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2010-05-31

[]国立劇場主催公演「舞踊−源平絵巻−」を観て

日本舞踊に関しては、個人的な趣味で観に行くのと、ごく稀にご案内いただくものが中心になる。とはいえ国立劇場の主催公演は都合がつけば足を運ぶようにしている。ことに秋に行われる「舞の会-京阪の座敷舞」は見逃せないものであり、極上の上方地唄舞を存分に堪能できる好企画だ。会場には洋舞の関係者・観客も少なくない。

さて、先日も国立劇場にて興味深い公演が行われた。「舞踊−源平絵巻−」と題された、平安時代末期の源氏と平氏をめぐる争いの中から生まれた様々な人間ドラマを取り上げた作品を並べたものである(5月29日 国立劇場大劇場)。上演されたのは、創作長唄「新・平家物語」より長唄「いつくしま」(出演:橘芳慧ほか)、俚奏楽「俊寛」(出演:西川扇藏、西川箕乃助、藤間蘭黄ほか)、創作長唄「新・平家物語」より長唄「常盤草子」(出演:花柳寿南海、花柳翫一)、舞踊「義経千本桜」より長唄「大物の浦」(出演:花柳壽輔ほか)。いずれの作品にも邦舞界の重鎮・名手が出演するという豪華な顔ぶれだ。

源平の争乱に関しては、歌舞伎や文楽、能楽等でもよく扱われるが、今回の出し物は、昭和・大正に生まれた創作ものである。「いつくしま」では平家のわが世の春の繁栄を煌びやかな女性群舞で描く。「俊寛」は歌舞伎や浄瑠璃でもよく知られたドラマをせりふなしに描くのがみせどころ。「常盤草子」で描かれる運命に翻弄される女性の生き様は普遍的なものだ。「大物の浦」は平家復興に燃える男たちの力強い踊りが見もの。「源平絵巻」と題して、こういった演目を集められるだけのレパートリーの豊富さには感心させられる。最初と最後に見られる群舞に顕著だが、歌舞伎舞踊・古典から発展して創作作品を生み出してきた邦舞の変遷も感じることができた。

ただ、終演後、「歌舞伎舞踊に比べるとやはり地味で華やかさにかける」という声も耳にした。今回に限らず、歌舞伎好きの観客や専門筋にはそういうことを言う人が少なくないようだ。最近はご無沙汰とはいえ私的にも歌舞伎役者の踊る舞踊は大好きだ。華があって、えもいわれぬ高揚感を覚えて帰路に就くことができることが多い。歌舞伎座の歌舞伎公演で観たものや何度も足を運んだ坂東玉三郎の舞踊公演などは個人的にも日舞鑑賞の原点。でも、動きの密度と様式性の高さということに関していえば、邦舞のプロパーの人のほうが優れているケースが多々ある気もするのだが・・・。

今回の「源平絵巻」には日本舞踊界当代随一の名手たちが揃って妙演を披露していた。好みや批評眼は人それぞれでいい。しかし、歌舞伎舞踊派?邦舞派?どちらにも偏らず曇りなき眼で舞踊を見極め楽しんでいくことが日本舞踊を現代に生きる舞台芸術として受容していく視座となるのではないか。あらためてそう実感させられた。

2010-05-29

[]Noism『NINA-物質化する生け贄(ver.black)』パリ公演(2009年12月)が決定

金森穣率いる新潟発のNoismが来る6月にモスクワ・チェーホフ演劇祭にて最新作『Nameless Poison〜黒衣の僧』を上演するのは既報でここでも取り上げたが、年末12月には代表作『NINA-物質化する生け贄(ver.black)』のパリ公演も決まったようだ。

「NINA-物質化する生け贄(ver.black)」パリ公演決定!

http://www.noism.jp/blog/2010/05/nina-verblack.html

12月2〜4日にかけてパリ日本文化会館で3回上演される。パリ日本文化会館といえば、昨年、金森やトップダンサーの井関佐和子が訪れてワークショップを行っているが、それ以前の2004年1月、Noismの正式発足前に前身となるproject Noismとして新作『Wall 意識の壁』(日本未上演)を発表した記念すべき場所でもある。それから6年あまりの歳月を経ての凱旋。パリの観客やメディアにどう評価されるのか注目したい。


NINA materialize sacrifice [DVD]

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2010-05-28

[]追憶:針生一郎、勅使河原宏、荒川修作、山口小夜子

先日、前衛美術評論で知られる針生一郎の死去が報じられた。針生は、反権威的・アヴァンギャルドな評論で知られ、1960年代以降現在に至るまでのアートシーンを語るうえで欠かせない論客のひとりだった。近年では、長編ドキュメンタリー映画「日本心中」や若松孝二監督「17歳の風景——少年は何を見たのか」などへ出演してもいる。

針生が評論活動をはじめた60年代は、美術のみならず、映画、音楽、舞台とさまざまな芸術ジャンルで新潮流が世界的に生まれ、日本でもそれは同様だったのは周知のとおり。そんな前衛芸術の震源地・メッカとして草月アートセンターが知られよう。旧草月会館の落成後1958年に勅使河原宏をディレクターとして発足、諸ジャンルのアーティストが交流し、プロデュースする公演がやイベントが行われた。ジョン・ケージやマース・カニングハムらの来日公演、土方巽や寺山修司らの舞台も行われている。

勅使河原といえば、いけばなの草月流3代目家元として知られるが、若き日には岡本太郎や安部公房らと前衛芸術グループ「世紀」を結成し、その後、映画監督として活躍する。安部原作「砂の女」「他人の顔」やドキュメンタリー「サマー・ソルジャー」などが代表作。「砂の女」はカンヌ国際映画祭にて審査員特別賞を受け、アメリカ・アカデミー賞監督賞にノミネートされるなど日本映画としてもっとも国際的評価を得たひとつだろう。後年はオペラの演出や舞台美術、イベントプロデュースでも幅広く活躍した。

勅使河原とは字が違うし、当然血縁関係もないが、読みが同姓ということ、世界的に著名ということでいえば、ダンス・ファンには勅使川原三郎の名が浮かぶだろう。実際リンクしていたり似た点はなくもない。オペラ「トゥーランドット」をそれぞれ演出していたりするし、勅使川原も活動の初期からダンスを軸としつつも折々に映画・映像作品を撮っている。ところで、勅使河原と勅使川原――両者の作品に関わったアーティストがいる。

