子市の川口ゆり子バレエスクールで学ぶ15歳。決選では、『ラ・バヤデール』からのヴァリエーションとコンテンポラリーとしてキャシー・マーストン振付『トレーセス』を踊った。他の日本人の決選出場者であるアクリ瑠嘉、木ノ内周の演技も見られる。

先日、このコンクールの創設者フィリップ・ブラウンシュバイグの死去が報じられたが、その功績は大きい。過去のローザンヌ入賞者をみると、錚々たる顔ぶれ。若い踊り手の資質・将来性を見抜き、世に出すことにかけては右に出るものはない。佐々木は、スカラシップを得て、9月から英国ロイヤル・バレエスクールに留学する。その前には、佐々木を育てた川口と今村博明の主宰するバレエシャンブルウエスト『シンデレラ』全幕(5月22、23日 八王子市芸術文化会館いちょうホール)、7〜8月に行われる「清里フィールドバレエ」にも出演するようだ。若い才能のさらなる活躍・発展に期待したい。

Prix de Lausanne 2010

Youtube - Prix de Lausanne’s Channel

2010-04-27

[]「カルミナ・ブラーナ」と佐多達枝、合唱舞踊劇O.F.C

先日行われた「東京のオペラの森2010」では、巨匠リッカルド・ムーティ指揮&豪華な歌手陣によってカール・オルフ作曲の世俗カンタータ「カルミナ・ブラーナ」が演奏上演され話題になったようだ。また、来る5月、ゴールデンウィークには、新国立劇場バレエ団が芸術監督デビッド・ビントレー振付による同曲を5年ぶりに再演する。こちらはイギリス流のブラックなユーモアと批評精神に満ちたものでなかなか楽しめる。

「カルミナ・ブラーナ」は、よく知られるように19世紀初めドイツの修道院で発見された、中世の修道生たちの書いた詩歌集を基に、若者の苦悩や退廃的な生活を描く。混声合唱、少年合唱にソプラノ・テノール・バリトンのソリスト、大編成のオーケストラと多くの人員を要する大作。舞踊化も少なくなく、日本では、横井茂、千田雅子、河野潤、石井潤らが振付けている。なかでも度重なる再演を重ねて音楽・舞踊界の財産となっているのが佐多達枝の演出・振付、O.F.C(代表:柴大元)による合唱舞踊劇版だろう。

O.F.Cの標榜する合唱舞踊劇とは、“歌、踊り、そして打楽器等の演奏、これら根源的な人の表現手段を有機的に結びつけた新しい融合芸術”であり、「カルミナ・ブラーナ」、ラヴェル作曲「ダフニスとクロエ」、 ベートーヴェン作曲「交響曲第9番」などを佐多の演出・振付によって次々と舞台化してきた。ことに1995年初演の『カルミナ・ブラーナ』は、O.F.Cの立ち上げの動機となった曲だ。合唱隊もコロスとして踊り、演奏と合唱とダンスがうねり、交錯して、稀なる劇的興奮をもたらす秀作といえる。

日本バレエ界の巨匠で、1980年代から同曲の抜粋を使って舞踊作品を発表してきた佐多にとっても1時間に及ぶ大作に挑んだ記念碑的作品であり、O.F.Cによる上演だけで6演に及ぶ。新潟・名古屋の団体による上演も行われた。合唱隊によるコロスはプロのダンサーではないため振付に制約あるし、バレエのパートを詳しくみれば、日本バレエの財産とも称される佐多作品、たとえば『四谷スキャンダル』『父への手紙』『beach』『庭園』といった名作に比べると振付自体は比較的クラシカルなもの。佐多の才能がフルに発揮されたものといえるかといえばそうはいえない面もなくはない。しかし、ポピュラーな名曲にダイナミックな演出・振付が相俟って大変に魅力的だ。佐多作品のなかでも今後末永く再演を重ねていく可能性のあるものとしては最右翼となるだろう。

佐多演出・振付による合唱舞踊劇『カルミナ・ブラーナ』は、来年(2010年)3月に再演される。東京では6年ぶり。会場は東京文化会館で、一流の歌手と東京シティフィルハーモニック管弦楽団との共演。ダンサーも予定されている名をみると、日本バレエ界屈指の実力派と佐多の手兵が並ぶ。楽しみだ。さらにO.F.Cは、同年(2010年)10月に、2009年に初演され好評を得たバッハの大作による合唱舞踊劇『ヨハネ受難曲』を再演。これは『カルミナ・ブラーナ』から出発し、新たな形の総合芸術を志向してきたO.F.Cにとっても、演出・振付の佐多にとっても、おそらく最高の達成ではないだろうか。舞踊業界関係者でも見逃した人も少なくないようだが、舞踊・音楽ファンはもとよりパフォーミングアーツ全般に興味を持つ人必見と思う。パワーアップした再演が待ち遠しい。

OFC 合唱舞踊劇 ルードヴィヒ 〜交響曲第9番〜

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2010-04-26

[]東京バレエ団がジョン・ノイマイヤー版『ロミオとジュリエット』をレパートリーに

「バレエの祭典」30周年の特別シリーズのラインナップが発表された。

http://www.nbs.or.jp/saiten2010/index.html

ギエムやマラーホフ、ルグリらに関連したもの等バレエ・フリークの間で話題になる公演も少なくないが、個人的には東京バレエ団が2012年1月にジョン・ノイマイヤー版『ロミオとジュリエット』をレパートリー化するのに注目したい。巨匠としては若書きにあたるが、ジョン・クランコやケネス・マクミランの影響も受けつつ独自のものにまとめた版で、昨年のデンマーク・ロイヤル・バレエ団来日公演で紹介されたのは記憶に新しい。

