「カルミナ・ブラーナ」と佐多達枝、合唱舞踊劇O.F.C

先日行われた「東京のオペラの森2010」では、巨匠リッカルド・ムーティ指揮&豪華な歌手陣によってカール・オルフ作曲の世俗カンタータカルミナ・ブラーナ」が演奏上演され話題になったようだ。また、来る5月、ゴールデンウィークには、新国立劇場バレエ団が芸術監督デビッド・ビントレー振付による同曲を5年ぶりに再演する。こちらはイギリス流のブラックなユーモアと批評精神に満ちたものでなかなか楽しめる。
カルミナ・ブラーナ」は、よく知られるように19世紀初めドイツの修道院で発見された、中世の修道生たちの書いた詩歌集を基に、若者の苦悩や退廃的な生活を描く。混声合唱、少年合唱にソプラノ・テノールバリトンソリスト、大編成のオーケストラと多くの人員を要する大作。舞踊化も少なくなく、日本では、横井茂、千田雅子、河野潤、石井潤らが振付けている。なかでも度重なる再演を重ねて音楽・舞踊界の財産となっているのが佐多達枝の演出・振付、O.F.C(代表:柴大元)による合唱舞踊劇版だろう。
O.F.Cの標榜する合唱舞踊劇とは、“歌、踊り、そして打楽器等の演奏、これら根源的な人の表現手段を有機的に結びつけた新しい融合芸術”であり、「カルミナ・ブラーナ」、ラヴェル作曲「ダフニスとクロエ」、 ベートーヴェン作曲「交響曲第9番」などを佐多の演出・振付によって次々と舞台化してきた。ことに1995年初演の『カルミナ・ブラーナ』は、O.F.Cの立ち上げの動機となった曲だ。合唱隊もコロスとして踊り、演奏と合唱とダンスがうねり、交錯して、稀なる劇的興奮をもたらす秀作といえる。
日本バレエ界の巨匠で、1980年代から同曲の抜粋を使って舞踊作品を発表してきた佐多にとっても1時間に及ぶ大作に挑んだ記念碑的作品であり、O.F.Cによる上演だけで6演に及ぶ。新潟・名古屋の団体による上演も行われた。合唱隊によるコロスはプロのダンサーではないため振付に制約あるし、バレエのパートを詳しくみれば、日本バレエの財産とも称される佐多作品、たとえば『四谷スキャンダル』『父への手紙』『beach』『庭園』といった名作に比べると振付自体は比較的クラシカルなもの。佐多の才能がフルに発揮されたものといえるかといえばそうはいえない面もなくはない。しかし、ポピュラーな名曲にダイナミックな演出・振付が相俟って大変に魅力的だ。佐多作品のなかでも今後末永く再演を重ねていく可能性のあるものとしては最右翼となるだろう。
佐多演出・振付による合唱舞踊劇『カルミナ・ブラーナ』は、来年(2010年)3月に再演される。東京では6年ぶり。会場は東京文化会館で、一流の歌手と東京シティフィルハーモニック管弦楽団との共演。ダンサーも予定されている名をみると、日本バレエ界屈指の実力派と佐多の手兵が並ぶ。楽しみだ。さらにO.F.Cは、同年(2010年)10月に、2009年に初演され好評を得たバッハの大作による合唱舞踊劇『ヨハネ受難曲』を再演。これは『カルミナ・ブラーナ』から出発し、新たな形の総合芸術を志向してきたO.F.Cにとっても、演出・振付の佐多にとっても、おそらく最高の達成ではないだろうか。舞踊業界関係者でも見逃した人も少なくないようだが、舞踊・音楽ファンはもとよりパフォーミングアーツ全般に興味を持つ人必見と思う。パワーアップした再演が待ち遠しい。
OFC 合唱舞踊劇 ルードヴィヒ 〜交響曲第9番