それは2年前に急逝した山口小夜子。世界的モデルとして一世を風靡し、女優・パフォーマーとしてカリスマ的人気を誇った。勅使川原三郎の初期〜中期のダンス作品や映像作品に出演しているのはダンス・ファンにはおなじみだ。いっぽう勅使河原作品では映画「利休」に茶々役で登場し、出演時間は少ないが強烈な印象を残す。山口は舞台では他に天児牛大作品に出演するほか天児演出のオペラで衣装を担当。映画では寺山修司「上海異人娼館 チャイナ・ドール」や鈴木清順「ピストルオペラ」といった異色作に出演した。勅使河原や寺山より世代は随分と下だが、60年代の前衛芸術の息吹も受けて、80年代、90年代、それ以降と走り抜けた異才としてあらためて記憶したい。

針生の少し前に亡くなった現代美術家の荒川修作も60年代初頭からニューヨークに渡って旺盛に活動し死ぬまで現役であったが、自身がマドリン・ギンズと制作した環境デザインと勅使川原のダンスが相通じるものとして認識し、勅使川原のダンスについて書いたりもしている。アートのさまざまのムーブメントは、時代を超え、リンクしあって、いまの我々のまえに現前する。そのことをあらためて感じさせられるこの頃である。


17歳の風景 [DVD]

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勅使河原宏の世界 DVDコレクション

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上海異人娼館 チャイナ・ドール デジタルリマスター版 [DVD]

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[]「追悼ピナ・バウシュ」DVD上映、トーク、演奏、ダンス、展示@ドイツ文化会館

コンテンポラリー・ダンスの巨匠ピナ・バウシュが逝去してはや一年近くが経つ。ピナの率いていたヴッパタール舞踊団の死後初となる来日公演『Komm tanz mit mir(私と踊って)』にあわせてドイツ文化会館で追悼イベントが5月10日に行われる。

映像上演や関係者によるトーク、大野慶人によるダンス、三宅純による音楽演奏も。入場無料とは思えない充実したラインアップなので情報転載・紹介しておく。

★「追悼ピナ・バウシュ」DVD上映、トーク、演奏、ダンス、展示★

      DVD上映、トーク、演奏、ダンス、展示


日時:2010年6月10日(木)15時〜

会場:ドイツ文化会館ホール、ホワイエ

入場無料(定員制・要事前申し込み)


     申し込み: 03-3584-3201 info@tokyo.goethe.org

     (折り返し参加票が届きます。当日ご持参ください)


ドイツを代表する振付家ピナ・バウシュが2009 年に68歳で突然この世を去ってから6月で1年になります。その同じ月にヴッパタール舞踊団の来日公演が実現するのを機に、当センターではピナ・バウシュとその活動を追ったドキュメンタリーを上映いたします。


上映にあたっては、日本文化財団の理事長佐々木修氏と舞踊批評家の貫成人氏による公開トーク、舞踏家大野慶人氏の鎮魂のダンス、「フルムーン」のサウンドトラックをプロデュースした三宅純氏による追悼演奏があります。


プログラム

15.00–15.10  ご挨拶(所長:ウーヴェ・シュメルター)15.10–17.00

DVD上映「ワルツ」(102 分)17.20–18.00  DVD上映「ダンスを求めて」(29 分)

18.10–19.00  公開トーク(日本文化財団 佐々木修氏、舞踊批評家 貫成人氏)

19.00–19.15  レクイエム(舞踏:大野 慶人氏)

19:15–19.30  ピナへのオマージュ(作曲家:三宅 純氏)


※ DVD上映は日本語のヴォイスオーバーによる翻訳付きです。

※ プログラムの内容、時間は予告なしに変更される可能性があります。ご了承ください。


展示「ピナ・バウシュへのオマージュ」

会期:2010年6月8日(火)〜13日(日)

開場時間:9時〜21時(最終日のみ18時まで)

会場:ドイツ文化会館1階ホワイエ


舞踊団の団員や友人、生前ピナと親交のあった関係者の方々から寄せていただいた思い出の写真とそれにかかわるメッセージを展示します。


ご来場をお待ちしております。

2010-05-27

[]Noism1が6月、チェーホフ国際演劇祭に参加

金森穣率いるNoism1チェーホフ国際演劇祭に参加することは以前から報じられていたが、いよいよその時が近づいてきた。昨秋に初演された『Nameless Poisn〜黒衣の僧』は同演劇祭との共同制作作品であり、6月4〜6日にモスクワで上演。

http://chekhovfest.ru/projects/performance/performance_20.html

同演劇祭は1992年創設。ロシアの中心的な演劇フェスティバルとして定着し、これまでにピーター・ブルック、ピナ・バウシュ、アリアーヌ・ムヌーシュキン、ロバート・ウィルソン、リン・ファイミン、金森が兄事するという鈴木忠志といった世界の巨匠や文楽の公演も参加している。金森/Noismは代表作『NINA〜物質化する生け贄』を持って3年前の2007年に参加済みだ。フェスティバルとの共同制作という形のプロジェクトに発展したのは実績とネットワークがあったからだろう。リアルタイムといえるタイミングで日本の現代パフォーミングアーツがどんどん紹介されるようになってきたのは喜ばしい。

『Nameless Poisn〜黒衣の僧』は、アントン・チェーホフの小説「黒衣の僧」「六号病室」から想を得たもので、チェーホフ作品の底流にある苦悩を現代に通じる普遍的なものとして捉えている。自己と他者との間のコミュニケーション不全や無名性のなかをさすらう現代人の実相を怜悧に描く。『Nameless Hands〜人形の家』に続く「見世物小屋シリーズ」の第2弾ということもあり、全編にただようアングラ・テイストを青臭く感じる向きもあるようで、好みは分かれると思うが、現代社会の問題に切り込む創作姿勢を支持したい。チェーホフの本場・ロシアでどのような反響を巻き起こすのか注目される。


六号病棟・退屈な話(他5篇) (岩波文庫)

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NINA materialize sacrifice [DVD]