東京バレエ団は、昨秋にナタリア・マカロワ版『ラ・バヤデール』、今年2月のフレデリック・アシュトン振付『シルヴィア』を新制作しており、来る5月には、クランコ振付『オネーギン』を日本のカンパニーとして初上演する。いずれも超一級の名作や名バージョンであり、世界有数のビッグ・カンパニーが上演しているものだ。さらにそのうえ、ノイマイヤーの『ロミオとジュリエット』ときた。これまででは考えられない怒涛の勢いである。

派手な展開に見えるが、実力・実績それに人脈がなければ到底かなわないことであり、時期を得た導入。浮き足立ったところは感じられない。国際水準のレパートリーが揃い、版権を継続さえできれば、海外からの折々のスター・ダンサーを呼んでの定期的な公演が可能になる。世界のバレエ・マーケットの主要地である日本で、こういったレパートリーを保有しているということは、とてつもないアドバンテージになろう。自団キャストでの上演もあろうから、魅力的なレパートリーを踊りたいというダンサーは後を絶たないだろう。おのずから団員にも優れた人材が集まりやすくなる。国際競争力をさらに増し、他団との差異を打ち出す――将来ヘ向けての周到な布石といえよう。

クランコの『オネーギン』上演が成功し、ノイマイヤーの『ロミオとジュリエット』導入を経た先では、ノイマイヤー至高の名作『椿姫』の上演すら夢ではなくなるかもしれない。さすがにハードルは高いかもしれないが、今後の展開が楽しみなところだ。

2010-04-24

[]第20回(平成21年度)松山バレエ団制定各賞決定

第20回(平成21年度)財団法人 松山バレエ団制定による各賞が発表された。

芸術賞:横山慶子(横山慶子舞踊団団長・横山慶子舞踊学園園長)

理由:長年にわたり創意工夫を重ねながら、舞踊活動を地道に続けてこられ、舞台芸術の発展に寄与された多大な貢献に対して

芸術奨励賞:西田佑子(バレリーナ)

理由:たゆまぬ鍛錬を経て、今後の舞踊界・舞台芸術を担う者としての存在感を持ち、更に努力研鑽を積み重ね、その活動が顕著である事に対して

教育賞:伊与田あさ子(伊与田バレエスタジオ主宰)

理由:長年にわたり地道な研究を重ね、舞踊教育を通じて、人間本来の精神の輝きを引き出され、舞踊教育界発展に貢献された事に対して

この賞の特徴は、バレエのみならず広く洋舞全般を対象にしていること、各地で活動する人を含めて地道に活動し着実な成果を挙げている舞踊関係者に光を当てていることにある。これは“すべての舞台芸術の「前座」とならん”をモットーに掲げ、芸術創造活動のすばらしさを広く訴えてきた財団の主催する顕彰ならではといえよう。

今年も、福島の地に根付きつつ長年活躍してきた現代舞踊の大家・横山、知的・身体に障がいを持った生徒へバレエを通しての教育活動を行ってきた伊与田、フリーランスとして活動しながら関東・関西で全幕主役の舞台を定期的にこなす希少な存在として健闘している西田と、年代・分野・立場の異なる多彩な顔ぶれが選ばれた。

芸術賞に関しては、日本の洋舞史に名を残すべき人が名を連ねる。過去の芸術奨励賞の受賞者は一様にその後の活躍目覚しく、結果として各舞踊賞等のさらなる受賞を果たしているケースも少なくない。教育賞はこの賞独自のもの。今年で20回を迎えたが、独自の輝きを放つ顕彰として、その存在感はいよいよ大きなものがある。

2010-04-23

[PLAY」チェルフィッチュ『ホットペッパー、クーラー、そしてお別れの挨拶』欧州ツアー&東京公演

このところ、フェスティバル/トーキョー彩の国さいたま芸術劇場招聘ダンス公演においてヨーロッパの最前線で活躍するアーティストの新作がリアルタイムといっていいくらいの間を置かないタイミングで上演されるようになっている。従来の拝外主義やブランド・カンパニー信仰といったものとは一線を画した、舞台芸術の活発な欧州の最前線・同時代の表現をいち早く共有できる機会として大変得がたいものがあろう。

いっぽうで、わが国の演劇やダンスのアーティストの作品の海外紹介の現状はいかがなものだろうか。ダンスでは、2年に1度パリ市立劇場で新作を発表してワールドツアーを行う舞踏集団・山海塾を筆頭に、勅使川原三郎、レニ・バッソなどは欧州でツアーを行っているし、東野祥子のBABY-Qなども海外公演は少なくない。とはいえ、現代日本のパフォーミングアーツの先端として、いま、欧州で熱い注目を浴びているのは、なんといっても劇作家/演出家/小説家の岡田利規の主宰するチェルフィッチュだろう。

演劇とダンスの境界を軽々と行き来して斬新なパフォーマンスを行っているが、岸田國士戯曲賞を受賞した代表作『三月の5日間』や新国立劇場制作による『エンジョイ』などは欧米でも上演され反響よんでいる。そして、最新作『ホットペッパー、クーラー、そしてお別れの挨拶』は、よりワールドワイドなプロジェクトとして瞠目すべきものがあるといえよう。世界的に注目集めるパフォーミングアーツ集団・リミニ・プロトコルやコンスタンツァ・マクラス/ドーキーパークがレジデントアーティストとして活動拠点にしているHAU劇場(ベルリン)との共同制作によって2009年10月に世界初演されたというのがまずもってすごい。さらには今年国内外10都市のツアーを予定しており快挙といえる。

