ベジャール2010

昨年末公開の映画「ベジャール、そしてバレエはつづく」のDVDが6月に発売となる。


ベジャール、そしてバレエはつづく [DVD]

ベジャール、そしてバレエはつづく [DVD]

20世紀バレエの巨匠振付家モーリス・ベジャールが亡くなって早2年半――。不在はやはり寂しい。辛い。ダンスの燃焼度、肉体から湧きあがる強度の凄さでは、ベジャール作品に適うものはそうはないだろう。演劇や音楽、現代思想をも取り込んだ作品世界は周知のとおり豊饒で圧倒的だ。様式美に富む古典バレエや先鋭的なコンテンポラリー・ダンスに触れるのも楽しいけれども、ときどきベジャール作品に接しないと、「餓え」のようなものを感じてしまう。血を作らないといけぬと肉を欲するかのように。私事で恐縮だが、以前、東京バレエ団『ザ・カブキ』&『バクチ』他の作品解説を公演プログラムに寄せる機会があった。その際、熱に浮かされたように力がこもって書き上げたことを思い出す。オールド・ファンではないけれども私にとっても特別な存在である。
幸い今年はベジャール作品上演が相次ぐ。東京バレエ団が今月末に『ザ・カブキ』を、8月にニコラ・ル・リッシュを招き『ボレロ』他を、12月には5年ぶりとなる『M』を上演。そして、秋には、本家のベジャール・バレエ・ローザンヌが来日して、遺作となった『80分世界一周』を披露する。巨匠の偉業をあらためて噛み締めるよい機会となりそう。
ただ、気になる点もある。新たなダンサーたちがどうベジャール作品を受け継いでいくのか。ベジャール・バレエにせよ東京バレエ団にせよ、もはやベジャール直々の指導を受けたり新作を得る機会は永遠に失われてしまった。今後、若い世代のダンサーたちがどうモチベーションを保って踊りついでいくのかは、ファンにとっても切実な問題となってくる。先年亡くなったピナ・バウシュの作品などに関しても同様のことが言えるけれども、舞踊作品の永続性というものには難しい面もあろう。でも、ジル・ロマンやミッシェル・ガスカールといったベジャール作品の申し子や東京バレエ団のダンサーたちがいる。ベジャールの魂が深く熱く受け継がれていくことを願わずにはいられない。


モーリス・ベジャール自伝―他者の人生の中での一瞬… (1982年)

モーリス・ベジャール自伝―他者の人生の中での一瞬… (1982年)