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2010-05-25

[]「トヨタコレオグラフィーアワード2010」“ネクステージ”(最終審査会)出場者決定

トヨタ自動車株式会社の芸術文化支援活動の一環として行われる「トヨタコレオグラフィーアワード」は、若手振付家の登竜門となるコンペティションとして定着している。2001年創設であり、今年で7回目。229名(組)の応募のなかからファイナリスト選考会(映像・書類選考)にて6名(組)のファイナリストが選ばれた(5月24日発表)。今夏7月19日に開催される“ネクステージ”(最終審査会)では、世田谷パブリックシアターにおいて作品を上演して公開審査を行い、審査委員・ゲスト審査委員の投票による「次代を担う振付家賞」1名、観客の投票による「オーディエンス賞」1名が決定される。

《ファイナリスト[五十音順]・上演作品》

石川勇太「Dust Park」

神村恵「配置と森」

ストウミキコ/外山晴菜「オレノグラフィー」

田畑真希「ドラマチック、の回」

キミホ・ハルバート「White Fields」

古家優里「キャッチ マイビーム」

※上演時間各15〜20分/上演順未定

公式ホームページ

http://www.toyota.co.jp/jp/social_contribution/culture/tca/index.html

世田谷パブリックシアター 公演情報

http://setagaya-pt.jp/theater_info/2010/07/post_193.html

ファイナリストの顔ぶれを知ってまず感じたのは、東京/関東で活動する人に集中したということ。これまでのトヨタでは、砂連尾理+寺田みさこ、東野祥子、隅地茉歩という関西勢が大賞にあたる「次代を担う振付家賞」を得ているし、ファイナリストにも少なからず顔を出してきたのだが今回はゼロ。私見では、関西系やその他で注目している人が何人かいないではなく、やや意外だったけれども、応募状況にもよるのだろう。

さて、ファイナリストだが、平田オリザの芝居などに出たのちNoism、珍しいキノコ舞踊団にも参加した変り種の石川、ポストモダンを脱構築しようと試みている?(らしい)神村、キリコラージュというユニットで独特の創作スタイルを貫くストウ/外山、ラフな装いのなかに緻密な計算の行き届いた舞台を作る田畑、ステップ、音楽性の掛け合わせのセンスよく、美術や照明との相乗効果で繊細な舞台を生むキミホ、大学ダンス出身でエネルギッシュなパワーに富む古家と6人6様のテイスト。前回までの8人から減った“狭き門”の突破者をみると、コンセプチャル系やミニマル系、演劇的ダンスに傾いた人が選ばれている印象か。でも、バックグラウンドはかなり異なるとはいえ、皆それなりの実績は持っている。「踊らないダンス」「あまりダンシングしないダンス」系のものでも、しっかりと身体を核にした、説得力あるパフォーマンスを行うのではないか。

内部事情には疎いが、毎回、公演報告やWEB上に出ている感想等を見る限りでも、選考制度のあり方や選出・最終審査結果に対してダンス雀のあいだで議論もあるようだ。でも、そういった侃侃諤諤あってこその?トヨタなのかもしれないし、一概に悪くない。議論なくして時代と向き合い共振する芸術など決して生まれないのだから。ただ、外部や一般の観客からすると、トヨタの最終審査会は、関係者の選んだベスト・セレクト・オブ・コンテンポラリー・ダンスと思われがち(初期は総花的なラインアップでコンテンポラリー・ダンスのブランディング効果があったのでは)。隔年開催となり2度目だが、内容・審査次第では、コンテンポラリー・ダンスってどうよ?と、アンチ・コンテンポラリー系から不毛論を唱えられかねないかも。シーンの今後が懸かる正念場となりそうだ。

2010-05-22

[]「オックスフォード バレエダンス事典」日本語版刊行!

ついに「オックスフォード バレエダンス事典」邦訳版が出る!早速先日予約した。

監訳:鈴木晶、訳:赤尾雄人、海野敏、鈴木晶、長野由紀という、日本を代表する舞踊評論家のお歴々が4年の時間をかけて翻訳したそうだ。辞典・辞書類の出版には定評ある平凡社からの刊行というのも心強い。バレエ&ダンスファン必携になるのでは。


2010-05-21

[]勅使川原三郎×佐東利穂子『オブセッション』を観て

勅使川原三郎が弟子の佐東利穂子と踊るデュオ『オブセッション』(5月20日〜23日 Bunkamuraシアターコクーン、6月5日 兵庫芸術文化センター)。ルイス・ブニュエル×サルバトール・ダリによる映画「アンダルシアの犬」をモチーフにしたという同作は昨年5月にフランスで初演され、ギリシャやウィーンでの上演を経て日本初演となった。

公演タイトルの「オブセッション」とは、強迫観念や妄想といった意味を持つが、現代美術のタームとしても知られる。作家の内的な衝動が生のままでなく審美化されたかたちで立ち現れてくるものとでもいえようか。本作はまさにそんな感じだった。はじめは圧迫感あるノイズ音のなか勅使川原と佐東が別々に踊り、やがて絡んでいく。そして、後になると、女性ヴァイオリニストのファニー・クラマジランの弾くウジェーヌ・イザイ「無伴奏ヴァイオリン・ソナタ」にあわせ両者の洗練されたダンスが中心となっていく。

構成・演出・振付・美術・衣装のすべてを勅使川原自身が手がけているのはいつも同様であり、透徹した美意識に貫かれた舞台造りにはさすがのひと言ながら混沌から調和へと至る展開はやや図式的にも思えた。しかし、様々な要素によって構築された舞台空間のなかにおいても必ず身体が強く立ち上がってくるという点は外していない。さらに今回は、音楽を舞台上での生の演奏に委ねたことにより、ダンスと音楽のスリリングな交錯が志向され、また新たな境地を開きつつあるのでは、と思った。

『オブセッション』に限らず勅使川原作品において特徴的なのは、あくまでも身体を核としつつも美術や文学、映画や音楽といったアートを柔軟・自在に取り入れ、オリジナルな奥の深い世界を作り上げていること。“振付家”と称する人は無数にいるが、仮にセンスがあっても才能に溺れているだけでは自滅してしまう。所詮、ひとりの人間の能力なんて知れている、とまではいわなくても、限界あるのは確かだ。他の優れた振付者の仕事や他の分野のアートに積極的に触れることは、引き出しを増やすのみならず、常に感性を刺激される。勅使川原は、今回共演したヴァイオリニストを自身で見つけてすぐさまコラボレーションを申し出たという。そういった積極性・行動力も勅使川原が四半世紀にわたってコンテンポラリー・ダンスの先端を走ってきた大きな要因のひとつだろう。現在活躍する若い有為な振付者や振付志望者も日々の生活に追われ時間的・精神的余裕が少ないとは察するが、少しでも勅使川原を見習ってほしいと思う。