同作品は、「ホットペッパー」「クーラー」「お別れの挨拶」の3つの短編により構成され、「TOYOTA CHOREOGRAPHY AWARD 2005〜次代を担う振付家の発掘〜」最終選考会にノミネートされ話題を振りまいた『クーラー』に二つの短編を加えた意欲作のようだ。欧州ツアーに先立って5月に東京・ラフォーレミュージアム原宿にて日本初演を行う。ヨーロッパの前衛的な演劇祭やアートフェスティバルにてすぐさま取り上げられツアーを行い、同地の先鋭的なパフォーマンスとリアルタイム、同じ地平で紹介されるというのは、わが国の舞台芸術史上においても画期的だ。後に続くアーティストの道標となるためにも成功を心から祈りたい。まずは5月7日から開幕の東京公演が楽しみだ。

チェルフィッチュ『ホットペッパー、クーラー、そしてお別れの挨拶』

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制作:precogのチャンネルより


三月の5日間

三月の5日間


わたしたちに許された特別な時間の終わり (新潮文庫)

わたしたちに許された特別な時間の終わり (新潮文庫)

2010-04-22

[]「踊りに行くぜ!!」10周年記念BOOK刊行に際して

2000年から始まったJCDN「踊りに行くぜ!!」10周年記念BOOKが3月に完成した。

データ豊富でエッセイや座談会等の内容も盛りだくさん。緻密な編集ぶりがじつに見事である。平成21年度文化庁芸術団体人材育成支援事業の助成を受けてのもので発行部数は1,000部らしいが、今後のダンス研究等にも必須になるであろう一冊だ。

f:id:dance300:20100421143926j:image

「踊りに行くぜ!!」は、全国のパフォーマンススペース間のダンス巡回公演プロジェクトとして、これまでに258組のアーティストが参加し43の地域で公演を行ってきた。各地の振付家/ダンサーたちが、さまざまな地域で公演を重ねていく過程で作品が育ち、同時に、全国のダンス関係者同士のコミュニケーションを活発にしてきた。地域間のダンス事情の距離を解消する試みとして成果をあげている。そして、各地の観客に新鮮なダンス作品をどんどん紹介していくことで創客活動も行ってきた。 コンテンポラリー・ダンスをみる楽しみすなわち自由な、オリジナルな発想に富んだダンスに触れることによって未知な価値観や世界に出会えるという得難い体験を広く訴求してきたといえる。

この10年は、コンテンポラリー・ダンスが1990年代以降のブームに奢らずに地に足着いた文化芸術として社会に根付きつつある時期として記憶されるだろう。その動きを牽引してきたのがJCDNの活動、とくに「踊りに行くぜ!!」であるのは疑いのないところだ。その功績については、10周年記念BOOKに寄せている振付家/ダンサー/プロデューサー/評論家等の各氏のコメントからも伝わってくる。ダンスの、アートの、そしてわれわれが社会のなかで生きて行くうえでの新たな価値を模索していく活動の貴重さをあらためて認識させられた。「踊りに行くぜ!!」がなかったら日本のダンスは何十年と遅れることになっただろう。「コンテンポラリー・ダンス万歳!」と言いたくなる。JCDNや「踊りに行くぜ!!」等の公演に関わったあらゆる関係者には心から敬意を表したい。

無論、手放しでコンテンポラリー・ダンスやそれをめぐる状況を賞賛はできない。近年では“コンテンポラリーダンスという枠組みが保守的に機能している”とまともな検証もなくヒステリックに放言する向きまで出てくる始末。コンテンポラリー・ダンスもずいぶんと舐められたものだ。とはいっても、その意見に一理なくないのも事実。コンテンポラリー・ダンスという概念や運動が広まり、社会的な認知が上がるとともに「こう踊ればコンテンポラリー」みたいなクリシェが生まれたりした。イージーな素人芸が蔓延したり、コンセプチャルに傾いた知的メタボ的なパフォーマンスがあたかもダンスの最先端であるかのように取り上げられたりして、観客を遠ざけたという面は否定できない。しかし、コンテンポラリー・ダンスが進化を遂げていく過程では、紆余曲折おこるのはやむを得ない面も。そこを揚げ足とって懸命に頑張っている関係者を傷つける発言は、コンテンポラリー・ダンスへの、いやダンスというアートへの愛情に欠ける行為であり許しがたい。

真摯に日本のダンスの将来を考える関係者はそんな状況は百も承知で次なるダンスの未来像を打ち出そうと懸命になっているはずだ。海外との交流も活発になり、コミュニティダンスや大学ダンスとの交流も盛ん。新たなダンスが生まれる新しい場も生まれつつある。10周年記念BOOKを読むと、JCDNのスタッフや関係者が「踊りに行くぜ!!」10年の意義を総括しつつ、さらなる展開を模索していることが理解できる。コンテンポラリー・ダンスの浸透・発展からさらなる広がりと成熟を遂げること、常にみずみずしく人の心を揺さぶるようなダンスが生まれ続けていくことを期待したい。そして、それをあたたかくときに厳しく見守るのがダンス・ファンや評論家の仁義であるように思う。

2010-04-20

[]国立モスクワ音楽劇場バレエによるブルメイステル版『エスメラルダ』

国立モスクワ音楽劇場バレエ来日公演が行われた。「オープニング・ガラ」『エスメラルダ』『白鳥の湖』を上演したが、話題はブルメイステル版『エスメラルダ』だろう。

『エスメラルダ』はヴィクトル・ユーゴーの小説「ノートルダム・ド・パリ」を原作としたプーニ音楽/ペロー作のロマンティック・バレエの名作として知られ、ロンドンで初演(1844年)された後、ロシアでプティパの手を経て命脈を保ちいまに至る。ペロー、プティパそれに20世紀に入ってからのワガノワの改定も入っての版はときおり上演される。日本ではNBAバレエ団が上演しているエリザリエフ版がその系譜のものだ。1幕、3幕ではマイムを多用したロマンティック・バレエ期のバレエ・スタイルが、2幕ではプティパの手の入ったクラシカルな舞踊美学が味わえ、その様式の変遷が鮮やかに見て取れる。