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アンダルシアの犬 [DVD]

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2010-05-20

[]伊藤道郎の再評価

センスのいいコンテンポラリー・バレエを上演し続けるラ ダンス コントラステの第14回アトリエ公演(5月18、19日 吉祥寺シアター)を観た。今年のコントラステのテーマはオペラ。秋にも公演が行われるが今回は、主宰の佐藤宏が「ラ・ボエーム」を題材に『ミミ』を、カンパニーの中軸の中原麻里が「ラ・トラヴィアータ(椿姫)」を基に『ヴィオレッタ』を振付け気勢を上げた。一昨年にはバレエ界の人気者・酒井はな&西島千博が客演し話題になったが、カンパニーメンバーや常連といえるダンサーにもいい踊り手がいる。なかでも近年のコントラステに欠かせない存在になりつつあるのが今回は『ミミ』で竹内春美とデュオを踊った武石光嗣だ。くせのないしなやかな踊りと陰影に富む繊細な表情を持ち味とする。バレエ界の巨匠・佐多達枝作品にも常連として定着した。

武石といえば、今年の2月に埼玉県舞踊協会「Dance Session 2010」におけるイサク・アルベニス没後100年記念「アルベニスのタンゴを踊る」という企画において伊藤道郎(以下、道郎)が振付けたアルベニス曲『タンゴ』の復元上演に出演して評判に(同時に松元日奈子が小森敏の振付けた『タンゴ』を踊った)。その舞台には残念ながら足を運べなかったが、のちに記録映像を見る機会があった。古臭さはなく今見てもなかなか新鮮なダンス。惹きこまれた。なぜ武石が道郎作品を踊ったかというと、道郎と縁戚にあたるからであろう。武石の母で指導者として活動する伊藤胡桃は(チャイコフスキー記念)東京バレエ団出身の踊り手であり、伯父が道郎にあたる。生前の道郎を知る関係者のなかには武石が踊る姿に「道郎を彷彿とさせる」と感じた人もいたそうだ。

道郎は1893年に生まれ1961年に没した振付家/ダンサーであり、欧米でもよく知られた存在。第二次世界大戦前は海外で活躍し、ホルスト作曲「日本組曲」に協力したほか、能を研究し、詩人イェーツの戯曲「鷹の井戸」にも関わっている。アメリカのブロードウェイではミュージカルの振り付けを行った。子弟も演劇・音楽・舞踊界で活躍している。仄聞するところアメリカでは伊藤を研究対象に取り上げる舞踊学者や学徒も少なくないという。日本でも弟子筋による同門会が作品の復元等を行っているが、日本よりも海外での評価が高いといえそうだ。来年2011年は日本に洋舞が入ってから100年を迎える。道郎の仕事と存在があらためて見直され、評価されていくことが望まれよう。



2010-05-17

[]東京バレエ団・クランコ振付『オネーギン』初演

物語バレエの巨匠と称されるジョン・クランコ屈指の名作であり、ドイツのいくつかのバレエ団や世界の一流カンパニーにしか上演が許されていないレパートリーを日本のバレエ団としては初上演するということで大変な注目を集めていた。西洋(ロシア)の田舎の貴族社会を描いたドラマティック・バレエをオール日本人キャストがどう演じるのか興味津々だったが、結果としては、まずまずの優れた仕上がりだったように思う。

何よりもあらためてクランコの天才的な作舞術と造形力に唸らされた。プーシキンの韻文小説のリリシズムを損なわずドラマ性豊かにして古典的風格を兼ね備えていることで定評あるが、実際の舞台に接するたび「クランコって天才」と思わずにはいられない。いわゆる古典バレエでは、ダンスのあいだにマイムがはさまれることにより物語が進行する。それに対しクランコの全幕物語バレエでは、ダンスそのものが雄弁にドラマを物語っていくのが最大の特徴。ことに『オネーギン』は、チャイコフスキー曲をこれ以上ないくらい鮮やかにまとめた編曲と演出の妙も相まっていて、物語バレエの最大傑作と呼ぶにふさわしい。1幕「鏡のパ・ド・ドゥ」、3幕「手紙のパ・ド・ドゥ」は、タチヤーナとオネーギンの葛藤や心理の移り変わりを痛いほどに伝えてクランコ・マジックの最高の精華だろう。モブシーンの緻密かつ自然な演出や舞曲にのせた精巧で変化に富んだ群舞の振付もすばらしい。ことに東京バレエ団の上演では、そのあたりをじつにていねいに、躍動感たっぷりに演じ・踊っていて、クランコ振付の妙味が存分に伝わってきた。

主要キャストは3組の配役。個人的にもっとも感銘を受け、また、客席の反応も大きかったと感じたのが2日目だった。タチヤーナを踊った斎藤友佳理にとっては同役を踊るのが10年越しの悲願であることは、関係者のみならず多くの観客が知るところだろう。その特別な感慨あってか終始なんともいえない高揚感が舞台と客席を支配し、カーテンコールでは熱狂的なスタンディングオベーションが起こった。斎藤のタチヤーナは激情的で、メランコリーな表現にも秀でており、有無を言わさぬ迫力で押し切る。初役ながら畢生の演技とは、まさにこういうものを指すのだろう。木村和夫のオネーギンが会心の出来で、タチヤーナを弄び拒絶する冷血さから転じての激烈な愛の放出に胸を揺さぶられた。初日のタチヤーナ:吉岡美佳、オネーギン:高岸直樹も水準を上回る出来ばえだと感じた。吉岡はタチヤーナの移り行く心のゆれ動きを繊細に演じているのが魅力的。少々淡白にも思えるが見せ場を心得つつ微細に表現を変えていく舞台のさばき方に感心させられた。パートナーシップの妙・演技の方向性の一致度という点ではこの日が一番合っていたかも。最終日のタチヤーナ:田中結子、オネーギン:後藤晴雄組も熱演。独特な色気とノーブルな感性が同居する後藤ならではの役作りが感じられたし、テクニック、感情表現ともにしっかりした田中も無難な演技をみせたもののパ・ド・ドゥでのサポートのミスが相次いだのが返す返すも悔やまれる。オリガを踊った小出領子/高村順子/佐伯知香は、いずれもチャーミングで踊りも流麗と粒ぞろい。レンスキーの長瀬直義/井上良太は、ともにやや線が細いし不安定な箇所も見受けられたが、しなやかな体づかいと気持ちのこもった演技をみせていた。若くこれから楽しみな存在だ。

今回の配役は、クランコ作品の本家・シュツットガルト・バレエ団の芸術監督リード・アンダーソンが直々に来日して行われたトライアルによって“役柄への適性や組み合わせのバランスを重視した”(チラシより)ということになっている。クランコ作品指導の第一人者の指名に文句の付けようはないが、キャスト発表時には「なるほど」と膝を打ったりあるいは意外性に驚くいっぽうで、もっと違った組み合わせもあるのではと思ったりもした。それは、公演終了後も変わらず、タチヤーナ、オネーギン、オリガ、レンスキー役を踊ったキャストいずれも好演だったとはいえ違った組み合わせを観たいと感じるのも事実。斎藤と高岸、吉岡と木村という組み合わせならどうだっただろうか。オリガを踊って出産復帰後完全復活を果たしたといっていい小出領子など、持ち味の芯の強い表現力からしてタチヤーナも踊れるだろう。いや、むしろオリガより合っているのではないかと思う。ともあれ、東京バレエ団は古典にしろ現代作品にしろ再演の際の仕上がりがいいのが持ち味なので、多彩なキャストによる再演を心待ちにしたい。

(2010年5月14、15、16日 東京文化会館)

2010-05-16

[]佐藤小夜子の挑戦

尾張・名古屋は古くから芸どころとして知られ、舞踊もなかなか盛んである(特にバレエ)。とはいえ、私的には、時おりバレエを見に行く機会があるのと、愛知芸術文化センターによる自主企画公演に足を運ぶくらい。管見ということもあり、モダンやコンテンポラリー系のアーティストの中堅・若手クラスで自主公演を中心に活発な活動を展開するアーティストはなかなか見当たらない印象だった。そんななかゴールデンウィークの最後に、意欲的な公演に接することができた。佐藤小夜子DANCE LABORATORY「ダンス日記 vol.2−笑顔の法則−」である(5月4、5日 名古屋クラブクアトロ)。

佐藤は故・三田美代子のもとで踊り始め、1985年からは振付も手がけて合同公演等に出品。1993年より故・藤井公、藤井利子に師事している。近年はモダンダンス畑の枠にとらわれることなく俳優やパフォーマーを用いた異色のパフォーマンスを展開しており、地元のみならず東京でのジョイント公演やショーケースにも参加するなど積極性が際立つ存在だ。これまで東京で観ることのできた佐藤作品は『足並みそろえて』『おとなのポルカ』『Polka』といった小品佳作。そこはかとないユーモアの底に深い人間洞察を湛え、表現スタイルもダンスの枠に囚われない自在なタッチが魅力的だった。

今回、名古屋で観た「ダンス日記 vol.2−笑顔の法則−」も、タイトルに“ダンス”と銘打たれているが、これは俳優やパフォーマーを中心としたキャスト陣が出演するもので、演劇的な要素も取り入れたオムニバス作品(上演時間1時間ほど)。佐藤含む9人の男女が日常的な、ありふれたようでありふれていないような悲喜こもごもの情景を繊細につむいでいく。男女カップルの切ない距離感や詐欺にあったりと転落していくバカっぽく愛らしい訛った田舎者ロックシンガー生み出す悲喜劇……。ダンサーだけでなく役者含めたパフォーマーが優しさ愛おしさに満ちた佐藤ワールドを確かな実在感を持って伝える。衣装の武田晴子、照明の御原祥子といった関東/名古屋のベテランスタッフの強力なサポートも作品に奥行きを増していた。パフォーマーの個性と役割分担をより明確にして演出・構成に緩急自在さが加わればと思ったのと、あと、もう少しパワフルなダンスが観たいというか、カタルシスが欲しい気はするが、総じて好印象の持てる公演だった。ダンスと演劇の境界の先にさらなる独自のパフォーマンスを期待したいと思う。

会場は名古屋の繁華街ビルにあるライブハウス。劇場プロセニアム空間とは違った解放感があり、ダンスや演劇に関心の薄い層でもドリンク片手に肩が凝ることなくパフォーマンスを楽しめる。そして、チラシをみると、入場券の取り扱いは地元のプレイガイド3つのほか、ぴあ、ローソンチケット、イープラスと並ぶ。小スペースでの2日間3公演という公演規模・委託料等を考えると、自前・手売りで済ませるのが効率的なはず。それなのに手間と経費のかかることをするのは、ひとりでも新たな観客を獲得しようという意思が強いからだろう。実際、チラシや公演情報等に触れて来場した観客も少なからずいたようだ。マネージメントへの意識も高く、未知の観客が会場に足を運ぶまでのバリアを少しでもフリーにしていきたいという自助努力の感じられる制作姿勢は頼もしい。地域におけるダンスの自主公演のあり方を考えるうえで貴重な試みに感じられた。

創作・制作の両面において積極的な佐藤小夜子の挑戦を見守りたい。

2010-05-15

[]チェルフィチュ公演をめぐっての緊急シンポジウム

現在、ラフォーレミュージアム原宿にて上演されてる(19日まで)チェルフィッチュ公演『ホットペッパー、クーラー、そしてお別れの挨拶』を話題の出発点に、気鋭のライターたちが現代のアートと社会をめぐって語り合うというシンポジウムに足を運んだ。

夜更けの開催であり、終電までのコアタイム中心にしか聴けなかったが、なかなか刺激的なイベント。まず、各パネラーが非正規雇用の若者たちを描いた同作を観て感じること・思うことを述べた。絶賛派もいれば否定派というか同作に不満・疑念を持つパネラーも。チェルフィチュ/岡田利規の演劇論・身体論をあらためて解きほぐしつつ、岡田が、どのように社会と向き合っているのかとの議論等がなされた。パネラーのひとり黒瀬陽平が主に関わっている「破滅ラウンジ」や宮下公園における「NIKEパーク化問題」に関するアート活動といったいま渋谷・原宿で行われているイベント・パフォーマンスとの共時性・同時代性も語られた。収集のつかない・堂々巡りな展開に感じられた場面もなくはなかったが、アート、表現活動の現在を知るうえで示唆に富むものだった。