それに対してブルメイステル版は、1950年にモスクワ音楽劇場にてウラジーミル・ブルメイステルが振付けた独自の版。『白鳥の湖』同様、きわめて演劇性が高いのが特徴といわれる。無実の罪によって処刑台へと送られるエスメラルダと彼女をめぐるフェビュス、フロロ、カジモトという男たちの濃密なドラマに加え、民衆たちのエネルギーがむんむんと漂い、中世の混乱と無常を伝える。白眉は、エスメラルダが幼いころに生き別れた母グドゥラと死の前に再会するというエピソードだろう。ものすごく泣ける。

昨秋、モスクワでは音楽劇場バレエによるブルメイステル版のリバイバルとともにボリショイ・バレエが新芸術監督ユーリー・ブルラーカの手による『エスメラルダ』をほぼ同時期に上演しており、競演が話題になった。音楽劇場バレエの芸術監督セルゲイ・フィーリンも着任から日が浅く、若い芸術監督がともに『エスメラルダ』リバイバルを手始めの仕事のひとつとして手がけたことは興味深い。ドラマティック・バレエというと、アシュトンに始まり、クランコ、マクミラン、ノイマイヤーといったヨーロッパの息のかかったものがもてはやされる傾向にあるが、ロシア流の演劇的バレエの価値も見直したいところだ(先日刊行された赤尾雄人著「これがロシア・バレエだ!」は、まさにその点を深く検証している)。その意味において今回は意義のある貴重な来日上演だったように思う。

ちなみにブルメイステル版『エスメラルダ』が日本で上演されたのは初めてのはずだが、以前から日本のバレエ人に大きな影響をあたえてきたのはご存知だろうか。

大阪の法村友井バレエ団では、わが国におけるロシア・バレエ上演の第一人者・法村牧緒がブルメイステル版を基に独自の『エスメラルダ』を創りあげた。再演を重ね5演を重ねる。日本人初のレニングラードバレエ学校留学生であり、留学時に、ペテルブルクのみならずモスクワで上演されるバレエに接した法村は、ブルメイステル版『エスメラルダ』に感銘を受け、1989年に自版を生む。主役のみならず脇の人物の人物像を明確にし、群舞もより力強く練り上げられたものに。ことに、昨秋の上演ではエスメラルダが処刑台に向かう前に曳きまわされるシーンを加えたことで、より悲劇性が高まっていた。

また、東京シティ・バレエ団の長老・石田種生もソビエト時代のロシアに遊学した際にブルメイステル版『エスメラルダ』に刺激を受け、後に日本で自らの演出版をつくる。石田演出でいうと、『白鳥の湖』では、最終幕をハッピーエンドにするなどブルメイステルの影響が顕著だが、『エスメラルダ』ではあえてブルメイステル版とは距離を置いたようだ。石田版はアメリカのコロラド・バレエや韓国国立バレエでも上演されている。


これがロシア・バレエだ!

これがロシア・バレエだ!

2010-04-18

[]東京バレエ団第24次海外公演日程決定&ハンブルク・バレエが『月に寄せる七つの俳句』『時節の色』を上演

東京バレエ団が6月から7月にかけて2年ぶり24回目となる海外公演を行う。トルコ、ドイツ、イタリア、フランスの4カ国11都市で15公演を実施するが、7月11日、ミラノ・スカラ座での『ザ・カブキ』の上演をもって海外公演通算700回を達成するようだ。

http://www.nbs.or.jp/blog/news/contents/topmenu/24.html

6月22日、23日にはハンブルク州立歌劇場においてモーリス・ベジャール振付『舞楽』『カブキ組曲』公演が行われるが、それに先立ってジョン・ノイマイヤー率いるハンブルク・バレエがノイマイヤーが東京バレエ団のために特別に振付けた『月に寄せる七つの俳句』(1989年初演)『時節の色』(2000年)をレパートリーに入れるのも話題に。

http://www.hamburgballett.de/e/spielplan.htm

ノイマイヤーは、学生時代から日本という国やその文化に深い関心を抱いており、振付デビュー作はその名もズバリ『俳句』であることはよく知られよう。『月に寄せる七つの俳句』は、松尾芭蕉や小林一茶の句をモチーフにしたもので、J.S.バッハ、アルヴォ・ペルトの音楽を用いている。ノイマイヤー作品というと『椿姫』や『シルヴィア』『人魚姫』といった物語バレエやバレエ・マニアにはたまらない大作『ニジンスキー』などの人気がどうしても高くなる。それらに比して『月に寄せる七つの俳句』は、難解で地味な中編という印象をあたえてしまうかもしれないが、文学的な内容を扱いつつダンス的にも思索的にも深いという、ノイマイヤーの資質がよく発揮された作品ではないだろうか。

東京バレエ団「月に寄せる七つの俳句」(ジョン・ノイマイヤー振付)