シンポジウムでは、2〜3月に上演された『わたしたちは無傷な別人であるのか?』と『ホットペッパー、クーラー、そしてお別れの挨拶』の関連性や相違も語られた(創作順では逆になる)。『わたしたちは無傷な別人であるのか?』は、練り上げられて『わたしたちは無傷な別人である』と題し愛知トリエンナーレにて世界初演されるようだ。その前後には『ホットペッパー、クーラー、そしてお別れの挨拶』や『三月の5日間』の海外ツアーも予定されている。チェルフィッチュが世界規模でパフォーミングアーツ界の話題を振りまいているその理由とは何か?もっと語られ、分析されていいことであろう。

緊急シンポジウム!現代の表現と社会との関係を考える(その1)〜『ホットペッパー、クーラー、そしてお別れの挨拶』公演の最中に〜

ただいまラフォーレ原宿で開催中のチェルフィッチュ公演『ホットペッパー、クーラー、そしてお別れの挨拶』を観た、世代もジャンルも様々な批評家・ライターを交えて、演劇に限らず現代の表現と社会の関係を探る緊急公開シンポジウムを開催します。

ぜひお立ち会い下さい。

●パネラー

磯部涼(風俗ライター)

鴻英良(演劇批評家・ロシア芸術思想)

九龍ジョー(ライター/編集者)

黒瀬陽平(美術家/美術批評家)

五所純子(文筆家)

桜井圭介(音楽家/ダンス批評家/吾妻橋ダンスクロッシング主宰)

杉田俊介(ケア労働者、批評家)

●開催日:5/14(金)22:00〜

(コアタイムは終電までを予定しますが、議論の流れ次第でその後も続きます)

●会場:VACANT

●参加料:1000円+1ドリンクオーダー

※当日券のみ(定員100名、先着順)

2010-05-13

[]山路曜生氏死去

創作日本舞踊家の山路曜生さんが亡くなられた。享年80歳。

http://www.asahi.com/obituaries/update/0513/NGY201005130013.html

名古屋を中心に個人舞踊家として活動された創作邦舞のベテランであり、洋舞関連でも現代舞踊の公演の演出等を手がけられている。

作品を拝見したことはないが、お話する機会に恵まれたことが何度かあった。昨年の今ごろ名古屋でお話したのが元気なお姿に接した最後だった。その後、体調を崩されていることを聞いてはいたが・・・。

故人のご冥福をお祈りいたします。

2010-05-11

[]伊藤千枝率いる珍しいキノコ舞踊団が仲里依紗&光浦靖子出演CMに登場!!

女優の仲里依紗とタレントの光浦靖子が出演するサントリー「ニチレイ アセロラ」シリーズ新CM(本日11日から放送)に珍しいキノコ舞踊団が出演している。仲、光浦と伊藤千枝らキノコメンバーが赤の衣装を着て、コミカルな体操を披露。振付も伊藤のようだ。

キノコは「カワイイ系」の女性ダンスカンパニー/ユニットのハシリ。主宰で振付家の伊藤は、映画「めがね」等の振付も手がけ活躍の場を広げ、カンパニーの活動自体も新たなメンバーが入ってキノコワールドますます快調といったところ。今回のCMに関するメディアの紹介でもキノコに関して「コンテンポラリー・ダンスカンパニー」と紹介されており、これは、コンテンポラリー・ダンスが広く認知されていく良い機会で何よりだ。

サントリーによるCM公式ページ

仲里依紗&光浦靖子がCMで体操(最後にCM本編あり)

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2010-05-10

[]沖縄で今夏、初の本格的バレエコンクール開催

わが国で行われているバレエコンクールは年々増え続け、もはや20や30と言う数では済まない状態に。今年になっても既に長野、浜松で新たなコンクールが行われ、夏には横須賀でも新規のものが開催される。そんななか注目したいのが、今夏、わが国の南西部、最西端の沖縄ではじめて本格的なコンクールが行われるということだ。

沖縄といえば、古来からの琉球舞踊が盛んで、洋舞となると戦後、アメリカ軍の統治下でじょじょに発展を遂げてきた。東京や大阪といった地域や本場ソ連との交流もほとんど難しいような苦しい状態であったと想像できる。日本への領土返還後10年を経て、社団法人日本バレエ協会の沖縄支部が設立され(1982年)、各地との交流等活発な活動を行い、有力なバレエスタジオもいくつか存在する。近年では国際的なバレエコンクールでの上位入賞者や海外のバレエ団で活躍する素晴らしい逸材も出てきた。

そんな沖縄バレエ界にとって、地元の若い人材を育成しシーンを活気づけ、また、中国や台湾、韓国といったアジア諸国とも近いという立地を活かして沖縄バレエの存在を内外にアピールしていく格好の場となるのが、本格的なバレエコンクールの開催であろう。待ち望まれた(であろう)コンクールが、今夏行われる「第1回琉球新報バレエコンクール」(8月20〜22日 於:浦添市てだこホール)。地元紙の琉球新報社が主催するもので、協力にチャコット、協賛 に学校法人 大原学園がはいって、さらに、県や地元放送局等の有力団体が後援につくなどバックアップ体制には非常に強力なものがある。

部門はクラッシックバレエ個人、クラッシックバレエ団体、創作舞踊と3つ(出場〆切は6月30日)。出場者の国籍は不問であり、当初は地元や本州、九州等からの出場者が多くなるだろうが、将来的には国際的な催しとなるのを視野に入れているのではないか。審査員もロシア・ボリショイ・バレエ団専属振付家のイリーナ・ラザレワ、アメリカ中心に内外で活躍しABTダンサーも踊った『ゼファー』などで知られる振付家・佐々保樹、戦後バレエの巨星・小牧正英の衣鉢を継ぎアジア各地との交流を深めるなどこのところ存在感をいや増している東京小牧バレエ団団長・菊池宗ら国際色豊かな顔ぶれ。

近年、中国や韓国のバレエは急激に世界的注目を集め、台湾でも著名な雲門舞集(クラウド・ゲイト舞踊団)の活躍に加え国際的バレエ・ガラ公演が行われるなどシーンは活況を呈しているようだ。そういった国・地域と近い沖縄という場所で、新しい、独自の、グローバルな舞踊文化の華が開くためにも、コンクールの成功を心から願いたい。