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公式チャンネルより

『時節の色』は日本の四季を主題とした1時間ほどの長さの中編であり、ヴィヴァルディや湯浅譲二らの曲とともに終幕部にシューベルト「冬の旅」の「辻音楽師」が用いられる。これはハンブルク・バレエのための『冬の旅』(2001年初演)に形を変え組み込まれたのは周知のとおり。『冬の旅』の幕切れ、彷徨する少年(服部有吉)とノイマイヤー演じる辻音楽師との哀切なデュオは忘れがたいが、その原型は、高岸直樹演じる〈男〉、斎藤友佳理扮する〈想い出〉、木村和夫演じる〈時〉の三者が絡む『時節の色』終幕の延長にあるのは順を追って観たものの目には明らかであった。9・11から間もない時期に生み出された『冬の旅』は、混迷する世界のなかでの絶望、そしてそのなかにほの見える希望を描き出して深く胸を打った。その希望を示すおおらかな存在が辻音楽師であり、20世紀の終りに創られた『時節の色』の〈想い出〉と照射しあう関係にあろう。

日本をテーマにした2作品、東京バレエ団にとっても、ノイマイヤーにとっても重要な位置を占めるに違いない作品を、ハンブルク・バレエのダンサーがどう踊るのか。興味は尽きないところ。現地のメディア評や日本から観にいく方の報告を楽しみにしたい。

2010-04-16

[]貞松・浜田バレエ団「ラ・プリマヴェラ〜春」

2年に1度行われる神戸の貞松・浜田バレエ団特別公演「ラ・プリマヴェラ〜春」は8回目。バレエの多様な魅力に触れられる公演として見逃せないものがある。

三部構成の第1部は、バレエ・コンサート。『オープニング』(振付:貞松正一郎)では、オスカー・シュトラウス&ヨハン・シュトラウスの華麗で軽妙なメロディにのせた団員たちの踊る喜びが伝わってきた。座付き作者の手によるものだけに、団員の個性や長所をよく引き出しているものと思われる。ことに若い男性ダンサーの躍進が光った。その後、半井聡子&塚本士郎による『タリスマン』(振付:マリウス・プティパ)、佐々木優希の踊る『回想』(振付:リン・テイラー=コルベ、改定振付:浜田蓉子)、廣岡奈美&武藤天華が踊った『カントリー・ガーデン』(振付:マイケル・ヴァーノン)と続く。『回想』は、内奥からあふれる想いを踊る女性ソロ。『カントリー・ガーデン』は、バレエ・ファンにはなじみ深いエロルド作曲『ラ・フィユ・マル・ガルデ』の曲を用いたテンポよく明るいパ・ド・ドゥ。

第2部は『ア・タイム・トゥ・ダンス/A Time To Dance』(振付:スタントン・ウェルチ、振付指導:ガース・ウェルチA.M)。ヒューストン・バレエの芸術監督を務めるウェルチは『マダム・バタフライ』全幕で知られる世界的振付家のひとり。近年日本でも2004年のニーナ・アナニアシヴィリのグループ公演でシンフォニック・バレエ『グリーン』が、2007年のオーストラリア・バレエ来日公演で『眠れる森の美女』全幕が上演され印象深いが、貞松・浜田バレエ団では、それ以前の2002年に『ア・タイム・トゥ・ダンス』を取り上げている。これは星空の下で若い男女たちがエネルギッシュかつ叙情豊かに踊るもの。1990年オーストラリア・バレエにて初演された、ウェルチにとって本格的な振付デビュー作だ。英国ロイヤル・バレエ・スクールでも取り上げられ、このバレエ団のプリマのひとり瀬島五月は、同バレエスクールに留学中に同作のソロを踊った。バレエ・ベースであるが、ドヴォルザーク曲にのせて音楽感覚やスピード感がとても豊かな、才気に満ちた作品。女性ソロなどは細かなトゥさばきも求められる。ソロを踊った新鋭の川崎麻衣はじめ若手を中心とした出演者が歯切れよく深いダンスを披露して楽しませてくれた。

『ア・タイム・トゥ・ダンス/A Time To Dance』

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公式チャンネルより 前回上演の映像

第3部はプティパ美学の粋『ライモンダ』第3幕より。ライモンダ:瀬島五月、ジャン・ド・ブリエンヌ:アンドリュー・エルフィンストン。改定振付を貞松正一郎が手がけるこの作品は、「ラ・プリマヴェラ」シリーズ第1回の際にも上演され、歴代のプリマが踊り継ぐものである。瀬島は、持ち前の華やかさと音楽性に加え、難曲ながらもパのひとつひとつをよりていねいに魅せるのを意識していたと思う。プリエのような基本動作ひとつとっても精緻で美しい。チャルダッシュやマズルカには、ベテランに混じって若手を配役。若い踊り手にとって民族舞踊の味わいを表現するのは簡単ではないはずだが、だからこそ挑戦のし甲斐のあるというもの。舞台のクオリティを保ちつつ若手に場を踏ませる、そして、その若いエネルギーを客席にもひしと届けるという、実り多きものとなっていた。

公演の翌々日、バレエ団は中国公演へと旅立った。北京・上海での3回の招待公演。日本の創作バレエ『たんぼ・祭』、バレエの代名詞『白鳥の湖』2・4幕のハイライト、コンテンポラリー・ダンスの鬼才オハッド・ナハリンの『DANCE』などを上演する。それに先立ち埼玉でのバットシェバ舞踊団公演や各地でのワークショップのために来日中のナハリン直々のリハーサルを2日間行ったそうだ。地域で活動するカンパニーのなかでも国際交流の深さが際立っている。昨秋にはイリ・キリアン作品もレパートリー入りするなど話題を振りまいている。とはいえ、このカンパニーの根本にあるのは、地域の、身近な観客にバレエの魅力を伝え、さらに奥深いダンスの世界へと導いていく強い姿勢。「ラ・プリマヴェラ〜春」公演は、若い踊り手の躍進を見守れる場であるとともに、多彩な内容でバレエの初見者から通までを楽しませる機会として得がたいものがある。