2010-05-08

[]チェルフィッチュ『ホットペッパー、クーラー、そしてお別れの挨拶』初日

演劇とダンスの境界を自在に往還して注目を浴びるチェルフィッチュ。最新作『ホットペッパー、クーラー、そしてお別れの挨拶』は、HAU劇場(ベルリン)との共同制作によって2009年10月に世界初演され、5月7日から19日までの東京公演@ラフォーレミュージアム原宿を皮切りに、今年国内外10都市のツアーが行われる。「ホットペッパー」「クーラー」「お別れの挨拶」の3つの短編による構成。「TOYOTA CHOREOGRAPHY AWARD 2005〜次代を担う振付家の発掘〜」最終選考会にノミネートされ、演劇なのかダンスなのかと物議をかもした『クーラー』を挟んで二つの短編を加えたものだ。

初日を観てきたが、期待に違わぬおもしろさ。反復されるテクスト、得体の知れない身体動作といったものを通して、若い世代の労働環境をシニカルに描かれており、独特の不思議なアクチュアリティがある。厳しい労働環境に「明日はわが身」と若い世代は身につまされるかもしれないが、妙な浮遊感というかシュールな感覚があって後味は悪くない。前衛音楽、フリージャズといった音楽の使い方も大胆で新鮮。強いて気になるといえば、『クーラー』を先に観ている人間からすれば前後の繋がりが「なるほど、そう来るか!」と思え楽しかったが、『クーラー』未見の人の場合、前後とやや造りが異なる印象を受け戸惑うかもしれない。でも、才人・岡田利規のこと、折り込み済みだろう。

1990年代以降の「静かな演劇」的なリアリズムとは違うアクチュアルなテイストの表現の第一人者として岡田は注目されてきた。個人的には岸田國士戯曲賞賞受賞前に手塚夏子とともに渋谷ギャラリー・ルデコで公演を行ったとき以来、大半の作品をフォローしている。今作は、『三月の5日間』『エンジョイ』といった旧作を受け継ぎつつより軽やかに、それでいてより深く、怜悧に、いまという時代を生きる人間の寄る辺なさを見据えていると感じた。今後のさらなる展開を予感させる刺激的な一作だと思う。

チェルフィッチュ『ホットペッパー、クーラー、そしてお別れの挨拶』

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制作:precogのチャンネルより

『ホットペッパー、クーラー、そしてお別れの挨拶』も収録した戯曲集

エンジョイ・アワー・フリータイム

エンジョイ・アワー・フリータイム

2010-05-07

[]「踊りに行くぜ!!」2、概要発表&公募開始

JCDNの「踊りに行くぜ!」2(セカンド)の公募開始が始まった。

各地のスペース間の巡回上演を通してコンテンポラリー・ダンスの普及・発展に尽くしてきた「踊りに行くぜ!!」。以前から示唆されていたが、10周年を一区切りに、既存作品の紹介ではなく、制作環境整備を目的として新たな段階に入るようだ。作品を創っていく環境をサポートしていくというテーマを掲げたこれからの展開に注目したい。

以下、JCDNメールマガジンVOL.106(2010年5月号)から転載。

■「踊りに行くぜ!!」2 いよいよ公募開始しました。■

作品アイデア/アーティスト募集!

応募締切日 2010年6月15日(火) 必着

応募要綱・提出物・選考方法など詳細は→ http://odorini.jcdn.org/

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「踊りに行くぜ!!」2 (セカンド)

〜ダンス作品クリエイション&全国巡回プロジェクト〜 始まります!!

2000年から2009年まで、10年間継続して開催してきました

「踊りに行くぜ!!」が、今年度から生まれ変わり、新たな目的<ダンス作品制作環境整備>に向けて、「踊りに行くぜ!!」2としてスタートします!

「踊りに行くぜ!!」にて築いてきましたネットワークを活かし、各地のパートナーと協働して、

●「A/ダンスプロダクション・サポートプログラム」

=「踊りに行くぜ!!」2で制作、巡回公演で上演する新作の基本アイデアを公募します。

●「B/リージョナル・ダンスクリエイション・プログラム」

=兇粒催地<福岡・松山・伊丹>の中から、希望の地域いずれか1ヶ所で、開催地で募った出演者と、ダンス作品制作を行うアーティストを公募します。

の2種類の方法で、

上演に先立ち、A/Bともレジデンスやワークインプログレスなどの制作期間を設け、ダンス作品のクリエイションをサポートし、そこで創られた作品を2011年1月から3月にかけて、松山・鳥取・八戸・福岡・伊丹・東京にて上演します。

A作品は上記地域から2-3ヶ所にて巡回上演、

B作品はクリエイション開催地での上演、を予定しています。

*2010年5月時点での各地の公演日程はWebを参照下さい。

「踊りに行くぜ!!」2で制作・上演する作品の基本アイデアを

http://odorini.jcdn.org/の要領で募集します。

作品制作+上演を希望される方は、ふるってご応募ください!!

また、応募要綱チラシを希望される方は郵送しますので、

郵送先住所をお知らせください。

全体企画・主催・制作・問合せ:

NPO法人JCDN jcdn@jcdn.org

電話:075-361-4685

2010-05-06

[]牧阿佐美バレヱ団『くるみ割り人形』DVD発売

牧阿佐美バレヱ団の『くるみ割り人形』が発売された(昨年12月公演を収録)。

金平糖の精:伊藤友季子、雪の女王:青山季可、王子:京當侑一籠、クララ:阿部裕恵。なんといっても、伊藤と青山という若手気鋭プリマを一度に観られる!のがうれしい。ほかにも、シュタールバウム氏:保坂アントン慶、シュタールバウム夫人:坂西麻美、ドロッセルマイヤー:森田健太郎とベテランが脇を固め、安心して観ていられる。

わが国でも年末に各バレエ団が『くるみ割り人形』を上演しているが、牧バレエは「くるみ」上演の老舗中の老舗。1962年12月公演に関して村松道弥は“これが年中行事となって他のバレエ団も競って年末に『くるみ割り人形』を上演するようになった”と「私の舞踊史」のなかで語っているように、50年近く途切れることなく上演している。欧米同様に年末の風物詩として定着させたのは、牧バレエの功績によるものが大きい。ジャック・カーター版を経て、今回収録の三谷恭三版の時代になっても、プロの団員とジュニアの踊り手たちが一体となって紡ぐファンタスティックな物語は観客を魅了する。