(2010年4月11日 明石市立市民会館 アワーズホール)

2010-04-09

[]第36回橘秋子賞決定

財団法人 橘秋子記念財団制定による第36回橘秋子賞およびスワン新人賞受賞者が発表された。

橘秋子賞特別賞:鈴木稔

橘秋子賞優秀賞:齊藤拓

橘秋子賞功労賞:千田雅子

橘秋子賞舞台クリエイティブ賞:堂本教子

スワン新人賞:小野絢子

日本バレエの先駆者のひとりである橘秋子の名を冠した同賞は、わが国におけるバレエ界の顕彰のなかでもっとも長く続く権威あるものとされているが、なるほど歴代の受賞者の顔ぶれをみると、錚々たるものがある。今年は5部門に受賞者が出た。

特別賞の鈴木稔は、スターダンサーズ・バレエ団に振付けた『ドラゴン・クエスト』『シンデレラ』再演の成果が評価されたと思われる。フォーサイス作品のような抽象的なコンテンポラリーでも知られる鈴木だが、再演を繰り返し練り上げた物語バレエ2作は貴重なレパートリーに成長しており、日本のバレエにとっても大切な財産となりつつある。

優秀賞の齊藤拓は、昨年創立60周年を迎えた谷桃子バレエ団の記念シリーズ3公演に主演し、その演技が認められたのだろう。偉丈夫でありながらノーブルな雰囲気があり、洗練された演技もみせる貴重な人材といえる。このところ谷バレエは、舞踊批評家協会賞にてバレエ団が協会賞を得たほか、将来性ある若手舞踊家に贈られる東京新聞主催:中川鋭之助賞を永橋あゆみが獲得しており、これで3冠達成となった。

功労賞の千田雅子は札幌舞踊会を母・千田モトから引継ぎ発展・維持してきた。功労賞受賞者に顕著だが、近年の橘賞では、各地で質の高い活動を行い優れた人材を育成してきたバレエ人に賞が贈られる機会が少なくない。日本のバレエシーンの華やかな部分は首都圏に偏りがちであるが、若い才能をしっかり育て内外に送り出しシーンを支えているという点では、かなりな部分は地域のバレエの底力によるものが大きい。これは、日本児童バレヱ(現:日本ジュニアバレヱ)を創設し、広く全国から集った若い踊り手を育てるとともに、その成果・熱を地域のバレエ界に還元してきた故・橘秋子の先見性による功績も多大なものであることの証左に他ならないといえるだろう。

舞台クリエイティブ賞の堂本教子は金森穣作品や大駱駝艦の舞踏、維新派や松田正隆のマレビトの会といった演劇の衣装デザイナーとして活躍している。ダンサーの身体性を見極めて、その魅力を最大限に発揮させる手腕に秀でる。昨年の活動を見ると、新国立劇場制作による平山素子『Life Casting-形取られる生命』の再演がもっとも大きな場での仕事のはず。このところ異分野の気鋭アーティストによる参画がバレエ界でも成果を挙げており(たとえば、上記の鈴木稔『シンデレラ』の斬新な舞台美術は演劇畑で仕事する二村周作によるものであった)、その意味で今回の堂本の選出は、今後、彼女の仕事の拡大を促し舞踊界に実り多きものになるようにと期待される。

スワン新人賞の小野絢子は、いわずと知れた今売り出し中の新国立劇場バレエ団の若きソリスト。昨年は『ローラン・プティのコッペリア』スワニルダ、牧阿佐美版『くるみ割り人形』クララ/金平糖の精を踊るなど活躍が目立った。新国立劇場バレエ研修所修了生だが、ジュニア時代から知る人ぞ知る存在であり、研修所入所以前の2004年に『ライモンダ』第三幕においてソリストのヴァリエーションを踊った際には、精確かつラインの美しい大器が出てきたと感じ、媒体評で絶賛した覚えが。早熟の若手ではあるが、今後、さらに大人のプリマとして躍進していくことが期待される存在である。

2010-04-08

[]平山素子の活躍

北京オリンピックのシンクロナイズドスイミングチームへの振付やボリショイ・バレエのプリマ、スヴェトラーナ・ザハーロワへの作品提供などアクティブかつワールドワイドに活躍するのが平山素子。ダンサーとしても卓越した存在であるうえに、美術・衣装・照明等スタッフとの緻密な協同作業の生むイマジネーション豊かな創作にも大いに定評ある。これまで新国立劇場にて手がけた作品がすべて再演される(予定含め)という実績を残しているのは驚異的だ。また、昨年末には、愛知芸術文化センターにて初のソロ公演『After the lunar eclipse / 月食のあと』を行っており、新境地を開いた。

今年も晩秋に新国立劇場と兵庫芸術文化センターにて「ストラヴィンスキー・イブニング」と題して、芸術選奨文部科学大臣新人賞・江口隆哉賞をダブル受賞した評判デュオ『春の祭典』および新作『兵士の物語』を上演する。これは大いに話題になりそうだが、平山の公式ホームページをみると、他の活動予定もなかなか興味深い。

まず、6月に行われる第17回イスタンブール国際演劇祭にて『春の祭典』が再演される(同時上演:森山開次『弱法師 花想観』)。日本で製作されたプロダクションがどんどん海外に紹介されることは望ましいところ。また、今月半ばには「徳島LEDアートフェスティバル2010」にて、逢坂卓郎のライトアートに平山が出演してダンスを披露する。最新作『After the lunar eclipse / 月食のあと』でも、無数のライトをまとった平山のパフォーマンスが印象的だったが、屋外で踊るらしく、おもしろそう。

精力的な活動もさることながら平山が注目されるべきは、社会としっかり向き合っていること。『After the lunar eclipse / 月食のあと』の公演の際には、観客とのアフタートークにおいて、真摯に観客と対話する姿勢が際立っていた。舞台芸術というものは観客なしに成立しない。平山は、筑波大学にて教鞭を取る立場にして後進を育てていることも特筆されるが、広範・多彩な活動を通じてダンスという芸術表現の魅力・可能性を広く社会に伝えていることは評価されよう。今後の動向にも注目したい。

詳細:

http://www.motokohirayama.com/info.html

2010-04-05

[]ベジャール2010

昨年末公開の映画「ベジャール、そしてバレエはつづく」のDVDが6月に発売となる。


ベジャール、そしてバレエはつづく [DVD]

ベジャール、そしてバレエはつづく [DVD]

20世紀バレエの巨匠振付家モーリス・ベジャールが亡くなって早2年半――。不在はやはり寂しい。辛い。ダンスの燃焼度、肉体から湧きあがる強度の凄さでは、ベジャール作品に適うものはそうはないだろう。演劇や音楽、現代思想をも取り込んだ作品世界は周知のとおり豊饒で圧倒的だ。様式美に富む古典バレエや先鋭的なコンテンポラリー・ダンスに触れるのも楽しいけれども、ときどきベジャール作品に接しないと、「餓え」のようなものを感じてしまう。血を作らないといけぬと肉を欲するかのように。私事で恐縮だが、以前、東京バレエ団『ザ・カブキ』&『バクチ』他の作品解説を公演プログラムに寄せる機会があった。その際、熱に浮かされたように力がこもって書き上げたことを思い出す。オールド・ファンではないけれども私にとっても特別な存在である。

幸い今年はベジャール作品上演が相次ぐ。東京バレエ団が今月末に『ザ・カブキ』を、8月にニコラ・ル・リッシュを招き『ボレロ』他を、12月には5年ぶりとなる『M』を上演。そして、秋には、本家のベジャール・バレエ・ローザンヌが来日して、遺作となった『80分世界一周』を披露する。巨匠の偉業をあらためて噛み締めるよい機会となりそう。

ただ、気になる点もある。新たなダンサーたちがどうベジャール作品を受け継いでいくのか。ベジャール・バレエにせよ東京バレエ団にせよ、もはやベジャール直々の指導を受けたり新作を得る機会は永遠に失われてしまった。今後、若い世代のダンサーたちがどうモチベーションを保って踊りついでいくのかは、ファンにとっても切実な問題となってくる。先年亡くなったピナ・バウシュの作品などに関しても同様のことが言えるけれども、舞踊作品の永続性というものには難しい面もあろう。でも、ジル・ロマンやミッシェル・ガスカールといったベジャール作品の申し子や東京バレエ団のダンサーたちがいる。ベジャールの魂が深く熱く受け継がれていくことを願わずにはいられない。



2010-04-03

[]2010年3月

3月は例年同様に異常な公演ラッシュだった。重なっていたり、都合がつかず足を運べなかったものも少なくない。主なものではアマーニ、トニー・リッツイ、木佐貫邦子、M-laboratry、輝く未来、「踊りに行くぜ!!」スペシャル公演などを見落としている。

今年の一大イベントのひとつといえるのがパリ・オペラ座バレエ団『シンデレラ』『ジゼル』の来日公演。後者に関しては媒体に求められて評を寄せたが、ダンサーの質、舞台の洗練度にかけてはさすがに極上といえるものだった。ニーナ・アナニシアヴィリが芸術監督を務めるグルジア国立バレエ『ジゼル』『ロミオとジュリエット』ヤン・リーピン『シャングリラ』などもそれなりに楽しむことができた。来日バレエが『ジゼル』を持ってくるのは珍しい。それも立て続けに。それに日本バレエ協会『ジゼル』は初演時の楽譜に基づくメアリー・スキーピング版だったが(なかなかの仕上がり)、パリ・オペラ座バレエ団、グルジア国立バレエ公演と同じ東京文化会館で上演された。各々の上演の質や演出の違いをより細かに比較してみることができ有益だった。

バレエ協会公演のほか、このところ勢いを増してきている東京小牧バレエ団『火の鳥』『ショパン賛歌“憂愁”』新国立劇場『ボリス・エイフマンのアンナ・カレーニナ』といったバレエ公演があり、それぞれ好評のようだ。とはいえ、個人的には見落としたものも少なくないとはいえ、コンテンポラリー・ダンスの公演に注目すべきものが多かったように思う。多様な取り組みで観客と対峙したり、場を共有することで対話を行っているアーティストの活動に共感させられる上演が続いたのは何よりだった。

下記にあげた以外でもいくつか。ダンスと演劇を行き来する岡田利規のチェルフィッチュ『わたしたちは無傷な別人であるのか?』がまず印象に残る。演劇作品だが、テーマの切実さ、語り口のおもしろさ、身体性の新しさ、いずれとっても刺激に満ちていた。1990年代以降のダンスシーンを底から支えてきた実力派・能美健志&ダンステアトロ21『White Reflection』は、真摯に身体と向き合いつつ緻密な空間構成をみせ健在をアピール。深見章代率いる女性集団・高襟『東京サイケデリック』は、露悪趣味でもなくクールさを装うでもなく「かわいい」とかいって媚びるでもなく、いい意味であっけらかんとして、ふてぶてしい。独自のエロチシズムを模索しつつあるようだ。