古典を重視していることは、ロシアは別にして今後日本バレエの独自性を際立たせることになっていくかもしれない。現代作品・創作作品の上演も増えてほしいし、古典にしてもオーソドックスなものから逸脱したヴァージョンの上演へという流れも必然的なものはある。そういった仕事の方が注目され、評価もされやすい。でも、基礎・基本・伝統を堅持するのも大切。クラシック・バレエの全幕ものを正しく継承しつつ若手や個性ある踊り手の魅力を花開かせ説得力ある舞台を創ることは、想像以上に難しいのではないかと思う。そんななか牧バレエの舞台、昨秋新演出上演された『白鳥の湖』や今回DVD化された『くるみ割り人形』をみると、古典の品格を保ちつつ層厚い団員の力量を引き出しているのが見て取れる。地道な作業の積み重ね古典を正統的かつ時代に即した血の通ったものに仕上げていくことの重要性をあらためて実感させられた。

2010-05-04

[]松山バレエ団・森下洋子の踊る『ロミオとジュリエット』

ゴールデンウィークのバレエといえば松山バレエ団恒例の5月公演。会場はいつもどおりBunkamuraオーチャードホール。今年は『ロミオとジュリエット』全幕だった。

構想・構成・台本・演出・振付を手がける清水哲太郎は、再演のたびに手直しを加え、作品をより良きものにしようと心がける。オペラ同様バレエでも古典を中心とした全幕バレエの新演出が問われる時代だが、清水は、わが国のコレオグラファーのなかでも先んじて独自のプランに基づく演出を手がけてきた第一人者として記憶されよう。

数ある清水演出の作品のなかでも力が入り、日本バレエの至宝・森下洋子の“踊る女優”ぶりを存分に引き出したのが『ロミオとジュリエット』ではないだろうか。個人的には、『くるみ割り人形』『シンデレラ』と並ぶ清水=森下コンビの極め付けといえるレパートリーだと思う。初心な少女が恋に目覚め大人びていくさまを繊細に演じ、肉体の極限と闘いながら役を生き抜く森下の芸術家魂には、毎度のことながら感心させられる。

日本のバレエの大きな課題のひとつは、森下を超えるとはいわなくとも、それに匹敵する、あるいは迫るプリマの誕生であろう。欧米での実績・名声、それに国内での幅広い支持、ともに後進の誰しもが遠く及んでいない。森下ほどの巨星が出なくとも同時多発的に優れたプリマが出てシーンを盛り上げてくれるといいのだが…。現況を顧みるに、森下の存在の重さ・すごさをあらためて感じずにはいられないのが実際のところだ。


バレリーナへの道〈38〉世界のプリマ森下洋子

バレリーナへの道〈38〉世界のプリマ森下洋子


バレリーナの情熱 (角川文庫)

バレリーナの情熱 (角川文庫)

2010-05-01

[]創作バレエの新しい波

日本のバレエ界は優れたダンサーを無数輩出しつつも世界水準で通用するような傑出した振付家/創作作品はなかなか生み出しえない。要因はさまざまあろうが、在野に優秀な振付家がいても作品発表の場を持ったり、一流ダンサーを集めるのが難しいこと、仮にいい作品ができても再演し練り上げていく機会に乏しいなどが問題だろう。

フリーランスの振付家が作品発表する場合、各地の団体の公演や発表会というケースが多い。とても貴重なことであるし、なかにはわが国有数の高水準な上演を行う団体もあるものの注目度という点では低くなってしまうケースもなくはない。首都圏の有力団体がフリーランスや外部の振付家を使う機会はこれまであまりなかったのが実情だろう。新国立劇場はかつて「J-バレエ」という企画を2度催し金森穣や島崎徹ら邦人振付家を取り上げた。でも、動員に大苦戦したためか「エメラルド・プロジェクト」という新作物語バレエ発表の枠へとチェンジしてしまった。新国立ですらリスクが大きいのだろう。

元々公的な助成は無きに等しかった日本のバレエはプライベートなカンパニーの自助努力よって発展してきた。創作を上演するにせよ自団や関係者のものを上演する方向になるのは致し方なかったと思う。外部の振付家にまで目がいかないのはやむをえなかっただろう。また、短期間でプロフェッショナルな、世界のトップに肩を並べる団体を目指すならば、世界的な名匠のレパートリーを導入するというのは当然の理ともいえ、公的な団体であればともかくプライベートな団体ならば、それに対し「邦人作品を上演しない」と批判するのはお門違いである。とはいえ、状況は変わりつつあるようだ。

まず、(社)日本バレエ協会が近年、創作バレエ発表の場である秋の「バレエ・フェスティバル」公演はじめ各公演において若い振付者に発表の機会をあたえているのが注目される。2004年秋の「バレエ・フェスティバル」に下村由理恵、キミホ・ハルバートが登場したあたりから変わってきたように思う。下村、キミホ、石井竜一、井口裕之らがバレエ協会公演にて印象的な作品を発表している。ここから波及して新たな作品発表の場が生まれたりもしており、人材育成の場として一定の成果は挙げていよう。

民間団体でも動きが。今月9日に行われる東京シティ・バレエ団「ラフィネ・バレエコンサート」においてキミホの代表作『VISION OF ENERGY』が上演される。また、来年の3月には、スターダンサーズ・バレエ団が「振付家たちの競演」と題した公演を行い、新潟発Noismで注目される金森穣作品を上演する予定と発表されている。楽しみだ。

シティとスタダンに関しては自団関係中心ではあるが邦人の創作を取り上げてきた歴史がまずある(たとえばスタダンは1980年代にかの勅使川原三郎に作品委嘱している)。そのうえで、前者は安達悦子、後者は小山久美という、近年、団の中心としてのポジションについたニュー・リーダーの力によるものが大きいのだろう。バレエ協会にしても新世代の台頭がプログラムを活性化させている。新国立劇場もこのほどバレエと現代舞踊各部門のコラボレーションをはじめて行う。新しい波が続き、より多くの秀作を生み、さらにそこから世界的にも注目されるような名作が誕生することを期待したい。