印象に残る公演3点

東野祥子solo dance『VACUUM ZONE』

アンサンブル・ゾネ『Fleeting Light つかの間の光』

TOKYO DANCE TODAY #5井手茂太『イデソロリサイタル [idesolo]』

東野祥子のソロ公演は、まずもってダンスの凄さで突出している。そのうえ、映像・美術・衣装・音楽らの諸ジャンルとのコラボレーションの緻密さと大胆さが際立つ。完成度も高い。ダークかつハイテンション、それでいて謎めいていて、観るものの想像力を激しく刺激する東野ワールドはハンパなく魅力的だ。アンサンブル・ゾネ新作は、中村恩恵の客演に興味津々だった。淡々とソロや群舞を連ねるゾネの舞台に、メンバーとは異なる身体性の中村が入りソロや群舞、岡とのデュオを踊ると、いい意味での異質な要素が混在する印象を受ける。その差異こそが、ゾネというカンパニーの生む世界の特質や孤高性と浮き彫りに。そして、岡・ゾネと中村が違った価値を持ちながらも互いを認め歩みながら踊る姿に、ダンスというものが打ち出し得るコミュニケーションの可能性を感じさせる。深く感銘を受けた。井手茂太のソロ・リサイタルは、あふれるユーモアや切なさで親密感を抱かせてくれる好編だった。ダンスの楽しさを伝え、さらにダンスという概念を軽々と超えたパフォーマンスで意表を突いた展開を繰り出す手際は職人技といえる。パイロットやラグビー選手、演歌歌手と早代わりする疾走感のある展開が楽しく、大御所の沢田祐二の照明もよくマッチした。例によっての小太りなのに異様にしなやかな井手ダンスもたっぷりと堪能させてくれる。すっかり心地よい気分にさせてもらえた。

印象に残るアーティスト3人

矢内原美邦(『あーなったら、こうならない。』の演出・振付)

酒井はな(東京小牧バレエ団『火の鳥』、日本バレエ協会公演『ジゼル』の演技)

折田克子(石井みどり追善公演の演技)

矢内原美邦は、振付・構成のみに徹し「ダンスとは何か」ということを、主題としても手法としても徹底して突き詰めた。生と死、人と人の関係性や距離といったモチーフを深く問うとともに、感情の発露をいかに身体を使って切実な表現として定着させるのかと真摯に探求する姿勢に共感した。酒井はなに関しては、近年、そのドラマティックな資質を活かす機会が少なく残念だった。が、今月は『火の鳥』『ジゼル』と性質は違うけれども、ともにドラマ性の強い役柄を踊る得がたい機会であった。それに酒井が出ることによって舞台の格が高まったように感じたのは私だけだろうか。どちらもゲスト出演だが(だからこそ)、主役を踊るに相応しいだけの存在感と説得力の十分なプリマとしてやはり貴重だ。折田克子は、故・石井みどりの息女であり、現代舞踊界の大御所だが、かつて音楽家のカール・ストーンとのコラボレーションを行ったり、先日もアナ・ハルプリンに師事した川村浪子とのレアな共演も果たしている。かの黒沢美香が“100年に1人しかいないはず”の踊り手と敬愛する先達なのだ。石井みどり追善公演でも、決して押し出したり派手なことはしないのに、その怜悧な感性と空間にしっかりたたずむ地に足着いた存在感に圧倒された。極めて上等にして稀有な芸術家魂を備えた大家である。

2010-04-01

[]『火の鳥』上演相次ぐ

『火の鳥』は、ロシア民話に基づいてストラヴィンスキーが作曲しフォーキンが振付けた1幕2場のバレエ作品ですが、そう頻繁に上演される演目ではありません。しかし、今年はディアギレフのバレエ・リュス初演(1910年6月25日 パリ・オペラ座)から100年目にあたることもあってでしょう。わが国でも上演が相次ぐ珍しいケースになります。

ひとつは先日行われた東京小牧バレエ団による上演。1954年にノラ・ケイを迎えて日本初演した小牧正英の演出版(フォーキン版に拠る)を手塚治虫が観て、同題の大作マンガ・シリーズ創作を思い立ったというのはよく知られた挿話です。今回の上演は小牧版を受けて佐々保樹が改訂振付したものでした。佐々版は、原点版の良さは残しつつ悪党のカスチェイらの踊りに迫力を増すなど間延びせず飽かせないもの。そして、タイトル・ロールの酒井はなの妖艶で神々しいまでの圧倒的存在感が話題でした。

秋には、新国立劇場の2010/2011シーズンの幕開けとして、デヴィッド・ビントレー芸術監督就任オープニング公演のなかでビントレーの『ペンギン・カフェ』等とともに上演されるのはすでに話題になっています。フォーキン版で、火の鳥役は、小野絢子と川村真樹、外国人ゲストが交代で踊るようです。今日、古典と現代を結ぶ近代バレエの重要性が説かれますが、それを意識してのプログラミングでしょう。また、東京シティ・バレエ団が東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団と共演する「オーケストラwithバレエ」でも『火の鳥』を取り上げるとか。例年、指揮:飯森泰次郎、振付:石井清子というコンビが手がけている企画ですが、今年もどういう舞台になるのか楽しみなところ。

初演で火の鳥を踊ったのはニジンスキーとの共演で知られるカルサヴィナ。いわずと知れた伝説の名花です。以下は、マリインスキー・バレエのディアナ・ヴィシニョーワの踊る『火の鳥』。10代のころにローザンヌ国際バレエコンクールで踊った『カルメン』で話題になりましたが、大人びた表現にかけては当代随一とされるプリマの真骨頂でしょう。

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